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第28話 審議監理局 ①

康太達が外に出ると、白いスーツに白いコートを着た男達が待ち構えている様に立っていた 康太は視界の端に男たちを捉えて、無視して歩き出した 「止まれ!」 横柄な喋りの男が康太を止めた 康太は皮肉に唇の端を吊り上げると 「名乗らぬ奴の謂う事を聞く気はねぇ」と言い捨てた 「止まらぬなら……無理矢理でも止めさせて頂く!」 「良いぜ!跡形もなく昇華されてぇなら来いよ!」 康太は挑発的に言った 「止め!」 男が飛び掛かろうとしたその時、声がかかった 男はピタッと動きを止めた 「無礼を失礼致します 我らは創造神の命の元に神を取り締まる『審議監理局』の者に御座います」 「………へぇ……すげぇ大義名分があるやん んなの何時出来たんだよ?」 「無法な動きをする神が増えたので創造神が創られたのです」 「………へぇ……初耳だなそれは」 康太はそう言い嗤った 兵藤は「審議監理局?聞いた事はねぇな……」と呟いた そもそも……そんな大層な統括組織が出来たなら、何故我らが知らない?? 康太は一番偉そうな男の前に立つと 「神の審議監理局なるモノが〝人間〟のオレ等に何の用だよ?」 「あなたは……人ではないでしょ?」 真っ赤な髪の康太を見て、男は嗤った 「この人の世に戸籍があるし、人として生きている! 人として生きている以上は神の管理など受けない!」 「そうは行かないのです あなたの力量を計らねばなりません このまま人の世で生活させるべきか、審議会に掛けます」 「審議会?その前に……お前達が生きていたらな」 紅蓮の妖炎を立ち上がらせて康太は男たちに近付いた 男たちは後退り……姿を消した 「ややこしいのが余計ややこしくなるな 朱雀、お前、天界に逝って審議監理局なるものの実態を聞いてこい!」 「………人使い荒くない?」 「アシスタントは好きなのを連れて逝って良い オレは魔界に逝かねぇとならねぇみてぇたかんな」 「なら司録を……!」 「おし!司命、司録、お仕事だ! 近いうちに崑崙山で話し合いをしなきゃならねぇかんな 資料を宜しくな」 康太が言うと司録が「……俺は飛べない……」と震えて言った 朱雀の背中になって乗ったら絶対に吹き飛ぶ それだけは勘弁…… 司録は一生を見た 「……赤いの……お前の背中に乗せてくれねぇか…俺は高い所が苦手なんだ」 一生は爆笑して「良いぜ!乗れよ!」と答えた 「朱雀は乱暴な飛び方するからな 俺が落とさねぇ様に乗せて逝ってやるよ!」 一生が言うと兵藤はギロッと司録を睨んだ 「振り落としてやるから背中に乗れ!」 「嫌だ!絶対に嫌だ! ただでさえ高い所が嫌なのに……乱暴に飛ばれたくない! 司命、お前乗せてもらえ」 司録は頑なに拒んだ 「僕も嫌です 僕は高い所は怖くはないですけどね 振り落とされるのは御免です」 収拾がつかないと踏んで聡一郎は司録の首根っこを掴んでそう言った 「さっさと飛鳥井の家の屋上に行きますよ! こんな民家の多い場所で飛ぶつもりじゃないでしょうね? こんな所で飛んだりしたら焼き鳥にしますよ!」 と兵藤を脅した 兵藤は泣く泣く榊原の車に乗り込み、飛鳥井の家へと帰って行った 飛鳥井の家に帰ると腹ごしらえをして屋上に向かった 兵藤と聡一郎と司録は天界へ 康太と榊原は崑崙山へと それぞれと向かって行った 慎一はそれを見送って目を瞑った 主……どうかご無事で…… 聡一郎、一生、貴史……そして伊織 どうかご無事で還って来て下さい…… 慎一は何時までも祈り続けた 朱雀が天界の門番の所へ到着すると、ガブリエルが待ち構えていた 「お待ちしておりました」 ガブリエルが言うと朱雀は眉を顰めた 「………俺が来るのを誰に聞いたのよ? 訪問目的の審議監理局なるものから聞いたのかよ?」 「違います 崑崙山の八仙が仙界の鏡を使って知らせてくれました 炎帝は既に崑崙山にいらっしゃって、冥府へと向かわれました」 それを聞くと赤龍がガブリエルに飛び掛かった 「おい!冥府へ逝くって……何でだよ?」 そんな話は聞いていなかった 「『丁度髪も赤いし冥府にちょっくら逝って来るわ』と仰有ってらっしゃいましたよ?」 康太なら……あり得る 髪は赤かった 冥府に逝く目的で赤くしたのか? それとも偶然だったのか? それは解らない 解らないけど……厄介な事態なのは変わらない現実で……考えずとも答えは見えてくる ガブリエルは馬車を指差し 「どうぞ!我々と共に来て下さい」と言葉にした 朱雀と赤龍、司命、司録はガブリエルに導かれる様に馬車に乗り込んだ 迎賓館に到着するまで、誰一人口を開こうとはしなかった 天界は客人は迎賓館へ通される 滅多な事がなければ、迎賓館から外へは出られなかった 迎賓館に到着すると、馬車から降りて館内へ通された 白亜の建物は人の世では絶対にお目にかかれないであろう程に美しかった ガブリエルは館の中でも一番大きい来賓室へと招き入れた 大きなテーブルはテレビとかで見る皇帝達が奏でる晩餐会の様に絢爛豪華で、純白のテーブルクロスが目に鮮やかに美しかった ガブリエルは「お好きな所にお座りください」と言い部屋に通すと、ドアの鍵を掛けた 「お疲れでしょうからおもてなしをしたいとは想うのですが……お越しになった本来の目的についてお話をさせて戴いても宜しいですか?」 ガブリエルが言うと朱雀は「あぁ、そうしてくれ!」と適当に座って足を組んだ 「あなた方の前に……創造神が創られたと言う……審議監理局なるものが現れたと言う事で……間違いはないのですね?」 「あぁ、炎帝を拘束しようと近付いてきた だが、アイツはその時……髪が赤かったからな 半端ねぇ力を感じて、帰って行ったみてぇだけどな」 「私も…彼らが創造神が創られた存在なのか? 確かめる術はないのです……」 ガブリエルの言葉に…朱雀は驚愕の瞳をして……空を仰いだ 「まぢかよ……ならなんで天界へ逝けと言ったんだよアイツは……」 朱雀がボヤくとガブリエルは 「それは牽制の為でしょう……多分…」と思惑を口にした 「牽制?何の為の牽制なんだよ?」 「天界も魔界も冥府も、多分……神の審議監理局等と言う組織は知らないのです ある日突然発足し、創造神が創られたと言う大義名分の為に動いておられる それを確かめる術は……何処にもない 彼等は創造神とは気安く〝言葉〟を交わせない事を知っていて、利用したのでしょう」 「なぁガブリエル、そいつ等はアイツがその存在と〝言葉〟を交わせるのを知っているのかな?」 「……解りません、これは憶測ですが…… 多分知らないのでしょう ですからバレないと想って創造神を語っているのでしょう 新しい神なれば……創造神と言う存在は……架空の創造の中にいるだけの神にしか想えないのでしょう… もし明確な創造神の意図する使命があるのなら、それは〝あの方がもっとも愛する、愛しき子〟の耳に入らない訳がない だから冥府に向かい皇帝閻魔に逢われるのだと想います…… 私は……彼こそが……もっとも愛する愛しき子なのだと想うので……御自分で聞けば良いと想うのですが……」 「ガブリエル、アイツはそんな風には想っちゃいねぇんだよ! もっとも愛する愛しき子だとしても、アイツはそんな存在など要らねぇって一蹴するだろ?」 「ですよね?あの方は夫さえいれば……他はどうでも良いのですからね」 ガブリエルはそう言い笑った 司命は……そこ笑えますか?と想ったが口には出さなかった 「我々は炎帝が崑崙山に戻るのを待ちましょう 総ては……そこから話をしましょう」 そう言うとガブリエルは部下を呼び、お茶の準備をさせた お茶の用意ができるとガブリエルも座ってお茶を飲み始めた 優雅にティーカップを手にしてお茶の時間を満喫する 司命、司録も優雅にティーカップを手にしてお茶を味わう事にした 司命もガブリエルに負けずに優雅にティーカップを持っていた 朱雀は……天使に負けてないやんか……と司命のキラキラを見て想った 司命は朱雀の視線を拾って「何ですか?」と牽制した 「………嫌……お前も天使に負けてない位キラキラだなって…」 「僕の美しさが天使の如きですって? でも天界には主がおりませぬ故……僕は魔界の地の果てでしか生きられません ねっ、司録!」 司録は嫌な顔をして 「………俺にフルな……まぁ、あれだ 我等は炎帝に仕える者、って事だ 他の主など不要!仕える気もないって事だ」と本音を口にした 従者バカなのは知っていたが……これ程悪化していたのか…… 朱雀は「……もう何も言わん」と呟いた ガブリエルは笑っていた 笑い声が部屋に響き、優しい光が包み込む…… 眠くなるような時間が流れていた …………が、それも『待たせたな!』と炎帝の声で現実に戻された 炎帝は来賓館の壁に飾られた鏡に姿を現した 朱雀は「炎帝!無事か?」と炎帝の身を案じた 『大丈夫だ……心配すんな』 炎帝はそういい笑った いつもの笑顔で朱雀は胸を撫で下ろした だが冥府まで逝ったのだ どれだけの体力の消費をしたのか……計り知れなかった 『まぁオレの事は捨て置き、本題に入るぜ 皇帝閻魔は審議監理局なるものを知らないと言っている だが、審議監理局と言う奴が冥府に現れたのは確かだ! そして奴等は……強引な事をして逝ったらしくて……オレは冥府で仕事が出来たから還るのが遅くなった』 「……大丈夫なのかよ?」 無理してねぇか? 朱雀はそう思い不安そうに…鏡を見た 『大丈夫だ朱雀…オレは必ず還る!約束だろ?』 「………あぁ……約束……だったな」 取り乱した朱雀は息を吐き出し……深呼吸した 「俺達はどうしたら良い? お前の指示通りに動くから教えろ!」 『司録、司命、お前達は天界に留まり情勢を把握して後で報告してくれ 朱雀と赤龍は閻魔の元に逝け! 閻魔の所には全員総動員してるかんな まずは皆を落ち着かせろ! 落ち着いた頃を見計らって青龍が魔界へ逝く そしたら青龍の指示に従って動いてくれ』 「………お前は? ………お前は……来ないのかよ?」 『オレは少し動けねぇな だが必ず逝くから持ちこたえてくれ! そしたら魔界の中にもいる冬虫夏草を炙り出して焼き払わねぇとな』 「……冬ちゅう……?菌だっけ?」 「そう。昆虫に寄生する菌だ 昆虫に寄生して……夏になる頃には侵食して体躯を乗っとる 魔界はまさに……中心を冬虫夏草に侵食されているも同然となってる 早目に焼き払わねぇと…取り返しがつかなくなる… そうはさせたくねぇからな、手は打つ! 絶対に好き勝手はやらせねぇ! お前達は俺の手足となり動いてくれ! そしたらオレも魔界へ逝くかんな!』 「解った……お前が来るまで何がなんでも護り通す!! 何者にも邪魔などさせねぇ!!」 『ありがとう朱雀 本当にお前は昔も今も頼もしい友人だ…… ガブリエル、お前は司命と司録に忌日を書かせた後、二人を連れて八仙の所へ逝け! 崑崙山で逢おうぜ!』 そう言い炎帝は姿を消した 連絡を終えた皇帝炎帝の後ろには青龍が寄り添っていた 「大丈夫ですか?」 青龍は心配して妻を抱き締めた 冥府に到着するなり……突き付けられた現実を思い出す 炎帝達が冥府に到着すると………冥府は葬送の旗が立ち………漆黒の衣装に身を包んだ皇帝閻魔が姿を現した 「親父殿……誰が逝ったんだ?」 皇帝閻魔は苦悩して……皇帝炎帝を抱き締めた 「皇帝阿修羅と皇帝風神が……逝きました」 「…‥…兄上達に……何があったか説明してくれ親父殿……」 「…馬車を用意したので取り敢えず乗りましょう……話はそれから…」 皇帝閻魔はそう言うと馬車を指差した 馬車に乗り込むと皇帝閻魔は「此処からだと君の家が近いですね」と言い皇帝炎帝の家へ逝く様に指示した 馬車に乗ってる間中、炎帝は何も喋らなかった 皇帝炎帝の家の門に到着すると、門番が誰か確かめて門を開けた 「お帰りなさいませMy Lord」 嬉々として執事のクライスが家の中から姿を現した 正面玄関の前まで走り馬車は止まった 執事が主に近寄り深々と頭を下げた 「我が主よ…お帰りなさいませ!」 「永らく留守にして悪いな」 「主が還る日を我等は待つだけ お気になさらずとも良いのです おぉぉ!伴侶様もご一緒ではないですか! ささっ!家の中へ!!」 クライスは炎帝と青龍を家の中へ招き入れた 皇帝閻魔は苦笑して、後に続いた 皇帝炎帝の家の使用人は主バカで有名だった 主が魔界に逝ったとしても誰一人辞めたりはしなかった 執事は応接間へと皆を通した 炎帝はドカッとソファーに座った 「…イテッ…青龍…髪、踏んじまった…」 炎帝が言うと青龍は、炎帝の両脇に手を差し込み持ち上げ、膝の上に乗せた 長い髪を手に取ると、髪に口吻けた 「痛くないですか?」 「……ん…大丈夫だ」 炎帝は笑って青龍の胸に顔を埋めた スーッと愛する男の匂いを胸一杯に嗅いで、顔を上げた 「親父殿…四天王は…オレが創る事にする その方が手っ取り早い……」 「………炎帝……」 「オレは皇帝閻魔を継ぐ者! 親父殿の愛する存在の体躯を貰い受け、親父殿の弟の魂を受け継ぎ創られた存在 オレの体躯の一部から、親父殿が唯一愛した……我が子を創ってやんよ! オレの留守中はそいつらと力を合わせて門を守ってくれ!」 「………お前の好きにしなさい…… 私には……お前さえ残れば良い……」 そう言い皇帝閻魔は炎帝を抱き締めた 「丁度月齢0・4、新月だしな……条件は揃ってる……」 「………お前が来たのは偶然じゃないみたいですね……」 皇帝閻魔はしみじみと呟いた 炎帝はその言葉に嫌な顔をして、眉を顰めた 「……狙ってねぇから……創造神が創ったって言う審議監理局なるものが、オレの前に姿を現したのが〝今〟だったからだけだ……他意はねぇよ」 ふて腐れて言うと皇帝閻魔は笑った 「………深読みなどしてません 私は……お前と逢えて…‥嬉しいだけです」 「そうそう、聞いとかねぇとならねぇんだった 親父殿、審議監理局って知ってる?」 「……ある日突然姿を現して…皇帝風神と皇帝阿修羅を殲滅した……機関ですね 知りません……本当に突然姿を現して……大義名分を掲げて四天王を崩壊させて逝った これが創造神が望む世界だとしたら……考える方が怖い……」 「親父殿は創造神から聞いてねぇのかよ?」 「聞いていたなら返り討ちにしてやったでしょう……突然、何が起こったのか解らないうちに仕掛けられ……阿修羅と風神は倒れた…… 私が駆け付けた時には……虫の息でした 彼等は……私も……殲滅対象だったみたいですね だけど……非常事態発令されて魔獣が駆け付けて来たので……去って逝きました 魔獣が駆け付けて来ねば……私も殲滅されていた事でしょう…… それが……(創造)神の……思惑であるならば……私は喜んで殲滅されたでしょう でも私には護らねばならぬ世界がある この世界は……お前に譲らねばならぬ世界…… その日までは……私は死んでも護らねばならないのです……」 「………親父殿……」 「お前は私の愛する子です……皇帝炎帝…… お前だけを愛しています……誰よりも……愛しています……」 「………親父殿……」 「幸せに……私はそれしか望んではおらぬ お前を不幸にして……望むモノなど何一つない…… だから皇帝炎帝………」 お前が……冥府に還らずとも……よい…… 幸せに……笑っててくれれば…… それだけで良い…… 皇帝閻魔は我が子の幸せを祈って止まなかった 「親父殿!オレはこの地球(ほし)が好きだ… この地球(ほし)を護るのがオレの使命だと想ってる……」とみなまで言わせなかった 「私も……この地球(ほし)が好きです この地球(ほし)が出来る様をあの方の傍で見て来ました 出来たばかりの地球(ほし)が生きる術を得て生態系を変えて逝く様は美しく神聖な奇跡だった 美しい地球(ほし)を壊すのも人ならば……護るのも人だと想いたい 愚かは正せる過ちだと…想いたい…… あの方も……同じ想いだと想いたい 未来の目を摘む様な行為はしていないと想いたい……」 皇帝閻魔の想いだった 炎帝は「何時まで黙り決め込むんだよ?」と天を仰ぎ口にした 〝我が愛しき愛する子よ…… 私も……この蒼い地球(ほし)を愛しく想っておる…〟 「へぇ……総て殲滅して新しく作り替えるつもりだと想った その方が手っ取り早いもんな あんたは〝人〟に絶望した 〝人〟は愚かな生き物だもんな 壊す事しかしねぇ……醜い存在 何万年経とうとも……何億年経とうとも…… 人は同じ過ちを犯す 破壊と略奪と征服 人と人とが闘い 弱者は巻き込まれ命を落とす んなの……魂の選別をしている〝神〟の方が一番解ってるさ! 正しても正しても愚かな過ちは正されねぇ…… 天使達が一番解ってるさ 罪を悔い改めさせても同じ過ちを犯して地獄に来る魂を見続けた魔族が一番解ってるさ それでも! ………それでも我等は明日を信じて生きる人間の明日は奪えねぇと想ってる! 一部のクソ人間の所為で総てがクソだと想うのは止めてやれよ 明日を信じて生きる人間はいるんだ 明日……地球が滅んだとしても………それでも明日を信じて生きてる人間はいるんだ そんな奴がいる限り……オレ達は諦めちゃダメだと想っている オレらが諦めたら……人間は明日を信じられなくなるじゃねぇか! この地球(ほし)は……そんな人間がいるから美しく光ってるんじゃねぇか! 創った存在が見放してどうするんだよ?」 〝炎帝………審議監理局と言う存在は私が創った…… 神も私利私欲にまみれて……己を知らぬ者が増えたから…… 中立機関が必要だと想ったのじゃ…… だが……いつの間にか……審議監理局は私の手を離れて……一人立ちして逝ってしまった… そして気付けば……他の者の手によって…… 作り替えられてしまった そうなっては……もう手出しは出来ない…… 出来なのだ……何一つ……〟 「なぁ、総ての黒幕……知ってるんだろ?教えろよ! オレは聞く義務がある!違うか?」 〝……あぁ……お前には聞く義務があるな…… 総ての事態の根底にあるモノは…… テスカトリポカ(Tezcatlipoca) 神々の中で最も大きな力を持つとされ、神々からは……悪魔と呼ばれた……存在 夜の空を司り 夜の翼を駆使して 北の方角 大地 黒耀石を操り 敵意、不和、支配、予言、誘惑、魔術、美、戦争や争いといった幅広い争い事を植え付ける 蒼い地球(ほし)を滅ぼせるとしたら…… それは…‥テスカトリポカだけだ……〟 創造神の苦しげな声が響き渡った 苦悩に満ちたその声は…… 後悔とも懺悔とも謂える声音を混じらせ……沈んでいた 「〝テスカトリポカ〟? あぁ……そうか…テスカトリポカのナワル(ナワール・nahual)はジャガーだったな……繋がったな……韜晦された時に豹に変身する人間うんぬんの話が出た…… 繋がっていたんだな……」 やっと敵の姿を射程範囲内に実感した炎帝は呟いた 青龍は「ナワル?」と疑問を問い掛けた 「ナワルは鳥獣に変身する能力を持つとされた妖術師や魔女(シャーマン)あるいは変身後の姿を指す テスカトリポカのナワルはジャガーって話だ ダンピール協会へ逝った時に人が豹に変身する……うんぬんの話が出たろ? 人豹…牙王に問い掛けても解らないと謂われた存在だが…こんな所に繋がっていたんだな」 炎帝は青龍に解る様に詳しく説明した そして創造神へ 「オレが四天王を創るけど、異存はねぇよな?」と問い掛けた 〝それは……我に申しておるのか?〟 「そうだ。異存がねぇなら力を貸せよ!」 〝…本当に…お主は人使いが荒い…‥〟 「使えるものなら鬼でも悪魔でも赤ん坊でも老人でも使うさ」 炎帝はそう言い嗤った そして立ち上がると「やるか!」と言い応接間を出て逝った 庭に円陣を書いて、その中央に立つと青龍に 「あばらを一本くれ!」と言った 「良いですよ 君の欲しいだけ取りなさい その代わり……キスして……君の口吻けで癒して下さいね」 「ならオレの前にしゃがめ……そしたらキスする」 青龍は炎帝の前に膝を着いて、愛する人を見上げた 炎帝は青龍に口吻けして…… 口腔に舌を挿し込み深く口吻けた 口吻けに夢中になりつつも、指は青龍の服の中に潜り込み…… あばらをなぞると……グサッと体内に潜り込み……あばらを一本へし折った 「………っ!!……」 痛みに顔を歪める青龍に口吻けて……後始末すると青龍から離れた 青龍のあばら骨を円陣の中央に置き、自分の体内に指を食い込ませると…… あばらをべし折った 炎帝の体内からあばらを一本抜き取ると…… 青龍のあばら骨の横に置いた 口から血を流し……辛そうな炎帝を青龍は抱き締めた 「大丈夫ですか?」 「大丈夫だ……これから四天王を三柱創る オレの骨だけだと……暴走するのが怖いからな 青龍のを貰った 秩序と法律を司るお前の骨を組み込む事によって……暴走を食い止めるのが目的だ 痛い思いさせたな」 「総ては君の想うままに…… 気に止まずともよいのです 君と僕との骨を組み込まれた神を創る…… 君と僕との子じゃありませんか! そんな嬉しい事はありません」 「青龍……」 「支えていてあげます 君は君の使命を完遂なさい 僕は何時でも君の味方です 君はなにも囚われる事なく想いのままに…」 背後から青龍に抱かれ、炎帝は幸せそうに微笑むと…… 呪文を唱えた 「東西南北 我らの力は平等に等しく平和を愛し 平穏を夢見る 我等は護りし者 護りし大地に召喚されよ! さぁ東西南北、司る三柱よ出よ!」 呪文を唱え、力を注ぎ込む 青龍と炎帝の骨がグルグルと搦まり……一つの存在になる 光り輝く骨はグルグルと膨らんで……大きな球体になった 大きな球体は……分裂を繰り返し…… やがて三つの球体を作り上げた 「神よ、仕上げは頼む」 〝承知した、任された以上は限りなく愛しき子に近い存在に……導いてやろうぞ〟 光り輝く球体は……小爆発を繰り返し変形して……完全な一柱へと姿を変えて逝った そして……その時が現れた 光り輝く球体は人のカタチになり、やがてその存在を露にした 生まれたての神は……無垢なまま裸体を晒していた 「東を皇帝閻魔 西を皇帝輪王 南を皇帝地王 北を皇帝光王 冥府の四天王は今、此処に完全な姿を現した 四天王には冥府ハデスの血と骨を与し者として誇り高き存在になってくれ 総ての希望となってくれ……」 と炎帝は言葉を贈った 皇帝閻魔は寂しそうに炎帝を見ると 「君の門は空いておくと想いました 君は‥‥‥」 皇帝閻魔は言葉を詰まらせた 還らずともよいと想った 我が子の幸せだけを願っていた だがいざ‥‥‥冥府の門番の席を埋める様な遣り方に‥‥ 皇帝閻魔は不安を口にせずにはいられなかった 目の前の三柱は‥‥‥何処か我が弟 皇帝炎帝に似ていた きっと我が子が成長したなら‥‥ その容姿をしていただろうと‥‥‥想像できる姿をしていた だが皇帝閻魔には既に愛する息子がいた 炎帝は父を抱き締めると 「オレの不在に門を不在には出来ねぇからな 護るべき存在は必要だろ?」と何でもない風に謂った 「我はお前が幸せなら‥‥冥府に還らずともよいと想った‥‥‥ だがいざ‥‥‥本当に還らぬやもと想ったら‥‥」 明日から何を護って生きて逝けば良いか解らなくなってしまった‥‥‥ 炎帝は「親父殿は何も心配しなくても良い」と安心させる様に強く抱き締めた 「皇帝炎帝‥‥」 「オレは皇帝閻魔を継ぐべき者! オレが冥府に還る時、親父殿は隠居して気楽に過ごせば良いんだよ! スワンも冥府に来るかんな! そしたら茶でも飲みながら気楽に過ごして、今度は親父殿が人の世や魔界に目を配らせて護れば良いんだよ」 「我に‥‥そんな楽しい日々がまっているとは想いもせんなんだ‥‥」 「だからあと少し踏ん張ってくれ親父殿!」 「あぁ、お前が還る日まで我は冥府を何としてでも護り通そうぞ!」 現金な皇帝閻魔は楽しそうに笑うと、皇帝炎帝の家の使用人を呼び寄せた 「新しき冥府の門番に着るモノを!」 皇帝閻魔が謂うと執事のクラウスはメイドに言い付け着るものを用意させた 皇帝閻魔は執事に着るモノを受けとると、裸体の四天王にローブを着せた そして辛そうにしている息子、皇帝炎帝をヒョイッと抱き上げると、青龍にも手を貸し部屋の中へと入って逝った 使用人は三柱をまずはバスルームへと連れて逝った ソファーに座ると炎帝は天を仰いだ 「創造神、四天王の教育係を冥府に遣わせてくれ」 〝承知した 闘神アーレスとユーピテルを教育係りに使わそう〟 創造神に約束を取り付けると炎帝は 「審議管理局なるモノ、完全に消して構わねぇかよ?」と問い掛けた “あぁ‥‥‥構わぬ‥‥ あれらは本来の目的をねじ曲げられた傀儡に過ぎぬ‥‥ 存在させれば確実にお主の果てが狂うであろう‥‥‥” 「なら完全に消し去る!」 “その前に‥‥お主の前に過去の亡霊が現れるやも知れぬぞ?” 「過去の亡霊? あんだよ?それは?」 “その時が来れば解る‥‥ 倭の国も‥‥過去の遺物を抱えて間違った道へと進もうとしておる” 「曲がるならねじ曲げて正すしかねぇだろ? オレの行く道を塞ぐなら薙ぎ倒して逝くしかねぇ!」 “誠‥‥お主は変わらぬな‥‥ お主の行く道を照らしてやろう‥‥‥” 創造神はそう言い気配を消した 炎帝は皇帝閻魔に 「オレはあばらが再生したら魔界に還る」と告げた 「無茶はするでないぞ?」 皇帝閻魔は心配そうに問い掛けた 「まずは魔界に逝って審議監理局の対策をして来ねぇとな ………どうりでダンピール協会の机の上に黒曜石があった筈だ… 気付かなったった…」 炎帝がボヤくと皇帝閻魔は 「万能な神だって見落としはある 君は今は〝人〟ですからね気に病む必要なんてないんです! さぁ、あばら骨を再生させる為に薬湯を用意させました! 今宵は泊まって逝きなさい 明日にはあばら骨が再生している様に薬湯を飲み続けなさい そしたら還してあげますからね」 そう言いにこやかに笑った 炎帝は「……ゲッ……薬湯かよ!」と呟いた わざわざ、クソ苦い薬湯を用意する辺り……意地悪だと炎帝は想った 「親父殿……薬湯じゃなくさ、薬とかお菓子とかケーキとか……美味しい奴で良いじゃねぇかよ?」 「良薬口に苦し……ってことわざ知っているでしょ? ささっ、伴侶殿、炎帝にグビッと飲ませて、貴方も飲みなさい これを休んで飲んで、を繰り返して今宵は眠られよ そしたら明日には新しいあばら骨が生えて来るであろう!」 青龍は皇帝閻魔に謂われる様に、炎帝に薬湯を飲ませた 「うぇっ……バカッ…止めっ……」と抵抗する炎帝を押さえ付けて口吻けして飲ませた そして青龍も我慢して……苦い苦い薬湯を飲み干した 「‥……これは……この世の飲みもんじゃねぇわ…」 うえっ……と言う顔して炎帝は呟いた 青龍は『‥‥全くです』と想いつつ‥‥飲み干した 夜には美味しい晩餐を皇帝閻魔と共に取って その夜は皇帝炎帝の屋敷で泊まる事にした ふかふかのベッドの上、二人は‥い抱き合い眠りに堕ちた 自分の体躯の中の骨が‥‥ 形成され生えて逝く感覚を一晩かけて味わった炎帝と青龍は互いを抱き締めて‥‥ その感覚に耐えていた 酷く苦い薬湯が終わる頃、それは始まり‥‥ 夜が明ける頃には……前よりも丈夫な存在感を示していた 「……あばらも……生えましたね…… 不思議な感覚でした……」 青龍は炎帝を抱き締めて朝を確かめて吐き出した言葉だった 「……青龍……痛い想いをさせて……悪かった」 「僕は君が望むなら……この命だって君に……捧げる覚悟が出来ているのです あばらの一本や二本……そんなもの耐えて見せますとも! 君の夫はそんなに柔ではありませんよ?」 「だな…オレの夫は…賢くて正しくて男前で丈夫だ! オレは…惚れぬいた亭主と添い遂げられ幸せ者だな…」 「君のモノです 僕の総ては君のモノです」 「愛してる青龍」 「僕も愛してます奥さん」 朝から……イチャイチャ…熱かった いまだに新婚の二人を……侍従の者は嬉しそうに見詰めていた 「皇帝炎帝、お支度をなさいますか?」 侍従が嬉しそうに炎帝に問いかける 主が還った館は精彩を取り戻し、精気に満ち溢れていた 「青龍が着せてくれるかんな 置いておいてくれ!」 「なりませぬ! ご亭主にも時には骨休めが必要に御座います そして何より、我が主のお支度は執事の務め さぁ炎帝様、お着替え致しましょう! ご亭主の方も今お着替えをお持ち致しますので、お待ちください!」 執事は炎帝を抱き上げると着せ替えを始めた その手つきは手慣れていた 侍従が青龍の着替えも手伝う 慣れてない青龍は……何だか変な感じだったが、侍従のしてくれる事を受け入れていた 支度が整うと食堂へと出向いた すると食堂には皇帝閻魔が既に座っていた 「親父殿、早ぇじゃねぇかよ?」 「私は今はこの屋敷で生活しているのです」 皇帝閻魔はご機嫌に何でもない風に答えた 「自分ちあるやん…」 「お前の面影のある場所で生きたいのです 私は引き続きこの屋敷で暮らします 四天王には他の屋敷を宛がいましょう」 「………親父殿……自分ち……還らねぇのかよ?」 「ええ。お前が還っても私は此処で暮らします 新婚の邪魔だなんて言って追い出さないで下さいよ?」 「追い出すに決まってるやん…… オレは青龍との新婚生活を手放す気はねぇかんな!」 炎帝が拗ねた様に言うと、皇帝青龍は慌てて 「お前達の新婚生活を邪魔などせぬ ………でも……伴侶殿は両親との同居はお嫌に御座いますか?」 と萎れて、そう聞き返した 「同居は嫌ではありません 僕達が二人でいられるのでしたら、お父上との同居は喜んで受け入れます 今現在、僕は康太の家族と同居しております 炎帝が淋しくないのなら、是非とも同居をお願いしたい位です」 「おおっ!青龍殿!!我が婿殿! 我は貴殿を本当の息子の様に愛して慈しむと約束しよう!」 「嬉しいです父上」 青龍と皇帝閻魔は、すっかり意気投合して夢を語っていた 炎帝はそれを笑って見ていた 冥府に還るのは……… まだまだ先の事だ 魔界でどれ程生きれるかは解らないけど…… 人の世を終えたら魔界で生涯を終えねばならない そしたら冥府に還って来る事になるだろう それまでまだまだ長い年月が必要となるだろう……… それでも……皇帝閻魔が嬉しそうだから…… 炎帝はその言葉を飲み込んだ 食事を終えダラダラと過ごした後、炎帝は立ち上がった 仙界の鏡を覗き込み、天界のガブリエルの姿を思い浮かべた するよ鏡にガブリエルが映し出された 「ガブリエル!見えてるか?」 『炎帝に御座いますか? ちゃんと見えております!』 「その部屋、誰もいねぇか?」 『はい。私だけに御座います』 「崑崙山まで来てくれ オレも今から崑崙山へ向かう」 『承知しました!では崑崙山でお逢い致しましょう』 炎帝は頷いて気配を消した そして次は魔界の閻魔を思い浮かべる 閻魔の執務室の姿見に炎帝が姿を現すと、閻魔は喜んで『炎帝ではないですか!』と声をかけた 「兄者今一人か?」 『いいえ……赤いのと朱雀が張り付いております…』 閻魔の横には朱雀と赤龍の姿があった 赤龍は炎帝に向かって手を振っていた 「兄者、崑崙山に来てくれ その時に魔界の話も聞こうと思う」 『承知した!今すぐ崑崙山に向かいます 赤いの、庭に出て龍の姿になってなさい!』 赤龍は『あいよ!』と言い閻魔から離れて庭へと向かった 「ならな兄者、総ては崑崙山に逝ってからな!」 炎帝はそう言い連絡を断った 朝、起きると炎帝の髪は黒く短く何時もの康太になっていた 皇帝閻魔は短い髪の炎帝の髪に触れた 「………逝くのか?」 淋しそうに問い掛けられ炎帝は皇帝閻魔に抱き着いた 「親父殿、また暫くは逢えねぇけど元気でいてくれ! そのうち四天王の出来具合を見に来る事にするかんな」 「待ってます……私はお前が生きていてくれればそれでいい…… 幸せそうにしててくれれば……それだけで……」 我が子を愛する親の気持ちは同じ 神だって人だとて、我が子を思う気持ちに境界線はない 皇帝閻魔は父親だった この世でただ一人の息子を想う この世でただ一人の我が子を想う 「………親父殿……オレは産まれて来て良かったと想っている 生きてる日々は……それだけで素晴らしい それを教えてくれたのは青龍だ 愛する男が……オレに教えてくれた日々なんだ 親父殿……この世に産み出してくれてありがとう オレを誕生させてくれてありがとう」 炎帝は言えなかった言葉を言った 魔界に呼びされると告げた日 何故……オレなんて創ったんだ?と皇帝閻魔を責めた だが今なら解る 皇帝閻魔は愛する存在を手放したくはなかったのだ…… 愛する存在を感じていたかったのだ 「………炎帝……」 皇帝閻魔は泣いていた 炎帝に抱きついて泣いていた おいおい……声をあげて泣く様は…… 何処にでもいる父親だった 青龍は金龍や清四郎を思い浮かべていた 不器用で中々思いを伝えられなかった父を想った 皇帝閻魔も炎帝の父なのだ 父だからこそ我が子を愛して 我が子の幸せだけを願う…… こんなにも皇帝閻魔は我が子を愛していたのだ 今更ながらに想う 皇帝閻魔と言う冥府を守護する神ではあるが… 紛う事なく想いは変わらない親なのだ おいおい……と泣く皇帝閻魔を宥めて炎帝は笑っていた 「親父殿、オレは崑崙山に逝くからな」 「また崑崙山でお茶してくれるなら離す」 「するから離してくれ……」 「約束破ったら押し掛けますよ?」 「……親父殿……解ってるって……」 炎帝は笑って父を抱き締めた 父も我が子を抱き締めて……離した 「婿殿、また遊びに来てくだされ」 「はい!また遊びに来させて戴きます」 「………婿殿……アレと一緒にいると言う事は……大変な事だと想います アレの歩みは止まらない 懇情の想いを幾度もされて……それでも共にいてくださる貴殿には頭が上がりません どうか……あの子を……宜しく……」 皇帝閻魔は青龍の手を握り締めた 青龍はその手を握り還して 「皇帝閻魔、また遊びに来ます」 「婿殿、ご無事で……」 皇帝閻魔は青龍に深々と頭を下げた 青龍は皇帝閻魔から離れると、炎帝の手を取った 炎帝は青龍の手を取り握り返した 「では逝く……見送りはいい この屋敷を出てヴォルグの木の下から崑崙山に向かう」 炎帝が言うと執事が 「では、その場所までお送り致しましょう」と告げた 炎帝は父に背を向け歩き出した 父はその背を見送る 炎帝は一度も振り返ることなく…… 屋敷を出て逝った 皇帝閻魔は窓に近寄り外を見た 馬車に乗り込み走り去る我が子を見ていた 馬車は軽やかに走り抜け……屋敷を出て逝った 皇帝閻魔は馬車がいなくなった先を黙って見ていた 我が子が……許して傍にいてくれる今が……愛しかった 傀儡にさせ……中身のない子が…… 中身を詰めて愛を知って強くなった 逝く道が険しいのは変わらぬが…… それでも自制出来、冷静に行動が出来る今…… やらなきゃいけない仕事も多いだろう…… 創造神………あの子は貴方の傀儡ではない…… あの子に過酷な運命を与えるのは止めて下さい…… 幸せな時を奪うなら…… 殴ってやりますからね 視界が揺れて…… 頬に熱い滴が流れて落ちた 皇帝閻魔はそれを拭う事なく……祈る様に…… 果てを見詰めていた 冥府と仙界の境界線から崑崙山へと逝くと、閻魔は既に炎帝を待ち受けていた 「炎帝……体躯は大丈夫ですか?」 無茶してないか弟の無事を確かめる 「大丈夫だ兄者……オレよりも兄者痩せた?」 「……兄は何時もスリムでスマートな男前でしょ? 何時もと変わりは在りません」 ニコッと笑って言うが、その顔に疲労の色は隠せなかった 「青龍を一足先に越させようと想ったがな、アクシデントがあったから還れなかった……すまねぇな兄者」 「我が弟……炎帝よ……兄はお前が無事であれば……それだけでよいのです」 「まぁ話は八仙の家に入ってからな」 炎帝はそう言い八仙の家の中へと入って逝った 八仙の家の中には朱雀と赤龍の他にガブリエルと金龍と黒龍がいた 「黒いの、どうしたよ?」 炎帝が声を掛けると黒龍は立ちあがり友を抱き締めた 「閻魔がオーバーワークでぶっ倒れてた なのに寝るのは嫌だって崑崙山まで逝くって言うからな着いてきたんだよ」 黒龍の説明に炎帝は険しい顔になった 「……兄者……」 何が兄はスリムでスマートな男前だよ?と毒づいた 「……炎帝……兄はお前の還る魔界を……」 「オレが還る魔界に兄者がいねぇなら……オレは魔界には還らねぇからな!」 炎帝が言うと黒龍が「だよな!」と怒りモードで応戦する 「兄者は少し健康と言うのを考えられた方が良いと想う」 「………無茶ばかりするお前が言うのか?」 閻魔がボヤくと青龍が代わりに 「炎帝は一日でも長く生きる為に日々健康には気を使ってますよ! 閻魔、貴方も日々気を付けて炎帝が還る日まで護って下さいね 勿論、僕達が還ったとしても元気でいてくださいね そんなに簡単に楽になれると想わないで戴きたい」 青龍がしれっと言うと金龍が「……おい青龍…」と止めた 炎帝は笑って椅子にドカッと座ると 「魔界にも審議監理局なるモノは来たのかよ?」と本題に入った 閻魔は炎帝に書類を渡した 炎帝はその書類を受け取り目を通した そして書類に目を通しつつ 「冥府の四天王が殺された」と現実を告げた 閻魔は「‥…!!」言葉もなく驚愕の瞳を炎帝に向けた 「オレが冥府に逝った時には、事は既に遅く…… 皇帝風神と皇帝阿修羅は殲滅された後だった 審議監理局なるモノが冥府に入れたってのも驚きなら…… 四天王を殺戮する能力が有ったのも驚きだ 四天王は……神ですら倒すのは難しい筈だ それを……アイツ等は殲滅して逝った 皇帝閻魔の命も狙ってたみてぇらしいけど、魔獣が危機に駆け付けて難を逃れた 魔獣が来なければ……皇帝閻魔は殲滅されていた 冥府の四天王は中立な存在 それを理由もなく殲滅する事こそが問題だとオレは想う まぁ殲滅理由は在るだろうけどな 多分……中立を越えて炎帝に力を貸したから……だろうけど、神が神を裁く……などと言うこんなふざけた現実を許しておく気はねぇんだよ!」 怒りに妖炎を立ち上げた炎帝を、閻魔は見ていた 「炎帝、冥府での用事とは、四天王の再生?でしたか?」 「あぁ、タイムロスは避けてぇからな 冥府に皇帝閻魔、ただ一人なんて噂が出たら奇襲を掛ける馬鹿な輩が出るじゃねぇかよ!」 「そうでしたか……」 炎帝の視線は書類の一点に凝視された 「………夏海が……襲われた?」 呟き…確かめる様に何度も何度も書類を見た 青龍は震える炎帝の手を握り締め… 「………夏海の具合は?」と問い掛けた 「………意識は……まだ戻ってはいない……」 金龍が苦しげに炎帝に現実を告げた 「………夏海を助けに入った銘も……襲われたのかよ……クソ……予測出来れば手が打てたのに……」 炎帝は悔しそうに唇を噛み締めた 唇が切れて……血が出ても……それでも悔しくて……悔しくて……堪らず、唇を噛み切った 「……炎帝……ダメです……」 優しい青龍の手に、炎帝は青龍を見上げた 「………夏海がなに悪い事をしたんだよ?」 幸せにしてやるつもりだった 愛する男と消えるつもりだった夏海を魔界に送ったのは炎帝だった 女神に雅龍と同じだけの寿命を与え、魔界で生きさせた 夏海が次代の金龍を産むのが解っていたから…… 龍族にはなくてはならない存在だと、金龍に預けた 間違っていたのか? お前を魔界に連れてきたのは…… 間違いだったのか? 炎帝は悔やんだ ガブリエルは一枚の紙を、炎帝に渡した 炎帝はその紙を受け取り…… 「………!何だよ……これは!!」と怒鳴り声をあげた 朱雀は炎帝に「………ヤバい事態なのか?」と問い掛けた 「………この地球(ほし)の均衡が……崩れるかも……と言える程の事態だ……」 「………おい…‥」 朱雀は想わず呟いた…… 「天にも地にも世界を司どる均衡と言うのがあるんだよ 天界にも〝悪〟はある 魔界にも〝善〟がある様に、表裏一体 この世界は光と影、善と悪で成り立っているんだよ 大天使カマエル 「神を見る者」という意味の名をもつ大天使で 十四万四千もの能天使の指揮官として、一万二千もの「破壊の天使」を率いているともされている天界の〝悪〟とも言える象徴 神の立てた〝正義〟を前提にして 神に敵対する者達を容赦なく攻撃するといわれている 天界にいながら、地獄の悪魔として扱われた程の残忍さを秘めていた そんなカマエルは「赤い豹」という通り名で呼ばれていた 大天使カマエルと大天使ガブリエルは天秤に乗る天使として、天界の均衡を司さどっていた 大天使カマエルが……消滅させられたらとしたら……この世の均衡は……どうなるか解らねぇ……」 炎帝の説明に朱雀は「………再生出来ねぇのかよ?」と問い掛けた 「……無理だな……オレ等が簡単に創り出せるモノじゃねぇんだよ……」 「冥府の四天王は創って来たんだろ? なら大天使カマエルってのも……」 「朱雀、無理なんだ オレは元々冥府のモノだ 皇帝閻魔の体躯の一部を貰い受け継いでいるから、四天王は新しく創る事も可能だ 元々は皇帝閻魔が受け継ぐべき部位だったからな……だけどオレは天界のモノじゃねぇからな 再生しようにも出来ねぇんだよ 天使を禍禍しい生き物にしちゃぁ……ダメだろうが……解ってくれ朱雀……」 「………なら……この世界はどうなる?……」 「それは……(創造)神に頑張って貰うしかないやん! オレは天界には関与はしちゃならねぇんだ それが二度と天魔戦争を起こさせない為のルールなんだよ 天界の事は天界でしねぇとならねぇんだ 天界の事に魔界が関与したと解ってみろ……領域侵犯うんぬんって言い出す奴が必ず出るだろうが!」 炎帝が言うとガブリエルも 「炎帝の仰有る通りです 天界の事は天界でやらねばなりません この世界の均衡を……護るが我等の務め! ですが私がこの場にいるのは大天使カマエルの復活の為では御座いません 審議監理局なるモノの……真意です 何故?彼等はこのような世界を滅ぼす様な行為をなさるのか? それが全く見えて来ないのです……」 ガブリエルは疑問を口にした それに炎帝は答えてやった 「近頃の神々は…神の仕事をしない……とボヤいていた…… そろそろ神を取り締まる機関が必要なのかも知れないって想ったらしい」 炎帝が何事もなくサラッと言うと、ガブリエルは…… 「……それは……誰の思惑に御座いますか?」 と見えて来ない会話を問い掛けた 「お前が言ってる創造神って奴が言ってた思惑って奴だ!」 「……あの方と……話をされたのですか?」 「親父殿はアイツの愛しき子だからだろ?」 「………」 ガブリエルは言葉を飲み込んだ 「だが創った機関は知らないうちに乗っ取られ、今は思惑と違う動きをしている…ってのが現状だ 創造神が創ったって言うだけあって、それはそれはすげぇ機能が着いてると考えた方が良いぞ 審議監理局なるモノは冥府に逝き四天王を抹殺する力を持つ! 更に天界に逝き大天使カマエルを殲滅 魔界は龍族がお邪魔だったのか次代の金龍を芽が出る前に摘もうと…した それが全容だろうな」 炎帝の言葉を一字一句聞き逃す事なく受け止め、ガブリエルは…… 「………私達はこれから…どう動けば宜しいのですか?」と問い掛けた 「待て、もう少し読まさせてくれ……」 炎帝はそう言いガブリエルが渡した書類に目を通していた 「………オーディーンさえも……踏み躙り……奴等は天界に入ったって訳か……」 ギリッと奥歯を噛み締めて……炎帝は吐き出した 「………オーディーンはどうした?」 「………私が見に行った時には……気配すら御座いませんでした」 「骸(むくろ)を……見た訳じゃねぇんだな?」 「……?はい!」 「なら何処かにいる筈だな ガブリエル、スレイプニールはいたのか?」 「スレイプニール? オーディーンの愛馬ですか? 何処にもおりませんでした」 「ならオーディーンは死んじゃいねぇ オーディーンは生きてる 生きてて敵の状況を探りに行ってるんだろう」 「………何故?そう想うのですか?」 「オーディーンの愛馬スレイプニールは、主神オーディンが騎乗する8本脚の軍馬だぜ? 主を遺して姿を消すマヌケじゃねぇんだよ! 主の為ならばその命顧みず擲って助ける筈だ その愛馬の骸がねぇって事は死んじゃいねぇって事だろ?」 ………なんと言う情報力…… ガブリエルでさえも知らない神々の情報が……炎帝には在った 「おっさんの報告を待つとして、取り敢えず悪魔一族や堕天使達が利用されてねぇか確かめる必要はあるな…」 炎帝の言葉にガブリエルは 「……堕天使貴族や悪魔一族は殲滅されたのでは?」と訝った言葉を投げた 「堕天使貴族は楽園が丁度空いてたからな棲まわせてやった 悪魔一族は本来の住処に戻って東西南北守護してる筈だぜ? 無益な殺生は性じゃねぇんだ! 「誠……あなたらしい……」 ガブリエルが呟くと、炎帝は八仙に声を掛けた 「八仙、仙鏡を使って連絡を取ってみてくれ! そして炎帝が手を貸せと言っていたと伝えてくれ!」 八仙は「解り申した」と言い姿を消した 炎帝は天を仰ぐと 「どうするんだよ?」と声を掛けた 〝それは我に申しておるのか?〟 姿なき声が響いて、炎帝は「そうだよ!」と答えた 「んなにやられて、打つ手は用意してあるんだよな?」 〝大天使カマエルを創れと申すのか?〟 「それはガブリエルと相談してくれ! オレは天界の事に口を出す気はねぇかんな」 〝なれば、何を指しておるのじゃ?〟 「好き勝手を何時まで許すのかって、聞いてるんだよ!」 〝好き勝手などさせる気はない そもそも……それを許すと思っているのか?〟 「オレはずっと考えていた 世の中の不条理 それら総て…人間の招いた災厄ばかりじゃねぇよな? 人の領域を越えた輩の介入に何故目を瞑っているのか? 災厄を招いたのは……人間ばかりじゃねぇだろ? アダムとイブにしたって食えとばかりにリンゴがあるんだもんな うっかり食っちまう時だってあるだろ? それを大袈裟に追放して人に罪を科す それって人間にしてみたら生まれた瞬間に罪を背負わされて……誰の罪だよ?って言いたいと想うぞ? 世の中の不条理は創造神、てめぇが杓子定規で計った世界だろ? 創造神、あんたは人間に何をやらせたいのよ? 何を期待して、何に絶望して、何に怒っているんだよ? 災厄を産み出したのはある意味、あんたの所為かも知れねぇだろ?」 〝………我を責めるか?……〟 「責めてるんじゃねぇよ バランスを取る! 絶対に崩れねぇバランスを! 漬け込む隙を創らせねぇ為に、絶対の世界を創る時が来たんじゃねぇのか? でなきゃ……絶望した人間は最期のボタンを押しちまう この地球の終焉 この地球の……終わり オレ達は……存在する意味を失う…… 違うか?」 〝…………終わらせたりはせぬ……… お前の生きる意味を……… 神々の生きる意味を……… 人間の生きる意味を……奪うつもりはない〟

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