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第44話 兆し
今枝が大老と共にインシャアッツラー国へと旅立ってすぐ、康太は榊原と共に崑崙山へと渡った
イルメキシタイン王国とサザンドゥーク共和国は新国王の手によって友好を結んだ
二つの国は互いを支え合って共に逝く未来を手に入れた
両国はもう大丈夫だった
暗い影も内乱の火種になるモノも何も感じ取れなかった
問題の石は調査中
となるとサザンドゥーク共和国でやる事は何もなかった
戸浪は赤蠍商事の円城寺に託した
同じ問題を抱えている者同士、協力しあって解決するのが得策だと、戸浪を送り出した
その足でホテルを引き払った
一生達には「ちょっと八仙に逢って来るわ!」と告げた
一生は「なら俺らも崑崙山に逝くわ」と言い、一緒に逝く事となった
一生達は榊原の体調が芳しくないのを感ずいていた
だからこそ八仙に逢い治療の手だてを考えるつもりなのだろう
榊原は自分の体躯が思い通りに動かないのを感じて苛立ちを感じていた
死ぬ程の怪我をしたのだから…仕方がないと謂えば仕方がない事だった
死ぬ程の怪我を負った体躯が前と同じ様に動く訳などないのだ
康太はもう二度と榊原を…青龍を無くしたくなくて…
榊原の傍を離れたがらなかった
二人は限界が来ていた
康太は榊原に「…八仙に逢いに逝かねぇか?」と持ち掛けた
康太の不安が手に取る様に解る榊原は、それを受け入れるしかなかった
魂を結んで死しても離れないと誓ったのに……
今回はイレギュラーな事が起きたと言っても、康太を置いて逝こうとしてしまったのだ……
榊原にだって不安はあるのだ
もう少し疲れない体力も欲しかった
でなくば夫婦の危機でもあるのだから……
打開策は必要なのだ
康太と榊原、一生と兵藤は崑崙山へと向かった
崑崙山の八仙の所に顔を出すと、先客が茶を飲んでいた
八仙は「そろそろ来られる頃合いかと思っておりもうした」と出迎えてくれた
「………やはりお見通しか……で、久遠を用意してくれたのかよ?」
八仙の所で優雅に茶を飲んでいたのは、飛鳥井記念病院 院長の久遠だった
「よぉ!死んだんだって?」
怒りマークを額に張り付けて言う姿は……どこから見ても久遠だった
「……久遠…先生…」
「ほれ、みせてみろ!」
久遠はさっさと前に座れ!と眼光を飛ばして来た
榊原は仕方なく久遠の前に座った
服を脱いだ榊原の体躯は……ガブリエルに治療を受けたと言っても完治はしておらず薄く傷跡が浮かび上がっていた
「上半身の骨がポキポキに粉砕され岩盤に押し潰され……圧迫死……だったとか?」
「……はい…不測の事態でした」
「んなの予見ばかり出来てる方が怖いだろうが!
で、骨はガブリエルが治したのか?」
「はい。傷んだままだと魂が入ったとしても、死ぬしかないですから……」
「大量に血が流れましたか?」
「傷から見ると僕も康太も……かなり血が流れたみたいです」
「………体躯の外見はそこまでの傷は残ってはいない
と、すると……輸血、受けてないんだよな?」
「病院に運ばれた時は軽傷になってましたから……」
「なら日本に還って検査を受けて治療をした方が早いな……
此処ではちゃんとした治療を出来ません
一旦還られては如何ですか?」
久遠に謂われて榊原は康太を見た
康太は「…このまま日本に還ったら不法入国になるじゃねぇか……」と呟いた
「ですよね?サザンドゥーク共和国に還って手続きを取って還りますか?」
「…それだとお前の体躯が持たねぇだろ?」
そこまでの長時間の移動は……身体的に無理だと想った
「…ですね…」
康太を抱く体力さえない今の現状では…
長時間の飛行なんて皆無に等しかった
久遠は「んなのはどうとでもなるだろ?
今は治療を優先にしろ!
康太、お前も死にそうなツラしてる
病院の個室を取ってあるから治るまでそこで過ごせ!
入国の手続きとかは何とか出来る奴に何とかして貰えば良いじゃねぇか!」
そう言われたら…言う事を聞くしかなかった
兵藤は「お前ら日本に還れ!手続きは俺が正義を動かしてやっとくわ!
どっち道、政府専用機での帰国だからな、融通なら付けられるだろ?」と言った
「それは心配していねぇけどな……
今枝を逝かせてるのに……俺等だけ還る訳にはいかねぇ……って気持ちの方が大きくてな……」
「なら今枝が総てを終わらせて還って来るまでには俺が残ってやんよ!
今枝もお前の指示がなきゃ還って来ても動けねぇんだから、お前は治す事に専念しろ!」
「ありがとう貴史……
なら予定通り休養を取る事にするわ」
「そうしとけ!
今枝が総てを終えて還って来たら、(運命は)動き出す
その時までお前達は治療に専念する事だけ考えていろ!
お前が軌道修正せねば軌道には乗らねぇんだからよぉ!」
「貴史……頼む」
「お前は赤いのの頭に乗って病院に直行しろ!
俺はサザンドゥーク共和国に逝って正義と合流する!」
兵藤が言うと榊原は「何かあったら必ず連絡を入れて下さい!
……一瞬の隙が命取りになる事もあるのです油断はしないで下さいね!」と釘を刺しつつ頼んだ
それほどに体調が優れないのだろう
一生は八仙の屋敷を出ると、龍に姿を変えた
久遠は「話は着いたな!なら逝くとするか!」と立ち上がった
普通の人間なら龍の頭に乗り込むのは勇気があっても怖いものだろうに……
久遠は顔色一つ変える事なく赤龍の頭に乗り込んだ
そして康太と榊原に手を貸してやった
兵藤は全員赤龍の上に乗るのを見届けて朱雀に姿を変えて飛び立った
赤龍はゆっくりと上昇して気流に乗った
赤龍の頭の上で久遠は煙草を咥えて
「ガブリエルとやらにも話は聞いた」と言った
八仙はガブリエルを呼び出し、どんな状況だったのか久遠に総てを伝えていた
榊原は「(迷惑かけて)すみませんでした」と謝罪した
康太は榊原に縋り着いていた
片時も離れない姿を見ると精神的にかなり来ているのが伺えれた
「人は自分の体躯が致命的になると生命を存続させる為に眠るそうだ!
お前らにはそれが必要だと謂う事だ
しかし無茶ばっかりしやがる夫婦だな」
「今回は……本当に想定外の事が多くて……僕も康太も苦戦していました…」
「あんで海外に逝って殺されてたのかは聞かないがな、お前達は今俺の患者だ
俺が謂いと謂うまで治療に専念しろ!」
「はい…」
「お前らが海外に逝っているのを、家族や知人は知っているのか?」
「極秘に秘密裏に動いていたから詳しくは伝えてはいません」
「なら普通に入院させても大丈夫だな」
「はい…」
久遠は何時になく元気のない二人を見て…不安だった
生命力の塊みたいな康太が……榊原から離れないのは相当不安に駆り立てられているからなのだろう
言葉も解らぬ国での治療を余儀なくされた過酷な時間が垣間見られ、久遠はやるせなくなった
感慨深く耽っていると赤龍が「着いたぜ!」と到着を告げた
辺りを見れば、見知った街並みが目に飛び込んできた
人の世に還ったのだと久遠は想った
赤龍は記念病院の屋上に下りると、人に姿を変えた
飛鳥井記念病院が入っているビルの屋上に到着すると、久遠は電話を掛けて検査の指示を出していた
到着して直ぐに検査をする為に指示を飛ばしているのだ
屋上から下の階に下りると、エレベーターに乗り一階まで逝き一旦ビルの外に出る
このビルは病院から上に上がれないのと同様で、上の階から病院には行き来出来ない設計になっていた
病院のセキュリティは厳重で不審者の侵入を容易には許しはしない設計で建てられていた
だから病院へ逝くには一旦外へ出て、病院の正面玄関へ逝かねばならなかった
このビルを設計したのは脇田誠一
時代の寵児が建築の概念を覆した建設物
それがこのビルだった
まだ全容は公開されていないが、公開した建物には幾つかの常識をぶち破る仕掛けもしてあり、建築に携わる人間なら、一度は目にしておきたい建設物となった
病院の上はテナントと住居となっていたが、発売して3日で完売となった人気の物件だった
久遠は病院の正面玄関から病院に入ると待合室を突っ切って、関係者専用出入口の扉を開けた
待合室で待っている患者の視線が一斉に久遠達に向けられた……
結構いたたまれない雰囲気の中久遠はゆったりとした足取りで、関係者専用のドアを開けて入って行った
院長の帰還とあって病院関係者はキビキビと動いていた
「院長!御待ちしていました!
指示通り御用意してあります!」
院長の帰還を聞き付けた医療スタッフが久遠の所へと駆け付けて来た
スタッフの間に緊張が走った
院長が連れているのは、このビルのオーナーで、病院のオーナーでもあったからだ
県下最大級の医療施設を持つ飛鳥井記念病院を作るには多大なコネと資産がなくば出来ないのは素人にも解る事だった
寝台数や機材、それらは色々と面倒な許可がいるのだ
元々飛鳥井病院があったとしても、その規模の拡大は容易ではない現実が待ち受けていた
認可を貰う為の実績と人脈
それらをクリアして莫大な資産を注ぎ込んで作られた
その病院には国内で数台あるかないかの機械をいれ、総合病院よりも詳しい検査を受けられる様になっていた
そしてなにより……久遠の人脈を使ってスカウトした医者は名だたる医者ばかりで、一流の機材、一流のスタッフ、一流の医者を投入した病院には、連日多くの患者が詰め掛けていた
県外からも一縷の希望を抱いて病院に来る患者もいる程で、完全予約制にしても待合室には溢れ返る患者が詰めかけてきていた
久遠は八仙が呼びに来た時点で検査をするつもりでスタッフに手筈を調えさせていた
患者が増え連日かなりの人が検査を受ける事になり、突発的に検査を入れるのが無理になりつつあったからだ
久遠は迎えに来たスタッフに、榊原と康太の検査を指示した
榊原と康太はスタッフに連れられて検査へと向かった
一生は入院の準備をする為に久遠の所に残った
久遠は榊原と康太を見送り「衰弱ってレベルじゃねぇな…」と呟いた
一生は「……旦那の息が止まっていたからな……康太は自分の深淵に閉じ籠って何日も……死んだみたいに眠り続けた……
目が醒めてからも離れるのを怖がっていた
精神的に不安定で衰弱した奴が食える食事がなかったってのもある」
「中東だっけ?」
「香辛料がキツいんだよ……あっちの食い物は……」
「知ってる
俺は国境のない医師団で中東で働いていた時がある
インシャアッツラーって国、知ってるか?」
「………嫌って謂う程に知っている」
「あの国は大麻草の栽培を国をあげてやっていた
俺等、国境のない医師が呼ばれて行った時は……大人から……乳飲み子まで……中毒になった奴等が地面に転がされていた」
「………これは……偶然なのか?」
「何がだ?」
「東都日報の今枝浩二って知ってるよな?」
「あぁ、働きすぎな彼は部下に連れられて何度も点滴を打ちに来てるからな」
一生は……今枝……お前どんだけ無茶ぶりが好きなのよ……と想ったが……
「今枝を今、インシャアッツラーに逝かせているんだ」
「………あの国の中毒患者は……治療を拒み……神の加護のまま過ごすと言い……国に還った……今……どうなっているんだ?」
「海賊をやってて倭の国の船を拿捕して身代金で食い繋いでいる」
海賊……物語の世界の話じゃないと謂うのか……
久遠は「そうか……」と言い……空を見上げた
あの頃の久遠は離婚してパッシングされる日々に嫌気がさして、日本から逃げ出した
友人から国境なき医師団を勧められ、そのまま日本を後にした
野戦病院さながらの治療を余儀なくされた
薬も器具も足りない世界で、治療するそばから命が散って行った
自分の無力さと闘う時間は苦痛であり……
自分を鍛え上げるのには十分な日々だった
あの頃の自分がいるから、どんな命も救おうと想えるのだ……
「今枝が戻ったらあの国は動き出す……
世界は動く為に在る……軌道修正はアイツの務めだからな」
「そうか……ならお前も元気じゃねぇとダメじゃねぇか!
うし!お前も検査してやろう!」
「俺は良いです!」
「遠慮するな!」
久遠は一生の手を掴むとズンズン歩いて逝った
一生の空しい悲鳴が……静まり返った空間に響いた
榊原と康太は一通り検査をすると個室に移して入院させた
点滴を打たれて榊原と康太は眠っていた
検査から解放された一生は飛鳥井の家に戻って入院の準備をしに行った
辺りはすっかり暗くなっていた
飛鳥井記念病院に着いた時はお昼頃だったのに…一体何時間検査しやがったんだよ…
検査を終えて飛鳥井の家に向かった
飛鳥井の家は玄関に電気がついてるのに誰もいなかった
一生が家に入るとコオやイオリ、ガルが鳴いて飛び付いた
ワンワンワン
犬の声を聞いて家族は康太が還って来たのかと飛び出した
瑛太が玄関に走って逝くと一生が犬の下敷きにされていた
「……一生……」
瑛太はコオ達を退けて、一生を立ち上がらせ抱き締めた
「お帰り一生
無事に還って来てくれてありがとう」
「瑛兄さん……康太と旦那が入院しているから慎一に準備を頼みに来たんだよ」
瑛太は顔面蒼白になった
「………康太と……伊織は………」
「旦那が……一度死んだ……
それで康太が……自分の深淵に閉じ籠って……総てを拒絶して……かなり衰弱してしまったんだ」
瑛太は倒れそうだった
伊織が死んだら……康太は生きていないだろうから……
清隆と玲香も出て来て、事の状況を聞いていた
清隆は「伊織と康太は久遠先生の所ですか?」と尋ねた
「あぁ、今眠らせてある
本当ならサザンドゥーク共和国に逝っている筈なんだ……だから公には出来ないんですけど……」
玲香は一生を抱き締めると
「解っておる…一生、ご苦労だったな
お主は……大丈夫なのか?」
一生を労った
「……義母さん……俺は大丈夫です」
「でも疲れた顔をしておる
今宵は眠るがよい
病院には我等が逝こうぞ」
「義母さん……」
「もう何も心配しなくてよい
お主は頑張った……こんなに擦りきれる程に頑張ったではないか
もう何も心配せずともよいのだ
お主も体躯を休めてくれ……
よく還ってくれたな一生」
玲香は一生の窶れた頬を撫でながら、そう言った
一生は泣きそうになった
何時だってそうだ
この家は分け隔てなく愛を与えてくれる
清隆も「何か食べたいのはありませんか?」と一生を気遣った
瑛太は慎一を呼びに行き、康太と榊原の入院の用意をさせた
清隆は犬達を応接間に入れて一生も応接間へと入れた
そしてソファーに座らせるとお寿司を頼んでくれた
飛鳥井の家族はなにも聞かない
元気で生きて還ってくれればそれで良い……となにも聞かずに送り出し、そして迎え入れてくれるのだ
玲香は真矢に電話を入れ伊織が入院している事を伝えた
真矢と清四郎は直ぐに飛鳥井の家に逝くと言い、電話を切った
暫くして真矢と清四郎は飛鳥井の家にやって来た
真矢と清四郎も疲れ果てた顔をしている一生を見ると、優しく抱き締め……
「一生……大丈夫ですか?」と労りの声をかけた
「真矢さん、清四郎さん大丈夫です」
清四郎は「………君はもう休みなさい、此処には沢山の手があります……もう休んで大丈夫です」と一生を抱き締めた
真矢は笙を呼び出した
笙が飛鳥井の家に来ると、康太と榊原の所へ逝く事にした
「一生、疲れた顔をしています
とにかくお眠りなさい……」
「はい……」
お寿司が届き、慎一はお茶をいれ食べれる準備をして瑛太達と家を出た
慎一は両手に入院に必要なモノを入れたバックを持って外へと出た
その荷物を瑛太と清隆がそれぞれに持ってやった
何時もそうだ
慎一だけに持たせはしない
手はあると皆が助けてくれる
それが飛鳥井と榊原の家族だった
皆で飛鳥井記念病院へと向かう
慎一は病棟の受け付けで康太と榊原の病室を聞きに行った
何時も入院している個室にいると聞くと、皆で病室に向かった
病室のドアをノックすると、ドアが開いた
病室の中には兵藤がいた
心配になって顔を見に来ていたのだった
玲香は兵藤の顔を見ると
「貴史、いてくれたのかえ?」と嬉しそうに問い掛けた
「………本当なら俺はサザンドゥーク共和国にいなきゃいけねぇんだけど……
大分弱っていたからな気になって見に来た
この後……俺は戻らねばならねぇ……
この次に逢えるのは3日後、日本に帰国して来てからだからな……
その前に顔を見に来たんだ……」
兵藤が謂うと真矢は
「お腹は空いてませんか?」と優しく声をかけた
「……向こうの食い物と水は合わねぇからな……お腹は減ってるけど……」
「なら食べて逝くと良いです
清四郎、貴史が食べたいモノを聞いて買って来て下さいますか?」
真矢に言われ清四郎は兵藤に「何が食べたいですか?」と問い掛けた
「食いたいのは寿司とか和食が食べたいな
向こうの食い物は香辛料が強くて……胃もたれが半端なくてな」
「解りました。
買ってくるので待ってて下さいね!
勝手に帰らないで下さいね!」
「解ってます」
清四郎は買い物へ出掛けた
瑛太は兵藤をソファーに座らせた
そして康太と榊原の寝ているベッドの傍に近寄った
康太と榊原は眠っていた
ベッドを並べて目が醒めても直ぐに康太が解る様にしてあった
そうでなくば、榊原も康太も互いをさがしだすだろうから、端からくっつけておいた方が賢明だと想ったのだろう
瑛太は康太の窶れた頬に触れ
「………痩せましたね………」と悲しそうに呟いた
清隆は榊原の窶れた頬に触れ
「……伊織も……こんなに窶れて……」と呟いた
玲香と真矢もベッドの傍に立って……眠る我が子を見ていた
ドアがノックされ慎一がドアを開けた
すると白衣を着た久遠が家族が来た事を告げられ説明に現れた
「病状の説明に参りました
宜しいですか?」
久遠が謂うと家族は真剣な面持ちで久遠を見た
「まずは榊原伊織
彼は一度死ぬ程の大怪我をした
状況は即死で間違いのない事故だった
岩盤の下敷きになりポキポキに骨は折れ圧迫され息耐えた
出血もかなりあっあらしく、魂を戻しても体躯は衝撃を覚えているものだ
色々と不具合が出て来て当たり前だ
検査をして治療をする
それでよいですか?」
久遠が説明すると真矢は深々と頭を下げ
「宜しくお願いします」と頼んだ
玲香や清隆、瑛太も深々と頭を下げ、久遠に頼んだ
「次は飛鳥井康太
彼は伴侶殿に護られていたが、衝撃を受けてあっちこっち骨折や傷を負う怪我をした
だが致命傷はそこじゃない
伴侶殿を亡くしたショックで己の深淵に閉じ籠って何日も過ごした事により体内の機能障害を起こしている
要はこの体躯は食事すらまともには取れていない筈だ
何時も言っているが康太は毒を飲んでいたから薬が効かない
そんな状態で内臓が働かなくなるのは避けたい
なので食事療法も同時にやらねばならない
当面は食事療法と検査をして管理して逝く事となるでしょう
………兵藤の小倅、お前もかなり弱ってるな……」
久遠は病室にいる兵藤に目を向けると、憔悴しきった顔を心配して覗き込んだ
「俺は大丈夫だ久遠
そんなにゆっくりはしてられねぇんだ」
「なら最低限の採血と血圧位計らせろ」
「………康太……目が醒めるよな?」
兵藤が心配そうに呟くと、久遠は兵藤の頭をゴツンと叩いた
「痛てぇ……」
「お前……誰にモノを言ってるんだ?」
「………すみませんでした」
「まぁいい!手を出せ!」
久遠はナースステーションに連絡をいれて採血の道具一式と血圧計を持って来るように伝えた
暫くしてワゴンをゴロゴロ引いた看護婦がやって来た
兵藤は観念して血を取られていた
血圧を計り、聴診器を出して胸の音を聞いて
「お前も体重、かなり落ちたろう?
無茶ばっかりするなら……解っているだろうな!」
「………解ってます
今回は……本当に秘密裏に動かねばならない事が多発してバラバラに動かなきゃいけなくなった……
それだけでも……かなりのストレスなのに……伊織が死んで康太が自分の深淵に閉じ籠ってしまったからな……
後で聞かされるってのは、すげぇストレスなんだよ……」
「解らんでもないが、無茶すれば体躯は悲鳴をあげるぞ?
まさに今、そんな状態な自覚はあるよな?」
「あります、かなり……しんどい自覚はあります」
「取り敢えず薬を出しておいてやるから、ちゃんと飲むんだぜ?」
「解ってます」
久遠は薬の処方箋を切ると、看護婦に渡した
看護婦はワゴンを片付け処方箋を持って病室から出て逝った
久遠は康太と榊原の様子を見て、病室から出て逝った
それと入れ替わりに清四郎が、手に沢山の袋を持って還って来た
兵藤は目の前に出された料理の数々に空腹を覚えて、夢中になって食べた
食事を終えると兵藤は、近いうちに還るから……と約束して出された薬を持って還って逝った
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