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「セイ、皿並べて貰ってもいい?」  こちらを向いてそう尋ねてくる貴司の顔は青白く、立っているだけで大変なのだと否が応にも伝わってくる。あからさまに、話題を変えようとしていることには気が付いたけれど、今はとりあえず何も言わずに貴司の指示へと従った。  焦る必要はない。現状貴司は手中にあるし、手放すつもりも毛頭ない。時間は沢山あるのだから、苛ついたりする必要なんて本来ならばない筈なのに、どうして体を幾ら繋げても満たされることがないのだろう。 「貴司は、俺のだ」  独白のように零れた声に、相手からの返事はない。  自分の事しか見えなくなってしまえばいいと追い詰めるのに、そうすればそうする程に離れていってしまう気がした。  ――でも、逃がさない。  聖一は、僅かな迷いを断ち切るために頭を振ると、驚いたようにこちらを見ている貴司に向かって微笑んだ。    *** 「また首輪……つけてもいい?」  盛り付けが全て終わったところで背後から腕が伸びてくる。腹の辺りを抱きしめられ、うなじをペロリと舐め上げられて、貴司は小さく身震いするが、それは体の反応だけで拒絶や嫌悪の意味ではなかった。  返答に困る問い掛けばかりを聖一はいつも貴司にする。再び首輪を嵌められるなんて勿論嫌に決まっていたが、聖一がそれをしないことは何となく分かっていた。 「ご飯……冷めるから」  舌を這わされた場所の辺りには消えない傷が残っている。前回彼に捕われた時、首輪のせいで結構酷い床擦れのような状態になり、傷は既に塞がっているが、色素が沈澱したことによってはっきりと痕が残ってしまった。  だからなのか定かではないが、聖一はいつも行為の時に必ずそこへと触れてくる。これから先、絶対されない確信はまだないけれど、強引なセックスの中で何度もそこを舐める舌先が、乱暴だと思えなかった。 「セイ」 「……しょうがないなぁ」  なかなか離れてゆかない彼を振り仰いで名前を呼ぶと、口端を緩く上げた聖一が頬へと軽く口づける。 「……っ」  いつもとは違う触れ合いに、馴れない貴司は自分の頬が熱くなるのを感じたが、悟られるのは嫌だったから、前を向いて仕上がった料理をカウンターへ並べ始めた。  食事の間はやっぱりほとんど会話のない状態だったが、聖一の箸は進んでいたし、喉越しの良さに貴司自身もいつもより多く食べられた。  何より、箸を置いた聖一に、「ご馳走様、美味しかった」と言って貰えたそのことで、一歩進めたような気がして胸の中がジワリとする。そんなに単純じゃないことは、頭の中では分かっているが、少しずつでも近づけたらそれだけでいいと思っていたし、他に方法も浮かばなかった。

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