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「俺、家族とは上手く付き合えなくて、友達とか、出来たこと今までなくて……だから、アユのこと、兄弟か友達が出来たみたいだって思ってた。でも、アユにとってはそうじゃなかったって分かって……だから、もう一緒にはいられないって……」 「俺は、恋人候補にはなれなかった?」 「そうじゃない。自信がなかったんだ。俺、アユにそんな風に思って貰えるような人間じゃないし、それに……俺、アユを代わりにとかできないから」  懸命に考えながら、絞るように言葉を紡ぐ。 「黙って出て行ったりして本当にごめんなさい。ちゃんと話をすれば良かったって、後悔してた。俺……」  自分が何を言いたいのかが自分自身にも分からない。だけど、口から出た言葉は全て今の貴司の本心だった。 「どうしてなんだろうね。俺のほうがきっと貴司を大切に出来るのに……彼は貴司をまた閉じ込めてるんだろ?」  枷は着けられていないようだが、足首にうっすら残る痕跡や、首元に幾つも散らばるキスマークの痕から、貴司が監禁されていることを読み取って歩樹は告げる。 『代わりにとか出来ない』という貴司の言葉は裏を返せば、彼が未だ聖一のことを想っているということで、以前自分が逃がした時と何ら変わらない二人の様子に、歩樹は深くため息を吐くと、更に貴司へと言葉をかけた。 「このままここに居たって同じ事の繰り返しだろう?」 「それは……」  貴司に違うとは言えなかった。確かに今の状態ではそう言われても仕方がない。 「焦って貴司を追い詰めたこと、あれからずっと後悔してた。なぁ貴司、ここから出て、今度はちゃんと警察に行こう。そうしないと、何回逃げてもきっと君は彼に捕まる。俺の気持ちに応えてくれとは言わない。でも、これは貴司だけに解決出来ることじゃないと思うんだ。彼は……聖一君の執着は、異常としか言いようがない。だから……」 「それは……できない。セイのためって思って逃げたけど、またここから逃げ出したら、間違いを重ねるような気がするんだ。だから……今度こそ、セイとちゃんと話ができるようになりたいって思ってる」 「彼がちゃんと話を聞くとは思えない」  もっともなことをズバリと言われて貴司は一瞬たじろぐが、それでも今負けてしまえば、大切な物を失う気がして、ギュッと指を握り込むと歩樹の方を真っ直ぐに見た。 「俺、言いなりになってさえいれば、そのうちセイは俺に飽きるって思ってた。でもそれは違ってて……セイのためって言いながら、セイの気持ちに向き合ったことがなかったって気がついて、だから……」  上手くは言葉に出来ないけれど、気持ちを声に出してみたことで、不思議と自分の心の中がはっきりと見えてくる。渇いてしまった唇を舐め、切った言葉の続きを言おうと貴司は口を開いたけれど、歩樹が声を発するほうがほんの少しだけ早かった。

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