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 強引なのはいつものことで、できる限り受け入れたいと貴司は常に思っている。 (けど、だけど……) 「すぐに返事をしろって言うなら……ごめん。俺、今の会社辞めたくない。だから……」  言いながら、それも違うと貴司は思う。  聖一が、二十歳にして起業をしたのは驚きだが、それを凄いと素直に思うし手伝いたいとも思っている。 (じゃあ、この気持ちは?) 「分かった。それなら俺が何とかする」  穏やかな、静かな声音に背筋を冷たいものが走った。 「セイ」  怒らせたかもしれないと思い貴司は体を強張らせるが、彼の瞳に怒りの色は一つも浮かんでなんかいない。 「ちょっと予想外だったけど、貴司がそうしたいなら、それでいい」 『だから怖がらないで』と続いた言葉に目の奥の方がツンとなった。 (そうじゃない。俺はただ……)  こんな時、自分の気持ちを伝えたり、やりたい事を考えたりする努力をあまりしてこなかった自分自身を恨めしく思う。  受け身でいるばかりじゃなくて与えたいと思っているのに、どうしてこんな大切な時に心がぼんやりするのだろう。 「俺は……」 「貴司、脱いで」  額にキスを落とされて……話はここで終わりとばかりに聖一がそう囁いた。見下ろしてくる彼の瞳に体の奥が熱を帯びる。 「……分かった」  ジャケットは既に脱いでいたから、ワイシャツのボタンを外し、アンダーシャツの裾を掴んでゆっくりと引き上げた。  毎日やっている行為だが、首の後ろがゾクゾクとする。 「これ、大丈夫? 誰にも気づかれてない?」 「冬だから、ジャケット脱がないし……だから……んっ」  リング状のピアスを摘まれ軽く上へと引っ張られ、思わず小さな声を上げると彼が喉でククッと笑った。 「やっぱり、リングの方がいいね」  夏は棒状の目立たぬピアスを嵌められていたけれど、それでもいつバレてしまうか心配で堪らなかった。 「セイ、外して」 「ダメ。今日は俺のお祝いだから、好きにさせてもらう」 「そんな」  いつも好きにしている癖にと喉元まで言葉が出るが、口を噤んで貴司は彼の頬へと指で軽く触れる。 「ごめん、セイ……おめでとう。すごいよ、大学生で起業するなんて」 「そんなこと無い。資本と少しの知識があれば、誰でもなれる。問題はこれからどれだけの利益を上げて行けるか……だね」 「誰でもなんて……あっ!」 「この話はここでおしまい。貴司、自分で服脱いで、それから俺のを舐めて」  話の途中でピアスを引かれて貴司が身体を反らせた途端、そう命じる声が聞こえて思わず瞳を見開いた。 「え?」 「だから、裸になって、フェラしてって言ってるんだけど……できない?」  やはり、彼は怒っていたのだと……茫然としながら貴司は思うが、その表情や雰囲気から負の感情は伺えない。  ペニスを舐める事はあるが、こんな風に自分だけ……裸になった事はなかった。 「分かった」  彼の言葉に逆らえなくてコクリと小さく唾を飲む。上衣はすでに脱いでいるから、ズボンと下着を手早く脱ぎ去り、羞恥に身体を赤く染めながらソファーの前へ(ひざまず)いた。  そうすれば、聖一からはあまり見えないと思ったから。 「手、使わないでできる?」 「それは……」 「して」 「え? ……セイ?」 ネクタイを外した聖一が……貴司の身体を抱きしめるように腕を背後に回してきて、抵抗する暇も与えず両手首を背中で括った。 「怒ってる?」 「残念だとは思ってるけと、怒ってなんかないよ」 「じゃあなんでこんなっ」  久々に腕を拘束され、動揺した貴司は彼へと縋るように問いかけるけど、優しい手つきで頭を撫でられ混乱は更に酷くなる。 「今日は俺の好きにするって言ったよね」  微笑む姿に邪気は無く、言葉に嘘は見いだせない。だから、自分が負い目を感じているからそう感じてしまうのだ……と、貴司は思う事にした。

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