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「お節介かもしれないが、貴司君をこのままにはしておけない。病院にかかれとは言わないから、少しだけ俺を頼って欲しいって思うんだけど」
「……そんな、俺、そんなんじゃ……それに、これ以上ご迷惑は……」
顔を見ることも出来ないままに貴司がそう言葉を紡ぐと、背中にあった歩樹の掌がその動きをピタリと止めた。
「貴司君、あれは一種の病気っていうか……精神が疲れてるんだって俺は思う」
「あれが……病気?」
そんなことはあり得ないと、貴司は心で否定する。病気とか、そんな大層なものではなく、ただ淫乱なだけではないかと。
「また自分を責めてるだろう。それが君の悪い癖だ。俺が君を引き受けたのは、君の力になりたいって思ったからだ。貴司君、辛い時には人を頼っていいんだよ」
動きだした彼の掌が貴司の頭を撫でてきて、全てを見透かすような言葉に混乱した貴司にはもう返す言葉も見当たらない。
「貴司君さえ良かったら、話せる範囲でいいから俺に君のことを教えて欲しい。嫌なことは聞かないから……少しでいいから俺を頼って、溜め込んだ物を吐き出してくれたらって思ってる」
「どうして……俺なんかに」
「どうしてかな? 放っておけない。理由がなくちゃいけないなら、それらしいのを考えるけど?」
吐き出すことで少しでも、貴司の気持ちが解放されれば、苦しみも緩和されるはずだと歩樹は優しく告げてきた。
「でも、そんなこと言ってもらっても、俺、話せる事なんて……」
今まで他人と接することをできるだけ避けて生きてきたから、話せるようなことなんて全く浮かばない。自分について思うことは、底の浅い、薄っぺらな人間だということくらいで、溜め込んでいると言われても、どう吐き出せばいいのかなんて見当もつかなかった。
「貴司君は真面目だね。何を話すかなんて考えなくていいんだよ。俺が聞いたことに、答えられたら返事してくれればいい。質問攻めにしたりしないから、散歩したり、ご飯を食べたり、そういう時に少しずつ……話しができたらって俺は思ってる」
「……でも……俺」
「なあ貴司君、〝でも〟は止めよう。色々なことがあったから、俺の顔を見るのも今は辛いかもしれないけど……昨日のことは、君が風邪で熱を出して、それを俺が治療したってことにすればいい。目茶苦茶かもしれないけど、内容的には間違っちゃいない。少しずつでいいから、前を向くために……ね」
歩樹の言っていることは、確かに目茶苦茶だと思う。だけど、なぜか正しく聞こえてくるのは彼の職業のせいなのか? それとも、自分が弱ってしまっているせいなのか?
――分からない。
どうしたらいいのか? 心はなおも逃げたい気持ちで一杯で、判断するには何もかもが覚束ない状態だった。
「ここから、逃げ出したいって思ってる?」
「っ! ……どうして?」
この人はなぜこうも鋭く自分の気持ちを見透かすのか?
堪らなくなった貴司が思わず歩樹の方へと顔を向けると、いつものように微笑んだ彼がじっとこちらを見つめている。
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