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第48話 分岐

一生が白馬へと逝き 兵藤も渡米した 仲間を欠いたまま、年の瀬を慌ただしく遣り過ごし 新しい年を迎えた 榊原は映画の脚本を書き上げ、撮影に演出家として参加して榊 清四郎の映画を絶対のモノにしようとしていた 隼人は康太の傍にいたい……と仕事をセーブして傍にいる事を選んだ そんな頃、康太の所に新庄高嶺と言う男性がサポートとして着いた 容姿は……高嶺と言う名に相応しくない厳つい男だった 野球で世界を制した男は、厳ついがかなりの男前だった 康太のサポートとして共に行動を共にする ボディーガード兼康太の助手(運転手)として、榊原が用意した男だった どんな関係かは……榊原本人しか解らなかった が、任せて安心な輩なのは見てとれた 子供も大きくなり、子供の教育も踏まえた上で、慎一の大変さを考慮して、慎一にもサポート要因を着けた 家庭教師兼慎一のサポートとして城之内星が着いた 名前から解る様に菩提寺の僧侶をしている城之内優の弟だった 城之内星も榊原が用意した慎一の為の存在だった 慎一は星を受け入れ、役割分担して家の事をやる事にした 主に子供の事は保父をしていた星に任せた 流石、榊原伊織 適材適所、見抜いてサポート要因を配置した 伴侶の鏡だと玲香は褒め称える程だった だが飛鳥井の家に一生の姿が消え…… 裏の兵藤が来なくなり…… 子供達はかなり寂しそうだった だがそうも言ってられない 哀しくとも寂しくとも……留まる事は出来ないのだから…… 牧場の方も専門分野のスタッフを取り揃え、経営は順調だった 宮瀬蓮司が牧場の手伝いに入ってくれる様になりより密度の高い調整が出来る様になった 実績を上げる為にアスカイテイオウとアスカイサンダーの仔を育てて逝かねばならぬと力が入っていた 慎一は牧場の経営管理をもっと緻密にする為に経営学を学びに専門学校に通い始めた 大学は康太と榊原が休学するのを見越して、その間に資格を習得するつもりだった 夢を追う 夢を掴む だが主に仕える男は何よりも主を優先して仕えていた 新庄高嶺と城之内星は飛鳥井の家に住み込んで仕事をしていた 家族は二人を受け入れ家族として過ごしていた 二人の部屋は最初から来るのを知っていたのか源右衛門の隣の部屋に高嶺 慎一の隣の部屋を星が貰って生活を始めた 聡一郎は一生が還ったらこの現状をどう捉えるのか 不安だった そして聡一郎も不安で仕方がなかった 康太の傍にいる それが許されなくなる日が来るようで……堪らなく不安になった 一生がいなくなったから入って来た二人が……どうしても……許せなかった 聡一郎は部屋に籠りがちになり……飛鳥井の家族とも距離をとった それが玲香達には心配で仕方がなかった 分岐点に来ていると康太は言った 分岐点に来ているから正しい道に逝かせねばならない……と。 康太の傍を離れぬ一生が傍を離れた 貴史も留学した ずっと一緒に……とはいかなくても…… 康太の傍にいて欲しかった 今のこの現状がこれが在るべき場所だとは想えなかった 榊原は二年準備に費やし、やっと形に出来たと映画の準備に余念がなかった 副社長 榊原伊織の穴を埋める様に、副社長のサポートを務める存在が飛鳥井にやって来た 竜ヶ崎水音(すいと) 竜ヶ崎斎王が次男だった 彼は幼き頃から帝王学を叩き込まれ、社会実践教育と銘打ち、斎王が手腕を見るためだけに送り込んだ逸材だった 竜ヶ崎の長男は政治家になると習わしがある 次男は斎王が経営する会社の社長を務める習わし 今年25になる水音は大学院を出て初めての実践場所に飛鳥井を与えられたのだった これで榊原が好きに動けるだろう……との康太の気遣いだった だが榊原にも不安はあった 脚本家として、演出家として映画に参加するのは長きに渡る榊原の悲願でもあったが…… 飛鳥井の家での絶対のポジションを譲り渡す気なんかなかった 副社長 榊原伊織の席を誰かに明け渡す気はなかった だが映画に専念すればする程…… 不安は増した 分岐点に来ているのは誰よりも解っていた 自分が望んだ先なのも解っていた だが……これが本当に望んだ先なのか? 解らずにいた みんな……バラバラになってしまっていた 隼人は康太に抱き着き 「淋しいのだ……」と口にした 康太は隼人を撫でた 「ごめんな…」 「聡一郎は皆を避けてしまっているのだ そろそろ…ちゃんと話さないとダメなのだ」 「だな……」 「みんな……バラバラなのだ…」 「……隼人……それでも必要な時間なんだ……」 「必要ならばオレ様は何も言わないのだ だけど一番康太が淋しそうなのだ……」 「だな……淋しいよ隼人… 淋しくて叫び出したくなる… でもな……仕方ねぇんだよ」 「そう言う康太が一番ダメダメなのだ! 夫婦生活は夫婦の絆のバロメーターじゃないのか? 康太と伊織……顔見たの何時って話なのだ それは夫婦とは謂えないのだ」 顔を見たのは何時だろう…… 脚本を書き上げてからの榊原は何かに取り憑かれた様に死に物狂いで、榊原の邪魔をしない様に見守って来た ちゃんと話をしたのは何時だっけ? 康太は苦笑して「まずは聡一郎だな………隼人、気分転換にホテルに泊まろうか? んでうめぇの沢山食って過ごそうぜ!」 「それは楽しそうなのだ!」 隼人を撫でながら康太は高嶺を呼んだ 「高嶺…」 「何ですか康太?」 「友と過ごすから少しの間、遠慮してくれ!」と告げた 高嶺は「承知した!そろそろ俺も仲間との時間を作れと謂う所だった なら俺は星の手助けをするとする」と快く了承してくれた 「康太……」 「何だ?高嶺」 「俺は……ずっとお前達四悪童に憧れていた…… あの絆……あの一体感……羨ましい位の絆にずっと憧れていた だから夢が途中で途絶えて……絶望していた時に榊原から話を貰ってコーチの話が出てたのに……断って此処に来た……」 それほどにお前達に憧れていた……と高嶺は呟いた 「高嶺、も少し………時間をくれないか? そしたらオレがお前を在るべき場所へ送り出してやるからな……」 「俺は…ずっとお前を護っているだけで良い……」 「それだと本来のお前の場所にはならねぇからな……恋い焦がれて死んじまうしかなくなるぜ?」 「……お前は本当に騙されてくれないな……」 「伊織がお前を拾ったのも同じ想いだったんだよ 此処で終わらせる気なんてなかったんだよ だから傷を癒したら……本来の場所に送り出してやるつもりだったんだ」 「……俺は……挫折の中……本当に救われたよ…… アイツも……星も……… 俺と同じ……だったのか?」 挫折の中で苦しんでいたのか?と問い掛けた 「星は‥‥少しだけ違う アイツは愛する者と我が子を一度に亡くしているんだよ お前が巻き込まれた事故の…あの場所に星の身重の妻がいた お前と星は同じ日、同じ場所で絶望を味わった…」 「…星は奥さんと子を…あの玉突き事故で亡くした……と謂うのか?」 康太は諦めた瞳を向けると、PCを叩き高嶺に見せた 事故の被害者の一覧だった その中に自分の名と城之内と謂う苗字を見付けた 「此処に栗田一夫と陣内博司っているやん…そいつはオレの駒だ だから栗田達を狙った犯行だった お前と星の家族は巻き込まれたんだ」 高嶺は言葉もなかった…… 自分の選手生命を絶ったのが…報復とも…謂える無差別テロみたいなモノだと謂うのか? ただの事故ではなく……狙ったと謂うのか? なら巻き込まれた方は…その時間にその場にいたから巻き込まれたと謂うのか? 高嶺はやるせない想いだった 絶頂期に奈落に突き落とされた 野球しかやって来なかった男は…… 野球が出来なくなると見向きもされず……お荷物になった 康太が引き起こした事故ではない だけど……やるせない気持ちになった 「高嶺、辛いなら他の仕事を紹介出来る」 「話してくれてありがとう でも大丈夫だ! この場所は榊原が用意してくれた場所だ 俺は此処から這い上がると誓った だからケツを捲る訳にはいかないんだよ それよりも星は……その話…知っているのか?」 「知っている 飛鳥井と謂う家は古くてな 独特な宗派を持っているんだよ 星の兄貴、城之内優は飛鳥井の菩提寺の住職をしている 城之内の家系は代々飛鳥井の菩提寺を護る為に存在している オレは城之内に総てを話した 城之内は星に総てを話した…… その上で城之内は榊原伊織に弟を託した 此処で傷を癒し、お前達を本来の場所に送り出すのがオレの務めだ! オレは適材適所配置するが役目! お前達の未来へオレは導く義務がある!」 「……俺は……」 逝ける場所がありますか? なりたい自分になれますか? その言葉は飲み込んだ 今は聞くべき時ではないからだ 「嫌…良い…」 「…そうか…」 康太はそう言い高嶺を視た 高嶺の果ては続いていた 今は少し傷を癒す時を必要とするが、果てへと飛び立てる翼は力強く羽ばたこうとしていた 「オレの瞳は人と違う オレの瞳は人の果てを映す お前の総てをオレは視る事が出来るんだ」 「……そんな事が……」 「出来るんだよ オレは視えるから軌道修正も図りやすい オレの瞳にはお前の未来が視えている オレは…そこへお前を送り出してやるつもりだ」 それだけ聞けば十分だった 高嶺は清々し顔をして「ありがとう!」と康太に礼を言った 康太は何も言わず微笑み携帯を取り出した ワンコールで相手が出ると 「話がしてぇ……少し時間を作れねぇか?」と問い掛けた 相手は息を飲み…… 『何時でも僕は大丈夫です』と告げた 「なら下りて来いよ! オレは応接間で待ってるかんな!」 そう言い康太は電話を切った 隼人は「ファミレスに行く?それともホテルを取るのか?」と問い掛けた 「隼人がしたい所に逝こうぜ!」と言い頭を撫でた 聡一郎が応接間にやって来る前に高嶺は応接間から出て行った 聡一郎が応接間にやって来ると康太と隼人がいた 聡一郎は「お呼びですか?」と固い表情で口にした 「聡一郎、ホテルを取れよ そこで飯を食おうぜ!」 「解りました部屋を取ります」と言い携帯を取り出しネットで予約をいれた 「逝きますか?」 「おー!支払いは隼人がするから任せておいてくれ!」 康太が言うと隼人は慌てた 「康太、オレ様は今……お仕事をサボっているから収入激減してるのだ」 「お!母の元にいてくれたからな! 優しい我が子の為に母ちゃんが奢ってやんよ!」 康太は隼人の頭を撫でてそう言った 聡一郎と共に飛鳥井の家を出ると、タクシーを呼び出してHOTEL NEW GRANDへと向かった ホテルについてフロントで部屋を取るとルームサービスを頼んで部屋へと向かった カードキーで部屋を開けると康太は部屋へと入って行った ソファーに座ると康太は聡一郎に座れと命令した 「家族と距離をとってるやん、言いたい事があるなら言えよ」 「……一生はどうして家を出て逝ったのですか?」 「アイツは親父の意思をハッキリとする為に白馬に行き調教師の道を歩み始めた 本当ならもっと早く逝かせるべきだったんだ! 大和にファームが出来た頃にやるべきだった 遅すぎなんだよ 共にいたいと言う願いが強すぎて本来の場所に逝けずにいた…… 本来の場所に逝くべきなんだよ 一生も貴史も……お前もな」 「………康太は……僕も切るつもりなの? だから……一生のいる場所に知らない奴を入れたりしたの?」 聡一郎の瞳は絶望に翳っていた 「切るつもりはねぇし、高嶺と星を留めるつもりはねぇよ アイツ等はアイツ等の逝くべき道を歩ませる 今は…傷を癒す時期になる 傷が癒えたらアイツ等は飛び立って逝く それが在るべきカタチだかんな!」 「……何故……一生のいる場所に……あの二人がいるか……聞いて良いですか?」 「お前は陣内と栗田の事故の処理に当たったよな?」 「……?ええ……事故に遭ったと謂うので久遠を動かして手筈を整えました」 「……あの事故には巻き込まれた被害者がいたの……知ってるか?」 「はい……スポーツ選手と出産の為に実家に帰宅中の主婦を乗せたタクシーの運転手と乗客……」 「そのスポーツ選手が新庄高嶺だ 出産の為に実家に帰宅中のタクシーに乗った主婦が城之内星の妻だ……」 「……え?……事後処理をしたのに知りませんでした……」 「あの二人は悪意の一瞬で……人生を狂わされた…… オレはアイツ等の傷を癒し、果てへと導く義務がある そうだろ?聡一郎……」 聡一郎は顔を覆い……肩を震わせていた 「……彼等は……一生の場所を取ったんじゃなく……」 「傷を癒すまでの羽根を休めているだけだ あの二人は本来の場所に必ず戻る! 一生は安曇貴也、貴之、貴教兄弟に触発され、在るべき道に逝くと言い出したんだ 貴史だってそうだ この先を考えたら桜林で終わって良い筈がないと想っていたんだ だから相応しい自分になれる場所へ各々旅たったんだ オレ等は……アイツ等が還るまで待っていれば良いんだよ そしたら共に逝ける時間がまた重なる……」 「未来の為に?」 「そう未来の為に!」 必要な時間だと康太は言った 聡一郎は納得してスッキリした顔をしていた 「康太」 「ん?」 「僕、感じが悪い態度取ってました」 「気にすんな!」 「気にします 貴方、一人で何を調べているのですか? 最近、いない日の方が多いですよね?」 「聡一郎、色んな事があり、色んな局面を迎えたけれど、何一つ解決はさせてねぇんだよ」 「……あ……そう言えば……そうでしたね サザンドゥーク共和国の石の件にしても、闇を操り記者会見を混乱させた闇の正体にしても……ダンピールの韜晦させたボスにしても…… 何一つ解決してませんね!」 「こんなに沢山の血が流れたのにな…… 何一つ解決出来ねぇってのは本当に情けねぇよな? だから色々と動いて調べているんだよ それに……どうやら刺客を送り込んでいるみてぇだからな…… ちょうど良いと皆と距離を取ってみたんだ」 「刺客?狙われているのですか?貴方!」 「そう。何度も狙われた」 「伊織はそれ、知っているのですか?」 「知らねぇよ! 今は撮影の真っ只中じゃねぇかよ!」 「………貴方……伊織に何かしましたね?」 「してねぇよ! 本当に伊織は今、映画に心血を注いでいるんだ!」 「ねぇ康太、伊織の代わりは竜ヶ崎水音がやってるんですよね? 彼は……還れる席がないと……想っているんじゃないんですか?」 「どうだろ?マメな伊織が最近ではメールもして来ねぇし、お前、週刊誌見た?」 「見てません」 「伊織、スキャンダルだしたんだよ」 「えええ!!それは嘘でしょ!!」 「本当だよ だから隼人がオレから離れずにいるんじゃねぇかよ」 聡一郎は隼人を見た 隼人は康太に抱き着いて護るようにしていた 隼人は母である康太を護っていたのだ だから仕事もセーブして傍にいる事を選んだのだ 聡一郎が引きこもっている間に…… 世情は変化を遂げていた 「……君は……どうするのですか?」 伊織の浮気…… 康太が許す筈なんてない! 「オレ?オレは片付けねぇとならねぇ事が山積しているからな それをちまちま片付けて逝っているのに忙しい」 「伊織の事……宜しいのですか?」 「訂正したいなら伊織が来るだろ?」 「その噂……何時出たのですか?」 「二日前」 康太が言うと隼人がタブレットで榊原のスキャンダルを検索して見せた 「……なら伊織は言い訳する為に君に連絡を取ろうとする筈です 連絡はないのですか?」 「どうだろ?携帯、池に落としたもんな隼人……」 康太は困った顔をした 聡一郎は言葉もなかった 池ポチャ……って何をしてて池ポチャさせたの!! 「どうやったら池ポチャになるのですか?」 「真贋の仕事してたんだよ で、池を浄める時に携帯落としたんだ」 あちゃー! 聡一郎は額に手を当てた 一生がいない今、連絡を取れる存在がいないじゃないか! あ、その為に高嶺を着けたのか? 聡一郎は悔やんだ 拗ねている間に康太に迷惑をかけた 「……康太……ごめん……本当にごめん……」 聡一郎は謝った 康太は気にする風でもなく運び込まれた料理を食べる事にした 聡一郎は先程のタブレットをじっくり見た 脚本家の榊原伊織が若手俳優の檜山克美と食事をする風景が撮られていた 飛鳥井家真贋伴侶と名高い榊原伊織の新しいお相手は、実力派No.1の男優だった 連日報道各局はその噂で持ちきりだった 飛鳥井の家にも報道陣が詰め掛けていたが、康太が手を回し報道陣を遠ざけた 飛鳥井の家に近付けるならチャンスと想ったのだろう 幾重にも張り巡らされた結界さえなければ好き勝手にされていた所だった 「飛鳥井に近付き飛鳥井家真贋に最大の苦しみを与える……その為だけに…… 敵は隙あらば狙って来ているんだ こんな風に食事をしてるだろ? すると………」 ビシッと窓ガラスに銃弾のヒビが目の前で入った 「防弾ガラスに決まってるやん! 何故オレが常にHOTEL NEW GRANDにしてるか解らねぇのかね?」 康太は窓ガラスのヒビなど気にも止めずに食事をしていた 「今夜は泊まるか? 聡一郎、宿泊と入れておいてくれ!」 「了解!」 聡一郎はフロントに電話を入れると宿泊に切り替えと伝えた 康太は携帯を取り出すと何処かへ電話を入れていた 聡一郎は「携帯……持ってるのですか?」と問い掛けた しかもその携帯は、見た事のない携帯だった 「伊織に作って貰ったのは池ポチャしちまったからな 瑛兄名義で一台作らせたんだよ」 「あなた…何を企んでいるんですか?」 聡一郎は眉を顰めて問い掛けた 何一つ見てえは来なかったからだ 唯、何も解らないのに…… 一つだけ最悪な状況だけは解った 榊原伊織はイライラ、イライラしていた 最近、スキャンダルが出た 脚本家としてアドバイス戴けませんか? と謂われてレストランで話をしている所を撮られた 全然好みでない男だった なのに連日報道陣が榊原の元へ詰め掛けて…… 榊原は辟易していた 父、清四郎は息子が出したスキャンダルに目くじら立てていた 何度事実無根だと言っても……聞いてもらえなかった 榊原は村松監督にあの俳優、使わなきゃダメですか?とまで言う程だった その上、康太に電話が繋がらなかった 一生もいない今、聡一郎に連絡しても引きこもっているから知らない……と一方的に電話を切られた 慎一に電話を入れても今は飛鳥井にいないので解りません!と謂われ…… 仕方ないから高嶺に電話を入れたら、何処に行ったのか解りません……と言う始末 一生ならば何処までも食らい付いて逝くのに…… 星に電話をしても、僕は子供達の専門ですので……と謂われてお手上げ状態だった 康太の秘書の西村に電話を入れたらスキャンダルを揶揄され爆笑され電話を切った 瑛太に電話を入れるとスキャンダル出す暇があるなら副社長に戻れ!とまで謂われた 瑛太も康太の事は心配しているが、掴まらない以上はどうしようもないと言い電話を切った 榊原の堪忍袋が切れた その日は何時もより榊原は不機嫌で誰も近付く事は不可能だった 撮り直しする俳優に無能は去りなさい!とまで言い……清四郎に怒られた 榊原は清四郎と喧嘩して撮影所を後にした 駐車場に行き車に乗り込もうとすると…… 車にズキューンと銃弾が突き刺さった 榊原を狙って射撃したが、榊原を取り巻く結界が時空をねじ曲げ車に突き刺さったのだった スキャンダルをおこした俳優が榊原を追い掛けて近寄ろうとした すると榊原は「来るな!」と言い捨てた 「お前ごときとスキャンダルになるなんて本当に不覚でした! 好みの男でないのにスキャンダルなど出したくもないのです 気安く近寄るのは止めて戴きたい 本当に陳腐な誘いに乗ったものです…… 僕の前から消えなさい! でないと……お前一人消す事など容易いのですよ?」 狂気にも似た瞳で見られ、男は身動きが出来なかった 榊原は怒りに任せて八つ裂きにしてやろうかと想っていた 鋭い爪を出そうとした瞬間 「伊織!」と言う声が聞こえた 愛する愛する……康太の声だった 榊原は振り返ると康太を確認して抱き着いた 康太は男に「逝け!」と言い捨てた 鋭い瞳で魅入られ男は……恐怖を抱いて後退り走り去った 「君のプレゼントの車が……傷付きました」 「直してやるから大丈夫だ!」 「君……携帯はどうしました? ここ二日繋がりませんでしたね」 「池ポチャして動かねぇんだよ 今は瑛兄に作って貰った携帯を持ってる」 池ポチャ……何をやってて池ポチャ? 「……君何をしていたんですか?」 「池の浄化だよ! 怨霊が憑いててさ…めちゃくそ大変な仕事だった 銃弾で撃たれそうになるしよぉ……最悪の日だった その翌日に伊織がスキャンダルだすし……殺してやろうかと想った」 「僕は君しか要りません! 君は知っていて……少し離れると言ったのですか? 呼びに来るまで動くな……そう言ったのですか?」 「違げぇよ、本当に危なかったんだよ 少し待て、唐沢、捕まえた?」 康太は手にしている携帯で問い掛けた 『……あと一歩と言う所で……逃げられました…明らかに…今までの殺し屋とは違いますね』 「そうか……」 『例の……殺し屋ですか?』 「多分……来てるんだよ近くによぉ!」 『真贋、どうします?』 「唐沢……堪えるしかねぇんだよ」 『そうですがね、お風呂入りたい……お酒飲んで寝たい…』 「……なら、今夜は家に帰れ」 『そう言う訳にもいかないっしょ? それより真贋、伴侶殿のスキャンダルって操られていたのですか?』 「………あれは脚本家を手駒にすれば良い役が回って来るから色仕掛だろ? なんたってアイツは飛鳥井建設の副社長でもあるからな……地位と名声を手中に納めている奴には誘惑も多いって事よ」 『どさくさに紛れて撃ち抜いてやろうかと想いました……』 「物騒なことを言うな……」 『だって……貴方の伴侶に…俺は腹が立って仕方がなかった! どさくさに紛れて撃ち抜いてやろうかと何度も想った……』 「止めとけ……お前の手を汚す必要なんてねぇからな!」 『あわよくば……』 「唐沢、ホテルに来いよ! 伴侶がお礼の為にお前に奢ってやると言ってるぜ!」 『では何処へ向かえば?』 「東急イン桜木町に来いよ! フロントに謂えば解る様にしておく!」 康太は詳しく説明した 『了解、美味しい酒期待してます』 そう言い連絡を断つと、康太は唐沢のいたであろう方を目で追い掛け、嗤った 「弥勒、追跡出来る?」 『……出来ぬ事もない』 「なら頼むな! それと…あの件、回しておいてくれた?」 『あぁ、回しておいた』 「そうか、それは楽しみだな ありがとう弥勒」 『………康太…伴侶殿は無実故……お手柔らかに……するのだぞ?』 「どうしょうかな? オレ以外とスキャンダル出してるし……」 『あやつも……肝が冷える想いをするであろうし……穏便に……』 「でもな此処はお仕置きしとかねぇな!」 『……それがやりたいだけであろうて……』 「それもある」 康太はニヤッと嗤った 弥勒は『程々にするのだぞ……』と言い気配を消した 康太は榊原に「撮影所に戻るぜ!」と言った 「……え?何故?」 「謝らねぇとダメだろ? イライラと八つ当たりして良い映画が撮れると想っているのかよ?」 「……想いませんが……僕の忍耐力は尽きました…… 君がいないなら僕は生きるのを止めたくなります……」 康太は愛する男の背中を擦った 「清四郎さんの為の映画じゃねぇのか?」 「……康太……キスして?」 「それは場所を選ぼうぜ伊織 後でキッチリお仕置きしてやんからよぉ! さぁ村松と清四郎さんに謝ってホテルに逝こうぜ!」 康太は愛する男の背を押して歩き始めた 榊原は康太と共にいられて嬉しくて手を握り締めた 康太が撮影所に顔を出すと村松が康太に飛び付いた 「村松、伊織がイライラしてかなり八つ当りしてたんじゃねぇか?」 「……はい……脇役や他の俳優が怯えてしまいまして……」 「伊織は回収して逝くからな、後は頼むな」 「………あのスキャンダルは嘘ですから……」 「大丈夫だ村松 伊織がオレ以外を選ぶ訳がねぇからな!」 愛されていると自信があるからこそ言える台詞だった 清四郎は康太を見つけると、走って傍に駆け寄った 「……康太!伊織は浮気なんてしてません! 私がずっと見張っておりした!」 「清四郎さん心配なんてしてねぇよ! オレの方が少しだけ取り込んでてな…… 身動きとれなかったんだよ 本当ならもう少し落ち着いて出て来たかったけどな、伊織が限界だった」 「……何があったのですか?」 「裏の世界には殺しを請け負う組織もある どうやらオレは報償金を掛けられたみてぇでな… ここ数日……銃口がオレを捉えて離さねぇんだよ さっきも伊織の車に一発ブチ込まれた だからなオレがいる事の方が…迷惑と危険が伴うんだよ だからこの場を後にしたら終息するまで姿を隠す事にするつもりだ」 「………康太……」 清四郎は心配そうに声を掛けた 「大丈夫だ!清四郎さん 榊 清四郎の映画に横槍も妨害もさせはしない!」 「違います!私は君の身を案じているのです!」 「ありがとう……でも大丈夫だ! オレは負けたりしねぇかんな! 絶対に屈したりなんかしねぇ!」 「……康太……」 「あと少し……事態が落ち着いたら…… また撮影所に顔を出します それまで、どうか耐えて気張って下さい」 「康太……伊織をたぶらかそうとした俳優は……相賀に言って……排除させます」 「ダメだ!清四郎さん! あの俳優は棘の道を逝かねば才能は開花しない 自己中で手に入らぬモノはない傲慢な性格をへし折らねば……此処で終わる 相賀は再び……木瀬の様な俳優を出さぬ様に村松に預けたのだ 傲慢さが鼻につく様になり相賀は危機感を抱いた 若くて才能があるものを甘やかし己を知らず天狗にさせる 天狗の鼻をへし折らねばならねぇんだよ それには清四郎さん貴方が適任だとオレが相賀に言った 貴方の役者魂を見て伸びきった鼻がポキッと逝くかと想ったんだがな 甘かった見てぇだからスパルタで叩き上げてやってくれ! それでダメなら役者としては使えねぇからホストでもやらせるか? アイツの逝く道は二つに一つ 今分岐点に来てるんだよ 役者として身を立てるまで食い縛るか 役者になれず身を落とすか、どちらかしかない 村松、お前の眼にはどう写っているのよ?」 康太は村松に意見を聞いた 「彼は自意識過剰の塊です 役になろうとカタから入り陶酔し自己を貫く 役者としては壊滅的に使えません 君の要望でしたが、彼がいては構図は台無しになる事も多々とある あの自意識だけでもなくなれば、スタートラインには立てるかな?と言う所です」 「ならさ、本人がもう辞めると言うまでしごいてやれよ! 辞めると言うなら賠償金でも請求してやれよ! 1億位の賠償金を吹っ掛けられるぜ! 1億耳を揃えて払うか、仕事を続けるか? 二者選択で追い込めよ! そしたらきっとお前の描く明日が撮れる」 康太の言葉に村松の瞳が光った 「解りました! 脅しの材料は、用意してくれてますか?」 「明日にでも天宮に届けさせる」 もう用意してあるとの言葉をもらい村松は俄然燃えた 「では狸界の大狸として一世一代の化け勝負と逝きます! 貴方が用意してくれたステージを完遂してみせますとも!」 村松の顔が怖かった 悪代官ばりの笑顔に……康太の笑顔も引き攣った 康太は清四郎を見て 「そう言う事だからさ宜しくね清四郎さん」 「………貴方は……妬けなかったのですか?」 と、配置した感情の裏を問い掛けた 「妬けるに決まってるやん! オレ以外の奴と食事なんてふざけるな!と言いてぇよ! そんなマヌケな事をやってるから週刊紙が飛び付くんだって言ってやりてぇよ 自覚がねぇのか? 脚本家であり、飛鳥井建設の副社長してる身だって自覚がねぇのか? 馬鹿馬鹿しくて張り倒してやろうかと想ったさ! 男も女も伊織の肩書きと、その容姿なら色仕掛しても欲しいだろうさ 見目の良い男にエスコートされて有頂天にもなるわ その上、こいつは副社長なんて肩書きもある 美味しすぎだろ? 贅沢も名声も手に入れられる存在としてか見てねぇからな! そんな奴等にオレが等価に想われるのが癪に障る! オレの存在を貶めるのも高めるのも伴侶の言動にあるのだからな!」 康太は身も凍る嗤いをして清四郎を視た 清四郎はこんな康太は見た事がなく……恐怖を感じていた 怖い…… 康太の怒りが解る…… 清四郎は言葉もなく固まっていると、康太の携帯がけたたましく鳴り響いた 康太は清四郎に背を向けると、電話に出た 「唐沢何かあったか?」 『HOTEL NEW GRANDの貴方が取った部屋が火災に遇いました』 「……京極かよ……ったく……」 『そして東急イン桜木町の貴方が取った部屋ですが…… 暴漢が入り込み……中にいたSPに取り押さえられました 認めたくないけど漏れてますね…これは…』 「だな唐沢、やっぱこの携帯筒抜けなんだな やっぱ電波ジャクされてるみてぇだな」 『……ですね……』 「上手だったな相手も… オレは何時もの場所に逝くとする」 『解りました お待ちしております』 唐沢が電話を切ると、康太は携帯を地面に落として叩き踏み潰した そして他の携帯を取り出すと 「瑛兄、ケツ番が65の携帯、解約して」 『解りました ……解約しておきます 康太…無事なのですか?』 「オレは大丈夫だ! それより水音の力は相当だろ?」 『あぁ、彼は人間ですか?』 「彼の父親が人間離れしているからな、彼はその血を受け継いでると言う事だ 瑛兄、あと少し耐えてくれ」 『兄はお前が還るなら耐えて見せますとも! それより伊織、かなり参ってましたよ 意地悪しないで傍に逝ってやりなさい』 「解ってんよ!瑛兄 伊織は今回収した」 『なら良いです 伊織が浮気……家族は大爆笑してました、とお伝え下さい、では』 そう言い瑛太は電話を切った 康太は榊原を見上げると 「伊織」 「はい。」 「お前のスキャンダル、家族は大爆笑してました……だってさ瑛兄が……」 「………大爆笑……そうでしょ……そうでしょ……義兄さんなら言いそうですよね?」 「そう拗ねるな、可愛いじゃねぇかよ!」 康太は笑って村松に向き直った この二人の仲は、そんな事ではヒビさえ入れさせれないと証明したも同然の言葉だった また家族もスキャンダルなど信用すらしていないと言ったも同然の言葉だった 「村松、後は頼むな」 「はい。承知しました」 「なら逝くぜ伊織」 康太はそう言い歩き出した 榊原は慌てて康太に着いて逝った 村松は清四郎を見て 「あの二人は絶対ですね」と言葉にした 清四郎は榊原が出したスキャンダルに衝撃を受けていた もし……康太が怒って別れでもしたら……不安で仕方がなかった だが杞憂だった 清四郎はホーッと息を吐き出した そして役者の顔になると 「村松監督、檜山克美を呼びなさい! 直ぐに来ないなら役者生命はないと脅して時間厳守をさせなさい 相賀が飛鳥井家真贋に託した役者ならば、私は相賀の友として鍛えねばなりません! 甘い事は言ってはおられません!」 厳しい言葉を投げ掛けた 村松は清四郎の要望通り、檜山克美を呼び出した 少し遅れるだけで叱責が飛び交った まさに針の莚に座らされている状態となった スパルタで現場の皆が厳しい態度で接する ケツを捲る事すらさせぬ姿勢に、矯正されるしかない檜山は…… バリバリと一皮も二皮も脱がざるを得なかった 矜持も甘えも総て叩き壊され、持てるプライドさえ粉々にされた まさに丸裸で何も持たない状態とされた そんな檜山に村松は 「飛鳥井家真贋からの伝言があります 『その場から這い上がって来いよ!』との言葉を承りましたので、君に伝えます」 と伝えた 粉々のプライドがボロボロ崩壊して落ちて逝く もう立ち上がれる気力さえないのに? 『その場から這い上がって来いよ!』と言うのか? 檜山は唇を噛み締めた 強く……血が滴り落ちる程に噛み締め…… 立ち上がった ここで終われるか! あの日視られた瞳が脳裏から離れなかった 総てを見透かす瞳には、どんな風に写っていたのか…… 薄っぺらい自分が恥ずかしかった 一歩踏み出す毎に骨身にヒビが入りそうな痛みに耐え…… それでも檜山は立ちあがり歩み出した 村松は化けた檜山の顔を見て確信した この映画は人生最大の映画になる……と。 康太は適材適所配置して、どの一本も欠かせない骨組みに組み上げた 愛する男とスキャンダルを出した男でさえ、その骨組みに組み込み……織り成した 榊 清四郎の代表作をより確かなものにして、更に先へと促した 村松はメガフォンを握る手に力を込めた 康太と榊原は首都高を走り、関係者以外立ち入り禁止のゲートを開けて脇道に逸れて走り続けた 榊原は「そこを左だ」と謂われても、関係者以外立ち入り禁止のゲートが邪魔して通れそうもなかったから躊躇した だが榊原の車がゲートに近付くと、待ち構えていた様にゲートが自動で開いた 榊原の車が通ると即座にゲートは閉ざされ、榊原はどの車も通らぬ一本道を走った ひたすら走ると壁に突き当たり康太は 「その壁の前で停まれ」と言った 康太が車から下りると壁にドアが出現して、ドアが開き一人の男が出て来た 康太はその男の傍に逝くとよじ登っておぶさった 「唐沢、伊織の車に銃弾を撃ち込みやがった!」 とかなりお怒りモードだった 唐沢と呼ばれた男は慣れているのか笑って康太を背中に張り付けて榊原に向き直った 「内閣情報調査室の唐沢と申します!」と唐沢は自己紹介した 榊原は遅れて「榊原伊織です」と自己紹介した 唐沢は榊原を見て 「あの檜山って奴、手が滑って撃ち殺してやろうと想いましたよ」と爽やかに笑って言った 爽やかに言う所か?そこ… 体操のお兄さんばりのイケメンさと爽やかさが唐沢にはあった 唐沢は康太を背負ったまま、榊原を壁の中へと案内した 壁のドアの中へ入ると…そこは… 広大な施設だった 壁には100を越えるテレビモニターが設置され、瞬時に画像が壁に投影されていた 榊原は「此処は?……」と唐沢に問い掛けた 「此処は関東領域を監視するセクターです 犯罪の抑止力を図る為に創られたセクターだ! 此処の監視は我ら内閣情報調査室の役目である 伴侶殿は飛鳥井家真贋の現在の立場をご存知か?」 「……いえ……知りません」 唐沢は康太を背中から下ろすと、冷蔵庫からペットボトルを取り出し、榊原と康太に渡した 「では、ご説明致します 飛鳥井家真贋の命を狙え!報償金は50000$ 円に換算すると50,000ドルは 約561万7,978円になります 飛鳥井家真贋の命を取れば、そのお金が手にはいる……と言う事で、世界各国の殺し屋が康太を狙って来日して来てると言う訳だ! 伴侶殿が狙われたのは姿を隠した康太を燻り出す為の行為かと……」 榊原には信じられない言葉だった 康太が……殺し屋に狙われている? 何でそうなった! 榊原は唐沢を見て何故そうなった?と尋ねようとした それよりも早く唐沢は「理由なんて解りませんよ!だが現実は命を狙われている、と言う事実だけだ! 伴侶殿をお呼びしたのは、その車を預からせて戴く為だ 車は此方でご用意した それを当分乗って下さい!」 「……今後の対策は……あるのですか?」 「康太が暗殺の上書きをした それが上手く逝ったら……此方も動ける」 「上書きと言うのは?」 「なぁに、飛鳥井家真贋の命を狙っている奴を消せば報償金を払う!と言う逆の依頼を出しただけです 我らは裏の世界を把握して管理している それは世界各国共通の案件だ 押さえ付けるのではなく、把握と管理 謂わば容認している部分が大きい だが容認しておけば事態が大きくなった時に粛正が早く出来る 裏の世界を動かして状況を操作するのも我等の仕事の一環だ」 「成果は上がっているのですか?」 「もう何件かは始末出来ているが…… ロンドンから凄腕の殺し屋が来日してると謂うから……気は抜けない状態には変わりはない」 唐沢はそう言いリモコンを持つと、ロンドンから来た凄腕の殺し屋の顔写真を写し出した 「この顔をコンピューターに把握させて検索かけているんだけどな…… 今のところは空振りだ!」 「僕の康太を殺そうと謂う男の顔は脳裏に焼き付けました! 見付けたら……生かしてなどおくものですか!」 「伊織……我等は人は……」 殺しちゃいけねぇ……と謂う言葉が消える程に榊原は蒼い妖炎を上げて怒っていた 「解ってます奥さん 人気のおらぬ場所で氷付けにして放置すれば……自ずとその命絶えませんかね?」 唐沢は、おいおい!と想った この人危ない…… 真顔で謂う台詞じゃねぇ…… 「伊織、唐沢がかなり引いてる」 「それは失礼! お許しを!」 榊原はスーッと胸に手を翳し、腰を折り詫びた 王子様がやるとサマになるスマートに詫びを入れる姿は気恥ずかしくなる程にサマになっていた 「伴侶殿、落ち着いて下さい 我等とて手をこまねいていただけではありません!」 「承知しています! でも此処からは頭脳戦ですよね? 相手の目論見の上をいかねばなりません それなれば、僕が絵図を描きましょう!」 「伴侶殿が?」 「僕は脚本家ですよ? 人を動かすには誰よりも確かな眼は持っています!」 成る程! 唐沢はあっさりと納得した 「ではお話をお聞きしましょう!」 と唐沢が謂うと回りにスタッフ(諜報員)が集まってきた 榊原は短時間に見聞きした情報を元に緻密な計算がされた絵図を描いた 流石、飛鳥井家真贋の伴侶 一筋縄ではいかないとスタッフは肌で感じていた 考えた殺し屋を誘き出す作戦を緻密に頭の中で組み立てシナリオを描いて逝く そして魂まで冷える笑みを浮かべ 「この殺し屋の情報を得るには正攻法では無理なようなので我が兄と弟をお呼び致しました」 そう言うと何もない空間から黒龍と地龍が姿を現した その場に居合わせた者に一瞬緊張が走った 「康太、君も使えそうな毘沙門天をお呼びして下さい」 「だってさ毘沙門天」 康太が謂うと何もない空間から毘沙門天が姿を現した 「伴侶殿、我等十二支天も爆笑しておりました」 毘沙門天は姿を現すなり榊原のスキャンダルを揶揄した 榊原はピキッと怒りマークを額に張り付け 「映画に夢中になり過ぎまして、あれが色仕掛とは気付きませんでした そもそも好みでない男に言い寄られても勃起すらしません!」 毘沙門天は貴方の下半身事情など聞きたくありません……と想った 榊原のスキャンダルを少し揶揄したかっただけなのに…… 毘沙門天は苦笑して 「貴方は遥か昔から一人しか眼中にありませんからね」と述べた 「当たり前です! 僕は遥か昔から愛する対象は唯一人ですから!」 「それでは青龍殿、我を呼び出した用件をお聞き致しましょう」 こっちとら暇じゃねぇんだよオーラを匂わせて毘沙門天は言った 惚気なら他所でやってくれ!! 榊原は毘沙門天を射抜いて 「ロンドンから来た殺し屋 才能だけかお聞きしたい」 「……それはどう謂う事だ?」 「何か、憑けてますか? それとも運と勘と才能がもたらす強運ですか?」 「奴はめちゃくそ鼻が良くて、空気をかぎ分ける 何度も仕留める一歩手前で奴は逃げおおせられた 今は奴に関する情報が少なすぎて結論は出せない」 「神憑りなのか本体なのか……接近戦を踏まえて正体を見極める必要がありますね?」 「神憑り……視野にいれねぇとダメか… どんなに追い込んでも、逃げおおせるんだからな…… 奴の姿を捉えるのも至難の技だからな……じっくりと確かめる暇がねぇんだよ 奴は防犯カメラの位置を必ず把握して避けている 映像は皆無に等しい だから見極めるチャンスが要る」 「ではそこから始めますか 僕達が囮となり誘き出します 囮として出て逝く会場や周辺に感知されないカメラの設置ないし『神』の配置をします 『神』の匂いをかぎ分けれる奴なら近寄りません 勿論天界からも援護は要請して作戦に加わって戴きます 殺し屋が『天使』に反応するかも知りたい 何者であるか知る足掛かりにはなるでしょう とにかく情報量が皆無なので、これで少しは情報を得たいものです」 自分達を囮に誘き出す… さらっと言ったが…殺し屋の前に姿を出すと謂うのは… 唐沢は想像しただけで身震いした 伴侶も一筋縄ではいかない存在なのは見てとれる 『神』を呼び出す力を秘め的確に策を練り動く 彼もまた…人ざる存在なのだと唐沢は想った 榊原は的確な指示を出し、作戦を詰めて逝く その作戦においての人員を康太が配置して 二人は一つの仕事を完遂する 黒龍は「黒幕に見当は?」と狙われているなら相手に検討着けてないのか?と尋ねた 「見当は着くのは唯一つ 総ての繋がりを持つ…Χάοςをけしかけ駒にした奴だけだろう 総ての悪意の裏には必ず奴はいて操り翻弄して掻き回すだけ掻き回して逃げおおせる 邪魔物は総て排除して……その行き着く先は……この地球(ほし)の終焉 蒼い地球(ほし)を終わらせる死神 そいつが手始めに仕掛けて来てるんだよ 退屈しすぎて遊ぶつもりで仕掛けて来てるんだ……ふざけてるよな?」 繋がっていたのか……と黒龍は言葉を失った 仕掛けて来るかとは想っていた 想っていたが… こんな人を弄ぶやり方をされるとは想っていなかった 何処かでナメて掛かっていたのかも知れない 「絶対に失敗は許されません! 失敗すれば相手は警戒して次は気配すら探れなくなるかも知れません それだけは避けねばなりません 緻密なシュミレーションとリハーサルを行い神々の配置をする 総ての準備を整えて三日後に行われるジャパンプレミアム試写会に照準を合わせます ジャパンプレミアム試写会に僕と康太も参席致します 一度きりのチャンスになります」 唐沢は「人が多いと…回りに危険があるのでは?」と榊原の案を否定的に受け止めていた 「人が多いからこそ、このミッションは成功に導く鍵となる! 絶対に失敗が許されない一発勝負 プロの殺し屋と謂うのはターゲットだけを狙うモノです 狙った獲物は確実に誰にも気付かせる事なく仕留める 他を巻き込んだりはしない それが誇り高き殺し屋ヴィンセント・セルガーと謂う殺し屋だと、推測しました 他を巻き込んだ時点でヴィンセントは仕事を諦める筈…… そうさせない為に我等の立ち位置まで考慮して、客を誘導して会場に入れる必要があるでしょう 我らにとってチャンスに近付ける第一歩にせねばなりません! 人の多さを利用して、神の気配を消す 絶対に『神』の存在を勘づかせない様に策を練らねばなりません! 唐沢さんジャパンプレミアム試写会が行われる帝国ホテルの見取り図と設計図 その周辺の建物の見取り図と地形が解る地図をお願いします!」 榊原は的確に指示を出した 唐沢はスタッフに言い付け榊原が謂う総てを用意に逝かせた 準備が出来るまでの間、毘沙門天は榊原に 「他の神も呼ばれるおつもりか?」と尋ねた 「いいえ、我が兄黒龍と弟の地龍を軸に結界を張り巡らかして仙郷と繋げます 我等が視えぬ気配を妖精と神が視てくれる様に手はずを整え それと同時に空間を天使の管理下に置く 緻密な管理の元に察知能力に長けた者を配備する ヴィンセントと謂う殺し屋が何者でもあろうとも確実に狙ってくるのは必須 狙った獲物は逃がした事がない そんな殺し屋が飛鳥井康太がジャパンプレミアム試写会に出るのをかなり前から掴んでいると想います ジャパンプレミアム試写会は今回の映画のプロモーター映像を持って参席する事になってます 代役は有り得ないのを知るならば、必ず仕掛けて来るでしょう! こちらは一切発信はせずき行きます 敢えて飛鳥井康太が出席するとアピールする事で相手は警戒するでしょうから、このままリアクションは起こさずに当日を迎えます では地図も来たので皆さんに説明する事にします 失敗は許されないミッションとなります 頭に叩き込んで当日を迎える事となります それを努々お忘れなき様に!」 榊原は失敗は許されないと釘を刺した その上で……敢えて……口を開いた 榊原は全員を視て 「康太、空間は大丈夫なのですか? 失敗は出来ない戦いを前に、疑い深くなるのは容赦して戴きたい」と問い掛けた 康太は榊原に説明を始めた 「この地は地図にも載らぬ場所に在る 乗っ取ってもこの地では体躯の維持は皆無だ 何故なら倭の国を守護する神々の結界の中に、この施設はあるからな 邪悪な存在はこの地に足を踏み入れた瞬間に淘汰される だから成りすましや乗っ取りはしても、直ぐに尻尾を出さざるを得ないし 発信器や盗聴器もこの空間では意味を成さない この地はその為にだけに創られた空間だ」 「なら安心ですね」 榊原はホッと息を吐き出した 帝国ホテルの館内の見取り図と設計図を視て榊原と康太は的確に配置して指示を出して逝く SPの立ち位置や会場に入場させる人間の誘導や配置に至るまで指示を出し、予測を叩き込む PCを操作して大画面にシュミレーションを投影して、よりリアルに動きを叩き込む 黒龍と地龍は仙郷へと出向く為に姿を消した 毘沙門天も他の奴に伝える為に、その場をあとにした 康太は榊原に「ならオレ等は還るとするか!」と言葉にした 唐沢が変わりの車を持って来ると、康太と榊原は還って行った 康太と榊原が還ると、スタッフは息を吐き出した 重苦しい空気が支配していた 息も出来ない程のガチガチに息の詰まる空間だった 失敗は許さない! そんな空気の重圧が……ビシビシ伝わる空間だった 情け容赦のない空間に皆、緊張していた 唐沢は「……ロボット並みの頭脳に判断力……配置の仕方まで緻密で容赦のない策だったな……」と疲労感に感想を口にした スタッフは全員、うんうん!と頷いた 「………しかし……彼の持つくそ重々しい空気は……何度目にしても慣れないな……」 あぁ……作戦を大成功に納めねば…… 命の保証がない……かもな 唐沢は幾度となく榊原が打ち出したシュミレーションをして実践に慣れる様に頑張った 失敗したら…… 考えるだけで怖い…… 皆、必死に頑張っていた 一方、康太と榊原は唐沢の用意してくれた車に乗り込み高速道路を走っていた 「何処へ行きますか?」 「静かに伊織のお仕置きが出来る場所」 「では僕に任せて下さい」と言い車を走らせた 康太はなにも言わず笑っていた 愛する男との大切な時間を満喫する様に笑っていた

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