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「んっ……ふぅ……んんっ!」  舌を吸われ、同時にアナルで二本の指が動きだす。悦い場所ばかりを激しく攻められ貴司が堪らず腰をよじると、一旦口を離した聖一が手早く自身を取り出して、迷うことなくそれをアナルへと宛てがった。 「どうしたら……手に入る?」  声が僅かに震えている。まるで……泣いているように聞こえたそれに、貴司は涙を払うように何度も首を横へと振り、視線を彼の方へと向けた。 「あ……」  予測は外れ、聖一は泣いてなどいない。そもそも、彼が泣いているところなど、見たことなんてあっただろうか?  けれど、貴司はその表情に、既視感を強く覚えた。  ――あの時……だ。  何も映していないような、硝子玉みたいな瞳に、貴司は初めて出会った時の聖一の顔を思いだす。傘を差し出した貴司を見上げた小学生の聖一の姿が、今、自分を見下ろしている彼の姿と重なった。  ――苦しい……のか? 『抑えられない』 『心まで……欲しくなる』 さっき聖一が放った言葉。表情はかなり乏しくて、実際何を考えているかを読み取ることは難しかったが、彼が零した言葉はきっと本音なのだと悟った途端、貴司の心は大きな波に揺さ振られた。 「やっ…あっ……あぁ!」  指を挿入したままのそこにペニスがゆっくり捩込まれ、貴司は思わず声を上げるが、彼は構わずに入ってくる。 「セイっ、指…い…たい!」  無表情に見下ろしてくる聖一へと訴えるけれど、彼はそれには言葉を返さず更に体内へ自身を埋めた。 「いっ!」  声にならない悲鳴が上がり、爪先がギュッと内に丸まる。それでも『止めろ』と口にはしないで唇を強く噛み締めたのは、貴司の心をある想いが満たしはじめたからだった。瞳に映る聖一は、涙も全く流していないし、表情だって何時もに増して何の感情も表さない。でも、彼は泣いているのではないか……と、貴司にはそう思えてきた。  もしかしたら、はじめて出会ったあの日も彼は泣いていたのではないだろうか?  もしかしたら、聖一も……自分と同じくずっと孤独だったのではないだろうか?  知らない部分が多すぎるから、それが正しい答えかどうかは貴司には分からない。けれど今、自分を深く貫く彼が、感情を持て余していることは、先刻僅かに零れた言葉とその行動から読み取れた。 「……す…きだ」  ならば今、伝えなければならないと思い、必死に言葉を搾り出す。信じて貰えはしないだろうが、だからといって口を閉ざすのはもう止めようと決めたから。

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