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第29話 審議管理局 ②
「あたりめぇだろ!
明日を信じて生きている奴も、血反吐吐いても闘っている奴もいるんだ!
そんな人間の明日を奪って良い筈なんかねぇだろうが!」
明日は続く
永遠に……紡がれるべき明日を…
そんな力強い言葉だった
静まり返った部屋で、言葉を発する者は誰もいなかった
「おっ!やっぱりここにいたな!」
その時、静けさを破る声がして、全員声の方へと振り向いた
そこには血塗れの……
「オーディン!」
オーディンが立っていた
炎帝はオーディンの傍に駆け寄った
「騒ぐな!まだ命はある」
オーディンは炎帝を押し退けて部屋の中に入ると、明け渡された椅子に座った
「儂は突然にやって来た輩と闘って……天界の門を護った……
だがあやつ等は……意図も容易く我を倒して……天界に入って逝きやがった
儂は愛馬を呼んで後を追った
そしたら……あやつ等が……大天使カマエルを消滅させる場面に出会した
あいつ等は……大天使カマエルのコアを抜き取り持ち去った」
オーディンはそこまで言い、一息着いた
八仙がオーディンに薬湯を渡した
オーディンはそれに口をつけた
炎帝は「……コア……?」と呟いた
そして「……コア……あぁそうか……」と納得するかの様に声に出した
「少しは役に立ったか?」
オーディンは炎帝に問い掛けた
「めちゃくそ役に立つ情報だオーディン
冥府で四天王が殲滅されたんだ
皇帝閻魔をもってしても……四天王は甦らせれなかった
なんで四天王は甦らなかった……ってずっと引っ掛かっていた
皇帝閻魔の血肉を分けて創った四天王が、皇帝閻魔でも再生出来ないのが不思議だった
コアを抜き取られて持ち去られたら……再生したくとも無理だ…
中身のない傀儡にしかならねぇわな
親父殿が何故手を着けなかったのか……やっと解った……
コアを抜かれたら、どんな手を使っても創り直すのは無理ってもんだもんな……」
オーディンは炎帝の呟きを耳にして
「冥府の四天王が殲滅されたのか?」と問い掛けた
「あぁ、オレが逝った時には……葬送旗が立っていた……
追悼の空気が冥府を包んでいた」
「……四天王を狩れる力を持つ戦士……か……」
オーディンは呟いた
オーディンは血糊を八仙に拭いてもらい手当てを受けていた
…が、殆んど血糊は……オーディンのモノではなく…
なら誰の血渋きなのか……考えたくもなかった
「オーディン……怪我してねぇのかよ?」
オーディンに問い掛けると、オーディンはニャッと嗤った
「儂の前を塞ぐ奴は蹴散らした結果、汚れただけだ
まぁ細かい傷はある
儂だとて無傷で闘える程……無敵ではない
愛馬が……いればこそ……これだけで済んだ」
「オーディン、そいつ等……コアはどうするつもりなんだろ?」
「コアだけでは神々の創造は無理だ
多分……再生させない為に抜いただけだと想う
核を抜いたら魂を抜かれたも同然
核が抜けた器は……空っぽな器にしか非ず
向こうの目的は再生出来ない程に痛手を負わす為……だと想う」
「………そこまで用意周到に……考えて動かれた訳か……んとに厄介な奴等だな…」
「あやつ達の回りから創造神の匂いがした
元々は創造神の創りし存在なのだろ?
だったら……創造神にカタを着けさせれば良い
我等は……護るべき世界がある
我等は創造神の駒ではない!」
「流石おっさん!
そんな台詞……おっさんにしか言えねぇだろうな」
「儂は駒になった覚えはないからな!」
「オレもそう言いてぇけどな、残念な事にオレはアイツの駒だ」
「そうであったな
でもお主は言いなりなどならぬであろう
一筋縄でいかぬのが炎帝であろうて!」
「だな!オレは無理難題聞く気はねぇかんな!
でも……このまま知らん顔は出来ねぇ所まで来てる……
なぁ……渾沌(カオス)って……元を辿れば根っこは一つだったりする?」
炎帝が呟くと、それにはオーディンが答えた
「儂は同じだとは想えぬ
だが無理矢理同じ土俵の上に乗せられたんだろ
カオスが生まれし時、救世主も生まれる
探せば……人の世に生まれし救世主は一人や二人ではない……
この事態を問い質そうと想っておった
そこへ今回の審議監理局なるものがやって来た
本当に渾沌は顔を出したと言う訳ではないか!」
「……救世主……そんなにいるのかよ?
それって神が把握しているって事か?」
「そうだ……世紀末に現れる救世主が誕生しておる
しかも一人や二人ではない……
この事態は正常ではないと儂は想う…
儂がそう想う程だから神々の危機感は相当であったと想う…
そうであろう?ガブリエル」
オーディンはガブリエルに話をふった
ガブリエルは苦渋の表情を浮かべて……
「………異常事態です………
ダンピール協会に炎帝が乗り込んだ頃、各国の首脳陣が日本に集結した時がありました
あの集まりは……ダンピール協会の事だけではなかった筈です
各国の首脳陣が自分の国に現れた救世主の情報も持ち寄っていた筈です
それらの総てが……ダンピール協会が起こしている訳ではないので……多分貴方達の耳にはいれなかったのでしょう
現実は……この異常事態をどう見るか?
話し合ったのだと想います
救世主と言われている以上は……殲滅する訳にもいかない……
かと言って受け入れるには……数が多すぎる
異常なのです
危機なのは解るけど、多すぎる
この事態を各国も持て余している……
そこへダンピール協会の件があり……
どの道、露見は避けられない
と想いつつも……露見するまで黙っているつもりだったのでしょう
だけど、やはり世界で続く異常事態に、近々召集がかかる筈です」
「………根っこは一つだと言う事か?ガブリエル」
「多分……違うでしょう………
何者かが混沌を利用して叩き潰す材料にしているのでしょう
重なりすぎなのです………
ここ数年の災厄に関わる総てが……混沌の仕業とは想えません」
「だよな、底知れぬ悪意を常に感じていた……」
冥府で創造神が言っていた神
テスカトリポカ(Tezcatlipoca)
神々の中で最も大きな力を持つとされ、神々からは……悪魔と呼ばれた……存在
夜の空を司り
夜の翼を駆使して
北の方角
大地
黒耀石を操り
敵意、不和、支配、予言、誘惑、魔術、美、戦争や争いといった幅広い争い事を植え付ける
蒼い地球(ほし)を滅ぼせるとしたら……
テスカトリポカ(Tezcatlipoca)しかあるまい
炎帝は「………だとしたら……何処で混沌と繋がるんだ?」と呟いた
愛する人を亡くして……
哀しく彷徨える魂
Χάος 混沌と呼ばれた男と……
テスカトリポカ(Tezcatlipoca)
この繋がりは?
そして審議管理局
この繋がりが見えて来なかった
これらの意味している災厄が必ず来るのは解るのに……
繋がりが見えて来なかった
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