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第4話 日常へ①

黒龍を飛鳥井記念病院に連れて行くと、即オペになった 検査の結果、銃弾がまだ体内に入っていたらしく…… 銃弾を取り出すオペとなった 救いなのは……散弾銃じゃなかった事くらいか…… 散弾銃なら体内に入った瞬間 体内に飛び散る事となる そうならなかった事だけが救いだった 黒龍はオペの後、ICUへ移った 久遠は榊原の顔を見るなり 「どうしてこうも放っておいたんだ?」と怒った 「………すみませんでした……僕は兄が撃たれたのも知りませんでした……」 「当分入院して貰う、良いな!」 「はい。よろしくお願いします。」 榊原は久遠に深々と頭を下げた 「所で、康太、お前の調子はどうだ?」 久遠は康太と榊原の診察をした 撃たれて2ヶ月過ぎた 毘沙門天も地龍も退院した 悠太も新学期から学校に通える程には回復していた 回復しても今後の成長を見て、骨がどれだけ耐えられるかは‥‥‥予知も出来ないでいた 家で寝させるよりも、本人のやりたい事をさせる 学校に行きたいた謂った悠太の願い通り、限界を迎えるまでは学園生活を送らせるつもりだった 九頭竜遼一も近いうちに退院となる 四宮聡一郎も退院して来た 無理は出来ないが、飛鳥井の家で療養出来る程に回復していた 体躯の裂傷は……治癒したが心の傷は……目に見えない分… 良く解らない…… 康太は様子を見るつもりだった 榊 清四朗は怪我を乗り越えて苦難の復活を遂げた アカデミー賞の授賞式に清四朗は妻の真矢と共に姿を現した 事故で重体とニュースが流れ 一時は役者として再起不能とまでニュースで騒がれた…… その榊 清四朗が事故前と何の遜色もなく姿を現したのだから 何処の局も競って清四朗の姿をフレームに納めようと色めき立った 妻の真矢は始終夫の横に付き添っていた 夫を支えてる姿は女優の榊原真矢ではなく 榊 清四朗の妻して夫を影から支えている妻だった 涙ぐみながら夫を支える姿に多くの人の共感を得た 夫婦の愛の強さを……垣間見た瞬間だった 榊 清四朗は表舞台に復活を遂げた 康太の絵図通り、回り始めた歯車に組み込まれながら…… 榊 清四朗は役者の道を、自分の足で歩み始めていた 陣内博司と栗田一夫も退院して来ていた 二人はまだ静養が必要だというのに、寝てる方が病気が悪化すると、半ば強引に出勤していた 怪我は完治していなかったが…… 第一線を走り続けた戦士は、その道を逝けなくなるのが怖かった だから早過ぎると謂われながらも、復帰した 九頭竜遼一も近々、その仲間に入る予定だった 皆が怪我して疵付きながらも、自分の持ち場へと還る その場所でしか生きられないと…… その場所へと還る 康太はその様を黙って見ていた 康太の銃創は治りつつあった 榊原の銃創は既に完治していた 体力と治癒力の差が出た結果だった 康太の体躯も安定して、このまま治療を続ければ 普通の生活は送れると言われた 大学3年に進級して 何もかもが順調に行き始めていた 康太は久遠に診察を受けていた 「久遠、オレの子が幼稚舎に入園した」 と近況を話した その顔は母親の顔になっていて、久遠は笑って 「そっか、ご入園おめでとうございます」 と祝辞を述べた 「オレの子……だからな……少し不安はあるんだよ」 康太が不安そうに言うと久遠は爆笑した 「そう言えば、康太の武勇伝は悟が色々と教えてくれたな」 「………悟……どうよ?」 「今は落ち着いてる」 「………もう少ししたら悟は……入院するだろ?」 「………え?……聞いてませんけど?」 「桜の散る頃になるもアイツは狂うからな…… 24時間管理して貰える病院に入れねぇと怖くて…… 志津子は眠らなくなるだろ?」 「………心の傷は……俺は治せないからな……」 「それでも……お前達がいてくれるから悟は前向きになって来た お前の存在は大きいんだよ!志津子にも悟にもな!」 「………康太……」 「お前は不器用な義恭と志津子を支えてやってくれ……」 「はい……本当にあの人は……駄目な大人ですね」 「仕方ねぇよ んな風に育てちまったからな……」 「………あの人……今落ち込んでます…… 義恭と佐伯さんはお知り合いだったのですね…」 「あぁ、旧友だな……佐伯は主に仕え、義恭は医者の道を進んだ ………義恭はまた……大切な存在を救えなかったと……自責の念に囚われてるんだろ?」 佐伯朗人は……主に仕えた人生を終わらせた 娘に看取られ……その生涯を終えた 春だというのに雪が散らつく3月も終わりの頃だった 蔵持善之介は自分に仕えてくれた執事の為に、葬儀に駆け付けた 子供のように佐伯の体躯に縋り付き……善之介は泣いた 善之介にとって……掛け替えのない存在だった 明日菜は父親の主に仕えた人生を誇りに思った 一緒には住めなかったが…… 今は……佐伯朗人の人生を誇りに思った 父親としては少しも言い父親じゃなかった でも不器用なりに愛してくれたのは解った 孫に優しい祖父になり 最期の時はずっと一緒に暮らした 掛け替えのない日々だった 明日菜は心から…… 父の死を嘆き悲しんだ 多くの血を流し 多くの人生を狂わせた…… 事件は終わった だが……まだ瑕は癒えてはいなかった 瑕が癒えるにはまだまだ…… 時間が要した 「久遠、何かあったら直ぐにオレを呼べ!」 「……え?……」 「約束しろ!」 「約束します!何かあったら必ず貴方を呼びます」 「お前は気に病まなくて良い 周りのことはオレが片付けてやる! お前は自分の信じた道を逝け!」 久遠は康太を見た そして深々と頭を下げた 康太は久遠の肩を叩くと、その場を後にした 「康太、この後どうしますか?」 「明日菜にも逢っとかねぇとな」 「………そうですね」 「夜に清四朗さんちへ行くか?」 「それが良いです これからどうしますか?」 「取り敢えず会社に行く」 康太は榊原と共に病院を後にした 駐車場に出ると一生が車の前で待ち構えていた 「どうしたよ?一生」 「………最近俺は留守番が多い気がする…… 俺、何かまずい事をやった?」 榊原は一生を後部座席に乗せると、康太を助手席に座らせた そして運転席に乗り込むと車を走らせた 「一生、おめぇは何もまずい事なんてしてねぇよ! でも何故留守番かと言うと、お前の気が今、何故か物凄く不安定なんだよ そんな奴を連れ回せば……闇に囚われちまう場合があるからな……様子を見ていた」 一生は心当たりがあるのか……黙った 「この前……ダンピールがお前のフリして現れたか、解るか」 「………解らねぇ……」 「お前が闇に近い存在だったからコピーしやすかったんだよ!」 「………え?………」 一生は唖然とした瞳で康太を見た 「………心は……いまだに……血を出して…… その時の記憶を……想い留めている…… お前を生かしたのはオレだ…… お前の止まった時計を動かしたのもオレだ オレは……罪ばかり作る…… 許してくれ一生……」 「何言ってるんだよ康太! 俺はお前に生かされて幸せだ!」 「………それでもな一生 お前の心は……今も血を流し疵付いている…… 闇はその翳りを見逃さなかった…… それが現実だ一生」 「………違う!違う!……康太……違う……」 「安定するまでお前は留守番だ」 「嫌だ……それは俺に死ねって言ってるようなもんだって……何故解らねぇ?」 「……お前を死なせたくないから……」 「お前と共に! それしか望んじゃいねぇ! そんな俺を置いて逝くのかよ!」 一生は叫んでいた 「オレといたくば、その気を安定させろ! 近いうちにオレはニューヨークに逝く…… それまでに……不安定な自分を何とかしろ! でねぇと一番に狙われるのは……お前だ! これは冗談じゃねぇ…… 相手は闇を操り人を操る事に長けた奴等だ 足を引っ張ると見做したら…… お前が何を言おうが一緒には逝けねぇ! 失敗は許されねぇんだ!」 康太のキツい言葉が飛ぶ 「………解ってる……解ってるよ康太……」 康太はもう何も言わなかった 失敗が許されないのは百も承知だった 打ち合わせ出来る訳ではないのだ 一発勝負の賭けなのだから…… 少しのミスも許されはしない そんなの百も承知だった 「一生、今夜は清四朗さんちへ逝く お前も一緒に来い!」 「………了解……逝けるなら俺は何処までもお前と共に逝く……」 「黒龍が入院した お前が黒龍の面倒を見ろ!」 「解ってる……兄貴の変わりは出来ないが…… 兄貴の看病とサポートはするつもりだ 兄貴はなんで………」 一生は黒龍の病状と言うのがイマイチ解らないでいた 「黒龍は撃たれたんだよ 人間が使うライフルで撃たれた 撃ったのは魔界の者か人間かは解らねぇ…… だけど黒龍が飛んでいた場所は明らかに崑崙山 人が簡単に出入りはできぬ険しい岸壁の上だ 黒龍が調印式の為に何度も八仙を尋ねているのを知っている輩による犯行なのは明白 まぁ、犯人は近いうちにあげてやる!」 「………撃たれた……何故……」 「それは犯人を捕まえねぇと解らねぇよ」 「………康太……」 「話はそれだけだ……」 「……解った……俺は俺しか出来ねぇ事をする!」 「それで良い! 聡一郎の事もちゃんと見てやってくれ」 「聡一郎?落ち着いてるけど?」 一生は聡一郎を思い浮かべて首かしげた 「体躯の瑕は治っても…… お前と同じで心の傷は治っちゃいねぇ…… って事だ……」 「………聡一郎は悠太と……どうなんだ?」 「………近いうちに……聞いてみるつもりだ……」 「………素直に……言うとは想えねぇけど?」 「だから悠太に聞くんだよ アイツはオレには嘘は言わねぇだろ?」 「………だな」 「まだまだ問題は山積みなんだよ一生 サクサク動いて貰わねぇと……蹴り上げるぞ!」 「……蹴られたくねぇからな……サクサク動くわ」 一生はそう言い笑った 会社の地下駐車場に車を停めると、康太は車から下りた 榊原が康太の横に来て警戒する 一生はエレベーターのボタンを押した エレベーターとドアが開くと康太と榊原と一生は乗り込んだ そして最上階へと向かう 真贋の部屋へ入ると力哉が忙しそうに仕事していた 「力哉、手が回らなかったら慎一を動かせよ?」 「康太、僕で足りる事なので構いません それより……秘書を……増やしたのですか?」 「おー!来てたか?」 「…………はい……新しい秘書が来てました」 「力哉、紹介するからな社長室まで一緒に来いよ!」 そう言い康太は真贋の部屋を後にした 力哉は康太と一緒に遅れる事なく着いていった 社長室のドアをノックすると…… 見た事もない美人がドアを開けた 「皆揃ってるか?」 問いかけると美人は「はい!準備万端!」と告げた 康太は社長室へと入って行くと、美人な女性三人の前に立った 「悪かったな召集して」 康太が言うと美人はニコッと優しく笑った 「紹介する!西村沙織、榎本未沙、如月愛美(あみ)だ! この三人は今日付で秘書として仕事をして貰う 如月が会長付けの秘書 榎本が社長付けの秘書 西村は飛鳥井康太の秘書となる」 康太が言うと………榊原が驚愕の瞳を康太に向けた 「………聞いてません…… 君の秘書は……力哉なのでは?」 「力哉はオレの秘書だ! それはこれからも変わりはねぇ! オレは飛鳥井家 真贋として、これからはもっと表に出ねばならない! よって真贋の仕事は西村がやる事となる!」 康太が言うと三人の中で一番の美人が艶然と笑った 「飛鳥井家真贋の秘書を致します西村沙織です 以後お見知り置きを!」 と言い深々と頭を下げた 榊原は「………力哉が……疵付きます……理由を言ってあげて下さい」と康太の腕を掴んだ 「言わなかったか? 真贋の仕事は西村が取り仕切る……と。」 榊原が信じられない顔をしていると……清隆が 「……その秘書は……斎王さんからですか?」と問い掛けた 龍ヶ崎斎王 政界に絶大な力を持つ政治家であり起業家 兵藤貴史の許嫁の父親だ 「そう。斎王からのプレゼントだ! そろそろ本格的に真贋の仕事をしろ……との事だ 斎王から飛鳥井の頭脳として秘書を貰った 使いこなすか腐らせるかは……瑛兄と父ちゃん次第……って事だ」 「……そうでしたか…なれば断れませんね! 使い熟せないなどと想われたら男が廃る!」 清隆は言い捨てた 瑛太も「実力の見せ所ですね!有難く動いて戴きましょう!」と嗤った お人好しに見えるが、この二人は仕事も出来るし頭も切れる…… 一筋縄ではいかない人物なのだ 康太の傍にいると甘い父と甘い兄に見えがちだが…… その実力は政界でも群を抜いていた 一生は「………力哉は……要らねぇ……って宣言したも同然じゃねぇかよ!」と怒りを露わにした 「西村、真贋の部屋に行くぞ! 父ちゃん達は仕事してくれ!」 康太はそう言い社長室を後にした 康太は真贋の部屋に入って行った 榊原と一生は康太を追って真贋の部屋へと入って行った 康太は美女を横に立たせて何やら話し始めた 榊原は焦れて「康太、話してください!」と大声を張り上げた 「伊織、今力哉はかなりの仕事の量を一人で熟している 明らかにオーバーワーク気味だ かと言って慎一は牧場もあるし家のこともある そんなに力哉の仕事の手伝いは出来ない そして飛鳥井の秘書は皆、出産や育児で仕事所じゃない 仕事を円滑に回す為に必要な人材を集めた それだけだ! 力哉は力哉の仕事がある! 西村は力哉の仕事の領域まで奪ったりはしない そう言う教育は受けて来てる 弁えずにしゃしゃり出たりはしない!」 康太はそう言い捨てた 「……康太……僕は……」 力哉は康太を泣きそうな顔で見つめた 「力哉、このまま続けたら倒れるぞ」 「……知っていたんですね……」 力哉は悔しそうに呟いた 「力哉は馬関係の仕事に専念して貰う 真贋の仕事は西村沙織、彼女が一手に取り仕切る これは決定事項だ!覆りはしない!」 「……康太……僕は……君の秘書でいて良いのですか?」 「当たり前の事をいうんじゃねぇよ! 力哉はオレの為だけにいる秘書であり家族じゃねぇか! 西村はオレのためだけに教育された秘書だ オレが受け取らねぇと……西村の存在理由がなくなる」 西村沙織 ミスユニバース日本代表の経歴を持つ彼女は本当に美しかった すらっとしたモデルバリのスタイルに美しい顔 榊原はこんな美女をそばに置くなんて…… と不安になる程だった 西村は榊原を見ると深々と頭を下げた 「伴侶殿ですね!宜しくお願いします 私は自分の任された仕事をします! 飛鳥井康太の真贋の仕事を一手に取り仕切らさせて貰います 私は康太の命令しか聞きません! 総ては飛鳥井康太の為だけ用意された存在なのですから……」 榊原は「………康太は知っていたの?」と問い掛けた 「その約束だからな……知っていた オレが総ての真贋の役務を継いだ時 サポートする秘書を贈ると言われたからな」 「その約束は………何時頃の話ですか?」 「斎王に逢ったのは7つ位の時だ その時に斎王はオレに約束してくれた」 「………では約束は守られたと言う事なのですね」 「そうだ! オレの秘書は力哉と西村の二人となる 力哉は馬関連の仕事を 西村には真贋の仕事を それぞれして貰う事となる!」 「………秘書が増えましたね 佐伯と榮倉の帰る場所が……なくなってしまいます」 「佐伯と榮倉が仕事に復活したら秘書課と言う部署を作る そこで手分けして仕事をあげていけば、今より効率は良くなる筈だ」 「……初めて……聞く事ばかりで……」 榊原は躊躇していた 「佐伯と榮倉、他の二人もオレには関係ない秘書だからな…… オレの秘書は力哉と西村 この二人は佐伯や榮倉が復帰しても関係ない存在となる 伊織は……どうする?秘書を着けるか?」 「………僕は良いです…… 君は……もう僕の膝の上に乗ってはくれないのですか?」 榊原が言うと西村が 「どんどん膝に乗ってやれ康太 私は真贋としての仕事をさせるのが役目 暇な時は力哉を手伝うし お前の伴侶の尻を叩いてやろう!」 「………西村……地をだすな…… お前は笑ってたら美人なんだから……」 康太はボヤいた 「顔が見たいなら写真でも拝んどけ! 顔でちゃほやする馬鹿な輩の相手は疲れる そんな為に私はここに来た訳じゃない!」 「飛鳥井建設の秘書になると妊娠するらしいぜ?」 「………そのジンクスは私には通用はしない! 結婚なら5度、妊娠も5度してるからな ついでに離婚も5度してるけどな!」 西村はガハハッと笑った 「………再婚しろよ……」 「面倒だ!外見しか見ねぇ奴しかいなかったからな…… 中身を見ねぇ奴は御免だ!」 康太は榊原に抱き着いた 「………伊織……お前が妬く相手じゃねぇから……」 「………見たいですね……」 「オレには伊織だけだ」 「僕も康太だけです」 抱き合う恋人を目にして……西村はピキッと怒りマークを作った 力哉はあまりの怖さに一生に抱き着いた 一生は力哉を抱き締めて 「力哉、お前はずっと康太の秘書だ……心配するな」と恋人に囁いた 「力哉、恋人とイチャこいてる暇に仕事片付けるぞ!」 西村に言われて力哉は一生を離した 「恋人タイムは還ってからにしろ!」 ごもっとも……と力哉は仕事を始めた 西村は力哉の仕事を手伝って片付け始めた 「真贋のスケジュールは力哉も把握しておいてくれ 馬の方のスケジュールは私も把握しておく!」 西村の言い分にすっかり力哉は打ち解けて、不安も払拭していた 康太は恋人の耳元で 「………どうしてオレの周りには男前の女しかいねぇんだろ?」とボヤいた 「………それは僕には解らなーずです」 「………んとに……怖いよな……」 「……ですね……」 康太がボヤくと西村は康太を睨み付けた 「今日は真贋の仕事はないから伴侶殿の膝の上に乗って人参になって、サクサク仕事を片付けさせろ!」 そう言われ榊原は康太を抱き上げて副社長室に連れて行った 一生はこそっと逃げようとして……… 「暇そうだな!」と掴まった そして死にそうになるまで扱き使われた…… 榊原も久しぶりに次から次へと来る仕事をやらされた感が否めなかった 仕事が終わる頃には疲労困憊 榊原は康太に「義父さんや義兄さん達も……大変だったのですかね?」と問い掛けた 康太は笑って 「だろうな……帝王学まで叩き込まれて英才教育された秘書なんて滅多といねぇだろうからな」とすげぇ秘書なんだと伝えた 「………帝王学………秘書じゃなく経営者向きなのでは?」 「いや、誰にも負けねぇ秘書として教育されてるんだよ それを使い熟すは……結構大変かもな しかも………全員………」 康太は言い淀んだ 「全員、何なんですか?」 「男前なんだ 榮倉や佐伯なんか可愛いレベルの男前なんだ」 「………みたいですね」 「しかも自分の容貌を熟知してるからな…… どの顔が効果的だとか知っていやがるからな…… 抗議に来る社員は秘書に見とれるだろうな……」 「どの子も美しいですね 僕は……少し妬けました」 「………姿形は美人かも知れねぇけどな…… その性格に難があるんだよ どいつもこいつも……下手な男よりも男前だ」 「………君の周りは結構男前多いですね?」 「…………呪いか?」 康太が悩んで言うと榊原は笑って康太の頬に口吻けた 仕事が捗るなら秘書は康太に何してても何も言わない 見極めて臨機応変に仕事が捗る様に動く 下手な秘書よりも才能がある動きに榊原も感心した 「飛鳥井はこれより更なる躍進を遂げる事が出来るでしょうね」 「……子ども達に遺す飛鳥井建設だかんな ビクともしねぇ屋台骨は必要だかんな」 「…………ええ……我が子に遺す為ですからね」 榊原は康太を強く抱き締めた 仕事を終えて飛鳥井の家に帰ると瑛太も清隆も、こってり絞られたのか疲れた顔をしていた 「………父ちゃん……瑛兄……」 想わず憔悴してる兄と父に声を掛けた 瑛太は「………顔は美しくても……」 清隆も「………中身は鬼でした……」と呟いた 康太は「……中身は誰よりも男前だもんな」と呟いた 清隆は「今までが少し……弛みすぎたのでしょうね 秘書を得て、捗る仕事に……そう感じました」と清々しい疲れだと笑った 瑛太も「そうですね……榮倉と佐伯の不在におざなりになってしまっていた感はありましたからね…… 二人が戻ってきたら秘書課を作られるのですよね? そしたら四人で更に協力し合って頑張るのが目に見える様です……… 皆……かなり男前な人達ばかりですからね……」 と苦笑した 「父ちゃん瑛兄……アイツ等はかなりキツい事をバンバン言うかと想う 自分の理想がかなり高い奴等でな どの会社へ行っても持て余された奴等なんだよ 斎王が色んな所のツテを使って、そんな奴等を教育した 西村沙織、榎本未沙、如月愛美は私生活でもあぶれて行き場を亡くしていた そんな彼女達に飛鳥井建設での仕事を用意するステージを与え、飛鳥井建設の秘書として生きる条件を付けて教育した 彼女達は飛鳥井建設に来る為だけに教育されたんだ だから父ちゃんと瑛兄が要らないって言うと…… アイツ等は行き場をなくす事になる だから……父ちゃんや瑛兄のやり方を教えてやってくれ そして名実共に秘書にしてやってくれ!」 康太は深々と頭を下げた 瑛太はそんな康太を抱き締めた 「男前の女性に尻に敷かれるのは飛鳥井の宿命なのでしょう! お前が謝る必要などありません 我が母も京香も皆男前故に、私達は慣れているから大丈夫です、ねぇ父さん」 瑛太がフルから清隆は恨みがましい瞳を瑛太に向けた 「今更、男前が一人や二人増えてもビクともしません それより仕事がやりやすくなりました 飛鳥井の影の大黒柱になって貰わねばなりませんからね、気弱な人では務まりません 父も……男前には慣れておる故……大丈夫だ!」 少し鬼だって 少し容赦なくなっても 少し怖くたって…… 大丈夫だと言った やはり瑛太も「飛鳥井には儚げと言う雰囲気の女性は来ないのですね……」とボヤいた 清隆も「………我等は尻に敷かれる体質なのだからだろう……」と情けなく呟いた 「………ですよね……」 瑛太は男前の妻を思い浮かべた そして口にする「私は妻を愛してますからね……」仕方ありませんね……と笑った 清隆も「私も妻を愛してます……」と盛大に惚気た その話を後ろで聞いていた玲香と京香は怒ろうとして……赤面した こんな所で言わなくても…… 赤面する玲香と京香が珍しくて康太は 「……乙女みたいやん……」と口にした 榊原は「ダメですよ言っちゃ……」と慌てて止めた 玲香と京香は康太の腕に烈をドテンッと渡して……自室へ還って行った 雷が落ちるかと想ったんだけど…… 全く……女性は理解不能である 康太は腕にドテンッと渡された烈を見て笑った 「お帰り烈!」 烈は淋しそうに康太に抱き着いた つい最近、兄達は幼稚舎に入園した 幼稚園には烈しか通わなくなったからだ 兄弟仲良く過ごしていたから…… 保育園に兄達がいないのは結構淋しいのだろう 烈は康太に抱き着いて泣いていた 「………烈は兄達と一緒に幼稚舎にはいけねぇもんな……」 榊原は烈を腕に抱き、烈に口吻けた 「烈、家に帰れば兄達はいます 君も直ぐに幼稚舎に通う事になります」 でも……烈が幼稚舎に通う頃には…… 翔達は初等科に入学してるだろう…… 二歳差は結構淋しい…… 榊原は烈を抱き締めた 康太が割り込んで榊原に抱き着いた 「烈にはとぅちゃもかぁちゃもずっといる」 烈はブーブー笑っていた 「かぁちゃ!」 流生が康太を見つけて走ってきた 康太はしゃがんで流生を抱き締めた 「寝んねしねぇのかよ?」 今日は会社にずっといた 授業時間を過ぎて来てから還って来たから、幼稚舎のお迎えは慎一が行った 5月からマイクロバスが出て、飛鳥井の家の前まで送ってきて貰える事になる それまではお迎えだった 流生はニコッと笑って「まっちぇた」と言った とぅちゃとかぁちゃを待ってたと流生は伝えた 榊原は烈を下ろした 烈は流生に抱き着いた 「れちゅ!」 すっかりお兄さんの流生は烈の面倒もちゃんと見ていた 音弥も太陽も大空も翔も、康太と榊原の所へやって来て抱き着いた 音弥は「ちゃみちきゃった」と康太に抱き着いた 「幼稚舎はどうよ?」 康太は子ども達に問い掛けた すると流生が「ぶちゅ!ちらい!」と怒って言った 「………伊織……」 「……解ってます……呼び出しもそんなに遠くないと覚悟が必要みたいですね……」 ぶちゅ……流生、それどこで覚えたんだよ……と康太は想う 「………オレも……瑛兄に呼び出しさせたからな……」 康太が当時を思い出し口にした 「………康太は一人で五人分のパワーありそうですもんね」 「………紛う事なきオレの子供だわ……」 血は繋がらないが、康太の魂を受け継いだ…… 子供だった 榊原は康太を抱き寄せ 「僕の子でもあるのですよ?」 「………二人の子だ伊織……」とラブラブな雰囲気を直ぐに出す 慎一がやって来て「康太、伊織、食事を取って来て下さい!」と告げた 「オレ、着替えたら清四朗さんちに行く」 「食事は?」 「………食っていった方が良いか……」 「ですね……着替える前に食事をしましょう!」 康太と榊原は立ち上がった 慎一は「一生、子ども達を部屋に連れて行って寝かせて下さい!」と言った 流生は「いやら!いっちょ!」と泣き出した 流生が泣くと他の子も泣き出して収拾がつかなくなる 康太は「清四朗さんちに連れてくしかねぇな……」と言った 榊原も「そうですね……」と離れない子ども達に口にした 榊原と康太は食事を取った 子ども達はプリンを出して貰って食べていた 烈は離乳食を食べさせて貰っていた 悠太が生徒会の用事を終えてキッチンに行くと、康太と榊原と子ども達がいて驚いていた 「康兄と義兄さん、今日は遅いのですね?」 ニコニコ言う悠太に康太は………話しかけた 「悠太、話がある近いうちに時間作れ」 悠太は康太を見て……「解りました!」と返事をした 「俺は何時でも康兄の都合に合わせます」 「なら明日、定時で学校を終えたら駐車場の所で待ってろ!」 「はい。康兄が来るまで待ってます」 悠太は穏やかな気を纏っていた 悠太の心は迷いはない 流生は「ゆうちゃ!」と名を呼んだ 「流生、プリン美味しい?」 「おぃちぃ!」 瞳を耀かせて言う流生を優しい瞳で見ていた 他の子も悠太に話し掛けて笑っていた 食事を終えると康太は立ち上がった 子ども達と共に寝室に向かう 子ども達はベッドの上で良い子して待っていた 私服に着替えて上着を羽織ると、榊原と康太は子ども達の上着を子供部屋まで取りに行き 上着を羽織らせて下へと下りていった 玄関に行くと一生と慎一が待ち構えていた 靴を履くと榊原が烈を抱っこして、康太は大空と音弥と手を繋いだ 流生と翔と太陽は仲良く一列に並んで待っていた 歩きで榊原の家へと向かう 榊原の家に到着するとインターフォンを鳴らした 『何方ですか?』 真矢の声がする 榊原は「伊織です」と来訪を告げた 『伊織!入ってらっしゃい!』と言うと真矢は玄関まで出迎えに行った 玄関を開けて待っていると榊原と康太と子ども達と一生と慎一が訪ねて来た 真矢は嬉しそうに皆を迎えた 応接間へ通されると清四朗が康太達を待っていた 「康太、伊織、どうしたのですか?」 「康太が明日菜に話があるというので来ました」 清四朗は表情を曇らせた 「………明日菜……に、ですか……」 「明日菜はどうしたよ?」 「………部屋にいます」 「笙もいるだろ? 呼んでくれよ!」 真矢は「解りました……」と言い部屋へ直通の電話を鳴らした 笙が電話にでた 『はい。』 「康太が明日菜に話があると来られてるの 下へ下りてらっしゃい!」 『………っ……康太が来てるのですね……解りました』 真矢は内線を切るとため息をついた 「義母さん、烈が保育園で一人なって淋しそうなんですよ」 親バカ全開で心配そうに話しを始めた 「そうなのね……ずっとお兄ちゃん達といたからね……烈は寂しがり屋さんなんですね」 そう言い烈を榊原の腕から貰い受けた 「………重い……もう……抱っこはキツいですね」 そう言うと真矢は榊原に烈を返した 清四朗は「……私も抱っこ……」させて下さい……と言おうとした 榊原は清四朗の足の負担にならない様に、清四朗の隣に烈を置いた 清四朗は烈を持ち上げようとした 腰椎を損傷した清四朗に無理をさせない為に、榊原はそれを止めた 「父さん……烈は自殺行為にしかなりませんよ」 「………烈……日々育っているのですね」 「他の子も日々育っています そのうち父さんを持ち上げて介護してくれと想います」 「………それは嫌です 私はこの子達の誇れる祖父でいたいのです!」 「なら今無理するのは辞めて下さいね」 「………解りました……伊織も厳しくなりましたね」 「当たり前です 康太が私財を投入して作る映画を転けさせたくはないのです! それには父さんは役者として生きて貰わねばなりません……辛い事を言ってるのは百も承知です……許して下さい…」 榊原は清四朗に謝った 清四朗は榊原の頭を撫でた 「伊織、今夜は泊まって行って下さい」 「子ども達は泊まる気満々です」 子ども達は清四朗のお膝に纏わり付いた 清四朗は康太の子ども達をそっと抱き締めた 真矢は祖父の顔をする清四朗の優しい顔に…… 張り詰めた息を吐き出した そこへ笙が明日菜と美智留と匠を連れてやって来た 慎一は美智留と匠を受け取ると、子ども達の傍へ連れて行った 康太は足を組むと明日菜を射抜いた 肘おきに肘を着いて、康太は不敵に嗤った 「佐伯、久しぶりだな!」 康太は敢えて『佐伯』と呼んだ 明日菜は康太に深々と頭を下げた 「父が生存中は……」と挨拶しようとする明日菜を 「んな、ご託は良い!」と止め 「明日菜、飛鳥井建設に三人の秘書が入社した!」と告げた 明日菜は驚愕の瞳を康太に向けた 「………三人も入れたのですか?」 そしたら………もう還る場所なんてない…… 飛鳥井康太の秘書でなくば……… 明日菜の存在理由はなくなる… 「………私が復帰するまで……待っては下さらなかったのですか?」 「お前……復帰、出来るのか?」 「………っ!!!!………」 痛い所を突かれた このままではダメになる……… 解っていても悲しみに囚われていた 「…………私は飛鳥井康太の秘書……」 「だな!オレが佐伯良人に託された秘書だからな!」 「だから!絶対に復帰します!」 「なら復帰しろよ! でも甘くはねぇぜ? 英才教育受けた秘書がいるんだからよぉ!」 「私だって! ………飛鳥井康太に英才教育を受けさせられた!」 「だよな?ならば互角の才能の持ち主だとしても…… アイツ等は負けねぇ絶対の精神力を持ってんぜ?」 「私だとて、負けはせぬ!」 「なら負けるなよ佐伯! おめぇは稀代の執事と言われた佐伯良人の子供 それ以下じゃ父が泣くぜ?」 「父を泣かす生き方などせぬ!」 明日菜は言い切った 「なら、匠を保育園で預かる手筈を整えて会社に出ろよ! このまま泣き暮らして燻ったままで良いなら……何にも言わねぇけどな 秘書に戻るなら相当の覚悟がいるぜ? 龍ヶ崎斎王が育てた秘書がいるんだからな……」 「そんな秘書、何人いようとも! 私は飛鳥井康太が育てたという自負がある! 私は負けない!絶対に負けない!」 明日菜は自信に満ち溢れ、生来の負けん気を発揮していた 佐伯良人が他界して泣き暮らしていた明日菜だった このまま……ダメになるかも…… 家族は皆、そう想っていた その明日菜の秘書魂に火を付けるのはやはり飛鳥井康太なのだ…… 康太は胸ポケットから写真を取り出すと清四朗に見せた 絶世の美女が三人、並んでいた 美人が三人並ぶと迫力だと清四朗は思った 「この方達は?」 「飛鳥井建設に入社した秘書達だ」 笙は父の手にする写真を覗き込んだ 「………何か美人過ぎて怖い……」 笙は呟いた 「笙、良い所を突くな! 怖いんだよコイツ等は! スキルがある分自信に満ちてるからな 揺るぎねぇ自信があるんだよ」 「………でしょうね……それが見て取れる写真です」 康太は一番美しい女性を指差した 「この女性が西村沙織、元ミスユニバースの世界大会で優勝した才媛だ 真贋の秘書になる為に飛鳥井に来た」 清四朗は「………美しいですね……」と口にした 榊原は「………鬼……ですけどね」とボソッと呟いた 「コイツ等三人は明日菜と気が合う! 全員、子供がいるからな 子育ての先輩としても相談すると良い 結構、大きい子がいるかんな」 「………三人とも……ですか?」 「そうだ……皆苦労して堕ちて底辺のから這い上がる……苦しみを知っている 容姿など武器にしかならねぇのを知っている そんな奴等を拾い上げて叩き込んだの龍ヶ崎斎王だ」 「…………龍ヶ崎斎王……お知り合い……なのですか?」 元華族の血を引く政治家 起業家としても有名な人物だった かなりの資産家で……人間嫌いて有名な人物だった 「斎王とは古くからの付き合いだよな?伊織」 康太はそう言うと悪戯っ子の様に舌を出して笑った 「ええ……気が遠くなる程の古くからの知り合いですね」 と答えた 康太は明日菜を見た 「で、明日菜、どうするよ?」 「復帰致します!」 と即答で答えた 康太は笑った 榊原はその為だけに三人の秘書を用意したのですか?と言いたくなった 「ならお前が出社して来たら、秘書課と言うのを立ち上げる事にする 秘書室と言うのを作ったからな普段はそこで役員の仕事の管理をしろ! 仕事は二人を使って手分けして熟していってくれ! 秘書室の責任者は榊原明日菜、お前だ!」 「………え?………康太……」 「故人を悼むなら良い 哀しみに囚われて本来の逝くべき道を踏み外すな! 道を踏み外せば……お前を切らねぇとならねぇ…… そんな事をオレにさせるな……… 良人を……逝かせてやれ……」 深い無償の愛だった 見守り護るだけではダメだと発破を掛けた そうして奮起せねば…… 明日菜の重い腰は上がらなかった 明日菜は立ち上がると康太に深々と頭を下げた 「………父を想う事こそ……父のためだと想っておりました 違いますね……父はどんな時でも主に仕える道を選んだ その娘の私が……こんなんでは……父は怒っているでしょう……」 娘は亡くした父を想った 佐伯良人と言う最期まで主に仕えた執事として生きた父を想った 主の元を離れたというのに…… 主が……駆け付けて来て亡骸に縋って泣いていた 父の功績をまざまざと見せ付けられたも同然だった その娘の私が…… 泣き明かしていては…… 父に顔向けなど出来ない 明日菜は胸を張った そして清四朗と真矢に「仕事を再開させて戴きます」宣言した 真矢は「やっと明日菜らしくなりましたね」と微笑んだ 「………義母さん……見守って下さってありがとうございました……」 「お前の母であるのです 見守るのは当然です」 明日菜は涙ぐみ……清四朗に向き直った 「我が主は伴侶殿の念願を叶えるために全力で駆けていく……… 私は飛鳥井康太に仕える者……全力でサポート致します 義父さん……嫁としては役不足ではありますが…… 笙と共に……いさせて下さい」 「明日菜、お前には美智留もいる、匠もいる 仕事は仕事、家では二人の子供の母として、笙を支えてやって下さい」 「……はい!」 明日菜は幸せを噛み締めた 「美智留、どうしたよ?」 康太は美智留を膝の上に置くと、何やら話し始めた 美智留は何やら康太に話していた 「そっか……お前も烈同様に淋しいのか……… でも美智留、まだ烈もいる匠もいるぜ お前はお兄ちゃんとして護ってやれ」 美智留は康太に「あい!」と返事して抱き着いた 美智留は明日菜に良く似ていた 笙に酷似しているのは太陽の方が近かった 太陽は笙の足元に近寄った 「ちょー」 「えっと……太陽?」 笙には太陽と大空の区別が付かなかった…… 「ちな!」 「幼稚舎の入園式、僕も行きたかったな……」 榊原は笙に携帯の写真を見せた 桜林学園の幼稚舎の制服に身を包む子供達が写っていた 「懐かしいな……この制服……僕の子も着るのですね」 代々、受け継がれて繋がる 笙はそれを実感して呟いた 流生は真矢に抱き着いた 「ばぁたん ちゅき」 甘えられて真矢は嬉しそうに流生を抱き上げた 音弥も真矢に抱き着いていた 太陽と大空はあまり真矢に近寄らなかった 笙は太陽を膝の上に乗せた 酷似した姿がそこに在った 笙の子供だと言われたら皆信じるほどに…… 真矢は「………太陽と大空は……あまりばぁたんの所へは来てくれないのです」と淋しさを滲み出した 康太は真矢の横に座ると耳元で 「この二人は自分の中の“血”を嗅ぎ分けているみてぇだな………義母さんに近寄ると離れたくなくなるから……近寄らねぇんだと想う」と伝えた 「……この二人には……解ると……言うのですか?」 「それが“血”だよ義母さん…… この二人は力がある 源右衛門の血が確かに繋がり流れている証だ そんな二人だから……義母さんの中の血が自分の中の血と同じだと嗅ぎ取っている」 「……康太……」 「そのうち……誰も教えなくても……この子達は自分の中の“血”が誰と繋がっているのか嗅ぎ取ると想う……」 それが親子の“血”だと……… 康太は哀しそうに呟いた 子供達は母の異変を素早く察知して康太へと走って行く 「「「「「かぁちゃ!!」」」」 康太に抱き着く子供達を、優しく抱き締める その姿はどこから見ても母だった 子供達の母だった 明日菜は「康太は本当に母の鏡だな」と呟き続けた 「私の母のお手本は康太、お前だ!」 「……明日菜……オレは男だぜ?」 「子供達にとって母はお前一人 だから子供達は康太の異変には敏感だ 既に母を護ろうと子供達は動き出してる」 「明日菜……」 「本当に康太は立派な母だ 私は貴方をお手本に頑張ろうと想います」 「………オレの宝物だかんな!」 康太は子ども達を抱き締めた 烈も小さいながらに母を護ろうと必死だった 一生や慎一はそんな康太を見守っていた 清四朗は一生を見ていた 父と名乗れぬ男を見ていた まるで野坂知輝の描く『熱き想い…』の主人公の様に…… 主に仕え……主のために生き 我が子の存在を感じ取っていたが父とは名乗れぬ……主人公のようだと……見ていた 久しぶりに遊びに来た康太を囲み、何時までも話は尽きなかった 子ども達は疲れ果てて眠りに落ちた 客間に布団を敷いて子ども達を寝かせた そして清四朗達はその横に布団を敷いて眠ることにした 一生や慎一達と共に清四朗と真矢は子ども達と共に眠りに落ちた

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