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第41話 締括

康太は総ての下拵えをオーディーンにさせていた オーディーンが天界に還ってからは堂嶋が引き継いでカザイール卿と共に動いていた そして総てのステージを整えて、堂嶋は康太の出番を待った 康太は榊原や仲間と共に評議会へと出向いた その時、隠されていた第二王子も共に連れて逝った サザンドゥーク共和国の国民はこの時初めて第二王子の姿を目にした 王に良く似た雰囲気を纏い、顔は王に、髪は母に……と二人の良い部分を分け与えた様な造形をしていた そして酷く大人びた顔をしていて、第一王子より年上に見られた 第一王子と后も評議会に参加させられていた 評議会の進行はカザイール卿がやった だがアラブ諸国連合と国連の特使の参列は許されたが、介入は一切禁じた カザイール卿は「貴殿らは見届けられよ!」と宣言した 后は総て諦めた瞳をしていた カザイール卿は静寂を切り裂く様に声を高らかに 「これよりサザンドゥーク共和国の内乱の原因の一つ、後継者を選出したいと想います 後継者は前王からの指名と言うカタチを取らさせて貰います」 カザイール卿の言葉に会場にいる人間は騒ぎだした 前王の指名 前王は崩御された筈… そんな事は不可能だと皆想った 「此方におわすお方は今は人で在られるが、魔界の使者であり“神”で在られる炎帝様に御座います 炎帝様が前王を連れて来られたので、まずはお話を聞こうでは御座いませんか」 玉座は空席だった 臨時国会が開かれる会議室には王が座るべく玉座があり、その席は今は空席の筈だった なのに……目を凝らして見ると…… 誰かが座っていた 最初からそこに、ずーっとそこに座っていたかの様に……玉座に王が座っていた 皆が息を飲んだ 皆が信じられないと言葉を失った 王は苦悩に満ちた顔をして座っていた 悲しみに満ちた顔をして座っていた 『皆の者、私の言葉を聞いてはくれぬか? 私は皆が想っている様に死者だ…… だがこの場に来たのはやり遂げれなかった事があるから…… どうか……私の言葉を聞いて欲しい』 前王の言葉が脳に響き渡った その声は確かに前王の声だった 前王は立ち上がると后の前に立った 『私を許して欲しい 総ては……お前を愛してやれなかった私の罪だ……』 前王は后に深々と頭を下げた 「もう遅いですわあなた…… 私はこれより裁かれる身……私は貴方の傍へはもう逝けぬ身なのです」 『后よ……私は生前、お前に愛をやれなかった 私の愛は一生分使い果たしてしまったから……お主を愛せぬと背を向けた 私は一度とお前を見てやれなかった…… お前の想いに応えてはやれなかった……』 后はなにも言わず首をふった 「もうよいのです……」 后は憑き物が落ちたかの様に清清しい顔でそう言った 『后、私と逝こう……貴方が背負う罪ならば私も一緒に背負います それが生前愛してやれなかった貴方への唯一の償いにさせて下さい』 「私は地獄に堕ちます それだけの事をした自覚はあります 私を支配したのは貴方へ向けられた憎しみだけ… 貴方に振り向いて欲しかった ただそれだけなのに……私は我が儘な子供の様に……邪魔なモノは消した 貴方の愛する人を奪ったのは私ですのよ? それでも……その言葉は言えまして?」 『言えるとも……私と共に逝こう…… お主は知らなかったのであろう 彼女は国に還る為に車を運転していた 彼女は私の元を去るつもりだったのだ 愛して愛して愛し尽くした彼女は……貴方を苦しめる存在でいるのは嫌だと国を出る覚悟をした 彼女は私よりも貴方を思い遣り身を引く決意をしたのだ 乗った車が事故に遭ったが、それは貴方の所為ではない 私は……あの車の調子が悪いのを知っていて彼女を送り出した 私の罪でもあるのだ……』 始めて聞く言葉だった こんなに長く話す事すら始めてだった 夫婦と謂えども形だけの存在だったのだ 「私は貴方を殺しました 貴方は御自分を殺した存在と共に逝けるとお想いなのですか?」 后は最期の最後で夢の様な時間を送れて……それだけで満足していた 『貴方が私を殺すだろうと想っていました 私は貴方に殺されてやろうと想っていました それが貴方を愛してやれたなった贖罪になるなら……そう思っていたのです 生きているうちに、歩み寄れば良かったのですね でも歩み寄るのが遅すぎました 私は……この命でもって貴方を救いたかった でも貴方は救われてはいない だから共に逝こうと言っているのです』 「………愛されてないのに……愛していないのに……共に逝こうと言う…… 貴方は本当に……酷い人ですね 総ては私が悪いのです 総ては私の独断でやった事です 第一王子の命だけは……助けて下さい」 后は母だった お腹を痛めた我が子の命の嘆願をする母だった 第一王子はまさか……自分の命の嘆願をするとは思っていなかった 何処かで母の狂気を知りつつ 見てみぬフリをした 卑怯で弱虫な自分に王の座は到底無理なのだ 第一王子は「僕は……継承権を放棄します」と口にした 前王は『我が息子よ早まるでない』と止めた 『まだ私が后との話の途中なのです』 后は「話す事はありません」と収集がつきなさそうになって逝った 仕方なく康太は出るしかなかった 「前王さ、おめぇ最愛の人は良いのかよ?」 『彼女とは冥土で出逢い話がついております! 彼女はやはり后にこの先の総てを使えと言ってくれました 『今度生まれ変わったなら王とだけは恋はしないわ!』と言い輪廻の輪に加わりました 私はこの世でやり残した事がある それは后に背を向け貶めた行為です 振り返っていれば……貴方をそこまで苦しめはしなかったのですか? 后、私を許してくれとは言いません だけどこのまま逝くのは……逝かせるのは嫌なのです どうせ処刑されるなら、その体躯を傷付けたくはないのです 私と共に逝きましょう 私の手を取れば貴方の命は断たれます 炎帝様がその様にしてくださいました 后……頼むから…そんな悲しいまま逝かないで下さい』 前王は必死に后に話し掛けた 后はずっと恋い焦がれた人を見た そして前王の手を取った 后の体躯が崩れ落ち……床に落ちる瞬間、魂が抜け后は息を引き取った 霊体となり后は前王の横に立った 后の遺体は速やかに別室に運ばれて逝った 前王は『それでは最期の仕事を致します』と言い、後継者問題に決着を着けるべく口を開いた 『王位は第一王子に譲る!』 場内はざわついた 第二王子は安堵の息を着いた 第一王子は「辞退致します」と王位を辞退した それに反論したのは何と第二王子だった 「何で辞退されるのです? 王位継承権は前王の指名とあります」 だから貴方が王位を継げと第二王子は言葉にした 第一王子アズィームは「母は罪を犯しすぎた……その子供が王位を継ぐのは間違いです。王位継承権は第二王子ルーチェに在ります ルーチェ王子は第二王子と謂われてますが、年は僕よりも上……ルーチェ王子が継ぐのは正当だと想います」と答えた 康太は「だってよ?ルーチェ」と問い掛けた 「困ります!王位なんて要りません 僕は……アズィーム、君を支える補佐官になれればそれで良い 父君が良く言っておいででした 『アズィームが王となったらルーチェお前はアズィームの光となれ 二人でサザンドゥーク共和国を正しく導いてくれ』と。 それが父の望みでも在るのです」 「だとよ、第一王子アズィームどうするよ?」 「……僕は……死ぬべきだと想います 母も逝きました ならばこの国の悪政は断つべきでしょう 炎帝様……貴方はイルメキシタイン王国の国王と王女を処刑なされたのですよね? なれば僕の血はこの国に必要な血だと想います どうか……処刑される事を望みます」 アズィームが言うと后は泣き崩れた 罪を作ったのは自分なのだ 前王は泣き崩れた后に寄り添った アズィームは母には父がいると想うとこの命はもう必要がないと想われた 康太は自己犠牲で完結させようとしている王子様に声をかけた 「第一王子アズィーム、お前はまだ死ねねぇぜ? 此処に輪廻を司る神、朱雀がいる 彼に問い掛けられよ」 ぐちゃぐちゃ面倒くさいから康太は兵藤に放り投げた 兵藤はそれを知ってて……仕方ねぇなと朱雀に姿を変えた 人の目の前で兵藤は紅蓮の炎を身に纏う朱雀に姿を変えた 『人の子よ、我に何が聞きたいのだ?』 「僕の命は……此処で何故潰えないのですか?」 『炎帝、力を貸せ!』 朱雀はそう言うとアズィームの果てを脳に投影させてやった 『人の背負う荷物と運命は既に決まっている 道は切り開かれるものだが、ある程度の下拵えはされていた それをどう生きるかは己次第だ お前はどう生きるのだ?』 朱雀はそう言うとアズィームが送るであろう人生を視せてやった それを紡ぐのは炎帝、彼の瞳だった 彼の瞳が視た果てを朱雀が紡いでアズィームに視せた アズィームはサザンドゥーク共和国の王になる未来を持っていた 国民に愛される最期の王になる未来を持っていた 朱雀は想う アズィームが次代の国王なら、何故ルーチェの命をあんなに必死に守ったのか? 朱雀はルーチェが次代の国王になるんだと想っていた 炎帝が紡いだ未来をアズィームに投影する その果てに国王となるアズィームと寄り添うルーチェの姿があった ルーチェはサザンドゥーク共和国の秩序であり未来だった サザンドゥーク共和国を照らし続ける光だった ………だから必死にその命を守ったのか…… 朱雀は納得した 果てを見せられアズィームは涙を流していた 朱雀は鳥から人に姿を変えた コキコキ首を動かし 「人使い荒すぎだろうが!」とボヤいた 康太は「すまねぇな今度奢る」と言うと兵藤は「仕方ねぇな」と嬉しそうに笑った 康太は立ち上がるとアズィームの前に立った 「サザンドゥーク共和国、次代の国王はアズィームで意義はないな?」 と評議会に参加している皆に問い掛けた 今更……意義など唱えられる人間などいないのを知っていて…… 康太は問い掛けたのだった 誰一人異議を唱えなかったので次代の国王はアズィームに決定した 康太は新国王となるアズィームに 「アズィーム、お前の名前はアラビア語で『偉大』と言う意味を持つ ルーチェは、ドイツ語で光 偉大な王を照らして道標を示す存在となる 二人は生れた瞬間から未来は決まっていた ルーチェ、アズィームの兄として弟を導く道標となれ!」 ルーチェは驚いた瞳を見せ、そして嬉しそうに笑った 「それが私が生かされた運命なのですね?」 「あぁ、お前はサザンドゥーク共和国にはなくてはならぬ存在となる 最期の国王となるアズィームを支えて逝かれるが良い」 「最期の国王?……アズィームはサザンドゥーク共和国の最期の国王となるのですか?」 「それがこの国の運命 そこへ導くのはお前とアズィームだ!」 「そうですか……ならばアズィームと二人、大海原に抗い生きてみようと想います」 「頑張れ、オレは何時でもお前達の味方だ」 ルーチェはアズィームの傍に逝くと 「宜しく私の王様」と手を差し出した 「……宜しく……兄さん」 アズィームは兄の手を取った サザンドゥーク共和国の王位継承権が決定した瞬間だった 「で、此処で本題に入って良いか?」 康太は総てを見届けて、本題を切り出した その為に前王も黄泉に還さずにいさせてあるのだ 「サザンドゥーク共和国で採掘されたウランに相当する石は、何処にあるのよ?」 やっとこさサザンドゥーク共和国まで来た本題に入れた 前王は表情を曇らせた 『そのお話をするのであれば……人払いをお願い致します』 そう前王が言うので評議会は一時解散となった 康太は別室へと移った 別室に移ると弥勒とガブリエルも姿を現した 弥勒は「盗み聞きされても困るからな」と言い、その空間を崑崙山と繋いで結界を張った 崑崙山には八仙も待ち構えていた 康太は「んじゃ準備は整ったし聞かせて貰おうか?」と問い掛けた 前王は『あの石は……半分もこの国には遺ってはおりません』と真実を告げた ガブリエルは「それはどう言う事ですか?」と問い掛けた 『あの石を採掘したのは偶然に御座いました! 一ヶ所だけ岩盤の壁が光輝いていたのを不思議に想った作業員が採掘致した かなり大きな黒い岩の塊が採掘出来ました 何の石か解らぬ故に我の元へ持って参りました その石は暗闇で目映い光を放っておりました 電気を遣わずともその石さえあれば困りはせぬ そんな想いで石を手にしました その頃から……イルメキシタイン王国の国王が石を寄越せと煩く言って参りました 半分は……イルメキシタイン王国に持って逝かれました 後の半分は……ルーチェ……お出ししなさい』 前王が言うとルーチェは手袋を外した すると手袋の下は真っ黒の手が見えた ルーチェはその手を取り外し、康太の目の前に置いた ルーチェは「その石は狙われておりました。なので僕の手と交換致しました」と常に身につけ石を守ったと告げた アズィームはルーチェの手を痛々しく見た 「………兄上……その身を呈して護られたのですか……」 何と言う事を……とアズィームは心配して言葉にした 兵藤は「近いうちにお前に義手を作ってやる! 今の義手は人工知能を内蔵しているから本当の手の感覚で動いてくれる筈だ」と高性能な手を約束した 康太はルーチェから渡された義手のカタチをした石を受け取り 「弥勒、この石を預かっていてくれ!」と弥勒に頼んだ しかし……半分か……半分はイルメキシタイン王国が持って逝った イルメキシタイン王国には石はなかった すると既に……他の手に渡ってしまっていると謂う事なのだろう 「発掘現場は何処だったんだよ?」 『ガンザス山の更に向こうに聳える山でアウガンザス山と言う所で採掘されました ですが、一度きりの偶然にも似た採掘でした あの後何度も調べたのですが……同じ石は発見されませんでした で、我等はこの石を危険とみなし、発掘現場は爆破で入口を封鎖しました こんな石は……この世に出て良い筈はありません』 「王、ご苦労だったな」 『いいえ。貴方には私の願いを叶えて貰いました……何もお返しは出来ません なのでお役に立てて本当に良かったです』 「王、后と共に逝け! 今度は……間違えぬ様に逝くが良い」 『はい。ありがとうございました』 前王は后と共に………消えて逝った この二人はこれより冥土に渡り、長い長い時を掛けて成仏の道を辿る 一歩歩く毎に罪を背負い贖罪しながら歩く事を選んだ 苦しい道になると解っていて、前王は后と逝くのを選んだ 康太は石を確保してサザンドゥーク共和国にいる役目を終えた 「ふう……一つ片付いた」 そう呟き、榊原を見た 榊原は康太を引き寄せ旋毛に口吻けを落とした 弥勒が消えると結界は解かれた もとの部屋に戻る 康太はルーチェを視た 若き指導者はイルメキシタイン王国にも光を降り注ぐ救世主となる 道祖神の様に過ちを刻み付け、間違わない様に道を照らす存在となる 康太はルーチェとアズィームの手を取ると、手の甲に口吻けを落とし 「二人の行く道が光に満ち溢れています様に……」と言葉にした ルーチェとアズィームは深々と頭を下げて 「「ありがとうございました」」と礼を述べた 康太はカザイール卿と何やら話して、カザイール卿が深々と頭を下げると、離れて榊原と共に部屋を後にした サザンドゥーク共和国に来た目的は達成された 評議会を終えた後、康太と榊原は病室には戻らずホテルを取った 榊原と康太の部屋には一生達がいた まずは一生と地龍からの報告に目を通していた NASAに逝き、宇宙から地球を断面図にして測定した 何度測定しても地球には異常は見付からなかった 空洞と言う訳ではないのか? 調べる術はないから解らないが、取り敢えず宇宙的な観測では地球は正常だった 次は兵藤 兵藤は南極と北極、どちらにも出向いて調査をした クレーター洞窟の中をリコモンの車で走らせ探索した 結局、行き止まりまで逝くのは至難の技として計測は出来なかったが…… クレーター洞窟の中は岩が落ちる音も危険を計測する音もなく取り敢えずは危険度はないと下した 康太は報告書を見て 「早急な対策は今の所ないみてぇだな」と安堵した声で言った となると康太と榊原の調査結果 「サザンドゥーク共和国で見つかった石は半分はイルメキシタイン王国が持って逝ったが、その後は行方も解らない 発掘現場は爆破で入口を封鎖され今後の発掘は困難になったのは救いだが…… 石の悪用がねぇ訳じゃねぇ これより天界、魔界、人間界で石の検査を図ろうと想っている 石の弱点やどんな使い道が出来るのか? 何故にあの石は存在したのか? それらを調べて逝かねぇとならねぇと想う 弥勒は既に動いてくれている それも調査の結果待ちと謂う事だ」 康太が報告を終えると兵藤は 「これからどうするのよ?」と問い掛けた 「オレはまだアラブ諸国でやる事があるんだよ 還りてぇけど今還ればオレの果てが狂う事となるかんな対処しねぇとならねぇんだよ」 「そうか……ひょっとして若旦那の件か?」 「そうだ…」 康太が呟くと堂嶋も「海賊に拿捕された船の件か……それも依頼されてたわ まだまだ還れねぇな」とボヤいた 堂嶋が言うと一生が 「三木が呼び戻しの召集を掛けられて日本に戻ったんだよ でも三木が戻れば正義はまだ残ってても大丈夫だろ?」 と慌ただしい強行軍でNASAから日本へとんぼ返りとなった三木の事を言った 本当なら一生と共に来たかったろうに…… 堂嶋はそれでこの地に三木が来なかったのか……と納得した 康太は「還りは若旦那も一緒に……って事で片付けて来るか!」と若旦那の傍へ逝く事を告げた 一生は「一緒に逝くぜ!」と早々に告げた 兵藤も「此処で潰して良い企業じゃねぇからな、生かす手伝いはしてやるよ」と一緒に行く事を告げた 「だが若旦那の今回の件はかなり厄介な事になると想う ソマリア海峡の海賊がアラブ諸国の海に出没して平然として船を拿捕したんだからな ソマリア海峡は海賊を危惧して遠回りする船まで出て来たからな でばって来たんだろうけど……今回はトナミ海運だけじゃねぇ 赤蠍商事の船もやられた 見逃しておけば…次から次へと際限なくやる気だからなアイツ等……」 厄介な話だった しかも相手は常識が通じない海賊だった 「海賊野郎に正攻法では勝ち目はない ……どうしたもんかな?」 勝手が違うから康太は対策を打とうにも良い案が浮かばなかった 堂嶋は「海賊問題も国連の悩みの種なんだよ……取り敢えず俺は国連の本部の方に顔を出すとする 途中で合流と言う事で良いか?」と、まずは情報収集する為に国連の本部の方に顔を出して来ると告げた 康太は「了解!一生の携帯に逐一連絡を入れてくれたらオレの居場所は解るだろう」と別行動だけど連絡は取れると伝えた 堂嶋は国連の本部の方へと向かった 康太は途方に暮れているであろう戸浪の気配を辿り、ホテルを後にした 戸浪は康太達がいるホテルからそんなに離れていない場所にいた 万策尽きて、動く気力さえなくしていた 康太はそのホテルへ戸浪を尋ねて逝った 突然の康太の訪問に戸浪は驚きつつも、安堵した顔をした 「悪かったな若旦那 別行動は心細かっただろう?」 「……はい……でも貴方には本来の目的が在ったのですから仕方がないです 私達が君の用事に便乗したも同然ですから」 「少し片付けねぇとならねぇ事があった 途中、オレの伊織が死んだりしたからな 総てを片付けるのに時間を要した 悪かったな」 康太はサラッと言った だが戸浪は聞き逃さなかった 「伊織が死んだりしたから……って謂われましたが……どういう事なのですか?」 「………言葉の通り、伊織が死んだんだよ オレは伊織のいない世界に生きたくなくて意識を遮断して深淵に閉じ籠っていた」 「……康太……伊織……大丈夫なのですか?」 「あんまし体調は良くねぇからな……正攻法じゃなく強行手段を取って……日本に還る事にする」 「……体調が良くないなら……」 安静になさって下さい……と言いたいけど言えなかった 康太は戸浪の為だけに来てくれたのだから…… 「ドゥバイの王太子に逢うつもりだ アラブ中東諸国連合の大老と逢う そして突破口を引き摺り出してやる!」 ドゥバイと言えばアラブ諸国連合を構成する首長国のひとつで勢力も権力も絶大の国だった そこの国の王太子に逢うと言うのか? そんなに簡単に逢えると謂うのか? 戸浪にはもう訳が解らなかった 「王太子カラフ・ジャッシムはサザンドゥーク共和国に来て貰っている… 王太子も海賊問題には頭を抱えていた 大老は海賊を黙らせる力を持っているが見て見ぬフリをしてやり過ごしている そろそろ決着をつけねぇとならねぇ時が来てるんだよ その為の堂嶋正義なんだよ」 ますます訳が解らなかった 疲弊した戸浪の頭には何も入っては来なかった 「若旦那、赤蠍商事の円城寺には連絡を取ったのかよ?」 「連絡が着きませんでした」 「赤蠍商事の船も被害に遭ってるんだよ だから動くなら一緒に動いた方が効率が良いんだって想ったんだよ 岸谷グループの岸谷愛連会長に動いて貰っている 岸谷会長は経団連の副会長であり、若旦那達の運輸関係のトップだ、知っているよな?」 「…岸谷会長は知っております」 「岸谷会長は総て根回しを水面下でしてくれている 海賊に拿捕された船の返還要求と今後倭の国の船には手を出させない保証を得る為 だから倭の国は他国とも手を結び事を進めている 若旦那、トナミ海運だけの問題じゃねぇんだよ」 「……トナミ海運は信用を失墜した… 失墜した海運に荷物を預ける依頼者はいなくなる…」 「だから世界へメディアを使って現状を発信するんだよ 明日、世界各国の報道関係者がサザンドゥーク共和国に来る事になっている 若旦那は円城寺と共に現状をぶちまけろ! メディアを味方に着けて世界を動かせ! そうすればトナミ海運の名は地に落ちる事にはならねぇ!」 そこまで考えられて動いていたのかと…… 戸浪は言葉もなかった 船が拿捕され、会社の信用の失墜だけは……と躍起になるだけで何も……何一つ動かす事が出来なくて無力だと感じていた このままでは会社が…… そう想って足掻けば足掻く程身動きが取れなくなっていた 戸浪は……飛鳥井康太にまた命を救われる事になった 自分では何一つ解決出来なくて、如何に自分が無力なのかと想い知らされた 「取り敢えずは明日だな 明日を迎える為に飯でも奢ってくれよ田代」 康太は何でもない風に謂うと田代は現実に引き戻された 感情が戸浪に引き摺られて落ち込んでしまっていたのだ 「何か…食べるモノと申されますと?」 勝手の効かない国で何を食べさせろと謂うのか? 田代は途方に暮れた 「サザンドゥーク共和国の上手い食い物……オレも知らねぇからな 何処が上手いか電話して聞いてみるわ」 康太はそう言うと電話を掛けた 榊原はひょっとして……と想った 「アズィーム、オレ、飛鳥井康太 飯食いてぇんだけど、この国で何処が美味しいか知ってるか?」 ………やっぱり……そう来ましたか…… 榊原は冷や汗ものだった 康太は親しげに何やら話して、電話を切った 「伊織、美味しい料理を食わしてやるから宮殿に来いってさ」 康太は嬉しそうにそう言った 榊原は流石に…… 「………毒さえ盛られなければ…何処へでも行きますが……」 流石に毒を盛られそうな所へは行きたくなかった 「大丈夫だろ?」 「……なら逝きましょうか」 「車を寄越してくれるって」 「そうですか」 「今夜は王宮に泊まれってさ」 「そうですか」 「そしたら明日の朝は王宮に尋ねてくる王太子に逢えるな 王太子に逢えれば古狸の大老にも逢えるからな一石二鳥だな」 康太はそう言い笑った 風のない部屋なのに康太の髪は風に靡いていた 康太は勝機を呼んだのだ もう後戻りは出来ないと榊原は腹を括った この先、何があろうとも一緒ならば越えて逝ける 一緒なら……共に逝ける 榊原は覚悟を決めた瞳を康太に向けた 康太は榊原を見上げると嬉しそうに笑った 「お前がいてくれるならオレは生きて逝ける……」 「僕も君を離さなくて良いのなら生きて逝けます」 二人は自然と唇を引合せ口吻けをした 何時もの光景だった 「んじゃ、迎えを待つか!」 康太が言うと戸浪は己を取り戻した もう弱気な戸浪海里ではなかった 己の道を確りと踏みしめ先へ逝く覚悟の顔をしていた 引き返す道はもうなくなった 康太と榊原、一生、兵藤、黒龍、地龍、戸浪、田代はホテルの下へと下りて車を待っていた そんなに待つ事なくリムジンが到着して、康太達は車に乗り込んだ リムジンはサザンドゥーク共和国、王宮の中へと吸い込まれるように入って逝った 王宮の玄関には二人の男性が使用人と共に立っていた 康太は車から下りると二人の男性の前に立って「急に電話して悪かったな」と声を掛けた 二人の男性はにこやかに康太と話をしながら王宮の中へと入って逝った 戸浪と田代も使用人に促され一際豪華な貴賓室へと通された 康太は晩餐の席に既に座っていた 「若旦那、此方がサザンドゥーク共和国国王アズィーム様と摂政のルーチェ様だ 今後、トナミ海運はこの御二方と切っても斬れぬご縁が出来るであろう」 康太が言うと戸浪は立ち上り「トナミ海運社長 戸浪海里です。以後お見知り置きを!」と自己紹介した アズィームとルーチェは「「宜しくお願いします」」と挨拶した 戸浪は国王と聞かされ緊張しまくっていた 康太はアズィームに何でもない日常会話の様に 「明日、世界各国の報道関係者がサザンドゥーク共和国に来る だからなアズィーム、お前の戴冠式も世界各国へその時に流しちまった方が良いと想ってな どうよ?ルーチェ、お前はどう想う?」 本当に簡単に話をした ルーチェは「それは好機に御座います」とチャンス到来、千客万来と喜んだ 「と言う事だアズィーム、明日はお前の戴冠式をやる! 手筈はガザイール卿が整えてくれている 後はお前が王冠を授与されて世界に国王の誕生を伝えれば出来上がりだ」 アズィームはそんなに簡単に謂われても……と苦笑した でもある意味波に乗った今、流れに任せて逝くしかないと想っていた 波が停滞すれば先に進むのは困難 世界に知らしめる好機だと想った 「この国とイルメキシタイン王国は友好を築かれ姉妹都市になられよ! それがイルメキシタイン王国の“血”を引き継いだ貴方の使命でもある! イルメキシタイン王国は一度解体する必要があった 国王は誰よりもそれを解っていた 今頃、国王はお前の母とも逢っている筈だ 黄泉に巡り逢わせられる様に頼んでおいたからな 国王の望み…愛する妻と我が子と共に……と言う願いは……生きていては叶えられなかった だから必要な“血”として逝って貰った お前はイルメキシタイン王国最期の“血”を引き継ぐ者だ この国と同じ様にイルメキシタイン王国も導いて逝け! その為にお前にはルーチェ、光となる人間を与えられたんだからな」 この為に生かされたんだと実感する この為に自分の命が使命を得ていたのだ アズィームは「はい!」と返事した 「明日はドゥバイの王太子も来るからな 友好は結んどけ! アラブの小国が光輝く時、人の目は光輝く方へと向けられる この国は美しい イルメキシタイン王国とサザンドゥーク共和国 どちらの国も美しい芸術を秘めた国だ どちらも共存と言う道を選んで高みへと上って逝ってくれ!」 ルーチェは涙ぐんでいた 自分の居場所はちゃんと“此処に”在ったのだ この夜の晩餐はアズィームとルーチェにとって最も重大で楽しい時間だった 晩餐が終わると用意された部屋に分かれて泊まった 康太は榊原と同じ部屋だった 何となく聞きはしないが二人は恋人同士なのだと……解っていたから同室にした 戸浪は皆で泊まりたいと言ったので、一生や兵藤と四人部屋へと通された 過酷な一日がやっと終わった

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