政府専用機に乗り込み１２時間掛けてドバイまで向かった ドバイから小型専用機に乗り換えてサザンドゥーク共和国の近くまで向かう サザンドゥーク共和国は更に３時間車を走らせた所に在った 国境線は厳戒体制が敷かれて厳重な警備がなされていた 堂嶋は他国の特使と協議をする為に、サザンドゥーク共和国の隣の国、イルメキシタン王国に入国した 堂嶋が入国審査の最中、イルメキシタン王国の大使が面会にやって来た 民族衣装に身を包んだ大使は流暢な英語で 「日本からおみえの特使はあなた方ですか？」と尋ねた 堂嶋は「はい！そうです！」と答えると、別室へと案内された 「私はイルメキシタン王国大使、カサフェルと申します サザンドゥーク共和国は対話を拒絶しております 国連の特使の方々は我が国に留まり対話をなさる日まで待機なされる事になっておりますので、貴殿方もその様にお願い致します」 康太はそう説明するカサフェルを黙ってじっと視ていた カサフェルはその視線に気が付き 「貴殿の補佐官は神であられるか」と皮肉に嗤った 堂嶋が顔色を変えるとカサフェルは 「貴殿方が“神”に頼ると謂うならば、この国も“神”に頼っていると謂う事です そのお姿、人でない事など視れば解ります」と冷徹に嗤って答えた 康太は大爆笑した 「オレは“人”だぜ？ 戸籍もある正真正銘の“人”だぜ？ お前の“眼”も曇ったなアッラーフ」 真名を呼ばれてカサフェルは躊躇した瞳を康太に向けた アッラーフは大天使ガブリエルから神の受託を語った使徒で、最後にして最大の預言者とされる人物だった 「なぁ、ガブリエル お前の使徒だよな？」 康太が話し掛けると誰もいなかった場所から大天使ガブリエルが姿を現した カサフェルは唖然となった ガブリエルは「間違いなく私の使徒に御座います」と答えた カサフェルは「何故……貴方が此処に……」と呟いた 「サザンドゥーク共和国の石を調べに参りました あの石はこの世に存在して良い石なのか……調べて葬り去る為に……炎帝と共に調べに来たのです」 ガブリエルの“炎帝”と謂う言葉にカサフェルはギョッとなった 「………人だと……申したのに……」 恨みがましい言葉に康太は笑って 「人だぜ？オレの名は飛鳥井康太！ 人として生きている人間だ！ 刺されれば血も出るし命も亡くなる人間だ」と答えた ガブリエルは笑って 「彼は今は人の子です ですから彼は人の世に介入出来るのです」と正論をぶちかました 「………炎帝……と謂われると魔界の炎帝様ですか？」 「冥府の皇帝炎帝様ですよ」 「えええ！！…………」 何故……そんな大物を………カサフェルは卒倒して意識を失いそうな衝撃を受けた 「冥府は中立……なのでは？」 「皇帝炎帝と魔界の炎帝は同一人物であり、人の世では飛鳥井康太として生きておられる方だ 貴方も名前なら知っておいでなのでは？」 ガブリエルが謂うとカサフェルは 「赤蠍商事の円城寺貴正会長が……飛鳥井康太に傷一つ着けるなと連絡を入れて来た方ですね アメリカ政府を代表として各国の政府から無傷で日本に返せ……と謂われる方だ 彼に傷をつければ世界は滅ぶ……とさえ謂われる恐ろしい方だとお聞き致しました」 恐る恐る口にした 「間違ってはないです 各国の神々は炎帝と謂う存在を怖がっているのは確かですからね」 そんな恐ろしい事を何でもない事の様に謂われても…… カサフェルは粗相のない様にせねば……と気を引き閉めた 康太はカサフェルに「お前は“石”を視たのか？」と問い掛けた 「私は視てはおりません 確かめようと動いた時には既に国王は崩御され……今は内乱の真っ只中となり確かめる術は遺されてはおりませんでした」 「だが噂なら間近で聞いてるだろ？ その石の威力は……どうなのよ？」 「ウランは転換、精製、濃縮、使い道は底知れぬ人の叡知を結集した石ではありますが、人体に計り知れない影響を及ぼします だけどサザンドゥーク共和国で見付かった石は一欠片で六フッ化ウランの威力があり、人体には影響は全くない……と聞いております 大きな塊一つあれば……人類は滅ぼせる可能性を秘めた石なのです あんな石を野放しにしておくのは危険と踏んでガブリエル様にお知らせ致しました」 「その石、今は何処にあると想うよ？」 「多分、それが解らないから内乱を引き起こし掻き回して調べているのかも…… あぁ、サザンドゥーク共和国の第二王子が行方不明に御座います 国王が崩御なされた辺りから第二王子のお姿が見受けられないと内乱は更に悪化 第一王子の側近が拐ったのだろう……と難癖をつけ、第一王子側はお前らが始末したんだろ？との応酬……それは酷い争いと化しております」 「第二王子……そいつを探せば突破口は見付けられそうだな カサフェル、第二王子の写真はねぇのか？」 康太が謂うとカサフェルは「只今御用意致します！」と謂い部屋から出て逝った 康太は果てを視て「第二王子…ルーチェ王子、ドイツ語で光 第一王子のアズィーム、アラビア語で偉大 この二人は母親が違うのか？」と疑問を呟いていた カサフェルは部屋に戻って康太の呟きを聞いて「何故…誰も知らぬ事を……」知っておいでなのですか？……と言葉もなく呟いた 康太は手を差し出すと「写真あったのかよ？」と渡せと催促した カサフェルは写真を手渡し説明しようとしたが…… その必要はなさそうだった 「この写真だとアズィームしか写ってねぇな……オレはルーチェ王子が視てぇって謂わなかったか？」 「第二王子は……公式の写真は御座いません 第二王子のお姿を見た者など、サザンドゥーク共和国の中にもいない筈です…… 第一王子は、我が国イルメキシタン王国の国王の三女のアリーシャ様のお子に御座います 第二王子は国王がドイツに留学していた時に見初めて連れて帰った妾腹に御座います お二人は……国王のお子だとしても……身分が違うのです」 必死に説明するカサフェルの言葉を上の空で聞いて康太は第一王子の隣に君座する国王に目をやった 死してこの世にいない存在を視る 「弥勒、朱雀は使えねぇし……どうやったらコイツに逢えるよ？」 康太が謂うと弥勒が姿を現した 「アブドゥッラー・グラン・サザンドゥーク国王の魂を追えば逢えるだろ？」 弥勒は国王のフルネームを口にした カサフェルはワナワナと震え……ガブリエルに「此の方は何なんですぅ～」と叫び声をあげた ガブリエルは仕方ない方ですね……とため息を着いて 「転輪聖王と仰有る“神”です」と説明してやった 「चक्रवर्तिराजन्？」 「そうです。」 「………ガブリエル様……気絶しても宜しいですか？」 「駄目ですよ！ 貴方には働いて貰わねばならぬ事が山程あるのですからね」 あぁ……気絶したい 私はしがない天使なのですから…… そんな高名な“神”を目にして正気でなんていられませんってば…… カサフェルはトホホホ……とため息を着いた 「………ガブリエル様は……鬼です…」 ボソッとカサフェルは理不尽な対応に抵抗すべく呟いた するとピキッと顔を引き攣らせ 「アッラーフ……本当の鬼と謂うのは炎帝の伴侶殿の様な非情な方を謂うのですよ！」 と失礼な！怒って口にした 榊原は唇の端を吊り上げて 「鬼を知りたいと？」と鋭い眼光でカサフェルを視た 「いいえ！知りたくなんかありません！」 もう泣いても良い？ 泣きたい……泣いちゃおう…… クスンッとカサフェルが鼻を啜ると榊原は知らん顔をしてそっぽを向いた 弥勒はそんなやり取りは無視して 「では黄泉に出向いてサザンドゥーク共和国の国王に詳しい話を聞いてくるわ」と謂い、姿を消した 康太は天を仰ぐと 「命の灯火……見せてくれねぇか？釈迦」と問い掛けた 『よかろう、お前の望む命の灯火を見せてやろう』 と謂う声が天空に響き、康太の目の前に火が灯ったローソク姿を現した そのローソクは……今にも消えそうな程に……弱まっていて儚げだった 「まずいな……探す前に……消えちゃわねぇ？」 『……消えると困るのか？』 「この地球（ほし）の存亡危機だからな」 『それは我も困るから消えない様に見張っててやろう！ 消えても手心加えて永らえさせといてやるから頑張るがよい』 「ありがとう釈迦」 『礼を謂いに逢いに来てくれたら期待以上にもなるが？』 「この件が片付いたら神界に顔を出すから逢いに逝くよ」 『楽しみに待っておるからな』 嬉しそうな声が響くと……気配が消えた 「取り敢えず、今すぐ逝く事はねぇか……」 康太はそう呟き榊原の顔を見た 榊原は優しい瞳で微笑むと 「喉乾きませんか？」と優しく問い掛けた 「そうだな？何か飲みてぇな」 そう呟くと榊原は立ち上り 「我が妻に何か飲み物をお願いします！ 本当に気が効きませんね！ 客人に茶も出さないとは……日本なら蹴り飛ばされても仕方ない失態ですよ」 日本怖い…… 茶を出さないだけで蹴り飛ばされてしまうの？ ……日本には絶対に逝くのは止めとこう…… カサフェルは使用人を呼び出し飲み物と茶菓子を持って来る様に告げた 暫くして使用人がワゴンを引いて給仕を始めた 康太や榊原、ガブリエルの前にお茶と茶菓子を置くとワゴンを引いて部屋から出て逝った 康太はお茶を飲み干し 「ガブリエル、蛇毒系の毒が少量入ってるわ」と告げた 榊原は冷たい瞳をカサフェルに向けた カサフェルはそんな筈は…と自分の分のお茶を飲み干した 舌がピリッと痺れる…… 「………な………です……か？」 そう言いカサフェルは倒れた ガブリエルは「仕方のない人ですね」と謂いカサフェルに手を翳した 毒を浄化するとカサフェルは意識を取り戻した 「………毒を盛った輩がいると謂う訳ですね？ ならば何故……炎帝様は……大丈夫なのですか？」 「オレ？オレは子供の頃から毒を飲んで来たからな、この程度の毒には耐久性があんだよ！ しかも色んな系統の毒を飲んで来たからな一口、口につけただけで何系の毒かまで解るぜ！」 康太が謂うとガブリエルは 「念のために浄化しておきます」と謂い、康太の体躯の前に手を翳した 毒を浄化して本題に入る ガブリエルは「盗聴器が？」と疑問を呈した 「だろ？多分」 「三女の息の掛かった使用人でしょうかね？」 「どうだろ？まぁ第二王子を探されては困る輩の仕業だわな オレ等の声は機械を通して聞こえねぇ筈だからな 肝心の部分は聞こえねぇ筈だぜ？」 「だから余計危惧したのでしょうね？」 ガブリエルが呑気に話しているとカサフェルは青褪めて逝った 榊原はカサフェルに 「飛鳥井康太を亡き者にすれば…貴方は倭の国を敵に回す事となりますよ？ 強いてはヨーロッパ諸国やアメリカ……そしてロシア……彼の敵を討つために同盟を結ばれてみなさい 貴方の国など３日は持ちません！ 況してや炎帝を亡き者にしたと知れば……神々も黙ってはいないでしょう 神々の手に掛かれば一晩でこの国など塵になるのをお忘れなき様に！！」 とかなりお怒りモードだった カサフェルは「侍従の者を連れて参ります！」と謂い物凄いスピードで部屋を飛び出て逝った ガブリエルは「然もありな難な事をなさるのですね？」と嫌悪を明らかにした顔で目を顰めた 康太は「総てが片付くまで邪魔者は避けたいと謂う訳だろ？」と邪魔者は消す勢いなのを口にした ガブリエルは「避けたい？……消したいの間違いではなく？」と不愉快なまま口にした 暫くするとカサフェルが部屋に戻って来た カサフェルは………帝国騎士団に捕縛されて部屋へと連れられて来た 帝国騎士団はグルッと康太達を取り囲むと剣を突きつけた 康太は「カサフェル、これはどう謂う事よ？」と問い掛けた カサフェルは「………従者に事の真相をお聞きしようとしたら……捕縛されたのです」と情けなく答えた 騎士団は仮面を着けて素顔を隠していた 相当訓練されているのは、その統制の取れた動きを視れば解った 康太は取り乱す事なく事態を受け止めていた ガブリエルは騎士団が踏み込む直前に姿を消していた 榊原は康太を背中に庇って隠した 「無礼な方達ですね？正義さん」 榊原は堂嶋に理不尽な事態を口にした 騎士団の隊長と想われる男が 「明日の朝、お前達は処刑される事となった！」と宣言した イルメキシタン王国は陽が頭上に上がって後に殺生は禁じていた 頭の上に神が通らされる時間は神の時間とされて処刑は陽が上がるまでの時間とされていた あくまでも処刑一点張りの騎士団に堂嶋は怒りを露にして 「我等は国連の秘密特使だと解っていての狼藉か？」と唸った 「国連の秘密特使と謂う隠れ蓑を利用して我が国を陥れようとする狼藉者だと謂う報告が入った！」 「その報告は何処より入った！ 我等に手を出せば……黙っておらぬ事となる そしたらこの国など滅ぼすのも容易いと申しても狼藉を働かれるか？」 「寝言はよせ！ お前らなど殺そうともこの国はなにも困らぬ 処刑は明日の明朝に執り行う！ この者達を地下の牢獄へ繋ぎ止めておけ！」 騎士団長らしき者が謂うと、部下はさっさと康太達を縄で縛り上げ連行した そして陽の光すら通さぬ地下の牢獄へ投獄された 救いなのは………バラバラに牢獄へ入れられたのではなく、全部纏めて牢にいれた事だろうが…… バラされて牢獄へ入れられれば………榊原が……嫌、青龍がキレて龍に姿を変えて暴れかねないからだ 妻に無体を働いた者など生かしておく気はないのだから…… 榊原は妻を引き寄せ抱き締めた 赤道に近いイルメキシタン王国は一年中真夏の気候だった だが陽の光すら通さぬ地下の牢獄は一切の熱を遮断して……底冷えのする寒さだった 「寒くはありませんか？」 榊原は妻を気遣った 康太はドバイ空港で戸浪達と別れて正解だったな……と今更ながらに想った 戸浪と田代を巻き込まなくて良かった…… 心底安堵しながら、今後の事を考え始めた 「此処までの強硬手段を弄するとはな… やはり裏で手引きをしているのは…… イルメキシタン王国の国王と考えて間違えないか……」 康太の呟きに堂嶋は 「この国の国王が絵図を描いていると謂われるのか？」信じられないと呟いた 「イルメキシタン王国の国王が、三女を何故自分の国より小国のサザンドゥーク共和国に嫁がせたか解るか？正義？」 自分の国より小国にわざわざ嫁がせても利益など得られないのに何故嫁がせたのか？ 改めて考えれば腑に落ちない話である 「………謂われてみれば……サザンドゥーク共和国は小国ですね？ わざわざ小国の国に嫁がせる事なんてない筈ですよね？」 「イルメキシタン王国は資源が既に枯渇しているんだよ 国の歴史はイルメキシタン王国の方が古い 元々サザンドゥーク共和国は占有民族みたいな集団の村だった それが近年、宝石や資源が採掘されて今では資産ならイルメキシタン王国を抜いているんだよ サザンドゥーク共和国は軍事を持たぬ国だから娘との婚姻するならば国を護ってやろう！その代わり資源を加工する工場は我が国の企業を使え……と謂う交換条件を受け入れ婚姻はなされた だが国王は留学中に見初めた人がいた 三女を正妻に迎え入れても想いは第二王子の母に向いていた 三女としてみたらやりきれねぇわな だから邪魔者は消し始めたんだよ イルメキシタン王国の国王にしてもサザンドゥーク共和国を吸収してアラブ諸国で押しも押されもせぬ資金を手に入れて手みたくなったのだろう」 康太の説明に総てのピースがカチャッと嵌まったかの様に納得がいった 「………これより……どうなさるのですか？」 堂嶋は問い掛けた 明日の朝になれば……処刑されてしまうから…… 夜がしらみ朝陽が昇らぬうちに処刑は必ず行われるであろう 「オレはな正義、お前に指一本触れさせる気はねぇんだよ！ ドバイで戸浪と別れたのも、こうなるのが解っていたからだ ただでさて船を拿捕されて弱っている戸浪を地下牢に投獄させるのは酷だからな だから戸浪は円城寺貴正に託して別行動をしてるんだよ 後は正義、お前を護らねぇとな んな簡単に処刑される気もねぇんだよ」 「………ならば……どうされるのですか？」 堂嶋が呟くとカサフェルが 「この地下牢は……魔術が施してあります どんな魔術であろうとも……この地下牢は受け付けないと想います……」 と情けない顔で訴えた 「だから牢獄へ入れられた瞬間から警備が緩んだのか…… しかも……バラバラにされなかった理由は、牢は国連の特使を捕捉して空いていなかったからか……」 牢に投獄されて落ち着いた頃に辺りを見渡したら、牢は身綺麗なスーツを着た明らかに国連の特使として来た各国の要人とおぼしき存在だった カサフェルは「この牢は他の牢の人間に声を掛ける事も禁じています……」と更に説明した 「牢獄と謂う閉鎖空間を作っているのか それだと他と干渉させる事なく閉じ込めておけるもんな って事はかなり手練れの魔術師がいるって訳か」 康太が呟くとカサフェルは 「それは解りません……ガブリエル様から不穏な動きがあるから監視なさいと謂われて潜入しておりましたが、動くと騎士団がやって来て自由に動く事すら叶わなかったのです この国の国王からは底知れぬ力を感じます……ですがそれを調べる事すら出来ませんでした」と情けなく口にした 「国王に近付く事も出来ねぇと謂う訳か？」 「はい。国王の隣には常に……白いマントを着てフードを被って顔を見せない存在がおります その存在が国王に近付く事を阻止しておりますから……」 白いマントを着てフードを被って顔を見せない存在…… 「RPGなら裏ラスボスってとこか？ 国王を影で操る黒幕……だけどそいつも結局はカオスかテスカトリポカに操られているんだろうな」 テスカトリポカ 神々の中で最も大きな力を持つとされ、神々からは……悪魔と呼ばれた……存在 夜の空を司り 夜の翼を駆使して 北の方角 大地 黒耀石を操り 敵意、不和、支配、予言、誘惑、魔術、美、戦争や争いといった幅広い争い事を植え付ける 蒼い地球（ほし）を滅ぼせるとしたら…… テスカトリポカ（Tezcatlipoca）しかいない 混沌（カオス）さえ利用し駒に使う存在 この陰謀の黒幕は多分テスカトリポカだろう…… テスカトリポカと冥王ハデス、どちらの力が勝るか…… 同じ闇に生きる存在なら決着を着けねばならぬ時なのだろう… 皇帝閻魔は冥王ハデスの血肉を取り込み冥王ハデスと一体化した その体躯を分け与えられた存在は自分だけだった 況してや我が父皇帝閻魔は魔界を統治する時に…魔王サタンから力の継承をしている 今は殆どの力を息子に与えた… 与えられた息子は負ける訳にはいかなかった 康太は牢をグルーッと見渡して 「この牢って魔術を受けたらどんな風に発動するんだよ？」 とカサフェルに問い掛けた 「それは解りません やってみた者などおりませんから……」 「だよな、他国の特使達だって“神”を連れて来てる筈だからな それをしてねぇって事は吸収するか、魔法を取り込んで反発するか、どっちかだったんだろうな」 康太の分析に堂嶋はやけに冷静だなと想った 康太が冷静なのに自分が騒ぐ訳にはいかない……そんな想いで堂嶋はかなり冷静さを取り戻していた 「カサフェル、朝になれば牢に入ってる殆どが処分されると謂うのか？」 「………解りません……私は外交は任されておりましたが、内情は何一つ把握は出来てはおりませんでしたから……」 「何にせよ“血”は尊い証の一石になる 国の干渉をさせぬ抗議活動の一環にはなる材料だ 況してやイルメキシタン王国がサザンドゥーク共和国の内乱を止めて軌道修正を図ったとしたら、内乱で命を落とした特使達の力があってこそ成立したクーデターだったとか言い訳は出来るからな！ 自分の所に優位になる特使以外はこの世から消したとて痛くも痒くもないと謂う訳だな」 言い訳は後でこじつけられるのが世の常なのである 「………我々は……このまま闇に葬られる事となるのでしょうか？」 カサフェルが不安げに謂うと康太は 「まさか！我が子の為に殺されてやる訳はいかねぇんだよ！オレは！」 そう言い唇の端を皮肉に吊り上げ嗤った 榊原は風など吹かぬ空間なのに髪の毛が揺れている康太の髪を見て勝機は手に在るのを知った 勝機は断絶された空間の中にいても揺るぎない力を持ち示されていた 「しかし寒いなこの場所は……」 日本とはまた違った寒さが身を凍えさせた 「オーディーン、年寄りのお前にはこの寒さは堪えねぇか？」 康太は笑って誰に謂うでもなく呟くと 『儂は北欧の凍てつく大地の神であるぞ？ この程度の寒さなど気にもならぬわ！ やはり童は柔に出来ておるのだな』と謂う笑い声が響いた 榊原は「オーディーンがおられるのですか？」と康太に問い掛けた 「北欧の特使は国で一番偉大な守り神を連れて来るしかねぇだろ？」 それは納得だが…… この空間は断絶された結界の中で他の奴との声も通さないんじゃなかったんじゃ？ 「オーディーン、か弱き童にお前のぬくぬくの上着を寄越しやがれ！」 『仕方ない童だな ほれ、受けとるが良い』 とオーディーンはそう言いぬくぬくの上着を脱ぐと、康太の方へと放って寄越した バサッと上着が飛ばされて来て、康太はその上着を着た カサフェルは「……何故その様な事が出来るのですか？」と驚いて問い掛けた 「神々の力を舐めるな！ オーディーンは大地の神だかんな 地面さえあれば結界なんてないも同然なんだよ！ 大地の祝福はオーディーンの為だけに在る そんな神を怒らせでもしてみろ？ 指を一本動かす程度で、こんな国一つ消滅させるのは楽勝だ！ だよな？オーディーン」 『やってよいなら、実演してやろうぞ？』 「しなくて良い で、お前の愛馬は何処にいるのよ？」 『アラブ諸国連合のトップ、カザイール卿の所に逝かせたわ』 「なら夜明け前には動きはあるわな」 『ないのなら愛馬で蹴散らしてやるだけの事よ！ 神を殲滅しようとした罪は重い！ この儂を投獄した罪も含めると５度殺しても飽き足らぬわ！』 オーディーンらしくて康太は笑った 「オーディーンは何時此処に入れられたのよ？」 『空港に下り立つや否や騎士団とからが強硬手段に出た 牢に入って３日は経っておるだろう あやつ等は牢が全部埋まらねば処刑はしない お前達で牢が全部埋まったから夜が明けたら処刑をするつもりなのだろう』 だから夜が明けたら処刑なのか……と康太は納得した 「だとすると夜が明け外が白むには動くな」 そう呟くと康太はゴロンッと寝そべり榊原の膝に頭を置いた 「正義、冷たい床だけど朝まで休んどけよ！」 康太が謂うと堂嶋は上着を丸めゴロンッと転がった 何もする事の出来ない空間は酷く閉鎖的で息が詰まった 堂嶋は「……気が触れる人は……でないんでしょうか？」と呟いた 人は何もない空間に押し込められると正常な意識を保っていられなくなるのだ 「人は視界でモノを見る、耳で音を探る、手でモノを確認する それらが出来ない状態の場所に閉じ込められると人は正気ではいられなくなるらしいからな… 明らかに……身体に影響を及ぼしていると想う……」 「……俺も……康太……貴方と一緒でなくば……狂う前に命を断っていたでしょう…」 堂嶋はそう呟きに、なんの動揺もしていない康太を見た この人は強い だがその強さは強靭な精神力で無理矢理作られているモノなのだと知っている 「正義、腹減ったな 此処から出たら取り敢えず外の空気を吸って飯を喰いてぇよな」 処刑を待つ人間の台詞ではなかった 堂嶋はなにも答えられなかった 「………」 堂嶋はやけにナーバスになっていた ナーバスになるなと言っても無理な話かもしれない 気が滅入れば思考はマイナスな方へと流れて逝ってしまうのだから…… 夜明けを待つ 何時明けるとも解らぬ夜明けを待つ 暗闇にいると時間感覚が鈍る 閉じ込められてから何分過ぎた？ 解らぬ不安に……堂嶋は壁を殴った 康太は堂嶋の手を取ると 「ダメだろ？正義 傷一つ着けねぇって約束した矢先にお前が傷を拵えるな」 と堂嶋の手を擦りながら文句を言った 堂嶋は正気に戻り「………すみませんでした……」と謝った 自分はかなりの意思を持つ男だと想っていたが…… こんな逆境に入れられたら……止めどなく不安で仕方がなくっていた…… 精神は多分、こうして崩壊して逝くのかも知れない ほんの些細な綻びさえあれば、そこからポロポロと綻び欠けて逝くのだろう…… それを生身で体験させられ堂嶋は強靭な精神力は何処へ逝ったんだよ……と情けなく呟いた 「正義、どんな暗闇の中にいたしてもオレらには進むべき道がある！ 目を凝らして果てを見てみろよ！ オレらの道は暗闇なんかで消えたりしねぇ筈だろ？」 「坊主……」 「お前の政治生命は消えちゃいねぇ！ こんな所で消してたまるか！ そしてなによりお前をこんな幸哉もいない地で息絶えさせたりするかよ？ お前を還るべき場所に還す！ 絶対にな！ だからお前は前だけ見て突き進め 後ろは気にするな！ 絶対にな振り返るな！解ったな？」 あぁ……政治家として命を貰った日から変わらない康太の想い 導かれ照らされて突き進んで来た道だった 今更ながらに想う 康太が照らしてくれたからこそ来られた道なのだと…… 堂嶋は落ち着きを取り戻した 錯乱した心が霧が晴れた様に現実を受け入れていた 「坊主…すまなかった」 「やっと正義らしくなったか」 康太はそう言い笑った 人懐っこい子供みたいな顔で笑った この顔は信頼されている者にしか向けられない顔だった それを知っているから、その顔を見れる現実に喜びを感じていた 何時間経ったのか？ 何日経ったのか？ 解らない程に長い時間が流れた気がした もしかしたら、ほんの数分だったのかも知れないし 何時間も経ったのかも知れない 時間と謂う概念が奪われかけたその時、唐突にその時はやって来た 地下牢の入り口が開けられると同時に、騎士団がやって来た 処刑の時間になったのだろう 騎士団は牢の結界を何らかの器具で解くと、牢の中の人間を外に出した トロトロ動く人間や抵抗する人間は殴り付け、暴力で制した 総ての牢から人を出すと最期に康太達の牢が開けられた 最期とあって素早く動かないと即蹴りや拳が飛んで来た 康太も例外でなく殴られ蹴り飛ばされた 助けに入ろうとした榊原と堂嶋を押し止め康太はボコボコに殴られていた 引きずり回され外へと連れて来られた 外には一列に並ばされ、その前に銃を構えた騎士団が並んでいた 目隠しをされて並ばされる 見えない恐怖に叫び出す者もいた 叫び立ち上がると同時に銃声が鳴り響き……ドサッと倒れる音を聞き…… 黙り込む 発狂出来たなら幸せだと想える状況だった 「これより処刑に取り掛かる！」 止めてくれ！ 叫び声と銃声が鳴り響く 人の命が虫けらみたいに握り潰される 人権や尊重など皆無しない世界 こんな所で死ぬのはやはり嫌だな……と康太は呟いた 誰だって嫌に決まっている 命が今亡くなる しかも奪われ断たれる そんな経験などしたくはなかった もうダメかと想われた時、騎馬の音が鳴り響いた かなり多くの騎馬が回りを取り囲む様に走っていた 「そこまでだ！」 誰か解らぬ声がすると、目隠しを外されていた 目に見える世界は一変していた 騎士団は見知らぬ兵に取り押さえられていた 騎馬に乗った兵は馬上から銃を構えていた 歩兵が処刑される人間の拘束を解き目隠しを外して歩いていた 「この処刑は人道的ではないとお見受け致しますが？ 罪もなき者を何故処刑されるのですか？」 真っ白な馬に跨がる男が前に出て騎士団に問い掛けた 騎士団の隊長は邪魔立てした輩を面倒臭そうに見た そして悪怯れる事なく「我が国の刑法に逆らった故に処刑する事となったのです」と放った 「その者達は国連の特使とお見受けするが？」 「国連如きが我が国に干渉は不可に御座います！ 我が国には我が国の法律があるのですから！」 騎士団隊長がそう言うと騎馬の奥から威厳の在る男が馬に乗って姿を現した 「アラブ諸国連合の一隅であられる貴国が貴賓のもてなしが処刑だと申されるのか？」 騎士団の者達は姿を現した男に……気圧されたかの様に顔色を変えた 「お前達の暴挙は映像として遺した 罪もなき国連の特使を処刑した事は明白 どう言い逃れをしたとしても申し開きは出来はせぬ！ 今、この時より貴国はアラブ諸国連合を敵に回したと謂う事で相違はないな？」 申し開きさえ出来ない雰囲気の中…… 白いローブを着てフードを被った男が姿を現した 白いローブを着てフードを被った男は不敵に嗤い 「あの石さえ手に入れれば、アラブ諸国連合や国連など取るに足らぬ存在にしかならぬ！ 世界を手に入れるのは我が国！」 そう告げた オーディーンは片腹痛いわ！と笑い飛ばした 白いローブを着てフードを被った男は騎士団に「皆殺しにしろ！」と命令を出した 騎士団は無差別に刃や銃口を向けて、その命を奪いまくっていた 騎馬に乗った兵士達は騎士団を阻止すべく闘いを始め、命の奪い合いとなった 康太は動く事なく黙って男を視た その男が何であるか視た そして「やはり……Χάοςか……」と呟いた 明らかに操られて何も写さぬ瞳を視て意志が存在しない事を確信した 康太は右手に始祖の御劔を出すと、紅蓮の妖炎を巻き上げた 「殲滅してやんよ！」 康太が挑発すると男は「ほざけ！」と相手にしなかった カキーン　カキーンと刃が火花を散らす 康太がΧάοςと呼んだ男は一歩も引かぬ勢いで打ち続けた 康太が「埒があかねぇじゃねぇか…」とほぼ互角の闘いに勝率を上げる策を施した 「軍神アレース、創造主の一柱の声を聞き届けたのなら、姿を現し力を貸してくれ！」 康太はそう大声で叫ぶと軍神アレースを召還した 康太の声を聞き届けた軍神アレースはギリシャ神話に存在する神（マーズ）だった アレースは姿を現すなりΧάοςと闘い始めた 軍神、闘神と呼ばれし神は一歩も引く事なく闘い続けた Χάοςは押され気味に後退さった 一瞬、後退する脚が止まったのを見逃さなかった康太は、始祖の御劔をΧάοςへ突き刺した 始祖の御劔が自分を貫いた事が信じられずΧάοςは驚愕の瞳を康太に向けた 「もう終わりだ」 そう言うと呪文を唱えた 始祖の御劔が目映い光を放つと、康太は始祖の御劔を刺したままのΧάοςを吹き飛ばした Χάοςは物凄い勢いで飛ばされ姿を消した 康太は軍神アレースに礼を言った 「オレの声を聞き届けてくれてありがとう」 軍神アレースは「只の気紛れだ！」と笑い飛ばし姿を消した 一部始終見ていた騎士団はそれでも、此方には絶対神が存在する！と謂わんばかりの態度だった 騎馬兵が鎮圧の為に騎士団を捕らえ黙らせても、彼等の瞳は光輝いていた 「我等は一石にしか非ず」 そう言い騎士団は舌を噛み切りのたうち回り………息絶えた 「随分と統制が取れるじゃねぇか…… 人の命を何だと想っていやがるんだ！」 康太は不快を露にすると叫んだ 騎馬兵の中の一際威厳を放っている男がオーディーンの前に跪くと 「オーディーン様、カザイール馳せ参じました！」と声をかけた 「カザイール卿、助かった 危うく魔弾に貫かれて死ぬ所であった」 「少しはお役に立てて良かったです 今後はアラブ諸国連合の管理下に置いて、軌道修正を図りたい想います」 「………この国は少し厄介な事になると想う……何だってまだ親玉を捕まえていない さっきの輩は傀儡の小物……親玉は何処かで隠れて見ているに違いない この国が使えなくても困る事はない 他に国を操れば良いだけの事だからな……」 「オーディーン様……厄介な事に御座いますね」 「………あぁ……其奴は……人を国を自由に出来るからと弄び翻弄して試しているのであろう……」 オーディーンの言葉は重かった なにも言えない程に重かった 「ではこの国を制圧してくれ！」 カザイール卿は「はっ！」と返事をすると立ち上がって制圧の為に馬に乗り駆け抜けて逝った 康太はそれを黙って見ていた あっという間にイルメキシタン王国を軍事力で制圧して逝く 国民は何が起こったのか解らぬうちに国外退避されられ国から出された イルメキシタン王国の民は城下から姿を消し、辺りは静まり返っていた カザイール卿は城下を鎮圧するとオーディーンに「（この後は）どうされますか？」と問い掛けた オーディーンは怒気を含ませた声で 「そりゃ決まっておる！ 国王の所にまで逝って事情聴取する！ 王と名乗るなら国民の命の保証くらいはすべきであろうて！」 と言い捨てた 騎士団は銃弾に魔術を施した玉を持っていた その弾は神でも消滅させる事が可能な魔術を施した弾だった その気になれば神など軽く消せる それを実践で見せ付ける為だけの弾だったのだろう… オーディーンと康太達は城の中へと入って王の間へと向かった 静まり返った王宮は人が存在していないかの様な静けさを見せていた オーディーンは一際立派な扉の前に立つと、ドアをバターンっと勢いよく開けた 玉座にはこの国の王が鎮座していた 年の頃なら６０そこそこと言った王は生気のない顔でオーディーン達を見ていた 「何者かな？」 王が言うとカザイール卿は王の前に逝き 「イルメキシタン王国は国連の特使を監禁して無差別に殺した 何故この様な事をなさったのですか？」 「この国は……枯渇して逝くのだ…… 英華の頃にあった、あまりある資源は枯渇して……資源になるモノはなくなった 宝石も石油も天然ガスもこの数年、全くと言って良い程に採掘は不可能となった それに比べ隣国サザンドゥーク共和国は潤い溢れんばかりの資源に恵まれておる このままではこの国は……破滅する だからこそ！娘を嫁がせ絶対の結び付きを得た………筈なのに…… サザンドゥークの王は外国で見初めた女を連れ帰り後宮に囲った…… そればかりか王子を産んだ時から……我が娘の存在が危うくなって来たのじゃ…… 王子を産んだ娘を何故蔑ろにする？ それでも……それでも……まだ娘は行動を起こしたりはせなんだ なのに……王は第二王子を後継者に据えると言い出し発掘された石を第二王子に渡した 娘は……第一王子を後継者に据える為に……王を亡き者にした そればかりか……第二王子も抹殺するつもりでいた こんな事が明らかになれば……我が国も……執り潰されてしまうしかない この国の民を路頭に迷わせる事は出来はせぬのだ ………悩んだいた時、白いローブを着てフードを被った男が現れた 総て執り行ってやるから……と側近の立場に収まった その頃からの記憶はない…… あなた方が此処にいると謂う事は……私は……傀儡となり罪もなき者を殺めさせたのでしょう…… どうか……私の命でもって……この国の民を……護っては下さらぬか？ 私の命では足りないと謂うのであれば第一王女と第二王女がおります ……我ら王家の血でもって……この国だけは見逃しては貰えませんか？」 国王は深々と頭を下げ国民の命の保証を頼み込んだ その顔はもう……操られた色はなかった 堂嶋は「王、本人か？」とカサフェルに問い掛けた カサフェルは透視で国王を視た 何の影も掛かっていないのを確認すると 「王本人です。もう操られた存在ではないです」と答えた 康太は「イルメキシタン王国の事はアラブ諸国連合と話し合いって事で……次はサザンドゥーク共和国か……どうやって入り込む……」と思案した 康太が呟くとカザイール卿は 「サザンドゥーク共和国に入りたいのですか？」と問い掛けた 「そう。正義達、国連の特使はサザンドゥーク共和国の内情を知る必要がある オレは石が発掘された場所の特定と石の力の特定をせねばならない 目的は国連の方とは違うが、強いてはこの地球（ほし）を護る為だ！」 「我はムハラク・アルデモン・アハメット・カザイールと申す者に御座います 貴殿のお名前をお伺いしても宜しいですかな？」 カザイール卿は流暢な英語で話し掛けて来た 「オレの名前は飛鳥井康太！」 「asukai……あぁ貴正が言っていた御仁は貴殿でしたか…… 傷一つ着けるなと謂われ………たのですが、傷が着いてしまいましたな……」 カザイール卿は殴られた康太の頬を優しく撫でながら、そう言った 「蹴りあげられた時にあばらもヒビ入ったみてぇだけど折れてねぇからな」 康太が謂うとカザイール卿はワナワナと怒りに震えた 康太はカザイール卿に「彼等は仕事をしただけの事だ」とさも何もなかったみたいに言った カザイール卿は驚愕の瞳を康太に向けた 「だからこそ上に立つ者は道を過ってはならねぇんだよ！ 下の者に着けた傷は……結構でけぇんだよ 頭はすげ替えれば済むが、下に生きる者は自分の手を汚した罪に生ある限り苦しむ事となる 家臣を苦しめたのは王だ この国は……人々の苦しみの上に成り立つ事となる…… それでも明日を刻まねぇとならねぇなら、次は違えねぇ道を模索しねぇとな 資源が枯渇したなら工場の誘致とか国が潤う方法は幾らでもある 隣の芝生を羨ましがるばかりじゃなく国に目を向けて民に問い掛けてみれば良かったんだよ 本当に愚者としか言い様がねぇ…… この国を生かすつもりなら王族は総て排除して国民選挙をやられる事だ 国民選挙をやるならば選挙管理委員会は発足せねばならない 完全なる民主主義を目指すなら、腐った禍根は総て断たねぇと腐った部分は何処まで逝っても残るぜ！ お前は今、それで苦労しているから誰よりも解るよな？ 人種や一族、宗教や思想、多種多様な人種が総て解り合い一つになる事はねぇ！ それでも新しく生まれ変わりたいなら根絶やしにして作り替えねぇとならねぇんだ 半端な事をやるから不穏な芽が絶えねぇんだよ」 正にその通りだった だが人はそんな大幅な改革は受け入れちゃくれない 押さえつければ反発が起きて暴動が起きる 暴動は大きな力となり畝って爆発する そうならない為の譲歩が必要なのだが…… 線引きが曖昧だと…… 後々の火種になる 不穏な芽は摘んでも摘んでも飛び火して絶える事はない カザイール卿は言い当てられて言葉もなかった 「飛鳥井康太様、イルメキシタン王国を解体して再生する際には是非お力を貸して戴きたい！！」 「オレに出来る事でしたら！」 康太は了承した カザイール卿はその言葉を受けて心強さを感じていた 「では我等が掛け合ってサザンドゥーク共和国に入る手筈を整えさせて戴きます」 カザイールはそう言うと王の間を後にした 康太は王の隣の后の椅子に座ると 「オーディーン、この国の土地は生きてるか？」と問い掛けた オーディーンは目を瞑ると大地の息吹を感じた 「まだ死んではおらぬ」 オーディーンが答えると思案するように考え込んだ 「ならさ本当に資源は枯渇しているのかよ？」 「資源とは？」 「財源になりそうな天然ガスだったり石油だったり、原石だったり、とにかく国が潤いそうな資源があるか聞きたい」 「………それらは残念な事に枯渇しておる 取り尽くしたと言うべきか…… あるもの総て搾取し尽くした結果の今であろう」 「資源は無限にある宝庫じゃねぇからな 乱獲しまくれば枯渇するわな 資源を他の国から買い入れれば、その分市民の生活に上乗せされる訳だしな 収入の見込みが薄い国ならば人は潤う国へと流れて逝くしかない 幾ら愛着があろうとも……生きる為に決断するしかない 税が上がれば生き難くなる 総てにおいて悪循環なんだよ、この国は」 真理を言い当てられ王は言葉もなかった 「それでも……この国は美しいな……」 「……え？……」 「目映い日差しに白い宮殿 夢の世界がそこに在るみてぇに美しい 観光と言う名目の客を受け入れ、外貨を稼げれれば生き残る方法はあるな それにこの国の織物は高額で売れるだろうしな」 康太が言うとオーディーンは笑い 「それは良い！ 大掃除して生かしてやれ！ それもお主の務めであろう」そう言った 「だな、その為に市民の前で死んでくれ王様！」 王は康太を見て覚悟を決めた瞳で 「あぁ……国が生き残れるならば……この命存分に使って下され……」と答えた 堂嶋はやはり違和感を感じていた 適材適所、配置して来た康太は誰よりも人を想い、やり直す機会を与えてきた 自分の命を狙った奴等にまで、それは成され救済の手を差し出して来たと謂うのに…… 今回は本当に非情にバサバサ片付けていた 堂島の想いは置き去りにされ事は進んで逝く 「カサフェル、処刑の準備をしろ！ 明日の明朝、国民を城内に入れろ！ 民の見る前で国王と二人の姫は断頭される その血を見て民はこの国の決断を知る この国が変わる為に必要な通過儀礼だ！ 国王と二人の姫の処刑はアラブ諸国連合が取り仕切る！ その後、この国は変わる！ この国最期の王家の血をもって幕を引く」 あぁ…そうか…… これも適材適所な行為なのか…… と、堂嶋は想った この国が変わる為に必要な“血”なのだろう…… 断頭と言う罪を消し去るインパクトを植え付け、変わる宣言をすると謂うのか…… 堂嶋はやるせなかった どれだけの悪でもやり直すチャンスを与える康太が下さねばならぬ決断が痛かった 「そんな顔をするな……」 康太は堂嶋に声をかけた 今、自分がどんな顔をしていると謂うのか？ 「……康太……」 「お前もこの先、痛みを伴う決断をせねばならない時が来るだろう その時の決断こそが後を決める分かれ道となる 血を吐く苦しみに耐えてこそ明日へ繋げる瞬間がある 道を誤れば……ズブズブに爛れた明日へ変わるしかねぇ…… あの時決断していたら……と必ず後悔する日は来るぜ？ でもやり直しは出来ねぇ 次は総てを根絶やして全滅しか道はなくなる だからこそ、決断を誤るな正義！ 決断する者の使命なんだよ 辛くても苦しくても道は正さねぇとならねぇんだよ！」 一番苦しんでいるのは……貴方なのですね だからこその台詞なのだと堂嶋は心に刻んだ 政治家として生きて逝く以上は決断を迫られる時は必ず来るだろう…… 誰しも……トドメを刺すのは気が引ける 目を反らして先送りにする それでは解決しないのを解っていて…… それでも人はそんなに非情になどなれないと自分を納得させる そのツケを国民が払う事となっても…… 手を下す存在は避けようとする それが人なのだ…… だが康太は身をもって決断するって事を教えてくれた 身を切られ血を吐こうとも……違えられぬ明日の為に下さねばならない事を教えてくれた 康太の方が何倍も辛いだろうに…… 「康太……貴方が教えてくれた事だから俺は瞳を反らす事なく見届けさせて戴きます」 「あぁ……心に刻め そして痛みを知れ…そしたらお前は今以上に状況の解る政治家になれるだろう」 果てを見て謂う その姿はもう先しか視ていないのだろう 留まらず先へ逝く どんなに辛い結末しか待っていなくても、歩みは止まる事なく進められる 貴方の優しい部分しか俺は見ていなかったのですね 貴方は優しい だけど優しいだけの人じゃない 解っていたが、何処かでその優しさしか見ていなくなったのだろう 貴方は甘い人じゃない 時には非情に残酷になれる方だ 知っていて……優しい部分しか受け入れようとしなかった…… 貴方は……俺に剥き身の剱になれと教えてくれたのですね 俺の道は貴方がくれた だけど俺の逝く道は切り開かねば進めぬ道なのだ 歩を止めれば道はなくなる 歩み続ければ……後ろに道は出来る それが国民のための道になる 国民を背負う者の死命となる 堂嶋は康太の手を見た その手は強く握り締め過ぎて赤くなり爪が食い込んでいた その身よりも心が痛いのでしょう？ 俺も……今……心が痛いです この心の痛みが……明日の国を作るのに必要なのであれば…… 俺はそれを享受します カザイール卿が部屋に戻って来るとカサフェルは国王と二人の姫を明朝の処刑すると告げた カザイール卿は天を仰ぎ…… 「解りました……」とだけ呟いた 必要な“血”なのだと解る だけどいざそれを聞くとやるせない気分になった 処刑など不要な国を創るつもりだったのに…… 想えば想う程に……沢山の血が流れすぎていた イルメキシタイン王国の国民は国へと戻された 国に入って直ぐに国王の処刑を告げられた 国民を蔑ろにした政策を打ち立て、変わってしまった国王だったが…… かっては誰よりも国を愛して民を愛した国王だった 枯渇した国を何とかしようと国王は国王なりに考えたのだろう やり方は間違ったが、国王は国の象徴だった 夜明けと共に国王は処刑台に上がった 二人の姫も断頭台の露となり消えようとしていた 最期の王家の象徴が今………崩壊しようとしていた 二人の姫達が先に断頭台に上がり……処刑された 国民は目の前で姫君達の首が転がり落ちるのを目にして涙した そして最期に国王が断頭台に上がった 国王は目隠しをされたまま胸を張り最期の国王として凛と立っていた 断頭台に首を差し出されると民は息を飲み込んだ ロープが切り離され勢いよく断刃が落ちて逝く 国王の首が体躯から切り離され……飛び散る血の飛沫に…… 国民達は涙して見届けていた 切り離された国王の口から 「我がイルメキシタイン王国はこの先も続く……我の血を吸い込み果てへと続く…… どうか……二度と間違わないでくれ… 我等の血を無駄にする事のない未来を！」 と最期の力をふりしぶり告げ……息耐えた 国民は泣いていた 不安や心配……そして国象徴の処刑 我等はこの先……どうなるんだろう この処刑は国を滅ぼそうとした者総てが断頭台に上げられた 騎士団も解体させられ、処刑に携わっていた兵士は処刑の対象とされた 多くの者の血を吸い込み…… この国は変革を迎える事となった 国民は王が処刑された日を 『生誕の日』と名付けた この国が幾ら変わろうとも国王の事を忘れない様にその日を制定した イルメキシタイン王国は新しい道を歩き始めた 自由と皆が潤う国へ成長させるべき、覚悟が芽生えた その芽は大きく育ち この国を支える大樹となる事だろう その大樹は国王の血を吸い込んで……更なる発展を目指した