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第21話 蠱毒
魔界から帰って暫くした頃
康太と太いパイプを持つ前財務大臣 鳩村恒星が急逝した
康太は腑に落ちない気分で、葬儀の日を迎えた
その日 飛鳥井の家に一人の青年が訪ねて来た
慎一はその日、康太のお供をすべく家にいた
喪服に着替えていると、兵藤から電話が入った
『慎一、黙って聞け』
電話に出るなり言われて、慎一は息を潜めた
「はい。」
『飛鳥井の家の前に見知らぬ男が立っている』
「………え?チャイムは鳴っておりませんが?」
『かれこれ3時間……玄関の前に立っている
用があって出かけた俺が見掛けて、帰ってきてもいたからな……知らせといた方が良いと想って電話を入れた』
「………ありがとうございます
これから見に行きます」
『俺も逝く!』
兵藤はそう言い電話を切った
慎一は支度もそこそこに階下へと下りていった
玄関まで出向いて、ドアを開けた
すると目の前に………かなりの男前な男が立っていた
役者と言っても通用する顔に、上質な………喪服?に身を包み……
小さな箱を抱えていた
慎一が声をかけようか……躊躇していると……
兵藤がやって来た
兵藤は青年に目を向けた
そして………後ろに……後退った
「…………何てぇのを……持ってるんだよ……」
兵藤の顔が青褪めるのを慎一は見逃さなかった
慎一はどうしたら………と思案していると奥から声がかかった
「慎一、入って貰え!
鳩村遊星、入ってこい!」
慎一が振り向くと康太が立っていた
慎一は「………康太の客人なのですか?」と尋ねた
「オレに逢いに逝けと生前に謂われていたか?」
康太が謂うと遊星と呼ばれた青年は康太に深々と頭を下げた
「…………父が……生前……死因が解らぬ死に方をしたら、飛鳥井の真贋を訪ねろと……申してましたので……参りました」
「上がれ!」
康太は謂うとスタスタ応接間に入って行った
応接間に入り、何時ものソファーにドサッと座ると………
遊星がソファーに座るのを待った
康太は遊星の手の中の筺に目を向けた
「その筺は?」
遊星は筺に目をやり………
「父の容態が急変したので病室に向かうと………
この筺が置いてありました
僕は……この筺を持って病室を出ました
すると……この筺を追って……僕を消そうとする輩に襲われました……
で、確信しました
父は殺されたのです!
それを確かめるために……父が生前遺した言葉の通り、真贋に逢いに来ました」
よく見れば、遊星の体躯には怪我があった
かなりの妨害の中逃げて来たのが解った
「帝釈天はお前を守護してオレの所へと導いたのか?」
「………え?……僕は……護られていたのですか?」
「お前の親父が残りの命を擲って十二支天に助けを求めたんだよ
だから十二支天は鳩村恒星の声を聞き届けて、お前を護ってオレの所まで無事に来させた
だよな?毘沙門天」
康太が声をかけると毘沙門天が姿を現した
「…………帝釈天が……蠱毒の毒気食らって……八仙の所へ治療に行っておる………
それ程の攻防戦だったと謂っておこう」
毘沙門天は姿を現すと、経緯は話さずに、帝釈天の事だけ話した
遊星は言葉を失った
毘沙門天は遊星の手の中の蠱毒に目をやった
「………どうするのよ?これ?」
「遊星、オレが良いって謂ったら筺を離せ」
「わ……解りました……」
遊星は今になり恐ろしくなり……体躯が震えた
「兄者、地獄の釜を開いてくれ……」
康太は天を仰いで言葉にした
すると……時空を超えて閻魔が姿を現した
「丁度 崑崙山におったのじゃ!
八仙が飛ばしてくれたのでな、本体で来た
この方が早いからな……」
真紅の燕尾服に似た服を来た美丈夫が、弟を見て嬉しそうに笑った
「兄者……この筺は人の世にあって良い筺じゃねぇ……」
「その様だな……火炎地獄で焼けば呪いの総ては掛けた本人に返る………それでよいか?」
「仕方ねぇだろ?
政界から重鎮が……この世を去る事となるが……
仕方がねぇだろ?
閻魔は鳩村遊星の足元に呪文盤を出すと筺が辿るべき呪文を唱えた
Curses, like chickens, come home to roost.
(呪いはひよこがねぐらに帰るように我が身に返る)
Curses return upon the heads of those that curse.(呪いは呪う人の頭上に帰ってくる)
Harm watch harm catch.
(災いに目を向けていると災いにあう)
総ては自分自身が招いた祟りだ…返るのは必須
では……地獄の釜を開いてやろう!」
閻魔は手にしている錫杖で大きく薙ぎ祓うと
遊星の足元に………黒い小さな渦巻きが出来て来た
その渦巻きは大きく回りながら闇を広げて逝った
パックリ口を広げた闇が………
遊星の足元に広がった
遊星は底なし沼の様な闇に………
墜ちてしまいそうな恐怖を抱いた
下を向けば……
真っ赤な焔が燃え上がっていた
「その足下の空間は無間地獄と繋いだ
地獄の釜が今開いた!」
閻魔がそう言うと、足下の焔が燃え上がった
「遊星、筺を堕とせ!」
遊星は震える手で………筺を足元に落とした
筺は………遊星の手から離れ………
暗闇の中へと墜ちて逝った
闇の中から蠢く声が聞こえた
魑魅魍魎……蠢く声が聞こえた
その声を掻き消すかのように………
【うぎゃぁぁぁぁぁっ!!!】
と言う声が響いた
遊星は震えた
閻魔は空間を遮断した
「…………厄介なモノ故に我は魔界に還らねばならぬ………ではまたな我が弟 炎帝よ」
閻魔は康太を抱き締めて………
離れると姿を消した
遊星は目の前で繰り広げられている光景に………
着いていけず………震えていた
康太は足を組むと肘おきに肘を着いて、唇の端を吊り上げて皮肉に嗤った
「遊星、お前が親父の跡を継げ!」
突然に切り出され遊星は慌てて
「それは無理です……父の跡は兄が継ぐ事に決まってます!」
と断った
「それは無理だな……今夜……身内に不幸がある事になる
それはお前の兄の死となる……
兄のいない今 恒星の跡継ぎはお前一人
元々、恒星は自分の跡はお前に継がせる気でいた
それをお前の兄は……腹に入らなかったみてぇだがな」
康太は何を言っているんだろう………
遊星には訳が解らなかった………
「筺は…」
「身内じゃねぇと置けなかった………と言う訳だ
あれだけの警護をかいくぐれる人間……
それは限定されて来るからな」
遊星はガクガク震えた
信じられない事ばかり起こっていた
これは夢……?
遊星の言葉を見透かす様に………
「夢なんかじゃねぇ!現実だ!」と言葉にした
遊星は絶望的な瞳を康太に向けた
「お前の親父が何故、次男のお前の名前に自分の名の一文字を入れたか……解るか?」
遊星には何も解らなかった
そう言われてみれば………兄の名は祐一と普通の名前だった
兄は何時も呪いの様に謂っていた
『何故お前がその名前なんだ?』………と。
「お前の兄貴には政治家になるべき資質がねぇんだよ!」
「………あなたは……何を言って……」
「表向きは祐一を傍に置いて後継者を匂わせていた
だが現実は……祐一を据えたい一派からお前を護る為にしていた事だ
お前に危害を加えさせない為に傍に置いて監視していた
鳩村恒星は遊星に跡を継がせる為に命を懸けていたんだ!
お前は護られた場所に置かれていた
いい加減この現状を受け止めろ!」
「………何故……兄じゃなかったのですか?」
「鳩村は古来の神との契約がある
長男だからと言って後継者になれる訳じゃねぇ
古来の神は祐一が生まれた瞬間
其奴には仕える気はないと告げた
それは即ち、契約の打ち切り
鳩村は古来の神の神託を絶対に政治家を生業として栄えた一族だ
祐一は生まれた瞬間……政治家になる事を断たれた存在だ
だから恒星は次代の存在を生む女を愛人にして子を成すしかなかった
それがお前だ」
「………僕は……鳩村の家では忌み嫌われて来た……」
「だが古来の神の言葉は絶対!
破るなら………鳩村の家は終わる」
「………僕は………どうしたら?」
「オレと共に葬儀に出ろ!
お前が喪主を務めろ!」
「………無理です……そんなの……あの人が許すはずなどない!」
「許すも許さねぇも……神の神託は絶対!
………だろ?毘沙門天」
康太は沈黙を続けている毘沙門天に声を掛けた
毘沙門天は遊星に現実を告げた
「運命を受け止めるも、否定するもお前の自由だ
だが自分の立場までは忘れるな!
お前が次代を継がねば鳩村の家は終わる
鳩村の一族は廃って朽ち果てる事となる
それが我ら神との契約だ!
倭の国の軌道の舵を取れる人間を輩出する為だけに、鳩村は我ら神と契約した
履行するなれば……我らの栄華は途絶えたと想うが良い!
運命を受け入れろ!」
遊星には何もかもが信じられない現実だった
「………簡単に……謂われても……」
「ならば、鳩村恒星の葬儀に出ろ!
否が応でも答えは出ていると解るだろう!」
毘沙門天はそう言い姿を消した
沈黙が部屋を包み込んだ
遊星は何も謂う事が出来ず立ち尽くしていた
「遊星」
康太は唖然としている遊星に声を掛けた
「…………はい……」
「お前、あの筺の事……どれ位知っている」
「…………何も……」
「聞いてねぇか?
なら何故おめぇはオレの所へ筺を持って来たんだよ?」
「生前父が……『自分で解決出来ない局面に出くわした時、飛鳥井家真贋を頼れ!』と謂っていたので………それしかないと想い……」
「あの筺、手にして何も気付かなかったか?」
「悪意の塊ですね………あの筺は……
筺が僕に謂うのですよ
今こそ一族を皆殺しにしろ………と。
母を死に追いやった……あの女を許して良いのか?
筺は……人の弱い心を狂わして……精神を崩壊させ……滅ぼして逝くのですね……」
「そうだ!間違っちゃいねぇ!
あの筺は、蠱毒(こどく)って言う筺なんだよ」
「…………蠱毒……?」
「呪術の一種だ
犬を使用した呪術である犬神
猫を使用した呪術である猫鬼
などと並ぶ動物を使った呪術の一つだ
蠱毒は犬や猫じゃねぇ昆虫や爬虫類を使う
ヘビ、ムカデ、ゲジ、カエルなどの百虫を筺の中で飼育し餌も与えず殺し合わせ共食いさせ‥‥
勝ち残ったものを筺に封印した
詛い憎悪絶望……そしてさらに強い詛いを封じてあるんだよ
この筺を手にした者は……
『一定期間のうちにその人は大抵死ぬ。』と謂われている
恒星は……蠱毒の毒気に当たって死んだって事だ」
「…………父さんは……殺されたって事?」
「あぁ、邪魔者はそうして昔から排除されてきた
政治家の突然死は………昔から定番の死だったりする……」
「………許さない……」
遊星はワナワナと震えた
「お前が許そうと許すまいと、世の中は回っている
誰もそれを止める事なんて出来ねぇんだよ」
「康太さん」
「あんだよ?」
「次に狙われるのは僕なんですね……
僕は……アイツ等が望む死に方なんてしたくない!」
犬死は嫌だった
筺を持ち出したのが自分だと向こうは知っているだろう
だとしたら狙われるのは必至だった
「なら運命を受け入れろ!
それしか助かる道はねぇ
流されるんじゃねぇ……おめぇが自分で選んで逝け!
逝かされた道は後悔が生じる
覚悟して逝く道は決意が生じる
同じ逝くにしても、気心が違う!
さぁ選べ!遊星!」
遊星は覚悟を決めた瞳を康太に向けた
「………僕は……僕らしく……逝きたいと想います」
誰かの道を逝くんじゃない
自分の道を逝くのだ
「ならば鳩村家当主(喪主)として葬儀に出ろ!」
遊星は胸を張り「はい!」と答えた
その瞳にはもう迷いはなかった
康太は立ち上がると榊原に手を差し出した
榊原はその手を取り、手の甲に口吻けを落とした
そして立ち上がると康太を抱き寄せた
「逝くぜ伊織」
「ええ。君となら何処へでも……共に逝きます」
康太は遊星を連れて出て逝こうとした
それを兵藤が止めた
「待てよ!俺も一緒に行く!
俺が車を出すから少し待て!」
「待ってやっても良いけど……」
「解ってる!俺んちへ来いよ!
井筒屋の水羊羹がある!」
「なら逝っても良い!
支度するまで水羊羹食ってるかんな!」
康太はスキップしそうな勢いで玄関に向かった
兵藤は仕方がねぇな……と呟き遊星の手を掴んだ
康太は慎一と擦れ違い様
「一生と聡一郎に連絡つけて一緒に来い!」と告げた
慎一は頷いて康太と榊原と兵藤を見送った
康太は玄関に行き靴を履くと、天を仰いだ
「どっちに転がるよ?」
『どっちに転がろうとも、お主ならやる事は一つであろうて』
まさに間違っちゃいない
だけど少し慎重になるのは、仕方がない
「…………そうだけどな……肩透かしばかり食らってたら少しは慎重にもなるさ…」
『お前らしくない言葉だな……
大丈夫だ康太……何も心配しなくて良い
お前はお前の道を貫けばよい
その為ならば我も……命を賭してでもサポート致す』
「弥勒……ありがとう」
『礼は止せ………お前が言うと今生の別れみたいで……不安になる』
「………んとにお前は……礼も言わせねぇのな」
『逝くか?康太』
「あぁ、その道しかねぇならオレは逝くしかねぇだろ?」
『お前の邪魔はさせぬ!絶対にな!』
弥勒はそう言い気配を消した
康太は榊原の手を握り締めると、玄関の外に出た
兵藤の家へと向かい、兵藤の家の応接間で寛いでると、美緒が康太のために井筒屋の水羊羹と玉露を持って来た
「康太……お主も鳩村の葬儀に出るのかえ?」
礼服に身を包む康太を見て、同じように礼服に身を包んでいる美緒が尋ねた
「あぁ、後継者争いを鎮めてくれと生前の恒星に頼まれているからな……」
康太は何でもない風にサラッと謂った
美緒は訝って
「後継者争い?
後継者は鳩村祐一ではないのか?」呟いた
鳩村祐一は次代の後継者である!と大々的に公表され美緒の耳にも届いていた
鳩村の光だとばかりに持て囃された存在
康太は皮肉に嗤うと
「美緒はアイツに政治家になれる才能があると想うのかよ?」と尋ねた
「…………歴代の……よりは落ちるな……」
美緒は思案して呟いた
歴代議員を輩出して来た名家だった
議員になるべく生まれてきた様な政治家ばかり輩出して来た血統書付きのお家柄だった
そんな一族の中で………至極一般的な凡人にしか見えなかったが………
鳩村の家の事は……鳩村が決めるべき事……
次代が親よりも無能なのは……誰よりも熟知していた……
難儀な事よの……と想っていた
「美緒、オレの隣にいるのが鳩村遊星だ!」
美緒は不思議そうな瞳をして康太を見た
「どの様な字を書くのじゃ?」
「遊ぶ星」
「………!!ならば……鳩村の後継者か……」
ならば……何故……この様な場にいるのじゃ……と美緒は呟いた
「筺を持って来たんだよ」
康太が言うと美緒は顔色を変えた
「………筺?………それは……蠱毒か?」
「そう。鳩村恒星は消されたんだよ
跡目争いを焚き付けて、踊らされて……消した
今国会では……アイツは目の上のタンコブだったからな……」
「………蠱毒を使ったか……
恒星の病室には厳重な警護がしてあった
そんな中……筺を置きに逝ける存在など知れている
………策に走ったか……愚か者め」
そこまで見抜く力に底力を見せ付けられたも同然だった
美緒はさらに続けた
「鳩村の家は特別であったな
歴代議員を輩出する為に古来の神と契約し守護して貰っている家名であったな」
「流石……そこまで知る人間は中々いねぇ……
総てを握っていた三木敦夫の秘書をしていただけはあるな」
「策に走り……策に溺れる
愚かよのぉ……そうは想わぬか康太?」
「美緒、総ては決められし理だ
それをねじ曲げて突き進もうとしても……
道理が通らねば道は開いちゃくれねぇ
愚かな奴らは目が眩んでいるんだよ」
「…………金に叢がるハイエナ共は……見極める目すら雲って何も見えぬか……」
美緒はウンザリとそう呟いた
三木の家を解体した時も
兵藤の家を解体した時も
そんな輩ならウヨウヨ湧いて出ていた
人の欲の飽くなき欲求
人は………何故こうも愚かなのか………
「美緒、おめぇも鳩村恒星の葬儀に出席するのかよ?」
康太は世間話する様に問い掛けた
「昭一郎が派閥の幹部をしておるからの……出なくては話にならぬ」
「ならオレも連れて逝けよ!」
「解った……お主の役に立てるなら本望
この命を賭してでも……お主を護ろう」
「美緒、んな事しなくて良いよ!
それよりも美緒、遊星を押し立ててやってくれ」
美緒は鳩村遊星を見た
生まれついての政治家の気質を持っていた
目にすれば………然もありなん
鳩村の政治家の気質を受け継ぐ存在なのは目に見て取れた
「お主が我に………紹介するという事は………
貴史と共に生きる存在なのか?」
「乱世の次代だ美緒
此より幾度となく戦が起こる
頭がすげ替えられ……陣地の取り合いだ
それを………押し黙らせる時代が来るんだよ!
絶対の政治家が国会に降臨する
既に軌道に乗せた理は覆ったりはしねえ!
後は時期を待てば……絶対の力を誇る平安の世が来る!
閉息期だ!民は潤い和平を感じる日常が来るんだよ」
「………ならば、何を賭してでも護らねば……な」
我が子の進むべきべき道を護らねば………
美緒は腹を括った
昭一郎が応接間にやって来て、康太に気付いて近寄ろうとして………立ち止まった
「昭一郎、葬儀に一緒に逝こうぜ!」
「………はい。ご一緒にお願い致します」
昭一郎は何も言わなかった
康太の隣にいる人間は………鳩村遊星
見間違う筈などない
昭一郎は事務所に連絡を入れてバスをチャーターさせた
バスが到着すると昭一郎は深々と頭を下げた
「真贋、ご一緒にお願い致します」
昭一郎に謂われ、康太は立ち上がった
喪服に着替えた兵藤が遊星の腕を掴んだ
兵藤は康太の後を着いて、外へと出た
兵藤の家の前にはバスが停まっていた
昭一郎はバスに近付き、ドアを開けた
「どうぞ、ご一緒にお願い致します」
康太はバスの中にスタスタと入って逝って、適当な席に榊原と共に座った
兵藤は康太と榊原の後ろの席に、遊星を奥に座らせて座った
座席に座ると康太は天を仰いで
「…………筺を作れるのは……何処よ?」と問い掛けた
『竜宮家だ……今も昔も蠱毒は竜宮家のお家芸であろうて……他では扱えはせぬであろう』
康太の問い掛けに弥勒が答えた
「……よりによって竜宮家か………」
康太が呟くと美緒が「竜宮?……それは都市伝説……ではないのか?」問い質した
「都市伝説じゃねぇ……
名のあるモノは必ず存在している
不確かで掴めぬ存在故に都市伝説化させたみてえぇだがな……存在するんだよ美緒」
「…………竜宮家と言うのは厄介なのか?」
美緒は尋ねた
それに答えのは弥勒だった
『あぁ、誰の言葉にも耳を貸さぬ一族であるからな……』
「誰の言葉も?聞かぬと申すのか?」
『一度受けた依頼はキッキリと完遂する
途中でキャンセルは聞かねぇわ……
逆らうなら依頼者でも殲滅する輩だからな……』
「邪魔者は消す……と言う事か?」
『そうだ!』
だから厄介なのか………と美緒は納得した
康太は「筺を……地獄送りにしたからな……多分……総て知っているだろうな……」と呟いた
吉と出るか凶と出るか……
蛇の道は蛇……どの道……葬儀は荒れるのは間違いはなかった
スムーズに終わってはくれまい……
とバスに乗っている全員が感じていた
鳩村遊星は天空から声だけ響く異様さに………声も出なかった
何が起こっているんだ?
心は焦る
解らないから余計………不安になっていた
バスは葬儀会場へと入って逝った
バスから下りると康太は気配を消して、榊原の後ろに隠れた
美緒は康太と榊原を背中に隠して歩き出した
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