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その涙が意味する物が、何なのかは分からない。
でも、聖一の瞳に失われていた彩が少しだけ戻ったような、そんな気がした貴司は微笑みスウッと小さく息を吸う。
見せるつもりもなかったから、彼がページをめくる間は、心臓が飛び出すくらいに激しく音を立てていた。だから、例えどんな感情であれ、聖一がそれを表したことで、貴司の心は温かいものに包まれる。
「笑って欲しいって、いつも思ってた。だけど、俺じゃセイを笑顔にできなくて……だから、絵の中では笑ってて欲しくて」
そこまでどうにか言葉を紡ぐと聖一が顔をゆっくりと上げ、正面から視線が合えば貴司にはもうそれ以上、言葉にすることができなくなる。
「……くな。もう、泣かなくて、いいから」
自然に腕が彼へと伸び、膝で立った貴司はそっと聖一を胸に包み込む。
「好きだ。セイだけ、好きだから」
一旦認めてしまいさえすれば簡単に口にできるのに、こんなに長い時間をかけ、その間……周りの人や聖一のことを自分は酷く傷つけた。こんな自分に愛を語る資格なんてないのかもしれない。だけど、愛を渡すことだけは、赦して欲しいと貴司は願う。
「俺……」
少しの間そうしていると、ぐぐもった声が鼓膜を揺らし、貴司が僅かに体を離せば聖一がジッと見つめてくる。
「自分がおかしいって……分かってる。貴司さえいてくてたら、それだけでいい。酷いことはしない。だから……だから、もう逃げないで」
絞り出すような聖一の声に貴司の目からも涙が溢れ、何とか気持ちを伝えるために再び頭を強く抱くと、それに応えてくれるように背中へと腕が回された。
ただ、相手を好きになった。
たったれだけのことなのに、互いの想いを確かめられず、勘違いばかり重ねてきた。初めて人を好きになって、その気持ちが強過ぎて……怖くなって何度も逃げて、その都度彼を歪ませた。
「逃げない、セイの不安がなくなるまで、このまま……繋いでて」
それが、今の貴司の偽りのない素直な心。
本当は……ずっと前から分かっていた。
繋がれて、聖一の手でがんじがらめにされている間、逃れようとして足掻きながらも心のどこかが満たされていた。
『強く求めて欲しかった』と、聖一は言っていたけれど……無意識の内に貴司の中にも『求めたい』と願う気持ちがあった。
「キスしていい?」
今更のような質問を、真っ直ぐぶつけてくる聖一に、昔の姿がダブってしまい、脈が速度を更に速める。
「いいよ」
笑みを浮かべて返事をすると、いつものように強い力で背中をギュッと抱き締められた。額と頬へと順にキスをして、唇へ触れるその寸前、一旦動きを止めた聖一が両手で頬を包んでくる。
「愛してる」
面と向かって告げられた言葉に新たな涙が流れ出た。本当の意味で信じあうには、まだまだ時間がかかるだろう。今、ようやく互いの気持ちを信じてみようと思い始めたばかりだから。
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