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第58話 画竜点睛 ②

「お互い猫を被っていたのだろ? 本音が解って良かったな」 「あぁ‥‥お前もう黙れ!」 高嶺は強引に唇を塞いだ 後は甘い時間が二人を酔わせて包み込んでいた 二人は再び愛の炎を燃焼させるだろう‥‥と康太は想っていた 想いを残し合った恋人は互いを確認しより強い絆を結び‥‥‥子を成すだろう だが問題は、二階堂亜希と逢ってからだ 二階堂晃嗣 安曇勝也と総裁選を闘う増渕洋三率いる派閥のトップの議員だった 何かにつけて安曇に突っ掛かりネチネチ口撃する姿を見掛けていた そして二階堂晃嗣こそがアマチュアとプロとの線引きをしている独立リーグの反対派の筆頭の議員だった アマチュアはプロより劣る 劣る者がプロと同じ活動の場に立つのは烏滸がましい! そう言い全国規模の独立リーグの立ち上げに反対し認可すら出そうとしなかった 二階堂晃嗣の妨害はそれだけに留まらず‥‥白馬で目を着けていた土地も妨害され白紙になった因縁もある 飛鳥井康太は安曇の“息子”だと周囲に知れ渡っているからこその妨害なのだろうが‥‥ そろそろ我慢の限界を超えそうだった 二階堂亜希に逢い突破口を見いださねば‥‥ 野望の塊、二階堂晃嗣が相手では一筋縄には逝かないのは覚悟はしていたが‥‥膠着状態な上に後がなくなった状態となり‥‥ 二階堂晃嗣の娘、亜希に望みを託す事にした 康太が提示した条件の中に親に結婚の報告せよ!とこ条件が出されていた 結婚の了承を得る為に亜希は両親に逢う覚悟を決めた 総裁選真っ只中のスキャンダル 両親にとったら迷惑な話だろう‥‥亜希は両親が大嫌いだった 子供など己の道具位にしか想っていない父親が大嫌いだった 父親の良いなりになっている母親が大嫌いだった 兄と姉は‥‥父の言いなりで、あからさまにそれは政略結婚でしょ?と想う結婚をさせられた 姉には好きな人がいたのに‥‥ 結婚式の朝、姉は泣いていた 父様には逆らえないからね‥ そう言い姉は総てを諦め‥逝く道を選んだ 私は‥父の道具になどなってやる気はなかった だから高校時代にスカウトされた事務所に入り女優として生きて来た 親なんて関係ない 何度も何度も電話があった 芸能界なんてなに考えているの?貴方 電話に出れば反対された だから電話番号を変えて連絡を断った事もある そしたら事務所の方に連絡を入れる様になり、無視は出来なくて電話番号を仕方なく教えた 以来、定期的に連絡が入るが最近は元気でやってるの?と健康を気にされる様になっていた それが少しだけ‥‥鬱陶しかった 親のいない世界で生きて来た 親に頼らず生きて来た 意地があった 親に自分の意思で連絡を入れたのは結婚が決まった時だった 結婚式に出席してくれませんか? そう言い招待状を持って逝った 野球選手など先の見えない職業の奴など‥‥と文句を謂われたが 嫌なら出なくても結構です!と謂うと外聞を気にしてか出席するとの言質は勝ち取った そして迎える結婚式だったのだ‥‥ だが高嶺の事故で総てが立ち消えになった‥‥ 高嶺は選手生命を断たれ総てを勝手に清算して‥‥姿を消した 当然、結婚の解消を申し出て‥‥亜希は反論に出ようとした だが‥‥反論しようとした時には高嶺は忽然と姿を消した後だった 絶対に探しだして押し掛けてやる‥‥ 心は揺らぎないのに‥‥ こんなにも愛しているのに‥‥ 高嶺は何一つ相談してくれず‥‥総てを清算して消えた‥‥ 不本意な別れだった‥‥ そんな想いの果てに掴み取った奇跡だった 野球選手でなくとも彼が生きていてくれるなら‥‥ それだけで良かった 今は独立リーグのコーチをする高嶺を応援してやりたかった 家族になりたかった 行く行くは高嶺のお義母さんと同居して、高嶺を苦労して育てたお義母さんも楽させてやりたかった それが亜希の望みだった 高嶺の子を身ごもった今、亜希には何も怖いモノなんてなかった 高嶺を失わないで済むなら怖くない‥‥ 高嶺がいてくれるなら‥‥それだけで良い‥‥ 康太に謂れ両親に電話を入れると、想ったよりも簡単に逢っても良いと返された だが人の目もあるから指定したホテルに来てくれ!との事だったが、物凄い譲歩だと亜希は想った 両親に逢うと康太に告げると、康太は同席しても良いかと尋ねた 何処かで予測していた亜希は 「はい。お願いします 総ては貴方の御心のままに‥‥。」と言い了承した 二階堂晃嗣の視界に入れる‥‥ これが最初で最期のチャンスだった 二階堂晃嗣に逢う事が決まった 果てに狂いがないと確信した康太は、榊原に二階堂に逢う事を告げた 険しい道程だった 殺し屋に命を狙われつつ平行してやるには結構キツい作業だった ただ逢える約束は取り付けても‥‥ 二階堂は一筋縄では逝かないだろう‥‥ だが進むしか道はない だから康太は敢えて榊原に決心を込めて 「伊織、二階堂晃嗣に逢える事になった」 そう告げた 榊原は康太の手を取り 「ならば僕も共に逝きしょう!」と言い手の甲に接吻けを落とした それを受けて康太はニカッと笑い 「行き先は地獄かも知れねぇぜ?」と返した 榊原は鼻で笑い飛ばし 「地獄ならば弛んでる鬼を怒鳴り付けてやれるじゃないですか! 閻魔が大喜びすると想いますよ?」と返した 榊原の言い種に康太は爆笑した 「兄者が大喜びするのは癪だかんな 行き先は天国に変えるか!」 「君と一緒ならば何処でも構いません! ずっとずっと‥‥共に‥‥そうでしょ?」 「だな‥‥」 康太は愛する男の背を強く掻き抱いた 願わくば‥‥ 彼等(二階堂晃嗣夫妻)が“親”でありますように‥‥ 願って止まなかった 二階堂亜希を引き出す以上‥‥出来るだけ穏便に済ませたかった お腹の子を刺激しないように‥‥ 榊原は康太の想いを推し量り強く抱き締めた 「大丈夫です康太‥‥ 総ては決められし理‥‥いずれ通らねばならない道なのです 二人も覚悟は決めてます 君が悩む必要などないのです」 「それでもな‥‥泣かせたくはねぇと謂う気持ちは大きい‥‥」 「それは僕も同じ想いです」 「伊織‥‥」 「何ですか?」 「愛している お前だけを愛している 未来永劫、お前だけを愛していく‥‥」 榊原は強く強く康太を抱き締めた 「僕も‥‥君だけ愛してます 未来永劫君だけ愛してます!」 自然に合わさる唇は愛の深さを推し量るかのように深くなろうとしていた その時「はい!そこまでなのだ!」との声がかかり二人は唇を離した 応接間のドアを開け二人の接吻の邪魔をしたのは隼人だった 隼人は幼稚舎まで子供を迎えに行った帰りだった 子供達と共に応接間のドアを開けると、二人はブチューと口吻けしている最中だった それ以上エスカレートしない様に注意して引き離す 子供の教育に悪いからだ だが子供たちは何時もの事なので気に止める事もなく父と母に抱き着いた そして「りゅーちゃもあいちてる!」 と言い流生が母に抱き付いた 康太と榊原は優しく笑みを溢し我が子を見た 康太に抱き着きニカッと人懐っこい顔で笑うその顔は一生に酷似していた 康太は流生を抱き寄せて 「流生、母ちゃんが好きか?」と問い掛けた 「らいちゅき!! あいちてる!」 と盆と正月が来たかの様なサービスで答えてくれた 康太は笑って流生を抱き締めた 榊原は壁の時計に目をやり流生達が帰宅する時間になっているのに、やっと気付いた 音弥が「あ!!じゅるい!」と母に抱き付く流生を目にしてボヤいて康太に抱き着いた 太陽と大空も「「かぁちゃ たらいま!」と言い抱き着いた 翔は榊原に「だいまかえりまちた」と報告した 「お帰りなさい翔 幼稚舎はどうでした?」 「たのちかったれちゅ」 「そうですか、それは良かったです」 榊原はニコッと笑うと翔の手を掴み、康太に抱き着かさせた 翔は「かぁちゃ、たらいま!」と挨拶した 「おー!お帰り翔!」 「うんきがかぁちゃにながれこんれまちゅ ろうか‥‥ごぶうんを‥‥」 康太はなにも言わず翔の頭を撫でた 飛鳥井家次代の真贋の瞳には‥‥康太の運気が視えるのだろう 翔のこう言う言動を目の当たりにするたびに、飛鳥井家真贋としての重さを痛感する 次代の真贋なのだ‥‥ だから翔には運気が感じられるし 何かをするのが解るのだろう‥‥ 康太はまだ5才の我が子の背負うべき明日を想う 我が子に背負わせる重さを危惧する 荷物は少ない方が良い‥‥ だから出来る限りの事はして逝かねばと想うのだ この命に変えても‥‥ 康太は翔を引き寄せると強く抱きしめた 「大丈夫だ‥‥母ちゃんは世界一強いんだかんな!」 翔は頷き母に抱き着いた 我が子の温もりを腕に感じて康太は絶対に負けられないと覚悟を決めた まだまだ我が子を守らねばならないのだ‥‥ この子達を風雲吹荒む荒野に放り出す訳にはいかないのだ 後ろ楯が必要な年までは護ってやりたいと想っていた 我が子に背負わせる荷物は少しでも軽い方が良い‥‥ 榊原は康太の想いを感じ取って 「絶対勝利をもぎ取りましょうね!」と覚悟の瞳を向けた 「おー!勝って我が家の門を潜ろうぜ!」 康太が謂うと隼人が「動き出すのだな?」と尋ねた 「おー!このまま突き進んでやんよ!」と言いニカッと嗤った 隼人は康太に抱き着き 「オレ様も仕事をセーブしたから手伝うのだ!」と申し出た 康太は隼人の頭を撫で 「頼もしいなオレの長男は!」と言い笑った 「そうなのだ! 犬の手も借りたい時は謂うのだ」 「頼むな隼人‥‥聡一郎を支えてやってくれ」 「それは謂われなくともやってるのだ 『仲間』とは助け合うモノだと教えてくれたのはお前なのだ!」 康太は笑って隼人を抱き締めた 我が子の成長は嬉しくもあり淋しくもあるのだと‥‥淋しさを飲み込んだ 「隼人‥逝くぜ!」 「何処までもついて逝くのだ!」 「あぁ、オレから離れるんじゃねぇぞ!」 「そんなの謂われてなくとも離れないのだ!」 隼人はそう言い笑った 頼もしい男の顔になって笑っていた 榊原は愛する妻と我が子達を優しい瞳でみつめ微笑んでいた 新庄高嶺は新天地へ向けて飛鳥井の家を出て行った 星も新天地へ向けて旅立って行った 康太は二人を送り「行ってこい」と送り出してやった それと同じくして一生が飛鳥井の家に還って来た 慎一も還り一生も還って来た 仲間がやっと同じ所へ還って来た瞬間だった

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