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 ――明日……もし覚えていたら。  思考に深く耽っているうち嗚咽は寝息へ形を変え、やつれた寝顔を見下ろしながら、歩樹は今後のことを考える。保護した責任感もあるが、何とか救い出したいと……歩樹に強く思わせるものが貴司にはあった。思ったよりも根が深いことが分かってしまえば尚更に。    ***  ――目を、覚ましたくない。  覚醒はしていたが、瞼を開く勇気がなくて、貴司はそのまま俯となり枕へと顔を埋める。  昨晩、止まらなくなった欲情を、鎮めてくれた存在が誰かは分かっているが、だからこそ、どんな顔をすればいいのか分からなかった。  ――俺は、何て事を。  抑えが効かなかったなんて言い訳にすらならないだろう。歩樹がどう思ったかなんて考えなくても容易く想像できてしまい、絶望感に掌をギュッと握りしめたその瞬間、背後から静かに声をかけられた。 「貴司君?」 「っ!」  この部屋には、自分の他に誰もいないと思っていたから、息が止まるほど驚いてしまい貴司の体がビクリと揺れる。 「起きてるね」  至近距離からの声に反応を示してしまった貴司はもう、狸寝入りを続けることができなくなってしまった。 「すみません、あの、俺……」  謝罪しながら起き上がろうと試みてはみたけれど、背中に置かれた彼の掌に貴司の動きは止められてしまう。 「このままでいいから、ちょっとだけ、話していいかい?」 「……はい」  歩樹の言葉にそう答えながら薄く瞳を開いてみると、いつも寝ている客間の壁が視界へ映り込んできた。 「その様子だと、覚えてるみたいだね」 「っ!」 「大丈夫だ。落ち着いて……君を軽蔑したりしてないから」  どうして……自分の気持ちが彼には分かってしまうのか? 背中へ感じる温もりに、複雑な思いが込み上げてきて、貴司は体を震わせる。  軽蔑しない筈がない。そうされても仕方ないほどの醜態を、自分は彼に晒してしまった。 「貴司君は悪くない。今まで、監禁されていた時のことは聞かないほうがいいと思っていた。だけど、君の心は俺の想像よりずっと、深い傷を負っているみたいだ」 「そんなこと……」 「ないとは言い切れない筈だ。憶測でしかないけど、君はクスリか何かを使われてたんじゃないのかな? 常習性の高いモノならすぐ禁断症状が出るが、君の様子が変わったのはここ何日かの間だけ。だから、心の問題だと俺は思ったんだけど」 「……」 『心療内科は専門じゃないから、はっきりとは言えないけど』と、付け加えてきた歩樹が背中をあやすように撫でてくるが、何て答えればいいのか分からず貴司は言葉を詰まらせる。

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