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第38話 瀕死

…………て………てい……… 遠くから声がした 炎帝……炎帝!! その声はハッキリと近付き…… 「炎帝……炎帝……」と体躯を揺すられ……意識は覚醒した 目を開けると、そこは霞がかかり……真っ白だった 「誰?……此処は何処?……」 康太はうっすらと目を開けて、そう問い掛けた 「炎帝……良かった……」 そう言い弥勒高徳は安堵の息を吐きだした 「……此処は何処だ? 何があったんだ?」 「それは我が聞きたい サザンドゥーク共和国の国王の魂を連れ還ったからお前に連絡をつけようとしたのに……お前は……岩盤の下敷きになっていた……」 「伊織は?……青龍は何処だ?」 康太は榊原の姿を探した 「………伴侶殿は横に……」 康太は飛び起きようとした 全身を痛みが襲う……それでも康太は榊原の無事を確認しようと身を起こし榊原に近寄って逝った 「伊織!伊織!!」 名を呼ぶが……榊原は反応しなかった 康太は榊原の体躯に追い縋って泣いた 「動くな……お前と伴侶殿は洞窟の入口を爆破した衝撃で落ちてきた岩盤の下敷きになったのだ 伴侶殿はお前を庇って……命を……落とした」 「………伊織は死んだのか? ならオレも死ぬ! オレと伊織は魂を結んでいるのに…… 何で伊織が死んでオレが生きてるんだよ!」 康太は叫んだ 体躯がバラバラになりそうに痛んたが……叫んでいた 「聞け……聞いてくれ炎帝……」 「嫌だ!聞きたくねぇ! 伊織の…青龍のいない世界になんか生きたくない…… オレを殺してくれ……弥勒……」 弥勒は胸を鷲掴みされた痛みを覚えた 「………もう何も聞きたくなんかねぇ……」 青龍……お前のいない世界に……一分一秒だって生きる気なんてないのだから…… 康太は両手で耳を塞ぎ… 創造神よ……お願いだからオレを殺してくれ! 叫び続けた 自分がこんな国に来たから…… 榊原が命を落としてしまったんだ 青龍のいない世界になんか一分一秒もいたくなかった 「青龍…オレがお前を……こんな国に連れて来たから……」 康太は自分を責め続けていた 弥勒は康太の頬を叩いた 「我の話を聞け!」 「…嫌だ……弥勒……どうして青龍が……」 康太は泣きながら弥勒に訴えた 「お前もそうだが伴侶殿も今は人の子であられる…… 岩盤の下敷きになれば圧迫死する事もある 今、釈迦が朱雀を動かして黄泉まで榊原伊織の魂を戻す為に動いている だから炎帝……耐えてくれ…… 我等もお主のいない世界に生きる気などないのだ…… お主が死ぬと謂うならば、我等も逝く だから……我等を置いて逝くな炎帝……」 康太はポロポロ涙を流していた 止まらぬ涙は康太の頬を濡らして、止めどなく流れていった 「……オレの世界に……青龍がいない日なんて……思いもしなかった……」 康太は榊原の胸に顔を埋めて泣いていた 榊原の胸に耳を当てて… 息をしていないのを確認する 伊織…… オレを置いて逝かないって約束したじゃねぇか…… 共に逝くって約束したじゃねぇか…… なのに何で……今お前は此処にいないんだよ お前のいない世界なんか滅んでも良い お前のいない世界に明日なんか来なくても良い お前がいないのに……明日なんて来るな! 青龍…… 青龍…… オレの蒼い龍 オレの愛する蒼い龍…… お前がいないとオレは息なんか出来ない お前がいないと…… オレは生きているのが嫌になる オレを殺してくれ! 親父殿………オレはもう……生きていたくなんかないんだ ごめん…… 青龍がいなってだけでオレは…… 総てを破壊して“無”に還したくなるんだ 何も要らない 誰も要らない 青龍だけいれば…それだけで良い… 親父殿…オレは貴方の誇れる息子には……なれそうもありません 康太は………意識を閉ざした 青龍がいないのなら…… オレなんか……要らない…… 極寒の地、北極にいた兵藤貴史はいきなり姿を現した釈迦に驚きつつも胸騒ぎを感じていた 『朱雀……人の魂を……還してくれぬか?』 釈迦はやけに憔悴しきった顔でそう告げた 「誰の魂を還せと謂うのです? 輪廻転生をねじ曲げる訳にはいかないと承知で仰っているのですよね?」 北極の地に来てまで謂うのだから、よっぽどの事なのだろう 解っているが、少しでも早く仕事を片付けて康太の傍に逝きたいのだ 邪魔などされたくはないのだった 『………榊原伊織の魂を……戻してくれぬか?』 釈迦の言葉に兵藤はギョッとなった 「もう一回……言ってくれ」 聞き間違いじゃないよな? 『榊原伊織の…魂を…だ…』 「伊織?伊織は康太と一緒じゃねぇのかよ? 何があった!何があったんだよ!」 兵藤は釈迦の胸ぐらを掴んで叫んだ 『炎帝と青龍はサザンドゥーク共和国にいた…… 石の発掘場所を探していた サザンドゥーク共和国から、ガイドを着けて貰ったのだが、そのガイドが……第三王女の手の者で自爆スイッチを押して洞窟の入口を封鎖した……その時…岩の下敷きになった 青龍はとっさに妻を庇って……岩盤の下敷きになっていた 転輪聖王とガブリエルが駆け付けた時には……榊原伊織は息をしていなかった……』 「康太は……どうしてる?」 愛する男を失って……アイツは生きてなどいない…… 共に……それしか望んでいない炎帝は、青龍の傍に逝けるのなら喜んでその命擲ってしまうだろう…… 『………炎帝は意識を深淵まで沈めて眠りに落ちた 呼び掛けても……意識が戻らない……』 「だろうな……炎帝を殺すなら青龍を奪えば良い 青龍は炎帝の命だからな…… 畜生!!一緒に逝ってれば……俺が変わってやったのに……」 『そんな事炎帝は望まぬぞ?』 「望まなかろうが……アイツを苦しめる位なら……変わってやりてぇんだよ!」 『朱雀、榊原伊織の魂を追ってくれぬか? 輪廻転生を司るお主でなくばなし得れぬ事なのだ……』 「解ってる!伊織の体躯は何処にあるよ?」 『ガブリエルが天使の玉子を作ったから、その中に入れてある…… だが……時間がない……早く体躯に魂を入れねば……その命は尽きる そしたら二度と榊原伊織の体躯に魂は入る事は出来なくなる』 天使の玉子 天使をこの世に生み出す時に用いる母体の変わりになる聖なる殻 榊原は母体の中で眠る様に生き繋げていると謂うのだ 一安心しかけた兵藤に釈迦は 『天使の玉子の中で生命を維持できるのは48時間 早く魂を戻さねばならないのです!』と現実を突きつけた 「人の魂は冥土へ先に逝くんだったよな? ならこれより冥土へ逝って伊織の魂を探してくれば良いんだな?」 『……頼む朱雀……お主しか出来ぬのだ……』 「解ってるよ釈迦 青龍を亡くした炎帝は己を絶つか総てを殲滅しかねぇ驚異となるのは避けてぇからな… 釈迦、閻魔に四鬼を賽の河原に配置させておいてくれる様に言っておいてくれ」 『了解した! すまぬな朱雀……』 「非常事態って事で……なら直ぐに動くとするか!」 兵藤は一緒に探査に携わってくれてる人に一時離脱を告げて、姿を消した そして冥土へと朱雀となり飛んで逝った 人は魂が抜けて死とする 魂は冥土に在る三途の河原に辿り着き黄泉へと渡る だが三途の河原には鬼がいて魂の選別をする そうなる前に……榊原の魂を見付けて体躯に戻さねば…… 三途の河原には死してなお欲に駆られて人を蹴落とそうと悪鬼と化した魑魅魍魎がうじゃうじゃといる 朱雀の姿など見たら、我先に救済されようと朱雀などあっという間に揉みくちゃにされてしまうが落ち だから朱雀は閻魔大魔王の使役の鬼、四鬼を先に三途の河原へ逝かせたのだ 人と謂う生き物は死しても尚、鬼が怖くて苦手だと謂うから……兵藤は呆れる 自ら鬼に成り下がる癖に鬼が怖いのだから…… 朱雀は時間が惜しいとばかりに飛び続けた 康太…… お前、伴侶を失って正気じゃいられねぇじゃねぇかよ? 目の前で愛する男が冷たくなって逝って…… 正気でいられる奴の方がおかしい 康太……死ぬな 榊原を追って死ぬな…… お前には6人の子供がいるじゃねぇか! お前は何時も言ってたじゃねぇか…… 魂を結びあった二人は死しても、共に逝く事を望んでいた なのに何故、榊原だけこの世を去ったのか解らなかった 魂を結んだ存在はどちらかが息絶えた瞬間、共に逝く事になっている 互いの魂を同化させ結びつけているのだから共に逝かない方がおかしいのだ だからと言って共に逝けば良いと謂う話ではなくて…… 何故、あの二人の魂は切り離されてしまったのか? 朱雀はそれが気になった 共に逝く事しか考えない恋人達は、互いを亡くして正気でいられる筈などないのだ 「………康太……頼むから死ぬなよ……」 朱雀はそればかり願って、少しでも早くと飛んで逝った 三途の河原の手前で朱雀は人に姿を変えた そして三途の河原へと向かう 三途の河原には閻魔の使役、四鬼が待ち構えていた 「お待ちしており申した!」 四鬼の一人が朱雀に深々と頭を下げそう告げた 「閻魔から話は聞いているか?」 「人間の青龍殿を探せと申し使っております」 「なら探せ!少しでも早く探せ! でねぇと炎帝が死ぬ…アイツは伴侶を失って生きて逝く気は皆無だ!」 四鬼は「は!直ちに探して参ります!」と告げて各々分かれて探しだした 朱雀も人を分けて探し回る 彷徨う魂は結構多い 人ってこんなに死んでるのかよ?と想う程に多い 榊原に背格好が似ていると掴まえて確かめる 早く…… 早く…… 探し出さねぇと……炎帝は生きてはいないだろう…… 48時間と謂う縛りもある 気は焦るばかりだった あっちこっちで醜い収奪や諍いが勃発し、騒ぎは大きくなっている そんな人を掻き分けて榊原伊織を探す 四鬼は朱雀よりも早く到着し、榊原を既に探していた 四鬼の使役する鬼達を総動員して捜索していた 「朱雀様、あの御方では?」 やっと四鬼が朱雀の所に来た時には朱雀はボロボロだった 騒動に巻き込まれ追い剥ぎに合い……掻き分け探す 既に辟易していたが、そんな弱音も吐いていられなかった 朱雀は榊原の方へと急いで向かった 榊原はボーッとして川辺に立っていた 「伊織!」 朱雀は榊原の傍に近寄り肩を掴んだ 榊原の瞳は定まらず……虚ろにさ迷っていた 「伊織?どうしたんだ? おい!四鬼、人間って魂が抜けると全部解らなくなるのかよ?」 朱雀は榊原をブンブン揺すりながら叫んだ 四鬼は「その様な事は御座いません!人間は死しても尚欲の塊であり亡者である 聖人は魂の選別を受けて天へと上がる 此処に留まっているのは前世の因業を背負う者達ばかり……その者達は欲望を剥き出しにして……こんな聖人ばりの落ち着きはしていない」と説明した 「なら何でコイツは廃人見てぇな顔してるんだよ!」 「生前、何かをされたのでしょう……閻魔、見ておいでなら…何が解られましたか?」 四鬼がそう言うと閻魔が姿を現した 「洞窟を爆破した者が持っていた爆弾は魔術が施してあった でなければ青龍が炎帝の傍を離れる事は皆無! そして今、榊原伊織は魔牆壁の影響を受けて……一時的に何もかも忘れているのでしょう」 「時間がねぇって解ってる?」 「解ってます……ですから此処にガブリエルをお呼びしたのだ……」 閻魔が謂うと朱雀は顔をあげた すると閻魔の隣には大天使ガブリエルとスワン(桐生夏生)が立っていた 「ガブリエル……スワン…青龍を炎帝の傍に……早く還してやりてぇんだよ…」 だから頼む……と朱雀はガブリエルの前に跪ずいた ガブリエルは朱雀の頭を撫でると、榊原の傍へと立った そしてルーン語で呪文を唱えると蒼白い光に榊原は包まれた スワンが榊原に魔術を施す ガブリエルは榊原の深淵まで出向いて榊原に語りかけた 青龍…… 青龍殿…… 反応がないと更に深淵に向かう 榊原伊織の意識は散り散りに砕け散っていた その散り散りにされた榊原の欠片を拾い集めて呪文を唱え語りかける 青龍……青龍殿…早く目を醒まされよ 貴方の愛する者がこの世を去る前に…… 早く目醒められよ! 根気よく語りかけ榊原の意識を探る “青龍殿……炎帝を救って下さい……” “貴方がいなくなったら炎帝は……自らの命を絶つか…… 誰にも止められぬ破壊神に成り下がるでしょう……” “貴方は炎帝のストッパーではないのですか?” ………てぃ………えん……てい……? 少しずつ意識が戻り始めていた “そうです!貴方がこの世で1番愛する炎帝です 忘れてしまわれましたか?” えん……てい……私が……この世で1番愛する存在? “青龍殿………一時も離れないと口にした誓いはお忘れですか?” ガブリエルの語りかけに榊原の想いが巡って逝く 目まぐるしい早さで想いは駆け巡る 炎帝……君は私の総てです あぁ…私の愛する炎帝…… “青龍殿、意識が戻られましたか?” 炎帝……絶対に離れないと誓ったのに…… 私は何処にいるのですか? 何故傍に炎帝がいないのですか? 榊原は康太の姿を探した キョロキョロ康太の姿を探して……心細くなる ………何故私は炎帝の傍にいないのですか? あれは……夢だったのですか? 炎帝の傍にいると誓った……あれは総て夢だったのですか? 炎帝……何故君は私の傍にいないのですか? 絶対に離れないと誓ったのに…… あれが総て夢だとしたら……… 私は生きてられません…… 康太……康太…… 炎帝……炎帝……炎帝……… 私の命…… 榊原はそう言い涙した あまりにも青龍らしくて…蹴りあげたくなったが、そこは我慢した ガブリエルは榊原の肩を強く掴むと 「私の話を聞きなさい!」と半ば脅しの様に言った 榊原はガブリエルをやっと見た 「私が誰か解りますか?」 ガブリエルが問い掛けると榊原は「熾天使ガブリエル」と答えた 「そうです!ガブリエルです! 貴方の体躯は今、私が作った天使の玉子の中に在ります 早く魂を戻さねば……貴方は死んでしまいます この現状、理解出来ていますか?」 「……はい。理解しました その上でお尋ね致します 我が妻炎帝は…無事なのですか?」 「岩盤が落ちて来る瞬間、貴方は咄嗟に炎帝を庇ったので……無傷ではありませんが命に別状はないです」 「……良かった……」 榊原は安堵の息を吐き出した 「ですが……目が醒めて貴方がいなかったので……炎帝は御自分の深淵の中へ己を封印されてしまいました もう…貴方の声しか聞こえない状況です なので貴方は御自分の体躯に戻られたら炎帝に呼び掛けて深淵から連れ出して貰いたいのです 青龍殿を失った炎帝は世界さえも破壊しそうになった だが……押し留まり……自らを封印した 我が子が暮らすこの地球(ほし)を破壊する訳にはいかなかったのでしょう…… だけど貴方がいないこの世界で生きていたくない…… だから何も聞こえず何も見なくてすむ深淵に逝かれてしまったのです」 「妻を取り戻します! 絶対にこの手に炎帝を抱きます!」 「そうして下さい……」 良かった……とガブリエルは安堵の息を吐き出した スワンは榊原の頬をペチッと叩いた 「絶対に離れないと誓われたのに……何故炎帝を一人にする! 青龍のいない世界など……何も意味を持たないと何故気付かない! 炎帝を……炎帝を……幸せにすると謂ったではないか…… なのに何故……」 スワンは泣いていた 炎帝に貰った命だった 炎帝に仕えると決めた命だった 炎帝が幸せに笑っていてくれれば……それだけで良かったのに…… スワンは白鳥に姿を変えて、クワッと鳴き榊原を突っついた 炎帝を無理矢理抱いて、愛していると言葉を掛けなかった頃、スワンは良く青龍の姿を見ると突っつきに来ていた 榊原はスワンの頭を撫でると 「………スワン……君の主を大切にするので許して下さい」 「絶対ですよ! 絶対にですよ! 約束を破ったら……突っついてやるんだから……」 「絶対に、守ります ガブリエル、僕を体躯に還して下さい そしたら妻を迎えに参ります」 「……頼みます…だけど君達は……意識が戻ったら日本に還りなさい… その傷を治すのが先決です」 「康太が還ると謂うなら還ります」 そうでないなら還らない……と暗に言い、榊原は笑った ガブリエルは榊原に手を差し出した 「私の手にお捕まりなさい」 榊原はガブリエルの手を握り締めた 「では逝きますよ」 そう言いガブリエルは姿を消した 朱雀はガブリエルの後を追って飛んで逝った 真っ赤な明かりが煌々と冥土を包み込む 輪廻の光に照らされて……転生を許されない選別前の魂は消滅した 四鬼は「……よくも此処で朱雀になったな!」と怒ったが後の祭りだった 朱雀は「許せ四鬼!後で帳尻合わせに来る!そしたら消滅した魂を在るべき場所へと導く事にする……だから見逃せ」と勝手な事を言い…飛んで逝った 四鬼は「総てのツケは朱雀にツケとくか!」と言い、やけ酒して飲んだ飲み代のツケも朱雀に回す算段をした 「玄武と白虎を呼んで飲みまくるか」 やってられないとばかりに、その場を他の鬼に任せて、四鬼は羽目を外す為に四龍の一柱の所へと向かった 朱雀はガブリエルとスワンと共に榊原の魂を戻す為に急いでいた 時空を切り裂き突き進んで逝く 榊原の体躯はガンザス山の事故現場にまだ在った 動かすのは危険と天使の玉子の中へと避難させたのだ 康太も榊原と一緒に天使の玉子の中へ入れた 榊原の意識が戻った時、直ぐに語りかけさせる為に、二人は一緒に入れておいた 洞窟の前には堂嶋正義が顔色を変えて駆け付けていた 会議の最中に耳をつんざく爆音が聞こえた その後、地響きが聞こえ、何か大きなモノが崩落する音が続いた 康太と榊原がガンザス山へ向かった後だったから、堂嶋は会議をそっちのけでガンザス山へと車を走らせた オーディーンも異変に気付き、堂嶋と共に飛び出した 堂嶋は車 オーディーンは愛馬スレイプニルで走った スレイプニルは神獣の一つで、主神オーディンが騎乗する8本脚の軍馬だった 天地を駆け巡る馬の早さに堂嶋は「車より馬が早いって……流石神の馬……」と想いつつ 「そんなに早いなら俺を乗せて逝きやがれ!」と叫んだ するとオーディーンは「仕方ないな」と言い車の中に手を突っ込むと、堂嶋を摘まみ出した 「うわぁ!」 驚く暇にオーディーンの後ろに乗せられた 「掴まっておれ! でなくば振り飛ばされてしまうぞ!」 そう言いオーディーンは全力で愛馬を駆け巡らせた ガンザス山中腹の洞窟の前に到着するのは爆音からそんなに経ってはいなかった 砂煙をあげて岩がガラガラ落ちていた 洞窟は岩盤が落ちて入口を塞いでいた オーディーンは硝煙の臭いに 「爆薬を使ったか……となる……最初からそのつもりだったと謂う訳か…」と腹立たしげに口にした 堂嶋は「……中へ…入れないのか?」と言い、洞窟の方へと近寄ろうとした それをオーディーンは止めた 「止めておけ、爆撃で地盤の崩壊が止まらぬ そのうち大きな岩が落ちて来ている 怪我するだけであろうが!」 「康太が中にいる! 伊織が中にいる! 放ってなどおられるか!」 堂嶋はそう言いガラガラと逝くもの岩が落ちて来ているのに、塞がった岩をほじって掻き出そうとした そんな非力な人の力じゃ何にもならないのが解っていても……一刻も早く出してやりたかった オーディーンは洞窟の中を探る様に 「炎帝……青龍……無事か?」と語りかけた 洞窟の中に転輪聖王とガブリエルの気配を感じると呪文を唱えた 堂嶋の手を掴むとオーディーンは洞窟の中へと転移した 洞窟の中は天使の恩恵か目映い光が辺りを照らしていた その中に一際大きな玉子のカタチをしたモノがあり 弥勒とガブリエルと白鳥が前に立っていた 良くみると北極にいるはずの兵藤の姿もあり…… 堂嶋は「貴史……」と兵藤の名を呼んだ 神々の中にいて遜色ない光を放っている姿を見れば、彼も神の一柱だと今更ながらに感じていた オーディーンはガブリエルに 「状況はどうなっておる?」と尋ねた ガブリエルはオーディーンに総てを話した 兵藤はそれを聞き、疑問に想っていた事を問い掛けた 「なぁ、あんで康太と伊織がバラバラになるんだよ? 二人は魂を結んでいる! なのに何で二人はバラバラに飛ばされているんだよ!」 魂を回収して来てやったんだ、ちゃんと教えろと兵藤は一歩も引く気がなく問い掛けた 弥勒が兵藤に一部始終を話してやった 一部始終話して状況も伝える 「洞窟を崩落させる為に使った爆弾には魔術が施して在った…… その魔術によってバラバラに飛ばれてしまったんだと想う…… 我が来た時には伴侶殿の息は止まっていて、康太も虫の息だった 岩盤の下から助け出しても、その状況は変わらず……釈迦に伴侶殿の魂を戻す様に頼んだのだ」 弥勒が兵藤にそう説明すると黙っていたオーディーンが口を開いた 「我等はこの国に到着するなり監禁され処刑される憂き目に遭った 処刑される前に我等は助かったが、助からぬ者もいた その中には“神”もいた あやつらは“神”をも消し去る力を弾の中に封じ込めていた その弾で撃たれた瞬間、神は跡形もなく消滅した…… 神をも消滅させる力を持っていれば、魂を結び付け合った二人をバラバラに飛ばすのも可能な事であろうて……」 淡々と話すオーディーンの話に兵藤は監禁、処刑……と事態の重さを感じ取らずにはいられなかった 兵藤は「“神”をも消せる力を持った奴って…誰なんだよ? そしてそいつは……どうなったんだよ?」と問い掛けた 「奴の名はΧάος! あやつは真祖の力を秘めた神だから……同胞を消すのも容易いであろう……」 兵藤はまさかそこにΧάοςの名前が出てくるとは想ってもいなかったから…… 瞳を見開き……固まった オーディーンは気にする風もなく話を続けた 「そしてΧάοςは炎帝が放った始祖の御劔で刺し抜かれ……吹き飛ばされた どうなったかは炎帝にしか解らぬ事よ こやつは適材適所、配置するが役目の存在 我等が干渉すべきではない」 「………オーディーン……神が神を殺……嫌……消滅させたと謂うのか?」 「そうだ!炎帝と青龍殿は今は人であられる 尚更…神の部分の崩壊に影響が在ったと想う…」 オーディーンが謂うとガブリエルが口を開いた 「オーディーン様の言葉で総ては納得出来ました 青龍殿は御自分を崩壊させてらっしゃった 自我をあんなにバラバラに…こんなの……どうやったらなるのか解らなかった でもオーディーン様の言葉が真実を教えてくださいました 名実共に、青龍殿は消滅させられたのです そして御自分の命でもって彼は妻を助けた だから炎帝は自分を保って生きてられたのですね……」 命を懸けて妻を護った青龍と 目が醒めて愛する人がいない現実に己を閉ざした炎帝 どちらの想いも痛くて、ガブリエルは自分の胸に手を当て握り締めた 心臓をえぐり出される程に痛い… 痛い…… 痛い…… 神よ…… 何故……こんなに愛し合っている二人を離そうとなさるのですか… ガブリエルは天使の玉子の中へと榊原と共に入った 魂を本人の体躯の中へと還す 「青龍殿……目を開けて下さい」 魂を入れられた体躯は心なしか赤みを帯びて、生命を感じさせた うっすら榊原は目を開けた 「青龍殿、私が誰か解りますか?」 「熾天使ガブリエル」 榊原の言葉にガブリエルはホッと安堵の息を吐き出した 「青龍殿、私とスワンが貴方の意識を炎帝の深淵まで送ります ですから……炎帝を………」 助け出して下さい…… ガブリエルは青龍の手を強く握り締めた 「僕の妻が死せる時、僕は生きてはおりません! 共に……それしか望んでないのに……… 今回は切り離され……僕は己さえも忘れておりました 妻の意識が戻ったら……僕は二度と妻を離さないと約束します 僕の命は妻の為にだけに在ります!」 惚気……ですよね?それ、青龍殿…… そんなに大々的に惚気るんですね……青龍殿 だが安心する この二人はやはり一緒にいないと不安で仕方がなくなる 猛烈な愛を囁く青龍には、それを笑って受け止める炎帝がいなければならない 二人は二人でいるから一つになれるのだ バラバラだと互いの欠片を焦がれ……焦がれ死ぬしかないのだ あぁ……性別や種族を超越した愛がそこに在った 神よ…… こんなにも愛し合う二人をどうか…… 引き離したりしないでください 二人を悲しませるなら…… 絶対に……殴り飛ばしてやります…… ガブリエルはスワンと共に、榊原を康太の深淵へと送り出した

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