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第11話 変遷
ダンピール協会を後にした康太達は、一旦ホテルへと戻った
榊原と康太の借りてる部屋に一生、兵藤、そして堂島を伴って戻った
一生の背中に背負ってる廉は死んだようにクターッとしていた
榊原はソファーに座ると、康太が怪我をしていないか確かめた
そして何処にも傷がないのを確かめると抱き締めた
康太は無駄足を踏ませてしまった堂嶋に声をかけた
「正義…」
康太が声をかけると堂島は「何だ?坊主」と問い掛けた
「閣下に韜晦したと伝えてくれ……
わざわざお前を使わしてくれたのに……逃げられた」
「あれはお前が悪い訳ではないだろ?」
「嫌……踏み込む前に韜晦されたのは解った
だが……ダンピール協会を立て直す必要があったからな……深追いは出来なかった」
「これからどうされるのですか?」
「オレか?」
「そうだ……お前が遺るなら俺も遺ろう……」
「そろそろ聡一郎が連れて来る頃だからな
オレはそれを待ってからでしか動けねぇな」
「………誰が来るんだ?坊主」
「カリウス・アマーリエ・フォン・ヘッセン=トランシルバニア公爵って名前のヴァンパイアだ
と言ってもダンピールと契ったからな、血は吸えねぇんだけどな」
「………血が吸えねぇのにヴァンパイア?」
「そう。ダンピールの血を吸えば、血が濃すぎて拒否反応が起きる
ダンピールは免疫の低下だ
ヴァンパイアは血が吸えなくなる」
「………死ねと言ってるも同然じゃねぇか……」
「………だな、この二人が境界線を越えたのが総ての引き金になったのは事実だからな生かしておく訳にはいかねぇんだ」
「………なれば殲滅されますか?」
「………それもな、したくねえんだよ」
康太は我が儘な事を言ってのけた
「ならば、どうするんだ?」
「まぁな廉はダンピール協会から抹消された
そして貴史が打った注射は……廉をダンピールじゃなくす注射だとしたら?」
「敵対してる者同士でないのなら……誰も追いはしねぇってか?」
「そう!それを目指してみた」
「本当に坊主は恋人達には寛容だな」
「愛こそ総てだかんな……
愛した人を失って生きていくのは結構辛いからな………
傍にいたいのに傍にいられないのは……辛すぎる………
もし万が一、離れなくても良い方法があるのなら……それに賭けてでも離れない方を選択してみてぇんだよ……」
康太の言葉は重かった
「………永遠の愛なんて夢は……見ねぇよ
でも良いじゃねぇか……そんな夢を見る奴がいたって良いじゃねぇかよ……」
失った虚無感や喪失感を知っている者の言葉だった
幾ら愛していても結ばれない愛もある
結ばれた愛でも途中で切れる時もある
それでも愛が切れずに繋がっているのなら……
そんな願いを抱くのは罪なのか?
康太は愛する者の為に、少しの可能性にも賭けたかった
「………この二人のことは報告はしない!
閣下が知りたいのは闇の原因となった者の事だけ……」
「正義……」
「ダンピールでさえない者の行く末など、誰も気にかけたりはしない!」
康太は嬉しそうに頷いた
ドアがノックされると一生がドアを開けに行った
ドアの向こうには聡一郎が立っていた
「康太、聡一郎が来た!」
一生は康太に声をかけて、聡一郎ともう一人を部屋の中へ招き入れた
康太はカリウスを見て、声をかけた
「長旅で疲れたろ?カリー」
カレーの様な呼び方にカリウスは眉根を寄せた
「…………僕を……こんな所まで連れて来た理由を聞かせてください!」
「お前が一番逢いたがってる奴に逢わせてやる為だ!」
「…………え?……誰?」
康太は「廉だ」と言った
カリウスはソファーに横たわる廉を見た
そして康太を睨み付けた
「…………廉に何をした?」
見るからに死体のような廉に………
カリウスは絶望を覚えた
カリウスを狩るのは廉だけだった
自分は廉だけの獲物(ヴァンパイア)なのに………
「ダンピール協会には廉と言うダンピールはいないそうだ!」
「………何を言ってる?」
「廉はもうダンピールじゃねぇ」
「…………ダンピールじゃない廉に……用なんかない」
カリウスは言い捨てた
「ならこのまま逝かせても文句はねぇって事か?」
「廉を生き返らせろ!
廉には姉さんがいるんだ!
その人を泣かせる様な真似は止めてやれ!」
カリウスは食って掛かった
「成沢廉はもうこの世にはいない」
「違う!廉はちゃんといる!嘘をつくな!」
カリウスは叫んだ
「廉なんて言うダンピールはもういない」
「なら‥‥僕には‥‥」
カリウスは俯いた
涙を堪える様に俯いて堪えていた
「この男が欲しいか?カリ-?」
「…………欲しいと謂っても廉は僕のモノにはなりはしない!」
「それは本人に聞かねぇと解らねぇじゃねぇかよ?」
「‥‥‥廉を生き返らせろよ!」
「それは、どうしようとオレの勝手じゃねぇかよ?
ゴミに捨てたって誰も文句なんか言わねぇさ」
「捨てるなら僕が貰う……」
それこそがカリウスの本心だった
「ならやんよ!お前に!」
「………え……」
カリウスは儚げな視線を康太に向けた
「お前はもうヴァンパイアじゃねぇ!
コイツはもうダンピールじゃねぇ!
ヴァンパイアの一族を支えて逝くのはお前の弟のジェフリーだ!」
「………ジェフリー………生きていたの?」
カリウスは何が何だか解らなくていた
死んだと想っていた弟が生きていて
その弟がヴァンパイアの一族を支えて逝くと言うのか?
「ジェフリー達ヴァンパイアは、事が仕掛けられる前から地下へと逃がした
そして総て収束した暁には地上へ出て、棲み分けをする平和条約を締結する約束をした
カリウスは………最初からいないモノとしてジェフリーが引っ張って逝けと約束した」
「………何で……そんな事……」
「お前は一人の男に殲滅される為だけに生きてるからだ………」
「………え?………」
「一人の男は一人のヴァンパイアを自分の手で狩る為だけに総てを敵に回して生きる事を選んだ」
「………それが廉?」
「ヴァンパイアと契ったダンピールは免疫が低下して……ちょっとした怪我でも死に至る
それでも廉はお前を抱いた
自分がどうなるか解っていても………
お前に人間の血を吸わさせたくなくて……
殲滅から外させる為に、お前と寝た
それがバレた時に殺されるのを解っていて……
廉はその道を選んだ」
康太が静かに話す言葉を、カリウスは一字一句逃す事なく聞いていた
「………廉は死んだの……
ならば僕は生きてちゃいけないんだ……」
廉のいない世界には………
一分一秒だって生きていたくない………
「まぁ待て、今はお前の覚悟を確かめている時だ」
康太はカリウスの本気を確かめたかった
「………覚悟?何の覚悟?」
「廉が生きているとしたら、お前はどうする?」
「廉に狩られるよ!
それで廉はダンピールに戻れるんでしょ?」
「………廉に狩られる為だけに……今日まで生きたか……」
康太は哀しくなった
狩られる為だけに生きたカリウスの想いが痛かった
種族を超えた愛に……
未来がないのが解っている者だけの言葉だった
「………廉と一緒に生きれば良いじゃねぇかよ」
「……許されないよ……
廉は……陽の差す下を歩かなきゃ……
廉に暗闇は似合わない……」
「一つだけ本心を聞かせてくれ!
絶対に嘘つかねぇと約束してくれ」
「………解った……約束する」
「廉を………愛しているか?」
カリウスは康太を驚愕の瞳で見た
そして諦めた様な翳りを浮かべて………
「………愛しているよ……」と答えた
愛しているからこそ……
愛する人の腕に掛かって死にたいのだ……
廉の手で殲滅して欲しいのだ……
始める前から相容れない関係の自分達に遺された……
たった一つだけの願いだった
康太は榊原を見た
榊原は康太を抱き締めて……胸ポケットから書状を取り出しカリウスに渡した
「………何?」
書状を手渡されカリウスは躊躇した瞳を榊原に向けた
「読みなさい!
そしたら動き出しなさい!」
榊原はそう言い愛する妻を強く抱き締めた
康太は榊原の胸に顔を埋めた
愛する男の匂いを肺一杯に吸い込んで………
その背を掻き抱いた
離れたくない想いなら………
誰よりも強い
離れるなら………
この世を総てを破壊して………
草木も生えぬ世界にしてやる
愛する者がいない世界で……
生きねばならぬなら……
この世の総てを呪ってやる
「…………愛してる!」
康太は絞り出して言葉にした
榊原は強く……康太を抱き締めて
「僕も愛しています」と言葉にした
カリウスは恋人達を羨ましそうに見ていた
愛し合う恋人達が羨ましいと想った
カリウスは手にした書状に目を通した
その字は弟のジェフリーの字だった
共に生きた弟の文字を見間違える筈などない
ならばこの書状は弟が書いたのだと想い読むことにした
『兄さんへ
この手紙を見ていると言う事は、兄さんは生きているんだね
兄さん
もう一族の事は良い
兄さんは兄さんの好きに生きて下さい
もう十分貴方は一族の為に生き来た
これからは俺が一族を率いて生きていく
貴方は死んだことにしました
だから貴方は好きな所へ行き
好きな人と生きて下さい
それだけしか俺には出来ません
貴方が苦しんでいた時に手を差し伸べれなかった………弟がしてやれる事は……
それだけなのです
もう何者にも囚われず生きて逝って下さい
だけど年に一度……逢いに来て下さい
貴方が生きてる姿を見せて下さい
約束してください
絶対に死なないと……
それだけ解ればいい
生きていてくれれば良い
兄さん、貴方と俺はこの世で二人きりの兄弟なのです
それだけは忘れないで下さい
貴方の逝く道が曲がる事なく逝けます様に……
ジェフリーより』
カリウスはその書状を読んで泣いていた
「お前達は魔界に逝け
廉はオレの血を体内に入れた
これでダンピールじゃない体躯になれる
魔界でも生きて逝ける筈だ
お前は元々は魔界の者だ
そのままで逝ったとしても大丈夫だろ?
そのうち黒龍の血でも飲ませて貰え
そしたら血を欲する事なく生きて逝ける」
「………これは夢?
こんな日なんて……未来永劫……
来るなんて想っていない……」
カリウスは泣いていた
「もうじき廉が目を醒ます
傍にいてやれよ
話は廉が目を醒ましてからだな」
康太はそう言うと榊原の膝の上に乗って抱き着いた
康太の手が震えていた
榊原は康太の手を優しく握ると口吻けた
「怖がらなくても大丈夫です
僕達は……ずっと一緒だったでしょ?」
「………離れたくねぇ想いなら……誰よりも強い」
「そうですね……離れたくないから……君と共に生きる日々を大切に生きています」
「………お前が……いなくなったらオレはこの世の総てを消し去る………
お前のいない世界には……オレはいたくねぇ……」
「大丈夫です
僕は君のストッパーですよ?
君より先に逝く事はありません!
僕が一度でも君に嘘をつきましたか?」
「………ついてねぇ……」
「でしょ?僕達は未来永劫一緒です」
熱い囁きが部屋を甘く包む
一生と聡一郎、兵藤と堂嶋は、二人を見守っていた
カリウスは廉の手を握った
体温が伝わり…カリウスは息を吐き出した
生きててくれた……
死んでない…
それだけで……カリウスは泣けた
「………ん?……此処はどこだ?」
目を醒ました廉は事態を把握出来ないでいた
廉は目の前のカリウスを……
想わず抱き締めた
「………生きていたんだな……」
殲滅されていたら………
そう考えると怖くて堪らなかった
生きている
それだけを信じて……
廉はカリウスを護ろうとした
血の吸えないヴァンパイアなんて殲滅するに値しない
そう言い続けた
総ては……愛したカリウスを護る為だった
一目惚れだった
トランシルヴァニアの純血種
それだけで警戒して近付いた
だが……初めて目にした瞬間に恋に落ちた
この人を……殲滅させたくない
廉は初めて抱く想いに躊躇した
だが、相容れない種族の自分達が………
愛し合えるはずなどないのだ
だったら他のダンピールに殲滅させない為に……
血を吸えなくさせよう
そう思った
その日から廉は見聞書物を色々と解き勉強した
そしてダンピールの忌日を目にした
ヴァンパイアとダンピールは決して交わり合ってはいけないと言う現実を目にした
ヴァンパイアとダンピールは愛し合ってはならない
ヴァンパイアは血を吸えなくなり……
ダンピールは免疫の低下
互いの体躯に起こる異変に……末路は死
廉はその道を選んだ
抱けば……離せなくなった
自分の体躯に異変が襲う
それでも廉はカリウスに逢いに行った
時間が許す限り……
廉はカリウスを抱いた
そして口にする
「お前を殲滅するのは俺だけだから……」
だから他のダンピールに殲滅はされるな!
そう約束した
「もちろん……お前を殲滅した後に……
俺も後を追ってやる!」
「………廉……そんな事しなくてもいい……」
「一人では逝かさない……」
「廉……」
「協会は俺の体躯の異変に気付いた
俺は幽閉される
お前は逃げろ!
俺以外の奴に絶対に殲滅されるんじゃないぞ!」
「…………廉………廉………」
カリウスは廉の背中を掻き抱いた
「………約束するから………」
廉も死なないで……
カリウスは生まれて初めて愛を教えてくれた人と……
一緒にいたかった
だが種族の違う自分達が一緒にいられないのは……
誰よりも解っていた
カリウスは震える指で……廉に触れた
「カリウス……」
廉は名を呼んだ
そして辺りを見渡した
「…………誰……ですか?」
廉は警戒した顔でそう訪ねた
「それは誰に尋ねてる台詞よ?」
康太は廉に問い掛けた
廉は「貴方にです!」と康太を貫いた
「オレか?オレの名は飛鳥井康太!人だ」
「………人?……」
廉は呟いた
「人に見えねぇかよ?」
「…………俺とカリウスをどうするつもりなのですか?」
「どうするって?何が?」
康太は訳が解らないって顔をした
カリウスが廉に「僕達を逃がしてくれっるって……言ってくれてるんだ……」と状況を訴えた
廉は信じられなくて………
驚愕の瞳を康太に向けた
「………敵じゃないのか?」
「敵ならわざわざ自分の部屋にお前を連れて来ねぇだろ?」
康太はそう言い笑った
「………俺は殺されてもいい………
カリウスは……見逃してくれないか?」
「伊織、オレってば極悪非道なツラしてるのか?」
「君は何時でも可愛い顔をしています
極悪非道な顔?………そんな事を言う奴は……跡形もなく消し去ってやります!」
榊原は康太を抱きしめて、廉を見た
その冷たい瞳に廉は身を竦めた
「妻を虐めるのは止めて下さい」
榊原が言うと廉は「妻?」と呟いた
「僕達は正真正銘、夫婦なのです!
この先も未来永劫、夫婦なのです!」
榊原はそう言い嗤った
一生は埒があかないと間に入り
「惚気るな………」とボヤいた
一生は廉に「俺達は敵じゃない!敵ならお前を連れてくる前に殺している」と言葉にした
廉はそう言われて、なる程と納得した
「………ならば……貴方達は誰なのですか?」
「お前たちを助けてやる者だ!」
「………え?………嘘……」
廉は信じられずにいた
兵藤は廉の前に立ちはだかった
「確認しときてぇからな、聞いとく
成宮廉、おめぇはカリウスと共に逝く気なのか?」
「………離れなくても良いなら……共にいたいです」
廉は本心を吐露した
「なら一緒に行けよ!」
「………何処へ?」
「取り敢えず魔界に行くと良い!」
魔界と聞き、廉は思い出した様に口にした
「…………魔界ですか?」
ならば伝えねばならぬ事がある
「……あの、康太さん…貴方に伝えねばならぬ事があります!」
「あんだよ?」
「貴方は目が何時も口にしている『炎帝様』ですか?」
目は何時も傍にいた廉に言っていた
ダンピール協会を救ってくれる救世主の名前を……
ならば伝えねばならぬ事があった
「そうだ!」
「貴方は人が豹(ひょう)に変身するのを知っていますか?)
「え………狼男じゃなく?」
「はい!狼男とかではなく、豹に変身できる人間がいるそうです」
「………それ、オレ、知らなーず!」
「世界で幾体か捕獲されているそうです」
「………ダンピール協会の見解は?」
「協会は知らぬを通していました……
変身の仕組みは狼男達みたいなのか?
解りませんが……お耳に入れとこうと思いました」
廉は、康太に伝えねばならぬ事を、やっと伝えられ安堵した顔をしていた
康太は思案する
信じられない話を整理するみたいに口にした
「猫が寿命以上に長生きしたら猫又になるやん?
狐が寿命以上に生きたら九尾の狐になるやん!
豹は何年生きたら変身するんだ?」
榊原は頭を抱えた
長生きしても豹に変身できる者は少ないだろう
一生は「………人体実験……とかじゃねぇのか?」と一番信憑性の高い話を口にした
「………廉、お前はそれを目にした事はあるのか?」
「………はい。……目にした事があります」
「その話、目にもしたのか?」
「はい!しました!」
「………そっか繋がった……
目がダンピール協会を追いやられたのも
お前が囚われて殺されそうになったのも……
多分知っちゃならねぇ領域を知ったからだ」
「………え?ダンピール協会は人豹を知っていた……
と言う事ですか?」
「と言うかダンピール協会が何かしてたんだろ?」
「…………え?……」
「対人戦用の殺戮兵器……って事か?」
豹の様にしなやかに喉元をカッ切り倒して逝く殺戮兵器……
康太の呟きに廉は青褪めた……
「………代議士や軍と親密になってる訳だわな」
康太が納得すると堂嶋が
「………この事は閣下にお伝えしても?」と問い掛けた
「あぁ、伝えておいてくれ!
下手したら……人混みに紛れて……近付いて殺られる可能性も出て来るからな……
相当、身辺に気を付ける様に言っておいてくれ」
「承知した」
堂嶋はPCを取り出すと、キーボードを叩いて直ぐさまに連絡を入れた
「………打つ手はねぇな……見分けがつかねぇんだからな……」
康太は弱点のない人豹を思い浮かべた
どんな仕組みなのか?
………幾ら考えても答えは出ないが……
「………神の領域侵犯されてんじゃんか……」
と康太は独り言ちた
人の命やDNAの操作は神の領域なんじゃないのか?
神になろうとしたのか?
康太は腕を組んで考え込んでいた
榊原は廉に「どんな風に変身するのですか?」と問い掛けた
康太の目の前で世良は変身した
まん丸な月を見て、耳が出て牙が出て変わって行った
まぁ世良の場合どう見ても犬にしか見えなかったが………
「一瞬で男は豹に変身しました
変身した豹は鋭いツメと牙をむき出しにして……
窓から飛び降りて消えました」
康太は眉根を寄せて……
「……一瞬で……変われるのか……」と呟いた
榊原も「………厄介ですね」と状況は不利だと把握した
廉は思い出した様に……
「…………あ……会長は闇を自由自在に操ってました
その力にダンピール達は服従するしかなかったのです」と一番肝心な事を伝えた
「………魔使魔と同等か………それ以上の力持ちか?
どっちにしても厄介な奴だな……」
見えて来る敵に……
康太は果てを視る
一筋縄では逝かぬ闘いに……
何人の命を落とす事になる?
仕掛けられたら……
引けぬ闘いになるのは解っていた
康太は心臓の方の服を強く握った
絶対に負けられない!
絶対に……
予期せぬ敵の存在に……
康太は覚悟を決めた
逝くしかない道なのだ……
相手はまだ見えては来なかった
だが絶対に……
相手は仕掛けてくるだろう
どんな風に来るのかは解らない
解らないけど……負けるわけにはいかなかった
廉は自分の知り得た総てを康太に話した
そしてカリウスの手を握り締めた
「黒龍、迎えに来てくれ!」
康太は天を仰いで、そう言った
時空を超えて漆黒の髪を揺らして、男が姿を現した
「人使い荒いよなお前って……」
黒龍は呼び出されてボヤいた
「魔界に連れて還ってくれねぇか?」
「………少し休ませろ!」
黒龍が言うと一生はジュースを冷蔵庫から取り出し、黒龍に渡した
「兄貴、コーラで良いか?」
「………まぁ飲んでやる」
黒龍はそう言いコーラを奪うと美味しそうに飲み始めた
「あ、そうだ炎帝、平和条約の調印式にお前も出ろと閻魔が言ってた!」
「………やっぱし……そう来るか?」
「だな!何か食うのくれ!」
黒龍は食べ物を所望した
一生はピザをフロントに電話して運び込ませた
黒龍はピザを食べながら
「閻魔の野郎、平和条約の段取りを全部俺に放り投げやがった……」とかなりご立腹だった
一生は、どうどう……と兄の背中を撫でた
康太は黒龍の耳元で何やらゴニョゴニョ話していた
黒龍は驚いた顔をして康太を見た
「目星つく?」
「………即答は出来ねぇな……」
「なら調べておいてくれよ!」
「了解!」
「それと、この二人の住めそうな家あるか?」
謂われ黒龍は
「この二人はどの種族に入れれば良いのよ?」
と問い掛けた
「カリウスはドラキュラ伯爵の血を引くヴァンパイアだからな
始祖は魔界の龍が袂を分かち合って人の世に流れた
龍族がそれを認めるか認めねぇかは解らねぇけど……
ルーツで言うなら始祖は魔界の龍になる」
「………親父に聞かねぇと……答えは出せねぇな……
当分は魔族の目に付かねぇ様に黄泉の泉の夏海達が住んでた家で住んでもらう事になるが、良いか?」
「あぁ、飯とかはどうしたら良い?」
「俺が責任を持って運び込むわ!
それとカリウスは龍の血を飲まねぇと住めねぇだろ?」
「多分……」
「八仙に聞いたら俺の血は強すぎて逆効果だと言われたからな……
雅龍に協力して貰った」
黒龍はそう言いポケットから真っ赤な液体の入っている瓶を取り出した
「これを飲ませろ!
多分気絶するからな、意識が戻るまで俺はこの部屋で休んでることにする」
黒龍は瓶を一生に渡した
一生は瓶をカリウスに渡した
「飲め!」
「………え?……これを?」
「廉、お前飲ませろ!
飲まねぇと魔界に逝けねぇんだよ」
言われて廉は瓶を受け取った
瓶の中の血を口に含むと、カリウスに口吻けた
歯列を割って下を差し込まれ……
無理矢理、血を飲まされた
ゴクンッと血を飲むと……カリウスは気絶した
廉は心配そうにカリウスを抱き締めて、康太を見た
「死なねぇから安心しろ!
カリウスの体の中の始祖の血をよびおこしているんだ!
多分意識が戻ると、始祖の記憶を呼び起こしているだろう!
その昔、カリウスの一族は魔界で過ごしていたからな……」
「………死なないのでしたら……」
それで良い………と廉は言った
カリウスが目を醒ますまで、廉はずっとカリウスを抱き締めていた
康太は黒龍と皆と離れた所へ行くと、何やら話していた
黒龍は始終眉間に皺を寄せていた
「………で、俺に何をさせたい?」
「平和条約の調印式は………保留にしてくれ!」
「………本気で言ってる?」
「あぁ……すこぶる本気だ」
「………お前が閻魔に言え!」
黒龍はそう言った
「解った……どの道魔界に行かねぇとダメだからな……」
「何時逝くのよ?」
「日本に帰った晩に……」
「了解!それまでに親父殿に話を通して、二人の身の振り方を決めておく!
どの道、悪いようにはしない!それは約束する」
「んな心配してねぇよ!」
康太は笑った
カリウスが意識を取り戻すと、黒龍は二人を連れて魔界へ還って行った
康太はそれを見送って
「じゃオレ達も日本に帰るとするか!」と口にした
堂嶋は「一時間後に空港で待ち合わせしましょう!」と約束を取り付けた
「お!これから身支度して空港に向かうわ!」
康太はその言葉に答えた
一生と兵藤も部屋へと戻った
チェックアウトして空港で落ち合う約束をして、堂嶋も還って行った
榊原は康太を抱き締めた
「………伊織……心配ばかりかけるな……」
「何言ってるんですか?」
「心配、したろ?」
「君がいてくれれば……それだけで良いのです!」
榊原は康太を抱き締めた
強く……
強く……
抱き締めた
「伊織、日本に帰ろう……
オレ達の子供に逢って……安心させてやろう」
また魔界に行かねばならないが……
少しでも時間が許すなら……傍にいてやりたかった
ホテルの荷物をスーツケースに入れると、榊原は忘れ物はないか確認してホテルを後にした
空港に行くと既に堂嶋や一生、兵藤は待っていた
堂嶋が全員分のチケットを取っていた
それを貰い飛行機に乗り込んだ
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