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「力じゃ敵わないって、分かってる癖に」 「離せっ!」  仰向けに固定された貴司はそれでも激しく抵抗するが、次の瞬間、薄く微笑んだ聖一の顔が近いてきて、ハッと思った時にはもう……唇を塞がれていた。 「んっ!」  他人が……しかも、医師が見ている目の前で、こんなことをしてくるなんて絶対に許せない。首を振って逃げようとすれば、手首を持つ手が片方離され、おとがいを強く掴まれた。 「あっ……うぅ」  自由になった腕で必死に聖一を引き剥がそうとするが、彼の放った言葉の意味を思い知るだけの結果となる。  ――止め……ろ!  なぜいつも、屈辱を与えるような行動ばかりを彼はとるのか?  限界まで開いた口では噛み付くことも叶わずに、それでもパジャマを脱がされぬように袷へ伸ばした片腕は、第三者の手によって再び上へと引き上げられた。  ――だ……れ? 「うぅっ……ふぅ」  がっちりと腕を掴まれてしまい身動きがとれなくなる。脚をバタバタと動かしてみても、足首へと嵌められている鎖がカシャカシャと音を発てるだけ。 「縛りますか?」  聞こえてきた事務的な声に貴司の動きが鈍った刹那、僅かに口を離した聖一が、「いい。手は俺が抑えるから、小林は足を持って」と命じ、片方の膝を使って貴司の腕を踏み付けた。 「あうっ」  痛みに思わず声がでる。 「痛い? ごめんね。でも、医者に見て貰うだけなのに、こんなに暴れる貴司が悪い。後で纏めてお仕置きしないとね」 「あ……あふっ」  開きっ放しになった唇で必死に止めろと言おうとするが、意味を成さない音しか漏らせず再度唇を塞がれた。 「ん……ふうぅ……ん」  口腔内へと入った舌が、貴司のそれを舐めたり吸ったりし始める。それだけで、開発された体は熱を帯び臍の辺りが疼きを覚えるが、この状況で流されるほど貴司は恥知らずではない。白くなるほど指を握し締め貴司が必死に堪えていると、脚がベッドへと押さえ込まれて、胸へと掛かった誰かの指が素早くボタンを外しはじめた。  ――人に……見られるなんて。  キスをされ、抑えつけられ、その上胸に空けられたピアスを晒すことになるなんて、とてもじゃないけど信じられなくて貴司はギュッと瞼を閉じる。少しすると、聴診器らしい冷えた感触が胸の辺りへと触れてきて、抵抗を諦めた貴司が羞恥に体を硬くすると、ようやく口を離した聖一が額へとキスを落としてきた。 「先生、どう?」 「肺の音は綺麗になってます。あとは、水分を小まめに取って安静にしていれば、二三日で治るでしょう」  その声に、薄く瞳を開いた貴司が視線をゆっくり移動させると、問いに答える医師の姿が瞳の中へと入ってくる。そして、その向こう側に立つ男性が、いつか聖一が祖父と紹介してくれた人だったから、驚きの余り目を瞠ったが、どういうことかを問うことまではできなかった。  全てが終わり、大人二人が頭を下げて出ていく姿を、不思議な気持ちで見つめていると、ドアがパタリと閉じた瞬間、手首を離した聖一がベッドの下へと足を降ろす。 「さっきの、お前の……」 「ああ、小林のこと覚えてた? 彼は、ずっと俺に付いてる使用人なんだ。嘘ついてごめんね」  悪いだなんて少しも思っていないような笑みを浮かべ、謝罪してくる聖一を、貴司は睨みつけるけれど、息がかなり乱れているから迫力なんてないだろう。

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