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それは、奇妙な朝だった。
目覚めると、背後からのびた長い腕により腹を抱き締められていて、首を後ろに捻って見ると、聖一の顔がそこにある。
「っ!」
思わず出そうになった声を寸でのところで堪えた貴司は、どうすればいいか迷いながらも端正な顔をジッと見つめた。
――随分、久しぶりだ。
一緒のベッドで眠ることなんて囚われてからは無かったし、彼の寝顔をこうして見るのも先日倒れた時くらいで……こうして見ると、以前の彼の面影がまだ残っていることに、貴司は一種の安堵にも似た感情に包まれる。
――何を、考えてる?
そう尋ねてみたくなるけど、相手の気持ちを推測するより、自分の気持ちを伝えることが先だと思って言葉を呑み、貴司は息を吐きだした。
――朝ご飯、作らないと、それからあれを……。
聖一は、昨日も粥しか食べていないし、きっと熱も上がっている。頬の赤さにそう判断した貴司が腕から出ようと動くと、ギュッと身体を引き寄せられて首筋へ強く吸いつかれた。
「どこ行くの?」
昨日よりもやや掠れた声に、やはり調子は良くないのだと改めて貴司は確信する。
「ご飯……セイ、昨日も全然食べていないだろ?」
だからキッチンへ行くと伝えると、それは無理だと返された。
「貴司はここに……いないとダメだよ」
優しい、だけど違和感の残る彼の声。無性に不安になった貴司が後ろへ顔を向けて見ると、薄い笑みを浮かべた彼が唇に指で触れてくる。
「食事なら、頼めば小林が運んでくる。欲しい物があったら言って……何でも揃えてあげるから」
「なっ」
おかしい、何かが違うと貴司は思った。いつものような棘もなく、見えていた筈の気持ちの破片が影を潜めてしまっている。
「セイ、昨日は……」
「もういいよ、分かったから。貴司は怖かったんでしょ? 大丈夫、もう怖いことはしないから」
微笑む顔に鳥肌が立つ。何か、大事なことが抜けているような、そんな恐怖に包まれて……視線をウロウロ彷徨わせると、彼の手首に銀色の枷が付いているのに気がついた。
「これ……何?」
「ああ、貴司の足に繋がってる。一緒に居るって約束でしょ?」
淀みなく答える声。その言葉に、違和感の正体が分かった貴司は息を詰めた。
彼は多分、理解出来ない感情を、切り落とそうとしているのだ。起き上がって身体を見ると、パジャマを身につけてはいるが、足首から長い鎖が聖一の腕に伸びていた。
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