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第25話 歪み(ひずみ)

住良木晴充 晴葵 親子を送るべく康太と榊原は病院の外へと出た 榊原は車を取りに行くと、一人で飛鳥井の家へと向かった 康太と住良木親子は榊原を駐車場で待つ事にした 弥勒は病室を出た後、姿を消していた 弥勒にとって康太に危険が及ばねば、姿を現している必要などないのだ 暫く待つと榊原が車に乗ってやって来た 康太の側に車を停めると運転席から下りて、助手席と康太を乗せて、後部座席のドアを開いた 晴充と晴葵が車に乗り込むと康太は口を開いた 「で、何処まで送ったら良いのよ?」 康太が問い掛けると飛鳥井から然程遠くない住所を口にした 榊原はナビに住所を打ち込むと走り出した 「晴充、お前んちに着いたら少し話をしようぜ」 康太が言いたい事は何となく理解していた 「承知いたしました」 「晴葵は外せ」 「………え?僕は……邪魔ですか?」 康太の言い方に晴葵は想わず呟いた 榊原が「邪魔とかではないですよ」とフォローに入った そして止めを刺す 「住良木の当主は晴充さんですから、当主と話をせねばならないと言う事です」 そう言われれば……何も言えない 晴葵は黙った 住良木の家に着くと、晴充は離れの茶室に康太と榊原を招き入れた 晴葵は自分の部屋へと還っていった 茶室に招かれて康太は茶を立てて貰った 茶室に入ってから康太はずっと瞳を閉じていた そして瞳を開けると「晴葵の存在は異形に感じる……オレの気のせいか?」と問い掛けた 晴充は……驚愕の瞳で康太を見て……諦めた顔をした 「………あの子は……反魂の術でこの世に蘇生させた安倍晴明……その人です 妖しの世界は……滅びに向かって……逝くしかない…… この世界はあの方が創った世界 ………あの方にしか護れぬ世界 なので……あの方を……現世にお招き致しました」 「………よくもまぁ閻魔が許したな」 「………許されてはおりません……」 「………え?……」 「あの方は……黄泉を渡られた でも……あの方の……仏舎利は……現世に遺っておられる 仏舎利……それは肉体を離れても同じ力を放つ……あの方の一部 我等は……その仏舎利に魂を与えた…… あの方は……この世に甦った 以来……我が子として育て……今に至ります」 「反魂で蘇生させるには……体躯が要る 生け贄にされた体躯が在った……そうだろ?」 「………総てお見通し……ですか?」 晴充は唇を噛み締めて……瞳を瞑った 「体躯は……贄に捧げられた……物故の舎利の力を持つ…… だか心は優しき本来の人間の時を刻む あいつが優しいのはあいつのオリジナルだろう あいつが身も心も痛めるのは、あいつの心が今を刻んでいるからだ! 傀儡は人形じゃねぇ! その身に魂を入れた時点で別物になる」 「………解っております」 「解ってねぇんだよ お前は頭では理解してても、根元の所で解ってねぇんだよ」 「………私の罪なのです……」 「罪とか言うな!」 康太は叫んだ 「体躯を用意されて……魂が宿る 傀儡だってのは……自分が解ってるんだよ! アイツの心は空だ……まるで昔のオレの様に…… 何も詰まっちゃいねぇんだ アイツは……知ってるぜ アンバランスな心と体躯と虚無感と……何故自分には何も詰まっていないんだって…… 解ってて……埋まらない自分が人と違うのを理解するしかねぇんだよ……」 「……真贋……」 「昔……冥府に皇帝炎帝と言う神がいた 彼は……生まれついての傀儡だった 自分の存在が父を苦しめているのを知って…… そいつは魔界へ堕ちてやったんだ そして再び……傀儡になり……生を成した そいつは想うんだ この世に産み出された意味を考えるんだ 自分の存在理由を探して足掻いて…… どうしようも出来ない苛立ちを抱えて……暴走を繰り返した そいつは何時しか破壊神と呼ばれ恐れられた」 康太は晴充の瞳を真摯な瞳で射抜き…… 「その破壊神は閻魔に人の世に堕とされた それがオレだ……」 「………え?」 晴充には康太が何を言っているのか理解出来ずにいた 「傀儡は心がねぇ訳じゃねぇ……」 「……真贋……」 「晴葵はコントロールも出来ねぇ……暴走したらどうするよ?」 「……その時はこの命を持って……」 「お前が死ねば済む話じゃねぇ ならお前が死んでも暴走が止まらなかったら? お前はどうするのよ?」 「………その時……」 晴充は涙を堪えて……口を開いた 「その時は僕を殺して下さい!」と声がした 晴充は目を開けて声の方を見た そこには晴葵が立っていた 「………晴葵……」 「僕が制御不能になったら………その時は殺して下さい」 晴葵は康太の方を向いて、深々と頭を下げた 「お前を殺して終わる話じゃねぇ!」 「解っています!」 晴葵はそう言いきった 「いや、お前は何も解っちゃいねぇ! お前を殺しても、その後の始末はどうつけるんだよ? 妖怪は誰の指導者のもとに集まれば良いんだよ?」 「………僕は……暴走なんてしない……」 「心はギリギリの限界に来てるのに? そんな台詞を何時まで吐ける?」 「僕は貴方とは違う! 僕はこの妖しの里が大好きだ! このモノ達を守る為に僕は存在すると言うのなら、僕はそれを実行するだけだ!」 「お前の中身は……空だろ?」 「違う!」 「その作り物の体躯には何も詰まっちゃいねぇ」 「違う!嘘をつくな!」 「空っぽの心は何時か限界が来るぜ? その虚無感にどう抗うんだよ? お前は……一人で闘うつもりなのかよ?」 「………僕は誰も要らない……」 「要らないんじゃなくて……怖いんだろ? 誰か大切なモノを作っても、自分が人と違うのを知られたら……なら最初から何もなくても良いと逃げてるんだろ?」 「違う!そんな事はない!」 「………弱い心は今にも……崩れ落ちそうだな お前を支えてくれるのは誰だ? お前は誰に身を委ねる?」 「………そんな奴は………要らない……」 「要らないんじゃなく、作れないだろ?」 「………誰かを巻き込めと言われるのか?」 「巻き込むんじゃねぇよ! 共に闘うんだよ! オレにはいるぜ? オレには……命を懸けて護る友がいる 伴侶がいる、家族がいる!」 「……僕には……それがないと?」 「ないんじゃねぇ……作らねぇんだろ?」 「巻き込む事になるなら……僕は誰も巻き込みたくはない……」 「それは……誰も護れねぇ奴には、護りてぇ世界もねぇって言ってるのも同然だぜ?」 「………僕は……この世に存在してはならぬ者……そんな僕と繋がりを持つ事の方が不幸だと僕は想います」 「誰も要らない 誰も傷つけたくないから…… それは自分も傷つけたくないから……お前の本音だって気付けよ」 「………誰だって……こんな化け物なんかと友達でいてくれる筈はない!」 晴葵の台詞に康太は胸を押さえた 心が痛い 心が苦しい…… 晴葵は昔の自分だった…… 康太は晴充を見ているのが辛かった 榊原は康太の腰を引き寄せ抱き締めた 康太の孤独は……兄 黒龍が一番知っているだろう 全部知っている訳ではない だが榊原は常に想っていた 愛する人を命に変えても護ると決めていた 愛する人と共に生きる 榊原は康太の手を強く握り締めると 「愛してます奥さん」と言葉にした 康太はその言葉を受けて嬉しそうに頬を染めた その瞳は力強く輝いていた 生命力に漲り、底知れぬ力を垣間見た瞬間だった 康太の胸ポケットの携帯が着信を告げて震えると、康太は「失礼!」と言い電話に出た 「どうした?」 『お前の覇道が……不安定になってる 何があるんだ?大丈夫なのかよ?』 「………お前……自分の怪我の心配してろよ」 電話の相手は兵藤だった 着信相手は「一生」 だが電話を掛けて来てるのは兵藤だった 『俺の護った命だって……忘れてねぇよな?』 「忘れてねぇから寝てろ!」 『………こんな状態で寝てろって方が無理だぜ! 俺を寝かせてやろうってなら、おめぇは大人しく亭主の上にでも乗ってろ!』 「そうしてぇが適材適所、配置するがオレの役目だかかんな 鉄は熱いうちに打たねぇと意味がねぇんだよ」 『なら逝く!』 「……え?……」 『じゃあな!』 兵藤は電話をぶった切った 「……え!!えええ!!」 康太は驚いて榊原を見た 榊原は苦笑して康太の携帯を切って胸ポケットに入れた 「………君の心が泣いていたからですよ…… 君の心が悲鳴をあげて……悲しんでいた 彼等はそんな君の覇道に敏感なんですよ ………ほら、もう来てしまいました」 招かれてもいないのに……… 康太の傍に兵藤が姿を現した その後ろには一生、聡一郎が着いていた 一生は「……てめぇ自分が怪我人だって自覚しろよ!」と怒っていた 聡一郎も「止めても聞きやしないんですから!」と青筋を浮かべてお怒りだった 兵藤は「俺らのいねぇ所で泣くな……」と言い康太に抱き着いた 「貴史……大丈夫かよ? ったく無茶しやがって!」 「無茶はお前の専売特許だろ! お前には俺らもいるって忘れるな!」 「忘れちゃいねぇよ……」 康太は一生や聡一郎の方を見ると、一生と聡一郎も康太に抱き着いた 聡一郎は「隼人は飛べないのでお留守番でした……なので拗ねてますから、あとは頼みますよ」とニッコリ笑った 「……拗ねた隼人かよ? めちゃくそ厄介じゃねぇかよ?」 「君の息子でしょ?」 「でけぇ息子だけどな」 康太はそう言い爆笑した 一生は何も言わず康太の無事を噛み締めていた 康太はそんな一生の頭を撫でていた 晴葵は絶対の絆で結ばれた仲間達を見ていた 羨ましくないと言ったら……嘘になる 自分だって……そんな絶対の絆で結ばれた仲間が欲しい ………欲しい……と心から思った 「………僕にも……何時か……出来るかな……」 本音がポロツと零れるのを康太は聞き逃さなかった 「望んで手を伸ばし一歩踏み出せば…… お前が掴める距離は縮まるだろうな」 「……僕は……人として……生きて良いのですか?」 弱音もポロポロ溢れて口をつく 「生きるのに誰の許可がいるんだよ? お前は自分が作られた存在だって知ってるんだな?」 「………はい……記憶も意識も……僕は……過去の自分を思い出させます」 康太は晴葵の額に触れ 「自分の中に……幼き子も見えるだろ?」 そう問い掛けた 「………はい。何時も一人で泣いている子…… あれは……幼き日の僕自身ですね」 「お前は体躯が弱く、友もいず、何時も泣いていた 人の姓は今のまま住良木晴葵と言う、晴充の子供がお前だ」 「………え?……」 「晴充の妻は人じゃねぇ……妖しだ 晴充は妖しと交わってお前を作った 人と妖しは交わってはならぬ存在 妖しの世界は……人と妖しの混血の子を拒否した その子を晴充が引き取って育てていたんだ その息子も……弱く……虫の息だった 妖しの里も崩壊目前だった 晴充は総てを護りたかったんだ 我が子も妖しの里も、全部護りたかったんだ だから晴充は禁断の反魂の術を使った 死にかけた我が子と、安倍晴明の仏舎利 それを使ってこの世に産み出したのが晴葵、お前だ」 「………僕は……父さんの子だったのですか?」 「そうだぜ!お前達は紛う事なく親子だ 最も……仏舎利を使った時点で……傀儡となった身だけどな……」 晴葵はその一言を聞き、泣き出した 何処の馬の骨とも解らぬ存在だと想っていた なのに血の繋がらぬ晴充は優しく、我が子のように接してくれる…… その思いが嬉しくて……泣きたくなる程にもどかしかった 「……僕は……人の世に生きていて良いのですか?」 「生きるのに誰の許可が必要なんだよ?」 康太はそう言い晴葵の頭を撫でた 「負けるな晴葵! お前はこの妖しの里を背負って逝く存在だ 人と妖しの血を持ち、安倍晴明の仏舎利の力を持つお前なら出来ねぇ事はねぇ…… だから胸を張れ! お前はこの世に生れた意味があるんだからよぉ!」 傀儡として転生した……者だからこそ言える台詞だった 「………貴方は……運命を恨んだ事はないのですか?」 ないだろうな…… と晴葵は思った 想ったが敢えて口にした 「あるに決まってる ………オレはずっと忌み嫌われていた オレは何も詰まってねぇ空っぽだったからな 人の世に堕とされた時……総てを消し去ってやろうかと想った 青龍がいなければ‥‥耐えれない時間にオレは総てを消し去っていただろう オレには何もねぇ…… いてはならねぇ存在だと言われた ならば!………何故オレを呼び寄せた!! オレは傀儡として生を成した 化け物だから……心は持っちゃいけねぇと戒めていた ………晴葵……傀儡にだって心はあるんだぜ? 悲しいと思う心は……ちゃんとあるんだぜ?」 康太がそう言うと晴葵は泣き崩れた 晴充が息子の背中を抱き締めた 「……お前は私の愛しき子です」 晴葵の背中が震えていた 晴充の我が子を抱く腕も震えていた 静まり返った部屋の静けさを破る様に、榊原の携帯がけたたましく鳴った 「……失礼、バイブにするのを忘れてました」 そう言い榊原は携帯を取り出して通話ボタンを押した 『兵藤貴史はいるか!』 電話に出るなり久遠の怒鳴り声が響き渡った 榊原は携帯を少し離すと…… 「聞こえてます久遠先生」と取り成した 『命知らずなあのアホは何処だ!』 「………此処に……来ています」 榊原は正直に答えた すると地を這う様な低い声が『ほう!』と響いた 『病院を抜け出して逝かねぇとならねぇ理由なんだろうな!』 「……久遠先生……」 『兵藤貴史と変われ!』 一歩も引かぬ姿勢で言われると……何も言えず、榊原は兵藤に携帯を渡した 兵藤は恐る恐る携帯を取ると「………兵藤です」と出た事を告げた 『てめぇ死にかけていたのに嫌に元気じゃねぇか! 傷が開いていたら麻酔なしで縫ってやるからな! 覚えていやがれ!』 「………久遠先生……それは……」 『俺は命を大切にしねぇ奴は許せねぇんだよ!』 「………すみませんでした……今帰ります」 無茶した自覚はある だが、康太の覇道が悲しみに染まっていた そんな康太を放っておきたくなかったのだ…… 傍に逝きたい 抱き締めて…… お前は一人じゃない……って声を掛けてあげたかった 「……久遠先生……すみませんでした」 『帰ったら検査だからな!』 「はい!」 『今度逃げたらベッドに縛るからな!』 本当にやるからタチが悪い…… 兵藤は降参するしかなかった 兵藤は久遠に平謝りして電話を切った そしてその電話を榊原に返した 榊原は電話を受け取り、苦笑した 「久遠先生はお怒りでしたか?」 「……沸騰してた……」 「帰ったら怖いですね……」 榊原は兵藤に同情して口にした 兵藤は何も言わず頷いた 康太は晴充に向き直ると 「近いうちにお前達に逢わせたい奴がいる」 康太が言うと晴充は「誰に御座いますか?」と問い掛けた 「この世には妖し以外にもヴァンパイアだって狼男だっているんだぜ? そいつらと協定を結んで情報を交換して賢く生きるのも手だとオレは想う 近いうちに妖しの里は移転する それには晴葵の力を目覚めさせる必要がある だから目覚めの儀を飛鳥井の菩提寺で行え! 異論はねぇな晴充!」 晴充は深々と頭を下げて「異論は御座いません」と答えた そして息子を見て 「お前は私の息子だ……それだけは忘れないでおくれ……」と言葉にした 「……父さん……」 「お前を誰よりも愛して育てた……それに嘘偽りはない…… 普通の高校生活を送らせてやりたかった…… お前には普通の……人間として生きてさせてやりたかった…… そう思いつつも……お前の力を頼りにしたのも事実だ…… 総ては妖しの里を護る為……そんな大義名分の為……お前に何もかも背負わせてしまった 許しておくれ……恨まれても仕方のない事をした……」 悔やまない日はない 我が子に……背負わせた荷物の重さを考えれば…… 自分の罪が……重くのし掛かる 総ては自分の責任だと背負う覚悟なら出来ている 愛すべき我が子を護る為ならば…… この命……惜しみ無く擲つ覚悟は出来ていた 康太はそんな悲しい親子を見て…… 「……荷物は分担するって事を覚えた方がいいんじゃねぇか?」と口にした 晴充と晴葵は「……え??………」と康太の顔を見た 「自分の持てる荷物の量は変わらねぇ けど、二人で持てば一人じゃ無理な荷物だって持てるんじゃねぇのか? あんで一人で背負おうとするんだよ!」 父は息子を想い 息子は父を想い 一人で背負おうとした 「一人で持てねぇ荷物なら役割分担する お前らは二人いるんだから、二人で持てば良いんだよ!」 康太はそう言い榊原の首に腕を回してチュッと口吻けを落とした 「なぁ伊織」 「そうですね奥さん」 イチャイチャする二人を尻目に、一生は 「すみません……10000年以上経っても新婚なんで……」と取り成した 兵藤も「何時まで経っても甘さが取れねぇからな……」と笑った 聡一郎も「ですね、この二人のベタ甘は何時もの事なのでお気になさらない様に……」と、しれっとした顔で取り成した 絶対の信頼がそこに在った 自分が望んでも手に入らぬ存在が……在った 晴葵はそれを羨ましそうに見詰めていた 晴充は晴葵の肩を抱いた 康太は晴葵に向き直って 「明日、呼びに来る そしたらお前は意識解放の儀式を行え! お前の眠りし能力を解放させる!良いな」と問い質した 晴葵は覚悟を決めた瞳を康太に向けて 「はい!宜しくお願いします」と答えた 「儀式にはサポートを着ける」 「………え?僕一人ではないのですか?」 「一人で背負うには荷が重い この度の儀式のサポートをする人間は後のお前の人生に影響を及ぼす友となるだろう!」 「………友………ですか?」 望んでも手に入らない…… 巻き込みたくないから……と言う自分は人と違うからと諦めて生きてきた 仕方がない…… 総ては解り会える友など要らない……必要ない そう想って生きてきた 何も望まないと……心を押さえて生きてきた そんな自分に……友が出来ると言うのか? 晴葵は信じられない想いで一杯だった 「………修行……頑張ります」 晴葵は言葉にした 康太は晴葵の肩を叩くと立ち上がった 「今日は帰るとするわ 病院から抜け出させちまったからな…… 連れ帰らねぇとならねぇかんな」 兵藤はバツの悪い顔をして 「………役に立たなくて悪かった……」と謝った 「あに言ってんだよ! オレを心配して来てくれたんだろ? ありがとう貴史 だけど無茶はすんな……美緒に顔向け出来なくなるだろ!」 「………悪かった……」 「謝るな!病院に帰ったら大人しくしてろ! それだけは約束しろ!」 「……解ってる……大人しくして怪我を治すと約束する」 「なら良い!」 康太は修行の約束をして住良木の家を後にした 見送りに来た晴充に康太はすれ違い様にメモを渡した 晴充はそれを着物の袂に隠した そして何もなかった様な顔をして車に乗り込んだ 車に乗り込むと榊原は車を走らせた 兵藤は康太が晴充に何かを渡したのを見逃さなかった 車が走り出すと「………何かを晴充に渡した?」と問い掛けた 「ん?何も渡してねぇぞ? そもそもオレが何かを書いたのを見たのか?」 言われてみれば…… なにかメモる仕草は見てない だけど、あの一瞬を見逃す訳などないのだ 「おめぇは大人しく寝てろ!」 「………解ってる……」 康太は兵藤を病院まで連れていくと、久遠に兵藤を渡した そして検査に引き摺られて逝く兵藤に手を振って見送った 一生は康太に「………誤魔化せてねぇと想うぞ…」と問い掛けた 「だろうな……んとに目敏い奴だわ」 「何を……渡したんだよ?」 「妖しの世界の歪みを……教えねぇとな 場所を移動したら円満解決……って訳にはいかねぇかんな…… 晴充には今後の話をしねぇとならねぇんだよ」 「……それでか……」 「その話は晴葵がいては……出来ねぇからな 場所と時間を指定させて貰った」 「貴史は勘の良い男だぜ?」 「勘が良くても、今度逝く場所は来れねぇよ 飛んで来られねぇ場所だと言っとくわ」 「………俺は……留守番か?」 「貴史を見張っててくれ! 誰も連れては逝けねぇんだよ……」 「解った……でも約束してくれ…… 絶対に……還ってくるって……」 康太は一生の胸を軽く叩き 「当たり前じゃねぇかよ! オレにはまだまだ手の掛かる子供がいるんだからよぉ! 還ってくるに決まってるじゃねぇかよ!」 「………なら待ってる……」 「一生」 「あんだよ?」 「片付いたら夏休みに突入しようぜ! 子供達と花火大会に逝かねぇとならねぇし、海にも逝かねぇとな でねぇと絵日記が……家で過ごしました……と悲しい有り様じゃねぇか……」 康太の言い草に一生は笑って「だな」と答えた 「一生、影が濃くなり、闇が増長して…… この世界を歪めてしまったんだよ……」 康太は苦しそうに果てを見つめて……そう言った 「………だろうな……魔界があんだけ闇の影響を受けてんだ 人の世や妖しの世界だって影響を受けてるだろ? ヴァンパイアや牙狼達だけに影響があった訳じゃねぇだろ?」 一生は納得して言葉にした 「なぁ一生……」 「何だよ?」 「お前は愛と平和を司る神だ その所為か、お前は万物に愛されて慕われている そんなおめぇに問おう……おめぇは妖怪が見えるのか?」 「妖怪かぁ……近寄った事はねぇが見る位なら出来るぜ 結構いるんだな倭の国ってのは」 康太は榊原と顔を見合わせた 「伊織……」 「なんと言う事ですかね……康太……」 「とんだ所に伏兵がいた」 康太は頷くと一生に向き直った 「一生、見えるならさお前、仕事してくれ!」 「……え??何をすれば良いのさ」 「妖怪の移動を手伝ってくれ!」 「………嫌だ……ポリポリ食われたらどうするんだよ!」 「……ポリポリ…って…妖怪って人を食うのか?」 「………妖怪は人を食うだろ?」 「……知らねぇって……」 康太は唖然となった 一生は逆に問い掛けた 「……康太、おめぇには妖怪は見えねぇのか?」 「見える……オレの瞳は……この世の総てを映すからな……」 皇帝閻魔の瞳を継承した瞳には映らないモノなどない 「……なら……お前が…」 やれば良いだろ?………と一生が言おうとすると康太は 「………オレは歪みを正してしまうからな…… 物の怪の里の歪みを正してしまったら……多くの妖怪が消えて逝く事になる だからオレはアドバイスは与えられたとしても…手は出せねぇんだよ それ以前に……オレが寄れば妖怪は逃げてくさ」 冥府の気を纏う存在に近寄ろうとする輩などいない そもそも適材適所 配置するが康太の役目 歪んだ世界にいるモノ総て正してしまったら…… 本来在るべき姿を損傷させる事になる そんな時、康太は絶対に近付こうとはしないのだ 「解った!役に立てるなら留守番よりは良い」 「なら仕事してくれ! 真島が妖しに詳しい人間を紹介してくれるって言ってたやん その人間と共に……頼めるか?」 「……真島が紹介してくれる人間って住良木じゃねぇのか?」 安倍晴明の末裔と言う奴等じゃないなら…… 想像もつかなかった 「真島がオレに紹介してくれる奴は住良木じゃねぇ! 蘆屋道満の血を引く陰陽師の末裔だ! 蘆屋道隆と言う真祖の血を濃く受け継ぐ者だ」 「陰陽師の末裔? 住良木も元は安倍晴明の末裔なんだろ?」 「そうだ」 一生は頭の中の歴史を引き出して思い出そうとしていた 歴史上の人物を真祖に持つ末裔 その歴史上の人物は?? 蘆屋道満 道摩法師(どうまほうし)と呼ばれ、平安時代の呪術師、非官人の陰陽師を生業に生きていた 腕は一流 その呪術、右に出るモノはいない程の腕前だった だが時代が悪かった 一つの時代に、同じ力を所有する陰陽師がもう一人 蘆屋道満には常に敵対するライバルがいた 安倍晴明が藤原道長お抱えの陰陽師であったのに対し 蘆屋道満は藤原顕光お抱えの陰陽師で 安部と蘆屋は何かにつけて敵対していた 幾年かの戦いの時、呪術を安倍晴明に暴かれて、蘆屋道満は流刑にあい……流浪の民へと化した 光と影 太陽と月 表舞台にいるのは常に安倍晴明だった 総てを奪われて流浪の民へと化した蘆屋一族は……今も安部を恨んでいるんじゃ…… 「………蘆屋が……安部の為に動いてくれるのかよ?」 そして答えは……そこへと辿り着く 康太は笑って「過去の事だろ?」と言い捨てた 「……そう言って笑っちゃえれば良いけどな……」 「そろそろ過去を断ち切る機会なのかもな? 何百年 恨み言を言えば気が済むんだよ?」 それはそうだ…… だが人の感情と言うモノはややこしい程に素直に受け入れられない時があるのだ 「真島は話を持って逝ってる 聞くか聞かねぇかは……蘆屋次第と言う事だ」 「……そっか……所で……蘆屋道満の末裔は今……何してるんだよ?」 「あの一族は……今も変わる事なく呪術を生業にして生息している……」 康太はそう呟き……榊原を見た 榊原は康太の頭に手を掛けると引き寄せた 「君が悩む事はないのです…… 何も考えなくても良い…」 そう言い康太を膝の上に乗せた 榊原は一生に「僕達は帰ります」と伝えた 「何処か……逝くのかよ?」 「何処へも逝きません 最近忙しくて愛の営みが足らなかったのかも知れません と言う事で、僕達は家に帰り愛し合うつもりです」 榊原はそう言い置き一生を見て 「なので邪魔はしないで下さいね!」と釘を刺した そして立ち上がると康太と共に帰って逝った 一生はそれを見送り、さっきから感じる違和感を確信していた この………視られてる感…… 一体なんだ そう思いため息を吐き出した

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