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貴司が目を覚ましたとき、辺りは静寂に包まれていた。
――セイは?
見回してみるが聖一の姿はない。昨晩、自分からキスをしかけたあと、無言になった聖一によって何度も体を貫かれたが、それ以降の記憶はなかった。
「ううっ」
硬い台で抱かれたから、背中が痛みを訴えてくる。何時なのかは分からないけれど、カーテンから差し込む光に朝だろうと判断し、貴司は体をゆっくり起こした。
――朝ごはん、作らないと……。
聖一と共に眠ることは、全くと言っていいほどない。もしかしたら、貴司が寝たあと隣で眠り、起きる前に出ていくのではないかと考えたこともあるが、可能性はかなり低いとなんとなく分かっていた。
「……え?」
そんなことを考えながら、床へと足を降ろした貴司は異変に気づいて目を瞠る。足首にあるはずの枷が、なぜか嵌められていなかった。まさかと思って首へと触れるが首輪もそこにはついていない。
「どうしたんだ?」
昨日の夜、多分貴司がキスをしたせいで、聖一は酷く怒っていた。そんな彼がこんなミスを犯すだなんて信じられない。
――とりあえず。
考えていても仕方ないから部屋を出ようと貴司は思った。枷がついていないなら、キッチンに行くことが出来る。
「……っ」
体中がキリキリと痛み、歩くのもかなり困難だけれど、それでもどうにかドアを開けると、リビングもまだ暗かった。
――まだ、寝てる?
不思議に思うが考えてみれば聖一だって人間だ。眠っているならそれでいい。それに……もしかしたら、わざと隙を見せて貴司が逃げ出したりしないかを、試しているのかもしれない。
――まあ、でも。
どちらにせよ、逃げる気持ちはないのだから一緒だと貴司は思った。
「よし、やろう」
一言決意を口にしてから、いつもは近づくことの出来ないカーテンへと歩み寄り、それを一気に開け放つ。
「あ……」
そして、目下に広がる光景に、貴司は小さく声を上げた。街を横切る大きな川には見覚えがあったから。
聖一と出会った地方都市。川沿いに建つこのマンションは、貴司が大学生のころはまだ建設途中だったはずだ。
――だよな……セイには学校がある。
場所を変えたと言ってみても、限界はあるのだろう。ここが知らない街じゃないことに貴司は少し安堵した。
「さて、作るか」
聖一が眠っているならば、朝食が出来あがってから起こせばいい。珍しい状況だけれど、逃げないと決めた貴司の心は平静を保っていた。
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