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「肺炎は起こしてない。風邪と過労……あとは、病院で検査しないと何とも言えないな。ここ数日はきっと具合が悪かった筈だ」
点滴を施した彼が、こちらに向かって告げてくる。
「ありがとうございます。本当に、ごめんなさい」
頭を下げて貴司が言うと、伸ばされた手に頭を撫でられ震えが少し落ち着いた。
「貴司も、顔色が悪いな」
「いえ、俺はなんでも……」
「そんなに怖がらないでいい。俺は貴司と話をしたいだけなんだから」
苦笑いする歩樹の顔がなんだかとても懐かしい。
「あ、えっと、お茶淹れるんで、良かったら……こっちへ」
聖一の横で話をするのも落ち着かないからそう伝えると、頷いた彼は貴司と一緒にリビングへと移動した。
「本当に助かりました」
落としてあったコーヒーを淹れて歩樹の前へ差し出すと、「礼はいいよ」と言った彼が貴司に向かって微笑んだ。
貴司が鍵を開けた後、部屋に入った歩樹は一度聖一のことを診察すると、一旦自宅の病院に行って必要な物を持って来た。手際のいい歩樹の動きに感謝をする一方で、彼が聖一を良く思ってはいないことを知っているだけに、貴司の心は申し訳なさで一杯になっていた。
「……で、貴司はなんで、ここにいるのかな?」
「それは……」
事実をそのまま言う訳にいかず貴司が言葉を途中で切ると、ふぅっと息を吐いた歩樹が「ごめん、違う」と言い直す。
「突然いなくなるから心配した。また彼に掴まってるかもしれないって思って、すぐに調べたんだけど……当たってたみたいだな」
「違う。そうじゃないんです。俺は……」
この場合、何と言えばいいのか分からず口ごもると、立ち上がった歩樹が貴司の横へと移動し座りなおした。
「何もしないから安心して。貴司のペースで話してくれたらいいから」
そっと背中へと添えられた手にそこをゆっくり撫でられて、それが優しいものだったから、貴司は少し落ち着いてきた。
「アユは、どうしてここに?」
「俺? 俺は貴司を探してた。聖一君を訪ねた時には知らないって言われたけど、浩也君に引っ越したって聞いてから……何かが胸に引っかかって彼のことを調べさせた」
我ながら、いけない事だと思ってはいたけどね……と、自嘲気味に微笑まれ、貴司の頭は混乱するが、考えが纏められないうちに更に歩樹は話しだす。
「最初彼と会った時、貴司はどこだって俺が聞いたら、流石に顔には出さなかったけど驚いてるのはすぐ分かった。早まったって思ったよ。わざわざ彼に情報を与えてしまった訳だから」
俺らしくもなかった……と、続けられた歩樹の言葉に、貴司は何て言えばいいのか分からず唇をグッと噛み締めた。
「もし貴司が、彼にまた捕まっているんだとしたら、もう一度助けたいって、そう思って動いてた。俺があんな事したから、貴司は出て行ったんだろう?」
「それは……ごめんなさい。俺、怖くなって」
嘘を吐いても仕方がない。そこまで心配させた上、聖一の面倒まで診てもらってしまったのだ。ここはきちんと答えなければいけないと貴司は思う。
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