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『このライオン、貴司みたいだ』
歩樹の言葉を思い出す。読んでもらった童話の中に勇気のないライオンがいて、それに似ていると言われた貴司は、自分は強くないのだから、それを言うなら脳みそのないカカシの方だと言葉を返した。
『きっとさ、みんながカカシでライオンで、ブリキなんだよ。考えが足りなかったり、勇気が持てなかったり、思いやりを忘れたりする……童話も馬鹿にできないだろう?』
確かに、今ならば少し分かる気がする。自分だけで精一杯な時には見えてこなかったものが、今の貴司には少しだけ見える気がするから。
唇へと触れたあと、そっとキスを落とした瞬間、聖一の腕がいきなり動いて背中へと回された。
「んっ……んぅ!」
突然の事に驚いてしまい貴司は身体を引こうとするが、弱っている筈の腕から逃れるだけの力がない。そのまま……唇を割開くように侵入してきた聖一の舌先に、自分のそれを絡め取られて貴司の身体がビクリと跳ねた。
「ふ…んぅ……」
その熱さに、聖一の熱が上がっていると感じた貴司は身をよじるけれど、途端にフワリと身体が浮いて、目まぐるしく世界が回り、気づけばベッドに仰向けになって腹を聖一に跨がれていた。
「セイ、まだ寝てないと」
驚いたけれどそれより今は安静のほうが大切だ。そう思った貴司が告げると聖一は口を歪ませる。
「貴司が悪い。どういうつもりか知らないけど、あんなこと……言うから」
言いながら、サイドテーブルに置いてあったスポーツドリンクへ手を伸ばし、それを手にした彼が一気に中身をコクコク飲み干してゆく。
眠っていると思っていたのに、聞かれてしまっていたのだろうか?
「セイ、あれは……」
「聞かない」
空になったペットボトルを傍らに投げた聖一が、貴司に言葉を紡がせぬよう口を掌で覆ってくる。腕は自由に動かせるのに、鋭い視線に縫い付けられて体を動かせなくなった。
「ねぇ貴司、今度はどうやって逃げる計画なの? 俺を油断させようって言うなら、同じ手を二度は喰わないよ」
制御しきれていない荒い息はきっと熱によるものだ。枷がないのに逃げないことが、聖一にとって疑う要素でしかないことに、貴司は胸が痛くなる。
――違うんだ。
そうじゃないのだと伝えたいけど声を出すことは叶わないし、どう言えば彼に伝わるのかも貴司には分からなかった。
――でも……。
「んっ……んんっ」
諦める訳にはいかない。そう考えた貴司は必死に首を左右へと振りはじめる。その様子を見て迷うかのように瞳を眇めた聖一を、真っ直ぐに見据えていると、少ししてから掌が離れた。
「嘘じゃない。信じて貰えないと思うけど、俺は、逃げないから……セイの側に居るから……いぅっ」
懸命にそう言い募るけれど、言葉にすればする程それは虚しく空気に同化する。嘘ばかりついた自分の言葉に説得力などまるでないのだと、貴司は泣きたい気持ちになった。何も答えない聖一が、肩へと歯を立ててきたから、貴司が小さな悲鳴を上げれば、そのまま倒れ込むようにして首へと顔を埋めてくる。
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