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第34話 煩雑 ①
飛鳥井の家に戻った康太達は閣下に連絡を取り逢いに逝く約束を取り付けた
康太は家に還っても何処かへ電話をしていたり、PCを物凄い早さで操作して話し掛ける事すら出来なかった
それでも親が家にいるなら傍にいたいのは子供の想いだった
リビングを覗くと両親がいるなら傍にいたいと、邪魔にならない距離で良いから傍にいたかった
部屋に入って来た我が子を、榊原は迎え入れてソファーに座らせた
そして冷蔵庫を開けて……留守にするから下に持って行ったんだと思い出す
でもジュースなら冷やしてあるから、榊原はジュースを淹れて子供達の前に置いた
子供達はジュースに手をやり飲み始めた
榊原は子供達の横に座ると
「日に焼けましたね?」と我が子の変化に気付いて声をかけた
音弥は「とぅちゃ…じゃみゃ?」と心配そうに問い掛けた
「邪魔なんかじゃありませんよ
我が子を邪魔にする親なんていません
君達は僕と康太が愛して止まない我が子なんですからね」
榊原が言うと太陽が
「……ちゃみちきゃったにょ…」
と本音を吐露した
「忙しかったですからね……
本当なら君達の休みに合わせて動くつもりでしたが……予定が狂いましたからね」
流生は父に抱き付き
「りゅーちゃ ぎゃみゃんれきる」と強がってみせた
「我慢なんて……しなくて良いです」
我慢させているのは自分達なのだ
だが子供達が我慢してると堪らなく辛くなる
本当なら我慢なんてさせたくない
させたくないけど…
我等には使命があるのだ
何者よりも優先させねばならぬ使命が……
榊原の顔が辛そうに歪むと大空は
「とぅちゃ またあちょびにいきょうね!」
と楽しそうに言った
「ええ……遊びに逝きましょうね
君達の時は駆け足で過ぎて逝ってしまいます
少しでも長い時を過ごしたいと想っています
想い出も映像も沢山遺したい……
あと少し……我慢させてしまいますが……待ってて下さい
そしたら時間を作りますから一緒に過ごしましょう……」
大空はなにも言わず父に抱き着いて胸に顔を埋めた
榊原は我が子を抱き……
こんなにも愛しい存在を想う
血は繋がらぬ存在だけど……誰よりも愛しく我が子だと想う
康太は小学生に上がる時に総てを話すと言う
総てを知った我が子がどんな選択をしようとも受け止めると決めていた
我が子なのだ
血が繋がらずとも絆を深めた我が子なのだ
愛しくない訳がない
愛しい
我が子としていてくれてありがとう
父と呼んでくれてありがとう
榊原の胸に熱い想いで溢れる
榊原は少し離れた所にいる翔に手を伸ばすと5人を抱き締めた
そして小さな弟の存在を想う
「烈はどうしました?」
その場にいない烈が何処にいるか尋ねる
すると翔が「れちゅ、しょーたんといりゅ」と答えた
子供が『しょーたん』と呼ぶのは榊原の兄、笙の事だった
「兄さん来ているのですか?」
「ちぎゃう
しょーたん、あさにれちゅ ちゅれちぇいっちゃにょ!」
何故、烈だけ?
榊原は携帯を取りに行くと兄に電話を掛けた
ワンコールで笙が電話に出ると
「兄さん、烈と一緒にいるのですか?」と単刀直入に問い掛けた
『お前さぁ……電話するなりそれですか?』
「すみません……兄さん、僕の愛する烈は何故兄さんと共にいるのですか?」
なにも変わってない言い種に笙は笑って、不器用な弟を想った
『烈は少し熱を出してるんです
飛鳥井は人手がないって言うから預かって来ただけです
慎一は手一杯みたいでしたからね
放っておけば慎一が倒れかねません
と言う状態でしたので連れて来ました』
「………すみませんでした
僕達が留守にしていたからでしたか……」
『少しは家にいられそうですか?』
「………多分……近いうちに海外に立ちます……」
『忙しすぎですね?
少しは時間を作りなさい!
子供達が淋しがっているのは解ってますよね?』
「はい……解ってます兄さん……
でも時間がないのです……
我が子に託す明日を確かなモノにする為に康太は動いています
総ては……我が子の為に……なんです
傍にいたい想いは誰よりも強い
でも…康太には時間がないのです
一分一秒でも惜しい……
兄さん……家族に迷惑かけているのは解ってます
本当に申し訳ないと想っていますが……康太の動きは止められません……」
その言葉を聞き笙はため息を吐き出した
『慎一が……言ってた事と同じ事を言うんですね』
「……え?慎一は何を言っていたのですか?」
『君と同じ事を言ってました
そして主の不在をカバーする為に必死で動いてました
僕達はその手伝いを買って出ただけです
だから君達は何も心配せずに動いてくれて構いませんよ』
「兄さん……」
『だから必ず還って来ると約束しなさい!』
「はい!必ず還ってきます」
榊原は約束した
必ず還って来る
家族や子供達の待つ場所へ……と心に誓った
『康太は何してるんですか?』
声がしないから不在なのかと尋ねた
「調べものをしているので子供達も静かにしています……」
『そうですか……よっぽどの事なんでしょうね……』
「兄さん……迷惑かけてすみませんでした」
『迷惑なんかじゃないです!
烈は熱が下がるまで預かります』
「頼みます」
榊原は電話を切ると我が子を見た
流生は心配そうな顔で「……れちゅ…らいじょうび?」と尋ねた
「大丈夫です」
榊原はそう言い我が子の頭を撫でた
康太はPCから離れると電話を取り出し何処かへ電話を掛けていた
電話を切ると「伊織、出掛ける」と告げた
「解りました……着替えますか?」
「あぁ」
康太は子供を見ると一人ずつ頭を撫でた
「少し出掛ける
でも夜には帰って来る
何処かへ食べに逝くか?」
康太は子供に話しかけた
音弥が瞳を輝かせ「いきゅ!」と言うと他の子も頷いた
「なら少しお留守番しててくれ!
終わったら連絡するから慎一に連れて来て貰うんだぞ?」
「「「「「あい!」」」」」
子供達が返事すると康太は慎一を呼んだ
「慎一、オレはこれから出掛ける
でも、んなに遅くならない時間に帰るかんな!
だからご飯を食べに逝こうぜ!」
「承知しました
連絡がありましたら連れて出ます」
「忙しいのに悪いな慎一」
「いいえ!俺は貴方の為だけにいる執事です!
貴方の為に動くのは当たり前です」
「少し忙しくなる……そしてオレ達は……逝かねばならねぇ国があってそこへ逝く
当分は還れねぇからな………
家政婦を雇うか子供達の面倒を見てくれる人間を雇おうと想っている」
「なつきませんよ
なので辞めておいた方が無難です
この子達は賢い
義務で面倒を見ようとする人間には近付きません」
「………そうなんだよな……
でもお前が大変じゃねぇか?」
「義姉さんと義母さんが仕事をセーブしています
時間があれば子供達の面倒は見て下さいます
榊原のご両親や笙さん夫婦も気にかけて下さってます
烈が熱を出したと言うと、俺では面倒見れないだろう……と連れて行って面倒を見てくれます
なので家政婦や面倒を見る人間は必要ないです」
「慎一が無理してねぇなら……それで良い
少し……オレらは忙しくなる
国にもいねぇ状態にもなるからな……
お前一人に任せておくのは……大変かと想ったんだ」
「大丈夫です子供の送り迎えは義母さんと義姉さんが交互にしてくれますし
料理も週末には真矢さんがケータリングを手配してくれ『楽なさい!』と手助けしてくれてます
一人なら多分無理です
でも手助けして下さる手があるので俺は心強くやって逝けているのです
だから安心して下さい」
「そっか……でも無理だけはするなよ!
そこんとこは母ちゃんに頼んでおく事にするけど、一人で背負うなんて想わなくても良いからな!」
「はい!解ってます」
「ならオレは着替えて出る事にするわ」
康太はそう言うと着替えへと向かった
流生は慎一を見上げて
「いちょがちぃ……みたいらね」と淋しそうに口にした
「我慢……出来ますか?」
「れきる!ちゃんとおるちゅばんれきる!」
「今夜は皆で食事に行けますね」
慎一が言うと子供達は頷いた
本当は淋しい
お留守番なんて嫌だ
でもそんな我が儘を言いたくないのだ
とぅちゃとかぁちゃは自分達の未来の為に動いていると謂う
総ては果ての飛鳥井の為だけに動いているのだ
それだけは子供の自分達にも理解が出来ていた
支度を済ませて康太と榊原が上質なスーツに着替えて出て来た
子供達は並んで【いってらっちゃい】と言い送り出す事に決めた
康太は「夜まで少し待っててくれ」と言いリビングを出て逝った
子供達は両親を見送った
帰って来て……と願い見送った
視界が揺れて……飛び付きそうになるのを我慢して……子供達は両親を見送った
地下の駐車場へと出向くと康太は榊原の車に乗り込んだ
榊原はエンジンを掛けると
「何処へ行きますか?」と尋ねた
「皇居には表と裏があるのを知っているか?」
「………それは知りません……」
「鏡で映した反対側に裏皇居がある
そこは政府の施設だが地下へと続く道がある
一般には解放されていないその入り口は幕僚庁関係のビルの一部で気軽に出入りは出来ないようになっている
ナビに打っておくから、ナビ通りに進んでくれ」
「解りました」
康太はナビに行き先を打つと電話を掛けた
「これから向かう
着いたら入れる手筈を頼む」
『承知いたしました!
では時間を図りまして出迎えの者を立たせておきます』
その言葉を聞き康太は電話を切った
榊原はナビの通りに車を走らせた
康太は窓の外を眺めていた
走り行く街並みを眺めていた
「どうしたんですか?」
「淋しいと謂わせねぇ……親になっちまったな……
んな親にだけはなりたくねぇと想っていたのにな……」
淋しいと謂えなかった子供時代に、ずっと心に決めていた
自分が真贋でいる以上、次代の真贋を育てるのは自分だった
もし自分が次代の真贋を育てるなら毒を飲ませるのは止めよう
淋しいと謂わせない親にはならないでおこう……
そう心に決めていたのに……
現実は我慢ばかりさせている
榊原は康太の手を握ると
「僕達は親として成せれる限りを尽くさねばなりません
淋しい想いをさせたとしても、それは明日の子供達の為でもあるのです……」
「それでもな……子供達には……解らねぇからな」
「……康太……」
「それでも逝かねぇとならねぇ時だかんな
子供達の明日を護る為に……この地球(ほし)の存続は絶対だ!」
「愛する我が子の為に……」
「あぁ!愛する我が子の為に頑張るしかねぇかんな」
康太は榊原の手を強く握り返した
車は東京の街を駆け巡り、ナビの通りに進んだ
二時間近く走ると目的地が見えて来た
そこは政府の需要な施設が健在する故に、物々しい警備網が敷かれていた
幾つもセキュリティを受けて車を走らせる
連絡が行っていたとしても、身分証明書をいちいち見せて確認を取って調べられた
そのセキュリティは先に進むにつれて厳戒になって逝った
ラストのセキュリティでも、同じように調べられる
まるで犯罪者でも取り調べられる様に調べられた
ラストのセキュリティとあって今まで潜って来たセキュリティとは違い、かなり厳重に取り調べられた
「怪しいモノがないか調べる!
さっさと服を脱げ!
男はケツの穴に隠せるらしいからな、ちゃんとそこまで点検せねばならぬ!」
厳つい男が言い放つ
康太は携帯を取ると、通話をオンにした
「何をやってる!
早く車から降りて服を脱げ!」
「断る!此処まで来るまでに赤外線も受けた
なのに服を脱げだと?
冗談じゃねぇ!ケツの穴を他人に見せる趣味はねぇ!」
康太はそう言い捨てた
「貴様!命令が聞けないなら此処から一歩も通しはしないから覚えておけ!
それか国家反逆罪でも捕らえてやろうか!」
男は怒鳴り散らした
もう一人の男は卑しい目付きで嗤っていた
抵抗しても先へ進みたいなら謂う事を聞くしかない……とでも謂いたげに見下した瞳をしていた
そこへ閣下の従者がやって来た
「閣下の客人を足止めするとは……どう謂う事なのですか?」
従者はセキュリティの男に尋ねた
セキュリティの男は焦って
「この者が謂う事を聞かないので、事情を聞いていただけです!」
「事情を?ケツの穴を見せろと謂うのが事情を聞く遣り方ですか?」
「それは……武器を隠しているかも知れないので当然の事であります!」
「幾つものセキュリティを受け、探知機も潜って尚、ケツの穴に武器を隠せるのですか?
ケツの穴の中に隠した武器だとしても探知機にはちゃんと反応する筈ですよ?
君達は閣下の客人をこうして扱っていたのですか?」
「……いいえ!我等は職務を全うしたまでに御座います!」
閣下の従者は無線を取り出すと「排除!」と告げた
すると奥から数人の男が出て来て、セキュリティの男達を連行して逝った
従者は康太に深々と頭を下げた
「申し訳御座いませんでした炎帝様
まさかあの様な痴れ者がいようとは……」
「あの者達は何時もラストのゲートを護っているのかよ?」
「……はい……信頼のおける人物なので任されておりました」
「なら飛鳥井家真贋、強いては炎帝が来るのを聞いて待ち受けていたんだよ
お前が来なければ伴侶の目の前で力ずくで辱しめを受けさせれる
悲観した炎帝が命でも断てば儲けモノだからな」
「………その様な事が……」
罷り通る事態が怖かった
従者は言葉をなくした
セキュリティに着く人間は厳選した人間でなくてはならない
職務に忠実でなければならない
なのに……この様な事態を引き起こす事が理解不能だった
「弱味のねぇ人間はいねぇんだよ
どれだけ完璧な人間だって弱味は必ず在る
その弱味に着け込み懐柔する
ほんの一瞬の弱味にアイツ等は着け込む
それが“闇”と言うモノだ」
「なれば……あの者達は……闇に懐柔されていたと申しますか?」
「だろ?正気になって青褪める事だろうな」
康太がそう言うと従者は考え込んだ
「閣下の御世話を致す者達にも影響は……
少なからず影響を受ける者が出ると謂う事ですか?」
「それは無理だな
閣下は十二支天の加護を持つ者
殺意を感じた瞬間、殺意を放った者は排除される」
「そうでしたか…安心しました」
従者に案内され康太と榊原は閣下の元へと向かった
森と謂っても語弊はない程に、鬱蒼と木々が茂る中に、皇居を縮小させたかの様な建物が建って
地図には載ってはいない場所
飛行機から写真を写したとしても映らない場所
それが裏皇居だった
本来は存在しない場所
だが表と裏、バランスを取る為に必要な場所だった
長い廊下をひたすら歩き進んで逝く
擦れ違う従者が康太の姿を見て深々と頭を下げ見送った
一際豪華なドアの前に立つと、従者はノックした
「炎帝様をお連れ致しました」
「入りなさい」
従者はドアを開けて康太と榊原を通した
部屋に入ると閣下が笑顔で康太と榊原を出迎えてくれた
「どうぞ、座って下さい」
謂われて康太と榊原はソファーに腰を下ろした
「今日おみえになられたのは……この警告の為ですか?」
閣下はそう言い一枚の用紙を康太に渡した
康太はそれを受けとり内容を確かめた
そして「これは、何処から回って来たのですか?」と逆に問い掛けた
「各国から送られて来ているのです
謂わば……各国の危機と謂う事ですので、その対応の為に情報の共有は必須だと判断されたのです」
各国の守護神からの神託と謂う事だった
「魔界、天界、仙界、神界、冥府にも、これと同じ書式が回って来ている
謂わば地球規模の危機と謂う事だ」
「我等は負けたりは致しません!
最後の最期まで足掻いてもがいて……悪足掻きしなければなりません
それが人の命を背負う者の務めですから……」
「閣下、オレが来たのはその神託の事だけじゃねぇ」
「お聞かせ下さい」
「閣下に海外に出るに当たって配慮して欲しい事がありまして参りました」
「どちらへ逝かれるのですか?」
「閣下はサザンドゥーク共和国と謂う国をご存知ですか?」
「………このタイミングでサザンドゥーク共和国ですか……」
「ご存知ですか?」
康太が問い掛けると、閣下はお茶に口を着けた
「先頃、王が亡くなられ王位継承で内乱が勃発している国……でしたね」
「そう。そのサザンドゥーク共和国へ逝く為に便宜を図って貰いてぇのと
NASAへ地質調査に出向ける様に手筈を整えて欲しい
NASAは一般人がおいそれと逝って受け入れて貰える場所じゃねぇ!
調査に協力なんて皆無に等しい状況だけは脱却してぇからな」
「解りました
NASAの方へは政府の方から協力を頼んでおきます
サザンドゥーク共和国へ立つのは……暫しお待ち下さい」
「何故だ?」
「あの国は今、政権争いの真っ只中で、第一王子を擁立する側と、第二王子を擁立する側とに別れて国を巻き込んで内乱の真っ只中なのです
貿易は遮断し、外国の関与を拒絶して鎖国に近い状態になっています
手配を整えても国に入れるかどうかは解らない状態なのです」
「ウランの比較じゃねぇ程の威力をもっている石が採掘された
その石を手に入れた者こそ、この地球の頂点に立てる……
最大の軍事力を持つ国は喉から手が出る程に欲しいだろう
軍事力を持たない国は一発逆転のチャンスだから勿論、手に入れたがっている
世界の的になっている今、内乱はどの国もチャンスだと謂う事だ」
「………貴方を銃弾の飛び交う内乱の地に……送れと申されるのですか?」
「そうだ!一日も早く日本を立たねぇと……取り返しがつかない事態になる可能性もある」
「………政府が……国連の意向を受けて調査団を立ち上げるそうです
各国の要人が……サザンドゥーク共和国に向けて飛ぶそうです
その中に貴方達を入れて貰える様に手筈を整えてます」
「無理言って済まなかった……」
「NASAの方には三木繁雄を同行させ、日本政府の意向を告げて協力をお願いします
サザンドゥーク共和国の方には総理の特使と謂う事で堂嶋正義が政府要人と共に日本を立つ予定です
その中に貴方と伴侶殿を入れて貰える様に申し付けておきましょう」
「閣下……貴方が責任を感じる必要はないのです……」
康太は苦しそうに眉を顰める閣下に声を掛けた
「炎帝……必ず顔を見せに来て下さると約束して下さい……」
「あたりめぇじゃねぇかよ!
オレにはまだやらねぇとならねぇ事があるんだよ!
くたばっている暇なんてねぇんだよ!
それよりNASAへ逝くのは緑川一生、そして魔界から地龍が同行する
謂うまでもなく黒龍と地龍は人間界に戸籍はない
サザンドゥーク共和国には弥勒高徳と天界からガブリエルが同行する
北極と南極へは兵藤貴史と黒龍が逝く
こちらの手筈もお願いする
NASAには丁度、石神博士がいるから連絡を入れておいたから協力してくれる筈だ
NASAに入れて協力を仰げれば石神博士が協力してくれる
南極と北極へは自衛隊の協力が不可欠だ
兵藤貴史と黒龍が向こうに逝っても自由に動ける様に配慮を頼む」
「承知しました
NASAの方には国の方からの協力を仰ぎます
北極と南極へは自衛隊の全面協力を仰いで立てる様に手筈を整えます」
「閣下、とうとう動き出した……もう引き返す道なんてねぇ……」
「はい。元より引き返すつもりなど御座いません
我等人間はそこまで愚かな生き物ではないと証明せねばなりません
我等は同じ過ちは繰り返さない
この青い地球(ほし)を死の星になど絶対にしません!
私はこの倭の国を裏で支える“閣下”として揺るぎない明日を築く必要があるのです」
閣下の瞳は決意が滲み出ていた
康太は「話は終わりだ……何時ミサイルが飛んで来るやも知れねぇ緊張感の上塗りをしねぇとならねぇからな」と冗談めかして言葉にした
「ですね…彼の国の緊張も解けない以上は緊張感の上塗りです
幾十にも上塗りして逝かねばならぬのが現状なのですね」
「それでも!オレ等は絶対に負けたりしねぇ!
蒼く輝くこの地球(ほし)を死の惑星なんざには絶対にしてはならねぇかんな!」
「炎帝、警備の者にまで影響を及ぼしている現状を……どう見ますか?」
「人は完璧ではないから着け込まれるし、操られる
だが幾ら人を操ろうとも、所詮は傀儡
まぁ……傀儡のお前が謂うなと謂われそうだけどな」
康太は苦笑した
傀儡なら命を貰った時から……そうだった……
あの人は……愛する者を繋ぎ止めていたかっただけなのだから……
「炎帝、貴方は傀儡などではないです
貴方の中には青龍殿の愛が詰まっております
中身が詰まったら、それは意思を持つ存在と変わって逝くのです
まさに貴方は何者にも囚われぬ存在
そんな方を傀儡などとは謂いませんよ?」
「閣下…ありがとう」
「貴方がサザンドゥーク共和国に逝っている間、私は君の子供達に逢いに逝きます
瑛太君は泊まっても良いと言ってくれています
白馬に逝って以来、瑛太君とはメールやラインのやり取りをしているのです
時々、お忍びで変装してご飯を食べに逝く様にもなりました
君と出掛ける日が楽しみです」
そう言い閣下は嬉しそうに笑った
「家族も喜びます
でも御無理だけはなさらないで下さい」
「解っております」
二人は互いの顔を見て微笑んだ
「閣下、何時頃動けますか?」
「少し待って下さい」
閣下はそう言い従者に国連特使は何時頃動き出すのか?と問い掛けた
従者は「これより堂嶋正義に連絡を取ります。彼のスケジュールが立てば、国連の職員の方はそれに合わせられるので、今日は無理ですが、今から調整すれば明日か、遅くても明後日には飛び立てると想います
では堂嶋正義に確認の電話を入れて参ります」
そう言い従者は部屋を出て逝った
「君に倭の国の全権を託します」
そう言い閣下は書机に座り書状を書き始めた
「私の全権を君に……君は私の名代で逝ってもらう事となります
頼みますよ炎帝
この蒼い地球(ほし)の為に……この地球(ほし)に住んでる人間(ひと)の為に…」
「閣下、炎帝と謂う神は冥府から呼び出された皇帝炎帝……なのはご存知か?」
「毘沙門天からお聞きしております」
「オレは我が父、皇帝閻魔が創造神と共に地球を創った時から目にして来た
地球が育つのを見て来た
創造神は地球と同じ惑星を幾つも創った
その中の一つが地球だ
この地球(ほし)は蒼くて綺麗に輝いていた
七色に輝く惑星の一つがこの地球だ
皇帝閻魔と七柱の神がこの地球を創るのに携わった
オレは親父殿の側でそれを見ていた
そして現在…この蒼い地球(ほし)以外の惑星は滅び去っている
愚かな人間と謂う生物が破壊を繰り返し自らの手で死の惑星にした
創造神はそんな人間に絶望し運命を人間に委ねた
それがこの蒼い地球(ほし)だ
オレは幾つも死んで逝った惑星を見て来た
発展するのも人なら滅ぼすのも人だ
何度愚かな過ちを繰り返せば人は護る事を覚えるのだろうな…」
「……炎帝…人は愚かな生き物ではありますが、創り出す事が出来る優れた生き物でもあります
人は学びます
学んだ先に明日があると私は信じたい…
愚かなだけではないと証明せねばなりません
それが私が裏で支える使命だと想っています」
「閣下……オレもそうであると信じております」
康太はそう言い空を見上げた
そこへ総ての手筈を整えた従者が部屋に戻って来た
「閣下、総ての手筈が整いました
これより堂嶋正義が参りますので暫しお待ち下さい」
「解りました
御苦労でしたね
堂嶋は何処から来ると言ってましたか?」
「国会議事堂から来られると仰られてました」
「ならそんなに時間は掛かりませんね」
閣下はそう言いぬるくなった紅茶に口を着けた
暫く待つと堂嶋正義がやって来た
堂嶋は康太を見ると少しだけ眉を顰めた
「………やっぱり……坊主が出るのか?」
内乱の地に逝かねばならない使命を知っているだけに……
その場にいる康太の存在が重かった
本当なら危ない場所には逝かせたくなんかなかった
安曇勝也の懐刀の堂嶋正義が康太を知っているのは当たり前だが、坊主と康太を呼ぶ辺り二人の関係はそれ以上に思えてならなかった
「仲宜しいのですね」
閣下が問い掛けると堂嶋は臆面もなく
「堂嶋正義を作ったのは飛鳥井康太だからな!」と答えた
そんな忌日は目にした事も聞いた事もない
閣下は「……え?それはどう謂う……」と見えて来ない話に呟いた
「子供の康太が俺を拾って三木敦夫と兵藤丈一郎に預けた
そして康太は総ての痕跡を断って俺を安曇勝也の懐刀にした
俺は康太の為になる日を夢見て突き進んだ
なのに康太は側には来るなと拒み続けた
なので俺は康太の傍へは行けませんでした」
初めて聞く事実に閣下は目を丸くした
子供の康太が堂嶋を拾って教育したと謂うのか……
あまりにも壮大な話に閣下は「そんな繋がりあったのですね」と謂う言葉しか出なかった
「無理矢理作った繋がりですけどね!」
拗ねる堂嶋正義と謂うのを見た事がない閣下は、堂嶋の人間らしさに何だか安心した
孤高の戦士 堂嶋正義
彼は何処にも属さず、徒党も組まず常に孤高に高みへと突き進んでいるイメージがあった
今は安曇勝也の懐刀として収まっているが、何時かは飛び出て倭の国の頂点に立つ存在だと想っていた
その時、初めて本来の孤高の戦士となるのだと……
だが目の前の男はこんなにも人間臭くて、地に確りと足を着けて進んでいる
飛鳥井康太が絡んでいるのなら、当たり前かと閣下は想った
「子供の炎帝をご存知なのですね?
子供の頃の炎帝はどんな子でした?」
閣下は楽しそうに堂嶋に声を掛けた
「今と変わらず、こんな感じでした
あぁ……あの頃には伴侶殿は傍にはおられなかったので剥き出しの刀みたいな感じでした」
「成る程」
閣下は妙に納得した
堂嶋は背筋を正すと
「明日、昼にはサザンドゥーク共和国に向けて立ちたいと想っています
飛鳥井康太もご一緒に逝くと謂う事ですか?」
と問い質した
「目的は貴方とは違いますが、伴侶殿とあと二人同行する予定です」
「目的が違うとは?」
「貴方は内乱を納める為の特使
ですが炎帝はあの国が採掘した石の調査に出向くのです」
「石?あのウラン鉱石の上を逝く力を持つ石の事ですか?」
「知っていたのですね
あの石がなければ国王は崩御する事はなかったでしょうね
それ程に破壊力の大きい石なのです
その石さえあればこの地球(ほし)だって壊してしまえる威力があります」
「そんなに……でも言い過ぎではありませんか?
この地球(ほし)はそんなに柔くはないでしょう?」
堂嶋が謂うと康太が
「北極と南極にクレーター跡地みたいな空洞があるのをご存知か?堂嶋正義」
唇の端を吊り上げて皮肉に嗤い問い掛けた
「……巨大な空洞の事ですか?」
「そう。あの穴は地球の真ん中を貫いて空いているのか調査に出向く事となった
宇宙船から地球の熱感知で真ん中が空洞なのかを確かめに逝く
もし空洞だとしたら……この地球(ほし)は……大きな隕石(小惑星程度の大きさ)でも食らったら真っ二つに割れる可能性だって出て来る
しかもそのクレーター跡地みたいな穴が何時空いたかってのも調べねぇとな
地球誕生と同時に何らかの衝撃で着いた傷だと謂うのなら……地球は自己修復能力がなかったと謂う事となる
それとも修復出来ねぇ程の傷だったと謂うのか?
とにかく調べねぇ事には始まらねぇからな
一生達をnasaへ逝かせる事にしたんだよ」
地球の空洞化?
真ん中はスカスカの空洞だとしたら?
そんなのは考える方が怖かった
この地球(ほし)がなくなるかも知れない?
当然のように生きている明日が……来ない日が来ると謂うのか?
考え出したら止まらない
恐怖は大きくなり……体躯が震えていた
「正義、そんな日は来ない!
来させない為に動くんだ
オレ達は唯眺めているだけの存在じゃねぇだろ?」
「……そうでしたね
でも……出来る事なら……貴方はお子の為にも動いて欲しくはなかった……」
堂嶋は心よりの言葉を口にした
「正義……解ってる……
だからお前も無茶はするなよ
待ってる家族の為に絶対に還ると約束しろ!」
嗚呼………この人には勝てない
この人は総ての想いを飲み込んで、その先へと逝くのだ
「坊主……俺は最近涙脆いんだ……
泣き出したら止まらねぇんだからな……」
だから泣かせるなと堂嶋は言った
康太は立ち上がると入り口に立っている堂嶋を抱き締めた
「正義、一緒にサザンドゥーク共和国に逝ってくれ」
「坊主……」
「上手いもんを沢山食おうぜ!」
「あぁ……楽しみにしてる」
堂嶋はそう言い榊原の方を見た
榊原は静かに座って微笑んでいた
「明日の予定を聞かせろ」
そう言うと康太は榊原の隣に座った
堂嶋は空いてるソファーに座り、鞄の中からタブレットを取り出した
「午前中に搭乗、調整をして昼には飛び立つ予定だ」
「羽田から飛ぶ?」
「今回は羽田から飛ぶ様に頼んでおいた
還りも羽田に下ろして貰える様に閣下の配慮で実現された」
「当日はお呼びが来るのか?」
「我等の痕跡は遺してならないので、このままホテルへと移動されて朝には飛行機に乗りたいのですか?」
「それは無理だな
オレは子供達と約束してる
この後、飯を一緒に食う予定をしている」
堂嶋は子供達の時間を邪魔する気は毛頭なかったが……秘密特使の任を任されている手前、良いよとも言えなかった
閣下が上手く助け船を出してくれ、堂嶋は息を吐き出した
「ならば子供達の時間をお過ごしなさい
子供達が眠りに着いたら連絡を下さい
荷物は何一つ持って出なくて大丈夫です
着替えは此方で総て整えさせて貰います
貴方は身一つで家を出て下さい」
「助かる
子供達との約束を破る訳にはいかねぇからな……それでなくても我慢ばかりさせているんだ……いられる時は少しでもいてやりてぇかんな」
「君はそれでよいのです
母であり続ければよいのです
それを邪魔しようとする輩は私が排除して差し上げます」
閣下は怖い台詞を爽やかにサラッと言ってのけた
堂嶋は聞かなかった事にした
康太は立ち上がると榊原に手を伸ばした
榊原は康太の手を取り立ち上がった
「んじゃ、子供達が眠るまで傍にいてやる事にする
伊織、逝こうぜ!
オレ達の子供の所に!」
「ええ。僕達の子の所へ逝きましょう」
榊原はそう言うと深々と頭を下げた
そして康太を引き寄せると部屋を出て逝った
堂嶋は何も言わず二人を見送った
願わくば………坊主……お前が傷付く事はない様に……
と祈らずにはいられなかった
閣下も同じ気持ちで
「堂嶋、本当ならあの方を出したくはなかった……」
と本音を吐露した
堂嶋は頷いて
「それでも……出るしかねぇって事態なんだろ?
坊主は絶対に傷付けない!
もう……あの日みたいに見ているだけなんて事は絶対にしねぇ!」
康太がテレビ局で銃弾に狙われた時、堂嶋の目の前で康太が撃たれた
あんな想いは二度と御免だった
見ているしか出来ない歯痒さ……
「堂嶋、あの方を……護って下さい」
「解ってます
精一杯出来る限りの事はします」
「君も必ず帰って来て下さいね
君の家族の為にも必ず帰って来て下さい」
「はい!必ず帰って来ます
では俺も支度がありますので失礼します」
堂嶋はそう言い部屋を出て逝った
閣下は堂嶋を見送り
「必ずですよ……」と呟いた
送り出さねばならない現実がこんなにも辛いとは……
閣下は従者を呼び出した
万全な体制で送り出す為にも力を尽くさねばならないと想ったから……
閣下の元を後にした康太と榊原は飛鳥井の家に向かって走っていた
都内を抜けて横浜の地へ向かう
康太は黙って窓の外を見ていた
榊原は気になって「どうしたのですか?」と問い掛けた
「当たり前の日常が……(そこに)在るな……」
その当たり前の日常が一変する事態なんて考えもしないのだろう……
「当たり前の日常なんて、在りませんよ康太」
「え?……」
「日々、必死に生きている者達の日常がそこに在るのです」
「伊織……」
「明日の事なんて解らない
刹那に生きていなくても誰でも想う事です
地球が壊れなくても、病や事故で明日が途絶える人だっているのです
絶望して明日を断ち切ろうとする人だっているのです
それらの人々の想いを飲み込み明日は作られるのです」
「そうだったな……
オレ達は絶対に明日を迎えねぇとならねぇと想っている
壊しちゃならねぇと想う……」
「その前に僕達も日常に還って我が子と過ごしましょう」
「そうだな……淋しい想いばかりさせてるからな……」
「僕達は逃げない背中を我が子に見せて逝かなくてはならないのです
その為だけに生きているのですからね」
「……そうだな……」
「さぁ笑ってなさい
我が子の前で辛気臭い顔はダメですよ」
「だな!オレ達は6人の子の親だかんな」
康太はそう言い慎一に電話を入れた
「慎一か?一旦家に帰るからな、そしたら飯を食いに逝こうぜ!」
『康太、瑛兄さんが子供達と過ごすなら静かな場所の方が良いでしょう!と料亭の離れを取って下さいました
榊原のご両親や笙さん家族もお見栄にならられるそうです』
「ありがとうな慎一」
『俺は貴方の執事ですから礼は不要です』
慎一は料亭の場所を告げて、先に子供達と向かっていると告げて電話を切った
流生は「かぁちゃ?」と慎一に問い掛けた
「そうです。
料亭の方に来てくれるそうです」
慎一がそう言うと音弥は
「いっちょらと、うれちぃにょ」と言い笑った
康太の子は本当に両親が大好きだった
大好きな両親が本当の親じゃないと知った時……
この子達はどうするのだろう?
そう考えると胸が痛くて掻き毟られたみたいに痛みを感じる
主……貴方は……既に覚悟を決めた瞳をなさっている
その日が来るのを覚悟して……親として子を護ろうとしている
貴方の魂を与し子ですから……
慎一はそう考えて願う様に瞳を閉じた
康太と榊原は飛鳥井の家に帰ると、駐車場には一生達が待ち構えていた
康太と榊原の顔を見るなり
「家に帰るだろうと待ってた」と言い康太に近寄った
一生の横には兵藤と黒龍と地龍がいた
「一生は、これからアメリカか?」
「そう。これからアメリカに立つ
逝く前にお前に逢えて良かった
自衛隊の飛行機に貴史と共に乗り込む事になった
俺をアメリカに届けたら、貴史は北極の中継地点に送り届けて貰える事になっている」
「そうか、オレ達は子供達が眠りについたら羽田に向かい飛行機に乗り込む事になる
飛び立つのは昼頃だ」
康太がそう言うと兵藤は
「無茶すんなよ!お前は直ぐに無茶するからな……何か有ったら直ぐに呼べ!そしたらお前の所に駆け付けてやるからな!」と言葉にした
「ありがとう貴史…」
兵藤は榊原に向き直ると
「連絡は密に頼むな!
あの国は今内乱が勃発している……何が起こったって不思議じゃねぇんだからな」と頼む様に言葉にした
榊原は胸ポケットから小さな石が着いたブレスレットを取り出すと、兵藤と一生に渡した
兵藤は「これは?」と問い質した
榊原はニコッと笑って
「魔法鏡を結晶に凝縮して通信用に変換して貰ったブレスレットです
相手を思い浮かべて語りかけるとブレスレットに埋め込まれた魔法鏡が反応して、思い浮かべた人へ通信が繋がるシステムとなってます
携帯電話など無用な長物になると謂うのなら、活用出来るアイテムを用意すればよいだけの事です」
これで四六時中連絡は着きますからサボらず仕事なさい!と謂れたも同然のアイテムだった
兵藤と一生は榊原から受け取ったブレスレットを腕に装着した
榊原は二人がブレスレットを嵌めると、自分の手のブレスレットを二人に見せた
「思い浮かべて語りかけて下さい」
榊原が謂うと一生は榊原を思い浮かべた
そして「旦那!」と話し掛けると榊原のブレスレットが反応して一生の声が響いた
一生は「すげぇ!何時用意したのよ?」とあまりの驚きに興奮して問い掛けた
「ずっと頼んであったのです
閻魔の頭脳集団、魔法集団に製作の依頼を出してました
そしてやっと出来上がったので受け取りました」
榊原の謂う事に納得した兵藤は
「これで電波がなくても安心だな」と安堵の息を漏らした
「ですね。この通信は僕達の他にガブリエルも持っています
なのでガブリエルの方にも連絡をお願いします」
榊原が謂うと一生と兵藤は頷いた
「なら逝くとするわ!」
一生が謂うと榊原は「お気をつけて…」と言葉にした
「おう!お前達も気を付けてな!」
一生が謂うと兵藤も
「お前は全力でじゃじゃ馬の妻が暴れるのを阻止しろよ!」
と騒ぎは起こすなよ!と釘を刺した
榊原は「……最善を尽くします」と苦笑した
兵藤は康太の胸に拳を当て
「離れてても共に……」と言葉にした
康太は「あぁ、共に逝くとするか!」と笑って答えた
一生も「無茶すんなよ!」と拳を当てると
「解ってんよ!」と康太は答えた
兵藤と一生はファーンとクラクションが鳴ると、康太と榊原に背を向けた
そして歩き出した
康太と榊原はそれを黙って見送った
一生と兵藤がいなくなると、榊原はタクシーを呼んだ
駐車場のシャッターを下ろし、飛鳥井の家の前で立っていると栗田が車を停めて下りて来た
「康太、何処かへ逝くのか?」
「一夫、これから料亭に逝くんだよ」
「乗せて逝こうか?」
「タクシーを呼んだから良い
それよりお前も来るか?」
「これから竣工式の打ち合わせがあるから残念だけど無理なんだ」
「そうか残念だな」
「残念なんで、今度時間を作って下さいね!」
「おー!上手いもん食いに逝こうぜ!
一夫が好きなのを鱈腹食わせてやるぞ?」
「それは馬車馬の様に頑張らないといけませんね」
「あんまし無理するなよ」
「はい!康太も楽しんで来て下さい
本当にご一緒出来ないのが残念です」
栗田は残念そうに謂うと、康太は「またな!一夫」と手を振った
「絶対にですからね!」
「日本に還って来たら時間を作る」
「え?日本に還って来たらって…何処かへ逝くのですか?」
栗田が慌てて問い掛けるが、タクシーが到着して
「一夫、タクシーが来た
後でメールするわ」
と言い、やって来たタクシーに乗り込んで行ってしまった
康太を見送り気持ちは仕事へ切り替える
だが……海外に逝くと謂う康太の事が気になり考えていると、メールを告げる音がして、栗田は携帯を開きメールを見た
『一夫、オレは明日から海外に逝かねぇとならねぇんだ
行き先や目的は告げる事は出来ない
オレが不在の間、会社を頼むな
何かあれば何時もの手法で連絡を頼む
還って来たら飯を食いに逝こうぜ!』
栗田はメールを見て「了解しました!ご無事での帰還を御待ちしております」と返事を送った
康太が動くと謂うなら無意味な事などないのだ
何かしら繋がって果てへと続いているのだ
今回の件も子供に遺す為に動いているのであろう
ならば我等も頑張らねば!
栗田は気を引き閉めて目的地へと向かった
榊原は携帯を触っている康太に「栗田にですか?」と尋ねた
「あぁ、何も告げる事は出来ねぇけど約束なら交わせるからな」
「栗田も喜ぶでしょうね」
榊原はそう言い優しく微笑んだ
「また淋しがらせるな……」
「ええ……胸が痛みます」
「若旦那の件も気を付けて介入してやろうと想っていたのに……な」
そんな時間が取れない現状が焦れったい
問題は山積している
やらねばならない事なら山程在るのだ
なのに今は日本を離れねばならない現状に、康太は果てを見ていた
榊原は康太を引き寄せて
「今は…我が子や皆で過ごせる時間の事だけ考えていましょう…」
「そうだな……」
康太は瞳を瞑った
想いは焦がれて深まって逝く……
願わくば……
そんな想いを溜飲して先へと進む
今は…暫しの休息に身を置こうと、榊原の手を握り締めた
料亭に到着すると慎一が料亭の玄関の前で待ち構え
「康太、皆が待っています」
と康太を出迎えた
「慎一、大丈夫か?」
体調の事を言われているのが解る
慎一は微笑んで「大丈夫です」と答えた
「無理だけはしてくれるなよ…」
「その言葉は我が主にソックリそのままお返し致します
絶対に無理はダメですからね!!」
慎一に逆に気を使われて康太は笑った
「大丈夫だ慎一
オレ等の子はまだ初等部にもなっていない……幼すぎる子を遺して逝けるかよ」
「絶対に還って来て下さい……」
皆のいる前では謂えない言葉を告げる
「あぁ、絶対に還って来るから待っててくれ……」
「はい!」
慎一は噛み締める様に言葉にした
そして背筋を正すと
「皆様が御待ちです」と告げた
慎一と共に料亭に向かうと女将が康太を待ち構えていた
「真贋、お待ちしておりました
お時間に余裕が御座いましたら離れに戸浪様がいらっしゃいますので……御逢いしてやって下さいませんか?」
女将の言葉に康太は「若旦那、此処にいるのか?」と尋ねた
「戸浪様は商談でお越しになってます
真贋を御待ちの慎一様をお見掛けして…
真贋がお越しになるのを慎一様に確認されたとかで……
少しの時間でも御逢いしたいと申されたのです
真贋の御家族のお部屋に行かんばかりの勢いでしたので、此方で確認するまでは……と留まって貰っている所存なのです」
「若旦那だからな、オレがいるなら部屋まで来ようとするだろうな……
見掛けた以上は逢いたいと言い出すのは解っている」
「申し訳御座いませんでした」
「だがオレは家族と過ごす為に来ているから……遠慮して欲しい想いもあるんだよ…」
「……あの方は……貴方が来られるまで待たれます……」
女将は困った顔をして……そう言った
「解った、先に家族と逢うけど頃合いを見て若旦那の所へ逝くと伝えておいてくれ」
「承りました
本当に申し訳御座いませんでした」
「女将が謝る必要はねぇよ!
慎一、家族の部屋に案内してくれ!」
康太はそう言いスタスタと歩き出した
その足取りは案内は必要がない程に的確だった
部屋に行く途中慎一は戸浪に逢った下りを話した
「駐車場にいましたら商談にお越しの若旦那に出逢いました
若旦那は俺がいるって事は康太がいるのですか?と尋ねられました
俺は後から来ると若旦那にお知らせ致しました
お子との時間を優先されると想いましたが……若旦那も一歩も引き下がらない勢いでしたので……」
「解っているよ慎一
お前は気にしなくて良い」
「どうなさいますか?」
「取り敢えず我が子に逢う
そして心配性の瑛兄や父ちゃんや母ちゃんに逢う
そして海外に逝く経緯を話す
そしたら一旦若旦那の所に逝く事にするわ」
「………こんな日位は……ゆっくり過ごして欲しかったのですが……」
そうもいきそうもありませんね……と慎一は辛そうに言葉を吐き出した
家族の待つ部屋へと向かうと、慎一は
「康太と伊織が到着しました」と襖を開けて告げた
子供達は康太と榊原に飛び付いた
康太は我が子を腕に抱き優しく目を眇た
「待たせたな」
流生は必死に母に抱き着き
「りゅーちゃ まっちぇた!
じゅっと……まっちぇた!」
「ごめんな……我慢ばかりさせて……」
康太が言うと音弥が「らいじょうび!」と笑って答えた
太陽が「ちな、かぁちゃととぅちゃのこらもん!ちゃんとぎゃまんれきるもん」と大人びた事を言って母を労った
大空も「かぁちゃ、きゃらだ、らいじょうび?」と母の心配をした
「大丈夫だ!」
康太は大空を抱き締めた
強く…強く…抱き締めた
大空は嬉しそうに笑って母の腕の中にいた
翔は少し離れた所から両親を見ていた
康太は「翔!」と呼ぶと、翔は康太の傍に近付いた
「翔、紫雲龍騎に修行は頼んでおいた
どうだ?辛くはないか?」
「らいじょうびれちゅ!
ししょーはこわいけどまちがってないきゃら……らいじょうびれちゅ」
「お前が小学校に上がる時、三通夜の儀式を行う
飛鳥井家の真贋として女神に【眼】を貰う為に黄泉へと出向くのもこの頃だ!
その【眼】は真贋を引き継いだ時に、最期の【眼】を貰う事となるだろう
それまでの繋ぎの【眼】だが、今よりは格段に性能は良くなるだろう
性能が良くなると謂う事は……視たくない事でも視なくてはならねぇと謂う事だ
だがら精神力を更に鍛えねぇとならねぇんだよ」
「わかっちぇまちゅ!
かけゆは、あちゅきゃいのちんぎゃんらから……じぇんぶ、わかっちぇまちゅ!」
「……そうか……」
康太は辛そうに笑うと翔を撫でた
瑛太が康太の傍に逝くと、ギュッと抱き締めた
「忙しそうでしたね……何だか君に逢うのが本当に久しぶりに感じます……」
瑛太が言うと康太は瑛太にしか聞こえない小さな声で
「瑛兄、オレは今夜からまた出掛けねぇとならねぇんだ……」と告げた
瑛太は言葉もなく康太を見た
そしてポロポロ泣き出した
榊原が瑛太の腕を掴むと「少し失礼します」と言い康太を連れて部屋を後にした
廊下に出ると榊原は「単刀直入すぎでしょ?」と康太にめっ!と怒った
「……すまん……言っとかねぇと……と想ったからな……」
瑛太は海外へ逝くと謂う弟に‥‥‥少しだけ
「少し忙しすぎじゃないですか?
夏の白馬も一緒にいる時間は少なかった……
子供達も淋しがってます……私も君に逢えないのは淋しい……」
と本音を吐露した
「瑛兄、これから話す事は誰にも謂わないで欲しい……出来るか?」
「謂うなと言われれば私は殺されたとしても謂いません!
忘れたのですか?君の兄は絶対に君を裏切らないって事を……」
「忘れちゃいねぇよ
でも……胸の中に納めておくには事が大きすぎるんだよ」
「康太……」
「この世界の闇が濃くなって世界のバランスが崩壊しつつあるんだ
最初はそこから始まった……だが今は……この地球の存続が危うい事態になった
下手したら……この地球は滅ぶ……危機だ
オレは……我が子に託すその日まで……嫌、我が子が生きる果てを護るつもりだ
絶対に……滅ぼしてたまるものか!
その為にオレ達は今動いている
オレは明日から中東にある小国、サザンドゥーク共和国へと向かう
一生はアメリカ、貴史は北極と南極に向かう
オレ等はバラバラになり最善の手を尽くす為に動く事となった
この世界が……この地球が滅んだら……明日は来なくなる
子供達に渡す明日が消滅する
んな事……させてたまるかよ!
その為だけに……オレ等は動いていた
その為だけに各国の神は動いているんだよ
信じられねぇ様な話だが……それらは真実だ
そしてオレ等はそれを阻止すべく逝かねぇとならねぇんだ」
「……康太……お前の子は私達が命に変えても護ると誓おう
だから……生きて兄に顔を見せると約束して……ちゃんと還ると約束して下さい…」
「日本に還って来たら一番に瑛兄に逢いに逝くと約束する
何時だって約束したろ?瑛兄
オレは生きて瑛兄に元気な顔を見せると約束する」
瑛太は泣いていた
だが涙を拭うと優しく康太を抱き締めた
「さぁ皆が待っています」
康太は頷いて瑛太と共に部屋へと戻った
真矢は笑って烈を康太に渡した
「烈!」
我が子の名を呼び抱き締めた
榊原は烈の顔を見て「熱は?下がりましたか?」と康太に問い掛けた
我が子の熱を全身で計る
康太はまだ微熱がある烈を見て「まだ少し熱がある見てぇだな」と答えた
真矢は「大丈夫よ、北斗と和希と和馬が烈の看病を手伝ってくれてるからね」と隣に座る北斗と和希と和馬の頭を撫でながら答えた
「義母さん、迷惑かけてすみませんでした」
「迷惑だなんて想っていないわよ康太
孫はどの子も可愛いものだもの
手が足らない時は手助けする
康太も私達が困っていたら助けるでしょ?
それと一緒よ!」
「最近、忙しくしてるので…時間が欲しいと想っていたんですが想うようにはいきません…」
「仕方ないわよ
時間がある時に穴埋めしてくれれば良いわ」
真矢は気高く美しく笑った
「康太」
「はい!」
「清四郎の映画が始まりました」
「え?……」
康太は驚いた顔して真矢を見て清四郎を見た
「どう?熱き想いの主人公の顔になっていませんか?」
清四郎は窶れて……苦労が滲み出た表情をしていた
浪人暮らしが日々窶れさせている……そんな顔をしていた
その顔を見れば清四郎がどれだけ役に拘っていて、役になりきろうとしているか伺えれた
「………清四郎さん……」
康太が名を呼ぶと清四郎は笑って
「あれ?お義父さんとは言ってくれないのですか?」と言った
「お義父さん、映画の完成が楽しみです」
「私も物凄く楽しみです
演じててこんなにものめり込んだ役はありません!
君が作ってくれた花道です
私は全部の力を出しきって頑張るつもりです」
「お義父さん、少し落ち着いたら撮影現場に顔を出します」
「無理しなくて大丈夫です
でも君が顔を出してくれるなら村松君も大喜びでしょうね」
康太は微笑んで清四郎を見た
玲香は清隆と共に静かに飲んでいた
康太と目が合うと
「康太…」と名を呼んだ
「母ちゃん何だよ?」
「貴史が遺言状を執事に託して家を出たそうじゃ……美緒は気丈に振る舞っておるが……我が子の遺言状など目にする日が来ようとは……思ってもおらなかったからショックは隠せばせぬ様じゃ……」
「アイツ……遺言状なんて書きやがったのかよ?
一緒に動くなら殴り倒してやるんだけどな
今回は残念な事に貴史とは別行動だ……」
「何をするかは聞きはせぬ
だから…生きて還って来ると……」
約束してくれ……の言葉は飲み込んだ
真贋に言ってはならぬ言葉だから……
「母ちゃん、オレには6人の子がいる
その子達から親を奪うなんて事態にはならねぇ様に……還ると約束するよ」
「康太……」
「還ったらさ少し休もうと想う
母ちゃん達を旅行に連れて逝ってやるよ
と言うか、有志だけの社員旅行に繰り出そうぜ!」
「社員旅行?……なのに有志だけとな?」
「伊織が会社の行事としてでなく、参加型と言うカタチで有志だけで、って事で社員に呼び掛けているんだよ
希望者は半年間積み立てをする事になっている
行き先も希望者が選出して多数決で決定するつもりだ
社内旅行と名を打つと全員参加の強制になるからな
伊織は飛鳥井建設の社員達に、参加型と言う提案を出した
行きたい奴が集まって、行きたいと謂う場所に皆で遊びに逝く
会社がお金を払って用意したモノじゃなく、自分達でお金を払う以上は真剣になる
一石二鳥と謂う訳だ
そしたら母ちゃん達も旅行に逝こうぜ!
皆で旅行に逝こうぜ!」
玲香は胸が熱くなった
社内旅行と言うお仕着せじみた旅行でなく、皆で遊びに逝く旅行だと謂われれば……是非逝ってみたいと想う
「康太、楽しみが増えたな」
「おう!時間を忘れて楽しもうぜ!」
「今から楽しみな事だわな」
玲香は嬉しそうに笑った
清隆はそんな妻を見て嬉しそうに微笑んでいた
子供達は母と父がいて嬉しそうだった
はしゃいで甘えまくって……
何時もより早く眠くなり、母と父の膝の上で眠りについた
眠った子供達を見て慎一は座布団を敷き詰めて、その上に眠らせた
母と父から離す時、不安げに目を開けたが、母と父の顔を見て安らかに眠りについた
子供達が眠りにつくと康太は
「若旦那が離れで待ってるそうだから逝ってくる」と告げた
家族は静かに頷いて康太と榊原を送り出した
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