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 名前を何度も紡ぐ唇を優しく塞いで舌で舐め、「どうして泣くの?」と問いかけると、貴司は首を左右に振って潤んだ瞳をこちらに向けた。 「……きだ、セイが……好きだ。抱き締め…出来な…から、でも……つたわらなっ」 「貴司はやっぱり優しすぎるよ」 「ちがっ……セイっ、今は、止めっ」 「止めない」  伝わっていると言ったところで、拘束している事実からすれば信じてなど貰えない。でも、今これを解いてしまったら、貴司の気持ちを確かめる前に自分が彼に甘えてしまう。  昔の話を出した時点で、心が酷く不安定なのは、もう分かってしまっていたから。  なんとも無いと思っていたのに、口に出してしまった途端、恐怖にも似た黒い感情が溢れ出してしまったから。 「貴司、どうして……訳を言ってよ」  なのに。  たった今、冷静に分析したばかりなのに、どういう訳かポロリと口から零れ出てしまった言葉。  放つつもりの全く無かった心の底に仕舞った言葉。  自分の物とは思えない程弱々しいその声の響きに、誰より一番驚いたのは発した聖一自身だった。 「……セイ?」  動きの止まった聖一へと、伺うように視線を向けた貴司もまた、その表情に息を飲む。  聖一自身は気付いていないが、不安げに歪むその表情は、いつもの彼を知っている者には想像出来ないものだった。 「セイ、俺……会社辞める。直ぐじゃ無理だけど、ちゃんとやる事やったら……」 「……無理、しなくていい。俺を……」 「そ……じゃない。無理矢理じゃないし、セイの事、可哀想だと思っ……からでもない。やっと、分かっ……んだ。なんで苦しかったか……だから」  中を深く穿たれたまま、苦しげに……だけど微笑み懸命に告げて来る恋人に、我へと返った聖一が腰を引いてペニスを抜こうとすると、突然背中に何かが触れて、ギュッと強く引き寄せられる。 「……っ、貴……」 「ネクタイ……布が滑るから、頑張ったら、解けた。いいよ、このまま、繋がったままで。その方が……落ち着くから」  背中に回った貴司の爪が、離さないと言わんばかりにグッと立てられて少し痛い。  だけど、その痛みは甘さを帯びて心の中に染み込んで……奥に仕舞った重たい気持ちが、少しだけ軽くなった気がした。

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