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第46話 諸説紛々

康太と榊原の退院の日、瑛太と清隆は会社を遅刻覚悟で迎えに来ていた 榊原はそれが解っていたから、前日に入院費を清算していた 久遠に退院前の検診を受け、退院の許可を貰って退院した 退院してからは榊原はトレーニングに余念がなく、一週間もすれば元の調子を取り戻していた 康太は記者会見の準備や根回しの為、榊原とは別行動が多かった そして総ての準備が整うと、康太は再びサザンドゥーク共和国を目指した サザンドゥーク共和国に行き、記者会見の準備をしてインシャアッツラーへと向かう インシャアッツラーで捕虜の解放を世界へ発信した後、記者会見を行う 船を拿捕されていた会社、トナミ海運社長と赤蠍商事の社長も同席し、会社の信頼を戻す為に開かれる事となる その会見にアラブ諸国連合の大老とカザイール卿とドゥバイの王太子も出席する事になっていた 日本からは総理大臣の安曇勝也が飛鳥井康太と共に席に座る事になっていた それに先駆けて今枝浩二の撮った写真が世界に向けて発信され物議を醸し出していた 世界人権擁護団体が入って解決した筈の現在のインシャアッツラーが映し出れ物議が醸し出された 世界人権擁護団体は何をしていたのだ?と批判がおきた程だった それほどにセンセーショナルな写真の数々だった 世界を変えるには十分な写真だった 今枝浩二の名前が世界に向けて発信された瞬間だった タイミングは十分に整った 世界に向けて発信するには最大の好機だった 記者会見はサザンドゥーク共和国の戴冠式をやった王の間で行われた サザンドゥーク共和国は倭の国への協力を惜しまないと宣誓したも同然の対応だった イルメキシタイン王国も今後はインシャアッツラー国への惜しみのない協力を約束すると世界へ向けて発信した アラブ諸国連合の各国は次々とインシャアッツラーへの協力を申し出ていた 『此れより海賊に拿捕されていた捕虜の解放、今後の対応を皆様へお知らせする為に記者会見を開かせて戴きます』 カザイール卿が記者会見の開始を告げた 「まずは記者会見に参加される方々の名を挙げさせて貰います 左からアラブ諸国連合 大老 インシャアッツラー国代表アスラ殿 海賊に船を拿捕された赤蠍商事 円城寺貴正 トナミ海運社長、戸浪海里 ドゥバイの王太子カラフ・ジャッシム サザンドゥーク共和国アズィーム国王 イルメキシタイン王国からは摂政代理、カサフェル殿 倭の国総理大臣 安曇勝也 そして総ての見届け人、飛鳥井康太 彼の瞳は亜細亜圏内の瞳を持つ方とされる そして司会を務めますはアラブ諸国連合議長、カザイール 我等が話し合った結果を皆様に伝えたいと想います まずはご報告から、質疑応答はその後にお願い致します」 カザイール卿はそう前置きをして本題に入った 「それでは本題に入ります 海賊に拿捕されていた船は先程解放されました 報道関係者各位にはkoji imaedaの写真によって、皆様が知るより早く世界に発信されたのでご存知かと想います 人質の解放による身代金はなしで解放する事が出来たのを皆様にお伝えしておきます」 カザイール卿がそう言うと場内はざわざわと騒ぎ始めた 身代金なしで人質が解放されたと聞けば……それは騒いで当たり前なのだが…… 「身代金は払う事はなかったが、今後のインシャアッツラーを援助する約束は交わしました インシャアッツラーの現状は既に世界へと発信されたのでご存知かと想います 我等はインシャアッツラーが国として成り立つまで支援をする事を決めた 未だに……薬物が抜けぬ者達の為にホスピタルを建設も検討しています 海賊をせずとも暮らして逝ける資源の提供 子供等が生きて逝ける環境の提供 その中に学校建設も入っています 我等は力を持たぬ人間だが力を合わせれば成し遂げられぬ事はない 我等は……この記者会見を見ている皆に伝えたい それでは今回、船を拿捕された船の持ち主、円城寺貴正と戸浪海里から一言を。」 カザイール卿はそう言うと円城寺の前にマイクを置いた 円城寺はマイクを手にすると喋り始めた 「赤蠍商事社長 円城寺貴正です 我等は船を拿捕されて…莫大な損失と信頼の失墜を味わう事となった ハッキリ言って海賊行為によってもたらされた被害は計り知れない…… そればかりか……命の保証さえされぬ乗員の安否すら……解らない状況で…… 家族は本当に辛い時間を余儀なくされた ……交渉は楽ではなかった 暗礁に乗り上げて……解決の糸口すら見つけられずにいた…… 人の命を盾に金銭交渉する遣り口は本当に下劣で最低だと想った 私は…そんな危険な場所へ社員を送ったのかと想うと…悔やんでも悔やみきれなかった…… 今、社員や乗組員は解放され、待機していた家族と対面出来る事となって安堵しています 我等は…海賊行為は許さない! 絶対に許してはいけない行為だと想っています」 円城寺が言うと会場から 『なら何故!海賊を救う側に座っているんだ!』 と言う声が響き渡った 場内がザワザワとざわめいていた 円城寺は声を高らかに 「海賊行為を止めさせる為です!」とキッパリ答えた 場内はしーんっと静まり返った 「海賊行為を止めさせ、海賊をしなくても国が潤う仕組みを考えねば、彼等は食べる為にまた海賊を働くでしょう! そうならない為に赤蠍商事とトナミ海運は働く場を提供致します! アラブ諸国連合の管理下になったインシャアッツラーに倉庫を構えます! 海運と商社の倉庫をまずはインシャアッツラーに作り働く場を制定致します」 円城寺は戸浪にマイクを渡した 「トナミ海運社長、戸浪海里です わが社も海賊により多大な被害と損害を受けました 今回わが社は豪華客船まで拿捕され……お客様やそのご家族には迷惑をお掛けしました事をこの場で謝罪申し上げます」 戸浪は立ち上がると深々と頭を下げた 「トナミ海運の存亡危機……そこまで追いやられました…… 悔しくて……堪らない 本当に……辛い時間でした わが社も海賊が一つでも減る事に協力を惜しみません 海賊行為は本当に罪もない人々を陥れる行為だと解って下さい 我等が海賊を一つ潰したとしても世界はそんなに変わらないかも知れません だが、インシャアッツラーに住んでいる人々は変わる…… インシャアッツラーの国が特別な訳ではない 我々は常に和平の為に動く用意はある 我等トナミ海運は売り上げの一部を我等が立ち上げるNPO法人に寄付して行く事を此処にご報告致します! ではドゥバイ王太子殿下、宜しくお願い致します」 戸浪からマイクを渡されたカラフは不敵に嗤いマイクを手にした 「まずはこの映像を見ている世界の人間に宣告する! 飛鳥井康太に今後手を出す者は、ドゥバイ王太子であるカラフ・ジャッシム、私に喧嘩を売っていると想うがよい! 我は何時でも喧嘩は買うぞ? 手出しをすれば……どんなコネでも使い必ず潰してやる! それを此処に宣言する!」 カラフは全世界に向けて喧嘩を売った 「さてと本題に入りますか! ドゥバイは今回の海賊問題を受け 根底に眠る貧困から目を背ける訳には行かないと、直視する事に決めました 我が国はインシャアッツラー、強いてはアラブ諸国連合の発展の為に動く事を決めました 血を吸いすぎたアラブの国々に遅蒔きながらに和平の花が咲いた 我等は貧困で苦しむ国々を救う為に立ち上がった インシャアッツラーはその為の国と言っても過言ではない 一つの国を救う 皆が協力して救い出す それを初めて実践する インシャアッツラーが成功したら、救われる国が他にも出て来るかも知れない 和平の種を撒き、何時か……悲しむ子供が……いなくなれば……そう願って止みません 貧困に苦しむ国の現実を知ったのなら、どうか忘れないで下さい この地球にはまだまだ餓えに苦しむ子がいるって事を…… 助けられない命があるって事を…… だからと言って手をこまねいて見ているだけは止めましょう! 人が集まれば世界は変えられる 皆さんの協力をどうかお願い致します!」 カラフはそう言い深々と頭を下げた 王太子自ら頭を下げる行為をするとは想っていなかった 皆が驚き……そして協力しようと心に優しい花を咲かせた ドゥバイ王太子カラフ・ジャッシムの神託にも似た言葉は…… まるで魔法の様に人々を魔法に掛けた インシャアッツラーは改革の始まりでしかない ……インシャアッツラーが特別な存在ではないと知らしめたも同然の言葉だった カラフは康太にマイクを渡した 康太はそのマイクを安曇に渡した 安曇は「良いのかい?」と問い掛けた 「オレはラストに喋る事になっているんだよ……」 康太が言うとカラフは「ごめんね」とウィンクを飛ばした 安曇は倭の国代表としての死命を果たす為に口を開いた 「倭の国の総理大臣をしています安曇勝也です 我が国はインシャアッツラーの復興の為に人員を送る事を約束します まずは自衛隊が国として機能する為に整理をします そして薬物中毒の患者の方々は治療が必要となる そうなった時の為に専門家も検討しております その他にサザンドゥーク共和国とイルメキシタイン王国と友好を築き、文化の発展 渡航の為の直行便など検討もしております サザンドゥーク共和国、アズィーム国王お言葉を。」 安曇はそう言いアズィームにマイクを渡した アズィームはマイクを受け取り 「サザンドゥーク共和国 国王のアズィームです 我が国はアラブ諸国連合の発展と和平の為に協力は惜しまない インシャアッツラーと友好を結び、今後の発展の為に協力は惜しみません ドゥバイの王太子が仰られた様に、インシャアッツラーはその架け橋の一貫になればと想っています 我が国も……父王を亡くし……内乱が勃発して多くの血が流れました…… それを納めてくれたのは一人の東洋人でした…… この国に和平をくれた貴方に報いる為に……我が国は倭の国の友好と、アラブ諸国の和平を願って止みません 我が国はまだ内乱の傷跡が癒えないので、そんなに協力は出来ないかも知れませんが……それでも出来る事なら惜しみ無い協力を約束致します イルメキシタイン王国の摂政代理カサフェル殿、どうぞ!」 アズィームはマイクをカサフェルに渡した カサフェルはマイクを受け取った 「イルメキシタイン王国、摂政代理のカサフェルと申します ご存知の事と想いますが、我が国の王は処刑され……民主化を取り入れた我が国は変革の途中にあります 我が国を正しい道に導いたのは一人の東洋人とカザイール卿でした 我が国はアラブ諸国連合の力を得て歩き始めたばかり国なれど、受けた恩恵はお返しする所存です! 倭の国と絶対の友好関係を結び、これからのイルメキシタイン王国は発展して逝く為に、アラブ諸国連合の一員としての役割を果たす所存です」 カサフェルはそう言いマイクを大老に渡した 大老はマイクを受け取り 「アラブ諸国連合で大老職に着いている者です 我等が生きる地は悠久の彼方から……多くの血を吸い栄華を築いて来た 今も……この地の何処かで内乱はおこり……無差別テロは日常をぶち壊しているのが現状だ…… そんな地にも和平を……と願って止まないでいる もう……これ以上……血を求めるな…… 幾度想った事か…… 我等は……人の命を……軽んじ過ぎている訳ではない…… だが…路上に死体は……積み上げられて逝く……それが現状だ だからこそ願う…… サザンドゥーク共和国やイルメキシタイン王国が和平の道に逝くと謂うのなら…… インシャアッツラーに芽生えた和平の花が……枯れる事なく咲き続けてくれ……と願って止まない どうか……これ以上……先人が遺した遺物を破壊しつづけるのではなく…護って逝く道を選択されたいと願う…… 亜細亜の眼を持つ者よ お主の導きの先に逝ける様に…願って止まぬ」 大老はそう言いマイクを康太に渡した 「飛鳥井建設、真贋をしている飛鳥井康太です わが社はインシャアッツラーに学校を建て、教育を提供するつもりです 学べぬ環境は視野を狭くする 貧困に喘いでいる者達こそ、学ぶ環境は必要なのだ 自分の国と世界を照らし合わせた時に、自分の国には何が足りないか? 世界に視野を向け先を想う眼を育てねば国は滅ぶ インシャアッツラーを担う次代の子供達には学ぶ環境が必要だ 我等はインシャアッツラーに学校を建てる そして学ばせる 我等がNPO法人を立ち上げ、それを管理する これに賛同してくれるなら力を貸してくれ トナミや赤蠍商事、飛鳥井で大々的に募金も募る事となる どうか貧しい子供に未来を与えてやってくれませんか? 我等、一人一人の力は無力で小さいが、合わされば未知の力となり世界を動かす起動となる! インシャアッツラーやアラブ諸国に木を植え砂漠のオアシスを増やす 水源を確保ややらねばならぬ事は多々とある だがそれらの実践は他国でも通用する力となる どうか力を貸してください! 我等が和平の種を植えて逝き…何時か……花を咲かせ実を着けるその日まで頑張ろうではありませんか!」 テレビにはキツい瞳をした東洋人の少年と言った風貌の康太が映っていた 榊原はそれを控え室のテレビで見ていた 控え室には一生や兵藤の他に堂嶋も今枝もいた 記者会見は質疑応答へと変わって、記者が手を上げて質問をしていた 一人の記者はかなり粘着に康太に質問を繰り返し質問責めにしているのを、榊原は心配な瞳で見ていた 「貴方は飛鳥井建設が独断専行で利益を得る為に動いているのではないですか?」 イチャモンに近い質疑を何度も繰り返された 「学校建設は総て飛鳥井建設の持ち出しで建設するので、利益はどうやったら生まれるのかは解り兼ねます 独断専行と言うのであれば、どうぞ他の建設会社が名乗りを上げて学校建設をお願いします 但し、建設に伴う資金は総て建設会社が御負担となります どうぞ、どんどん名乗りを上げて下さい! お待ちしております! 貴方はNPO法人を立ち上げ、我が社が好き放題にそのお金を使うと危惧されているのでしょうか? でしたらご安心下さい NPO法人は倭の国の機関の監視の元で立ち上げられる筈です 我が社が個人的にどうのは出来ないし、する気もない 個人的に儲かるシステムではない事は説明を聞いた時点で誰もが理解しうる事だと想いますが? もう宜しいですか?」 「そんなの……解らないじゃないか! 汚職して来た飛鳥井なら簡単にやりそうじゃないか!」 「汚職?それは何処からのルートでのお話ですか? わが社の名誉に関わる事なので、嘘でした……では通りませんよ? この様な世界に向けて発信している場で口にすると謂う事は…それなりの覚悟をなさっていると謂う事で宜しいですか? 名誉毀損で訴える事も検討に入れねばなりませんね!」 「飛鳥井は常に談合や汚職の噂はある!」 「なら証拠をどうぞ! そんな証拠など何処にも在りはしない! 我が社は談合や汚職をせずとも生き残る術がある! そんなセコい事をせずとも、我が社はこの先も存続する! 飛鳥井に真贋が存在する限り、談合や汚職などせずとも生き残って逝く事は出来る」 康太は唇の端を吊り上げて皮肉に嗤った ドゥバイの王太子カラフは記者の質疑応答が行き過ぎだと感じ 「貴様がしているのはイチャモンでしかない! 私は記者会見が始まる前に謂った筈だ 飛鳥井康太に喧嘩を売るならば、ドゥバイ王太子の私に喧嘩を売ったも同然だと……。 それで尚攻撃されるのであれば、貴殿の会社の質を疑わねばなりませんね! この記者会見は世界へ発信されている NPO法人の立ち上げにサザンドゥーク共和国、イルメキシタイン王国、アラブ諸国連合、倭の国が協力し合って管理運営をすると謂わなんだか? 飛鳥井建設一社が儲かる様なシステムを作る為に世界へ向けて記者会見していると? 流石に私も国を上げてこの記者会見に参加している以上は、幾ら愛していると謂えど、飛鳥井建設だけを儲けさせる訳には行かないのです! そんな事、この記者会見を眼にした人間ならば解る筈! それをネチネチと事実無根の言いかがりを謂う貴殿の方が異質に映りますよ? 談合や汚職があると謂うのなら、そこに倭の国の総理がいるのですから、国会で調べて問題にすればよいだけの事だ 倭の国の問題は倭の国に逝ってやってくれませんか? 我等は今、インシャアッツラーの国の再生を踏まえた話をしているのです! お解り戴けるのなら、この会見場から立ち去るがよい! 衛兵、その者を外に連れ出すがよい! 不愉快だ!」 カラフが言い放つと衛兵が康太に陰湿な質疑応答をしていた記者を外へと連れ出した 東城は記者席に今枝と共に座っていた 「……何がしたかったのだ?あの記者は?」と神聖な質疑応答の場を汚して去っていった記者の意図が解らないでいた カザイール卿は「愚かな輩の事は捨て置き、他に質疑応答はありませんか? なくば、これで記者会見は終わります」と告げた 記者会見が終わると聞き、幾人かの記者が手を上げて質疑応答は再開された アスラはかなり辛辣な質疑応答にも真摯に答えていた カザイール卿は質疑応答を終えて、記者会見の終了を告げた 「これにてインシャアッツラー国についての現状、そして今後についての報告を終える事に致します 最後にアスラ殿、世界へ向けて言葉を!」 謂われてアスラはマイクを握り締めた 「インシャアッツラーの代表をしているアスラと申します 我等は……生きる為に海賊をやって食い繋いで来た 海賊行為は許された行為ではないのは百も承知で……そうやって生きていくしかなかった…… 船を拿捕する事で多くの国や会社……そして捕虜にしてしまった方々に……申し訳想いで一杯です 我が国が……生き残る為に力を貸して下さった方々本当にありがとうございました そして今枝……ありがとう 我等を救ってくれて本当にありがとう……」 アスラは立ち上がると深々と頭を下げた 会場から拍手がおこり、惜しまれて記者会見は終わる事となった 記者会見の会場を後にして、康太達は控え室へと帰って行った 控え室へと続く長い廊下を歩いていると、アスラが康太に近寄って来た 「……貴方が……今枝が謂う……人なのか?」 不安そうな瞳で康太を見ていた 康太は「何故そう思う?」と問い掛けた 「記者会見を始める前に今枝と話をしていた…… 今枝は貴方を見る時だけ表情が変わる……」 「今枝をインシャアッツラーへ使わしたのはオレだ」 「……貴方が……そうか……ならお礼を言わせくれ……そして謝罪を謂わせてくれ」 「今枝に剣を突き付けた事か?」 康太はまるで見て来たかのように言った アスラは驚いた瞳を康太に向けた 「今枝の前に現れた存在はオレが使わした存在だ! オレは何処にいようとも人を動かし、その場の光景を目にする事が出来るんだ オレは果てを視て適材適所配置するが役目を持つ者 必要とあれば人を配置し軌道修正を図る お前が拿捕した人質の中に不動雅祥って奴がいただろ? 彼は、オレの視る果てに必要な存在だったから、わざと捕虜になってもらった」 「………え?……」 「雅祥の視てるモノや感じる事総て、オレは視えていた もしお前達が雅祥に傷一つでも着けていたら……許しはしなかったけどな」 そう言い康太はアスラを射抜いた アスラはその瞳が怖いと想った…… 「オレの瞳が怖いか?」 ズバッと言い当てあれアスラは頷いた 「怖がらなくても大丈夫だ! オレに牙を剥かねぇなら、何もしねぇよ」 「……牙なんて剥きません 貴方は……我等を助けてくれたのだから…」 「これから大変な事が沢山ある それでも……頑張れるか?」 「……頑張ります…… 我らが……人らしく生きられるのであれば……頑張って逝くしかない……」 「なら逝くか良い 世界中がお前達を助けようと立ち上がっている お前達の未来は果てへと結ばれた 神の思し召しのままに……と謂われる国は神の加護を受けこれからも真っ直ぐ行くが良い」 「………はい……」 「アラフ……お前は国が立ち上がったら代表の座を譲って……死ぬつもりだろ?」 康太はアスラを見据えて問い掛けた アスラは康太から瞳を外し……床を見て…… 「海賊を誘導していた奴が何時までもトップにいるのは国の為にはならないから…」 「それはどうかな? お前は後継者を育てろ! お前が任せても大丈夫と想える後継者を育てろ! 言葉や知識、勉学を帝王学を叩き込み、何処へ出しても恥ずかしくない後継者を育てるんだ そしたら国の代表を退いても良い その日までは走り続けろ! そのレールから下りるのは許さねぇからな! お前は皆を引き連れて食える為に働いて来た代表者じゃねぇか! ならば自分の国を見届ける義務があるんだよ!」 「………俺は……生きてて良いのか?」 「生きて死命を果たされよ! それが今、生きている理由だ!」 “生きている理由”を求めていた その理由がなくなれば、何時死んでも良いと想っていた そんなアスラに生きる死命を与えたも同然の言葉だった 康太はアスラの肩を叩いて 「オレらはずっと見守って逝ってやる! 道を踏み外せば……オレがその命を狩りに逝ってやるよ! だから心配するな! だからお前は前だけ見て走り続けろ! 舵取りはオレがしてやるかんな!」 と貰うとスタスタと歩いて行った アスラはそれを見送り……深々と頭を下げた 康太達は控え室に戻って来た ドゥバイ王太子カラフは記者会見が終わると同時に国に還らねばならなくて、慌ただしく康太を抱き締めて帰国の徒に着いた 康太は控え室に戻って張り詰めた息を吐き出した 東城も康太の控え室にやって来て 「康太、大丈夫ですか? あんな変な輩が入っているとは知りませんでした……」とやり過ぎな質疑応答に眉を顰めていた 「あの記者は何時も大体オレにイチャモン吹っ掛けて来るからなぁ…… まさかこの地まで来てネチネチ謂うとは想ってなかったけどな……」 「……え?何時も?……何時も彼はあんな感じなのですか?」 東城が問い掛けると、榊原が「そうです!」と答えた 「彼は康太の顔を見れば常にネチネチグチグチ謂うので入口でチェックして入れない様にしているのです」 榊原はここ最近の内情を話した 一生は「相当飛鳥井に……嫌、康太に恨みを持っているのか? はたまた、そいつの会社の方針なのか? 解りかねるが厄介な奴なのに変わりはない」と辟易して答えた 東城は「記者の本質は虚偽を暴く為に在る 真実を伝える死命の為に在る 彼は……虚偽や偽りをさも真実の様に述べている その真意は何処に在るのでしょうかね?」と不可解な事をすると口にした 「まぁ今はアイツは捨てておいて構わねぇ んな事より近い内にNPO法人の人材を集めて起動させねぇとな…… 来月から自衛隊がインシャアッツラーに入り、中毒患者をイルメキシタイン王国へと運び治療させる段取りとなっている インシャアッツラーの国の住民も近くにキャンプをはり、そこへ移動させる 建物を取り壊し整地して家を建てる アラブ圏内に特化した建物にしねぇとならねぇからな……カザイール卿にそれは頼んである それと同時に水源の確保……これが一番難解だ 井戸は永遠のモノじゃねぇからな…… 水源を確保しねぇと目先だけ潤っても意味がねぇからな…… 枯渇しない水源を……視野にいれねぇとならねぇよな?」 康太が謂うと榊原が 「始動し始めたばかりです 専門家と話し合って決めればよい事です だから……そんなに先へ逝こうとしないで……」 と康太の瞳を無理矢理に榊原に向かせた 康太は愛する男を見て嬉しそうに笑い…… 「急ぎたくはねぇけどな百年先を視ねぇと……国は滅びの一途を辿るしかねぇかんな……」と呟いた 「まだ一歩踏み締めただけです……」 まだ始まったばかり……だと榊原は康太を落ち着けさせた 「……だな……」 「君が軌道に乗せたのなら、百年先に逝ける筈です」 榊原の言葉を聞きながらも、康太の瞳は果てへと向けられていた 控え室に安曇が顔を出すと康太は嬉しそうに笑った 「康太……大丈夫ですか?」 変な記者がいたから……安曇は心配になり声を掛けた 「あれは何時もの事だ気にするな…」 「この前、オリンピック特化建設の会見の時にもいましたよね? 飛鳥井だけが儲かるのか?とか文句を言ってましたね…… そもそも飛鳥井はオリンピック特化建設には名乗りを上げてはいない 特化の区域内に飛鳥井のビルがあるから立ち退きと代替え地の用意を……と話し合っていたら、飛鳥井は最高に良い土地を貰えるんだろうな!なんて言ってましたからね……辟易していたところです 特化建設に名乗りをあげていようとも、いなくとも彼はネチネチ謂うのですからね」 安曇が謂うと堂嶋も眉を顰め、不愉快さを隠せずにいた 康太は気にするなと言っても気にするだろうから捕捉した 「アイツは当分メディアには出られなくなるから、本当に気にしなくても大丈夫だ 今回の件で……アイツは良くも悪くも世界に顔を売った事になる 何度も世界に向けて発信していると言っているにも関わらず、アイツはネチネチ無理難題言って来た 世界は飛鳥井の事を調べようと動くだろう そして事実無根だと知ると、悪目立ちした記者を調べようと動くだろう ニュースにもなるし記事にもなる 悪評も立つし……会社の評価を貶める行為にしかならない記者を表舞台に出さないだろう……自業自得だ……総ては自分が引き起こした事だ免れねぇだろうな…」 「今枝君を見てると……記者と謂うのは皆、そうなのかと錯覚しそうになるよ…」 「今枝は特別だからな…… 何処にいても仕事は完遂する…本質が違うんだよ」 総てにおいて記者であり続けようとする今枝とは本質が違う 記者と謂うのは本質を見誤れば……低俗な 存在に貶める事となるのだと言ったも同然の言葉だった 安曇は「…本当に捨てておいて大丈夫なのですか?」と改めて問い質した 康太は困った顔して「…大丈夫だ…総ては決められし理だ…」と曖昧に答えた 「私に何か出来ないのですか?」 「…オレの事より…拿捕されていた人間は戸浪や円城寺と共に倭の国に還るんだよな?」 「会見も終わりました 拿捕されていた人達は検査を受けていましたが、問題ないと謂われたので社長と共にチャーターした飛行機で帰国の途に着かれる事となりました」 「…ならオレらは一足先に帰国する事にする… 一緒には還らねぇ方が良いだろうからな」 「私も帰国します! 一緒に帰国しませんか?」 「……止めとく、迷惑かける事になるからな…… 勝也……オレを切れ! オレとは無関係な存在になれ! 正義もな…今後…オレに近寄るな! 良いな?」 「嫌です! 君が何を言おうが聞ける事と聞けない事があるのです!」 安曇は何を言い出すかと想ったら……と言い、聞く気はありません!と言い放った 康太は榊原を見上げた 榊原は康太の腰を引き寄せ 「勝也さん、正義さん、僕達はこれで失礼致します! 我が子を待たせているので、直ぐに帰りたいのです なのでこれから空港に逝って飛行機に乗り込みます その後直ぐに休暇に突入するので、ご容赦下さい 僕達は働き過ぎました そして我が子を淋しい想いをさせ過ぎました なので、これからの時間は家族と我が子の為に使います」 ニッコリと微笑み榊原は付け入る隙を与えず強引に康太を着替えさせた そして一生の方を見て 「一生、還りますよ! 勝也さんは貴史を連れて帰国して下さい」 事前に打ち合わせをしたのか兵藤は何も謂わなかった 康太は「ならな貴史!」と手を上げると 兵藤は「白馬でな!」と返した そしてそのまま荷物を持って控え室を出て行った 安曇と堂嶋は唖然として…見送るしかなかった 兵藤は溜め息を着いてソファーにドサッと座った 堂嶋は兵藤に「何か知ってるのか?」と尋ねた 「………康太は日本を立つ前から……俺とは別行動を取ると言っていた だから一生だけ連れて……来たんだよ 他の奴は白馬で康太達を待っている」 「……何故?…… 何故なのですか?貴史……」 安曇は兵藤に問い掛けた 「飛鳥井康太と帰国する……それは……安曇総理と……堂嶋正義の名を貶める事となるから……だそうです 三木繁雄は飛鳥井康太の“駒”と公言しているが…貴方達はそうではない この先も……飛鳥井康太の“駒”は三木繁雄、唯一人だと公言している 多分……康太は距離を置くつもりなのでしょう…… アイツはその気になれば家の中でも見事に避ける事が出来る奴です 逢うのは至難の技だったりします…… 気を詠み果てを視れば連絡すら取れなくなります 一生はアイツの為にいる存在だから……アイツが望まない事は一切しない…… だから一生は康太との仲介はしないでしょう 別に貴方達だけではない……多分……戸浪社長に対しても、今回の件で明るみに出た以上は距離を取ると想う… 円城寺社長は……康太の一部と謂うだけあって俺でも掴み切れない部分があるので知りませんが…… 他は必ず距離を置くつもりだと想う…」 兵藤の言葉を黙って聞いていた堂嶋は 「また……俺は康太の傍から切り離されるのか!」と叫んだ 苦労して飛鳥井康太の傍へ逝ったのに…… また突き放すと謂うのか…… 打ち拉がれる堂嶋に兵藤は 「違う……アイツはお前や安曇さんを護る為に動いているんだ…… 伊織は『日本に還れば嫌でも解りますよ』と言ってた 多分…あの記者会見が尾を引っ張っているんだと想う……… アイツは俺に二人を頼むと言った 俺はアイツとの約束を護る為に……此処にいる 二人の立場を護る為だけに……アイツは無関係な存在になるつもりなんだと想う…」と真実を告げた 康太は大切な人程……距離を置き巻添えさせないように配慮する 誰よりも傷付いているのに……自分は後回しで皆を護る そんな康太だからこそ、護りたいのに……そうはさせてくれない 兵藤だって一分一秒でも早く日本に還りたかった 康太の傍へ逝きたかった だが、拿捕されていた人達が帰国するタイミングに併せて帰国する事になっている以上、頼まれた事は完遂せねば還れなかった 帰国して直ぐに記者会見をする 安曇は……そうか……その場に……康太はいない方が良いと判断したのだろう…… 私は何を謂われても大丈夫なのに…… と呟き……ガックリ肩を落とした 「アイツは何時だって自分は悪役に徹して誰かを護ろうとして来た…… 自分はどんな事を謂われ様とも気にもしない癖に仲間や家族が謂われるのを気にする奴だ アイツがまだ高校生だった頃、伊織の事が記事に出ると知った時……アイツは伊織と別れる決断を下した事がある…… 泣いて泣いて……それでも護る為にアイツは愛するモノだって切り捨てようとした だから清四郎さん達は記者会見を開いた 醜聞として出される前に真実を伝える事になった アイツは今も……好奇な瞳で視られてるのを知っているから……人と距離を取るんだと想う… 本当ならドゥバイの王太子にだって……距離を置きたいんだと想う… 誰よりも自分を知っているから……アイツは巻き込まない様に必死なんだよ 解ってやってくれ……貴方達が大切だからこそ距離を取ろうとしているのだと……」 安曇と堂島は……康太の想いが悲しすぎて……痛かった 兵藤は……苦しそうな顔をすると 「……本当なら俺も……切りたいんだアイツは…… 中学の時は……愚かにもアイツを切った事がある アイツはチャンスとばかりに……距離を置き……俺を視界にすら入れなくなった それを無理矢理繋ぎ止め……傍にいようとするけど…… 今回の様に……アイツは俺を置いて逝きやがる 俺は……政治家になったらアイツの駒になろうと想うが……それは無理そうだ…… 安曇貴之……安曇さん貴方の息子がちゃっかり俺の逝くであろう席にいやがる 貴方の義理の息子はかなり手強い政治家になるだろう事を知っていますか?」 安曇は驚愕の瞳で兵藤を見て……首をふった 「……私は……知らない……」 「安曇貴之はポスト三木の立場を手に入れて、政界に立つ存在です 俺は…政治家になっても康太の傍へは逝けない…… とことん切り離され……正義、俺はお前と二人、日本を変える礎になるしかねぇみてぇだな」 「…だな……お前とは共に逝くと康太は何時も言っているな…」 「安曇さんのご子息の貴之君は三木繁雄が今、育てている 陸王と海王と共に進藤が教育し、三木が連れ歩いて実践教育もしている 美緒も貴之君の資質は安曇総太郎譲りだと謂う程に優れた資質を持っているそうで、俺は……どう逆立ちしても“駒”にはなれそうもねぇ……」 堂嶋はそれを知っていたみたいで 「………安曇貴之……やはり彼は康太の“駒”となる存在だったのか? 三木が国会の控え室にまで連れて来ている存在がまさか安曇さんのご子息だったとは……そう言えば俺はここ数年、貴之君には逢ってませんでしたね 高校入学のお祝いを持って行った時には鼻持ちならない感じでしたけどね…… そうか……あの子が……安曇貴之ですか」 「正義、知らなかったのか?」 兵藤は意外すぎて驚いていた 「ここ最近の彼の顔を思い出せと謂われても……思い出せない程に……時間が空いてるからな……」 「康太も連れ歩いている存在だぜ? 政界、財界、自分の持てる総てを貴之に託し、顔を売って名を識らしめている存在だ 次期、三木繁雄と名高き存在だ! 三木繁雄の子は政治家にならねぇのか知らねぇけど…… 三木は貴之を後継者として育てている 康太の果ての瞳には…そう映っていたから斬り捨てなかったのかもな……」 「………適材適所配置するが役目……か、重いな……人の人生を背負って逝かなきゃならないんだからな……」 堂嶋は空を見上げて……呟いた 安曇は義理とは謂え我が子が、三木繁雄の後継者になろうとしていようとは……知らぬ事ばかりで言葉もなかった 安曇は携帯を取り出すと、時差のあるだろうけど、日本へと電話を掛けた ワンコールで安曇の妻の登喜子が電話に出た 「登喜子……聞きたい事があります」 『何ですか?聞きたい事と言うのは?』 「貴之の事です 君は貴之が三木繁雄の後継者になるのを知っていたのですか?」 安曇が問い掛けると登喜子は息を飲んだ そして静かに話始めた 『それは知りません ですが貴之は飛鳥井家真贋の為に動くと言っていました この先の人生は飛鳥井家真贋の為に生きる……と言っていました 私は自分で選んだのなら、それで良いと送り出しました 貴之は三木繁雄の後継者になるのですか?』 妻の登喜子さえも知らない事実だった 「そうみたいです……私はそれを知りませんでした……」 『私も知りませんでした ですが…貴之は昔と変わりました 今は……まるで父を見ているみたいに…… 生き生きとしています 私はあの子が選んだのなら……応援したいです そのうち教えてくれる日が来るのでしょうか?』 「……登喜子……良かったですね 彼は今、自分の道を歩いているのですね… もう……何も迷う事なく己の道を歩んでいるのですね」 離婚した父の呪縛から解放され、自分の道を歩いているのだ…… 『あなた……貴之に連絡を取りますか?』 「……良いです 何時か自分で言ってくれる日が来るまで待ちましょう」 『あなた…体調を崩していませんか?』 「はい。もうじき還ります まぁ還っても事後処理で大変すぎて、そんなに早くは還れませんが…待ってて下さい」 『当たり前じゃないですか……あなた、お気をつけて……』 「登喜子…すまなかった……時差を考慮せず電話をしてしまった…」 『お気になさらずに… 貴方の元気そうな声が聞けて良かったです』 「では、帰ったら連絡します」 登喜子は『はい。』と答えて電話を切った 登喜子も何も聞かされていない風で、安曇は何だか妻が可哀想に想えた 強い女だ……彼女は…… 安曇総太郎の長女にして秘書を勤めあげていた女だった 思慮深い彼女は余計な事は言わない 安曇に負担を掛けない様に配慮して暮らしている 半ば政略結婚みたいなものだった 妻と子を亡くし自暴自棄になった淵から政治家に戻ろうとしたのは、康太を養子にしようと想ったから…… その時の為に家庭があった方が良いだろう……と想い結婚をした 尽くしてくれる妻を愛してはいなかった 自分の愛は……総て亡くした妻と子の為に在る そう思って生きて来た が、尽くしてくれる登喜子との間には静かな絆と愛が確かに在った 安曇は登喜子を妻と呼び、生涯の伴侶として言葉を紡いでいた 泣き言も愚痴も言わない女だが、どれだけの想いを抱えて生きて来たのだろう…… 大きな存在過ぎる父を持ち…… 父の為だけに生きて来た妻を不憫に想いつつも…… 何も出来ずにいた だが時は少しずつ穏やかに互いを近付けた 安曇は感慨深く妻を想った 兵藤は携帯を見て表情を固くした そして覚悟の瞳で前を見据えた 兵藤が携帯を見て覚悟の表情をしている頃、東都日報の東城洋人も驚愕の瞳で携帯を見ていた 東城は携帯を今枝に渡した 今枝は携帯を受け取り、画面に釘付けになった そして唇は……愚かな……と呟いた 東城と今枝は会社からの呼び出しだと言い、控え室を後にした 兵藤はそれを目で追って、動いたか……と呟いた 堂嶋は「何があった?」と兵藤に問い掛けた 「日本の上空に差し掛かったら話しても良いらしいから言う」ととぼけて答えようとはしなかった 支度をして帰国の徒に着く 安曇と堂嶋は兵藤と共に政府専用機に乗って、倭の国へと向けて出立した 先にトナミ海運の拿捕されていた社員が倭の国に到着した トナミ海運社長、戸浪海里は報道陣が出迎えてフラッシュがたかれる中 「ご心配をおかけ致しました」とだけ言いホテルへと向かった その後に赤蠍商事の社員が帰国した 社長の姿はなく、社長代理として不動雅祥が社員を連れて帰国した 雅洋はカメラの前で深々と頭を下げ、後程記者会見で……とだけ言いホテルへと向かった その後に政府専用機で帰国した安曇と堂嶋は想った以上の報道人に瞠目した 詰め掛けた報道人で空港はごった返していた 飛行機に乗って日本の上空に差し掛かる頃、兵藤貴史は口を開いた 「日本に還ったら……物凄い報道人が押し掛けている まずは腹を括って、それを遣り過ごして欲しい…… そしたら記者会見だ 記者会見では……何故飛鳥井家の真贋だか何だか知らないが、日本の国政に何故! 一介の日本人が出席しているのか? 安曇総理は関係なき者を記者会見に参列させて何をしたかったのか? 政治家としてそれは由々しき行為ではないか……と記者が押し掛けて……記者会見はそんな輩の誘導でかなりキツい質疑がされると想っていた方が良い…… 飛び火は……ドゥバイの王太子にまで燃え上がり……王太子はゲイなのか?と揶揄も飛び交う…… 耐えるしかねぇ記者会見となる 安曇さん貴方はアラブ諸国連合に飛鳥井家真贋のパイプがあっただけだと言ってくれと……の事です 正義さん貴方はサザンドゥーク共和国の内乱を国連の方々と行っただけだと押し通せ……との事だけ 飛鳥井家真贋との親密さは一切匂わさないでくれ!との事だ 貴方達は……無関係な存在で通してくれ!」 兵藤の言葉に……言い返す言葉も見付からなかった 安曇は康太の想いが痛くて……顔を覆った 堂嶋は上を見上げて堪えるように瞳を閉じた それが視えていたから…お前は距離を取ったんだな坊主…… 悔しくて… 悲しくて… 虚しくて… 堂嶋は両手を握り締め……耐えた 色んな想いを抱えて、飛行機は成田に到着した 飛行機を下りて税関を通ると、空港の職員に部屋へと案内された 通された部屋には、先に到着した戸浪海里と不動雅洋が安曇達を待っていた 部屋に入ると戸浪と不動が緊張した面持ちで座っていた その隣で電話している男に………安曇は瞳が釘付けになった 「ええ、無事控え室に誘導出来ました はい。総ては貴方の御心のままに…… では後程連絡を入れます」 そう言い、携帯を切ると振り返った男に安曇は唖然として言葉を失った 「安曇総理、堂嶋正義議員、御待ちしておりました 僕は飛鳥井康太の元に仕えます安曇貴之と申します! やっと公に出る事を許可されましたので、今後僕は三木繁雄議員と共に動く存在となります 以後お見知り置きを!」 安曇貴之はそう言うと深々と頭を下げた そして顔をあげると不敵な笑みを浮かべて 「記者会見の場は僕が御用意致しました 東都日報の方々が取った記者会見場はいつの間にか書き換えられてしまい使い物にならなくなったので、三木が僕に逝けと申し付けました 僕は飛鳥井家真贋が連れ歩く存在として、多少のコネは使えるので、コネを使いまくって邪魔物は排除させて致しました まぁ邪魔物は……真贋曰く排除しても湧いてくるそうなので…… ステージは小細工されない様に御用意は出来ました 後はあなた方の手腕となります! 僕は後方でお手並みを拝見させて戴きます」 不敵に嗤う顔はもう……安曇が知っている貴之の顔ではなかった 安曇が貴之に近寄ろうとすると、貴之はストップと謂わんばかりに、手で遮った 「安曇総理、お話なら記者会見が終り次第致します その頃には我が主も時間を作ってくれるとの事ですので、私用な話は総て終わってからにして下さい」 そう言い取りつく島もなかった 安曇はそれを受け入れた 堂嶋は貴之を見ていた 全く違う人種だと謂ってもおかしくない程に、成長を遂げた顔をしていた 自信に満ち溢れ、曲がらない瞳は何処か康太に酷似していた 安曇総太郎の孫にして、一番安曇総太郎の気質を受け継いだ存在だった 長男の貴也も貴之同様に……あの事件以降変わった 前では想像も付かない程に……精力的に動いている 突然……アメリカへ留学して、二年もしないうちにスキップしまくって大学院までスキップして学士号を取って帰国した 忙しそうに動く息子に安曇はなにも声を掛けられなかった 変わったのは貴也と貴之だけではなく、貴教も中学に上がるなり変わった 貴也が家庭教師になり勉強を教えていた かなりキツい教育に泣いている貴教を何度も見かけた 貴教は貴也や貴之と違い、登喜子と安曇との子だった 貴也と貴之は前夫の子供だが、貴教は安曇の血を分けた我が子だった だからと謂って差別はした事はない した事はないから……父と子との間に…… 結構な溝が出来ていたのだった 登喜子も安曇も本当に不器用な似たもの夫婦だった 控え室に三木繁雄が顔を出すと、貴之は瞳だけ向けて頷いた 「総てが整った様です それでは……」 貴之が言い掛けると三木は貴之に向けて、指で来い来いと合図した 貴之は三木の側へと近寄った 三木は貴之の耳元で何なら話し掛けると、貴之は驚愕の瞳を三木に向けた そしてワナワナ戦慄いて…… 「貴方……それ位阻止して下さいよ!」と無茶ぶりを言った 「無理言うな、俺にそんな権限ないの知ってるっしょ?」 「………つくづく想いますけど……貴方、本当に役に立ちませんね! 何であの人も……貴方なんて駒にしたんですかね?」 酷い謂われようである 「…貴之…」 「何ですか?」 「叔父さん苛めて楽しい?」 「楽しみでやってませんよ! …あの方がなにも謂って来ないと謂う事は想定内…と謂う事でしょうか?」 「……だと想って構わないんだろうね だからさ、君はそこの兵藤貴史だけだけ退かした人達を連れて、会見場に移動してね」 「解りました! では皆様、移動をお願いします 繁雄さん貴方はそこの無鉄砲を掴まえておいて下さいね! その人が動けば総ては無駄になりますよ?」 「解ってる…オジサン頑張るからさ、君は君の仕事を頼みます」 「繁雄さん、総てが片付いたら奢って上げます! 美味しいお酒を飲みに行きましょう」 「凄く楽しみにしておく! さてと兵藤貴史、お前は暫く私と共にいてもらいましょう!」 三木が謂うと貴之は安曇、堂嶋、戸浪、不動と共に控え室を後にした それを見送り三木は息を吐き出した 「貴史、頼むから大人しく俺と移動してくれ」 何時もは『私』と謂う三木が『俺』と謂う辺りで、かなりテンパっているのが伺られ、兵藤は「良いぜ、大人しく着いて逝ってやるよ!」と約束した 「但し、総てを話すなら……だがな!」 「ホテルの部屋を取った そこで記者会見を見れば……総ては解る」 「………なら俺を連れて逝けよ!」 兵藤が謂うと三木はドアを開けた 兵藤は大人しく三木と共に部屋を出て逝った 安曇と堂嶋、戸浪、不動は貴之と共に記者会見を開くホテルへと移動した 控え室に逝くと、そこには康太の秘書の西村沙織が貴之を待ち構えていた 西村は「総て整っている」と貴之に告げた 「……解りました! 沙織さん、無茶ぶりしたのに本当にありがとうございました」 「構わないさ 雇用主が留守で暇してたしな それに無茶ぶりはアイツの専売特許だからな!」 貴之は笑いながら「それでは着替えて下さい」と戦闘前の準備を促した 記者会見に相応しい服は、それぞれの秘書の手によって控え室に運び込まれていた 各々、それに着替えて支度が整うと貴之は 「それでは皆さん行きましょうか!悪意の巣窟の中へ!」と言葉にした 貴之は西村に「行ってきます!」と声をかけた 西村は「健闘を祈る!」 と言い深々と頭を下げて見送った

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