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「何にしたの?」
「お前にはハンバーグで、俺はそうめん」
あとは温野菜を出す。聖一は生の野菜よりも、そちらのほうが好きだから。
「冷蔵庫、沢山入ってるけど、買い物いつ行ったんだ?」
話しついでに尋ねてみると、宅配だという返事がきた。
「せっかくの休みなのに、離れるなんて勿体ないでしょ?」
「セイは……夏休みなのに予定とか、ないのか?」
友達だとか学校だとか、普通の高校生なら何か予定が入っていそうなものだと思って貴司が尋ねると、聖一が苦笑いをしたのが雰囲気から伝わって、思わず貴司が視線を向けると薄く微笑んだ顔がある。
「貴司を置いて? 有り得ない。ホントは学校だって辞めたいくらいなのに」
「そんなの駄目だ。セイは頭がいいし、大学行ったらきっと世界が広がるから……」
「貴司は広がった?」
「え? ……それは、少しは広がったと……思う」
元々、狭過ぎると感じる世界で暮らしていた貴司だから、一人暮らしが出来ただけで充分に広がった。それ以上、広げようと思ったことはなかったけれど。
「ふうん、世界ねぇ……」
それだけ言った聖一は、言葉を口にしなくなる。妙に噛み合っていない会話に何だかモヤモヤしたけれど、とりあえず、一段落した貴司は密かに息をついた。
――今が、一番狭い。
そんな事をふと考えたけれど、とりあえず、普通に会話ができたのだから、それだけで今はよしとしよう。そう頭の中で結論づけると、貴司は視線を手元へ戻し、少しの間止まってしまった料理の続きを再開した。
こうして貴司が料理をするのを側へと立って眺めるのは、どれくらいぶりのことだろう。
久し振りにも関わらず、慣れた手つきで作業を進める彼の手元を見つめる内、浮かんできたのは織間という……医師だと名乗った男のこと。
「ねぇ貴司、アイツにも……ご飯作ってあげてたの?」
尋ねた途端、貴司の体がピクリと反応したのを見て、推測が確信へと姿を変えてしまった刹那、聖一の中に言いようのない気持ち悪さがわきおこる。
「ふぅん。仲良くやってたんだ。じゃあ、なんで逃げ出したの?」
お陰で見つけることは出来たが、貴司が相手を嫌っているとは聖一には思えない。
寝言とはいえ、切な気な声で貴司が名前を口にする度、胃から何かがせり上がるような不快感を覚えていた。話題にするのも忌々しいが抑えることも出来なくて、自分だけの特権を、あの男に奪われたようで落ち着かないし苛々する。
「ねぇ、なんで?」
「いつか、ちゃんと話すから」
答えがないからもう一度聞くと、やっと返された小さな声に、聖一はすごく驚いて……次の言葉を失った。
『関係ない』と言われることを頭の中では想定していた。そうなれば、きっと自分は再び貴司に無理を強いただろう。そこまでのことを見通した上で言ったのだとは思えないけれど、だったらどういうつもりなのかと疑うことしか出来なくなった。
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