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 はっきり理由は分からないけど怒らせてしまったのだ……と、踵が床から少し離れて爪先立ちになったあたりで、貴司ははっきり理解する。 「止めっ……離せっ!」  だからといって訳も分からぬ彼の暴力を受け入れるなんて出来ないから、真っ直ぐ見つめてそう伝えると、いきなり視界がぐるりと動いて台の上へと縫い付けられた。 「いっ……」  無理な姿勢に顔が歪む。理由を聞こうと口を開くが、聖一の顔が近づいてきて、避けるかどうか迷った瞬間唇を口で塞がれた。 「んっ……うぅ……」  舌の侵入は歯を食いしばって阻止したが、しつこく歯茎を舐めまわされて、おかしな気分になってくる。 「うっ……んん……」  そんなところが感じるなんて、信じたくもなかったが、粟立つような皮膚の感覚が、自分の体に起こる変化を如実に貴司へ伝えてきた。 「気持ちいいの?」  口を離した聖一が、そう尋ねながら貴司の手首を一纏めにして頭上で掴む。 「違……セイ、なんで? ……こんなの……おかしい」 「おかしいのは貴司のほうだよ。俺が騙されると思う?」 「騙してなんか……っあぅっ」  裾から入った指先に、乳首をピンと弾かれて、反論しかけた貴司の言葉は途中で喘ぎに音を変えた。 「止め……痛いっ」 「貴司が、逃げようなんて考えるから」 だから罰を与えるのだと薄く笑った聖一は言う。 「いつもは何聞いたって、〝何にも〟しか言わないのに……バレバレだよ」 「それはっ……」  違うのだと、誤解なのだと貴司は必死に彼へと告げるが、全く聞いては貰えなかった。問いかけに、貴司がきちんと答えたことが、疑り深い彼の心を更に頑なにしたらしい。突然料理を作ってみたり、彼の頭を撫でてみたり、そんなことをしたのだから、聡い聖一が自分を疑うだろうことは、貴司にも予測出来ていた。だけど、他の方法なんて頭に浮かんでこなかったのだ。 「……疑わせて……ごめん」  今まで散々逃げたのだから、そう思われても仕方がない。言い訳を止めて謝罪をすると、貴司は努めて体の力を抜こうとした。 「……そんなに、アイツのところへ帰りたいの?」  しかし、抵抗を止めた貴司の意図は、またもやきちんと伝わらない。これまでのことを考えれば、いきなり信用しろと言っても聖一は耳を貸さないだろう。きっと今ここで何を言っても、状況は悪くなる一方だ。

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