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 それは、この状況には似つかわぬような優しく触れるだけのもので。 「ぅあっ!」  僅かに力を抜いた途端に律動が再開され、思わず身体が逃げを打つけど、しっかり背中を押さえる腕に全ての動きが阻まれる。 「セイッ、お願い……だから」 「聞かない……離さない」  話をしたいと伝えたいのに、言葉を紡がせてもらえない。何度も打ち付けられる内、逃しようのない熱が溜まり喘ぐように開いた口は、聖一の唇によって再び深く塞がれた。 「ふっ、んんぅっ!」  腹の奥が切なく疼く。いつもと同じ展開なのに違うように感じるのは、聖一が初めて見せた涙と迷いのせいだろう。  ――熱い。  口腔を蹂躙する聖一の舌が酷く熱い。また体温が上がっていると悟った貴司は首を振り、止めさせようと試みるけど、その行動は聖一を更に煽るだけのものとなった。 「うぅっ! ん……ふぅっ!」  腰を掴まれ同時に激しく奥を突かれて悲鳴が上がる。窒息しそうに苦しいのに、前立腺を何度も穿たれ勃ち上がったペニスの先から透明な液がタラタラ垂れた。 「ふっ、んっ……んぅっ!」  頭の中がグルグルと回り、平衡がもう保てない。意識を失ってはいけないと瞼をどうにか開くけど、焦点が合わなくなって貴司は必死に聖一の背に爪を立てた。 「クッ」 息を詰める音がする。聖一の中で色々な思いが渦を巻いているのだろう。  ――何か……ないだろうか。  自分の気持ちを示す手段を考え始めた貴司の頭に、聖一の部屋を探していた時、偶然見つけた荷物が浮かぶ。  ――そう……だ。  あれを見せれば、少しは信じて貰えるだろうか? 開かれていないところをみると、聖一はきっと自分の荷物を目にしてはいないだろう。あんな物を見せたところで、なんにもならないかもしれないが、口や態度で伝える以外に思いつくものがそれしかない。 「んっ…んうぅっ、ぐぅっ!」  貴司の思考を遮るように舌が吸われ、同時に激しくアナルの奥が揺さぶられ……下半身から卑猥な音がグチュッグチュッと聞こえてきた。  ――あれ…を。  必死に意識を保とうとしたが、息がどんどん苦しくなる。 「……いしてる」  遠退いてゆく意識の中で、耳へと響いた微かな声。それが胸へと染み込んできて、夢なのかもしれないけれど、それでもいいと思いながら、口を僅かに緩めた貴司はそのまま意識を手放した。

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