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 貴司自身、それはそうだと納得したし、彼の言葉が正しいのだと頭では分かるけど。 「そろそろ寝るか?」  隣から聞こえた声にハッと我へと帰った貴司が、前方へと視線を向けると、見ていた映画のエンドロールがテレビ画面に映っている。慌てて顔を横へ向けると、こちらを見ていた歩樹の瞳と正面から目が合った。 「疲れてるみたいだけど、大丈夫?」 「あ、平気です。ごめんなさい、ちょっとボケッとしちゃって……もう遅いから今日は寝ます」  思いに耽っているうちに、映画は終わってしまったらしく、一緒に見ようと言われた手前申し訳なくて謝罪をすると、歩樹がクスリと微笑んだ。 「本当に貴司は真面目だね。そんなこと。気にしなくていいよ」 「そんな、俺、真面目なんかじゃ」 「そうか? 俺にはそう見えるけど……ていうか、真面目にしか見えない」 「ちょっ……からかわないでください」  最近はいつも真面目だとか堅物だと言われていてしまい、普通だろうと思っているからそうではないと言い返しても、取り合っては貰えない。  ――まあ、いいか。  真面目というのは決して悪いことでは無いし、自分が堅い人間なのは貴司にもよく分かっている。歩樹のお陰で大分会話が続くようにはなったけれど、最初はどう答えていいのか迷ってばかりだったから、こうして普通に話せることが貴司はとても嬉しかった。 「行こう」  ソファーから立った歩樹が声をかけてきて、それに頷き返しながら貴司もまた立ち上がる。二人一緒に寝室へ行くのがあれから日課になっていて、一緒に寝るわけではないが、貴司が眠りに就くまでの間歩樹は側にいてくれた。 「いつも、すみません」 「だから、謝るなって言ってるだろ。言うならせめて、ありがとうにしてくれるかな?」 「ありがとうございます」 「それでいい」  遠慮がちに告げた礼へと微笑みながら答えた歩樹が、ベッドの脇の椅子へと座る。いつものように貴司がベッドへ横たわってから瞼を閉じると、照明が暗く落とされて……掌を軽く握られる。それから、貴司がきちんと眠れるまで、静かな声音で歩樹は色んな話を聞かせてくれるのだ。  最初提案された時には、小さな子供じゃないのだからと断った貴司だが、試しに聞いてみてと言われれば、断りきれなくなってしまった。 『昔、弟に聞かせてたから、中々上手いと思うよ』  そう言っただけのことはあり、彼が聞かせてくれる話はお世辞抜きで聞きやすく、目を閉じると瞼の裏に情景が浮かんでくる。知らない世界へ想いを馳せ、意識をそこへと飛ばすうち、いつの間にか眠ってしまう自分に初めは驚いたけど、それでいいのだと歩樹に言われてそのまま素直に受け入れた。 「今日は、昨日の続きでいいかい?」 「はい、西の魔女の所へ向かったところまでは覚えてます」 「分かった、じゃあ続けるよ」  返事の代わりに頷き返すと歩樹は静かに話し始め、その声に貴司はじっと耳を傾け集中する。タイトルは知っていても、児童文学や童話等には今までほとんど触れずにきた。わざとではなく触れる機会もなかったし、読んで貰う機会もなかった貴司だから、思いもよらない出来事に、戸惑う気持ちもあるけれど。

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