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「いっ!」
スプリングが効いてはいるが、衝撃に息がグッと詰まる。涙目になった貴司はそれでも起き上がろうと身じろぎするが、体勢が整う前に聖一が腕を掴んできた。
「セイっ、止めろ!」
振り払おうとするけれど、力の差は歴然で……取り出された拘束具に右手首と右足首を手早く一つに纏められ、左も同じく拘束されて動きが封じられてしまう。
「良く似合う」
黒い首輪を手にした彼が、仰向けにした貴司の額へとチュッと音を立てキスを落とす。
「いくら躾ても逃げる貴司が悪いんだよ。お仕置き、しないとね」
カチャッとそれが嵌まる音が貴司の鼓膜に響いた時、体の奥で何かがズクリと疼いたような感覚がして、こんな状況なのになんでと貴司は目を見開いた。
――ああ、そうか。
今までは、逃げる事しか考えていなかった。だけど、心の底から受け入れたいと貴司自身が思えたから、されていることは酷いことでも、受け取る気持ちが違っている。閉じ込められる前だって、聖一とのセックスはいつも全てを支配されているような束縛感で一杯だった。その執着が怖いと思った筈なのに、拒絶しなかった自分の心は、どこかでそれを求めていたのではないかと思えてきてしまう。
「今まで沢山、セイを不安にさせて……ごめん。罰、受けるから、セイの気が済むようにしてくれていい」
「何、言ってるの?」
心の中から溢れる思いを伝えたくて口を開けば、表情を消した聖一が、首輪へ繋げた鎖を引く。
「信じて貰えないと思うけど……俺、セイのことが……好きだよ」
聖一がしてきたことは、決して正しい事じゃない。だけど、歩樹の言う『中途半端な情』のせいでここまで拗れてしまったのだ。
聖一と出会う前、貴司は『要らない』と言われ続け、必要とされたことがなかった。だから、聖一の強い気持ちに応え、捨てられた時に傷付く自分を想像するのが怖かった。
「弟みたいに? その台詞は聞き飽きた」
鎖をベッドヘッドへと括り、それから鋏を手にした聖一が貴司のパジャマに切り目を入れる。
「違う、弟なんかじゃない。ホントは、ずっとセイが好きだった」
「嘘」
冷たく響く声と同時に、布を裂かれて貴司の身体が大きく跳ねる。静かな否定の言葉の中に、強い怒りを感じ取り、コクリと唾を飲み込むと「黙れ」と低く呟いた彼が、鋏を使って下着も器用に剥ぎ取った。
「とりあえず、アイツとヤッてはいないみたいだね」
「痛っ」
硬く窄まったアナルの淵を指の腹で撫でたあと、渇いたそこへと指と突き立て聖一が口端を上げる。勇気を出して告げた気持ちが一蹴されてしまったことに、貴司の胸は痛みを覚えるが、信用されないことは最初から分かっていた。
「ここは? 見てもらわなかったの?」
「いっ!」
もう片方の指が伸ばされ貴司の胸の尖りを捻る。
「……そんな事、してなっ……アユとはホントに、何もっ……」
必死にそう言い募るけれど聞いて貰える筈もなく、そこへ今度は歯を立てられて貴司の顔が苦悶に歪んだ。
「痛っ…やっ…うぅっ」
眦へと涙が浮かぶ。痛いのは嫌なのに、時折優しく舐めてくるから感覚がおかしくなってくる。
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