14 / 82

14

 ――凄いな。  目下でひたすたに快楽だけを貪っている貴司を見ながら、これが本当に貴司なのかと疑いたくなってしまう。 「もっと……あぁ……ん」  淫らにくねる白い肢体に、呼応するよう伸縮しているアナルの中を弄りながら、歩樹は内心驚嘆の声を漏らさずにはいられなかった。ローションがなかったため、自分の部屋へと運んだが、掴んでくる細い指や、頼りなく揺れる細い身体を、可愛いと感じてしまい歩樹はかなり動揺した。  目鼻立ちは整っているものの地味な雰囲気の貴司のことを、助けたいとは思ったが、まさか自分が欲情するとは思ってもいなかったから。 「あぁっ……やぁ……もぅ……おねがっ」  絶頂が近いのだろうか? 貴司の手がゆっくり動いて自らペニスを扱きだす。  これはあくまで医療行為だと自分自身に言い聞かせながら、貴司の中とへ埋めた指先で悦い場所ばかりを擦ってやると、堪らないといったように彼の体が何度も跳ねた。 「ひっ……あぁっ……あんうっ」 「達っていいよ」  不安定に揺れる体を歩樹がそっと抱き込むと、頷きを返した貴司の手の動きが速くなる。 「ああっ……んぅっ……セ……セイ」  前立腺を爪で引っ掻けば、貴司の体が大きく震え、達したのだと悟った歩樹はアナルから指を引き抜いた。 「あ……あぁ」 「平気か?」  クタリと体の力を抜き、荒い呼吸を繰り返えす貴司の背中を優しくさすってやると、ゆるりと首を動かした彼が、恍惚とした表情を浮かべ「……セイ」と、微かな声を漏らす。その様子に、彼はまだ現実へは戻っていないと、安堵を覚た歩樹がそっと頬を撫でれば、その刹那、貴司の瞳からツウッと一筋涙が流れた。  その涙が、どんな意味を持つのかなんて解らない。だけど。 「貴司は、何も悪くない」  知らず口からこぼれた言葉に歩樹自身も驚いたけれど、なぜだか今、そう言わなければならないような気持ちになった。 「ぅっ……」 「悪くないから」  静かに嗚咽を漏らしながら、枕へと顔を埋めてしまった貴司の背中を撫で摩り、歩樹は彼の耳元へと何度もそう繰り返す。  正気に戻って泣いているのか?  自分を閉じ込め自由を奪った男のことを想っているのか?  どちらなのかは分からない。だけど、セイと呼ばれた人物が、誰であるかは分かっていた。  ――阿由葉聖一……か。  浩也からは、二人が恋人同士だったと聞いている。  そんな二人の間に何があったのか?  まるで媚薬にうかされたような貴司の様子は尋常じゃなく、これまでそっと見守っているのが一番だと思っていたが、それだけではきっと駄目だと歩樹ははっきり認識した。 「ぅ……うぅ……」  小さな嗚咽が鼓膜を揺らす。 「大丈夫、貴司のせいじゃない。だから、もう泣くな」 そう告げて、今度は髪を梳くようにしてそっと歩樹が頭を撫でると、暫くして、貴司の嗚咽が徐々にだけれど収まってきた。  ――体に……覚え込まされたって感じだな。  そう考えれば辻褄が合う。これは、恋人に監禁され、毎日のように快楽ばかりを与えられた結果だと。その上なにかのクスリを使用されていた可能性も高い。  新しい生活に慣れ、気の緩んでしまったところで、体がそれを思い出したと考えれば、今の貴司の行動の意味がすんなりと納得できた。

ともだちにシェアしよう!