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第6話 蠢く闇 ①
康太は朝方早く、玄関に差し込まれた新聞を取り、応接間へと向かった
ソファーの上に座り、新聞を広げて事件の欄に目をやった
最近の新聞を賑わしているのは、現代版ドラキュラ……
と言われる体内の血を一滴残らず抜き取られた死体の記事で持ちきりだった
現代のドラキュラの仕業か
それとも猟奇的殺人なのか……
快楽殺人か……
憶測が憶測を呼び……
人々は訳も解らずに騒ぎ立て脅えた
「…………誘きだすつもりかよ?」
康太は独り言ちた
携帯が鳴り響き、通話ボタンを押すと
『起きてるかよ?』
不機嫌な声が響いた
「起きてる」
『出て来られるか?』
「あぁ、何処へ行けば良い?」
『家の前で待ってるから出て来い!』
康太は携帯を切ると、玄関へと向かった
まだ家族は起きていなかった
康太は玄関を開けて外へと出た
すると既に家の前に……ロールスロイスが停まっていた
助手席から男が下りると後部座席子ドアを開けた
康太が乗り込むとドアを閉め、男は助手席に乗り込んだ
スーッと静かに車は走りだした
車の中には兵藤と堂嶋正義が乗っていた
「お、正義も呼ばれてるのかよ?」
「この後に勝也さんを迎えに行くらしい……
一体……誰が呼んでいるんだ?」
「……あぁ……そう言う事か……」
康太は呟いた
「………この日本には……絶対に表に出て来ない存在がいる」
「………それは……どう言う……」
「倭の国の裏側は彼等が取り仕切って規律を守っている
決して表に出てはならない……人間が存在してるんだ……」
堂嶋は「その方達が……俺達を呼んでいると言うのか?」と呟いた
兵藤も「俺は正義に康太を呼べと言われただけだ……詳しい事は知らねぇよ」とボヤいた
康太は携帯を取り出すと榊原に「迎えが来たから行って来る」とメールした
『何かあったら言って下さい
何処にいても僕は迎えに行きますから……』
と返事があった
「愛してる伊織
オレは絶対にお前の所へ還る
昨夜も言ったとおり携帯は切らさせられるからな心配するんじゃねぇぞ」
『……解ってます…』
康太は朝早くから呼び出しが掛かるのは解っていた
だから心配しまくる榊原を一晩掛けて説得した
そして呼び出しが掛かるから逝くと寝室を出て来た
本当なら榊原は離れたくなかったのだ
だが……榊原は逝けない場所へ呼ばれてると言われれば……
諦めるしかなかった
運転席から『携帯の電源はお切り下さい』とマイクを通して話し掛けられた
謂われる通り康太は電源を切った
すると『携帯は後でお預かり致します。』と謂われ従うことにした
運転席と後部座席は防弾ガラスで遮られていた
重々しい雰囲気を見れば、言う事を聞かない訳にはいかなかった
『お帰りの際には必ずお返し致しますのでご安心下さい』
と丁寧に声を掛けられた
康太は果てを見て嗤っていた
車は横浜を突き抜け、途中で安曇勝也を拾って
都内も突き抜けた
途中で路肩に車を停めると助手席の男が下りて、目隠しを手渡してきた
携帯電話は電源が切れているのを確認してジュラルミンケースの中へ入れた
そして目隠しを確認して後部座席のドアを閉めて、助手席へと移った
康太は「オレに目隠しは……意味をなさないぜ?」と嗤った
「解っております
ですが場所を特定される訳にはいきませぬ故……ご容赦下さい」
「なら茶番に付き合ってやんよ」
助手席の男が息を飲むのが解った
車はぐるぐる回って位置を特定させず目くらましを使って走った
後を付けている車がいようとも、到底着いてはこれぬテクニックで走っていた
そして車は地図には載ってはいない地下へと進んだ
この先は私有地で猫の子一匹出入りは出来ぬ監視下に置かれていた
かなりの長い時間目隠しさせられ、かなり疲れていた
車から下ろされても目隠しは外させては貰えなかった
付き添われて歩かされた
康太は隣に立った者の手を振り払った
「オレに触るな!」
康太は言い捨てた
腕を掴んで無理矢理歩かせようとする男の手を振り払い叫んだ
「オレに触るなら……この世から消すぜ?」
唇の端を皮肉に吊り上げて、康太は嗤った
無理矢理力で押さえようとする男を
「止めなさい!本当に消されますよ?」と止めた男がいた
男は康太を離した
康太はまるで見えてるようにスタスタ歩いた
その目隠しは……穴が開いてるんじゃないかって……
勘繰りたくなる程、確かな足取りだった
無礼な男を止めた人間は康太の傍へと向かった
「………ご無礼を……」
「本当に無礼だな!
オレは家族と伴侶と仲間以外の奴に触られたくねぇんだよ!」
康太は言い捨てた
「………本当に申し訳ございませんでした……」
男は謝罪した
「オレを呼んだんだからな、高ぇぞ?」
「………ぼったくったりさならぬ様にお願い致します」
「オレを止めれるのは伴侶しかいねぇからな……」
康太はそう言い嗤った
「では無理難題謂われたら伴侶殿をお呼びいたします」
「最初から呼んどけば良いのによぉ……」
康太はぶつくさ言いながら…
とにかく歩いた
その会話を聞いていれば、顔見知りなのが解る
安曇勝也と堂嶋正義と兵藤貴史は、付き添いの人間に連れられて歩いていた
目隠しを取られたのは、何処かの部屋に入った時だった
その部屋は………かなり広大な部屋で……
何百と……テレビモニターが今もせわしく切り替わっていた
兵藤は想わず「……どこよ?」と呟いた
横浜アリーナの倍はあろう広さのホールに壁一面にテレビモニターが稼働している部屋を見て…
兵藤は唖然と呟いた
堂嶋正義も唖然としていた
安曇勝也は既に知っているのか…
立ち上がった男に、深々と頭を下げた
「ご苦労じゃったのぉ」
年の頃なら80はとうに超えているだろう人間は…
昭和時代の象徴とも謂われる天皇と呼ばれた存在と酷似した姿をして立っていた
安曇はその人の事を『閣下』と呼んだ
「御無沙汰しております閣下」……と。
「呼び寄せて悪かったな勝也…そして堂嶋正義、兵藤貴史……そして炎帝よ」
閣下と呼ばれし男は【炎帝】と呼んだから
兵藤は驚愕の瞳を康太に向けた
「で、オレ等を呼んだ理由は?」
康太は単刀直入に問い掛けた
「炎帝、人の世の闇が濃くなった頃から…
体内から血が抜き取られた遺体が発見され……
今は多発し始めている
その遺体は日々……人の目につくようになって来た
このままでは……確実にパンデミックが起こるであろう
それを阻止する必要があるから、主要な人物を集めたという訳じゃ」
「兵藤貴史はオレを呼ぶ為の…餌か?」
「違う、その男は朱雀であろうて!
朱雀なれば働いて貰わねばならぬからな
呼び寄せたのじゃ」
「……コイツが朱雀ってなんで知った?」
「十二天が一人、毘沙門天が教えてくれた」
「……毘沙門天か……動いてるのかよ?」
「当たり前じゃ!
十二天は人の世を護る神
倭国を護るが彼等が役目!」
倭国の風土に息づいた神だった
「あぁ、アイツ等はこの風土の中でしか生きられねぇ神だかんな……」
日本という島国で代々崇め奉られた神々だった
閣下と呼ばれた男は何故……
こんなにも神々に詳しいのか?
兵藤も堂嶋も……訳が解らず……ただただ唖然としているしか出来なかった
康太は「自己紹介と呼び寄せた本来の意味くらいは教えてやれよ!」と唖然としている二人のために口にした
閣下と呼ばれた男は、兵藤と堂嶋の直ぐ傍まで歩いてきた
「私は名はない
戸籍もないから名乗れはせぬが……
私が生きている意味は日本の秩序と平和を守る為
我等は双子としてこの世に生まれ落ちた
だが双子は忌み嫌われる存在
私はこの世から消され……表の存在の裏となる事になった
表の人間は既に他界した……
私もそんなに長くは生きられはせぬ……
我の跡は次代の存在が継いで逝く
その為に我等は双子でこの世に生を成す
歴代、双子の一人は『閣下』と呼ばれ裏の世界を取り仕切る事となる
それが私だ………」
この人は………何を言っているのだろう………
それ程に信じられない言葉だった
閣下は更に言葉を続けた
「今 倭国は危機に直面している
どうか……力を貸して欲しい!」
兵藤と堂嶋に閣下は頼んだ
兵藤は「俺に出来る事ならば……」と口にした
堂嶋も「……俺の力は微々たるモノですが……お力になれるのであれば、力添えさせて戴きます」と言葉にした
閣下はニャッと嗤った
その台詞は当然聞くのを解っていたみたいに………
「倭の国は恐怖に満ちておる
私が閣下となり裏から世界を支えてきて初めて直面する危機である
この世は変わった
敗戦下の何もない時代から、買えないモノは何もない……と言う程にモノが豊富な時代になった
だがモノが豊富になれば成る程に………
人々の人間性は地に堕ち……希薄になった
この美しき島国が……造られた世界に変わり……
変化を遂げて逝った
それでも日本国は美しい
私はそう信じたい……
だから護りたい
この国を護る為に私はいるのだから……
このままでは人はパニックを起こし、予測不可能な事態へと変貌を遂げて逝くであろう
なので、我等が介入せねばならぬのです!」
閣下は力説した
閣下は「皆さんに……アレをお見せなさい!」と声を掛けると
壁一面のモニターが1つのモノを映し出した
「今は情報で人を操れると言う……」
モニターには目まぐるしく記事が入れ替わっていた
まるでそれは………都市伝説みたいに、さも見て来たかの様に人々の恐怖心を煽っていた
「消しても消しても悪意は増長して、まるで見て来たかの如く記事は更新されていく……」
閣下は下のカウンターの数字を指差した
「この数……日本の国民の十人に一人は見ている計算になる……」
と毎秒ごとに上がっていく数字を目にした
康太は「………まるで……公開裁判に発展しそうな勢いだな……」と呟いた
隣の男が怪しい……
隣の男がもしかしたら?
多分隣の男かも?
きっと隣の男怪しい!
そうだ!隣の男が人の血を吸っている犯人だ!
人々の心の心理は誰が謂えば謂う程に波に乗る
波に乗った勢いは変化を遂げ続け……
やがてカタチを作り出してゆく
皆が求めているカタチになるまで時間は要らない
ほんの数分で隣の男はヴァンパイアに決定され
通報される
無罪の人間が先入観により犯罪者のレッテルを貼られる
そしてレッテルを貼る人間は何の罪悪感も抱かずに、それをやる
そうだと思い込ませ不安を煽るだけ煽って……
疑心暗鬼を生ませる
そしてこの機会に邪魔者は消されて逝く
と言う算段だ
何とも巧妙で悪意に満ちすぎた行為なんだ……
康太は「反吐が出る!」と言い捨てた
閣下は「吊し上げの対象となる人間はいち早く保護しているが……追い着かない……
………既に………自殺者も出ている……
なんとかせねば……この世の秩序は崩壊する……」
と苦悩を滲ませ皆に告げた
「情報の操作で今は人を惑わし操縦出来る時代だからな……」
と康太は呟いた
「炎帝、お前の見解を聞かせてくれ……
お前は今回の一連騒動をどう見ておるのじゃ?」
「血を抜かれ殺されてる方こそがヴァンパイアだとオレは想う
しかも砂になって消えてなくならない様に処理して………死体をさもヴァンパイアの仕業だと見せて工作している
ダンピールが一匹残らずヴァンパイアを殲滅する為の大義名分を作った
これは作られたシナリオだ!」
閣下は目を瞑り、康太の言葉を一言も聞き逃さぬ様に耳を傾けていた
「では炎帝……ダンピールとやらは一匹残らずヴァンパイアを殲滅して何をしようとしているのじゃ?」
ダンピールの存在理由はヴァンパイアの管理
ヴァンパイアを殲滅して消し去った後に……
ダンピールの存在理由などない
閣下は炎帝を射抜いた
「ダンピールこそが、この世で一番優れた人間だと……
思い込んだダンピールが主導権を手に入れた
ダンピールこそが陽の目を見れる日が来る……
そう想っているのか……殲滅理由に値しないヴァンパイアを狩り始めた
ダンピール協会は異議を唱える輩は一掃して、頭の奴の言いなりになる奴ばかりを幹部に据えた」
「………目(さがん)は……弾かれたのか?」
「奴は何の権利も持たない様に幽閉されていた
目を救いだし、逃がしたからな
協会の方は戦々恐々なんじゃねぇか?」
「なれば炎帝……次に狙われるのはお主か?」
「うちはとっくに狙われてるぜ?
赤いのに成り代わって家の中に入り込もうとしたり……
匿っているヴァンパイアを手に入れようと……
形振り構わねぇ攻防戦が繰り広げられてる」
「お主の家族は……大丈夫なのか?」
「オレの家族には太陽鏡(ひかり)と言う鏡を持たせてある
子ども達には護衛も付けて太陽鏡を持たせてある
そして何かあればオレが駆け付ける
指一本触れさせる気はねぇんだよ!」
「………私の方でも……警護の者を回しておこう……
それで……どう出るのじゃ?」
「ニューヨークに逝くしかねぇ
ダンピール協会に直々に乗り込んでやる
元々、ダンピール協会を作ったのはオレだ!
ダンピール協会にはガブリエルと共に行く予定だ」
「………ほほう……天使と共に逝くか……」
「アイツ等は目映い光は嫌いだろ?
ガブリエルは神が力を寄与したかんな
ルシファー並みの力は手に入れた筈だ
それはそれは目映い光に包まれているんだよ
オレも目が痛くなる程にな神々しいというのはアイツの事を謂うんだろうな」
閣下は康太の事を優しい瞳で包み込むように見ていた
「では飛行機の手筈を取ろう」
「飛鳥井康太じゃねぇ名前でな?」
「伴侶殿はどうする?」
「あれは離れない」
「で……あろうな
ではお主は女装するがよい
伴侶殿と一緒にラブラブで飛行機に乗るがよい」
「お!それ良いな」
「安曇と堂嶋、そして朱雀も別の名で飛行機の予約を取るとするか……
弥勒高徳……転輪聖王…に出て貰うしかないのぉ
術を掛けさせ倭国を出国出来る手筈を整える
暫し待たれよ……
総てが整ったら……我が使者が伝えに逝く」
「解った」
閣下は康太の傍まで歩いて来ると……
康太を優しく抱き締めた
「………私の役目は……これを持って終わる……」
「永かったな……」
「表は……逝ったのに……中々私は逝けなかった…」
「次代の存在は優しすぎるからな……
裏の仕事をするには……アイツは優しすぎる」
「でも裏に生まれた限りは……遣らねばならぬが宿命
やっと……私は……解放される
次に生まれるなら……私は私だと言える存在に生まれたい……誰かを好いて共に暮らしたい……」
「次は……そうやって生きれば良い……
お前は……誰かを愛して生き逝く幸せを知らねぇ……
次は、普通の人間に産まれる様にしてやる」
「嬉しい炎帝……
次が約束されるのであれば………
私は生まれて意味を成す
生まれた意味を問う……生を後悔はしておらぬが……
太陽の光を浴びて生きたいとは想う……」
「………長い間……ご苦労だったな……
だがお前はやっと解放される」
閣下の康太を抱く腕は震えていた
閣下に仕える者は……皆 見ないように顔を背けた
見ていない
見ていないから閣下……どうぞ……今は人らしく……
それが閣下に仕える者の想いだった
人の心も尊厳も自由も奪われて生きてきた
戸籍もなく
身分だけ与えられて……尊い人だと傅かれ……
何一つ自由にならぬ人生を送った
それが閣下と謂われた男の人生だった
「ダンピールはヴァンパイアを殲滅した後は……闇に生きる者達を遅い‥‥
人を襲うぞ!
既に闇に生きる者達が殲滅の憂き目に遭っている‥‥
我等こそが、この世で一番優れた人種
そう想っている奴等にとって人間など下等な生き物でしかねぇかんな
ヴァンパイアを殲滅して
許されたダンピールだけ生き残る世界を創る
それだけの大義名分でアイツ等はこの世を歪める
歪めて自分達の世界を築こうと……躍起になってる
死する者はこの世の建国のための礎になる
そんな歪んだ組織になっちまったら……
自分達こそ殲滅されるって想わねぇのかな?」
「…………想うのであれば留まれるであろう
想わないから発信した
発信したからには……彼等は我等の敵になった
各国から協定を結ぶ打診が来ている
勝也、お前のこの国の頭として
正義、お前は勝也の懐刀としえ
炎帝、朱雀、君達は替えのない存在として……
これから……各国の主要人と逢って貰う」
「………その主要人と逢うのは良いが……
これ以上時間を要するなら……伴侶を連れて来い!
オレはアイツが人として生きるのを放棄する方が怖いんだ!」
「解り申した
主要人と逢う場には伴侶殿もお越しいただこう
それでよいか?炎帝よ?」
「お!それで良い
とにかく伴侶と早く逢わせてくれ!」
「では、此処を出た後はホテルに向かう
皆様は……トラックの荷台に乗って戴きます」
「おー!構わねぇ!」
再び目隠しをされて部屋から連れ出された
そしてトラックに乗せられた
………と言ってもトラックの中は応接間バリの内装で窓はないが、寛げる空間はあった
窓がない分、目隠しは取られて、まぁまぁ快適と謂えば快適だった
そして移動する
何処か感からぬ処へ
連れて行かれた
榊原は大学を終えて駐車場へと向かった
着いてきているのは知っていた
だが……仕掛けて来る気配がないうちは、此方も手出しはするつもりはなかった
慎一が「……伊織……」と名を呼んだ
一生が榊原を隠す様に前に立った
男達はゆっくりとした足取りで近付いてきた
黒いスーツに身を包み、黒いサングラスをした黒ずくめの達が榊原に近付こうとした
一生が男達に「近付くな!」と威嚇した
一人の男が榊原に向かって深々と頭を下げた
「飛鳥井康太様の伴侶殿で在られますか?」
「そうです。」
「康太様がお待ちです
ご一緒に来て貰えませんか?」
男が言うと慎一が「康太の使いだと信用できるモノもなく?」と用心して言った
男は携帯電話を榊原に差し出した
「どうぞ!ご自分で確かめ下さい」
謂われ榊原は携帯を手にした
「……もしもし……」
榊原が問い掛けると
『待たせたな伊織!
これ以上待たせるとお前が壊れるかんな
お前を連れて来いと言い付けた
車は慎一に預けてお前はソイツ等に連れられてこい!』
「………康太……解りました……今行きます!」
電話を切ると榊原はキーを慎一に渡した
そして男に「直ぐに連れて逝きなさい!」と迫った
一生は「本当に康太だったのか?」と問い掛けた
「康太でした
僕は行きます!後はお願いします」
そう言い榊原は男達と共に行くことにした
一生は榊原に着いて逝こうとすると……遮られた
「逝くは伴侶殿お一人に御座います
貴殿達はご遠慮願います」
一生は男達を睨み付けた
「………旦那に何かあれば……黙ってねぇからな!」
「伴侶殿になにかあれば炎帝様が黙ってはおられませんよね?毘沙門天様…」
「だな、赤いの心配するな
此奴等は本当に炎帝の使いで来てるんだからな」
毘沙門天に言われれば一生は引くしかなかった
一生と慎一は引き下がった
男達は榊原を後部座席に乗せると、自分達も乗り込み車を走らせた
慎一と一生はその車を見送り……
車が視界から消えると一生は毘沙門天を見た
「俺に何を遣らせたくて残ったんだ?」
「俺と共に動いて貰いたい」
「俺だけ?」
「そうだ!慎一は使うと炎帝が怒る」
家の事や子供のことは慎一が一手に引き受けている
いなくなれば困る
一生は「なら何処でも連れて行け」と笑った
慎一の目の前から毘沙門天と一生は消えた
慎一は飛鳥井の家へ、榊原のベンツに乗り込み帰って行った
この日榊原は呼ばれる予感があったのか
『僕が還る前に呼ばれたら、慎一が車を運転して還って下さいね』と言った
だから一生と慎一は榊原の車の後部座席に乗り込んで大学へと向かった
飛鳥井の家へ還ると康太の秘書の西村沙織が待ち構えていた
「康太は?」
「朝早くから彼は何処かへ逝かれました」
「………その所為なのか?
康太の所在を問う電話が後を絶たない」
「俺も居場所は解りません」
「解っておる!
なら還るとする」
「…………西村……お前は本物?」
一生の偽物が出て来た経緯を考えれば……西村だとて信じがたかった
「………本物……でなくば私は……何者だと?」
「………闇……のモノ……」
「闇かぁ……それは美味いのか?慎一」
「………多分腹を壊すと想います」
「なら興味もないわ!
康太のスケジュールを調整したい
連絡が付かねぇからな来ただけだ」
「そうでしたか……」
「康太にそう言っといてくれ!」
そう言い西村は帰って行った
慎一は息を吐いた
「………人間不信になりそうだな……」
そう呟いて慎一は飛鳥井の家へと入って行った
『慎一 お主に闇が近付くなら我が成敗する故
そんなに身構えずともよい
あれは……康太の秘書故……一筋縄では逝かぬ
闇も……御免だろうて……だからアレは警戒せずともよい』
弥勒の声がした
慎一は闇も御免とは……酷い事を……と思いつつ笑った
「弥勒は康太の傍にいなくて良いんですか?」
『覇道は結んである
覇道が切られたら……慌てるが……伴侶殿も傍に行った事だからな、それ程警戒はしておらぬ』
「弥勒、ありがとうございました」
『甘露酒を期待してもよいか?』
弥勒はそう言い笑った
「では落ち着きましたら窺います」
『楽しみにしておる』
そう言い弥勒は気配を消した
こう言う時、主に護られると感じて慎一は嬉しかった
榊原は目隠しをされて車に乗せられた
康太に聞いていたから解っていたが……
目隠しをされるという事は本当に……
見えない分不安が募った
運転手が「康太様は異動されましたので、然程時間が掛かる事なく到着致します」と状況を伝えた
榊原は何も言わなかった
寡黙な男は目隠しをして息さえ止めているんじゃないって想える程に静かに佇んでいた
車はスムーズに進み、湾岸の国の所有地へと入って行った
榊原は目隠しを取られた
「伴侶殿、我等と共にお越し下さい
これから逝きます所は世界各国の要人が集っております故に、警備も厳重になっております」
榊原は促されるままに車を下りた
車から下りると男達が榊原を取り囲んだ
「御側を離れないで下さい
貴方に何かあれば我等は炎帝様に消されます」
男達はそう言い榊原を護って歩いた
幾層にも張り巡らされたゲートのチェックを潜って入っていく
上に行けば逝く程に警備は厳重になり、何度も呼び止められた
そしてかなりの時間を要して、榊原は連れられて逝った
男達が立ち止まると、ドアを開けた
「お入り下さい」
そう言われ部屋に入ると、康太が飛び付いてきた
「康太……」
榊原は康太を強く抱き締めた
康太は男達に「ご苦労だったな」と声を掛けた
男達は「確かに伴侶殿をお連れ致しました!」と深々と頭を下げ、去って行った
康太は部屋に入ると鍵を掛けた
「大変だったろ?」
「………目隠しをされましたのは少しだけ恐怖でしたね……」
「場所の特定は避けねばならねぇからな……」
「無事でよかったです……」
榊原は息を吐き出した
「此処は……何処なのですか?」
「此処か?それは誰にも解らねぇ場所だ
なんたって地図に載ってねぇからな
各国の要人や来賓をもてなす為に建てられたと言うのは名目で、此処は秘密裏に何かをする為の建物だ
高級ホテルよりよ豪華な調度品と料理で、もてなして貰えるらしいぜ!
だけど勝手には動けねぇってのだけが不便だな」
「この部屋は?」
「俺の控え室だ!
正義や勝也や貴史の控え室も隣にあるらしいけどな
勝手に部屋から出られねぇらしいからな解らねぇ」
「部屋の前に……警護の者が立ってました」
「だろうな、オレは伊織さえ連れて来て貰えれば言う事なんてねぇよ!」
「康太……」
康太は背伸びをしてキスを強請った
「………監視カメラ……ありませんか?」
榊原はキスを強請る康太に問い掛けた
各部屋の前にSPと見られる男達が立っていた
部屋の中だって見張られているんじゃないかって……榊原は想った
「あるだろ?そりゃ……
だけどエッチしなきゃ大丈夫だろ?」
康太はそう言い笑った
榊原は屈むと康太の唇にキスを落とした
そして抱き上げると抱き上げてソファーへと向かった
「………僕の康太……」
榊原は康太を強く抱き締めて……
「愛してます」と囁いた
康太は榊原の胸に顔を埋めた
榊原は康太を強く抱き締めた
「伊織の匂いだ」
康太はソファーに座った榊原の膝の上に座って、胸に顔を埋めて匂いをかいだ
榊原は康太を強く抱き締め
「…君は………炎帝様と呼ばれましたね……」
ふと想った疑問を口にした
「あぁ、お前が青龍だと知ってるって事だ」
「魔界と繋がりが?」
「魔界と繋がりはねぇけど……
古来の神と契約をしてから聞いてたんだろ?
だからオレが炎帝でお前が青龍だと知ってる
兵藤貴史が朱雀だと解ってるなら呼び出した
貴史がいる理由はそれだ」
「……だから毘沙門天がいたのですね」
「毘沙門天、お前の所へ行ったのか?」
「ええ、一生と消えました」
「何か動いてるのは知っていた
もうじき……日が暮れる……
下手に動いたらやべぇのに……あの馬鹿っ…」
やっと体躯が治ったばかりなのに……
康太は毘沙門天を想った
その時、康太の前に十二天が一人 帝釈天が姿を現した
「炎帝 案ずるでない
毘沙門天も赤いのも……無理などさせぬ」
「そうしてくれ……」
「今 梵天が同行した
我等 十二天は総てを掛けておる」
「闇だけは気をつけろ!」
「………解っておる……」
帝釈天は康太をそっと抱き締めて………消えた
康太は天を仰いだ
「………ガブリエル……加護の光を差し込ませてくれ…」
そう呟いた
すると目の前に九枚羽を持った熾天使が姿を現した
「お呼びですか?炎帝」
「人の世の影を薄くしてくれ……」
「また……無茶を言いますね貴方は…」
「蠢く闇を大人しくさせるには……オレは少し力不足だかんな……
完全に闇を調伏出来るのは……冥府の王……だけだからな」
冥府の王はこの世の総ての闇を自由自在に操る力を備える
この世が闇に覆われない為に神が与えた、神と同等の力を持つ
オリンポスの十二神のハデスの力を総て継いだのは皇帝閻魔 ただ一人……
ガブリエルは「………皇帝閻魔に頼まれないんですか?」と問い掛けた
「人の世のゴタゴタに冥府の王は関与してはならぬ……
冥府は中立にて何処への関与もしてはならぬ世界
故に……皇帝閻魔は出すわけにはいかない」
「………そうでありましたね……」
冥府の王は中立であらねばならぬ
その立場を私情で動くわけにはいかぬ
誰よりも父を想う……重い言葉だった
「解りました
加護の光を人の世に向けて送り続けます」
「人の世に……神々が集結してる
解るか?ガブリエル……」
その他の神々が……この島国に集結してる
それは……天界にいても解っていた
各国の首脳陣は各々の地の神を同行してやって来ていた
国を護る為に乗り出した、と言っても過言ではない
「…………解ります……強い力が一所に集結している
その目的は何かと……張っていたら貴方が私を呼んだ」
「神々を集結させて……闘わねぇとな
我等は闇のもずくになるしかねぇからな……」
「………神々は……炎帝、貴方が来てるのは知っているのですか?」
「どうだろ?」
「多分………知っていると想います
今の貴方の気は……昔と比べものにならぬほどに大きい………」
「冥府の体躯は……ほぼ取り戻したからな……」
康太はそう言い笑った
「“神”も人の世に加護の光を送れと謂われてます
人の世を護るが我等の務め!
闇になど負けぬ力を送り続けます!」
「ガブリエル……これ以上……人の世を狂わす訳にはいかねぇからな……」
「解っております!では天界に向かいます!」
そう言いガブリエルは消えた
榊原は康太のつむじにキスを落とし
「康太、今の僕はかなり無敵です」と囁いた
康太は顔を上げて榊原を見た
闇になど負けぬ愛がある
榊原は満ち足りた笑みを浮かべて、見上げた康太の唇に口吻けを落とした
「伊織……愛してる……
この命よりも‥‥お前が大切だ」
「僕も君がいてくれれば、それで良い」
「………お前の愛があるからな………
オレは負けねぇ‥‥ぜってぇに負けねぇ!」
「ええ、僕も負ける気はしません!
僕は君を止める唯一のストッパーです‥‥
好きに動きなさい、僕が止めるその時まで止まらなくても大丈夫です」
「伊織……共に逝こうぜ」
それしか望んじゃいない
昔も今も……
ずっとずっと……共にいさせて……
それしか望んではいなかった
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