56 / 82
26
「んっ……ふぅ……んんっ!」
舌を吸われ、同時にアナルで二本の指が動きだす。悦い場所ばかりを激しく攻められ貴司が堪らず腰をよじると、一旦口を離した聖一が手早く自身を取り出して、迷うことなくそれをアナルへと宛てがった。
「どうしたら……手に入る?」
声が僅かに震えている。まるで……泣いているように聞こえたそれに、貴司は涙を払うように何度も首を横へと振り、視線を彼の方へと向けた。
「あ……」
予測は外れ、聖一は泣いてなどいない。そもそも、彼が泣いているところなど、見たことなんてあっただろうか?
けれど、貴司はその表情に、既視感を強く覚えた。
――あの時……だ。
何も映していないような、硝子玉みたいな瞳に、貴司は初めて出会った時の聖一の顔を思いだす。傘を差し出した貴司を見上げた小学生の聖一の姿が、今、自分を見下ろしている彼の姿と重なった。
――苦しい……のか?
『抑えられない』
『心まで……欲しくなる』
さっき聖一が放った言葉。表情はかなり乏しくて、実際何を考えているかを読み取ることは難しかったが、彼が零した言葉はきっと本音なのだと悟った途端、貴司の心は大きな波に揺さ振られた。
「やっ…あっ……あぁ!」
指を挿入したままのそこにペニスがゆっくり捩込まれ、貴司は思わず声を上げるが、彼は構わずに入ってくる。
「セイっ、指…い…たい!」
無表情に見下ろしてくる聖一へと訴えるけれど、彼はそれには言葉を返さず更に体内へ自身を埋めた。
「いっ!」
声にならない悲鳴が上がり、爪先がギュッと内に丸まる。それでも『止めろ』と口にはしないで唇を強く噛み締めたのは、貴司の心をある想いが満たしはじめたからだった。瞳に映る聖一は、涙も全く流していないし、表情だって何時もに増して何の感情も表さない。でも、彼は泣いているのではないか……と、貴司にはそう思えてきた。
もしかしたら、はじめて出会ったあの日も彼は泣いていたのではないだろうか?
もしかしたら、聖一も……自分と同じくずっと孤独だったのではないだろうか?
知らない部分が多すぎるから、それが正しい答えかどうかは貴司には分からない。けれど今、自分を深く貫く彼が、感情を持て余していることは、先刻僅かに零れた言葉とその行動から読み取れた。
「……す…きだ」
ならば今、伝えなければならないと思い、必死に言葉を搾り出す。信じて貰えはしないだろうが、だからといって口を閉ざすのはもう止めようと決めたから。
ともだちにシェアしよう!