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第10話 韜晦

康太は携帯をずっと見ていた ホテルの下のレストランで軽食を取っている間中 康太はずっと携帯を触っていた 「康太、取り敢えず食べなさい」 榊原が言うと康太は携帯を榊原に渡した 榊原はリアルタイムで入ってくる情報を目で追っていた 『レストランのお前達発見!』 そう連絡が入ると、榊原は携帯を康太に渡した 康太は携帯に目を向けただけでリアクションは取る気配はなかった 『入り口付近の座席にいるぜ!』 『窓際付近の座席』 『お前達の真後ろにいるからな!』 『…空いてる席に適当に座った!』 それぞれ連絡が入る 康太は正午少し前までレストランで過ごした それぞれ連絡が入った後は誰も動かなかった 「康太、お天気が良いのでまた公園で過ごしますか?」 榊原が言うと康太は「行こうぜ!」と立ち上がった 康太と榊原がレストランから出て行くと、それぞれレストランから出て散らばった そして各々が打ち合わせ通りのポジションに着いた 緑川一生、兵藤貴史、堂嶋正義は、合図が来る時を待っていた 合図が来るまでは散らばって、合図で集まる その合図は携帯は使わない 康太と榊原がキスをする ……それが合図で動き出す事となっていた キスが挨拶の国だからこそ出来る合図だった 康太は正午になり天を仰いだ 正午になると一番強い祝福の光が差し込む事になっていた 康太はビルの上を見た するとガブリエル自ら光を届ける為に、ビルの上に浮いて光を見守っていた 康太はそれを見て微笑んだ 援護射撃は多い方が良い 康太は背伸びをすると榊原にキスを強請る瞳を向けた すると榊原は康太を抱き寄せて口吻けた それが合図で……動き出した 康太は榊原から離れると歩き出した 晴天の光が眩しい日だった ダンピールはヴァンパイアと人の血が流れているだけあって陽の光は平気だった 十字架も聖水もニンニクも、ヴァンパイアの弱点と言われるモノは、人間同様平気だった だから尚更やりにくいのもあった 人と同等の癖して、ヴァンパイア並みの生命力があるわけだから…… 自分達は人間よりも勝っているのだ… と勘違いしても……仕方ないのか? 目(サガン)は康太を待っていた 「何処までも貴方と共に!」 目は康太に傅くと敬意を示した そして立ち上がり康太の前に立った 「ではお願い致します!」 目は前へと歩みを進めた その後ろに康太と榊原 康太と榊原の後ろには仲間の緑川一生と兵藤貴史が後を続いた その後ろには堂嶋正義が遅れる事なく後に続いた 堂嶋正義は日本の総理大臣 安曇勝也の命を受けて同行している 表向きは安曇勝也の命で 総ては日本の未来の為に『閣下』の命で、見届ける為だけに使わされた使者だった 堂嶋正義は逐一閣下に連絡を入れた 日本の未来の為に…… 責任重大な責務を任命された堂嶋は…… 弁護士に遺書と財産の名義の書き換えを依頼した 自分がいなくなっても幸哉が困らない様に…… と堂嶋は遺した愛だった 幸哉が聞いたなら憤慨して怒るだろう 『そんな事をやる暇に生きて帰って来てよ!』 と泣いて訴えるだろう 泣かしたい訳じゃない 大切にしたいし 愛してやりたいのだ 本当なら死ぬまで大切にしてるつもりだった だが………仕事柄……そう言う訳にもいかない事の方が多々とある そうなった時に幸哉が困らない様にしてやる それしか出来ないから……堂嶋は遺す事を考える それも堂嶋正義なりの愛だった 後れを取らず堂嶋は後を着いて行った 目は止めにやって来る職員を薙ぎ倒して、強引に進んだ 「目 恭輔!そんな事をして処分が下らないと想うなよ!」 吐き捨てられる台詞に目は冷笑を浮かべて 「処分が下る前にダンピール協会があれば……の話だな」 と言い、職員を呪縛して行った 目はかなり長く生きていた ダンピールはヴァンパイアの血を引いているだけあって長命だ だが、その命……永遠ではない 人より長生きするだけで、死なない訳ではない だが目はまだ、その命は尽きていなかった それは自分には生かされる死命があるからだと想っていた まさに……ダンピールの存続を掛けた分岐点に来ていた 目は想う この日のために生かされていたのですか? と想う ならば……この命も惜しくはない そう思った 目は康太に指一本触れさせる事なく、歩みを止めようとする職員を薙ぎ倒して進んだ そして目指すは協会で一番偉い存在がいる部屋 ダンピール協会 会長室 目は脇目も触れず進んで逝き、歩みを止める事はなかった うようよ先を阻む輩は後を絶たず…… 弱点がないだけに厄介な奴等だった それでも目は康太に指一本触れさせる事なく、歩を進めた ビルの中が一気に臨戦態勢が敷かれた 警戒音が鳴り響き、重装備をした兵隊が投入され姿を現した 「これより先は一歩も通さぬ!」 兵隊はそう言い捨て、道を塞ぐ壁となった 康太は兵隊達の前へと出て行った 榊原が止めようと腕を伸ばしたが……… 康太を掴まえる事は出来なかった 「ダンピール協会には忌日がある筈だ!」 康太は言い捨てた 兵隊の中の一番偉い奴が 「ほざいてろ!」と聞く耳を持たず襲って来ようとした 「ダンピールを生かすは神か、悪魔か……」 繰り出される拳から避けて、康太は語り始めた 「うるさい!」 「ダンピールを創ったのは、一人の男だった」 「聞きかじった蘊蓄(うんちく)か?それは?」 兵隊のトップは康太を揶揄した 「ダンピール協会を創ったのはオレだ」 「………可哀想に……とうとう気が触れたか?」 兵隊達は爆笑した 「信じとけば良かったな……… まぁ、言い分は魔界の閻魔が聞いてくれる!」 康太はそう言うと始祖の御劔を手に出した 兵隊達は……その御劔から燃え上がる焔に…… 笑いを止めて真剣な顔になった 「オレの歩みは誰にも止められねぇ! 止めるなら……昇華してやんぜ!」 「…………お前は誰だ……」 「オレか?オレは今は人だ!」 今は………なら前は何なのだ? 聞きたいが言葉にならなかった 「ダンピールと言う存在を創ったのは、オレだ! その頃無差別に人を襲っていたヴァンパイアに匹敵する存在を生み出す必要があったからな お前達ダンピールはヴァンパイアを狩る為のみに生かされて秩序を護って来た筈だ!」 兵隊のトップは武器を下ろした 「それを証明なされますか?」 「あぁ、ダンピール協会の会長室にはオレの肖像画が掛かっている 歴代の会長が邪魔だと下ろそうとしたらしいけどな、あの絵には呪文で護られているんだよ! 何人足りとて………あの絵には触れねぇ! ダンピール協会 会長室に逝けば、見られる どうするよ?此処で“無”になるか……… 正しい道に軌道修正して逝くか 決めるのはお前等、ダンピールに在る!」 康太は迫った 力で従わせるのは容易い だが、それではダメなのだ 自分達の手で導き出した明日でなければ、歩み出せないのだから…… だから康太は選ばせた 兵隊のトップは覚悟を決めて、康太に声を掛けた 「会長室に逝けば……総ては明白になるというのだな?」 「そうだ!会長室に掲げられている絵を見れば 今のオレが描かれている筈だ! オレが今日、この日に来る絵がある筈だ」 ここまで言われたら……聞くしかなかった だが、康太は更に畳みかけた 「お前等ダンピールは今の現状をおかしいと想わなかったのか? 殲滅に値してないヴァンパイアまで狩り初めたこの現状に異議を唱える奴は誰もいなかったと言う訳か?」 康太が問い掛けると開け放たれた部屋の中から 「異常に想っている奴は沢山いるよ!」と声が聞こえた 「なら何故正さない?」 「反対する奴は総て排除されれば……口を噤む奴ばっかになるのは当たり前じゃない!」 部屋の中から出て来たのは……… ボッキュッボンのグラマラスなお姉さんだった 「なら少なくともお前は、このダンピール協会は変になったと想っていたと言う訳だ?」 「だね!ダンピール協会でかなりの実権を握っている目を排除した頃から……狂って来てるとは想っていたわ!」 「で、お前は、何もしなかったのか?」 「役を持たない職員に何が出来る?」 女は鼻で嗤った 「時として力は合わされば暴動になると想うが?」 「暴動になる前に……口を封じられた奴なら沢山いたわ 私達だって………何もせずに言いなりになっていた訳ではない!」 「ならシンディ、オレを会長室へ連れて行け!」 名を名乗った訳でもないのに…… 名を呼ばれてシンディと呼ばれた女は瞠目した だが直ぐに自分を立て直して嗤った 「良いわ!会長室へ連れて行ってあげる! お前等、引きなさい! 総ての責任はシンディ、パークが持ちます!」 シンディがそう言うと兵隊達は道を開けた コツコツ、シンディのハイヒールの音がする 「では、お願いします」 シンディはそう言うと先頭を歩いた 康太はその後に続いた 「シンディ、オレが来るのが解っていたか?」 「会長室にある絵にはルーン文字で封印されている 何人なりとも触れぬ絵は……忌日を遺した それが読める人間なら……このタイミングで来るのは……天使か悪魔か………どっちかよ!」 「で、お前はどっちだと想う?」 「……………悪魔……貴方の焔は禍々しい…… 地獄の……炎と変わりがない」 「良い所を突くけど、オレの焔は特別だ! 地獄程度の焔と一緒にすんな! 後、禍々しいのは総てを“無”にする焔だかんな!」 「…………貴方は……人なの?」 「だろ?オレだって死ぬさ」 「…………そう………残念」 シンディは早足で歩いて会長室へと向かった そして重厚な扉の前に立つと、ドアをノックもせずに開けた 部屋の中は………誰もいなかった 目は会長の姿が見えずに探した シンディは「あの方なら……お逃げになったんじゃない?」と意図も簡単に言い捨てた シンディは部屋の中に入っていって、部屋の中央にある絵の前で止まった シンディはその絵を見た 目も……久方振りにその絵を目にした その時は気付かなかったが……… 今日、この日の飛鳥井康太が描かれていた 「流石、鷲尾風月の絵はすげぇな!」 康太は自分の絵を見て呟いた 「ダンピール協会を創ったのはオレだ! 創ったのには理由(わけ)がある 遥か昔、ドラキュラ伯爵の血を引くモノが人を狩る様になった 世界各国……ドラキュラ伯爵の恐怖でパンデミック一歩手前となった そんな時……オレは啓示を受けてダンピールと言うヴァンパイアに匹敵する存在を創った それがお前達ダンピールだ! この言葉はこの絵の忌日に記してある それらを護らぬ時、ダンピール協会に再び現れる そう記したからには軌道修正を図らねぇとな!」 康太はそう言い絵の前に立った シンディは驚きつつも、やはりと……納得した 目は康太の前に傅いた 兵隊達も会長室に逝き、その光景を目にして…… 目(さがん)同様に傅いた 「逃げやがったか……厄介な事になったな……」 康太は会長室を見渡して……呟いた 兵藤は「これからどうするのよ?」と問い掛けた 「………ダンピール協会の軌道修正を図る 逃げた奴は永遠にダンピール協会から追放する! それを世界各国のダンピール協会に流す! 聞かねぇダンピール協会は……… 頭を挿げ替えれば良い! ダンピール協会は真の目的を失ってはならない! ヴァンパイアを総て殲滅して、上に立とうとも 最高位には立てる訳じゃねぇ 自分達の本来の目的を忘れて、やる事じゃねぇ! ダンピール協会はヴァンパイアと人間との共存を図る為!それを忘れるな!」 目は「我等ダンピール協会は本来の目的の為に生きるべきだ!」と康太の意思に賛同した 康太はシンディの方を見た 「廉と言うダンピールはいるか?」 康太が言うとシンディは顔色を変えた 「…………ヴァンパイアと契った者ですか?」 「そうだ、そいつを渡せ! その為だけにオレはニューヨークくんだりまで出て来たんだからよぉ!」 「………彼を……どうなさるのですか?」 「聞かねぇ方が身のためだ! 総ての秩序を乱した切っ掛けが廉なのだとしたら? オレは総ての要因である廉を処分する必要があると言う訳だ!」 「…………廉は……もうダンピールとして生きられない! ヴァンパイアと契ったダンピールの免疫は低下して…… ちょっとした傷でも……死に至る」 「だから?」 「………っ!!………」 シンディは言葉を噤んだ 康太は目に「廉を連れて来い!」と命令した 目は兵隊に「地下の牢屋にいる廉を連れて来なさい!」と命令した 兵隊が行こうとすると康太は「待て!」と兵隊を止めた そしてシンディに向き直り 「地下に行っても廉はいねぇよな?シンディ」と声を掛けた 目は「………どう言う事なんですか?」と康太に問い質した 「リンチで瀕死の重傷になった廉をシンディは連れ出して部屋で手当てをして隠して住まわせている」 シンディは驚愕の瞳を康太に向けた 「…………やはり……悪魔じゃないか……」 シンディは呟いた 康太は唇の端を吊り上げて嗤った 「悪かったな!規律は規律だ! 見逃せば、それが補創れとなる! 小さな補創れでも放っておけば驚くほどの破れとなる だからな小さな事でも見逃せねぇんだよ! シンディ、廉をオレの前に連れて来い! 下手に隠し立てするなら……今度はお前を死んだ方が楽だと想う程に追い詰めるしかねぇぞ!」 シンディは悔しそうに唇を噛むと、何も言わずに部屋を出て行った 榊原は「康太……怪我はないですか?」と声を掛けた 「大丈夫だ伊織 でも……逃がした魚は……結構大きいかもな」 「…………え?……」 ダンピール協会の会長だった男を逃がした その意味した言葉だった 「………どうしますか?追いますか?」 「多分、追うのは無理だろ? 今回はダンピール協会の軌道修正に絞る 他まで手を出せば足元を掬われる」 「………ですね……でも無茶は辞めて下さい」 「解った……」 康太は榊原の手を掴み握り締めた 榊原は康太の熱を感じられて……息を吐き出した そこへシンディが廉を連れてやって来た 「成沢廉だな?」 康太はフルネームで廉を呼んだ 廉は覚悟を決めた瞳で康太を見て「はい!」と答えた 「怪我はしてねぇか? これから遠くへ行かねぇとならねぇかんな 怪我してたら辛い長旅になるからな」 「………怪我はしてません…」 「そっか、なら貴史、頼むわ」 康太が言うと兵藤は廉の前に立った そして胸ポケットから何やら取り出すと、廉の腕を掴んだ そしておもむろに袖を捲り上げると、消毒をした その腕に注射器を突き刺した 中の液体をやおら注入した 廉は「………何を………」と言い……倒れた 倒れた廉を一生が支えた シンディは「廉に何をした!」と叫んだ 「黙れ!成沢廉と言うダンピールはこの世にいない ………と言う事だ!忘れろ!」 シンディは……泣きながら……床に崩れ落ちた 康太はシンディの耳元で何やら囁いた するとシンディは驚愕の瞳で康太を見た 「諦めろ!シンディ 廉と言うダンピールの名前は未来永劫、抹消する! その軌跡すら綺麗に消せ! これは命令だ! 総ての原因である成沢廉を生かしておいてはダンピール協会の名折れ! 秩序と統制を図るには多少の犠牲は必要だ! ダンピールとヴァンパイアは契ってはおらない ダンピールの領域侵犯など最初からなかった! ………だろ?目 恭輔!」 「はい!ダンピールは秩序と統制を護る存在 我等はその為だけに存在する! 今までも、そしてこれからも……… 我等は闇に生きる存在の秩序と規律を護る為に存在する事を忘れてはならない!」 目の声が響き渡った ダンピール協会は新しい主導者の下で産声を上げた 「さてと、次代のダンピール協会の会長は二名 目 恭輔とシンディ・パーク 二人を護衛する隊長にラオ、リーお前がなれ!」 兵隊の中で一番偉かった男の名前を上げた ラオ、リーと呼ばれた男は名乗ってもいなかったのに、自分の名前をあげられて驚いていた 何より……警備隊長に任命された現実を受け止められずにいた 「ラオ、リー」 「はい!」 真っ直ぐにラオは康太の瞳を見た 「お前の瞳は穢れちゃいねぇ オレが剣を向けてもお前は動じなかった その姿勢は警備隊長に相応しい! その調子で後任を育てて逝け!」 ラオはその言葉を噛み締めて、康太に深々と頭を下げた 「さてと軌道修正だ! 目、中にいる奴等を一ヶ所に集めろ!」 目は号令と共に動いた シンディも館内放送をかける為に走った 「獅子身中の虫はまだ残ってるからな…… 面倒臭ぇ事にならねぇと良いけどな…」 康太が言うと榊原が冷笑を浮かべて 「虫は焼き殺すに限ります! 君は動かなくても大丈夫です 僕が一匹残らず殲滅して差し上げます」 榊原が楽しそうに言うと兵藤は「タチの悪い……」とボヤいた ダンピール協会の本社ビルの中にいる人間を一人残らず一ヶ所に集めると 目は「用意が出来ました!」と呼びに来た 「なら行くとするか! ガブリエル、黒い霧は晴れたかんな 闇を打ち消す光を頼む!」 と康太は天を仰ぎ言葉にした ガブリエルは康太の前に姿を現した 『韜晦されましたか?』 「すんでの所で韜晦されちまった……」 『どうなさいます?』 「ダンピール協会の軌道修正を行う 韜晦した奴は………その時が来れば対決するしかねぇ!」 『では時を待つとしましょう!』 「ダンピールはヴァンパイアと人との子だ ヴァンパイアを倒すべき存在として狩る側に回ったが、無敵じゃねぇ ダンピールにも弱点はあるって事だ」 『………弱点……に御座いますか?』 「そう!お前達天使にも弱点はある 魔界の魔族達にも弱点はある 総てを完璧に創るのを由とはしなかった……神らしいやり方だがな……今は感謝してる」 『………貴方らしい言い草ですね』 ガブリエルは笑って、姿を消した 『このビルを祝福の光で包みます』 そう声が響くと目映い光に包まれた 康太は目を伴って、粛正すべき場所へと向かった やり方を間違えれば……ダンピール協会は潰さざるを得ない その岐路に立たされていた どっちに転がってても、起こして立たせば同じ! 康太は転がっているダンピール協会を立たせて、軌道修正の道へ逝かせるつもりだった どっちに転ぼうとも道は一つ それ以外の道は用意するつもりはなかった その道を逝かぬ者は……… 殲滅するつもりだった 康太は部屋に入って、一ヶ所に集められたダンピールを見渡した 闇の影響をまともに食らった輩は…… 今にも襲いかかりそうな顔で、康太を睨み付けていた そんな輩に康太は現実を突きつけた 「お前等の会長は韜晦した 見事に痕跡さえ遺さずに韜晦して行った お前達はどうする? 新しいダンピール協会に遺る者は遺れ! それが嫌だという者は去るが良い!」 康太は言い放った ダンピール協会が……… と言うよりも、ダンピールが生き残る方法は 一つしかなかった 遺るか 去るか だけだった 遺るなら、今までではダメだった ダンピールとしての自覚 そして何のためにヴァンパイアを狩るのか…… 新たな線引きと自覚が必要だった そして殲滅に値するヴァンパイアの定義を作る必要があった 「お前等ダンピールは殲滅理由に値しないヴァンパイアまで狩った それだけならまだしも、狼男もコウモリ男も何の定義があったのか? 殲滅しようとした! 闇に生きる者の摂理が崩壊した 新たに条約を結ばねばならぬ所まで来ている このままではダンピールの方が、闇に生きる者達から狩られる事となる それ位、お前達は……バランスを崩した ダンピールとして生きるなら再教育のし直しだ! 選べ!お前達の意思で選べば良い!」 康太はそう言い目にその場を譲った 目はシンディと共に一歩前に出ると 「ダンピール協会 会長となる目 恭輔だ」 「同じくダンピール協会 会長となるシンディ・パークです!」 と自己紹介した 集まったダンピールは……ざわめいた その時、一人の男が康太目掛けて飛び掛かろうとした 榊原は始祖の御劔を手に出すと……焔を吹き上げ 真っ二つに切り裂いた ダンピール達の目の前で男が真っ二つになり燃え尽きて………消えた 榊原は冷たい瞳をダンピール達に向けると 「従う気のない方は出て行って貰って構いません! 出て行く以上はダンピールとしての資格は剥奪させて戴きます また出て行ったからには覚悟して下さい その身分や資格はダンピール協会の帰属ですので、すべて剥奪させて戴きます! 何も無き者になって生きていけると思うのならば! 出て行けば良い それだけの事です!」 意図も簡単に言い捨てた 榊原の瞳に晒され……背筋に冷や汗が流れた 総てを暴かれ最期の審判の場に、引き立てられてる気分にさせられた 辺りを緊迫した空気が包み込み…… ダンピールは息を飲んだ 闇の気配は……形を潜めていた 祝福の光が部屋を包み込み……ガブリエルは呪文を唱えた 『未来永劫 神の祝福があります様に……』 祝福された光を注ぎ続ける事を約束した 「決めろ!お前達が自ら決めろ!」 康太はダンピールに結論を迫った シンディが康太の前に出ると 「総てのダンピールを再教育したいと想います 結論はそれから出してもよいですか?」と提案した 「良いぜ、答えはお前達ダンピールが出せば良い だけど、今後……無差別に狩られる事態が起きたら……オレはお前達全員を狩るぜ? それでも良いなら引いてやんよ!」 鷹揚に言い捨てる康太を目は見た 「…………二度と同じ過ちは繰り返してはならない! 今回の事は協会の忌日に記しておく事にする! 無益な血を一滴たりとも流してはならぬと教訓に致します! そして我等ダンピールは先へ進まねばなりませぬ! それは覚悟と自覚を持って逝く者にだけ、ダンピールの称号を渡す 資格なき者は……ダンピール協会から去って戴く それて我等はこれから100年先へと逝かねばならない!」 目の言葉はダンピール達を冷静にさせた シンディが目の後に続いた 「ダンピール協会の決定は世界へ直ぐさま届けて管理して逝かねばなりません! 伝令を流します! 聞き入れぬ国にはそれなりの対処を図り、我等は先へと逝く事を誓わねばなりません!」 ダンピール協会は動き出した 先の100年先へと歩みを進めた 康太はそれを見届けた 「目、シンディ、ダンピール協会はこれからが正念場となる 韜晦した奴等の妨害工作もあるだろう 此処で団結せねば……… ダンピール協会は分裂の憂き目に遭うだろう それを乗り越えられるのは、互いの信頼と絆と信念だ! 乗り越えて先の100年へと歩みを進めてくれ! お前達の肩には、この世界の秩序と平和が掛かっている 家族や友人愛する人を護りたいなら、まずは己を信じて仲間を信じろ! そしたら道は切り開かれる!」 静まり返った部屋に康太の声が響き渡った その声を胸に刻み、ダンピール達は先へ進む事に決めた それしか道はないのだから……… 康太はダンピール達を眺めた 「顔付きが変わって来てるじゃんか! いい顔してんぜ!みんな!」 笑った 清々しい顔をしていた 「もう大丈夫だな?目!」 目は康太に深々と頭を下げた 「 目 」 「はい!」 「お前はまだ逝けねぇな」 悪戯っ子みたいな顔して康太は、そう言った 「………え?……まだに御座いますか?」 「お前……シンディと結婚しろ!」 「………え?……ご冗談は……」 「いや、冗談じゃなく」 「…………シンディが私とじゃ嫌だと言いますよ?」 目がそう言うと康太はシンディを見た 「お前、目……嫌いじゃねぇだろ?」 康太は単刀直入に問い掛けた 「目は嫌いじゃない……」 「だよな?ダンピール協会から目が追いやられた時に、意義を唱えたのはお前だもんな」 「………え?……」 「ダンピール協会の副理事長だったのに…… 何の役も持たぬ平にされても残ったのは……目の為だろ?」 シンディは真っ赤な顔をして康太を睨み付けた 「シンディ、結婚式の立会人にはオレを呼べよ! で、お前達の子供がダンピール協会の会長に納まるまで、目 お前は死ねねぇな……」 「…………私にそんな人生が遺っておりましたか……」 「何者にも囚われず尽くしてくれたお前の人生は何時も孤独との戦いだったな……」 「………それでも……貴方が私の場所を作ってくれた…… それまでの私はもっと孤独でした……」 「家庭を持て目 伴侶を得て、お前の子供を会長の座に据えろ! それがこの先お前が生きて逝く使命だ!」 「……………貴方って人は………」 目は顔を覆った 康太はシンディの方を向いた 「愛すべき存在をお前にやるよ! 少し年は食ってるがお前の伴侶の目 恭輔だ!」 「………康太……目が納得しない……」 シンディは……泣きそうな顔をしていた 「孤児だったお前と廉は兄弟のように助け合って育った お前の家族は廉だけだった 目の兄弟は妹だけだった だが……妹は人と恋に落ちた…… だが人とダンピールは寿命が違う‥‥愛する人がこの世を去った時に…… 無差別にヴァンパイアを狩って…… 目が殲滅した 自分の手で妹を殲滅させるしか出来なかった…… その命を下したのは………オレだ それからの目は誰とも関わらずに生きてきた そろそろ大切な者を得させたい それからでなくば……逝かせたくはない 孤独な魂は輪廻に入る前に消滅してしまうからな…… 目の魂を消滅させたくはねぇんだよ」 シンディは「………目と結婚して家族になる」と約束した 康太は目の肩を叩いた 「良かったな恭輔!」 「………大切な者を得れば……亡くした時に…… 心を奪われてしまう…… あんな想いはしたくはないと想っていました……」 「孤独の上には何も生えねぇ 雑草すら生えねぇ道を逝くのは止めろ 大切な者を得ればお前はもっと強くなる そして生かされてる意味を解るだろう 死ぬ時はシンディと共に逝くが良い 魂を結び付けといてやるかんな! 今度は一人になんかならねぇよ!」 「本当に貴方って人は!」 目は康太に抱き着いて泣いた 「シンディ、少し涙もろいけどお前の伴侶だ!」 そう言い泣いている目をシンディに渡した シンディは目を貰い優しく抱き締めた 康太はそんな二人を見ていた 「ラオ」 「はい!」 ラオは康太の傍へ近寄った 「少し屈め」 言われ少し屈む すると康太はラオの耳元でなにやら話し出した ラオは表情一つ変えずに康太の言葉を聞いていた そして頷いた 話が終わるとラオは姿勢を正し、目の傍へと向かった そして耳元で何やら囁くと、目は涙を拭いて顔を上げた もう、何時もの捻くれ屋の目 恭輔だった 目は康太に深々と頭を下げると 「後は総て貴方の想いのままに進めて逝きます お帰り下さい!炎帝様」 と敢えて炎帝様と呼んで引導を渡した 康太はそれを受けて「後は頼むな目!」と言い背を向けた 一生が廉の体躯を背負っていた 兵藤は呪文を唱えた 「ダンピールの皆の命は朱雀が管理する事となる 裏切る者は即座に無間地獄へ逝く事となる!」 呪文が蔦の様に伸びて、それぞれの体内に吸い込まれると、兵藤は姿を朱雀に変えて飛び立った 朱雀が飛び立つと……… ダンピール達の体躯が赤く光った 「その命、朱雀が預かる事となった! 心して逝くと良い!」 と言う声が響き渡った ダンピール協会会長室に飾ってある絵が、スーッと変化して変わって逝く 真紅の生地に贅沢な金糸の刺繍をふんだんに使った燕尾服の様な服を着た男が描かれていた 今の康太よりは大人で、顔立ちも大人びていた 目はその絵を見て「炎帝様」と呟いた シンディは目に 「彼は………神なのですか?」と尋ねた 目は「彼とは?この絵の方ですか? それとも……さっきの絵の方ですか?」と笑った 「………さっきの絵の方は?」 「彼は飛鳥井康太、人です」 「この絵の人は?」 「それはその時になれば解ります!」 目は答える気はないみたいだった 神々しい絵が会長室に鎮座していた ダンピール達はその絵を目にして、逝くべき先を誤らない様に…… と心に刻む 逝く先は険しくても 我等、ダンピールは在るべき先へと逝かねばならない 闇に生きる者達の闘いは始まったばかりだった

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