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もっと早くに認めていれば、彼の想いの強さにきちんと向き合うことができていれば……ここまで彼を追い詰めることにならずに済んだのかもしれない。
「……怖…った……はじめて…た…から……でも、好き…だか……」
懸命に告げる途中で突然二本の指が引き抜かれ、同時に奥深い場所を猛ったペニスによって穿たれる。貴司の身体はその衝撃にビクリビクリと脈を打った。
「俺も……好きだよ」
小さく呟く聖一の声。表情にこそ目立った変化はないけれど、首を横に振る彼の仕種が心の迷いを貴司に伝えた。
「セイ」
抱きしめたい……と、貴司は思う。どんなに言葉を重ねるよりも、小刻みに震える彼の身体を自分の腕で包みたい。だけど手足は繋がれていて、動かすことは叶わない。ようやく彼が心の欠片を自分に見せてくれたのに、何もできない歯痒さに……貴司の心はもどかしさと、ジクジクとした痛みを覚えた。
「今すぐ……信じろなんて、言わない。だから……」
崩れてしまった信頼は、時間を掛けて取り戻さねばきっとまたいつか破綻する。大人びたその外見と、まるで全てを知っているように振る舞っていた彼の姿に、貴司はいつも翻弄され、中身までもが変わってしまったような錯覚に捉われていた。
「俺、セイに捨てられるの……怖くて、だから、逃げ出した。弱くて……ごめっ…あうぅっ!」
貴司が言葉を終えた刹那、腰を一旦引いた聖一に再度アナルを穿たれる。『黙れ』と言わんばかりのそれに、貴司は瞼をスッと閉じ、口をつぐんで身体の力を懸命に抜く努力をした。
***
――分からない。
貴司が何を考えているのか本当に分からない。理論を立てて考えるのは得意だし、それで相手の行動を読み、常に上位に立ってきた。だから、貴司が自分を油断させ、また逃げようと思っているならば、歩樹と一緒に立ち去ることが、一番の得策だったということくらい分かっている、社会的な地位からしても、彼になかなか手を出すことができないのは、相手にも良く分かっている筈だ。
――逃げなかった本当の理由が、きっとある筈なのに。
貴司の気持ちを読もうとすると、途端に思考がぼやけてしまう。彼には何度も騙されたから、信用してはいけないと……頭の中では分かっているのに、目の前で喘ぐ姿を信用したくなってしまう。
カシャリ……と、鎖の擦れる音が聞こえ、聖一がふと我に返ると、目下の貴司は抵抗もせずに瞼を細かく震わせていた。一番大事な相手なのに、優しくできた試しがない。
――分かってる。けど、どうしても……。
欲しいのだ。
その欲求で歯止めが効かなくなってしまい、追い詰めれば追い詰めるほどに不安は膨らみ続けていく。
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