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「セイ?」
暫くの間そのままでいた貴司だが、動かなくなった聖一のことが心配になって声をかけた。
身体を少し横へとずらして顔を覗いた貴司の瞳に、眉根を寄せて目を閉じている聖一の顔が映り込み、今度こそ、意識を失くしてしまったのだと分かった貴司は、彼を起こしてしまわぬようにそっとベッドから抜け出した。
――とりあえず、身体をちゃんと治すのが先だ。
目覚めた時、聖一がどう判断するかは分からないけれど、今は自分に出来ることをやっていくしか思い付かない。言っている自分ですら、白々しく感じるような言葉を信じて貰おうなんて虫が良すぎる話だが、だからと言って黙ってしまえば更に聖一は頑なになってしまうだろうと思った貴司は、掌をギュッと握りしめた。
***
目を覚ますと、淡く優しいオレンジ色が瞳に映り込んできた。瞬きをして周りを見るといつも寝ている寝室で、様子がいつもと違っているのは、隅に置いてあるルームライトが弱い光を放っているせいと気づいて聖一は起き上がる。
――貴司は?
熱に浮されてはいたけれど、記憶に間違いはないだろう。貴司は〝アユ〟を家に引き入れ『外で会おう』と約束していた。もしその為に油断させようと逃げずにここにいるのなら、今度は絶対騙されない。
そう思って眠ったフリをしていたのに、どういう訳か貴司は『好きだ』と囁いて、その後キスを落としてきた。
――解らない。
何でも分かるつもりでいたのに、一番知りたい事だけが、いつもどうにも理解出来なくて……都合良く解釈したいと思ってしまう自分の心を苦々しく思った刹那、部屋のドアがカチャリと開いて貴司が中へと入ってきた。
「あ……セイ、起きたんだ」
ホッとしたように微笑む顔に胸の中がモヤモヤする。返事をしないで黙っていると、「ちょっと待ってて」と言った貴司がそのまま部屋から出て行って、少ししてから着替えとタオルを持って部屋へと戻ってきた。
「汗かいて気持ち悪いだろ? 身体を拭いて着替えよう。寝てる間にって思ったけど、俺の力じゃ無理だったから」
話し掛けてくる貴司の声が、上擦ってしまっているのは緊張しているせいだろうか?
「俺、お粥温めて来るから……これ、使って」
差し出されたタオルを取ると、安堵したように息を吐く。言いなりになるなんてことはいつもじゃ有り得ないけれど、体はベトベトしていたし、かなり空腹も感じていたから聖一は黙って従った。
出て行ったのを確認してからパジャマを脱いで体を拭き、新しい物に着替えをしてから廊下へと出てトイレに入る。
――丸一日……か。
久しぶりに風邪を引いた。キッチンで、貴司を激しく攻め立てた後の記憶がかなり曖昧で、後処理までは何とかしたが、枷を付け忘れていたのは痛恨のミスだった。
気づいた時にはベッドの上で点滴を打たれていて、どういうことか考える前に貴司と歩樹が入ってきたから、らしくもなく動揺した。
――ホント、俺らしくない。
ここの所、貴司の変化に心の中が掻き乱されて、冷静な判断が出来なくなってしまっている。
――でも、逃がさない。
どうして先刻逃げなかったのか聖一には分からないが、又探す手間が省けたのだから今度は更に厳重に繋がなければならないと思う。自分以外の人間が、貴司の心を占めていると思うだけで、聖一の胸に狂気にも似た暗い感情が湧きだした。
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