「あぅぅ！」 　体を突然引き起こされて堪らず喉をのけ反らせると、上から自分を見下ろしてくる双眸と視線が絡む。聖一の顔は能面のように無表情だが、彼は気づいているのだろうか？ 「セイ……ごめん、好きだ」 　元々上手に話せないのに、こんな表情を見てしまったら、更に言葉が胸に詰まって、もう貴司には『好き』と『ごめん』しか口にできなくなってしまう。 　――泣かないで。 　起こされたことで下半身が更に深く浸食される。こんな状況にもかかわらず、質量を増した自分自身に貴司は内心驚いたけれど、これが自分の気持ちなのだと認めて指へと力を込めた。 「泣かないで」 　貴司が小さく言葉を紡ぐと彼が自分の名前を呼ぶ。正確には、唇がただ動いただけで声にはなっていなかったけれど、額へポタリと落ちた雫に貴司の心は引き絞られた。 　こんな静かな泣きかたが、あるだろうか？ 　表情も変えず嗚咽も漏らさずただ瞳から雫が落ちる。きっと聖一は自分自身が泣いていることに気づいていない。 　初めて目にする彼の涙を止める術など貴司は知らない。けれど。 「んっ……」 　首の後ろへと腕を回し、聖一の口をそっと塞ぐ。驚いたように強張ったのが触れ合う場所から伝わったけれど、構わずそこをペロリと舐めると背中を抱く手に力が篭った。 「あっ、ああぁ！」 　突然下から突き上げられて、貴司の体がビクンと跳ねる。また怒らせてしまったのかと心配になった貴司だが、仕方がないと諦めた。こんなに拗れてしまったのだからすぐに戻れる筈などないし、戻せるのかも分からない。結果捨てられることになっても、自業自得だと思うしかない。 　何度も裏切るような真似をして、彼を歪ませてしまったのは、他でもない貴司自身なのだから。 　最初から、外面なんて気にしないで素直にさえなれていれば……と、そんな思いが過ぎるけれど、何もかもがもう遅い。だけど、例え信じて貰えなくても、流れる涙の意味を思えば、素直な気持ちを伝える他に貴司にはもう手段がなかった。 「あっ、うぅぅっ」 　激しくなる突き上げに、脳天までを貫くような快感が突き抜ける。思いは通じていないのに、それでも感じてしまう身体は淫らだとしか言えないけれど、顔を見ながら繋がれるのが久々のことだったから、それだけで貴司の心は深い悦びに包まれた。 「……信じたい。嘘でも、いい」 　絞り出すような声が聞こえ、貴司は思わず目を見開く。聞き返そうと口を開くが、途端に強く中を穿たれ、喘ぎが口を突いて出た。 「あ……あうぅっ！」 「分かってる。貴司はアイツが好きだって、俺がしてるのは犯罪だって……俺には手に入れられない、だけど離してやれない。ねぇ貴司、俺は、どうしたら……」 　至近距離にある聖一の顔が溢れる涙で見えなくなる。 　――違う、俺が好きなのは……。 　聖一に、気持ちが伝わらないのが辛い。彼の心の葛藤が、震える声から伝わってきて、縋るように抱き締められれば貴司の心も痛くなる。 「信じて貰えるまで、何回でも言う。もう嘘は吐かない。だからセイ、俺を、傍に置いて」 　これからは、自分の意志でここに居たい。そう言葉を足した貴司が聖一の顔を真っすぐ見ると、暫しの間黙った彼が、貴司の額へキスを落とした。