60 / 100
第60話 御饌 ①
康太が白馬に出向いたのは、新庄高嶺と城ノ内星を飛鳥井の家から送り出した後の事だった
殺し屋の一件を片付け、自由に身動き取れる状況にする必要があったからだ
そして飛鳥井の家に一生や慎一が還って来るのを待って総力戦で動く事にした
それ程に‥‥厄介な案件だと康太は考えて、万全な体制で情報収集した後に動く様段取りを着けていた
聡一郎を白馬へ出向かせて、二階堂家がどんな経緯であの土地に関わったかを調べに行かせた
慎一には二階堂と共に登記簿を取りに行って貰い、聡一郎と合流して現地で調査をする算段を取り付けた
一生にはネット内に蔓延る心霊スポットを調べて貰う事にした
『白馬』『 心霊スポット』 と検索するとかなりの数が集まって来た
目撃情報はそれぞれ多少の違いはあったが、ほぼ在る特定の範囲で起こっていた
特定の範囲と言うのは、二階堂家が所有する土地を取り囲む様に‥‥土地の周辺で起きていた
二階堂家が所有する土地は、心霊スポットと騒がれる前から何人たりとも侵入を阻むかの様に封鎖されていると二階堂は言っていた
なのにこの現状は‥‥‥?
一生は康太に調べあげた事を伝えた
康太は一生の話を黙って聞き‥‥
「一生、その情報のあった場所を地図に描いて線で繋げてみてくれねぇか?」と伝えた
かなりの心霊体験談だったが‥‥地名や場所が記されているモノならば可能だと
「了解!やってみる」と了承した
一生は目撃談のあった場所に只管バツをつけて行き、そのバツを線で結んだ
最初のうちは解らなかったが‥‥
その線は‥‥‥逆五芒星を描いていた
康太は一生が描いた線を目にして
「やっぱりな‥‥」と呟いた
一生の顔からは総ての表情がなくなっていた
「あんだよ?これは‥‥」
震える口がやっとの事で言葉を紡いだ
「逆五芒星‥‥だ」
「逆五芒星?
それは何なんだよ?」
一生は危険な臭いを嗅ぎ取っていた
足を踏み込めば‥‥‥
何らしかの霊障があるのを感じていた
「五芒星(ペンタグラム)の上下を逆向きにした図形だ
逆五芒星は 悪魔の象徴とされているんだよ
五芒星(ペンタグラム)の上下を逆向きにした図形‥‥ 西洋では、悪魔の象徴として「デビルスター」と呼ばれている
悪魔召喚の儀式の用いられている円陣だ‥‥」
「悪魔召喚‥‥此処は日本だぜ?」
一生は驚愕の瞳で康太を見た
康太は聡一郎が集めた資料を一生に放った
一生はその資料を手にして
「これは?」と問い掛けた
「あの一帯の歴史だ
今聡一郎には白馬に出向いて貰って古い地図を探して貰っている」
「古い地図を?
何の為に?」
何故今更古い地図が必要なのか、一生にはピンッと来なかった
「あの辺は太古の昔から災厄が在る度に贄を出して(神の怒りを)鎮めていた‥‥
遥か昔には多分‥‥二階堂の菩提寺を取り囲む様にして細い川が流れていたんだと想う
その川は山間部で暮らす一族にはなくてはならない生活用水だったんだ‥
だが幾度となく河川の氾濫に遭っていた
その川ってのが‥‥逆五芒星になっている可能性は大きい
そして今も‥‥人柱にされた贄は‥‥苦しみ足掻き人を呼んでいるんだろ?
何故‥‥自分だけが‥‥って謂う復讐心が一連の心霊現象を引き起こしているんじゃねぇかと想っている」
的確な話に一生は別に地図なんて要らないんじゃないの?と想った
康太は一生の心の中の疑問に答える様に先を続けた
「今は何処にも川は通っちゃいねぇんだよ
既に『神の寝台』と謂われる地は終わりを迎えているかんな‥‥
だから地図がねぇと正確な人柱の位置が解らねぇんだよ」
昔の地図と今の地図を照らし合わせねば正確な人柱の位置が解らないのだと、解る
解るが‥‥‥
一生にはイマイチ理解が及ばなかった
「神の寝台?それは何よ?」
「白馬の山には神がおられる
神は人々の安寧を護る為に下界へ時々下りられる事がある
その時利用される土地は『神の寝台』と謂われる神聖な領域とされていた
それが二階堂家が護り続けた菩提寺だ」
だから終わりを迎えているのか‥‥と納得
だが康太は唇の端を吊り上げ嗤っていた
一生は「康太‥‥?」と名を呼んだ
康太は果てを視て
「まぁ最も‥‥贄を必要とした神が真っ当な神と呼べる存在かは‥‥
その時代に飛んでみねぇと確かな事は謂えねぇけどな‥‥」と呟いた
「ひょっとして神じゃねぇかも知れねぇのか?」
「真っ当な神が逆五芒星なんて描かねぇだろ?
だからそれを確かめに逝かねぇとならなねぇと想っている」
「確かめに逝くって‥‥どうするのさ?」
「二階堂家が栄華の時を刻んでいた時代に逝くしかねぇと想ってる
大体の予想は着いても‥‥それはあくまでも予想にしか過ぎねぇからな」
「タイムワープするってのか?」
「そうだ!それしかねぇじゃねぇと想っている」
「大丈夫なのか?」
「大丈夫だろ?
前に一度飛んでるからな心配すんな!」
康太は何でもない風に言った
だが一生はいてもたってもいられない想いに駆られ
「お前が逝くなら俺も着いて逝く!
それだけは譲らねぇって事だけ覚えといてくれ!」と申し出た
だが康太の口振りは重く‥‥
「一緒に逝くのは別に構わねぇけどな
今年に入って女神の泉の女神が代替えをした
前の女神は釈迦の肝煎りの女神だった
地場を落ち着かせる為に必要な配置だった
だが今は安定して来たから統治を他の女神に移したんだよ」
一生には康太が言いたい事が解らなかった
だが康太はそんな一生の困惑など気に止めもせず続けた
「で、釈迦と転輪聖王と閻魔と話し合った結果、豊玉姫と謂う古来の女神を据える事にしたんだよ」
康太はそう言いニカッと嗤った
一生はギクッとなり息を飲んだ
閻魔の妻だった女神と愛し合う前の赤龍は青龍が嫌悪するタイプのチャラい男だった
遊んだ女神は数知れず‥‥
愛を司る神は真実の愛を知る事はなかった
だから都合の良い愛だけを囁いて恋愛を楽しんで来た
愛して欲しいと乞われれば愛した
それを愛だと知らずに‥‥愛だと想おうとした
閻魔の妻だった女神と生まれて初めて愛を知り‥‥
今までの恋愛は遊びだったのを痛感した
愛は乞われたとしても与えられれるモノなんかじゃない‥‥
愛は苦しく
愛は己を満たしてくれた
そして満たされた瞬間‥‥餓えて逝くのだ
渇望
欲しくて
欲しくて
欲しくて‥‥‥堪らなかった人
だが愛してはならない人だった
初めて知った愛は‥刹那く一途だった
その本当の愛を知る前‥‥付き合っていた女神が‥‥泉にいるのか‥‥
一生はバツの悪い顔をした
そして問い質す
「お前‥‥世情に疎かったよな?」
「あぁ、回りの事なんて全く興味もなかったかんな!
でもな女神の泉の女神を選出する時に黒龍にアドバイスを貰ったんだよ
んで、その時黒龍が教えてくれたんだよ」
クソ!!兄貴め!!
一生は心の中で兄を少しだけ恨んだ
昔の女に逢うのは‥‥バツが悪すぎる
だが‥‥共に逝く事も譲りたくはない
一生は心の中で葛藤していた
その葛藤を見越して康太は
「まぁ‥‥少し位意地悪されるかも知れねぇわな?」と揶揄した
一生は覚悟を決めた瞳をして
「‥‥‥魔界に還れば‥‥嫌でも顔を会わせるだろうし‥‥意地悪は敢えて受け止めるとする!」と答えた
その言葉を聞いて康太は爆笑したが、笑いを止めると一生を鋭い瞳で射抜いた
「でもな一生、そんな覚悟をさせておいて申し訳ねぇけど、時代を遡るのは弥勒と伊織と逝くと決めてるんだよ!
だからおめぇは連れては逝けねぇ!」
「あんでだよ?
昔の女がいるからか?」
「違う、連れて逝くには‥‥お前は正義感が強すぎる‥‥
目の前で理不尽な事が繰り返されるのを‥‥黙って見てられねぇだろ?」
目の前で理不尽な事が起きたなら‥‥
正義の拳を振り上げ誰彼構わず助けるだろう‥‥
それこそが緑川一生なのだから‥‥
だが時代を遡ると謂う事は、その時代には干渉はしてはならない掟があるのだ
目の前で人が殺さる瞬間に出くわしたとしても‥‥
黙って見ていなければならないのだ
理不尽に踏み躙られていたとしても‥‥
断末魔を聞いたとしても‥‥
誰も助けてはならないのだ
「‥‥‥あぁ‥‥そうか‥‥生贄に‥‥してるんだよな‥‥」
一生はそう呟いた
「ある村はみなし児を引き取って村全体で育てていた
それだけ聞けば親切な村だと想うやん‥‥
だが村の奴等がみなし児を育てていたのは‥‥自分の家族の変わりに贄に出す時の為だったりする
自分の家族が犠牲にならない為に、理不尽な事は横行していた‥‥
その時代にオレ等も転生した事があるからな‥‥知らない世界じゃねぇんだよ
『神隠し』ってのは体の良いこじつけで、消えた子は生け贄にされて‥‥殺され神に捧げられて来たんだよ
だが生け贄に出しましたなんて謂えねぇから神が隠した‥‥なんて事を言い残酷な事を繰り返して来たんだよ
弱い者が淘汰され‥‥命を落とす
それを‥‥おめぇは黙って見てられねぇだろ?」
黙って‥‥見てなくてはならない‥‥
それが出来ないのであれば連れては逝けない‥‥
一生は頭では理解していたとしても‥‥
想わず体躯が飛び出して助けてしまうであろう己を解っていた
解っていたから‥‥
留守番なのは理解できていた
「俺にはそのミッションは‥‥コンプリート出来そうもねぇな‥‥」
一生は降参だと両手をあげた
「だろ?だがおめぇはそれで良い
向き不向きがあるんだよ!
今回はおめぇには向いてない‥‥それだけだ!
でも女神に(昔の女に)逢いたいと謂うならば、一緒に魔界に逝くのはやぶさかじゃねぇけどな!」
一生は困った顔をして
「‥‥‥止めとくわ‥‥
そのうち嫌でも逢わねぇとならねぇ時が来るんだろ?
なら(意地悪されるのは)その時で良い事にするわ!」
と本音をポロッと呟いた
康太は笑って一生の肩を叩いて
「留守番中は家族の事を頼む」と言った
一生は何時もの様に「任せとけ!俺の命に変えても護り通してやんよ!」と請け負った
「適材適所ってヤツだ!
だからお前はお前にしか出来ない事をやってくれ!」
「任せとけ!」
一生が返答すると同時に康太の携帯がブーッと震えた
康太は携帯を取り出し画面を見た
携帯は聡一郎からのメールを告げていた
メールを開き確認して
「一生、聡一郎が昔の地図を手に入れたらしい」と一生に告げた
一生は思い出した様に「昔の地図を探していたんだっけ?」と口にした
「あぁ、過去に飛ぶにも地図が必要になってくる
あの土地は代々隠し通されて来た土地だ
地図にも載らぬ土地‥‥隠里と謂われ代々護り通されて来た土地らしいからな‥‥」
康太の言葉に一生は「絶対に還って来やがれ!」と留守番の悔しさを口に出した
康太は笑っていた
笑っていたが‥‥‥直ぐ様顔を強張らせ身構えた
一瞬にして応接間が不穏な空気に見舞われたからだ
誰かに干渉されている気配を感じた
それどころか干渉で終わらない悪意も感じていた
物凄い強い力が‥‥無理矢理に飛鳥井の結界を抉じ開けて介入して来たのだ
いち早く動いたのは弥勒だった
『何者だ!』
弥勒は実体を伴って姿を現した
康太を庇う様に弥勒は立っていた
干渉していた気配は嘲笑うかの様に震え‥‥
『二階堂の土地に介入は無用!
引かぬのならお主らの命‥‥無いものと想え!』
鼓膜を切り裂かんばかりの声が響き‥‥
止まった
それと同時に康太の携帯がブーブーと震え着信を告げていた
康太は電話に出ると
『康太!逃げて下さ‥‥ぎゃっ!‥‥』と聡一郎の声が響いてブツッと電話は切れた
康太は顔色を変えて果てを見ていた
そして‥‥‥弥勒と共に姿を消した
後に取り残された一生は行動を別にしていた榊原にラインを送った
【緊急事態発生!康太が消えた】
すると直ぐ様、榊原から電話があった
『どう謂う事なんですか?』と。
一生は今目の前で起こっていた事を総て話した
『解りました!
僕は康太を追います
君は家族に危害が加わらない様に菩提寺に子供達を連れて行って下さい』
「了解!
瑛兄さん達も仕事を終えたら菩提寺に連れて逝く!」
『頼みます』
そう言い榊原は電話を切った
一生は子供達を護るべく動いた
電話を切った榊原は秘書の西村に
「緊急事態が起こりました!」と告げた
西村は「なれば逝くがよい!後の事は任された!」と榊原を送り出す言葉を投げ掛けた
榊原は「頼みました!」と言い‥‥‥姿を消した
それを見届け西村は、何人たりとも我が陣内には通す気はない!と呟き呪文を唱えた
そして呪文を唱え終わると社長室へと駆け付け秘書を集めた
「主の留守は我等が護り通そうぞ!」
西村の言葉に秘書達は覚悟の瞳をして頷いた
西村は胸の中で、此処は‥‥お前達の家族は護り通してやるから‥‥お前達は何も気にするな!と念を送った
副社長室から消えた榊原は康太の覇道を手繰り寄せ向かっていた
康太‥‥康太‥‥
想いを飛ばす
想いの先に愛する人が必ずいると信じて榊原は瞬間移動を繰り返していた
康太‥‥
ぬくもりを追う
だがぬくもりは瞬時に消えて‥‥榊原は必死に康太を追った
康太‥‥康太‥‥僕の声が聞こえるならば‥‥
僕を導いて下さい‥‥
祈り続けた
すると康太のぬくもりが榊原を包み‥‥
グイグイ引き寄せられ‥‥‥
その手に確かなぬくもりを感じて隣を向くと康太が隣に立っていた
康太は榊原を見ると
「すまねぇ‥‥緊急事態だった」と謝罪した
榊原は目の前の光景に目を向けて‥‥
「大丈夫です
君が生きていてくれるなら僕は何処へだって逝けるのですから‥‥」と康太を安心させる言葉を告げた
目の前には‥‥
白装束の男達が‥‥聡一郎を追い詰めている所だった
その髪は金の長髪で‥‥聡一郎と謂うよりは司命の姿をしていた
聡一郎は「我は誰にも屈服などせぬ!我は主の為だけに在る!」と吐き捨てた
和装の白装束の男達はジリジリと聡一郎を追い詰めていた
「その主はお前を犠牲にして姿すら現さないではないか!」
白装束の男達は笑っていた
「それで良いのだ!
あの方さえ生きていれば‥‥それで良い‥‥」
「健気な忠犬だな」
「何とでも言え!」
「お前のその姿、閻魔の秘書官司命司録が一人だな
ならばお前の主は‥‥炎帝、魔界の破壊神か‥‥
お前の忠義など理解出来ぬ暴走神に仕えるお前の気が知れんな」
「何とでも謂え!」
反抗的な態度を取ると聡一郎は殴られサウンドバックの様にボコボコにされていた
反撃に出ようにも‥‥能力を封印する呪符を飛ばされ‥‥聡一郎は身動きすら出来ずにいた
ゲホッと聡一郎が血反吐を吐くと白装束の男達は馬鹿にする様に笑っていた
その様子を康太は気配を消して見ていた
そこへ榊原が康太の気配を辿ってやって来たと謂う訳だ
弥勒は「そろそろ出ねぇとヤバくねぇか?」と尋ねた
「司録が来る!
出るのはそれからでも大丈夫だろ?
アイツ等‥‥神を拘束する怪しげな呪符を持っていやがるんだかんな
もう少し様子見をしてぇ気もある」
弥勒は「司録、来てるのかよ?」と尋ねた
「司命司録は元は一つの存在
片割れのピンチには誰よりも敏感に察知出来るってもんだ!」
「んじゃ、司録のお手並み拝見といくか!」
弥勒が謂うと膠着した事態を打開すべく司録が姿を現した
銀色の足首まである髪が揺れていた
閻魔の秘書官の衣装で登場した司録は、司命と違って筋肉質な体躯をしていた
「よぉ司命、随分いたぶられているじゃないか!」
相方の登場に聡一郎は眉根を寄せて嫌な顔をして
「好きでいたぶられている訳ではありません!」
「なら反撃に出ろよ!」
「出たいのですが‥‥何やら怪しげな呪符を使うので‥‥力が使えないんですよ
でなくば‥‥等の昔にボコにしてます!」
「ほほう‥‥怪しげな呪符ね
今の倭の国に呪符使いがいるとはな‥‥」
司録が呟くと同時に呪符が司録目掛けて飛んで来た
司録は呪符を遣り過ごし白装束の男達の方へと向き直った
白装束の男達は「何者だ!」と射殺す瞳で司録を見ていた
「何者って?
お前達は司命の存在を知っていたんじゃないんですか?
なれば我が誰かは自ずと解るんじゃないのですか?」
司録は莫迦にする様に口にした
白装束の男は「司命司録‥‥二人で一体で在ったな」と神を知り尽くした様な言葉を口にした
司録は呪文を唱えると炎を出した
その炎を司命へと放ると、聡一郎の呪符だけ焼いて拘束を解いてやった
白装束の男達は「おのれぇ!」と躍起になって呪符をばら蒔いた
呪符に隠れて忍びが確実に司命司録を捕らえる為に動いていた
日頃から鍛練された忍が司命司録の首に刃を突き付けるのは一瞬の作業だった
刃を突き付けられて司命司録は動きを止めた
聡一郎は「日頃の鍛練が足らないんじゃないんですか?」と応酬
司録は「ほざけ!」と悪態を着いた
弥勒は「あーあ‥‥未熟だな!」と笑っていた
康太は「んじゃ出るとするか!」と榊原から離れた
弥勒は「ちょっと待て!アイツら‥‥司命の主は炎帝だって知ってたよな?」と危険を嗅ぎ取って言葉にした
「彼方には結構事情通がいるんだろうよ?」
「事情通過ぎるだろ?」
弥勒はボヤいた
「まぁそれは本人達に聞くしかねぇやんか!」
弥勒は両手を上げて降参した
こんな時の炎帝は昔から聞く耳を持たないからだ‥
「んじゃ逝くとしますか!」
「だな!」
二人は納得して嗤った
そして白装束の男達の前に出たのだ
榊原が康太の傍を離れるのを目で確かめて
「そろそろ止めてやってくれねぇかな?」
と登場した
白装束の男達は「誰だ!お前達は!」と警戒を強めて言い放った
「誰ってその者の主に決まってるやん!」
康太が言い放つと白装束の男達は動きを止めた
そしてゴクッと唾を飲み込むと
「炎帝‥‥破壊の限りを尽くす神‥‥」と口にした
「すっげぇ謂われ様だな‥
それ、誰からの情報よ?」
「我等は永久(とこしえ)に仕える者!
お前が人の世に堕ちた時から知っておる」
「それはそれは、事情通なこった!
ならば、その事情通な者に問おう!
何故オレらの邪魔をする?
命を狙おうとするんだ?」
「警告したであろう!
この地には触れてはならぬ!
触れれば障りが必ずある!
我等はこの地を封印した!」
「へぇー封印ねぇ‥‥
封印した割りに心霊スポットになったりしてるやん、この土地
しかも一般人が簡単に入れる様な結界しか張ってない!
あぁ、そうか!
興味本意な奴等が障りに遇ったとしても自業自得って事か?
血を欲するこの土地を沈める為に、無法な侵入者を贄として与えておけば良いってか?
すげぇ自己責任だわな!」
康太はそう言い鼻で嗤った
白装束の男達は激昂して
「ええい!黙れ!
我等宮内庁特務祓魔官だと知って狼藉を述べるか!」
「おめぇらこそ誰の許可を取ってこの地にいるんだよ?
この地は二階堂晃嗣が所有する土地だぜ?
オレは二階堂晃嗣に許可を取ってこの地にいる!
おめぇらは誰の許可を取ってこの地にいるんだよ?
それとも‥‥宮内庁特務祓魔官ってのは他人の知的財産権をも侵害しても良いってか?」
白装束の男達はグッと息を飲み込んだ
だが負ける訳にはいかないのだ
おめおめと還る訳にはいかないのだ
「おのれ‥‥我等は警告した!
なのにお前等は警告を無視した!
捕らえた者を殺されようと文句は聞く気はない!殺れ!」
白装束の男の中でも一番偉いであろう男が叫んだ
「箱崎主任!」
司命司録を捕らえていたであろう男が叫んだ
一番偉いであろう男が振り替えると‥‥
蒼い龍が司命司録を逃がしていた
蒼い龍は「人間如きが神を愚弄するな!」と吐き捨てた
康太は「形勢逆転!」と嗤った
その瞳は‥‥神とは程遠い‥‥残酷で残忍さを滲み出していた
「甲賀と伊賀を侍らしていたとしてもオレは撃てねぇよ!」
康太はそう言うと始祖の御劔を取り出した
一斉に手裏剣が康太目掛けて飛ばされた
だが一刀両断で返されて‥‥その手裏剣は放った者へと突き刺さった
弥勒は呪文を詠唱すると「去ね!」と言霊を放った
強制離脱
言葉を受けた者はその場から消し飛ばされ‥‥姿を消すしかなかった
無理矢理に消し飛ばされた男は
【これで終わると想うなよ!】と言葉を放った
白装束の男達の気配が消えると、青龍は人の姿に戻った
人の姿に戻ると息を吐き出し‥‥一息着いた後、司命司録の二人を庇いながら康太の傍にやって来た
康太は聡一郎に「何があった?」と尋ねた
聡一郎は康太に事の顛末を話した
二階堂晃嗣と共に土蔵に入り昔の文献を紐解いていた
昔の地図を指し示す紙を見付けると、白装束の男達が姿を現した
聡一郎は結界を張って二階堂晃嗣を護った
そして逃げる途中で毘沙門天に二階堂晃嗣を託して応戦に出ようとした
‥が、あの呪符を飛ばされ身動きを封じられ本来の姿を晒す結果となった
聡一郎は康太に深々と頭を下げ
「主‥本当に申し訳ない事をした‥‥
私は‥‥貴方を危険な目に逢わせたくはなかったのに‥‥」
と意識が混濁しているのか本来の司命の口ぶりでそう言った
我が主!
司命司録は常に主を護ろうとしてくれていた
康太は「司命、気にすんな!」と肩を叩いた
「主‥‥」
聡一郎は悔しそうに唇を噛み締めて俯いた
「顔を上げろ司命」
「‥‥主‥‥」
聡一郎は顔を上げて康太を見た
「あーあ、綺麗な髪が枯れ草まみれやんか!」
康太は、聡一郎の髪を手にして枯れ草を払ってやった
榊原は「取り敢えず場所を変えますか?また狙われたのでは堪ったモノではありませんから!」と言い帰宅の算段をした
康太は「聡一郎、車で来てる?」と問い掛けた
聡一郎は「二階堂さんを土蔵に閉じ込めて来ましたから‥‥お迎えに行き、あの方の車で近くのホテルに送って貰いましょうか?」と動かない頭を総動員して答えた
司録は「もう大丈夫か?司命」と問い掛けた
「あぁ、大丈夫だ司録
悪かったな‥‥一つ借りで良い」
「おう!魔界に還ったら取り立ててやるさ!」
司録はそう言い笑うと、康太の前に膝をついて傅いた
「我が主、御逢い出来て良かったです」
「司録、おめぇも元気そうで何よりだ!」
「司命司録、主の為に生きております故、主よりも先にはお暇致しません!」
康太はその言葉を聞いて笑った
「司録、後少し留守番を頼んだぞ」
康太はそう言い傅いている司録を抱き締めた
「主‥‥願わくば‥‥一分でも一秒でも長く‥‥我が子と過ごされます様に‥‥祈っております」
「ありがとう」
康太が司録を離すと、司録は立ち上り深々と頭を下げた
そして「閻魔に仕事を抜けたのが解ると説教されます故‥‥」とお茶目に言い‥‥
姿を消した
康太は榊原に「二階堂の家の土蔵って‥‥歩かなきゃダメか?」と問い掛けた
榊原は「どうなんでしょう?毘沙門天が来てるなら招き入れて貰えば近道出来ると想いますよ?」と愛する妻を労り優しく言った
弥勒は毘沙門天に「聞いてるか?我等を招き入れてくれや!」と思念を送った
『招き入れてやるから、さっさと来いや!』
その声が響き渡ると康太達の姿がその場から消えて、瞬時に別の場所へと移動した
土臭い黴臭い場所へと転送された
康太は「毘沙門天、何処よ?」と声を掛けた
「康太、此処だ!」
毘沙門天がそれに答えると、壁だった場所が消えてなくなった
壁だった場所の向こうに二階堂晃嗣と毘沙門天が立っていた
康太は二階堂に「大丈夫か?」と問い掛けた
二階堂は「あぁ、大丈夫だ!聡一郎君が護ってくれたから!」と答えた
「そうか、良かった
おめぇに何かあったら、オレは勝也に申し訳が立たねぇかんな!
巻き込んじまって悪かった‥‥」
「私は巻き込まれた訳では‥‥ないのでしょ?
あの者達は‥‥この土地に関わる何かを護ろうと動いているのではないのですか?」
「宮内庁特務祓魔官と奴等は名乗った」
「‥‥‥え?‥‥そんな極秘中の極秘の部隊が‥‥?」
「知っているのか?」
「内閣でも上の者しか知り得ない案件です
世の中には‥‥常識が通用しない案件もある
あの部隊はそれらを一手に引き受けて動く影の部隊‥‥通称陰陽庁と呼ばれている部署です
私は‥‥先の政権で副総理に身を置いておりましたから‥‥総理に変わって出動の許可を出しておりました」
「影の部隊ってのは伊賀や甲賀の忍の者を使うのか?」
「それは解りません‥‥
あの部隊の実態を知るのは‥‥この倭の国で只一人‥‥帝だけ‥‥」
「帝?それは天皇の事か?」
「違います
表の天皇、裏の閣下
そして倭の国には古来より受け継がれし“血”の存続が在る
それが“帝”に御座います」
「んな事話せば‥‥おめぇ消されるぞ?」
「例え消されたとしても‥‥貴方には知る義務がおありでしょう‥‥
澱んだ血は脈々と受け継がれ‥やがて倭の国を破滅へと導いて逝く‥‥
私はこの美しい倭の国を愛しております
それ故に‥‥伝える相手を探しておりました
何時か‥‥託せると想った方が現れたら総てを話すと決めていた
それで命を落とそうとも‥‥私はそれを伝える使命があると生きて来た‥‥」
「オレは伝えるに相応しいと?」
「貴方以外に伝える者などありません
どうか‥‥この倭の国を‥御守り下さい」
「んなん誰に頼まれずともやるに決まってる!
オレも倭の国を愛してるかんな!」
「真贋‥‥」
二階堂は深々と頭を下げ康太の想いに報いようと心に決めた
康太は聡一郎に向き直ると
「地図はどうしたよ?」と問い掛けた
聡一郎 は二階堂と目を会わせ‥‥
「盗られました
ですがアイツ等に察知される前に写メを撮って地図は遺してあります」
聡一郎はそう言うと康太に携帯を渡した
康太はその写メを目にして
「良くぞ頑張って護ってくれた!」と老を労った
「んじゃ二階堂、還るとするか!
お前の車に同乗させて貰っても構わねぇか?」
「はい。お送り致します」
二階堂が言うと康太は弥勒に
「もしもの時の手を打っておいてくれねぇか?」
と頼んだ
その言葉を受け弥勒は二階堂に護符と人形の式紙を渡した
「これを肌身離さず持ってろ!」
弥勒がそう言うと二階堂は護符と人形の式紙を受け取り胸ポケットに仕舞った
それを見届けて、康太は二階堂と共に土蔵を後にした
二階堂の車に乗り込むと康太は白馬の飛鳥井のホテルへ行って欲しいと頼んだ
二階堂は飛鳥井の白馬のホテルへと康太達を下ろすと帰って行った
康太達はホテルへと入り、飛鳥井の所有するフロアの部屋へと向かった
部屋に入りソファーに座ると弥勒は
「この後どう動く?」と問い掛けた
「打って出るにしても‥‥相手は国家だからな‥‥」
「なら大人しく引くのか?」
「まさか、このまま相手が引き下がってくれねぇだろ?」
相手が引き下がらないのに、こっちが引く訳にはいかない
康太は両手を組んで思案しつつも弥勒に視線を送っていた
その視線を受け弥勒は頷いた
一晩中二人は無言で向き合っていた
翌朝、康太と榊原と聡一郎はホテルをチェックアウトした
そこに弥勒の姿はなかった
ホテルの前には朝倉が待ち構えていた
「康太様、良く眠れましたか?」
「あんまし‥‥帰りの車の中で眠る事にするわ」
「ではお送り致します!」
「悪いな朝倉」
「何を仰有いますか!
この朝倉、貴方の為に存在する者!
貴方の為に動ける事は恐悦至極に御座います!」
朝倉は嬉しそうに謂うと康太と榊原を車の後部座席に乗せた
そして運転席に乗り込むと
「この車は弥勒様が術を施して行って下さったので御安心下さい」
と朝一番に呼びつけられ弥勒の手伝いをさせられた事を告げた
「朝倉、家族は?」
「皆、ご無事に御座います」
「そうか、良かった‥‥」
康太は安堵の息を漏らした
車に乗り込むと朝倉は康太に折り畳んだ紙をそっと手渡した
紙を開けると
『昨夜弥勒様は堂嶋正義様に思念を飛ばされ、逢われる算段を着けておいて下さってます
私はホテル・ニューグランドまで貴方達をお送り致します』と書かれていた
朝倉は無言のまま横浜へと車を走らせた
社内で康太は一言も喋らなかった
聡一郎は目を瞑り黙っていた
榊原も後部座席の康太の横で微動だにせず前を向いていた
朝倉は安全運転で尚且つ一刻も早く車を走らせていた
四時間ちょいの身を削る運転の末、朝倉は目的地に到着した
ホテル・ニューグランドの前に車を停めると朝倉は車から降り後部座席のドアを開けた
車から降りた康太に朝倉は
「康太様、御武運を!」と声をかけた
「ありがとう朝倉、手間をかけさせたな」
「いいえ。貴方に逢えれて嬉しかったです」
「また白馬に行く!」
「はい。御待ちしております!」
朝倉は深々と頭を下げた
康太は真っ直ぐ前を向きホテルの中へと入って行った
その後ろを榊原と聡一郎が続いた
朝倉は姿勢を正すと、主の姿が見えなくなるまで見送り、完全に姿がなくなると車に乗り込み横浜を後にした
ホテルの中へ入って行った康太はフロントに「堂嶋正義の部屋は?」と尋ねた
事前にフロントには飛鳥井康太が尋ねて来る事を通達していたのか、フロントはそっと部屋番を書いた紙を手渡した
康太はそれを受け取りエレベーターへと向かった
やって来たエレベーターに乗り込むと康太は「気配、あるか?」と聡一郎に尋ねた
一度でもあの者達に逢った聡一郎だからこそ、気配が解るだろうと聞いたのだ
榊原は「幾ら手練れた相手だとしたも昼日中にストーカー紛いの行動に出ればホテル側も黙ってはいないでしょう」と人混みの中動く事の難しさを口にした
相手が素人ならば式紙に追跡させて逐一居場所を知り式紙を通して視れば良いのだが‥‥
そんな事を簡単にさせてくれない相手なれば‥‥遠隔ではなく接近して式紙を飛ばす事をするだろう
だがそれさえもさせてくれない相手となれば‥‥話は別だ
仕留めれる程近付かねば‥‥成功の道は見えては来ないだろう
そして何より接近戦に移行するには、あまりにもホテルは向いていない場所だった
また、このホテル・ニューグランドは天皇が宿泊なされるホテルとして結界も防護も完璧な場所で、下手な動きをしたならば‥‥裏部隊が出て来るも知れないリスクもあった‥‥
だから敢えて弥勒はこの場所を選んだのだろう
聡一郎は「大丈夫です気配はありません!」と周囲に気を付けながら気配を探ってそう言った
エレベーターは堂嶋のいる階に止まると康太達はエレベーターを下りた
聡一郎は堂嶋のいるであろう部屋をノックすると、待ち構えていたかの様にドアが開かれた
ドアを開けたのは堂嶋正義だった
「ご無事で‥‥昨夜弥勒殿から連絡が入り‥‥気が気でなかった‥‥」
康太達を部屋に招き入れ堂嶋は康太を抱き締めた
「心配させたな正義‥‥」
堂嶋は康太を離すとソファーへと康太と榊原を座らせた
聡一郎は空いてるソファーに座った
堂嶋もソファーに座ると
「何があったのですか?」と問い掛けた
「正義、宮内庁特務祓魔官っての知ってる?」
康太の言葉に堂嶋は顔色を変え驚愕の瞳をした
「何故‥‥その部署を知っておいでなのですか?」
「喧嘩を売られたんだよ!」
「‥宮内庁特務祓魔官‥
彼らの正式名称は宮内庁特務祓魔局捜査官
通称陰陽庁の祓魔官と呼ばれる倭の国を神代の時代から護って来た者達です
残念な事に俺が知るのはそこまでだ
そこまでしか伯父貴からは知らされてはいない‥‥」
「そこまで知っているなら上等じゃんか!
勝也はおめぇを次代の総理にする為に総てを教えているんだって解るな」
「康太‥‥」
「で、正義‥‥おめぇは“帝”なる存在を知っていたのか?」
康太は単刀直入に問い質した
「帝?‥‥それは‥‥今の時代に存在する話なのですか?」
堂嶋は躊躇して問い掛けた
全く知らない素振りに康太は
「なら勝也に聞いてみろよ!来てるんだろ?」と後押しした
康太が謂うと別室に控えていた安曇勝也が姿を現した
安曇は「やはりと総てお見通しでしたか‥‥」と呟き康太の傍に近寄った
「知ってはならぬ事を御知りになりましたね飛鳥井家真贋‥‥」
「だったらオレを消せとでも、仰せつかって来たか?」
康太が謂うと安曇は顔色を変えた
図星だったのだろう‥‥
堂嶋は「伯父貴!」と慌てて康太を庇う様に前に出た
「何故です?伯父貴‥‥康太は貴方の息子も同然の存在なのではないのですか?」
堂嶋は顔面蒼白になり訴えた
安曇は哀しそうな顔をして
「我は日本国99代総理大臣 安曇勝也!
国の総意なれば‥‥動かざるを得ない存在だ!
喩えそれが我が子だとしても‥‥」
吐き出す様に言葉にした
康太は動じる事なく安曇を睨むと唇の端を皮肉に吊り上げて嗤った
「それが国が下した総意なら‥‥殺れよ!勝也」
「康太‥‥お前は民間人の癖に知らなくてもよい事を知りすぎた‥‥
何故だ?康太‥‥何故お前は‥‥知らなくてもよい事を垣間見ようとするのだ?」
「それはこの世の間違いだからだ!
勝也の“目”を通してオレに逢いに来たと謂うなれば名乗るべきなのではねぇのか?帝」
堂嶋は驚いた顔で康太を見た
榊原も聡一郎も最初から知っていたのか平然としていた
堂嶋は「伯父貴ではないのか?」と康太を見て問い掛けた
「脈々と受け継がれ倭の国の中心に据えられた存在!
天皇ですら跪き崇め奉る存在、それが京の都から倭の国を納めて来た存在だ!
倭の国の年号が幾つもが消えようとも、この国の影に君臨し、歴史的存在になる気はねぇと今も国の頂点に立っている
それが帝と謂う存在だ!
今は勝也の目を通してオレを視ている」
康太が謂うと安曇は声を高らかに笑った
「よく解り申したな下賎の者よ!」
「おめぇに下賎の者扱いされる謂れはねぇ!
己が神だとでも謂うのか?」
「あぁ、そう言えばお主は“神”であったな
この世の総てを破壊する破壊神と呼ばれおったな」
「それ、何時の話よ?」
「人の世に堕ちた時お主は神々にそう呼ばれておったではないのか?」
「まぁ実際魔界に呼ばれて転生した時はこんな地球(ほし)消し去ってやろうと考えてはいたから間違っちゃいねぇわな」
康太はそう言い笑い飛ばした
「‥‥‥やはり躾もなってはおらぬな‥‥
お主らの“帝”に対して‥敬う心もないと見た‥‥」
「今更、んなカビが生えた様な存在を敬えと?」
「ええい!無礼者!
祓魔官ども!あやつを仕止めぬか!」
“帝”に体躯を乗っ取られた安曇が叫ぶと、一斉に宮内庁特務祓魔官なるモノが姿を現した
それと同時に毘沙門天も姿を現して直ぐ様
「縛!」と叫び印字を結んだ
宮内庁特務祓魔官は呪縛されたかの様に動きを止めざるを得なかった
康太は「悪いな動きを止めさせて貰った!」と言い捨てた
そして“帝”に体躯を乗っ取られた安曇の前に‥‥
梵天,地天,日天,月天,帝釈天,焔摩 天,水天 ,毘沙門天,火天,羅刹天,風天,伊舎那天 の 十二天が姿を現した
毘沙門天は“帝”に
「我等十二天 倭の国を守護する神である!
倭の国を守護する我等が何故“帝”なるモノを知っていないのだ?」と問い掛けた
“帝”は「何故十二天如きの神に我を教えねばならぬのか?己の身分を弁えろ!」と言い捨てた
梵天は「へぇ‥‥己の身分を弁えろ!とな?‥‥」と不愉快そうに呟いた
羅刹天は「弁えるのは何方か?‥‥不愉快で申す!」と吐き捨てた
康太は爆笑して
「十二天相手に弁えろ!と来たか‥‥
閻魔大魔王にもその言葉謂えるのか聞きてぇよな?毘沙門天‥」と問い掛けた
ノリの良い毘沙門天はそれに乗り
「閻魔大魔王に対しても弁えろ!と謂うなら大天使ガブリエルでも呼ぶしかねぇな」
「いやいや、大天使ガブリエルは宗派が違うから関係ないとか言いそうだぜ?」
「宗派と来たか、ならば我等は倭の国そのモノの神じゃねぇか!
なんで敬わねぇんだ?」
「おめぇらが神らしいツラしてねぇからか?」
その言葉に十二天はギャーギャー騒ぎ出した
冗談じゃない!
我等は倭の国を護って来た自負がある!と一歩も引かない姿勢に康太は仕方なく閻魔大魔王を呼ぶしかなかった
「兄者‥‥出て来てくれねぇか?」
康太が呟くと時空を斬り裂いて‥‥‥
古来の閻魔の装束でドロドロした気配とお着きの者一人を伴って姿を現した
「我を呼んだか我が弟炎帝よ!」
古来の閻魔の装束をした閻魔は迫力が違った
迫力とあるが威圧感も相当あった
古来中国の官位に似た衣装はきらびやかで重厚感があった
“帝”と名乗る存在の前にゆっくり向き直ると改めて自己紹介した
「我は名は閻魔大魔王
死者の魂を裁き管理する者だ
当然“帝”と名乗る者の血脈も血筋も総て知っている者だ!」
閻魔大魔王が出て来るとは‥‥
部が悪かった
それでも帝は閻魔に「我の何を知っていると謂うのか?」と突っ掛かった
閻魔は嗤って「総てだ!」と答えた
手には人の罪状が書かれた閻魔帳を開いていた
「主は名を持たぬ者
皇帝(みかど)として君臨して来た者の血脈を受け継ぐ者
その血を絶やさぬ様に血は交わり今も由緒正しき血は受け継がれ倭の国にて存在した者
だが今は‥‥帝の血も絶えて名ばかりの帝と成り果てた者だ!」
閻魔が謂うと帝は逆上して
「馬鹿な事を抜かすな!
我は帝の血脈を継ぐ者だ!」と反論した
閻魔は哀れな瞳な帝に向け
「濃い血は狂気と異形の者を産み出した
それらを闇から闇に葬り去る為に宮内庁特務祓魔官なる者を誕生させ始末させて来た
この世の怪異を増長させたのは、皇族を護り続けた者たちの責任であろう!
平成の時も終わろうとしている今“帝”の存続を疑問視する者も出て来ている
混じり気のない血統の維持が難しくなり帝を護ろうとした者は、狂気の血を排除する為に血を混ぜた
主の3代前には帝の血脈は総て途絶えた
主は帝の血など流れてはおらぬ名もなき者に過ぎぬ!」
高説を唱えた
帝は狼狽え、嘘だ‥‥嘘だ!!と叫んだ
閻魔は「嘘だと想うならば主でも頭が上がらぬ者に問い質すとよい!」と言い捨てた
帝の気配はそこで消え‥‥
安曇はバタッと倒れた
堂嶋が安曇を支えてソファーに座らせた
閻魔は弟を抱き締めると
「大丈夫か?我が弟 炎帝よ‥‥」と問い掛けた
「兄者、呼び出して悪かった」
「お前の役に立てるなら公務の真っ只中でも来るに決まっておるではないか!
役務の真っ只中に姿を消した司録の様に、兄も頑張るに決まっておる!」
「‥‥司録がこっちに来てたの知っていたのか?」
「黒龍が『秘書官室を覗いたら司録が慌てて何処かへ消えてたぜ?
炎帝に何かあったのか?』と心配しておったからな」
「司命が少しだけピンチだったんだ」
「あぁ、司命司録は一つであったな‥‥
だから我も気にしておったのだ‥‥何もなくて良かった」
閻魔は弟を強く抱き締めると榊原に向き直った
「婿殿、炎帝を頼みましたよ」
榊原は深々と頭を下げて
「はい!この命に変えましても護ってみせます!」と約束した
閻魔は安心したように微笑み榊原の肩をポンっと叩くと
「さて、十二天、詳しい話を聞きたいので我と共に同行されよ!」
閻魔に謂われ、十二天は仕方なく閻魔の傍へと並んだ
「ではな、炎帝!」
閻魔は十二天を従えて姿を消した
それを見届けてから堂嶋は康太に
「康太‥‥伯父貴が別人だって‥‥何処から知っていたんだ?」と問い掛けた
「この部屋に入った瞬間からだ‥‥」
部屋に入るなり空気が張りつめて‥‥嫌な気配を感じていた
それは同時に榊原や聡一郎も感じていた
だが相手にそれを知られる訳にはいかなかったから‥‥黙っていた
堂嶋はずっとこの部屋にいたのに何も気付かなくてショックを受けていた
「‥‥この部屋に入った瞬間か‥‥
なら何時‥‥伯父貴は乗っ取られていたと謂うんだ?」
「ホテルに来る前に何らかの接触を謀られたんだと想う
このホテルは天皇も宿泊されるホテルとして防衛の結界は凄い
外から侵入するのは不可能と最初から踏んでいたから勝也の奥深くに入り込み‥‥
出る瞬間を目論んでいた、そんな所だと想う」
「伯父貴は‥‥‥大丈夫なのか?」
「大丈夫だ!
一時的に操作されただけだ」
「でもまた‥‥こんな事があれば‥‥伯父貴は‥‥」
康太を殺さねばならない事になれば‥‥
安曇は生きてはいないだろう‥‥
ショックを受けてる堂嶋に康太は
「勝也には後でもうこんな事がない様に封印を施すつもりだ‥‥
国家元首を意図も簡単に操り人形にしやがるとはな‥‥」と悔しそうに呟いた
堂嶋は「お前が相手している敵は‥‥何なんだ?」と問い掛けた
「倭の国の根底に眠ってる闇とも謂える存在かな?」
「倭の国の闇‥‥この国は‥‥何処に向かっているんだろうな‥‥」
そう言い‥‥堂嶋は黙り込んだ
闇が深すぎて‥‥堂嶋は今にもその闇に飲み込まれそうになり身震いした
康太は堂嶋の瞳を射抜き
「何処に向かうか舵を取るのはお前達政治屋の仕事じゃねぇか!
この国には計り知れねぇ闇の部分があったとしても、それは表には出ねぇ闇の部分だ!
生きた国を動かすのは死人じゃねぇ!」
「康太‥‥」
「この国を死の国にしねぇ為にも、おめぇ達は闘わねぇとならねぇんだよ!
それが政治屋としての使命なんじゃねぇのか?」
「‥‥あぁ‥‥そうだったな‥‥
すまない‥‥まだヒョッコな(未熟な)奴だと笑って許してくれ‥‥」
「正義‥‥おめぇは次代の総理になる存在だ!
視なくても良い世界も見ねぇとならねぇ‥‥
知らなくても良い世界も知らねぇとならなくなる‥‥
この国は多くの闇と膿を抱えている‥‥
相手は‥‥権力と歴史‥‥この国その物だ
それでも‥‥逝くか?正義‥‥」
康太は堂嶋にこの果てへと逝く覚悟を問い質した
覚悟なくば先へと進めないからだ‥‥
「それでも逝くと決めている!
兵藤貴史がこの国のトップに立つ日まで、俺は檜舞台からは降りないと決めている!
だから逝く道しかないんだよ康太‥‥」
堂嶋は覚悟を口にした
「おめぇが‥‥苦しみを独りで背負わなくても良い様にオレ達がいる‥‥
オレ達の子供がいるんだって事を覚えておいてくれ!」
喩え‥‥自身が滅びようとも‥‥我が子に託し果てへと続くと康太が口にしたも同然の言葉だった
「康太‥‥」
「倭の国の皇帝(みかど)の血筋は途絶えた
どれだけ有能な血だとしても、混ぜない様に護るのは至難の技だなんだよ!
濃い血は狂気を孕み‥‥異形を生み出す
人は久遠(くおん)の時は刻めやしない‥‥
胤裔(いんえい)は‥‥禁忌とされて来た‥‥
なのに血を貴び護ろうとして来た奴がいる‥
目的は解らねぇけど、黙っていられる場合じゃねぇって事だ!
正義、相手は国だとしても‥‥立ち向かえるか?」
「当たり前だ!
相手が国だろうが何だろうが間違った道を逝くならば正さねばならねぇと想っている
俺は信念の元、政治屋をやってる
喩えそれで命を落とそうとも‥‥最期の瞬間、笑って逝ってやると決めている!」
「正義‥‥」
堂嶋正義の瞳は濁りもなく澄んでいた
傲りもなく気負いもなく、嘘で汚れてもいなかった
堂嶋はニカッと嗤うと
「相手が誰だろうが俺は一歩も引く気はない!
俺は俺の信じた道を逝く!
それが出来ない奴に政治屋を名乗る資格などない!」と吠えた
「頼もしいな!」
「俺は堂嶋正義だ!
名に恥じる生き方はしないと決めている!」
父が願いを込めてつけてくれた名前なのだ!
絶対に恥じたりはしないと心に決めている
父の意思を継ぐと決めた日に、心に誓った
堂嶋は康太を見ていた
康太も堂嶋を見ていた
二人は一歩も引かない決意を帯びて立っていた
意識を失っていた安曇は、意識を取り戻し、康太と堂嶋を見ていた
意識を乗っ取られ、自分の意思とは反する行動を取らされていた
自分の自我は奥深くに追いやられ、傍観者として見ているしか出来なかった
安曇は「康太‥‥」と言葉を発した
今度はちゃんと自分の意思を伴った言葉となり‥‥
安堵の息を吐き出した
康太は安曇に近寄り「大丈夫か?」と問い掛けた
「大丈夫だ康太‥‥私は‥‥帝と名乗る者に乗っ取られていたのですね」
「今日、誰に逢った?」
康太は問い掛けた
安曇は問い掛けられ思い出そうとした
‥‥‥が、頭を抱えて苦しみだした
「今日‥‥うっ‥‥頭が‥‥」
弥勒が姿を現して
「記憶操作の呪詛だ‥‥」と言葉にした
康太は安曇を抱き締めて
「思い出そうとすると記憶そのものを崩壊させる呪詛か?」と問い掛けた
「そうだ‥‥」
「手立てはねぇのか?」
「術者を‥‥消して術を解除するしか術はない‥‥」
その言葉を聞いて康太は「ならその術者‥‥消すしかねぇわな!」と敢えて言葉にした
人の記憶の操縦
それは人道的な領域として普通の術者なら決して踏み込みはしない
それを敢えてやってのけると謂う事は、それだけのリスクを払っても護らねばならない事があると謂う事なのだろう‥‥
弥勒は「康太‥‥安曇を人質にされたも同然になった今、どう動くつもりだ?」と問い質した
「もう引く道なんてねぇ!
前に進むしかねぇんだよ!」
飛鳥井康太の言葉だった
逃げ道は用意しない
自分の道を逝く康太の言葉だった
弥勒はそんな康太を想い「そうであったな‥‥」と呟いた
今引き返したとしても、既に始まった闘いから背を向ける事は絶対にしない
例え‥‥それで命を落としたとしても‥‥
「ならば‥‥逝くしかあるまいな!」
弥勒は覚悟を言葉にした
聡一郎も「主が逝く道をお供致します!」と康太の瞳を射抜きそう言った
榊原は康太を引き寄せ
「取り敢えずお茶にしませんか?」と安曇や堂嶋を気遣ってそう言った
康太はそれに気付き「そうだな!」と気を取り直し
「お茶にしようぜ!」と元気に言った
榊原は「聡一郎、康太はミルクティーを僕は珈琲を、正義さんと勝也さん弥勒の飲み物も聞いてルームサービスをお願いします」と聡一郎に頼んだ
聡一郎は立ち上がると堂嶋と安曇の飲みたいモノを聞いてフロントに電話を入れた
暫くしてルームサービスが届けられた
ダイニングへと移動してお茶にする
テーブルに綺麗なティーカップが並べられ
その横にカラフルなマカロンが添えられていた
聡一郎は「それは?頼んでないです‥」と慌てた
給仕のスタッフは「総支配人からのお心漬けに御座います。後程総支配人がお伺い致します」とだけ告げ、給仕を終えると退出して行った
取り敢えず康太は紅茶が並べられた椅子に座りティーカップを手にした
榊原はその横に座り珈琲の入ったカップを手にした
聡一郎は安曇と堂嶋を椅子に座らせてから椅子に腰かけた
康太は紅茶を飲みながら弥勒に
「オレ等の介入を拒み続ける理由ってなんだろ?」と問い掛けた
「あの地に何かあるんだろうが、それは想像を遥かに凌駕するって事しか解らぬ‥」
「隠し通さねばならぬ闇の部分か‥‥」
「どの国にも闇の部分はある‥‥この国が護ろうとする闇は、この国の根底を覆す恐怖となるやも知れぬ部分なのであろう‥‥
ならば‥‥何としてでも妨害して来るだろうな‥‥」
弥勒の言葉に康太は頷いた
黙って聞いていた安曇がやっとの想いで口を開いた
「この案件、閣下はご存知なのですか?」
「当然知っているだろう‥‥
だがヒエラルキーの頂点が帝だとすると閣下は何も謂える立場にない」
安曇は何故過去の遺物が今も‥‥存在して倭の国を我が物顔で支配しているんでしょうかね‥‥‥と謂う言葉は飲み込んだ
国家元首として軽はずみな言葉は避けねばならなかったからだ‥
所詮、国家元首とてこの国の駒でしか過ぎない‥‥
康太は安曇の心を知ってか
「帝も閣下も倭の国の亡霊として存在させたこの国の闇その物だ!
名も持たぬ存在を生かして隠した
この国は罪を幾つ重ねれば正気に戻るんだろうな‥‥
この国の暗部を知るのは一握りの存在
人が背負うには重すぎる荷物を背負わされるんだ!
正義‥‥お前が逝く道はそんな馬鹿げた仕来たりだの風習だの胤裔に囚われた世界だ‥‥それでも逝くか?」
腹の立つ事が平然と成されている世界だ
闇は何処までも広がっていて
己の無力しか味わえない世界だ
それでも逝くか?と康太は問い掛けた
堂嶋はフンッと嗤って
「逝くと決めている!
俺も引く道はないと決めている!
俺はこの国のトップに立ち兵藤貴史へバトンを渡す日まで倒れはしない!」と答えた
安曇は「なら腹を括るしかありませんね」と呟き‥‥
康太へ「我等は逝くしかない様です」と覚悟を述べた
歪んだ世界を元には戻せなくなくとも
歪んだ世界から国民を護る事は出来るだろう‥‥
安曇と堂嶋の覚悟だった
ドアがノックされ皆の意識が現実に引き戻された
聡一郎はドアを開けに逝くとホテル・ニューグランドの副社長でもあり、このホテルの総支配人がドアの前に立っていた
聡一郎は副社長を部屋へと招き入れた
副社長は康太の前に立つと
「このホテルの結界が揺らいでおりました
何か、御座いましたか?」問い掛けた
康太は「倭の国の亡霊がオレを追って出て来てた‥‥」と答えた
「左様で。
ですが亡霊だとてこの結界では好き勝手は出来ますまい!
この結界は土御門家初代当主が直々に張った結界‥‥何人たりともこの結界からは自由には出入りは出来はしません!」
康太は副社長の言葉を聞いて『土御門』と想いを馳せ
「土御門孔明?」と問い掛けた
「そうです。安倍晴明も一目置いた存在の土御門孔明に御座います
土御門孔明はこの地にホテルを建てると申すと未来永劫破られぬ呪符を授けて下さいました
呪符と歴代の土御門家当主が託されて結界を張って来たのです
そう易々と破られたりは致しません!」
「土御門孔明の呪符ならば容易くは破られたりはしねぇわな!
安倍晴明は土御門孔明の力を尊敬し、その力を模したとも謂われる
土御門孔明‥稀代の術者であり学者でもあった
星詠みの力は絶大で今の陰陽の基礎を築いたと言っても過言ではない御仁だ」
「お詳しいのですね」
「倭の国に初めて転生した時代に土御門孔明はいた
オレはあの御仁の“力”を目の前で視た
オレに星詠みを教えてくれたのは土御門孔明だ!」
飛鳥井康太なれば何があっても驚いたりはしない
飛鳥井家真贋と謂う存在は転生者だと熟知している
それでも世間話をするように話されれば驚きは隠せなかった
だが副社長は重い枷を背負った飛鳥井家真贋に対して礼をもって言葉にした
「左様でしたか
康太様‥‥相手は強大だと解っていても貴方は絶対に引かれはしないでしょう‥‥
ですが覚えておいて下さい‥‥
この闘いを終結させた功労を労いとう御座いますので是非ホテルに来て下さい
私から心ばかりの場を御提供させて戴きます」
「ありがとう
一仕事終えたらホテルに来るかんな!」
「はい。御待ちしております」
副社長は深々と礼をして心より康太の労を労い心を尽くした
そして副社長は退席した
ともだちにシェアしよう!