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第39話 覚醒

榊原はガブリエルとスワンに誘導されて康太の深淵へと向かった 康太の意識と同調させると、榊原は体躯を捨てて康太の意識下にダイブした 康太の中は……“無”だった 何もない 真っ白な意識には何一つ刻まれていなかった 榊原は不安になった 康太にとって…自分は必要のない存在の様に想えた 「康太……何処にいますか?康太」 榊原は探した 愛する存在を必死に探した 康太の深淵に入っていられるのには限界がある そして何度も康太の深淵に入れば……… 康太の精神が狂ってしまうと謂われた チャンスは一度 今、この瞬間しかなかった 榊原は康太の名前を呼び続けた 声が枯れても、名前を呼び続けた 「康太!康太!いるなら僕の前に姿を現して下さい!」 真っ白な世界には何もない 何一つ……刻まれていない 二人で過ごした気の遠くなる程の想い出がなかった 「………康太……康太……僕です…… 榊原伊織です……君の蒼い龍です」 龍?………オレの蒼い龍は死んだ…… 「康太!康太なのですね! 死んでません!生きています」 幻聴が聞こえる…… こんなにもオレは……伊織がいない事を受け入れられずにいるんだな…… 「死んでません! 康太……いいえ、炎帝! 目を醒ましなさい! 君の夫は今、君の目の前にいます!」 見なくないんだ…… 伊織のいない世界なんて……見たくない 榊原は声のする方へと進んだ 絶対に康太がいると信じて進んだ 榊原は康太の言葉が嬉しかった 自分を失ったから見たくないと言った康太の言葉が…… 愛しくて……刹那かった 弥勒は榊原の意識を捉えて見守っていた 見失えば榊原も永遠に失う事となる それだけは……させられない! 青龍がいないこの世に炎帝は絶対に戻りはしないだろ…… 弥勒は必死に意識を留め、榊原を康太へと導いていた ガブリエルとスワンも意識が乱れる事なく意識を集中させていた ガブリエルかスワン、どちらかが集中力を欠かせてしまえば…… 榊原は康太の深淵にはいられなくなっしまうから…… 堂嶋とオーディーンと兵藤は言葉もなく三人を見守るしか出来なかった 歯痒い…… 何も出来ない自分が本当に歯痒かった 誰でも良い…… 力を貸してくれ…… 康太と榊原を助けてくれ…… 三人は祈り続けた 何も出来ないから……祈り続けた すると三人の前に……三人の祈りを聞き届けたかのように、とんでもない人物が姿を現した…… 漆黒の服を身に纏い、足首まであるであろう漆黒の髪を靡かせて……姿を現した 兵藤は「皇帝閻魔……」と呟いた 弥勒はその声を聞いてギョッとなり振り返った 闇の中から涌き出た様な皇帝閻魔の姿を見て 「何をなさりに来たのですか?」と弥勒は声を掛けた 「我が息子、皇帝炎帝が意識を断ったと聞いて来たのだ」 「それ、誰からの情報ですか?」 「閻魔大魔王」 まさか………そこに繋がりが在ったのですか? と問い掛けたくなる展開だった 「ちょうど八仙の所にいたら、閻魔大魔王が来たのだ 炎帝を助けて戴けませんか?と謂って来たから八仙が来ると言っておったが我が来た アレは我が愛する息子……だから…… で、状況は?」 皇帝閻魔が問い掛けると弥勒が説明した 「青龍殿は炎帝の深淵へと向かい、炎帝に呼び掛けておいでだ」 「なれば我も逝こうぞ あの子は我の希望……我の総てなのだ…… 我はあの子の一部であり、あの子は我の一部なのだ逝けるであろうて!」 皇帝閻魔は康太の傍まで逝くと、瞳を閉じて呪文を唱えた 「ガブリエル、導いて下さい」 そう言うとガブリエルは皇帝閻魔を導いた 皇帝閻魔は康太の深淵へとダイブした 真っ白な世界が皇帝閻魔の目の前に現れた その世界は何もなかった 夢も希望も… 己さえも……消し去っていた 皇帝閻魔は何もない世界を見て呟いた 「………お前は……青龍殿がいないと……存在さえする気はないのだな……」 深淵には人の記憶がカプセルになり空間を行き来している筈なのだ だがこの空間には何もない 想い出も…記憶も…想いも… 何もかも消し去らねば己が保てなかったと謂うのか? 皇帝閻魔は我が息子、皇帝炎帝の想いが痛かった 皇帝閻魔もかって愛する人を亡くした 永遠に失う恐怖なら誰よりも理解出来ていた あの頃の皇帝閻魔も正気でなかったのだろう…… でなくば……生まれなかった我が子の体躯と己の血肉を与えて……悲願の前に死した弟の魂を与え‥‥‥ 我が子を蘇させようとは想わなかった筈だ それでも皇帝閻魔は亡くしたくない想いで……我が子を……愛すべき存在を創った 皇帝閻魔の妻は、創造神が7つの地球(ほし)を創る時に出逢った女神だった この地球(ほし)を創る前の出来事だった 皇帝閻魔は緑を司る女神に恋をした 初めて感じる感情だった 女神に恋をして口説いた 何年も何年も口説きまくって、やっとこさ女神が諦めて落ちてくれた 愛し合い……子を成した 子が産まれる喜びを味わった 子の誕生だけが喜びだった なのに………愚かな人間は……核のボタンを押した 地球(ほし)が崩壊した 大地が悲鳴をあげて死に絶えた その時、皇帝閻魔の愛すべき女神も……命を落とした 我が子をこの世に誕生させる事なく……妻は……この世を去った そして共に闘おうと誓ってくれた弟‥‥皇帝炎帝さえも失った‥‥ 皇帝閻魔は愛すべき存在を失って……絶望の日々を送った そして想ったのだ 愛すべき存在を……この手に戻そう……と。 皇帝閻魔は己の血肉を分け与えて我が子に生を与えた 愛すべき妻との結晶 皇帝閻魔は愛すべき存在を……取り戻そうとした ………それだけだったのに……… 蒼い地球(ほし)を創る一柱として呼ばれた その時、創造神は……我が子を奪った “この子と暮らしたいのであれば……お主は魔界を統治して安定させろ お主が冥府に還る時、この子はお主の元に還してやろう” その言葉だけを頼りに……生きてきた 安定した魔界を創る それだけを護る為に死力を尽くした なのに……天魔戦争はおきた 終わらない天魔戦争に日々…心は窶れて逝ったし、荒んで逝った 冥府を統治する時、創造神は約束通り我が子を返してくれた だが…“中身のない”我が子を……手に余していたのは事実だった 冷たい瞳で見る 我が子なのに…… 皇帝閻魔は誰よりも遠く……感じていた 愛する妻との子なのに…… 失敗なのか? あの子は失敗なのか…… だけど今更……どうしろと謂うのか…… 失敗だから……処分など出来はしない そんな身勝手にこの世に生を与えた訳ではない なのに…我が子の暴走を止められず……もて余す だが気付かせてならないと装っていたのに…… 我が子は気付いていたのだ 気付いていたから魔界からの呼び出しに……呼び出され逝ってしまった 誰よりも幸せにしてやるつもりだったのに…… 結果的には我が子を疎んじた だけど何が出来たと謂うのだ? 亡くした妻と我が子の姿を……求めすぎたと謂うのか? あの子を……あの子のまま見た事はなかった 魔界に逝った我が子を想った 何処へ逝こうとも……我が子が幸せなら…と皇帝炎帝の幸せを願った 傍にいられないのは……恐れたのだ 我が子の底のない闇を……恐れたのだ 我が子はそんな父の気持ちに気付いていたのだ 親父殿の誇れる息子になれなくて……済まなかった…… あの言葉が耳から離れなかった 愛しているのに…… その愛を伝える事なく逝かせてしまった あの子に生を与えたのに…… ………出来上がりが違うからと愛を与えなかった愚か者だ私は…… どうやって償おう どうやって……この言葉を伝えよう…… そればかり考えて来た 空っぽの我が子が愛する存在を得て…… 中身を詰め始めたと聞いた時は、嬉しいのと…… 我が子を嫁がせる寂しさに……苦しくて堪らなくなった 愛しい……愛しい我が子よ…… お前にしてやれなかった事が沢山ある お前に聞かせてやれなかった事も沢山ある お前が冥府に戻って来たら…… 話そうと想っている事も沢山ある やり直させておくれ皇帝炎帝よ だから……此処で……消えたりなんかしないでくれ…… 私から我が子を…奪わないでくれ…… 私はもう……お前を失いたくないのだ お前を失えば……生きられる自信がない バカな父だった 本当に愚かな父であった だが誰よりも……お前の幸せを願って止まない父なのだ だから……皇帝炎帝よ…… 父の前に……もう一度……顔を見せてはくれぬか? 頼むから…… 皇帝閻魔は思いの丈を総て投げ出し、康太に問い掛けた 皇帝閻魔は榊原の所まで近付くと 「青龍殿……我が照らすから……どうかあの子の元へ逝って下さい」 と語りかけて来た 「皇帝閻魔……どうして?」 榊原は驚いた瞳を皇帝閻魔に向けた 「我が子を此処で死なせたくはないのです青龍殿 何処にいようとも生きていてくれたら……それでいい そう想って我が子を見守って来ました ですがこのままでは……この子は今……貴殿を失って哀しみの中にいる このままでは体躯は衰弱して……このまま生を終えてしまうしかない この子には子がいるのであろう? その子達の為にも……そして何より愛する青龍殿の傍で幸せそうに笑っていて欲しいのです…… その為なら我は何でもする所存です 我が子の為ならば……この命擲ってもよいと……想っておるのだ」 皇帝閻魔の想いは我が子に向けられ、我が子の幸せだけを望んでいた 「皇帝閻魔、僕は炎帝の傍を離れる気はありません! 今回は不慮の出来事で離れ離れになってしまいましたが…… 僕の傍に炎帝がいない それだけで僕は生きていたくなくなるのです 炎帝も想いは一緒です 炎帝を連れ戻します!絶対に!!」 「伴侶殿……我が子は世界で一番幸せ者だ…… 伴侶殿がいてくれれば、あの子はどんな道でも逝けるのであろう……」 榊原は覚悟した瞳を皇帝閻魔に向けると、前を見据えた 照らし出された先には膝を抱えて丸くなっている康太の姿があった 榊原が忙しくてベッドに入れない時、一人で眠る康太の眠り方は何時も小さく膝を抱えていた まるでぬくもりを探しているかのような眠り方に… 榊原は康太を抱き締め口吻けを送った 目を開けた康太が幸せそうに微笑むから、胸が熱くなった 今まさに……ぬくもりを探している康太を見て…… 榊原は堪らなく康太を愛しいと想った 「康太……迎えに来ました」 なんの反応もない それでも榊原は根気強く話し掛けた 「僕の愛する奥さん、僕と一緒に還りましょう」 そう言い榊原は丸くなる康太の頬に触れた “……誰?” 「君の愛する蒼い龍です」 “………青龍?……” 「そうです。君を迎えに来ました」 “……嘘だ…青龍はオレを遺して死んだ!” 「康太、僕は生きています みんなが僕を生き返らせてくれました」 “………嘘だ……嘘だ……これは都合のいい夢だ……” 「夢じゃありません」 “夢だ……絶対に離れないって言った癖に……” 康太はそう言い泣き出した 榊原は胸が掻き毟られる様な痛みを覚え、康太を抱き締めた なのに康太は離せ!と暴れた “もう夢なんて見たくねぇ… 共に逝くって約束したのに……青龍は一人で逝っちまった…… オレを遺して逝っちまった…” 康太はそう言い嗚咽が漏らして泣いた 「康太……康太………今回は僕も何が起こったのか……解りません…… 君と離れ離れになるなんて……それは僕の本意ではないのです」 “もういい……なにも聞きたくねぇ…… 消えてくれねぇか? 青龍のいねぇ世界で生きていたくねぇんだよ” 殴り飛ばしたい程に頑固で聞く耳を持たない所は康太だった あぁ……本当に…… 皇帝閻魔さえいなければ服をひん剥いて抱き潰して解らせてあげるのに…… 榊原は必死で説得していると、皇帝閻魔が助け船を出すかの様に声をかけた 「皇帝炎帝……我が愛する息子よ」 皇帝閻魔が声をかけると康太は目を開けて見上げた すると視界に皇帝閻魔が入って来て…… 混乱した頭が余計に混乱した 「………親父殿……何で……」 康太は声に出して問い掛けた 「お前が意識を閉ざしたと聞いたから……お前を救いに伴侶殿と共に来たのだ」 「…青龍は……死んだ……」 「お前は元々神だ お前達の次の転生はない ならばお前は魔界へ飛ばされるのではないか? 幾ら意識の中へ閉じ籠ろうとも、青龍殿が向かうべき所は魔界 お前は何故魔界へ逝かなかったのだ? 心の何処かで青龍殿が還って来ると願っていたのじゃないのか?」 「………親父殿……青龍がいない世界では生きていたくなかった…… 青龍の居場所が掴めなかった 伊織の息が止まったのに……何故オレは生きているのか理解出来なかった 青龍のいない世界…… 総てを殲滅してしまおうかと想った オレの世界に青龍がいないと謂うだけで……オレは生きる意味を失った 信じたくなくて……暴走しそうになった だけど……この地球(ほし)には……オレの子供がいる オレ達の子が明日へと繋げて逝く世界を……滅ぼせなかった だけど……認めたらオレは壊れる……」 「だから意識の中へ閉じ籠ったのですか?」 皇帝閻魔が問い掛けると、康太はボロボロ涙を流して頷いた 皇帝閻魔は我が子を強く抱き…… 「炎帝……父はお前の幸せしか望んではおらぬ だからお前の青龍殿をどんな手を使ってもお前の傍に連れて来よう お前と青龍殿が絶対に離れぬ様に、今度は父がお前達の魂を結んでやろう…… 父は……出来る事なら何でもしてやる だから…戻って来なさい炎帝 青龍殿を苦しめてはいけない 青龍殿を失ってお前が生きられないのと同じように、青龍殿だってお前を失って生きてはいられぬのだ 青龍殿の所に戻るのだ炎帝」 「………青龍……青龍……何度も名前を呼んだ…… ずっと……ずっと……呼び続けた… オレは……青龍を失っていないのか?」 止めどなく涙は流れ、康太の想いは堰を切った様に溢れた 皇帝閻魔は榊原の手を取ると、康太の頬に触れさせた 「青龍殿は生きておる 生きて……お前に触れている このぬくもりは……疑似だと想うのか? お前が青龍殿を必要としている様に、青龍殿にもお前が必要なのだ 二人は離れられない存在なのであろう? かって……我が妻を愛した様に…… お前と青龍殿の結び付きも同じであろうて……違うか?炎帝」 「違わねぇ……違わねぇよ親父……」 康太はそう言い榊原に抱き着いた ギューギューと榊原を締め付け縋り着いた この熱は……青龍の熱だった 榊原伊織の熱だった 愛して愛して愛し尽くしてくれた男の熱だった 「………青龍……本当に青龍か……」 「ええ。本当に君の僕です 良かった……永遠に君を無くすかと……怖かったです」 榊原も同じ気持ちでいたのだと解る 「………オレも……怖かった……… オレの傍を離れねぇと言ったのに……気配も感じられなかった…… お前いねぇ世界には一瞬でも生きられないと想った……」 榊原も強く康太を抱き締めた そして自然と唇が重なりあい…… 後は……互いの口腔を貪る接吻へと変わって逝った 皇帝閻魔はいたたまれなかった ゴホンッと咳払いすると 「青龍殿……体躯に戻らねば……ならないって解っていますか?」 「解っていますが……妻を手にすると確かめたいと……離したくなくなるのです」 しれっと謂う辺り性格が大変宜しいのが伺えれる 「それは体躯に戻ってからやられては如何ですか?」 「そうですね! やっと……妻が僕の傍に還りました……」 榊原は心底安堵した息を漏らして呟いた 強く強く康太を抱き締めたまま……榊原は笑っていた 康太も榊原の腕の中で幸せそうに笑っていた 皇帝閻魔は二人を目にして、安堵の息を吐き出した 良かった…… 二人が離れ離れにならずに良かった 炎帝が心を殺したまま……この世を去らずに良かった 我が子が幸せならそれでいい…… 「それでは(深淵から)還るとしようぞ! 青龍殿、炎帝を離さないで下され!」 「解りました!」 そう言い榊原は強く康太を抱いた 皇帝閻魔の光が二人を包むと、意識が朦朧となった 遠退く意識の中で……康太は榊原の力強いぬくもりを感じていた 康太と榊原は皇帝閻魔に導かれ……深淵を後にした 先に意識が戻ったのは榊原だった 康太が目を開けた時に瞳に映るのが自分でありたいから…… 榊原が意識を戻したその後に康太の意識が戻った 目を開けた瞬間、榊原の顔が飛び込んできて…… 康太は榊原の胸に飛び込んで泣いた 子供の様にワンワン泣いて……榊原に縋り着いた 「愛してます康太」 榊原は何度もそう言い康太を抱き締めた 皇帝閻魔は「お主らの魂、我が結び付け切り離されようにしてやろう」と言い呪文を唱えた 二人の体躯がポワッと光ると暖かなぬくもりに包まれた 康太は「………親父殿……悪かった……」とわざわざ冥府から越させてしまった事を詫びた 皇帝閻魔は康太の頭を撫でて 「お前が幸せなら…我はそれだけでよいのだ………だから幸せそうに笑っていておくれ………」 と涙ぐんで微笑んだ 「お前は……嘘かと想うかも知れないが……我はお前の事を我が子だと想っておる…… 愛していた誰か……ではなく皇帝炎帝……お前は我の子だ…… 紛う事なく……我が子なのだ皇帝炎帝」 愛すべき存在なのだと伝えられた 康太は嬉しそうに笑って 「親父殿、当たり前の事を言うなよ 親父殿の子供はオレしかいねぇだろ? 親父殿の血肉を与し子はオレしかいねぇじゃねぇかよ! オレは親父殿の愛を疑った事なんてねぇよ 愛を知らなかった頃ならともかく…… 今のオレは青龍が注いでくれる愛を知った 青龍と共に育てる我が子と共にいれば…… 親父殿がくれた愛を感じる事が出来た 総て、青龍がオレに教えてくれた愛だ」 「………そうであったな……」 「親父殿ありがとう やっぱオレは親父殿の誇れる存在でいてぇと想う…… 親父殿……オレを産み出してくれてありがとう」 そう言われて皇帝閻魔はとうとう泣き出した 「お主が言うと懇情の別れみたいではないか……」 「違げぇよ、オレは産まれて良かったって想うんだ オレはこの世に産まれて来たからこそ青龍と出逢えれた…… 生まれて来なきゃ良かったって想った時もある… 生まれてくるべきではなかったと想った時もある それでも……生まれ来たからこそ青龍と出逢えた だからオレはこんなにも幸せだ オレは……青龍のいない世界では息も出来ない…… 改めてそれを知らされた 絶対に離れたくない 離したくないんだ…」 「なら離れなきゃよいではないか もう大丈夫か?炎帝?」 「あぁ……青龍さえいればオレは生きて逝けるからな……」 「お前の逝く道は険しい修羅の道だ… お前の進むべき道が少しでも安らかである様に…父は何時もお前を照らしているのを忘れないでくれ……」 「親父殿…ありがとう オレも親父殿と青龍と暮らせる日を楽しみにしている だから……まだまだ踏ん張ってくれよ親父殿」 「…父は頑張っているではないか……」 「まだまだ楽するのは早いんだよ!」 「………まだまだ……楽にはなれぬか でもお前が来たら楽させてくれるのだろ?」 「それは無理だな 楽させた途端ボケたなんて嫌だかんな」 皇帝閻魔はガックし肩を落として 「伴侶殿……こんな子ですが末長く宜しくお願いします」 「はい!皇帝閻魔殿!」 「二人はもう二度と離れる事はないであろう……どれだけ遠くに離れていようとも……我は何時もお前達を見守っておるからか」 「ありがとう親父殿……」 皇帝閻魔は康太と榊原を抱き締めて……姿を消した 皇帝閻魔が消えた後も、榊原は康太を抱き締めていた 康太は自分の体躯に戻った途端、強烈な痛みに襲われた 榊原も息が止まりそうな痛みに見悶えた 「………康太……僕達の体躯は相当痛んでますね……」 「んな鮮度のない賞味期限切れ見てぇに言うな……しかし痛てぇな……オレを庇ったんだ お前の方が痛いんだろ?」 康太が言うと弥勒がやっとこさ声を掛けて来た 「康太、大丈夫か? 伴侶殿も大丈夫であられますか? 伴侶殿に至っては、康太を護られたと言う事もあり背骨はボキッと折れて押し潰されておりました ガブリエルが体躯に戻った時に即死は避けたいと、危険な箇所は修復いたしました でも総て元通りの復元は時間が足りないとの事であくまでも応急措置をしたに過ぎない 時間さえあれば完全に治せるかも知れないが、今のこの状況では完全に治すのは至難の技なので……この後病院に逝かれて診察される事をお勧め致します」 勧められても…こっちは殺されかけたのだ 溜飲なんか下がる訳がないのだ 「………何一つ解決してないのに殺され掛けて尻尾を巻いて逃げ帰れと言うのかよ?」 康太は一歩も引く気は皆無だった 「そう言うと想ってた……やはりお前は炎帝だな…… でも動くなら治療は受けろ 伴侶殿は即死だった 命を繋げ永らえたとしてもお前よりは重傷だと謂うのを忘れるでないぞ 取り敢えず、お前と伴侶殿は治療をしろ! その間は我らが手となり足となり動いてみせますので、治療優先にしてくれ炎帝…」 弥勒は100歩譲って治療優先を申し出た 最大限の譲歩なのに……康太はやはり康太だった 「治療は受けるぜ! だがこの腐った国が待っててくれると謂うのなら……入院してやってもいいぜ!」と答えた 弥勒はもう何も言えず…… 「取り敢えず堂嶋、康太と伴侶殿を病院に連れて逝ってはくれぬか?」 「解りました!」 堂嶋は連絡を取ろうと携帯電話を取り出すと オーディーンが「儂がひとっ走りして呼んで来てやろう! 儂の方が断然早い待っておれ!」と言い愛馬に乗って走って逝った 康太は少し落ち着き辺りを見渡した 洞窟の中に北極にいる筈の兵藤貴史の姿を見て 「朱雀を動いたか……悪かったな」と謝罪を口にした 兵藤は康太を優しく抱き締めて 「釈迦が呼びに来たんだよ 本当に驚いた……やはり俺はお前と離れた所には逝きたくねぇよ」とボヤいた 傍にいれば変わってやる事も出来るのに…… 「貴史……心配かけたな……」 「俺のいない所で………死ぬな……」 「死ぬつもりは毛頭なかった…… 何か仕掛けて来るのは解っていた 解っていたけど……相手が総てにおいて予想を超えていた それがオレの敗因だ 勝機が来ていると想って油断していたのかも知れねぇ…」 「オーディーンが牢に投獄されたり処刑されそうになったりと謂っていた…」 「あぁ…正義に傷一つ着けねぇつもりだったが怪我もさせちまった」 「んなハードな事してたのかよ?」 「想った以上に相手の出方が早かった ……それが敗因だな……」 やはり……コイツから離れるのは危険だと兵藤は想った だが康太の言葉は容赦なく…… 「貴史、お前、不法入国だから北極に早く還れ!」 と告げられた 「嫌だ!お前の傍を離れるとロクな事がねぇ!」 「ならさ3日で片付けて来いよ! 3日位オレはこの体躯の痛みを取る為に休養する」 「無茶謂うよぉ…この子は……」 「青龍から今は離れたくねぇんだ…… もう嫌だ……青龍がいない世界では生きて逝けねぇ……」 「お前らは離れるとロクな事がねぇからな絶対に離れるなよ! 仕方ねぇな……3日で片付けてこの国に来るから、それまでは無茶するなよ! その時は黒のいを連れて来るわ そろそろ赤いのと茶色いのも仕事を終える頃だろ? なら3日後、サザンドゥーク共和国に集合って事で伝言しとく」 「あぁ……オレも早く還りてぇな……」 我が子が待つ場所へ……還りたいと…康太は心底想った オーディーンが国連の特使の力を借りて、医療スタッフを引き連れてやって来た そればかりか、堂嶋が捨てた車も回収して来てやったとオーディーンは抜かりなく総ての手筈を整えて来た 康太と榊原は医療スタッフの手によってストレッチャーの上に乗せられ手当てを受けた 爆弾のスイッチを押したガイドは即死だった 遺体は後にスタッフの手によって回収され、運ばれて逝った ガンザス山から爆音と地鳴りが響いた頃、サザンドゥーク共和国にはアラブ諸国連合が介入して来ていた サザンドゥーク共和国の王妃(イルメキシタイン王国の第三王女)は息子共々監視下に置かれる事となった 我が息子は国王になるのに無礼は許しません!と言い張っていたが…… 国に内乱をもたらした王妃の言動は拘束するに十分な材料だと……判断された 後継者は後日、二人の王子と呼び出し、どちらが相応しいか決める事となった サザンドゥーク共和国の内乱はアラブ諸国連合の介入で幕を閉じた だが城の中は派閥がある以上はピリピリしていたが、取り敢えず静観を決めると決めたのか騒ぎ立てする事はなかった サザンドゥーク共和国の後継者問題は第二王子の所在を確かめる事から始まった 康太と榊原は医療スタッフに連れられ、サザンドゥーク共和国で一番大きな王立病院に入院する事となった 検査をするとあっちこっちで骨折が露見し オペと治療と静養で明け暮れる事となった ベッドを並べて取り敢えず入院し治療に専念する事となった康太と榊原は、愛し合いたいのに……痛みに負けて愛し合う事さえままならなかった 「康太……君を取り戻せたと謂うのに……君を抱く事さえ叶いません……」 嘆かわしいと榊原がボヤく 「………伊織、痛みで萎えるからな……ふにゃふにゃじゃ……無理ってもんだろ?」 ふにゃふにゃ……その台詞だけは謂われたくない 妻を愛せないなんて男が廃るのだ! 「康太、僕は何時でも臨戦態勢に入れます ふにゃふにゃだなんて心外です!」 「伊織に抱かれたいなぁ…… 青龍を失ってねぇって全身で確かめてぇ……」 それは榊原も同じ気持ちだった 「では今から…」 「伊織、オレを庇った分、お前の方症状は重い……今は治療に専念しょうぜ」 「解りました……僕も龍の端くれです! こんな傷……龍の神通力で治して見せますとも!」 「………龍って神通力使えるのか?」 今更ながらに康太は問い掛けた 長年一緒にいたが青龍が神通力を使う所は見た事はなかった ………と、謂っても青龍は人の世に堕ちる時に龍の力の源である如意宝珠を置いて来たから龍の力は全く使わず人間として生きてきたから…… あまり龍の事は詳しくは知らなかった 神でも神通力を使うには、それなりに修行と鍛練を積み重ねなければ使えない技だった 「龍は最低でも五千年を蛇として、更に1万年蛟として生きます 龍にれるまで修行の繰り返しです 崑崙山にいる四龍や虹龍がイレギュラーなのです 龍で生まれて来る事態……龍族の危機だったのでしょう それ程に龍族は追い込まれていて、確かな存在を遺さねばならなかったのでしょうが……僕達四龍の兄弟の始まりは4匹の蛇からですから…… 龍になるべく日々鍛練して来たので神通力か使えて当たり前なのです」 成る程 康太は蛇の青龍が見たかったなぁと想った 蛇の青龍 めちゃくそ愛らしいんじゃないか? 蛇の頃から蒼かったのかな? 想いを巡らせる 榊原は黙りこんだ康太に 「………蛇……なんて気持ち悪いだけでしたね」 と言い自虐的に笑った 康太は瞳を輝かせて「なぁ青龍」と話し掛けて来た 「何ですか?」 「蛇の頃のお前って何色してたの?」 …………何色…… 榊原は蛇だった青龍さえ受け入れてくれる言葉をくれて嬉しくて微笑んだ 「蒼です」 「お前らって蛇の頃から龍の色させてたのかよ? 見てぇな……写真かなんか遺ってねぇのかよ?」 「龍は神通力を使えるので石板に念写でその映像を遺す事が出来るので遺っていると想いますよ」 「そうか!蒼い蛇か……見たかったなぁ 胸ポケットに入れてずっと一緒にいられるやん……その頃の青龍に出逢っていたかったなぁ…… 可愛いだろうな…なんかめちゃくそ残念だ」 「………そんな事を言うのは君だけですよ? 蛇の頃の僕達は結構、回りから忌み嫌われていましたからね…… 蛇の色じゃない…石をぶつけられた事だってあります」 「そう言う莫迦は何処にもいるんだな オレは蛇の青龍だって愛せるぜ むしろ悔しい んな可愛い頃を見れねぇなんてめちゃくそ悔しい…… オレはお前の総てを愛しているからな」 「炎帝……僕も君を愛しています」 ベッドの上で包帯だらけで謂っても様にならない言葉だった 榊原はベッドから起き上がると瞳を瞑り呪文を唱え始めた 「蛇の頃の姿の僕には逢わせてはやれませんが、蛇の頃の僕は君に見せてあげます 今宵、君の夢に昔の僕の姿を見れる様に念じました 僕の総ては炎帝、君だけの為に在るのです」 「青龍…何かめちゃくそ嬉しい」 康太は嬉しそうに笑った 病室に八仙が来たのは、そんなラブラブな時の事だった 「………失礼つかまつる……新婚はとうに過ぎたのに全くお熱いですなお二人は……」 八仙はそう言い「ほほほ」と笑った 「八仙、どうしたんだよ?」 急に姿を現した八仙に康太は問い掛けた 「皇帝閻魔殿が息子と婿殿の様態が気になるとやらで様子と治療に遣わされたので御座います」 「大きな損傷はガブリエルが治してくれたぜ?」 「人の体躯と謂うモノは複雑に御座います 薬湯と塗り薬を聖王に託しておきました 少しでも早く治したいのであれば御使用されたしと想っております」 「解った、3日の後に朱雀が来るからな、それまでにはもう少し動きてぇからな……」 「それとサザンドゥーク共和国の第二王子、聖王に託されましたので、我等が治療しておりました 釈迦もその者の寿命を管理してくれおったみたいでな、治療の結果今はお主達よりも元気になった様じゃ で、その者をどうするのかも聞いて来ねばならぬからなお主の所に来たのじゃ」 「3日後、朱雀がサザンドゥーク共和国に来る その時四龍の兄弟も揃うからな仕掛けようと想っている 下拵えはオーディーンがやってくれているからな 後は仕上げをして適材適所配置すれば、この国は果てへと繋がる しかも飛鳥井にも縁がない訳じゃねぇからな……此処で終わらせる訳にはいかねぇんだよ」 「繋がりがあると申すのか?」 「此処の国の大理石はめちゃくそ立派でな 飛鳥井はこの国と直接に取引はねぇけどな、内乱が続けば取引にも影響が出るのは必須……そしたら材料が高騰する それだけは避けたかったんだよ」 なんと謂う言い分…… 八仙は“家”の為に生きている飛鳥井康太と言う人間を想った 総ては明日の飛鳥井の為、家の為 今は人で家の為に生きているが、結局は魔界の為……この地球(ほし)の為に生きている姿は変わらなかった 「そうそう、此処へ来る前に久遠の所へ逝ったのじゃ ついでだったからなお主達の状況を話しておいた で、久遠から伝言じゃ 『怪我して死んでたんだって? 勿論、日本に還って来たら家じゃなく俺の所に来るんだろうな?』との事じゃ」 久遠……飛鳥井記念病院の院長であり鬼医者であった 八仙がその腕に惚れ込んで、人の世を終えたら八仙の一隅に入れるとまで謂わせた人物だった 少し遅れて弥勒が康太の病室に姿を現すと、八仙は「ご苦労であった聖王」と声を掛けた 「用事は二つも三つも溜めてから申し付けるのは止めて下さいと常々申してるじゃないですか!」 と弥勒はボヤいた 八仙は、ほほほほ…と笑って姿を消した 八仙が消えると弥勒は康太に「調子はどうよ?」と問い掛けた 「めちゃくそ痛くて伊織とエッチも出来ねぇ……」 「………エッチは暫し体調を整えてからにしとけ……二人して満身創痍じゃ二次災害とかおきそうだろ?」 弥勒が謂うと康太はじとーっと弥勒を見た いたたまれない…… 「二次災害ってなんだよ?」 「…まぁ…その…なんだ……抜き差しならない状態になるのは困るだろ?」 挿れたまま身動き取れなくなるのは嫌だ 刺さったままの姿を誰かに晒す気はない 「それは嫌だな」 「お主の元に伴侶殿は還って来られた…… お二人は離れることは絶対にない 慌てなくても伴侶殿は逃げはせぬと言う事だ」 「逃げねぇけどな愛は常に確認してぇもんだろ?」 「………我にそう言うのを聞くでない」 そんな愛しい存在など……現れなかった 共に……命が続く限り共に…… そう想ったのは昔も今も炎帝にだけだった だから確認したい愛など持ち合わせてはいなかった 康太は嬉しそうに笑って榊原を見た 榊原は康太を愛しげに見つめると笑った 康太達はアラブ諸国連合のカザイール卿の口利きもあって王立病院のVIP待遇で入院していた 出て来る食事は西洋風で食べやすくなっていた 海の見える高台に建つ病院の最上階のVIP室の窓からは涼しげな風が入り込んでいた 白いカーテンがユラユラ揺れ優しい風を運んでくれていた 弥勒はまだやる事があると薬湯と塗り薬を置いて消えた 堂嶋は毎日、病院に顔を出していた オーディーンは康太と榊原が無事なのを確かめて 『そんなに天界の門を留守には出来ぬからな!』と言い天界へと還って逝った 康太と榊原は3日間、治療に専念して過ごした 医者の治療と八仙の薬湯と塗り薬を取り入れて、何とか歩き回れる程になった 榊原は約束通り、蛇の頃の夢を康太に見せてくれた 円らな瞳をした蒼い蛇の夢を見れて、康太は本当に嬉しそうだった こんなに喜んで貰えると榊原は本当に生まれて来て良かったと想えた 炎帝と出逢う為に自分は生きてきたのだ……と想う 優しい想いは炎帝がくれた 蛇や龍でいていいと愛する人が言ってくれた 榊原の胸は熱くなった 僕は君の為にだけ生きているのです そんな想いが榊原を動かした 榊原は康太が動く以上は動ける体躯にならねば……と想い、回復を早める為封印していた神通力を使った 神通力を使えば天候が荒れるのを解っていたが緊急事態と言う事で力を解放した その結果、サザンドゥーク共和国は雨季の季節以外には雨は降らぬ筈だったが…… まるでハリケーンが襲来したかの様に荒れに荒れた

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