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第12話 当機立断

康太と榊原が空港に出向くと、既に聡一郎と一生、兵藤や堂嶋は空港で二人を待っていた 康太と榊原がやって来ると政府の要人が康太に近付いた 「政府専用機を飛ばします 閣下が貴方の為に御用意致しました」 政府の要人は深々と頭を下げ、康太達を出迎えた そして自分達の役目を完遂する為に言葉を続けた 「……閣下がお待ちです」 「……韜晦されたのは伝えたんだよな?正義」 康太は堂島に問い掛けた 「あぁ、逐一報告はした」と現状を語った 「なら、これ以上話す事はねぇ!」 康太が言い切ると政府の用人は 「日本に着きましたら閣下の部下に引き渡します その方達にその旨はお伝えください」 自分達の仕事は飛鳥井康太と一行を日本の地に下ろす事なのだ その他の用命は閣下の部下に直接伝えれば良い、判断して何も言わなかった 政府用人は「飛行機へどうぞ!」と康太達を促した 護衛され飛行機へと連れて逝かれた 康太はSPに護られて飛行機の中へと乗り込んだ 飛行機に乗り込むと、そこは豪華なホテルのラウンジばりのソファーが並べられていた 康太は榊原と共にソファーに座った その横に一生と兵藤も座った 堂嶋は空いてる席に座ると、目を瞑った 「正義…」 康太が声を掛けたから、堂嶋は目を開けた 「何だ?坊主」 「日本に着いたらお前も家に帰れ!」 「………坊主……そう言う訳にはいくまい…」 「私生活を犠牲にして来ているんだ 少し位の我が儘は融通を利かせてくれるさ」 「………そうしたいが……俺は報告する義務がある!」 「正義、逢って安心させてやりてぇんだろ? ならば帰れ!時間が許す限り傍にいてやれよ」 総てお見通しなのだ… 堂嶋は苦笑した 「………なら還るかな……還りたい… 還って無事な姿を見せてやりたい……」 本音をポロッと吐露する 康太の前に出たら……大人の矜持も建て前も…… ポロポロ剥がれて、本音だけ晒される 康太は笑って頷いていた 兵藤はPCを出して、立ち上げると母親である美緒にメールを送信した 「今飛行機に乗った 日本に帰るから迎えを頼みます!」と。 美緒からの返信はすぐに来た 『了解!到着前には空港で待っておろうぞ!』 美緒からの返信を目にして兵藤はPCを閉じた そして瞳を閉じて… 日本の地に到着するまで眠りに落ちる事にした 日本に到着すると、飛行機の中に閣下の部下が数名乗り込んできた 「ご苦労様です 我々と共に来て戴けますか?」 閣下の部下は当然の顔をして、そう命令した 康太は座席に座って足を組んだまま 「嫌だ!」と答えた 閣下の部下は「………なっ……」と驚いた顔を康太に向けた 「オレは閣下の意向でニューヨークくんだりまで、出向いてやった オレにだって家族がいる 我慢させている子供がいる なのに日本に着くなり、一緒に来いとは配慮がなさ過ぎじゃねぇのか? しかもオレは飛行機に乗る前に還ると告げている!」 唇の端を吊り上げて皮肉に嗤う その瞳は………関係者を射抜いていた 「………閣下がお待ちです」 「正義が逐一報告していたんじゃねぇのかよ? なら韜晦されたのも知ってるんじゃねぇのかよ?」 「ですから!今後の対策のために!」 「それは今これからしねぇとダメな話なのかよ?」 「…………そうです……閣下がお待ちです」 「んな融通が通らねぇ奴とは話したくねぇ! 人をなんだと想っているんだよ? こっちの都合を無視するなら……それ相応の報いをくれてやるしかねぇな!」 康太の瞳が閣下の部下を射抜いた 総て晒して暴く瞳に見られて…… 閣下の部下は動きを止めた 「オレは行かねぇと連絡しろよ!」 気迫に押されて……男は胸ポケットから携帯電話を取り出すと閣下に連絡を入れた 「………閣下……康太様が……来られないそうです」 『………彼がそう判断したら来てはくれまい…… お前達は彼には手を出すな……… 命が惜しいなら手出しは無用! 彼等を空港の外までお見送りして還る所を見届けなさい』 「はっ!承知いたしました!」 関係者は閣下と連絡を取り、電話を切った 男は康太に深々と頭を下げた 「………お許しを……我等はしがない宮仕え故に…… 上の指示を無視する訳にはゆきませんでした」 と男は謝罪した 「解ってんよ!これ以上おめぇを追い込んだりはしねぇ! おめぇには産まれたばかりの子供がいるみてぇだからな その命は惜しいだろうが!」 誰にも言ってないのに…… 男は………驚き……康太を見た そして深々と頭を下げた 「外まではお見送りさせて下さい!」 「それがお前に下された命令なら完遂しろよ!」 康太は子どものように無邪気な笑顔を閣下の部下に向けた 「おめぇの仕事までは取る気はねぇかんな!」 「………ありがとう御座います」 男が礼を言うと康太は、名前を聞いてもいないのに、その男を「沖津」と呼んだ 沖津と呼ばれた男は「はい!」と康太を見た 「オレには四歳になる子供がいるんだよ 子供達に……淋しい想いをさせて我慢させてる 解るな……お前も人の親なれば……オレの気持ちは……」 「はい!貴方にお子がおられるとは知りませんでした どうかお許しを………」 「………飛鳥井康太の子なれば……誘拐の恐れもある だから……隠しておかねぇとな……… それもそろそろ無理になってきたからな……」 「………え?どうしてですか?」 「幼稚舎に通う様になれば他の親との接触もあるからな……… 人の口に戸は立てられねぇのと同じだ……」 「…………康太様……私が御守り致しましょうか? 貴方のお子を命に代えても御守り致しましょうか?」 「………気持ちだけで良い オレに仕える為に総てを棒に振らねぇでも良い」 「………そうではないです 貴方のお役に立てれるなら……と思っただけです」 男はそう言い笑った 康太達は閣下の部下に警護されて飛行機を降りた そして空港の外へと出て行った 空港の外には兵藤の家の車が待ち構えていた 車の前には美緒が車から降りて待ち構えていた 「お、待っててくれたみてぇだな」 そう言い兵藤は車の方へ向かった 康太は沖津の胸を軽く叩いた 「世話になったな沖津」 「いいえ!」 「また近いうちに逢う事になる」 「はい!」 沖津は深々と頭を下げた 康太はその横を通って兵藤の家の車に乗り込んだ 康太は車に乗ると難しい顔をした 榊原は「どうしたのですか?」と尋ねた 「………視えちまった……」 「………え?何をですか?」 「…………果てのことだ……それは言えねぇ……」 「………そうですか?」 康太は目を瞑り……ずっと何かを考えている風だった 兵藤の家の車は先に堂嶋の家へと向かい、堂嶋を下ろした 堂嶋は康太を抱き締めて、次の約束をして還って行った 車は飛鳥井の家へと向かった そして飛鳥井の家の前に停まると、康太と榊原と一生と聡一郎は下りた 続いて兵藤も車から降りた 美緒は兵藤に手を振って、兵藤の家へと帰って行った 車を見送り兵藤は皆と共に飛鳥井の家へと入っていった 飛鳥井の家に入ると、早々に自室へ行こうとする康太の手を掴み、兵藤は応接間へと引っ張って行った 「………何を視た?」そして問い掛ける 「………果ては言えない……」 「果てを変えなきゃ良いんだよ 視た通りの果てを迎えれば良い その変わり……すぐに対処出来れば変えちゃいねぇだろ?」 「………んとに……おめぇは……」 康太は、そう言い………覚悟を決めた 「………子供が狙われる……」 「………え?それはどう言う事だよ!」 「………幼稚舎に通う様になったからな…… ヴェールに隠していた部分は通用しねぇと言う事だ…… 飛鳥井康太を言う通りにさせたいなら、飛鳥井康太の子を人質に取れば良い……と言う事だ」 「…………阻止するしかねぇじゃねぇか!」 兵藤は叫んだ 流生達を狙うなんて………許せない! 「………オレは六歳の時……誘拐された 飛鳥井の次代の真贋だから……誘拐された 瑛兄があそこまでオレに過保護になるのは…… そう言う経緯があったからだ…… 弱点を見せれば……利用される オレは世間の奴らに弱点を知られたも同然と言う事だ」 初めて聞く事だった 知らなかった こんな近所に住んでいても……知らなかった 「………誘拐……されたのかよ?」 「あぁ車のトランクに押し込められて何日か過ごした 動けねぇし腹は減るし……このまま死ぬのかなって想って過ごした………だからな……いまだに狭い場所はトラウマだ しかも誘拐犯はオレを殺す気満々だった トランクに閉じ込めて弱った所を嬲り殺す気だったみてぇだな……」 「………よく……助かったな……」 「…………オレは弥勒付きだからな……命は助かった」 弥勒がいなければ……… 今頃はいなかった事になる…… そう考えて兵藤は………ゾッとして自分を抱き締めた 「………あの日以来瑛兄はオレの安否を確かめねぇと…… 正気じゃいられなくなった……… 今の瑛兄を作ったのは………そんな過去があったからだ…」 瑛太は異常な程に康太の無事を確かめる その行為に………そんな経緯があったのかと…… 榊原は思った 自分だってやられたら……… 我が子を必要以上に過干渉してしてしまうだろう…… 生きていて…… そんな想いで送り出す 無事か……その瞳(め)で確かめなければ安堵はない 自分だって我が子にされたら……そうなるだろう 瑛太の想いが痛かった 弟を想う瑛太の想いが…… 榊原には痛いほどに伝わっていた 兵藤は「護衛をつけるか?」と問い掛けた 「生身の人間じゃ……目の前で浚われちまうだろ?」 「…………それって……ニューヨークの続き……って事か?」 「宣戦布告するなら相手の弱点を突いておかねぇとな……」 「………そう言う事か………クソッタレが!」 兵藤は悔しそうに毒突いた 「………と言う事は相手は影か?」 「多分な……魔使魔と同等の力があるって事だろ? なら来るとしたら正攻法じゃねぇだろ?」 「……んとによぉ……何時も何時も…厄介な奴に愛されるんだなおめぇはよぉ!」 兵藤はそう言い嗤い 「………手立てはあるのか?」と問い掛けた 「………朱雀……魔界の広場にある樹(き)、覚えてるか?」 何故今、そんな会話をしているか知らないが…… 兵藤は魔界の広場を想像した 魔界の広場には大きな樹が植わっていた 何の樹か知らないが、それは魔界で一番大きな樹だった 「あれは何の樹なのか何時も気になってたからな覚えている」 兵藤はそう答えた 「あの樹はな世界樹の樹なんだよ あの樹は冥府に根を生やし、天界にまで伸びている樹だ この地球(ほし)の中心の核みてぇなもんだ」 「………人の世にも……世界樹の樹は続いていると言うのか?」 「世界で一番高い電波塔、知ってるか?朱雀」 「………電波塔?……ドバイの何とかってタワー?」 「電波塔で世界一なのはスカイツリーだぜ? 人の世でより高い塔に寄生して、そのエネルギーを天界へと放出している それが世界樹の生態だ」 「………本当に……存在するのか?」 「存在する……世界樹はこの地球(ほし)の核だ この地球(ほし)の中心を貫いて生えている木だ その役目は地球(ほし)の循環 よどまぬ様に地球(ほし)を循環させている 創世記前からこの地球(ほし)の核として創られた樹だ……」 「………あの樹が………世界樹なのか?」 兵藤は想わず呟いた 信じられない想いの方が大きかった 「世界樹に宿る神を知ってるか?」 「………え?世界樹そのものを今知ったみてぇなもんだからな……」 知らないと兵藤は答えた 「天地創造以前から存在し、ニヴルヘイムと言う神が、世界樹の根の一つに生息している その下にはフヴェルゲルミルと呼ばれる泉がある その神はこの地球(ほし)の闇を操り浄化して フヴェルゲルミルの泉に還している そうして、この地球(ほし)は浄化され闇に染まる事なく続いている」 「ニヴルヘイム?それは神の名前なのか?」 「そうだ。天地創造した神は……全部で五柱 その一柱がニヴルヘイムだ 天地創造する前から……ニヴルヘイムは世界樹の根っこに生息しフヴェルゲルミルの泉の前に住んでいた そして今も………変わらず在る それが世界の理だ」 「………天地創造よりも前に………と言うのにも驚きだが…… (創造)神が……五柱ってのも驚きだな 流石生きた化石だな炎帝」 「親父殿の受け売りだ オレを年寄り扱いするんじゃねぇ!」 康太はプンプン怒った 榊原が見かねて膝の上に乗せて抱き締めても…… 兵藤をウリウリと蹴飛ばしていた 「………オレの知識は……皇帝閻魔のモノだ オレが物知りな訳じゃねぇ!」 ウリウリ蹴り上げながら康太はボヤいた 「怒るな康太 俺だってお前の子供のことは心配なんだ お前の子供に手を出すなんて許せるかよ!」 「………この先も……飛鳥井家真贋の子供だと解ると…… オレの弱点だと……狙われるかも知れねぇかんな…… 伊織の姓を名乗らせようかと話をしていた」 「………え?……」 「二十歳まで……せめて十七歳まで………」 兵藤はお返しだとばかりに康太の額にデコピンした 「子供の人生はおめぇのモノじゃねぇ! 護りてぇならその眼で見ていろよ! 子供達は飛鳥井の子供だ 名前を変えた位で隠しきれるもんじゃねぇぜ?康太 アイツ等は飛鳥井に関わりなきモノにはなれねぇんだからな!」 兵藤はズバッとそう言った 逃げ道は用意しない康太へ、逃げ道に走るなと言ったも同然の言葉だった 「………朱雀……オレは冥府の地下層に行く!」 康太は………ずっと考えていた事を言葉にした 「冥府に地下層があったのかよ?」 冥府は魔界からしたら総てが未知の事でヴェールが掛かっている様なモノだった 「オレは創造神の一柱じゃねぇからな……解らねぇ…… 天地創造の一柱だったのは………皇帝閻魔 親父殿だ……… 神に愛されて共に生きた存在は皇帝閻魔だ」 兵藤は創造神が……我が愛しき子よ……と言ったのを覚えていた 炎帝も神の愛する存在だと想っていた そもそも(創造)神の声を聞ける存在じたいが特別だと想っている そんな存在を炎帝は意図も簡単に否定する そして自分はみんなと同じだと……謂ってしまう 兵藤は「俺も一緒に逝く!」と言った 冥府に逝けない事は知っていて……口にした 「朱雀……逝くか?」 「………俺らみてぇな神は逝けねぇのは知ってる」 「冥府は……生在る神は入れねぇぞ?」 冥府は神の仕事を終えた死者が逝くべき場所 生ある神が簡単に逝ける所じゃない そんなのは百も承知なのだ 「それで俺の命日になったとしても構わねぇ!」 兵藤は言い切った 「なら……視ねぇとな朱雀」 「………え?……何を?」 康太は兵藤の額に五芒星の印を切った 兵藤は意識が遠くなるのを……… 薄れる意識の中で感じていた 榊原は崩れ落ちる兵藤の体躯を受け止めてソファーの上に寝かせた 一生はその上にブランケットを掛けた 「貴史が目を醒ましたら逝く」 康太が告げると一生は「………俺は留守番か?」と問い掛けた 「赤龍、お前変身出来るか?」 「………変身?何に変身しろって言うんだよ?」 「蛇だ!」 「…………蛇?………出来たかなぁ? 龍族の賢者に聞いてみるかな?」 「………蛇になれるなら連れて逝ってやる」 「…………頑張って蛇になる……」 一生はそう宣言した 「冥府は神が役目を終えて逝く場所 生在るモノが逝けば消滅してしまうしかない だけど、その世界に生があっても入るのを許されるのは……… 蛇位なモノだからな……」 だから蛇か……一生は納得した 「なぁ、青龍」 「何ですか?」 「お前ら龍族って元は蛇やん? 蛇って脱皮する生き物じゃねぇかよ? 青龍も脱皮………したのか?」 「…脱皮……龍はしないと想います 僕は蛇から龍になる時に一度脱皮しました 龍になってからは……してませんね でも君が見たいと言うのなら……脱皮しましょう! 僕も賢者に逢ってくるとします!」 「………綺麗なんだろうな……青龍の抜け殻」 康太はうっとりと呟いた 妻に強請られれば榊原は何としてでも叶えてやりたくなるのだ 「君が望む事なら僕は何でも叶えてあげます」 この命に代えようとも……… 康太が望む事ならば叶えてあげたいのだ…… 榊原は康太を抱き締めて口吻けた 「………青龍……お前の鱗は宝石のようにキラキラして、その姿は本当に美しい 魔界に行ったら龍の姿になれよ そしたら………龍のままのお前を総て受け入れてやんよ」 「………康太……無理ですよ…… 種族の違うもの同士が……繋がり合うのは危険です」 「でもなオレは青龍の総てを愛してやりてぇと想っているんだ 龍のおめぇもオレは愛して止まねぇんだからよぉ」 「康太……嬉しいです……」 感激して榊原は康太を口吻けた 「愛してる青龍…」 「僕も愛してやみません奥さん」 康太は榊原の唇に口吻けた 愛してると想う傍から思いが募る 康太と榊原は強く抱き合っていた 目の前でイチャイチャされても一生は何も言わなかった それよりも寝ている兵藤が気になった 脂汗浮かべて唸って寝ているのだ…… どんな夢見ているのか……? 一生は康太に「大丈夫なのか?」と問い掛けた 「大丈夫だ!貴史は夢を見てるだけだならな……」 康太はそう言い笑った 「………夢?」 「創世記の神の夢を見せてる………」 一生は自分が口を出せない領域だと感じて黙った 「貴史は当分起きねぇからな 子供達を幼稚舎に迎えに行く」 康太がそう言うと一生は腕時計を見た 腕時計は午前10時を告げていた 夜中に飛行機に乗り、朝一番で日本に到着した そして兵藤の家の車で飛鳥井まで還って来たのだ 「早くねぇか?」 「………仕方ねぇんだよ一生……」 「……狙われてるからか?」 「弥勒に術を掛けさせねぇとな……」 その言葉だけで………迎え来る災難を想像出来た 兵藤は寝かせたままにして康太と榊原と一生は応接間を後にした 応接間を出ると慎一とバッタリ出くわした 「お帰りなさい康太」 慎一はそう言い康太に抱き着いた そして「何処かへ行くのですか?」と問い掛けた 「子供を迎えに行くんだよ」 康太は答えた 「早くありませんか?」 「………少しな……でもこの機会を逃せばまた留守にするからな……」 「………何処かへ……行かねばならないのですか?」 「魔界に逝くんだよ」 「ならその前に……隼人に逢ってやって下さい」 意外な言葉に康太は「隼人?」と聞き返した 「隼人、倒れたんです」 康太は驚愕の瞳を慎一に向けた 「………倒れた?何時の事よ?それ……」 「昨日撮影中に倒れたと神野から連絡がありました」 「………今……どうしてる?」 「飛鳥井の病院に入院中です そして君も診察に来いと久遠先生が言ってましたよ?」 「………伊織……」 康太は榊原を見た 榊原は立ち上がると康太を抱き上げた 「隼人の所へ行きましょう 君の体躯も診て貰いたいですからね 一生、康太の保険証をお願いします」 「あいよ!」 一生は保険証の保管庫の扉を開けて、康太の保険証を手にした 榊原は慎一に 「隼人の病室へ案内してください」と告げた 慎一は「少し待ってて下さい。俺は着替えを取りに来たんです」と言い応接間を出て行った 康太は「隼人…大丈夫かな?」と不安そうな瞳を向けた 「大丈夫です……僕達の長男はそんなに柔ではありませんよ?」 「………最近……隼人の事は放ったらかしだった」 「………忙しかったですからね……」 榊原は強く康太を抱き締めた 慎一がやって来ると、榊原は病院に逝こうとした 慎一は「貴史は?」とソファーで寝ている兵藤の事を問い掛けた 「まだ起きねぇからな……放っておいても大丈夫だ」 「なら逝きますよ!」 玄関まで行き康太に靴を履かせると、榊原は自分も靴を履いた そして外へと出た 飛鳥井記念病院は歩いて五分もしない場所に在った 歩いて飛鳥井記念病院へと向かう 道すがら慎一は「ここ最近隼人は元気がなかったのです」と事情を話した 飛鳥井記念病院へ向かうと面会の申請をして個室へと向かう 隼人は個室に入っていた ドアをノックすると神野がドアを開けた 「康太!」 神野は康太に飛び付いた 「………逢いたかった……」 神野が退院しても中々逢えずにいた 子供達の入園式を控えて忙しかったり、ニューヨークに行ったりと忙しくしていたから、中々逢えずにいたのだ 康太は抱き着いて泣く神野に 「待たせたな晟雅」と声を掛けた 「逢いたかったです…… その想いは隼人も同じでした…… 隼人は貴方に逢えない日々に淋しくなりすぎたみたいです」 「悪かったな晟雅 お前に全部背負わせちまって……」 「いいえ……でも元気のない隼人を見るのは辛かったです 隼人は貴方に逢えない淋しさがストレスになり食べなくなり倒れた……」 神野は康太を離すと隼人のベッドへと促した 榊原と共に隼人のベッドの横に立つと…… その窶れた姿に………言葉をなくした 康太は隼人の削げた顎を撫でて…… 「………隼人……」と呟いた 榊原は隼人の頭を撫でてやった 「痩せましたね……」 「あぁ……留守番させちまったからな……」 こんな事なら連れて逝けば良かった……と康太は後悔した 静まり返った病室に久遠が入って来た 「坊主、検査するぞ!」 病室に入るなり久遠は康太にそう言った 久遠は榊原を見て「伴侶殿も検査が必要な顔してますね」とニャッと嗤った 榊原は「………僕は大丈夫です」と言ったが聞いちゃいなかった 「ついでだ!伴侶殿も一生も診てやろう!」 無茶ぶりが好きな奴らだからな!と言い久遠は笑ってナースコールを押した 『はい!どうされました?』 「飛鳥井康太と榊原伊織、そして緑川一生の検査をする 今すぐに検査の準備を頼む」 『解りました! 準備でき次第病室へ伺います』 ナースコールはそう言い切れた 康太は久遠に「隼人の病状は?」と問い掛けた 「胃潰瘍だ!穴は塞いだからな大丈夫だ お前も還って来たんだ喜ぶだろ?」 「………オレ……今夜……魔界に逝かねぇとならねぇかんな………」 だから傍にはいられない……と告げた 「なら連れて逝け! 俺も一緒に逝ってやるから大丈夫だ!」 久遠は何でもない事の様に言った 「良いのか?」 「構わん!離れた方が悪化するなら一緒にいれば回復するだろ?」 医者らしからぬ言葉に康太は笑った 康太と榊原と一生は、久遠に検査された この機会に!………と色々と検査されヘロヘロになった 検査が終わって隼人の病室に逝くと、隼人は起きていた 「康太!逢いたかったのだ!」 康太の顔を見るなり隼人は康太に飛び付いた 子供みたいにわぁんわぁん……と隼人は泣いた 康太は隼人の頭を優しく撫でてやった 「淋しかったのだ…… もう置いて逝かれるのは嫌なのだ……」 隼人は訴えて泣いた 康太は隼人の頭を撫でて「ごめんな…」と謝った 「康太……傍にいてくれる?」 うるうるの瞳で見上げられ… 康太は言葉に詰まった 「………今夜オレは魔界に逝かねぇとダメなんだ…」 「ならオレ様も逝く!」 隼人は康太に抱き着いて……もっと強く縋り付いた 久遠が「逝って良いぞ!俺も一緒に行ってやるからな!」と偉そうに言った 隼人は顔を上げて久遠を見た 「………離れなくても……良いのか?」 「離れたくないなら離れなければ良い! まぁ仕事のことは、そこの社長と相談しとけ!」 久遠は神野に話をふった 神野は苦笑して 「休みになってるからな逝っても良いぞ」と言った 隼人はホッと息を吐き出した 康太は「なら今夜迎えに来るからな待ってろ!」と宥める様に言葉にした そして現実を告げる 「オレの子供が狙われるかも知れねぇからな…… これから連れに逝って弥勒に術を掛けさせねぇとダメなんだ 少しだけ……離れてても大丈夫か?」 隼人は少しだけ淋しい顔をして……… 「我慢できるのだ…… 傍にいられると解っているなら堪えれるのだ……」 「うし!なら子供達を弥勒に逢わせて術を掛けさせたら戻って来るからな!」 康太は隼人の頭を撫でて、断ち切るように立ち上がった 「伊織、早く逝かねぇと……」 「ですね……隼人、良い子にしてるんですよ?」 「迎えに来てくれるまで寝てる」 榊原は隼人の頭を撫でて立ち上がった 「さてと逝くとするか!」 康太が言うと慎一が 「幼稚舎へ逝くのですか?」と問い掛けた 「あぁ、子供達に迎えに行かねぇとな……」 「子ども達も喜びます」 慎一は子ども達を想って言葉にした 「慎一」 「また留守にする……留守を頼めるか?」 「………っ!……お任せ下さい!」 慎一は胸を張って答えた 康太は慎一の肩を叩いた 「……頼むな」 「はい!幼稚舎には俺も着いて行きます!」 「なら逝くか」 康太と榊原と慎一は病室を出て行こうとした 一生は「俺……留守番か?」と康太に問い掛けた その声があまりにも淋しそうだから…… 「終わったら連絡入れるからな隼人の傍にいてやってくれ! 終わったらファミレスに逝こうぜ!」 「あぁ、待ってる!」 康太は一生の肩を叩いて病室の外へと出て行った 榊原も後を追い慎一と共に病室を後にした 慎一は康太に「体調はどうですか?」と問い掛けた 「久遠に検査もされたからな、大丈夫だろ? 久遠は入院が必要なら還らせねぇかんな」 「………そうでしたね」 慎一は胸をなで下ろした 康太は幼稚舎まで歩いて向かった 歩いていく道すがら、康太は慎一に説明した 「ニューヨークでの仕事は完遂しなかった だから……狙われるならオレの子が濃厚だからな……手を打つ必要があんだよ」 康太は慎一に説明した それで慎一は納得した ……が、心配した顔を康太に向けた 「大丈夫だ慎一 その対策のために弥勒の処へ逝くんだからな!」 慎一は頷いた なんの策も講じず……手をこまねいているだけの事はしないだろう 解っていても不安なのだ 主の事が心配で為らないのだ 「……俺は…貴方が無事ならそれで良いのです」 「俺は大丈夫だ慎一 我が子を遺して逝くかよ!」 康太はそう言いニカッと笑った その笑顔を見て慎一は頷いた 有言実行の康太は約束を違えないからだ 幼稚舎に着くと子供達を連れ帰る事を伝えた 連れ帰る前に少し面談を…と言われ、康太達は別室に通された 星組のみすず先生が 「お子さん達の事について……ですが」と切り出した 桃組のまつり先生も 「お子様達は元気なく淋しそうでした 佐野先生にお聞きすれば海外に行ってらしたとか?」と続けた 花組のたえこ先生も 「少し前も不在だとかで飛鳥井の兄弟は淋しそうでした ご両親のいない間、お子様達は本当に淋しそうにしてるんですよ? そんな子供達の事を知っているなら留守には出来ない筈では?」 と辛辣な言葉を投げかけた 「なんと言われようとも、オレはやらねぇとならねぇ事はある 完遂するまでは留守にして還れねぇ時もある そんな時は子供達に淋しい想いをさせてしまうだろう…… だけど、貴方達に何を言われようとも変えられねぇ 今後もこんな事は多々とある!」 康太は先生方に怯む事なく告げた 「………無責任ではないですか? 親だと言うなら……子供達の事も考えてあげてください!」 みすず先生はそう言い捨てた 「無責任?それはオレに言ってる台詞かよ?」 「……そうです!」 「それは済まなかった 無責任だと言われようがオレは歩みを止めるつもりはねぇ! オレの歩みは誰にも止められねぇ!」 皮肉に嗤われ……キツい瞳で射抜かれて…… みすず先生は言葉が出て来なかった 「飛鳥井に関与は無用と申さなかったか?」 部屋に厳しい声が響き渡った 先生方は声の方へと振り向いた そこにいたのは学園長の神楽四季と佐野春彦だった 佐野は3人の保母を冷たく一瞥して 「飛鳥井の子供に関して関与無用と申した筈だ!」 と怒気を含んだ声でそう告げ 神楽は康太の横に座った 「………担任を変えましょうか?」 「それだと解決にはならねぇ オレは子供は可愛いし大切だ 子供のためなら命を賭してでも護る覚悟はある だけど傍にずっといてやれるのかと聞かれれば…… ずっと傍にいられる訳じゃねぇ 明日の飛鳥井へ繋げるためにオレは動かねぇとならねぇ 動けねぇ真贋は飛鳥井には無用だからな…… だから子供がどれだけ寂しがっていようが、オレは傍にいる選択は出来ねぇ時の方が多い 理解して貰うしかねぇと想っている」 「………理解……出来てないのですよ……この先生方は……… ならば理解出来る担任に……挿げ替えるしかないと私は想います」 神楽は何度も何度も、康太に食って掛かる担任を更迭して新しく理解出来る担任に任せる方法を提示した 「………それでは解決にならないんだ四季…… 他の担任に変えて、後3年生活させるのか? それは無理が出るとオレは想う」 康太はそう言い担任の保母を見た 慎一が「ちょっと宜しいですか?」と珍しく口を挟んだ 「俺は飛鳥井康太の執事をしています緑川慎一です 確かに康太は留守が多いかも知れません そんな康太の状況は子供達は誰よりも熟知しています 飛鳥井康太の子で在ろうと、日々そんな感情と闘っているのです 貴方達は康太が男で伊織も男だから至らないと言っているも同然ですよ? 本当の親じゃないから、子供の痛みを理解していない………貴方達は康太と伊織にそう告げているのですか?」 図星を刺されて保母達は蒼白になった 「確かに血は繋がらぬ子ですが、康太も伊織も誰よりも親であろうと子供達と接している 無責任な親ならニューヨークから還ったその足で子供達に逢いに来る筈などない! 康太が今必死に動いているのは明日の飛鳥井を子供達に渡す為! 愛情の深さは誰にも計れはしない なのに貴方達は康太と伊織の愛をそんな世間の軽薄な親の定規で計ろうとするのですか?」 怒気を含んだ言葉は主を護って吐き出されていた 主を護る為に慎一は怒っていた 誰よりも傍で康太と榊原の苦悩を見ている自分だからこそ……… 解る事がある 「貴方達は……何処かで康太を軽視しているのですよ でなくば、その様な言葉は出ては来ません!」 慎一が言い捨てると保母達は……慌てて取り繕うとした たえこ先生が「そんな事はありません!」と叫んだ 「いいえ!親が迎えに来なくて使用人が迎えに来ているのは飛鳥井の子供達だけですか? 親が海外に行っていて淋しい想いをしているのは飛鳥井の子供達だけですか? ならば貴方達はその子供の親に今のような事を言っているのですか?」 それはしていなかった 総ての親に………そんな事は言っていない 親がいなくて淋しそうな子は確かにいた 幼稚舎に入園してから一度も迎えに来ない親もいる…… 言われてみれば………図星だった 「飛鳥井康太が男で、榊原伊織も男 そんな男同士が親だと公言しているのが、そんなに気に入りませんか? そんな親だから子供達の面倒も見られないのよ……と軽視しているからこそ、その様な言葉が吐けるのです!」 慎一は容赦なく言葉にした 子供達が入園してからずっと傍にいたのは慎一だった ずっと見て来て多々として目に余る行為を見て来た それが今回爆発したのだった 保母達は言葉もなかった 「今後、飛鳥井の子供達に関して詮索は無用にして下さい もしまた詮索されるのでしたら、指導がいるであろう生徒も指導されているか確認させて戴きます 当然ですよね? 保母が個人的な感情で動いたりはしませんよね? なれば目に余る父兄もちゃんと指導されるのですね? リストを作っておきました 入園以来親が一度も来ないのは由々しき事態ですね? ちゃんとご指導お願い致します!」 そう言い慎一は入園以来一度も親が送迎に来ていない親のリストを保母に渡した 神楽はそのリストを目にして 「実に良く観察されていますね」と言い笑った 「一度ご挨拶すれば名前と会社名は覚えます そしてその使用人達は飛鳥井家真贋とお近付きになれと指令を受けているのか、何時も何時も俺に付け届けを渡そうとする方達でしてね 嫌でも覚えます!」 慎一はもうこれ以上関与するなと釘を刺した これ以上康太に何か言うなら黙ってはいない そう言ってるも同然だった 主を護る執事の姿がそこに在った 「俺は飛鳥井康太の執事! 主を護る為でしたら受けて立つ所存です!」 子供達の事で悩ませたくはないのだ 慎一の主を想う想いが、静かに慎一を怒らせていた 冷静な人間が切れると一番怖いと………佐野は想った 神楽も慎一が喧嘩を売る姿など想像も出来なかったから驚いていた 保母は「すみませんでした」と立ち上がって深々と頭を下げた 確かに行き過ぎていた 子供達が淋しそうにしてるのを見て可哀想だと腹を立てた 何処かで男同士だから……… とか 本当の親じゃないから…… と軽視していたのは否めない 自分達は日常のイライラや不満をすり替えて……… 飛鳥井の子供達を同情する事で、優位に立っていると想っていた 飛鳥井康太の子として正式に戸籍に入っている子供達だ 太陽と大空、音弥以外は、康太の実子になっている 男の恋人がいるのに? 親だと言う 明らかに五人とも血の繋がらぬのが解る ホモが親になどなれる訳がない そんな想いは皆無じゃなかった 他の親よりも劣る 何かあれば、やはり本当の親じゃないから…… と下に見て子供達に同情していた 自分達の方こそが領域侵犯した愚か者なのだと……… 今気付いた状態だった 康太は神楽に「時間がねぇからな子供達は連れ帰る!狙われねぇように術を掛けさせねぇとならねぇからな」と言葉にした 「子供達が狙われそうなのですか?」 「オレの弱点は伊織と子供達、そして仲間だからな……… トドメを刺そうとするなら、弱点を狙うのは仕方がねぇ事なんだよ!」 「………貴方の為なら……この命などくれてやりたいのに………」 神楽は泣きそうな顔をしてそう言った 「四季、音弥を養子に貰い受けるまでくたばれねぇだろうが!おめぇはよぉ!」 康太はそう言い笑った 「………君が敷いてくれたレールの上を走ります でも……君が命を賭けて闘っていると想うと……」 神楽はそう言い顔を覆った 佐野は3人の保母達に 「康太は幾度も命を狙われて……殺され掛けたんだよ 飛鳥井家真贋 その重責は貴方達が想像する以上に激務で危ない それでも康太は逃げ道を用意せず進む 飛鳥井康太には番犬が二匹いる その一匹が緑川慎一だ 康太の為ならばその命、惜しみなく擲って完遂する 慎一をそこいら辺の執事と一緒にしてはダメだ この男は主の為にだけ生きているんだからな」 佐野は慎一を見て、そう話した 慎一は立ち上がると「逝きましょうか康太」と話し合いの終わりを告げた 「子供達を連れ帰るので下駄箱まで連れて来て下さい!」 有無を言わせぬ迫力に保母達は立ち上がると走った 康太が立ち上がると榊原も立ち上がり、康太の手を強く握り締めた 『…八つ裂きにしてくれようと想った』 天から弥勒の声が響き渡った 「弥勒?どうしたんだよ?」 『お主達が男同士だから軽視したのであろうて! 許しておくかと想ったが、慎一がキレたからな…… 出られなかったのだ』 康太は笑って 「そっか……でも心配するな弥勒 オレはそんな事では傷付かねぇ……」 『それでも腹が立つのだ!』 「なら伊織が甘露酒をもう一本増やして持って行くって!」 『………では引くしかないではないか……待っておる』 弥勒はそう言い気配を消した 榊原は苦笑して「一ダース買って届けます」と言葉にした 下駄箱まで逝くと、支度をした子供達が並んで待っていた とぅちゃとかぁちゃの姿を見ると、子供達は一斉に走りだした 「「「「「とぅちゃ!かぁちゃ!」」」」」 泣きながら親へと駆け寄っていく 康太と榊原はしゃがんで子供達を待った 流生は「がぁぢぁ どぅ″じゃ″」と泣きながら抱き着いた 音弥も「ちゃみちきゃった!」と泣きながら抱き着いた 太陽と大空は「「ろこにもいきゃにゃいでぇ!」」と榊原に抱き着いた 翔はそれを離れた所で見ていた 榊原は腕を伸ばして「翔 おいで!」と呼んだ すると榊原に抱き着いた 「翔……淋しかったですか?」 榊原が問い掛けると翔は何度も頷き 「ちゃみちきゃったぁぁぁ!」と泣いた 翔が泣く姿など予想もつかなくて保母達は唖然としてその光景を見ていた 父に甘える翔の姿があった 母は厳しい鬼になる だがその分父は優しい親になる 翔は父が大好きだった 父の前では装っている総てのモノを脱ぎ捨てて甘えていた その姿は…… 何処から見ても“親子”だった 泣いている子供達に靴を替えさせ、帰宅の途に着く 保母達は深々と頭を下げ、見送った 先入観に囚われていた そして見下していた だから早く目にすれば良かったのだ どの親子よりも強い絆で結ばれた親子を目にすれば良かったのだ たえこ先生は泣いていた みすず先生もまつり先生も泣いていた 確かな親子の絆が在った 血は繋がらぬとも、飛鳥井康太の子だった 榊原伊織の子だった 二人は子供達の親だった みすず先生は「………謝罪は必要ないですね」と口にした まつり先生も「謝罪は受けては貰えません」と言葉にした たえこ先生は「私達は謝罪ではなく誠意を込めて接するしかないのです」と決意を語った 神楽と佐野はそんな保母達を見て 「佐野……また康太は味方を増やしましたね」と呟いた 「学長、慎一は怒らせると一番怖いタイプですね」 「怒らせなければ良い執事です」 「ですね、怒らせなければ……最高の執事です」 そして顔を見合わせて 「私達は怒らせるのは止しときましょう」と笑った 「ええ。絶対に怒らせるのは止しときましょう!」 と二人で硬く誓った 飛鳥井康太の執事は主の為ならば その命、惜しみなく捧げて散るだろう 総てにおいて覚悟が違うのだ 「今回は慎一に全部持って逝かれましたね」 「そうですね。出る幕がないと言うのは今回の事ですね!」 二人は笑って歩き出した 康太がいるだけで、こんなに幸せな気分させてくれる 幾らトラブルがおころうとも、康太はトラブルの先に逝く 総てを飲み込み その先に逝く 今回の問題は保母達の意識を向上させ、プロ意識に目覚めさせた その先に何があるのか? 解るのは康太だけ……… それを見届けると決めていた 神楽はスキップしそうな勢いで歩いていた 「………学長……転びますよ」 聞きゃぁしない コテッ 佐野は神楽を支えた 「春彦がいれば私は倒れない」 神楽はそう言い歩き出した

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