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――駄目だ。
一種の錯乱状態へと陥ってしまった彼に、何かしようだなんてことは全く思っていなかったが、戒めを込めて歩樹は自分へしっかりと言い聞かせる。
「おねがい」
泣きそうに歪んだ表情で宙を虚ろに見ていた貴司が、掛けたシーツを自ら剥ぎ、ゆっくり体を起こしながら歩樹の腕を掴んできた。
「……なか…に……じゃないと……イケな……」
必死に懇願してくる姿は痛々しくも見えてくる。
「大丈夫だから、目を閉じて」
掴まれた腕をスライドさせて貴司の背中を抱きしめると、自然に手は離れていき、行き場をなくしたその指が、今度は歩樹の肩の辺りをギュッと強く掴んできた。
「辛い?」
背中をそっと抱き込みながら囁くと、「助けて」と、震える声で再度貴司が言い募る。
昂っている貴司の体を楽にしてあげるためには、彼の射精を促すのが一番いいと分かっているが、その体へと触れることには流石の歩樹も躊躇った。
――でも、このままじゃ埒(らち)があかない。
応急処置のようなものだと思い込むよう言い聞かせ、背中へと回した腕に強く力を込めてやると、震えていた貴司の体が心なしか落ち着いてくる。
「今、楽にしてやるから」
そう耳元へと囁いて、一旦体を離そうとしたが、肩口を握った指を振り解くことが出来なくて、諦めた歩樹は彼を労るように抱き上げると、そのまま……自分の部屋へと足早に連れていった。
***
貴司が最初に自慰をしてから、それが毎日の日課になるのにそう時間はかからなかった。
ペニスを扱くだけの自慰では徐々に射精がしづらくなり、途中何度も指がアナルへと伸びそうになってしまったが、中に入れるなんてことはどうしても出来なかった。それでも、もどかしい熱に抗いきれずに何度か試した記憶はあるが、潤っていないそこへ指が容易に入る訳もなく、切ない体を持て余す内に、聖一の家で起きた出来事が何度も脳裏に浮かんできて……まるで、媚薬にでも侵されたように、貴司は毎夜覚めない熱にうかされた。
声が漏れぬようタオルを噛んではみたけれど、いつしか離してしまうから、冷静さを取り戻すたびに不安な気持ちに苛まれた。やっては駄目だと思っていても、夜になれば自制がきかなくなってしまう。電気を消せなくなったのは、暗闇では、目隠しをされて犯されていた日々の記憶を、より一層リアルに感じてしまうから。
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