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第18話 切歯扼腕
炎帝達が広場にある世界樹の前に到着すると、閻魔が待ち構えていたように側に近寄っていった
「炎帝 我が弟よ!」
閻魔は嬉しそうに弟に近寄った
閻魔の後ろには、黒龍と金龍、そして健御雷神と素戔嗚尊が待ち構えていた
炎帝は意外な存在の登場に
「………何で父者と叔父上まで?」と兄に問い掛けた
満面の笑みで閻魔は「見送りだ炎帝」と言った
見送り………
何故に………炎帝は真意を計り知れず……困惑の顔を見せた
健御雷神が炎帝に近寄り
「お主が冥府に逝くと言うからな、見送りじゃ!
絶対に還って来るんだぞ!我が息子 炎帝よ!」
息子を抱き締めた
素戔嗚尊も炎帝を抱き締めて
「炎帝、お主はまだ魔界を導かねばならぬ役務がある!
絶対に還って来るのだぞ!
青龍殿との婚姻は魔界をあげて行われるのだからな!」
と素戔嗚尊は青龍の肩を抱いて言った
青龍は【挙式】の言葉に顔がにやけた
閻魔や素戔嗚尊、健御雷神の心配は、炎帝は元々冥府の者だから………
還って来なくなるんじゃないって不安だった
炎帝は元々冥府に存在する者
魔界に還って来てくれるのか……と言う不安は常にあった
今回は青龍も共に逝くのだ……
下手したら……還らないんじゃないのか?
不安で堪らなかった
愛する息子なのだ
本当なら片時も離れたくなどないのだ
空っぽの……我が子を………
詰めてやる事は出来なかった
本当なら自分達の手で……
詰めてやりたかった
我が子の成長だけを祈って過ごした
今 青龍と言う伴侶を得て……
炎帝はストッパーを得た
その事実は冥府にとっても大きな支えとなる筈だ
炎帝は子供みたいな笑顔で健御雷神を見た
「父者、心配しなくてもオレは還って来るかんな
オレはまだ人の世を全うしてねぇんだ
明日の飛鳥井を軌道に乗せてねぇのに冥府になんか還るかよ!
冥府に還る前に魔界に還らねぇと、青龍の妻になれねぇじゃねぇかよ!
オレは……正妻として青龍の横に立ちてぇんだ……
青龍の側で生きてぇんだ
ずっと……ずっと……見ていた青龍の傍で生きていてぇんだ……」
炎帝は涙ぐみながら青龍を見た
青龍は炎帝を引き寄せて強く抱き締めた
「僕の妻は未来永劫……炎帝、君だけです」
「………青龍……」
青龍を抱く手に力を込めた……
隙間もなく抱き合うと……
「おい!苦しいって!」と怒気を含んだ声がした
「寄ると触ると引っ付きやがって!」
怒る声の主は赤龍
龍で青龍の兄だった
炎帝はポケットの中を覗き込み
「すまねぇ……潰れてねぇか?」と声をかけた
「………潰れてねぇ!
でも死ぬかと思った」
「すまねぇ赤龍
お詫びにその姿のまま人の世に還ってやんよ!
力哉にその可愛い姿を見せてやれよ!
それで手を打ってくれ!」
「………力哉が驚くだろ?止めとこうぜ……」
「驚かねぇよ!
ちゃんとお前だって解るさ」
炎帝が言うと朱雀が
「………蛇だぜ?ぜってぇに解らねぇだろうが!」と言い捨てた
「力哉には解る!」
「いいや!解らねぇ!」
「賭けるか?朱雀」
「良いぜ!賭けてやるさ!
で、幾ら賭けるんだよ」
「オレの今月の残りの小遣いは一万円だ!」
「なら残りの小遣いを賭けるのかよ?」
「そうだ!でもオレが勝つ!」
「お前の残りの小遣いは俺が貰う!」
朱雀は親指を立てて笑った
「言ってろ!バカボンド!
最後に笑うのはオレだ!
さてと、逝くとするか!」
炎帝は世界樹の木の傍に立った
「兄者、父者、金龍、黒龍
還ったら宴会しようぜ!」
炎帝が言うと黒龍が片手をあげた
「あぁ、なら用意しとく!
………無事に還って来い!」
「友よ!オレの唯一無二の友よ!
オレは何時だってお前に無事な姿を見せなかったか?」
「………だな……友よ……待ってるからな」
黒龍を見て笑うと…それを断ち切る様に天を仰いだ
そして呪文を唱えるた
「 הקטקומבות של ספר בראשית 」
すると体躯が緑色に光り………
吸い込まれる様に異空間に墜ちた
「うわぁぁぁ!」
朱雀は叫んで、鳥に姿を変えて落下に耐えた
転輪聖王は浮いていた
青龍と炎帝は手を繋いで互いだけを見詰めていた
「一旦 冥府で下りる
正装に着替えてから再び世界樹の下へと下りることにする」
炎帝が言うと朱雀が「正装?」と問い掛けた
炎帝は「皇帝炎帝の服を着ねぇとならねぇんだよ」と返した
「…………皇帝炎帝の服をわざわざ着るのかよ?」
「あぁ、礼を尽くさねばなぬ存在だからな」
そう言われれば朱雀は何も言えなかった
冥府に下りると、皇帝閻魔が炎帝を待ち構えていた
「皇帝炎帝よ!地下へと下りるのか?」
「親父殿、オレの正装はまだ遺してあるのかよ?」
「お主のモノは何一つ処分はしておらぬ
逝くが良い………着替えて来るがよい!」
「なら着替えて来る
伴侶は………構わぬか?」
「あぁ、伴侶は構わぬ
だけど皆様には此処でお待ちいただこう」
「なら親父殿、少し持っててくれ!」
炎帝はそう言うと赤い蛇を皇帝閻魔の手の上に乗せた
「着替えて来る間持っててくれ!」
「仕方がない……暫しの間、持っていてやろう
お主が忘れたら冥府から出られなくなるからな……」
皇帝閻魔は赤い蛇を手のひら乗せて笑っていた
皇帝炎帝は父に赤い蛇を預けて、青龍と二人で歩いていった
皇帝閻魔はそれを見送り、赤い蛇にキラキラ光るビー玉を見せた
「赤いの、食べるか?
お主が食べると想い用意した」
赤い蛇は皇帝閻魔の手の中のキラキラしたビー玉みたいなのを見た
「それは何なんです?」
「これは世界樹の雫だ
冥府の下層に逝くのなら……食べなさい
お主の体躯では持たぬかも知れぬからな……」
赤い蛇は大きな口を開けた
皇帝閻魔はその姿を見て
「少しは疑わぬのか?」と問い掛けた
「貴方が嘘をつくとは考えられませんから……」
「………毒かも知れぬ…とは考えぬのか?」
「炎帝の親父殿なら……そんな事はしねぇだろうから……」
赤龍の言いぐさに皇帝閻魔は笑った
「口をあけよ」
赤い蛇が大きな口を開くと、キラキラ光るビー玉の様なモノを口の中に入れた
赤い蛇はそれを美味しそうに口の中でゴロゴロ動かして食べていた
皇帝閻魔はそんな小さきモノを優しい瞳で見ていた
「誠……お主は炎帝の仲間……よく似ておる」
皇帝閻魔はそう言い、赤い蛇を撫でた
「アレと共に逝くか?」
「はい!人の世も魔界も………冥府でも共に………
それしか望んでません……」
「そうか……でも冥府でも共は難しい
炎帝が魔界を去る時、冥府希望者が後を絶たぬからな………
なぁ、転輪聖王……」
皇帝閻魔は退屈そうな顔をしている転輪聖王に声をかけた
「我にふりますか?
…………まぁ……アイツのいない世界は退屈で永遠の眠りにつきたくなる故……
傍にいたいと想うのです
アイツは何時もギリギリ……自分の命を削って生きている
だから目を離したくない……と言う事です」
「だが、お主や朱雀は変わりのおらぬ存在………
共になど逝けはせぬ……」
「共に逝くしか考えてねぇな」
転輪聖王はそう言い笑った
皇帝閻魔の横に立っていても遜色のない存在として見えた
「………転輪聖王……やはりお主は食えぬな……」
「我が心許した存在は唯一人
退屈で数万年の眠りについていた我を叩き起こし
退屈なんて感じねえようにしてやんよ!
と我に言い捨てて叩き起こした責任は取って貰わねば……」
「処で聖王、炎帝よりも大切な存在は放っておいてもよいのか?」
「…………貴方までもが……我の古傷を……チクチクと申すのか……」
炎帝の心を手に入れたくて………
奮起した時があった
だが炎帝は何も欲しない
その瞳に………自分を映して欲しかった
だが……手に入らないジレンマに転輪聖王は逃げるしかなかったのだった
鎖に繋いで……
自分しか愛さない様に抱いたとしても……
その瞳に自分が映る日は来ない……
そんな絶望に……転輪聖王は炎帝に背を向けた
『共に生きる存在の為に生きたいから……』と。
その日からずっと影ながら炎帝を見て来た
惰眠を貪り……炎帝を視て来た……
人の世に堕ちた炎帝と青龍を見て傍に行きたい想いが止められなくなった
耐えきれず人の世に堕ちて、飛鳥井康太の傍に一足先に生まれ落ちた
焦がれる程に……共の時間を欲した
暫しの間で良い………共に生きたい
その願いで傍へと下りた
皇帝閻魔の目には……何もかもお見通し……だったと言う訳だ……
転輪聖王は肩を竦めて……
「もう虐めないで下さい……」と頼のみ
「我は貴方の一番の手駒だった筈だ……」ボヤいた
皇帝閻魔は笑って
「お前を手駒だとは想った事はない
一番信頼の厚い部下として扱ったであろう?」
「…………貴方には何時も意地悪されましたけど……」
拗ねた様に言うと皇帝閻魔は爆笑した
「可愛い子程、虐めたいモノだ」
「何処のいじめっ子の台詞ですか?それは………」
皇帝閻魔は、転輪聖王の頭を撫でて
「お主は変わらぬな……」と呟いた
「…………我は………貴方の大切な……炎帝を奪った……
恨んでおいでか?」
皇帝炎帝を魔界へ呼び出したのは、転輪聖王を始めとする古来の神々だった
健御雷神と天照大神が頭となって、転輪聖王が取り計らった
冥府で評判の破壊神 皇帝炎帝を呼ぶしか………
天界に適う術はないと……編み出した苦肉の策だった
どんな理由があれ………
古来の神々が皇帝閻魔から息子を奪った事に変わりはなかった
一度は仕えた君主だった
「…………今となっては恨んではおらぬ
皇帝炎帝が伴侶を得た……その時間は皇帝炎帝にとって大切な時間だったのだからな……」
空っぽの中身を詰めてやる事が出来なかった
愛する妻と我が子を………
早世で逝った弟を‥‥‥
繋ぎ止めたのは皇帝閻魔だった……
創造神さえも危惧する存在をこの世に生み出したのは………皇帝閻魔だった
皇帝閻魔は朱雀の顔を見て………
「………お主は……世界樹の夢を……視たのか?」
と朱雀に問い掛けた
朱雀は「………世界樹の夢か知らねぇが夢は見た……」と伝えた
「………そうか……輪廻の神を連れて来たのは……
そんな意図があると言う訳か……」
「どんな意図かは知らねぇが、炎帝が動けというなら俺は動く!」
「………転輪聖王……」
「みなまで申すな皇帝閻魔よ………」
皇帝閻魔は空を見上げ、我が子を想った
皇帝炎帝
お前の逝く道は……
険しい茨の道だろう
それでも逝くか?
我が息子 皇帝炎帝よ……
なれば……父もお前の為に……
この命擲ってでも………
皇帝閻魔は愛する息子を想った
炎帝は青龍と共に冥府の奥まで歩いて逝った
歩いて行くと目の前に真っ赤なお城みたいな家が姿を現した
「アレがオレの家だ」
このお城のような家が?
青龍は思わず霧から姿を現したお城のような家を見ていた
門の前に立つと、門はギィィィーと錆び付いた音を立てて開いた
炎帝は当然の様な顔して門を通った
青龍は炎帝と共に門を通って玄関へと向かった
……………玄関の前には…………
何人いるの?…………と言いたくなる程のメイドが立っていた
そして一人の紳士が炎帝の前に立った
「お帰りなさいませ皇帝炎帝様」
年の頃なら四十代半ばの渋い、かなり整った顔をした男が炎帝の名を呼び傅いた
「クライス、還って来た訳じゃねぇ!
着替えに来たんだよ!」
炎帝は笑って、傅く男にそう言った
「皇帝炎帝、お隣の方をご紹介願えませんか?」
「オレの伴侶の青龍だ!」
「この方は皇帝閻魔公認の方なのですね?」
「それしか家に逝けとは言わねぇだろうが………
親父殿はあぁ見てえ誰よりも頑固者じゃねぇか!」
「では、この方が皇帝炎帝様の御伴侶様、と言う事で宜しいのですね?」
「おー!オレの愛する存在は未来永劫、青龍 唯一人!」
「そうで御座いますか!
なればお還りになる時はご一緒と言う事で宜しいのですな?」
「そうだ!」
炎帝が言うとクライスは青龍の手を握ってブンブン振り回さんばかりに手を握り閉めた
「青龍様 我等は皇帝炎帝様の家の使用人で御座います!
我等の主は未来永劫 皇帝炎帝様一人ですが、皇帝炎帝様の御伴侶様と言う事でしたら、我等は青龍様!貴方にもお仕えいたします!
以後お見知り置きを!!」
「青龍です!宜しくお願い致します」
青龍はそう言い軽く礼をした
「炎帝様は面食いであられる!
本当に男前であられますな!」
クライスは親心丸出しで泣いていた
そんなクライスにイラッとして炎帝は
「オレは下へと逝かねぇとならねぇんだ!
喜びを分かち合うのは還って来てからにしてくれ!」
「おおお!そうでした!
皇帝閻魔に謂われまして正装のご用意してあります!
伴侶様の対の正装もご用意してあります
ご一緒にお着替えなさって下さい」
クライスは深々と頭を下げた
炎帝はその横を通って、自分の主賓室へと向かった
階段を上がってすぐの部屋を寝室として使っていた
炎帝はドアを開けて部屋の中へと入った
部屋を開けてすぐに見えるのは高級感溢れる調度品とお洒落なソファーだった
踏み込むと足が沈む絨毯……
その絨毯をズンズン踏ん付けて炎帝は歩いた
寝室のドアを開けると………
天蓋付きのベッドが目に入った
10人寝ても余裕なベッドがドデーンと待ち構えていた
そんなベッドを置いても余裕の天井と部屋の広さに………
青龍は言葉もなかった
炎帝はクローゼットを開いて正装を取り出すと、服を全部脱いだ
「青龍、大人しく待っている奴等じゃねぇかんな!
急がねぇと………」
裸の炎帝に正装を着せていく
魔界で散々犯ってなくば……押し倒していた……
と想える程に全裸の炎帝は可愛く……
青龍は押さえるのが大変だった
青龍は炎帝の着替えを済ませると、自分の着替えもした
薄い蒼の正装に炎帝はうっとりとして青龍を見ていた
「………王子様………みてぇだな……」
炎帝は呟いた
「私の総ては君のモノですよ?」
青龍は優しく笑って炎帝を引き寄せて、抱き締めた
そしてその唇に優しく口吻けを落とした
「なら逝くか?」
「ええ。何処までも貴方と共に……」
青龍はそう言い繋いだ手の甲に口吻けを落とした
そんなキザな事でも様になる男にノックアウトされて、炎帝は苦笑した
炎帝は「………つむじにキスして……」と呟いた
青龍は抱き締めた炎帝のつむじに口吻けを落とした
するとみるみるうちに………紅蓮の髪の毛が伸びて……足首まで靡いていた
皇帝炎帝……そのものだった
真っ赤な髪に、真っ赤な瞳
その瞳には総てのモノが映し出されると言う……
皇帝炎帝は青龍と手を繋いで、部屋から出た
階段を下りて玄関まで逝く姿を、執事のクライスはずっと見ていた
皇帝炎帝の瞳は、生気漲る強さがあった
青龍の手を取り立つ姿は……一対の絵画を見ている様にしっくりと来ていた
メイド達は青龍の姿に感嘆のため息を着いていた
そして、その横の皇帝炎帝の姿にも……
見事な対の姿に仕える者は嬉しくて……泣いていた
「………誠………見事な一対のお姿………
クライスは……主のこの様なお姿を目に出来て………
本当に幸せで御座います」
クライスは目頭を押さえて主に傅いていた
「クライス、この服は後で八仙に届けさせるかんな!
ちゃんと保管頼むぞ!」
「総て承知しております!
それでは……行ってらっしゃいませ皇帝炎帝様、青龍様」
皇帝炎帝の家の使用人は深々と頭を下げて見送りした
皇帝炎帝は青龍の腕に手を掛けて、エスコートされて出て逝った
メイドや執事のクライス達は、皇帝炎帝と青龍が出て逝っても……頭を上げる事はなかった
我が主……皇帝炎帝よ
どうかご無事で……お還り下さい……
皇帝炎帝の力を見せつけられて……
皇帝閻魔の後を継ぐ者が……自ずと知れた
もう変わりのない存在
その方が皇帝炎帝だと想うと、使用人達は誇らしかった
屋敷を出た皇帝炎帝は「………んと、肩凝るぜ…」とボヤいた
「………凄いお屋敷ですね」
「兄上達も屋敷に住んでる
当然 親父殿もお城に住んでる
我等は四天王の門を離れる訳にはいかねぇからな……門の傍に住むしかねぇんだ」
冥府の四天王
その存在は青龍だって知っていた
東西南北、四方の門を護る冥府の門番
彼らは誰よりも中立で何処にも属さぬ存在でなくばならない
こうして目にすると………
皇帝炎帝と言う存在が重くのし掛かっていた
皇帝炎帝の………存在は大きい
「青龍……」
「何ですか?」
「何処へ逝こうともオレはオレだ!
お前を愛す心は変わらねぇ……だろ?」
「そうした……未来永劫愛を誓ったのは貴方だけ……」
青龍は繋いだ手を強く握り締めた
「愛してる青龍」
「愛してます炎帝……君しか愛せません」
「だったら離れずに生きなきゃな!」
「ええ……離れたら狂います……」
皇帝炎帝と青龍は世界樹の元に戻って来た
紅蓮の髪をした姿に………皇帝閻魔は思わず息子を抱き締めた
「………よく……似合ってます……
青龍殿も……よくお似合いだ」
「………皇帝閻魔……ありがとうございます」
「我が息子……皇帝炎帝よ……
お主の逝く道が……光り照らされます様に……
父は何時もお前の無事を願っておる」
「親父殿……」
皇帝閻魔は息子を離すと、天高く両手を仰いだ呪文を唱えた
「逝くが良い」
世界樹の根元が緑色に光り輝くと……根元にいた存在も包み込む様に光った
皇帝閻魔はその光から離れて我が子を見た
「気を付けて逝くがよい!」
そう言い更に呪文を唱えた
すると光りに吸い込まれる様に………皇帝炎帝達の体躯は光りに吸い込まれて逝った
吸い込まれる瞬間 皇帝閻魔は赤い蛇を皇帝炎帝の方に放った
赤い蛇は………プカプカ浮いていた
「……………吐くから……ポケットに入れろよ!」
赤い蛇がボヤいた
「吐くなよ……吐いたら捨ててくかんな!」
酷い謂われようだが……
赤い蛇はうんうん!と頷いた
胸ポケットにやっとこさ入れられ、赤い蛇はホッと一息ついた
かなり地下へと下りて逝くと、突然ドスンッと底に止まった
そこは………真っ暗な陽の光も差さぬ場所だった
皇帝炎帝は赤い蛇を掌の上に乗せると
「照らしてくれ!赤龍」と頼んだ
「……え!!俺にそんな力……あるのかよ?」
「親父殿が食べさせてくれたろ?」
「あぁ食った」
「なら光るはずだな!」
皇帝炎帝は赤い蛇の体躯を擦ると……辺りが明るくなった
赤い蛇の体躯は発光していたのだった
「………俺……電気代節約出来ちゃう?」
赤い蛇は不安そうな声で呟いた
「心配するな赤いの
人の世に還れば反応はしねぇよ!
お前が飲んだのは世界樹の雫だ!
世界樹の傍にいかねぇのなら反応はしねぇよ!」
「………そっか……こんなに光ってちゃ……夜は歩けねぇと思った」
「心配するな赤いの
ちゃんと力哉の元に届けてやるかんな!」
「………炎帝……」
炎帝の想いが嬉しかった
赤い蛇は緑色の光放ち、みんなの足下を照らした
真っ暗闇の中、炎帝達は歩いた
「………前に来た時はこんなに暗くはなかった筈だぜ?」
炎帝はあまりの暗さに呟いた
青龍は炎帝の腰を抱き
「気を付けて下さいね
転びそうになるなら抱き上げて連れて行きます」
と念を押した
炎帝は嬉しそうに笑った
「それも良いな」
炎帝が言うと「………歩きなはれ!」と赤い蛇がボヤいた
炎帝は青龍と手を繋いで歩いていた
「………此処は……何時から……暗闇しかない場所になったんだ?」
皇帝炎帝は誰に言うでもなく呟いた
世界樹の根元まで祝福された光は差し込み
闇は浄化されていた筈だ…
此処は……地下の墓場か?………
この地には……誰もおらぬと言うのか?
炎帝は辺りを見渡した
前に一度、地下に下りた時には陽は差し込み
闇は浄化されて光り輝く大気に包まれていた筈だった
ニヴルヘイムが創世記以前より司る世界だった
この地球(ほし)全ての浄化
ニヴルヘイムは、この世界を一つに繫げる世界樹の根の一つに生息し
フヴェルゲルミルの泉に総ての闇の浄化を司る役務に着いていた筈だ………
何故……?
何処にもいない?
そして此処はどうして………真っ暗の深淵と化しているのだ……
皇帝炎帝は天を仰ぐと
「…………てめぇ………知っててオレを来させたのかよ?」
と怒気を露わに呟いた
声はない
届かないのか
答える気がないのか?
「んな暗くちゃ何も見えねぇ!
弥勒、闇を祓えよ!」
皇帝炎帝は無茶ぶりを転輪聖王に押し付けた
「………この闇は我に祓える代物か?」
「朱雀がいるから取り敢えず闇祓いして見ろよ」
皇帝炎帝が言うと転輪聖王はぶつくさ文句をたれた
「………誠……お主は人使いが荒い!」
ぶつくさ文句を言いながらも闇を祓う呪文を唱えた
「朱雀、取り敢えず闇祓いの呪文を飛んで拡散してくれ!」
朱雀も「……んとによぉ…人使いが荒過ぎる」と言いながらも鳥に変身して転輪聖王の呪文を受けて、拡散する様に飛んだ
…………だが………闇はびくともせず……真っ暗な深淵の中だった
朱雀は、ハァハァ息を切らして
「…………無理だ!」と言い、ドサッと人に姿を変えて倒れた
「仕方ねぇな……」
皇帝炎帝はそう言うと、手に見た事もない錫杖(しゃくじょう)を手に出した
「六道輪廻の錫杖
錫杖 一法界の総体であり
神が謬し道に赴く時、正す智慧の杖であり
三種ありその功徳を説く!
一. 声聞の錫杖‐二股四環・苦・集・滅・道の四諦を表す!
二. 縁覚の錫杖‐四股十二環・十二因縁を表す!
三. 菩薩の錫杖‐二股六環・檀・戒・忍・進・禅・慧の六波羅蜜を表す!
菩薩の錫杖を用い、これを振ることにより
六道輪廻の眠りを覚まし、現世に帰入する(元へ還る)!」
そう言い皇帝炎帝は錫杖を振った
錫杖に着いた鈴の音が………
暗闇に響き渡った
転輪聖王は皇帝炎帝が出した錫杖に見覚えがあった
六道輪廻の錫杖
菩薩が軌道修正の為に鳴らす鈴の音だった……
まさか………皇帝炎帝が菩薩の持ち物を出そうとは想いもしなかった転輪聖王は言葉もなかった
皇帝炎帝が鈴を鳴らすたびに、辺りは薄らと明るくなって行った
転輪聖王は皇帝炎帝に
「それは……菩薩の……錫杖か?」と問い掛けた
「六道輪廻の錫杖だ
神々の神器は元は皇帝炎帝のモノだ!
神器は呼べば何時でもオレへと還る!」
「…………ケチな菩薩が貸してくれた訳じゃない……よな……」
転輪聖王がボヤくと皇帝炎帝は爆笑した
「神器は創造主が呼べば来る様になってるんだよ
さぁ、無駄話は後で良いだろ?
お前達はニヴルヘイムを探せ!」
皇帝炎帝はそう指示すると走り出した
青龍は皇帝炎帝の傍を離れず、一緒に走った
朱雀は鳥になり、全体的に見渡していた
闇は少しずつ晴れて祝福された光が差し込み始めていた
鳥になって辺りを伺っていた朱雀が………
フヴェルゲルミルの泉に横たわる人を見つけた
「炎帝!いた!」
朱雀の声を聞き付けて皇帝炎帝は走った
青龍は皇帝炎帝を抱き上げると走った
フヴェルゲルミルの泉まで逝くと………
皇帝炎帝は愕然と膝を折った
転輪聖王が湖の上を歩き
ニヴルヘイムの亡骸を抱き上げて、皇帝炎帝の傍へと連れて来た
皇帝炎帝はニヴルヘイムの体躯に触れた
「…………間に合わなかったのかよ!」
皇帝炎帝は悔しそうに吐き捨てた
『また逢おう!』
そう約束したのに………
間に合わなかったというのか?
皇帝炎帝は………骸となった姿を抱きしめた
闇を押さえられなかったのは皇帝炎帝だ
もっと早く逢いに行って……
孤独な魂を救ってやりたかった
間に合わなかった
その孤独な魂を………
創造神の元へと還してやりたかった
だから朱雀を連れて来たのに………
最期位は………
看取られて逝きたかったに違いない!
それを……してやれなかった……
無念さに皇帝炎帝は泣いた
「………何でだよ……何で孤独に逝かせた!」
皇帝炎帝は怒っていた
“愛しき子よ……闇が深すぎて……
我でも近寄る事は……出来なかったのじゃ……”
「………天地創造の前より……一人だけこんな所へ追いやられて……アイツは孤独に消えそうだとオレに言ったんだ!
そりゃそうだろ?
一人でこんな場所にいろと言われて……耐えれる方がおかしいだろ?
誰か……愛する人を……傍に置いてやれば良かったんだ!
そしたら……アイツだって………
この闇よりも深い孤独から解き放たれたかも知れねぇのに………
ニヴルヘイムを殺したのは………てめぇだ!」
“なんと言われようとも……我の失態……”
「…………ニヴルヘイムに関わらず………天地創造から生きてる神々は疲れてる
親父殿も然り……
親父殿は何時消えても良い様に………体躯の八割をオレの体躯へと移植した
あんたも神なら……知ってるんだろ?
消えたがっているんだよ
親父殿も………天地創造より共にした神々は総べて……疲れ切っているんだよ」
切っ掛けさえ在れば………
神々は消え入る算段を始めるのだ
永らく生き長らえると言う……拷問から解き放たれる為に………
“…………総べては……決められし理なのだ……”
「………そう言うあんたが……一番消えたがって絶望してるんじゃねぇかよ………」
“……………!!………っ………”
皇帝炎帝はニヴルヘイムの亡骸を抱き締めて涙した
すると………湖に……ニヴルヘイムの残像が姿を現した
『皇帝炎帝……貴方がこれを見ていると言う事は……私はもうこの世にはいないと謂う事なのです……
私は貴方に逢う日までは………と頑張って来ました
貴方の姿を湖から見るのは楽しかった……
この命……闇に負けそうだと想った時……
私はやっと死ねると想った片隅で……まだ死にたくはない……と想っていました
貴方に逢う日まではやはり死にたくはない……
そう思っていたのです
ですから……日々……命を削って浄化しました
浄化が追い付かなくなって……
命の灯火が消えそうになって……
私は貴方にメッセージを遺そうと想いました
きっと……逢いに来てくれた貴方は……悔やむだろう……
だから……私は最期の命を使って……これを遺しました
皇帝炎帝……天命を全うしたのです
私の魂は……貴方へと還る事にしました………
最期に………たった一つの我が儘です……
私は何も持たぬ人になり……貴方へと還ることにした……
貴方の子供になりたい……
あの方は……その望みを叶えてくれそうなので……
今暫し一時……共に過ごして下され……
皇帝炎帝……たった一つの我が儘……だと許してください………』
ニヴルヘイムは健やかな顔をしていた
「………ニヴルヘイム……オレの子に……墜ちたか?」
皇帝炎帝は呟いた
「………全部知ってて……オレをこの地に下ろしたのは何故だ?」
皇帝炎帝は悔しそうに………そう呟き……地面を殴ろうとした
その手を………青龍が掴んで止めた
「………こんなの……許せねぇじゃねぇかよ?」
皇帝炎帝は泣いていた
その体躯を青龍は引き寄せて抱き締めた
何も言わず……
優しく……ただ抱き締めた
「…………オレを……此処に来させた目的を言え!」
“ニヴルヘイムの後継者を……お主が決めろ……”
「…………それは創造神の仕事だろ?」
“共に……過ごした時はお主の仕事であった筈だ
我が愛しき子よ………正しい道に導くのじゃ”
「オレはおめぇの愛しき子じゃねぇ!
親父殿に言ってろ!」
“彼奴に言うと、皇帝炎帝に言えという”
「知った事か!」
“困った親子じゃのぉ……”
声はそう言い……ハッハッハッと笑った
「てめぇに扱き使われた日々に……愛された記憶なんかねぇよ!
あれば、こんなに壊れて生まれちゃいなかった!」
“皇帝炎帝よ
適材適所 配置するがよい
それがお主の生きる使命なのを忘れるな”
声はそう言い消えた
「好き勝手言って消えやがって!」
皇帝炎帝はボヤいたが………
もう声は聞こえる事はなかった
ニヴルヘイムの亡骸はサラサラと音を立てて……
消えて逝った
魂は既に転生をしている証拠だった
フヴェルゲルミルの泉はキラキラと光を取り戻して光り輝いていた
皇帝炎帝は何やら難しい顔をして思案していた
青龍は皇帝炎帝を抱き上げて泉の傍へと行って、芝生の上に座った
膝の上に皇帝炎帝を乗せて、青龍は泉を見ていた
「綺麗な場所ですね炎帝」
「だな……此処を闇に染めてはいけねぇんだ……
番人はいる……
でも一人で永遠の時間を生きるのは苦痛にしかならねぇかんな」
「なら順番で見張ってれば良いんじゃないんですか?」
「………誰がこんな淋しい場所に来たがる?」
「妖精とか好きそうな場所ですね」
「………妖精?そっか妖精……順番に番をさせるか
オレが冥府の時を終わらせたら青龍と二人、番人になるのも良いな
お前と二人なら……オレは何処ででも生きられる」
皇帝炎帝はそう言い青龍に抱き着いた
青龍の首に腕を回して……キツく縋り付いた
「私も君と共にいられるなら……場所は何処でも構いません」
青龍はそう言い皇帝炎帝の唇に口吻けた
皇帝炎帝は青龍の両頬を引き寄せると……
額と額を合わせた
「愛してる青龍」
「愛してます炎帝」
すっかり二人の世界だった
朱雀は転輪聖王を肘で突っ突いた
転輪聖王はお返しとばかりに、朱雀を肘で突っ突いた
皇帝炎帝の胸ポケットに入っている赤い蛇は
「妖精王を呼べば良いですがな!」と言った
皇帝炎帝は恨みがましい瞳を赤い蛇に向けて……
「お前……今 物凄く簡単に言ったな……」とボヤいた
赤い蛇は知らん顔していた
皇帝炎帝は転輪聖王に向き直った
「と、言う事で呼んでくれ!弥勒!」
そう言い転輪聖王の肩に手を置いた
「…………それは無理……釈迦辺りに頼めば?」
転輪聖王は妖精王が苦手だった
「釈迦は惰眠を貪ってる頃だろ?
起こしたら不機嫌で……とばっちり食いたくねぇ…」
「なら朱雀に頼めば?」
転輪聖王はサラッとそう言った
フラれた朱雀は「……バカッ……俺にふるな!」と怒った
皇帝炎帝は朱雀の肩をホールドして
「朱雀、呼んでくれ!」と言った
「……あの方は気難しい…八仙に頼んだ方が……」
と、しどろもどろになり……言った
「仕方ねぇな、この地は皇帝炎帝が封印するしかねぇな!」
皇帝炎帝はそう言い紅蓮の髪を振り乱し、始祖の御劔を手に出した
皇帝炎帝が御劔を振り翳すと、フヴェルゲルミルの泉の廻りを焔が取り囲んだ
焔が走る
燃えて円陣を出して逝く
「 מיקום זה הוא להבה הקיסר קיסר לאטום!
כל הזכויות שמורות ל צעד כמה אומרים רגל 」
呪文を唱えながら焔を操り封印する
紅蓮の焔が辺りを包み燃え上がっていた
誰一人動こうとはしなかった
その焔に焼かれれば骨さえ遺さず跡形もなく焼き尽くされるのを……知っていた
無傷で済むのは契った者のみ
後は………総べて昇華してしまう
封印が終わると焔は鎮火した
「取り敢えず魔界に還るか……」
皇帝炎帝は疲れた顔をしていた
全員立ち上がり皇帝炎帝の傍へと近寄った
緑色の光が全員を包み込むと……
体躯は上昇して逝った
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