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第45話 目醒め

榊原と康太は一週間、眠り続けた 兵藤は約束した3日後、堂嶋と今枝と共に帰国していた 兵藤は康太の病室に付きっきりになり 堂嶋は忙しくて動けない安曇に変わって毎日お見舞いに来ていた 今枝は康太が目醒めねば動けないと謂う事で、撮った写真を現像して康太の目醒めを待つ事にした 総ての報告を受けた閣下は、榊原を死に至らしめる出来事があったと報告を受け、自分を責め苛んでいた “神”の力があったからこそ命は繋げられたが…… 普通の人間なら死んでいて当たり前の事故だったと、報告書を目にして悔やんでいた 康太と榊原をあの国に送ったのは自分だ 過酷な使命を仰せ付けた そんな想いが閣下を動けなくさせた 最初に目を醒ましたのは康太だった 目を醒ました時、何処にいるか解らず、榊原が何処にいるか探した ベッドから下りて榊原を探そうとするのを、瑛太は慌てて止めた 「康太……伊織なら隣で寝ている」 「………瑛兄……」 「だから無茶は……するな」 そう言い瑛太は榊原を指差した 康太は榊原に抱き着いた 榊原のぬくもりが康太に伝わると、康太は嬉しくて……泣いていた 止めどなく涙が溢れだし 「伊織……伊織……」と魘された様に名を呼んだ 榊原は康太の声に目を開けた 「……康太?泣いているのですか?」 スンスン鼻を啜る音に榊原は康太を抱き締めた 慎一はナースステーションまで行き、二人が目醒めた事を告げた 暫くして久遠が病室に顔を出した 「どうだ?伴侶殿、体調は?」 怠くて重くて気力を根刮にしてしまう疲労感はなかった 「体躯が重かったのですが、それが無くなりました」 何だか力が漲る…… 何でだ? そう思っていると久遠が「伴侶殿の御尊父が見舞いにおみえになられた時、血を分けて下さったんだ 逢ったら礼を言っておくと良い」 「………御尊父?金龍……なのですか?」 榊原はそう言い一生を見た 一生は元気そうな榊原の顔を見て安堵した 「八仙からお前達の事を聞いた親父が、兄貴と共に来たんだよ その時、お前の弱り様を見て親父は久遠先生に息子に血を分けてやってくれ!と申し出たんだよ 龍は……龍の血でしか力を呼び戻せはしねぇからな…… それを親父は久遠先生に話して、久遠先生は親父の血をお前に分けて与えたんだよ」 と説明してやった 金龍の血が入っているから、こんなにも力が漲っているのか……と榊原は体躯に力が戻って来た実感をした 沢山の血が流れてからと謂うもの、本来の体調に戻れなかった それが嘘の様に力が戻っていて、これなら空だって飛べそうだった 久遠は「まだ性欲は封印されて過ごされる様に!」と狼になりそうな榊原に釘を刺した 榊原は久遠に「康太は?どうなのですか?」と問い質した サザンドゥーク共和国では、皆の前で食べて、部屋に帰って吐いての繰り返しだった 「伴侶殿、康太も今まで眠らせてあったのですよ 康太の場合、当分消化の良いモノを食べて管理が必要となる」 「……そうなんですか……」 「全く無茶をされる! 貴方もまだ安静が必要なのですよ!」 「久遠先生、本当にありがとうございました」 「取り敢えず、点滴は明日まで外せねぇからな」 「はい。解ってます」 榊原は苦笑した 久遠は康太をヒョイッと持ち上げると、ベッドに押し込んだ 「寝てろ!解ったな?」 「久遠……解ってる」 久遠は康太の頭をクシャッと撫でると病室を出て行った 康太は病室を見た 病室には飛鳥井の家族と榊原の家族、一生、聡一郎、隼人、慎一、兵藤がいた 康太は深々と頭を下げ「心配掛けてすまなかった……」と謝った 真矢は「康太、夏からこっち貴方忙しすぎなのよ! だから休養を取りなさいと謂う機会なのよこれは!」と笑って言った 「……真矢さん……」 「家族だからね、心配するわよ 貴方が大切だからね、心配するのよ! 貴方に我が子を託した……それだけは忘れないでね」 あの子達から母を取り上げないでね……と真矢は言った 康太は我が子を想った 我が子に逢いたい…… 愛する我が子に逢いたかった 血は繋がらねど……愛して築く我が子だった 「……逢いてぇな……」 康太はそう呟き涙した 動く時は極力考えない様にしている でなくば動けなくなるからだ だがこうしてふと冷静になれば我が子に逢いたくて仕方がなかった 風邪は引いてないか? 淋しがってないか? 逢えない親の事なんて……忘れてしまっているんじゃないか…… 怖くて仕方がなかった それ以上に逢いたくて仕方がなかった…… 我が子に逢いたい この手で抱きたい そんな想いに囚われる 榊原は康太を抱き締めて真矢を見て 「母さん、僕達の子には逢えませんか? もし…逢えるなら僕達の子を連れて来て下さい!」 と、お願いした 「…狡いわ伊織…貴方からのお願いなら聞いてあげたくなっちゃうじゃないの」 真矢がボヤくと皆は笑った 真矢は「久遠先生に聞いてみる事にします。 逢わせて良いなら連れて来るわ……それでよくて?」と我が子の頬に触れて問い掛けた 「………母さん……迷惑掛けて申し訳ありませんでした」 「我が子に掛けられるのは迷惑ではなくてよ? 我が子の頼みなら親はどんな事をしても聞いてしまうものなのよ?」 「……母さん……」 「では久遠先生に聞いて来ますね 清四郎、貴方も一緒に行きますよ」 真矢はそう言い病室を後にした 康太は兵藤を見た 「貴史、状況は?」 タイムロスを埋める様に問い掛けられて、兵藤は「まだ寝てろ!」と言い放った 「寝てても良いけど、オレらの事を悔やんで……閣下は自分を責めている これ以上追い込む前に連絡を頼む でねぇと軌道修正が難しくなる」 康太の果ては繋がり始めていた 目を醒ましたと同時に膨大な情報量が駆け巡って逝くのが、手に取る様に解った 「閣下には正義の方から意識が戻ったって連絡を入れさせとく」 「今枝の件も放置のままだし、どっち道近いうちにサザンドゥーク共和国に逝かねぇとな…… インシャアッツラーの変革も見届けてねぇし……若旦那と赤蠍商事の件も片付けて……記者会見を開かねぇと……」 「今枝は今日本に還っている」 「……そうか……悪い事をしたな……」 「事情を知っているから何も謂わねぇよ今枝は!」 「世界へ発信が遅れたら、世界はもうインシャアッツラーには振り向かえねぇ…… 情報は常に変化して鮮度を求めている 状況を見誤ればば、インシャアッツラーは世界から葬り去られる事になる そうしたら今枝を逝かせた意味がなくなるんだよ」 「今枝には直ぐに連絡を取って来て貰う事にする……それで良いか?」 「あぁ…頼むな貴史」 「俺等の出来る事はする! だから休める環境にある時は体躯を休める事を優先にしろ!良いな!」 「解ってる……だけど記者会見を開くのを貴正は待っている……でなくば人質の解放も出来ず……信頼の回復も遅れてしまう 時は一刻と変化を遂げる 見極めて逝かねぇと本当に手遅れになる そしたら今枝にさせた苦労が一瞬で泡となる 敷いたレールに乗れねぇと……打開策は二度とないだろう」 「解った……インシャアッツラーに逝くにしてもお前が元気にならねぇと始まらねぇんだぞ?解っているよな?」 「解っている」 「なら良い! なら今枝に連絡と、正義に閣下に伝えてくれる様に連絡を入れて来る」 兵藤はそう言うと病室を後にした 「弥勒、オレに状況を送ってくれ」 康太は瞳を閉じて…呟いた 『無茶はするでないぞ?』 「解ってる…でも今は時間が足りねぇんだよ…」 『…お前は適材適所配置するが役目であったな……解った、今お前に送る……それでよいか?』 「弥勒、心配かけて悪かったな」 『……康太……お前が生きていてくれれば……それだけでよいのだ……』 「オレは死なねぇ! この地球(ほし)も死なせねぇ!」 『そうであったな……なら目を閉じるがよい……総ての状況をお前に視せてやろう』 弥勒はそう言うと気配を消した 康太は瞳を閉じて弥勒の視せてくれる映像を紡いでいた 一刻一刻目覚ましく変化を遂げる“今”を視ていた 榊原は何も言わず、康太を見守っていた 「伊織、視えた?」 「ええ。流石皇帝閻魔殿ですね 前よりも鮮明に君の視るモノが視えてます」 榊原はそう言うと嬉しそうに笑った 瑛太や清隆、玲香は二人の仲睦まじさを見て胸を撫で下ろした 元気でいてくれれば……それで良いのだ 幸せそうに笑っててくれれば、それで良いのだ 康太は何やら果てを視て思案していた 榊原も康太と同じモノを視ているのか、黙ってそれを見守っていた 「……間に合いそうだな……良かった」 「ですね、ギリギリと言った所でしょうか?」 「だな……なぁ伊織……」 「何ですか?康太」 「インシャアッツラーへ逝かねぇとならねぇって言ったら……久遠怒るかな?」 「……怒られても君が記者会見を開かねば、収束は無理ですよ?ドゥバイの王太子も君が出ぬのなら協力は惜しんでしまいますからね」 「あっちの飯……不味いんだよな……」 「ですね……味が濃いんですよね」 康太と榊原は憂鬱になってため息を着いた 一生も「……また逝かねぇとならねぇんだよな?」とスパイシーな味を思い出して憂鬱になった 毎日相当刺激のスパイシーな料理は胃の限界も来るもので…… 少しだけ憂鬱になった 暫くして真矢と清四郎が子供達を連れて病室にやって来た 久遠は子供達との面会を許可したのだった 「「「「「かぁちゃ!とぅちゃ!」」」」」」 子供達は病室に入るなり両親のベッドへと駆け寄った 康太は我が子を見て泣きそうになった 逢いたくて…… 逢いたくて…… 夢にまで見た我が子だった 康太は流生の頬にそっと触れた 触れたら消えてしまうんじゃないか……と想ってか……不安げにそーっと触れた 「かぁちゃ……らいじょうび? どきょか いちゃいときょありゅにょ?」 流生が不安げに問い掛けると、康太は流生を抱き締めた そして……とうとう泣き出した 榊原は自分のベッドに来た太陽と音弥を抱き締め…… 「逢いたかったです……」と言い、やはり堪えきれずに泣いた 翔は榊原の頬に流れる涙を拭い 「とぅちゃ…いたいにょ?」と問い掛けた 「痛くありません……ずっと君達に逢いたかったのです」 逢えたから……嬉しくて泣いているのです……と答えた 大空は康太に手を伸ばした 康太は大空を抱き締めた 「かぁちゃ……ぼきゅ……ぎゃまんれきたよ?」 「ごめんな……ごめんな大空…… ごめんな……流生、音弥、太陽……翔……」 康太は淋しい想いをさせた我が子に謝った 大空は母の涙を拭った 「かぁちゃ…なきゃないで! あいちてる…からなきゃないで!」 榊原は“あいちてる”に反応して 「それは聞き捨てがなりません!」とムキになった 大空は母に縋り着き顔を埋めた 「大空、そんな言葉を何処で覚えたのですか?」 「とぅちゃ!いちゅもいっちぇる!」 榊原はグッ!と言葉を失った 子供は親の背を見て育つと謂うが…… そんな台詞は覚えなくても良いのです! 「康太の事を愛していると言って良いのは僕だけです!」 「ちっちゃい!」 榊原と大空の視線がバチバチ火花を放つ 瑛太は「大空、お父さんはまだ病人なのですよ?」と病状が悪化しては大変と大空を止めた 榊原は「誰に似たのでしょうね!」と謂うと子供達は 「「「「「とぅちゃ!」」」」」と答えた 「……大空、僕の方が男前です!」 白黒はハッキリ着けねば気が収まらない そこは我が子でも譲れない領域だった 榊原がそう言うと流生が「とぅちゃ!」と名を呼んだ 「何ですか?流生」 「りゅーちゃ!おときょまえ!」 とぅちゃより、おときょまえ!と謂われて榊原は流生に手を伸ばした 流生は父の所まで逝くと抱き着いた 「僕は負けませんから! 何時でもかかって来なさい!」 榊原は笑ってそう言った 流生は笑って「りゅーちゃ とぅちゃににちぇる! りゅーちゃのおときょまえは、とぅちゃにらから!」と胸を張って言った 「なら許してあげます 流生は僕に似てますからね 君は誰よりも男前になります!」 「もちぇるおときょは、ちゅらいにょ!」 「その言葉……何処で覚えるのですか?」 「ちゃいきんね、びれお、たくちゃんみちぇるにょ!」 「………そうなんですか、なら今度皆で映画かDVDを見ましょうね」 「ちゅごく、たのちみ」 流生は嬉しそうに笑った 翔は母の所に逝くと、そっと手を取った 「翔、修行はどうよ?」 翔は康太の不在中は飛鳥井の菩提寺で修行を行う事になっていた 「かけゆ……かぁちゃととぅちゃのゆめ、みた…… とぅちゃが…しにかかってて…かぁちゃがとおくに……とじこもった…… れも…かけゆはなにもれきなかった」 康太は翔を抱き締めた 予知予見夢見は源右衛門が長けていた その血を継いでいる証拠だった 正当な飛鳥井の“血”だった 「そっか……お前はじぃちゃんの血を濃く引き継いでいるんだったな……」 「ちんぱい……してたら、とぅちゃが……らいじょうびだって……夢に出てくれたにょ!」 康太は榊原を見た 榊原は優しく微笑んで 「大丈夫だったでしょ?」とウィンクした 翔は頷いた 康太はそこにいない我が子、烈がどうしたのか?問い掛けてみた 「烈は?どうした?」 真矢は「烈はまだ康太に逢えないのよ……あんだけ小さいとね病棟に入れないのよ」と残念だけど仕方がないわ……と呟いた 本当なら流生達もダメなのだ だけど個室だから特別に許された事だった それでも烈は康太に逢わせるのは危険と……面会は許可されなかった 「そっか……烈は風邪治った?」 「もう元気よ、でも大好きな母さんがいなくて淋しそうよ 大好きな父さんに高い高いしてもらえなくて淋しいそうなのよ 笙がしてやろうかと言ってもね 本当にあの子は頑固でね……父さんにしかしてもらいたくないみたいなの」 「烈は父ちゃん大好きだもんな」 「母さんも大好きよ、あの子は…… 両親が大好きなのよ 康太の子は両親が大好きなのよ」 真矢が謂うと康太は嬉しそうに笑って……涙を流した 真矢は涙を拭ってやり流生を抱き上げて、康太の横に座らせた すると他の子も抱っこしてと両手を差し出した 康太のベッドに乗せてやると、子供達は康太に抱き着いた 寂しかった想いを埋める様に母に抱き着いた 「また少ししたら海外に逝くけど、還って来たら白馬に逝こうな…… 少し休養するから、お前達もお休みして一緒に逝こうな」 とうとう子供達は泣き出した ずっと我慢していたのだ 淋しいのも…… 逢いたいのも…… 我慢して過ごしていた だけどもう両親を目にしたら我慢は出来なかった 子供達は泣いて泣いて……それでも両親を離したくなくて抱き着いていた 清四郎はその光景を見て涙ぐんだ 護りたいのだ 愛する家族を護りたいのだ 役者として生きて来て家族を省みなかった時がある 役者である自分しか考えなかった時がある だけど今は違う 仕事と同じように家族も大切なのだ 飛鳥井康太がくれた家族の絆なのだ 清隆は清四郎の肩を抱いた 「清隆……」 「兄さんには私達がいます もう……淋しい想いなどさせません」 二人は飛鳥井源右衛門と言う父を同じくした兄弟だった この世でたった一人の兄弟だった…… 家族の縁の薄い自分が……家族に支えられる日が来るなんて……あの頃の自分には想像もつかなかった 子供達は泣き付かれて眠りに落ちてしまった 瑛太は「子供達を連れて帰ります」と告げた 「瑛兄……ありがとう」 「明日からは会社の帰りにしか見舞いに来れません」 「解ってんよ瑛兄」 瑛太は慎一の方を見て「何かあったら直ぐに連絡をお願いします」と言った 慎一は「はい。解ってます」と答えた 瑛太と清隆と玲香と真矢と清四郎は子供を一人ずつ背中に背負って、還って行った 子供達と逢えた康太は幸せな顔で、皆を送り出していた また逢えるのだ 我慢せずとも逢えるのだ それだけで家族は安心できていた 家族が還って暫くすると、今枝浩二が社長の東城と共に病室を訪ねて来た ノックの音に慎一はドアを開けに逝くと、東都日報社長の東条と今枝が立っていた 慎一は二人を病室に招き入れると、ドアを閉めた 東城と今枝は康太のベッドに近寄り 「大変な目に遭われましたな……大丈夫なのですか?」と心配して問い掛けた 「東城、悪いな……本当ならもっと早く今枝の写真を世界に広められたのに……」 「今からでも遅くはありません 今枝の写真を見せて貰いました 圧巻としか言い様の写真でした 今枝にしか撮れない写真でした」 「その写真を世界へ発信してくれ! 海賊に堕ちた国の現状を伝えねぇとならねぇ! 捕虜が解放された後、あの国が迎える現実を考えねぇとならねぇからな……」 「貴方の戦略のまま動くつもりです 我等は貴方の戦略のメディアとなる 今枝の写真にはそれだけの価値があると私は想いました」 「オレはまだ動けねぇからな東城、お前が動いてくれねぇか?」 「はい。解っております」 「写真を見せてくれ」 康太が謂うと今枝が写真の束を康太の前に置いた 「その写真は貴方に見せる為だけに焼いた写真です」 康太は写真を視ながら微笑んだ 「良い写真だ」 「貴方の想いのままの写真ですか?」 「あたりめぇじゃねぇかよ? 今枝浩二が外れをオレに見せる筈がねぇと想っている」 「………あの国で俺は……殺されかけました…… その時、弥勒さんが姿を現して俺を救ってくれました」 「お前を死なす為に送り出してねぇからな! お前の命は……んな場所で尽きて良い訳がねぇ!」 「だから……撮れたのです」 康太は今枝の写真から目を離さずに会話していた ペラッと捲った写真に、栄養失調の子供達が写っていた 元気に太陽の下を走るには……衰弱しきっていて……陽が落ちてるのを待たねばならない子供の顔は……何処か虚ろで……諦めた瞳をしていた だが次の瞬間、その子供が笑っていた 物凄く嬉しそうに笑っていた 康太は涙が止まらなかった 今枝の想いが詰まった写真は康太の想い以上の出来だった 今枝浩二の名が世界に届くだろう 世界の賛辞と賞を総ナメする姿が視えた だがそんな虚構の名声に踊らされないのが今枝浩二だった 彼は生涯、東都日報の為だけに、その世界を映すのだろう 榊原は康太の見ている写真を見て 「……僕達の子と……そうたいして変わらない子もいますね……」と口にした 「………だな……」 「この国を、この子達を死なせてはなりませんね…… 飛鳥井建設がプロジェクトチームを組んで学校建設に乗り出す事を義兄に伝えねばなりません」 榊原が謂うと東城は「私達、東都日報もその学校建設に一口乗ります! 今枝の個展をこの写真で開きます 今まで渋っていた彼ですが、今回は諾と言ってくれました」と先の展開まで口にした 「東城……」 「我等の本質は“伝える”と言う死命なのです 貧しき国は死を待つしかない……そんな現状、この国の人間には理解し難い事だと想います だけど伝えねば何も伝わりません なので社を挙げて動き出す事にしました 貴方達の開く記者会見の記者席に我等も加えて戴けませんか?」 「いいぞ!歯車は回りだしている それはもう誰にも止められはしない 今、お前が協力してくれるのも歯車のうちだったって事だ…… ならば東城、動いてくれ! 新鮮な情報を投げ掛けて衝撃を与えてやってくれ!」 「解りました! 学校建設に携わる諸々の協力の為、募金も会社挙げて呼び掛けたいと想います」 「東城、イルメキシタイン王国とサザンドゥーク共和国の特集も組んで、観光客を惹き付けてくれるのも頼んで良いか?」 「大丈夫です! 今枝がイルメキシタイン王国とサザンドゥーク共和国の写真も撮って来ています 君の何かの役に立つように、と今枝は写真を撮って来ています 美しい国ですね 戴冠式の王冠の素晴しさと言い、二つの国の発展にご協力出来るのなら、惜しみ無く協力したいと想っています」 「ありがとう東城、今枝 今枝は置き去りにしちまって本当に申し訳なかったな」 「兵藤貴史が残っていて、総ての手筈はしてくれました 帰りは政府専用機で帰る事となり、俺は得してますから。」 「そう言ってくれると助かる……」 今枝は康太の頬に触れて 「顔色が戻って来て安心しました」と安堵して呟いた 「少し限界越えたからな…」 「貴方の場合、越えすぎなのです! 俺は貴方の想いのままに動きます 貴方は締め括りの時に顔を出してくだされば、それで良いです」 「ピューリッツァー賞の約束、あるもんな」 「そんなのには興味もないです」 「お前はこの先も第一線で生きるか?」 「そこが俺のいる場所ですから! 他の新聞社にも出版社にも逝く気はありません! 俺は死ぬ瞬間まで東都日報の今枝浩二で逝きたいと想っています」 「………お前の瞳は世界を映す瞳になったな……」 「真贋……」 「良い瞳だ、あの日輝いていたジャーナリストの瞳は翳ってなんかいない 日々磨かれ研ぎ澄まされ、生きる者の命を捉える瞳になった」 「貴方から……その言葉を貰えるなんて……」 今枝は感慨深く……言葉を漏らすと……視界を揺らした 東城は今枝の肩に手を置いた 「これからも頼みますね今枝君!」 「はい!社長!」 今枝と東城は硬く手を握り合った 康太は「東城、少し頼まれてくれ」と言い 「一生、何か書くものを頼む」と注文を口にした 一生はこんな事もあろうかと、書式を一式持って来ていた ベッドの横の補助テーブルの上に半紙と墨汁と筆を用意した 康太は筆を取ると墨汁で浸し、一気に書き上げた 「東城、閣下と言う存在をご存知か?」 「………裏の御方に御座いますか? 企業の一部トップだけが知る事の出来る御方ですね……」 「閣下の所に逝って、この写真を見せてやってくれねぇか?」 「承知致しました」 「貴史、正義に連絡を取り、東城達を閣下に逢わせてくれ!」 康太が謂うと兵藤は「了解!」と言いつつも 「てめぇ、大人しく寝ていやがれよ!」と文句を言った 「疲れたから少し眠る……それで良いか?」 「それで良いよ! なら東城と今枝を閣下の所に連れて逝くわ」 「その時にこの紙も頼む」 達筆すぎて読めない紙をヒラヒラ乾かしながら康太は言った 「乾いたら持って逝く!」 一生は書式を片付け、墨汁を洗いに逝くと病室に戻って来た 「康太、旦那、少し寝ろ」 一生は強引に二人を寝かせ着けた 今枝と東城は兵藤に連れられて病室を出て行った 康太はそれを見送り……眠りに堕ちた 目を醒ました翌日、康太と榊原の点滴が外れた そろそろ退院も視野に入れ、動かねばならぬ時が来ていた 康太はインシャアッラーに逝く準備を始めていた 康太は榊原の膝の上に乗って、口吻けを落としていた 「伊織 愛している」 「僕も愛していますよ」 自然に重なる唇は互いを求めて、深く口腔で搦まっていた 「伊織……欲しい…… ずっとシテねぇんだぞ?」 「僕も君が欲しいです」 榊原はそう言い勃立した股間を康太の尻に押し付けた 康太と榊原はまだ入院中だった そろそろ退院も視野に入れ……ているが、入院中だった だが愛し合う二人は何時もイチャイチャと口吻けを交わし、抱き合っていた そろそろ…それだけでは物足りなくなってきていた 康太は榊原の耳朶を舐めながら「奥が……疼くんだよ……伊織の硬いのに挿れられてぇて……」と囁かれ…… 理性は焼き付いた 「僕だって君が欲しいです」 榊原は康太のパジャマの釦を外し、露になった乳首に口吻けた 榊原の愛が詰められた乳首にはピアスがはまっていた 榊原はその乳首に口吻け、舐めた 「今、ドアを開けられたら困りますね……」 「…そうなんだけど…止まらねぇ…」 「では一生に二時間位病室に誰も来なくさせて貰います」 榊原は携帯を取ると一生にラインを送った 『一生、二時間位病室に誰も近付けないで下さい』 そう送信した後、榊原は康太の唇を貪る接吻をした 互いの体躯が熱い…… 熱を孕み体躯が汗を帯びて湿って逝く 榊原は康太をベッドに寝させると愛撫の雨を降らせた 可愛い乳首も、榊原を誘ってやまない鎖骨も、脇も臍も陰嚢も……白い内腿も足の指さえ愛しかった 榊原は康太の体躯の総てに口吻けした 「……あぁっ……久しぶりだから……イッちまう……」 その刺激に康太は悶えた 勃ち上がった乳首が空気に触れて、ぷるぷる震える 愛撫の跡が散らばった内腿も力が抜けて震えていた 勃ちあがった性器の先からは止めどなく精液が溢れだしていた 「……あっ……イクッ……」 はぁ……はぁ……と康太は荒い息を漏らし、絶頂を迎えようとしていた が、榊原は根本で握り締めて、その瞬間を遮った 「康太、一人だけで逝くなんて……ズルいです」 「なら焦らすなっ…早く脱がせろよ」 わざとなのか……下着はまだ脱いではいなかった 榊原は康太の下着を脱がせると、股を開いた グイッと脚を広げて持ち上げると、康太の隠された秘孔が、榊原の目の前に晒された そこはすっかり硬くなり慎み深く閉じきっていた 「すっかり……硬くなってしまいましたね」 「……でも体躯は覚えてる…… 離れていようとも……お前が触れば思い出す この体躯はお前だけの為に在る……そうだろ?」 榊原は康太に口吻け、嬉しそうに笑った 「そうです、僕だけの為に在る体躯です 僕の体躯も君だけの為に在るのです…」 康太は榊原の背に縋り着いた そして指で確かめる様に榊原の背に触れた 「……オレだけのモノだ……」 「そうです君だけの僕です 君も僕だけのモノです」 「お前以外要らねぇよ」 康太はそう言い噛み付く様な口吻けを贈った 榊原はその口吻けを受け、舌を搦め舌を吸った 唇を離すと榊原は康太の硬く閉じた蕾に舌を這わせた 指を挿れ、舌で溶かす様に舐めた 秘部はグチュグチュと淫猥な湿った音を立ていた 「ほらもっと力を抜いて下さい でなくば僕は挿れられませんよ?」 榊原は軟膏を手に取ると、康太の秘孔にドバッと中身を垂らした 軟膏の滑りを利用して指を挿れ、中を掻き回す 康太の良い部分を指で擦られ……康太は退け反った 「……伊織っ……ヤバいって……」 指を増やされ、康太の蕾は榊原の指を三本咥え込んでいた 三本の指をバラバラに動かされ掻き回されると……理性は焼ききれ……腸壁は物足りなさを訴えて蠢き始めた 腰がむずむずと動き出す 康太の性器からは、しきりなしに先走りが漏れていた ポタポタとシーツにシミが出来る…… 「……伊織……早く……挿れただけでイクかも知れねぇ……」 「良いですよ……僕も一回目は早いかも知れません……君が不足してました」 榊原は康太の体躯を起こして、膝の上に乗せると、双丘を開いてピクピクひくつくお尻の穴に、硬く血管の浮き出る肉棒を突き刺した ゆっくり中へ押し入ると、康太の腸壁は纏わり着く様に搦まって来た 康太は挿入された瞬間……イッた ドクドク脈打つたびに精液が亀頭の割れ目から溢れて流れた 榊原は挿入して二回突くと……康太の中で射精した 康太の腸壁が榊原の肉棒に搦み着き搾り取ろうと蠢くから…… 萎える事なく康太の中に留まっていた 康太のお腹が熱を感じる ドクドク動く性器の刺激に……康太の腰は止まらなかった 「あっ……まだ動かさないで下さい……」 蠢き絡み着き抽挿を促す様に動く腰を押し留め……榊原は康太の動きを封じた 「足らねぇよ伊織…おかしくなる……」 「もう僕もおかしくなってます……っ……本当に欲しがりの穴ですね……」 榊原は康太をベッドに押し倒すと、脚を抱えて抽挿を始めた 激しく貫かれ、掻き回され……康太はクラクラしていた 足りなかったのは互いの熱と互いの一部 繋がり合う快感の先に在る愛……だった 榊原は康太の唇を貪る様な接吻で喘ぎすら奪った 勃ち上がった乳首を指で摘み……爪で弾く 痛みに康太は結合部分を締め……そして底無し沼の様な快感に堕ちて逝く 康太は知らず知らずうちに榊原のお腹に自分の性器を擦り着けていた 達したい時何時もやる康太の行為だった 榊原は康太の性器の根本を握り締め、射精を止めた 行き場のない熱が体内で暴れ……渦巻く 榊原は鎖骨に噛み付いた 「……あっ……あぁっ……ぃてぇ……」 痛みなのに……快感に変換され……敏感に震える 「痛い……君のコレは感じて涙を流してますよ?」 榊原はそう言い康太の性器をそーっと撫でた だが真っ赤なお口が開くと根本を握り締めた イキたいのにイケない…… 康太の意識は朦朧として来た ギュウギュウ榊原の肉棒を締め付け、射精を促す 榊原も……限界が近付き……激しく抽挿を始めた 「……次に深く突いたらイキます………っ……ぁぁ……」 榊原は康太の性器を握る手を離した そして奥までズンッと突くと射精した 康太は手を離された瞬間……達した 「……ぁ……ぁ……」 放心状態の康太の鎖骨をペロペロ舐め、榊原は康太を抱き締めた 強く……強く……抱き締めた 「大丈夫ですか?」 「……ん……久しぶりだったから……早くイキ過ぎた……ごめん……」 「僕も早かったので……謝らねばなりませんね……君が欲しくて……先走りました 辛くはなかったですか?」 「大丈夫だ……お前はオレを傷付けたりしねぇ…そうだろ?」 「……抱き潰しますけどね」 「それは愛があるから大丈夫だ!」 康太はそう言い笑って榊原に口吻けた 榊原は康太の額に、額を重ねると 「愛しています 僕は器用な男ではないので、バカの一つ覚えみたいに……それしか言えません」 「愛してる……それがあれば、オレは充分だぜ?お前は違うのかよ?」 榊原は康太を強く抱き締めた 「違いません……愛してます……愛してます…君しか愛せません……君だけを愛してます……」 と、魘された様に何度も何度も……康太に告げた 康太と榊原は見つめ合い……口吻けた 夢見心地の時間 永遠に続くと想われた時間 それを破るけたたましい携帯の音が鳴り響いた 榊原は康太の中から抜くと、電話に出た 『そろそろ抜きやがれ!』 一生からのでんわだった 「……もう二時間……経ちましたか?」 『三時間経ってるぜ?旦那』 「そうですか……なら支度をします 少ししたらシーツをお願いします」 『了解!』 一生はそう言い電話を切った 榊原はタオルを手にすると、部屋に取り付けられた簡易洗面所でタオルを濡らした 自分の股間の汚れを拭って、パジャマを整えると、タオルを濯ぎ、康太の体躯を拭き始めた 何度もタオルを濯ぎ、体躯を清めて行く 体躯を拭くと、秘孔に指を突っ込み中から精液を掻き出した そして綺麗に拭うと、康太に真新しいパジャマを着せてソファーに座らせた 精液の着いたシーツを外すと、丸めて置いた そこへ一生が新しいシーツを持ってやって来た 一生はシーツを榊原に手渡すと、窓を開けて換気した 榊原はシーツを変えて、部屋の隅々までミストを吹き付けると、康太をベッドに戻した 康太は眠そうに榊原を見た 榊原は康太の頬に口吻けを落とし 「眠っていいですよ」と優しく眠りに誘った 一生はシーツをリネンに出しに逝くと、ジュースを買って榊原に渡した 部屋はスッキリ綺麗な空間に戻っていた 康太は榊原の膝の上で丸くなっていた 一生は「久藤が退院の打ち合わせに来てたのをお帰り戴いた……」と少しだけボヤいて二人きりの時間を守った事を告げた 「それは……すみませんでした サザンドゥークから帰る前から……触れてなかったので止まりませんでした」 「まぁ……もっと早い段階で人払いの連絡が入るかも……と想っていたからな別に気にすんな」 康太は幸せそうな顔をして、すやすや眠っていた 「旦那も眠ったらどうよ?」 「僕は渡航の準備があります」 「んなの、俺らでも出来るがな 慎一は既に何時でも旅立てる様に準備万端な状態だ!」 「……入院してると体力がなくなります… 早目に退院して体力を戻したいのですが……」 「それを含めての話があったみてぇだな」 「そうですか……それは悪い事をしました」 一生と話しているとドアがノックされ、一生がドアを開けに逝った 「終わったか?」 そこに立っていたのは久遠だった 「三時間……犯れば十分でっしゃろ…」 一生は終わってて当たり前だとボヤいた すると久遠は爆笑して 「伴侶殿はまだまだ本調子ではないみたいだな」 と今まで入院中に何時間も掛けて犯っていた経緯を想いだして言った 半日位、犯りっぱなしで看護婦が泣いて来た事が在った程だった 誰がいようが そこが何処であろうが 点滴が突き刺さっていようが 榊原には関係ないみたいに場所を選ばずセックスしていた それを想えば点滴が外れた“今”三時間で終るなんて…… 随分大人になられたものだ……と久遠は笑っていた 榊原は拗ねた顔して 「……本当ならもっと繋がっていたかったんですけどね……体力が……少し足りませんでした」も本音をポロッと漏らした 「ではジムの方にトレーニングメニューを伝えておきましょう! と言う事で、明日には退院して良いです! 定期検診は欠かさず来る様に! それと康太は当分、食事メニューは管理したモノ以外は食べられねぇ 海外に行くんだろ? なら食い物には気を付けてやってくれ!」 「解りました……今回はそこまでは長くはありません」 「まぁ何にしても無茶だけはするな、って事だ」 「解りました 久遠先生、本当にありがとうございました」 「俺は医者だからな、体躯の怪我や病なら治してやれる だが……命を落としたら……俺は何もしてやれねぇ…… 俺は神じゃねぇからな……だから俺の治療を受けるなら生きて帰りやがれ!」 「解ってます久遠先生」 「お前達夫婦の主治医は俺だからな! 他の奴にみせんじゃねぇぞ!」 サザンドゥーク共和国で治療を受けた事を言っているのだろう 榊原は「はい!今後は気を付けます」と答えた 榊原はもう健康な体躯になっていた トレーニングすれば、前と同じ様に動ける体躯になっていた 翌日、康太と榊原は退院した

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