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「勃たないね」  貴司の股間をヤワリと包み、唇同士が触れるかどうかの微妙な距離からそう囁くと、涙目になった貴司は「止めろ」と小さく呟いた。疲れているのは知っているけど、この衝動を止めることが今の自分には難しい。 「ねぇ貴司……したい」 後頭部を手で固定しながら、触れるキスを繰り返す。 「無理……だ」 そう答えてくる貴司の体が小刻みに震えはじめたから、思わず強く抱きしめると、大袈裟なくらい体が跳ねた。 「嫌は聞かない」  喉を突くのは冷たい声。刹那、目の前にある貴司の瞳が諦めたような色になる。見慣れてしまったその光景に歯痒いような気持ちになるけれど、ここまで来てしまったら、嫌われない努力なんてするだけ無駄だと開き直った。 「終わった後、貴司が立てたら……夕飯、作ってもいいよ」 「そんなの……うっ!」  焦った様子で言い募ってくる口を自分のそれで塞ぐと、胸を押そうと動いた腕を器用に片手で頭上に纏める。言いたいことは分かっているが、非難の言葉は聞きたくなかった。 「ん……んぅ……」  苦悶している表情に、こんなに心が昂揚するのは、今、貴司を支配するのが自分だという歪んだ悦び。 「ふっ……うぅ」  舌を深く絡めながら、膝を使ってペニスを嬲るが反応を示す様子はない。だからといって今更止めるなんて不可能だ。暫くしても変わらぬそれに、貴司を無理に達かせることは早々に諦めた。ムキになっても仕方ない。 「あっ……やっ……あぁ!」  穿つ度、痙攣している痩せてしまった細い体は、自分のせいだと分かっていても、見ているだけで痛々しい。それでも止まらぬ欲情で、前立腺の辺りを何度もしつこいくらいに穿っていると、貴司は少し反応したが、最後まで……達することはしなかった。    ***  髪を優しく梳かれる感触。歩樹にもよくそうされたが、それより少しゆっくりと、丁寧に動く長い指先。それがとても心地いい。 「ん……」  貴司がゆっくり瞼を開くと、視界一杯に聖一の顔が映り込んだ。 「……セイ?」  ぼんやりしていたのだろうか? 名前を呼ぶと、ハッとしたようにこちらを見て、すぐ表情を消してしまう。その直前、彼の面持ちが僅かに優しく見えたのは、願望から見た幻覚なのかもしれないなどと思いつつ、掌から伝わってくる温もりだけは本物だった。 「起きた? もう夕方だけど……ご飯、貴司が作る?」  それが出来ないよう散々に自分の身体を犯した癖に、涼しい顔で尋ねてくる彼の心情のが分からない。だけど……。 「作る」と貴司が答えた時にピクリと指先が震えたのは、多少なりとも動揺したり、反省しているせいだろうか? 都合のいい解釈だけど、そうであればと貴司は思った。本当に、願望でしかないけれど。

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