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第3話 修正
六王が輪廻の輪を潜って再生されて、八仙に連れられて戻って来ると
炎帝はニヤッと嗤って六王を出迎えた
「記憶は消えちゃいねぇだろ?
お前達に化した贖罪だ受け止めろ!」
いっそ……抹消してくれた方が楽だった
仲間を見殺しにしたと言う……
罪悪感に苛まれて生きて逝けというのか?
罪を認めるしかない
認めて……生き恥をかけと言うのか?
六王には炎帝の真意は見えてこなかった
妖精王は「………総て記憶は御座います」と答えた
「ならば、お前達は多くの妖精や精霊を見殺しにした自覚はあるんだな?」
六王は驚愕の瞳を炎帝に向けた
海王は「………罪を化すと申されるのか?」と問い質した
「罪は化すもんじゃねぇ!
罪は償う為に在るんだ!」
炎帝は言い捨てた
天王が「………償えと……申されるのか?」と問い掛けた
「それが生かした理由だろうが!
お前達は職務怠慢をした
その結果、多くの同胞が消えて逝った
それを償う事なく消したら、お前達はその先へ逝けねぇで消える事しか出来ねぇじゃねぇかよ?」
花王が「………その先……?」と呟いた
「全員、掌を出せ!」
炎帝は六王に掌を出せと命令した
六王は炎帝に掌を見せた
炎帝は意識を集中させた
手の先に……消えて逝った妖精や精霊の想いを集めた
消えて逝ったヴォルグの想いを……
集めて掌に刻み付けた
掌に……焼け爛れた様な瑕が出来た
その瑕は見る見るうちに……姿を変えた
瑕は……涙の形を作り、六王の掌に遺った
「それはこの世から消えて逝った妖精や精霊達の想いを刻んだ想いだ
お前達が職務を忘れたら思い出させてくれるだろう
遥か昔から……存在する妖精や精霊の真の姿を思い出させてくれるだろう
お前達が六王のステージから下りるのは許さない!
役務を全うしろ!
この闇に包まれた世界を光で満ちあふれさせろ
闇は悪魔族が管理している
もう増幅する事はないだろう
だが……人というのは悪しきモノに感化される
それを護っていかねばならぬのが、我等が務め
それこそが神が望む果てだ
適材適所 配置するがオレの務め!
オレは六王を仙界に配置した
もう違える事はないだろう………
近いうちに悪魔族と天界と魔界と仙界と冥府とで調印式を行う予定だ
不可侵条約を締結させる
我等は啀み合う暇などない!
この目まぐるしく変わる世情から目を離す訳にはいかぬからな
世界を滅ぼす戦など起こさせてはならぬ!
そして我等も生き残りの道を辿らねばならない!
六王、花が咲き乱れる……この世界も永遠ではないと言う事だ
泉は枯渇して花は枯れ緑は尽きる時は来る
今 魔界がそうだ
主食としている獲物が尽きる時は必ず来る
そしたら飢えが来る
飢えはまともな判断を鈍らし飢饉となる
そしたら魔界は崩壊する……
滅びの序章は……始まったばかりなんだよ
それを食い止めるも滅ぼすも………
我等の肩に掛かっている
どうするよ?
この狂った世界を直す気はあるのかよ?」
炎帝は静かに語り……問い掛けた
妖精王は炎帝に深々と頭を下げた
「炎帝……今までの無礼をお許し下さい……」
妖精王の謝罪の言葉に他の王も、深々と頭を下げた
炎帝は「頭を上げろ!」と言い笑った
子供のような笑みだった
「謝罪する暇に人の世の闇を止めてくれ!
オレが仙界に来た理由はそれだ!」
「………人の世の闇……ですか?」
「そうだ!何故、あぁも人の世の闇は影を濃くしたんだ?」
炎帝が問い掛けると海王が
「人の世の闇は祓っても祓っても日に日に深まるばかりです
貴方が悪魔や悪魔貴族と呼ばれる輩を退治した時に闇は消え掛かりました
でも……勢力を増して増長し始めた
我等は日々闇を祓っていた
だが消えぬ闇に……疲れを感じていた
それからは貴方が知るとおりだ……」と説明した
陸王も「貴方が……アモデウスを冥府に送って終わると想っていました」と深刻な現状を口にした
「アモデウス達の目論見はオリンポスの十二神の復活だった」
炎帝が言うと……六王は顔色をなくした
「………オリンポスの十二神の復活……
十二神は消滅したのではないのですか?」
花王が恐ろしい……と震えながら口にした
「オリンポスの十二神は消滅した
だが神の消滅は……本当の意味の消滅に非ず
神は消滅しても力は遺ると言う訳だ
だから十二神は力を分散化して飛ばした
世界各国に分散化して……何も持たぬモノになり……消える事を望んだ
だから……そうしてやった……
だから十二神の復活は有り得ない……
それを知らぬ輩がオリンポスの十二神を復活させて、自分達の望む世界を描こうと目論んだ
その影響を受けて…人の世の影が闇を孕み増幅して逝った……
影は闇を濃くして、闇に生きるモノを狂わした
まだ今は……その序章に過ぎない……」
「……まだ……始まったばかりだと……言うのか?」
妖精王は唖然として呟いた
「そうだ!始まりの序章は幕を上げたばかりだ」
「………闘われるのですね……」
「当たり前じゃねぇかよ?
それがオレの存在理由だかんな
オレだとて役に立たねぇなら消されちまうからな!」
自分だって神の駒だと暗に炎帝は言葉にした
「なれば我等は炎帝
貴方に仕えます
我等を生かすは炎帝、貴方です
貴方のためならば……この命賭してでも完遂いたします!」
「妖精王……魔界に妖精を……棲まわせてくれ……」
「既に妖精は魔界の森に棲み始めています
ヴォルグの想いが………
悲しき妖精の魂を呼び寄せた……
魔界は変わります
ヴォルグが望む虹色に輝くように、我等も尽力を尽くします
我等は何者にも屈さない
炎帝、貴方と共に闘う事を誓います!
「なら、人の闇を………押さえる力を貸してくれ
今 人の世は闇に浸食されて……
心弱き者に影響が出始めている
心優しい……者が魔に囚われ闇に囚われた
闇は祓ったが……闇の影響がこんな人間にも出てるのかと想ったら怖くなった……
それ程……人は闇の影響を受けていたんだからな……
そして此処からが本題だ!
ダンピールがヴァンパイアを殲滅し始めた
人を襲っておらぬヴァンパイアさえも手に掛け殲滅を始めた
無差別だ…このままでは総てのヴァンパイアがこの地球上から消えるのは時間の問題だ」
「………ダンピールが……ヴァンパイアを殲滅?」
信じられないと陸王は呟いた
海王 天王 地王 花王 妖精王も……現状を飲み込められない表情だった
花王は「………ダンピールの存在理由はヴァンパイアの管理……ではないのですか?」と震える手を握り締めて問い掛けた
「ダンピールの存在理由はヴァンパイアの管理だ!
それは今も昔も何一つ変わっちゃいねぇ………
だが今のダンピールは……ヴァンパイアを一匹残らず殲滅しようと動いている
かなりのヴァンパイアが殲滅された……
ヴァンパイアは今……逃げて回っている
殆どのヴァンパイアが殲滅された……
そして奴等はヴァンパイア以外の闇に生きる者達へ触手を伸ばし始めている
このまま許せば闇に生きる者達の殲滅に繋がる
この狂った現状を聞かねぇとならねぇけどな
闇がこうも深くちゃ……下手に動けねぇんだよ
だから闇を大人しくさせねぇとな」
「解りました!
この地球(ほし)の闇は……我等が押さえて見せます
それが亡くなっていった妖精や精霊達の弔いだと戒め……闇を浄化致します」
「頼むな……」
妖精王は炎帝を優しく抱き締めた
「ヴォルグと言う妖精は……
我等妖精を救ってくれました……」
「………え?ヴォルグ?」
「貴方が言う通り、仙界のこの情景にも闇が差した頃から………翳りが始まりだしたのです
そんな頃、貴方は魔界に木々を植えた
花を植えた……祝福された光で咲いた花々は我等を照らした
ヴォルグの想いが魔界に妖精を呼び寄せた
我等は闇に囚われてしまう……と想っていました
だが……我等は祝福された光の恩恵を受けて……
こうしていられる
小さき魂のもたらした加護だと……我等は想っている」
「………そっか……ヴォルグの想いが……
同じ妖精を救ったんだな
ずっと一人だったからな……焦がれた場所に葬ってやりたかった……
哀しい思いをさせたからな
そんなヴォルグの想いが仙界を救ったのか……
すげぇな……」
炎帝の頬を……
涙が伝って流れた
その涙が……静かに……落ちた
その涙に芽が出て……
見る見るうちに蔦が伸びて逝った
六王達は、その美しい様を眺めていた
想いは繋がる
思いが強ければ強いほど……
想いは繋がる
六王は深々と頭を下げた
「調印式、必ず参加してくれ!」
「はい!貴方のためならば何処へでも駆け付けて望みのままに完遂いたします!」
「オレはこの蒼い星が好きだ
この星に生きる総ての生き物が好きだ
この星を………護る為にオレは今を生きている」
「なれば、我等も………この地球(ほし)を護って見せます!」
炎帝は嬉しそうに笑った
「またな六王」
「はい!またお会いしとう御座います」
「なら我等は還るな」
「人の世に散らばる妖精や精霊は忘れ去られて良い存在ではない
我等は……あるがままに……棲息しようと想います」
「それが良い
ならな六王!」
六王は「はい!」と返事をすると深々と頭を下げた
炎帝は立ち上がると八仙と共に呪文を唱えた
青龍、金龍、黒龍、朱雀、弥勒らと共に仙界を後にした
仙界を後して崑崙山へと下り立つ
炎帝は息を吐き出した
「腹減ったな……」と呟くと金龍が
「休んで還られてはどうじゃ?」と心配した
「なら今宵は泊まってから還ろうかな?」
炎帝はそう呟いた
金龍は「我が家へいらして下さい」と炎帝を誘った
「迷惑じゃねぇ?」
「何を申すか!
炎ちゃんは我が青龍の嫁
我が家は何時でも大歓迎だ!
青龍の寝ていた部屋もある
今宵は青龍の部屋で泊まると良い」
「青龍の部屋?
オレ、一度も見た事ねぇな……」
「成人になるまで棲んでいた部屋です
我が家は……子供が成人して出て逝ってしまいましたが、今もそのままに遺っております」
「青龍の部屋に泊まりてぇ……」
炎帝は喜んだ
皆で金龍の家へと向かった
銀龍は急に現れた炎帝達を出迎えて、もてなしてくれた
「銀龍、産後の肥立ちはどうだ?
無理させたからな……心配してる」
炎帝は銀龍へ問い掛けた
銀龍は優しい笑みを浮かべて
「我も年故……キツいってのはあります
若い頃なら平気な産後も結構キツく感じます
でも、我が子を授かった喜びに比べれば……
喜びの方が勝るのです
なので、炎ちゃんは心配しなくても大丈夫なのよ」
「銀龍……」
「ほらほら、お腹減ってるんでしょ?
沢山お食べなさい!」
銀龍は優しい母だった
青龍をこの世に生んだ母だった
炎帝は母の愛を噛み締めた
黒龍は始終大人しく酒を飲んでいた
炎帝はそれが気に掛かったが……何も言わずにおいた
夜更けまで楽しく飲み交わし、青龍の部屋へと向かった
青龍はドアを開けて炎帝を部屋の中へ招いた
「青龍の部屋には一度寝ぼけて入ったきりだ……」
「僕は君を想い……幾度も幾度も……一人でしてました……
日々思いは募るのです……
それを誤魔化す為に誰彼構わず寝た時もあります
だけど、誰と寝ようとも……
君を想って自慰する快感は得られませんでした
僕の流した浮き名など……そんなモノです」
炎帝は青龍に抱き着いた
「今はオレのだよな?」
「君のです
僕の全部は君だけのモノです」
「嬉しい……」
「僕も嬉しいです
………ですが、このベッドで君を抱くのは無理みたいなので大人しく寝ましょう……」
青龍は今は小さくなったベッドを指差した
子供の時は大きいと感じたベッドだった
「………ん……青龍……オレ幸せだ……」
「僕も幸せです
君がいてくれるから味わえる幸せです」
ベッドの中に入り、抱き合う
隙間もなく抱き合った
「青龍……黒龍、無理してるな」
「ですね、瑕が治ってないのですかね?」
「オレは黒龍を久遠に診せようと想う」
「それが良いですね!
兄さんにはまだまだ頑張って貰わねばなりません
ゆくゆくは龍族を背負うべき存在となるのですからね」
「あれは……相当キてるよな?」
「キてますね……脂汗垂らしてましたよね?」
「だな……」
炎帝は青龍の背に腕を回して抱き着いていた
こんなベッドで思い切りセックスしたらベッドが悲鳴を上げるのは解っている
解っているが……
互いの体躯が熱を帯びる
青龍は熱を帯びた胯間を炎帝に押し付けた
「………青龍……熱い……」
「頭では解っているのですがね……
君が腕の中にいて大人しく寝てはくれませんでした」
青龍は苦笑した
「出してやろうか?」
「なら……合わせて扱きますか?」
「………だな……あんまし激しくするなよ?
でねぇとベッドがギシギシうるせぇだろうからな」
「ですね」
青龍は炎帝の勃ち上がった性器と自分の性器を合わせて握ると……
扱き始めた
唇は……合わさり貪る接吻で口腔を犯された
「………イッちゃう……あぁっ……ダメ離せって…」
「君も握って……でないと飛び散りますよ?」
「………どうするんだよ?
こんな所で……出したら……」
「手拭きを持って来ました
この中で出せば良いです
この手拭きはゴミ箱に捨てれば良いだけです」
「……ぁっ……あぁっ……イクッ……」
炎帝は熱い精液を弾け飛ばした
青龍も一緒にイッた
手拭きで二人分の精液を受け止めた
そして綺麗に拭き取るとゴミ箱に捨てた
青龍は炎帝に口吻けた
二人は照れくさくなり笑った
「二人して早かったな……」
青龍は炎帝を強く抱き締めた
こうして青龍に抱き締められて眠れるなんて……
夢見てぇだ……」
「僕達は何があってもこの先……
未来永劫……共にいましょう」
炎帝は何度もうんうん……と頷いた
そして夢の中へ堕ちて逝く……
互いの熱を感じて眠りについた
物凄く幸せに包まれていた
翌朝起きて応接間に逝くと…
赤龍がソファーに座っていた
「………赤龍、どうしたよ?」
「遅ぇから迎えに来た」
赤龍は拗ねた顔をして……そう言った
金龍は「炎帝が甘やかすから留守番も出来やしないのです」とボヤいた
炎帝は笑っていた
そして「赤龍、丁度良かった」とにこやかに赤龍を見た
「………何が良かったんだよ?」
思わず赤龍が後退る程の笑顔だった
「黒龍は今 めちゃくそ忙しいんだよ
平和調印式の準備に龍族を纏め上げる為に
日々忙しく駆け回っているんだ」
赤龍は兄を想い……うんうん……と頷いた
「こんなに忙しいからな瑕も治らねぇんだよ
黒龍は人の世に連れて行って治療させる
その間赤龍、魔界に遺って黒龍の仕事を停滞させる事なく働けよ」
「嫌だ!」
即答だった
金龍は赤龍の頭をポコンッと殴った
「まぁ答えは解っていたけどな……」
そう想って雅龍と黄龍に頼んでおいた
赤龍が我慢できずに来たから……お仕置きの意味で仕事を言いつけたのだ
だが何時までも黒龍任せではいられないのは事実だった
「赤龍、黒龍に何かあればお前が次代の長になれ!」
「………え?……そんな事を言われても……」
「自覚の問題だ赤龍
お前が今総てを黒龍に押し付けているが
黒龍に何かあればお前は次男として黒龍の変わりをせねばならない存在だって忘れるな」
「………忘れてねぇよ……」
「なら良い」
「………兄貴……そんなに悪いのかよ?」
赤龍は不安そうな顔を炎帝に向けた
「この男は……相当の精神力で己をコントロールしている
だが限界をとうに超してるんだろうな……
雅龍が青龍の所へ直談判に来なきゃならない程に無茶している
まわりは堪らねぇよな
無茶しているのが解ってて、止めても言うことすら気かねぇんだもんな
青龍に泣きついて止めろと言わなきゃ治療もしねぇんだもんな」
炎帝が言うと黒龍はバツの悪い顔をした
「………八仙の薬湯で治るかと想ったんだよ」
「無理だろ?
魔界のモノでやられたら薬湯でも効くかも知れねぇけどな
お前が撃たれたのは、人間界の猟銃だ……
早く手を打たねぇと……生死に関わるぞ!」
炎帝が言うと金龍は炎帝に深々と頭を下げた
「炎帝……黒龍を助けて下さい……
黒龍は次代の長……変わりはおりません
黒龍の実績には誰も敵いはしません
赤龍では役不足……次代の長には据えられません
そうなったら……一族はバラバラになって好き勝手するでしょう
そうならない為に皆が認める長はなくせないのです」
「赤龍でも役不足ではねぇぞ?
この男も人脈は結構多い
だが……この男は一族のためには動かねぇ……
それだけが欠点だから痛ぇんだよな?」
「此奴は貴方のためにしか動きません
それでは一族は路頭に迷う
一族の長は黒龍しかおりませぬ!」
「だな!だが黄龍と雅龍には黒龍の穴は頼んであるが、役不足は否めねぇかんな
赤龍を使うしかあるまいて!」
「解りました!では赤龍には動いて貰うしかありませんね!」
金龍は瞳をキラーンと輝かせた
「この男は何としてでも役務は完遂する!
それがオレの評価だ!」
金龍は「ほほう……」と感心した
「では今まで仕事をしなかったという訳ですな
なれば戻ってきたなら役務に着けると致します
魔界に戻る時、此奴は恋人も連れて戻るのでしたね
なれば家族を持つのですから責任も持たせねばなりませんね!」
やぶ蛇だった
赤龍は、ちぇっ……と唇を尖らせた
炎帝はその顔を見て笑った
黒龍も笑っていた
「取り敢えず赤龍、お前は兄の看病に全力を注げ!
黒龍に何かあれば……済まされねぇ事態になるぞ」
「解ってる!
何か何でも兄貴を治す!
その為なら……何でもする」
赤龍は覚悟を決めた瞳を炎帝に向けた
「地龍が退院して毘沙門天も退院したと想ったら……
次は黒龍か……この瑕……見せたら久遠、怒り狂うな」
炎帝がボヤくと青龍も
「ですね、あの人は自分を過信する奴には厳しいですからね……」
「取り敢えず、黒龍、逝くか?」
「………俺はめちゃくそ忙しい……」
黒龍は無駄な抵抗を口にする
「大丈夫だ黒龍
黄龍や雅龍、赤龍も手伝うし
オレも青龍も手伝って調印式典は成功させる」
「………炎帝……彼奴は……怖い…」
他の医者にしてくれと頼みたい……
でも腕が良いから……久遠に看て貰う事になるんだろうけど……
青龍は立ち上がると兄を掴むんだ
「さぁ兄さん逝きますよ!」
その横に赤龍が立って
「兄貴、自分の立場をもっと自覚しろ!」とボヤいた
トホホ……な黒龍に炎帝が真顔で問い掛けた
「黒龍、オレを置いて逝く気だったのか?」
「……んな訳ねぇの解ってて言うんじゃねぇよ……」
「でも……体躯が言うことを効かねぇだろ?
悪化の一途を辿れば……おめぇは死ぬしかねぇぞ?
神だとて不老不死って訳じゃねぇ
その力を次代の黒龍に継承すれば“黒龍”が消える訳じゃねぇ……
でもお前の本体は……消えるしかねぇんだぞ?」
「………炎帝……言うな……仮説でも言わないでくれ」
「なら治せ!お前を撃った奴は必ず見付け出してやるからな!」
「………無茶……すんじゃねぇぞ……」
「おめぇの方こそな!」
黒龍は炎帝を抱き締めた
強く強く……抱き締めた
人の世に還る時間になると、朱雀と弥勒が金龍の家に訪ねて来た
「支度は出来たか?」
朱雀が炎帝に問い掛ける
「朱雀、家に帰ったのかよ?」
「俺は転輪聖王んちに泊めて貰った」
「………オレ、一度も泊まった事ねぇのに……」
炎帝は拗ねた顔を弥勒に向けた
「そもそも……転輪聖王は一緒に住む奴が出来たからオレの面倒は見れねぇって……消えたんじゃねぇかよ?
オレは転輪聖王んちは奥さんがいるからと遠慮してやったのに……」
古傷を突っ突かれ弥勒は苦笑した
それを言われると弱い……
青龍が「早く還りますよ!黒龍を医者に診せねばなりません!」と意識を現実へと戻した
弥勒は青龍に『助かった…』と言う視線を送った
炎帝達は人の世へと向かう為に女神の泉へ出向いた
女神に現在の飛鳥井へ下ろして貰う様に頼み
湖の中へと飛び込んだ
康太達は飛鳥井の屋上の上へ下ろして貰った
屋上のドアを開けて家の中へ入ると、朝食を取りに向かう子供達と出くわした
子供達は康太を見付けると駆けていき飛び付いた
「「「「「かぁちゃ!!!!!」」」」」
康太はしゃがむと子供達を抱き締めた
「元気だったか?」
子供達は頷いた
子供達と手を繋ぎキッチンへと下りていくと瑛太が康太を抱き締めた
「瑛兄、飯食ったか?」
「康太、体調はどうです?」
瑛太は康太を心配して問い掛ける
「悪くねぇよ?
それより腹減った……」
康太が言うと瑛太は康太を抱き上げて椅子に座らせた
康太の前に朝食を置くのは慎一だった
「康太、久遠先生が検査に来いと言ってました」
「お!今日、飯食ったら行ってくるわ」
黒龍もテーブルについて朝食を取っていた
兵藤も一生も優雅に朝食を取っていた
ガツガツ康太は朝食を食べていた
康太は清隆と玲香が食卓に着くと
「父ちゃん、母ちゃん、伊織が映画を作る時が来た」と告げた
玲香は「………そうか……なれば伊織の仕事を減らさねばな」と感慨深い呟いた
清隆も「そうですか…飛鳥井のことは気になさらず……
想いのままに仕事なさって下さい」と深々と頭を下げた
榊原は「僕は飛鳥井の者になりました!
副社長の椅子を誰かに譲る気はありません!
仕事は……影響があるかも知れませんが、脚本だけ関わると決めています
脚本だけ書いたら後は監督やスタッフに任せるつもりです……多少のご迷惑はお掛けすると想いますが……
僕は飛鳥井の人間として生きたいのです」と想いを伝えた
玲香は「伊織の好きにするがよい!」と榊原の想うとおりにすれば良いと言葉にした
清隆も「後悔などなさらぬ様に……その為でしたら我等も協力を惜しみません!」と協力を示した
歩み出す
少しずつだが確かにその歩みは進んでいた
飛鳥井の歯車が回り出した
確かに……
回り始めた
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