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「腰が動いてる、気持ちいいの?」
痛みをどうにか逸らそうとして、無意識のうちに腰が浮いてしまったことなど、きっと分かっているはずなのに、意地の悪い質問をする聖一へと視線を向けると、唇だけで笑った彼がその体を一旦引いた。
「選ばせてあげる。前みたいに他の奴等にシテもらうか、俺に酷いことされるか……そうだなぁ、ココに腕でも突っ込んでみる?」
「そ……そんな事」
「罰を受けるって言ったの貴司だよ、また嘘つくの?」
まるであげ足を取るかのような聖一からの問い掛けに、貴司は逃げ出したくなるけれど、それが出来る状況じゃない。それに、もし逃げることが出来たとしても、それを選べば後悔するのは自分自身だと分かっていた。ならば―。
「……セイが、いい」
情けない事に声は震え、歯がカチカチと音を立てる。
「へぇ……意外、そういうプレイがしてみたいんだ」
「違っ……他の人は、ホントに嫌だから」
『嫌なことはしない』と以前聖一は貴司に言っていた。今更になってそんな言葉を思い出してしまうけど、自分が逃げてしまったせいでそれも無効なのだろう。
貴司の放った言葉に対する聖一からの答えはなく、クッションを手にした彼は、無言のままでそれを貴司の腰の下へと差し入れた。結果、臀部が高く宙へと浮いて全てを晒す形になり、貴司の震えは酷くなるけどそれを気にする様子もない。
「っいっ!」
アナルに冷たい物が垂らされて貴司が体をのけ反らせると、「ローションだから」の声と同時に指がズプリと入って来た。
「あっ……やっ!」
いつもされている事だというのに、先のことを想像すると恐怖で体が硬くなる。それでも『止めろ』と言わないように貴司は自分へと言い聞かせた。
「ふっ……くうぅ!」
指はすぐに三本に増やされ、ローションを垂らされながら丹念に中を慣らされる。前立腺をしつこく押されてペニスは反応し始めるけれど、震えが収まることはない。
「怖い?」
「んっ! ……うぅっ」
抑揚のない声と共に指が更に増やされた。せめて悲鳴を上げないようにと必死に歯を食いしばり、爪が皮膚に食い込むくらい掌を強く握っていると、もう片方の聖一の手が貴司のペニスをギュッと掴んだ。
「いっ!」
痛みに思わず声が出る。
「流石に……勃たないね」
先程反応しかけたペニスは四本の指が入ったところで恐怖に縮こまってしまい、引き攣るようなアナルの痛みに、これ以上は無理だと思った貴司の体が強張った。
「止めろって言わないの?」
憂いを帯びた聖一の声。前の貴司ならきっと常との違いを聞き分けられなかった。本当は……今すぐにでも止めるようにと口に出してしまいたい。だけど、それを言ってしまったら、きっと前には進めない。だから、貴司が首を横へと振ると、脚の向こうに見える聖一が唇を少し歪めたあと、それを綺麗な笑みに変えた。
「怯えてる顔……可愛いよ」
四本の指が身体の中で、グチュグチュと蠢いている。正気だとは思えないくらい残酷な彼の行動に、また選択を間違えたのかもしれないと貴司は思った。本当は、怖くて怖くて堪らない。だけど、ここで縋ってしまったら、聖一の心はさらに頑なになってしまう。
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