61 / 100

第61話 御饌 ②

康太と榊原は安曇と堂嶋を見送ってからホテルを後にした 弥勒はいつの間にか姿を消していた 何か想う事があって何処かへ行ったのだろう 飛鳥井の家に還ると康太は「疲れた」と訴えた どれだけの精神力で持ちこたえていたのか‥‥ 想像するだけでも驚異を感じずにはいられない 榊原は康太を寝室に連れて逝くと「寝ますか?」と問い掛けた 「あぁ、少し寝たい‥‥」 榊原は康太の服を脱がしベッドの中に寝かせると額に口吻けを落とし 「さぁ少し眠りなさい 君が眠るまで傍にいます」 「ありがとう‥」 「君が眠ったら、目醒めた君の腹を満たすべく夜食を作っておきます だから眠りなさい今は‥‥」 康太は「‥‥ん‥‥」と言い目を瞑った 直ぐ様、規則正しい寝息が寝室に響き渡った 榊原は康太が眠ったのを確かめて寝室を出て行った 寝室を出てキッチンに向かうと、キッチンには一生が寝ずに康太の帰りを待っていた 「旦那、何があった?」 昨夜応接間から姿を消した康太を案じていたのだ 榊原は康太を追って白馬に飛んでからの事を一部始終話した 敵が倭の国そのものだと口にした 一生は敵が倭の国の国そのものだとしても関係ないとばかりに 「で、どうするのよ?」と問い掛けた 「康太は引く気はないと言ってました 僕も引く気はありません! 僕の妻をアイツは‥‥下賎のモノだの破壊神だの‥‥好き勝手宣いました! 僕は四神の一員としてこの侮蔑を許す訳にはいきません!」 榊原はキッパリと言い捨てた 一生は「四龍の一員としても聞捨てならねぇぜ!それは!」と言い嗤った 「帝と言った存在は我等“神”を下賎の者扱いしたばかりか、己が神よりも尊いと謂わんばかりでした 閻魔大魔王が出て来て下さったので、難なきを得れたのですが‥‥誰から何を聞かされたのか? 十二天すら崇める気はないみたいに取り付く島もありませんでした」 「神を神とも想わねぇ存在か‥‥ どんな教育を受けたらそうなるんだ?」 「解りません ですが相手が誰であろうと‥‥ 僕は妻を貶める輩は許してはおけないだけです!」 「総ての凶元は白馬なんだよな?」 「そうみたいですね 白馬の土地を欲してから話は逸れて行き、 倭の国の闇‥この国の根底を覆す闇があるだろうと謂われる事態です」 「この国の根底を覆す闇ねぇ‥‥」 此処まで事態が悪化していたとは想像すらつかなかった‥‥ 「旦那、康太は?」 「寝ています 疲れたと言ったので眠らせました」 何時狙われるや知れない事態では気が抜けなかっただろう 疲れて当たり前だと一生は黙った 榊原は康太の夜食を作り3階まで持って逝く準備をしていた 康太は夢を見ていた 目の前は白い霧で包まれて何も見えなかった 帝の気配が消えてから康太は眠くて仕方がなかった まるで夢魔に取り憑かれたかの様に‥‥ 瞼が閉じて眠りへと誘われていた 辛うじて家まで眠らずに還って来たが、それ以上は限界だった それを察した榊原が康太をベッドへと寝かせたのだ 白い霧の中を康太は歩いていた 霧が包み込む世界を確りとした足取りで歩いていた まるで視えているかの様に、その足取りは確かなモノだった 歩いていると少しずつ霧が晴れて来た 康太は何処かで視た様な風景に歩くペースを少し緩めた 目の前に大きな桜の木が視えて来た 人の血肉を吸った桜は紅く色艶やかに咲き誇っていた その桜の木の下に一人の男が立っていた 真っ白の髪を足首で伸ばし陰陽師の装束をしていた 切り目長い瞳は康太を見ると緩やかに下がった 「幾ら転生を続けようとも その人の持つ星は昔も今も輝いている」 男はそう呟くと深々と頭を下げた そして姿勢を正すと 「初めまして‥‥でしょうか? それともお久しぶりですか?」と問い掛けた 康太はそれを受けて「お久しぶりに決まってるやん!」と答えた 「ならばあなたは我が弟子、斯波陵王で間違いないのですね? 斯波の名を持つあなたが何故飛鳥井を名乗られる? わたしはあなたが‥‥幾度も転生を繰り返しているのを知っています 幾度も幾度も‥‥あなたの星は姿を現し輝いていた」 「斯波の家は‥‥謀られ御取り潰しにされた‥‥ 能力のある存在が抵抗勢力にいると、総てを敵に回され‥‥潰されるしかなかった 飛鳥井は斯波と名乗れぬ一族が生き延びる為に逃げ名乗った名だ‥‥」 土御門孔明は感嘆の息を吐き出し 「何時の世も人は愚かな行為を繰り返すのですね‥‥」 「今度はオレが問おう! 師匠、貴方は何故今、オレの前に姿を現した?」 「あなたが倭の国の禁術を破ろうとしているからです このままでは‥‥あなたは消されてしまう」 「斯波陵王と同じく目の上のたん瘤は消し去るが上等か‥‥ オレは一族郎党が目の前で嬲り殺しにされるのを視てきた そしてオレ自身も嬲り殺された あの屈辱は‥‥幾度死んだとしても忘れられるモノじゃねぇ‥‥ だからオレは力を付ける事にした オレは簡単には消されねぇ様に踏ん張る事にした‥‥ もう国の好き勝手に殺されたりはしねぇ!」 「陵王‥‥」 土御門孔明は言葉をなくし康太を視た 康太は静かに続けた 「星を詠んだ陵王は【遺す】為に女と子供を逃がして閻魔大魔王へ直訴していたんだ 斯波は滅んだとしても‥‥その“血”までは絶やしはしねぇ!と覚悟の上で命と引き換えに一族を遺し明日へと続けた それが飛鳥井だ! だから今度は簡単に潰される訳にはいかねぇんだよ! これは斯波陵王の意地でもあるんだかんな!」 土御門孔明は諦めた様に瞳を閉じると‥‥ 「頑固な弟子は一歩も引かなかった事を忘れていました‥‥」と静かに笑って呟いた そして「ならばお主に昔話をせねばならぬな」と言い康太の頭を撫でた 懐かしいお師匠の香の香りがした 康太は土御門孔明を懐かしそうに目を細めて見ていた 「この地は遥か昔から異形のモノを捨てる場所となっていた その姿形は人ならぬモノであったり‥‥ 異国の血が混じった姿形のモノであったりまちまちではあったが、その者達は人の世で生きる事を拒まれ捨てられた 捨てられたモノ達はこの地で生きていかねばならなくなった それでも生きて逝く為に必死に荒れ地を開拓し生きて逝く術を総て試して 異形のモノ達はこの地が楽園だった だが何も知らぬ人間がこの地に目を着け棲もうとした‥‥ 人間は異形のモノ達を殺戮してこの地を手に入れた それが二階堂家の末裔だ! 二階堂家は倭の国と裏で手を結び異形のモノを更に山奥深くへ封印した だからわたしは‥‥この地に逆五芒星を描き異形のモノ達を護った それは帝からの依頼だったからだ 遥か昔‥‥帝と名乗る一族は“血”を大切に護り通した 濃い血は異形のモノを産み出した 姿形が人のモノではなかったり、アルビノであったりした‥‥ 人は己と違うモノ達を忌み嫌う 彼等は【御仁】と呼ばれ駆除の対象とされた 帝はそんなモノ達を逃がし護ろうとした それがこの地だ この地は彼等の楽園であり‥‥棲家なのです 何人たりとも‥‥最後の楽園を壊させはしません! それを護るのが‥‥わたしの使命なのです 彼等は静かに過ごしたいだけなのです あの地は今後も開発などされてはならないのです」 康太は静かに土御門孔明の話を聞いていた だが皮肉に唇の端を吊り上げると 「何が静かに過ごしたい‥‥だ! 逆五芒星の重要点箇所には今も捧げられた御饌が血を欲している この地が心霊スポットになってるのを知ってるか?師匠 この地に留めおかれた御饌は恨み辛みしかねぇ怨霊に成り果て人を喰らっていんだよ! 逆五芒星が悪鬼を産み出し禍いを招いている 人を寄せ付けない為だとしても、これは遣り過ごせねぇ話じゃねぇのか?」 罪のない人間が今も喰らわれているのだ 黙ってはいられなかった 「‥‥我が教え子よ‥‥一つを護ろうとすれば一つの犠牲を出さねばならぬ 人は罪の上に罪を重ね‥‥今を生きているのではないか?」 「だとしても、帝は遣り過ぎだ! 元総理大臣の体躯を乗っ取って傀儡にしようとした! その術が‥‥記憶を崩壊させると解っていて、それをやった! この世に帝はもう要らねぇだろ? 何時まで罪を重ねれば済むんだよ? もう帝の血なんて残ってはいねぇのに、まだ京に御所を移す夢を視てるのかよ?」 「悪しき存在は帝だけではないのですよ」 「名もなき存在を遺しているって事か? 飛鳥井は古来より皇族とは所縁が深い 古来の神の為に舞を踊る神官として今も名を連ねる存在として明日を繋げている」 「そうでしたか‥‥そんなあなたならば歪に見えるのですね ですが‥‥その存在をどうこう出来はしない‥‥違いますか?」 「違わねぇ! だからオレは見ないフリはしてやって来た 閣下と謂う存在も遺して来た どうこうする気は皆無だ だが飛鳥井に手を出すならば話は別だ! オレはもう理不尽に潰される気はねぇんだ! 飛鳥井に手を出せば‥‥この倭の国の仕組み事態ぶっ壊してやんよ! 名もなき存在を白日の元に曝してやる! 今のオレにはそれだけの力がある! 人も国も動かす力がある!」 「あなたは昔から‥‥負けず嫌いでしたからね‥‥」 「師匠、何故貴方はこの地にいる? この地と貴方は‥‥因縁がおありか?」 康太の問い掛けに土御門孔明は儚げに笑った 「わたしの総ては‥‥帝のモノだったのです 帝が望むならば‥‥わたしは想いの地に骨を埋め護ると決めた 今はもう‥‥あの方の血は薄れ‥‥ あの方の威光も薄れた だがわたしはあの方の約束を違える事は絶対にしないと決めているのです」 「師匠、二階堂の土地を半分下さい! そしたら貴方のいる桜の木の下にある貴方の仏舎利を奉ります 未来永劫破られぬ結界を張って魔界に繋げましょう! 彼等は‥‥魔界に身を置いた方が楽に生活が出来るやも知れない」 「それは彼等が化け物だからですか?」 「師匠、魔界には多種多様な種族が暮らしています オレの様な人のカタチを取っている奴もいるし、妖怪や化け物にしか見えねぇ奴もいる 神が仏がそんなモノ達に混じって暮らしている 押し込むんじゃなく自由にいて不自然じゃねぇ場所へ行ける環境を作るのも必要だと言ってるんだ」 「陵王‥‥わたしが既に霊体だと知っていたのですね」 「師匠、オレが幾度転生を繰り返したと想っているんですか? あれから何百年も経ってて存在してたら、それはそれで怖いって‥‥」 康太の言い種に土御門孔明は声をあげて笑った 「陵王、お主は何時も愉快だ わたしを笑わすのは今も昔もお主だけであったのを忘れておった」 「師匠、貴方の意思はオレが継ぐ! 貴方の想いの通りに、あの地はオレが護る! だから‥‥あの地をオレに任せてくれねぇか?」 「そしたら‥わたしのいる場所がなくなる‥‥」 「魔界にあの桜の分身を植えましょう 貴方はそこで弟子を持ち暮らせば良い」 「それは楽しいですね ですが‥‥わたしはあの地から離れられない宿命なのです‥‥ あなたの星が危機を感じて‥‥居てもたってもいられず‥‥呼んでしまった 愛しき子よ‥‥我が意思を受け継ぎし子よ どうか‥‥ご無事で‥‥」 「師匠!」 土御門孔明は笑っていた あの頃と変わらぬ笑顔で笑っていた そして‥‥薄くなり‥‥‥消えた 後は暗闇しか残らなかった 康太は泣いていた 嗚咽を漏らして泣いていた 隣に寝ていた榊原は起き上がり、康太を抱き締めた 「何かありましたか?」 「師匠が‥‥」 康太はそう言い泣いていた 「師匠‥‥君が師匠と呼ぶのは昔も今も土御門孔明だけでしたね 彼がどうかしましたか?」 「オレの星が危機を察して呼び寄せてくれたんだ‥‥」 「そうでしたか‥‥で、土御門孔明は何を言っていたのですか?」 「あの地に構うな‥‥と。」 康太が謂うと榊原は康太を強く強く抱き締めた 「あの土地を諦めろと言ったとしても君は‥‥引かないんでしょうね‥‥」 「引かねぇ訳じゃねぇ‥‥ 勝ち目がねぇ勝負はしねぇ! 引き際は弁えているつもりだ! だがな、こんな歪んだままの空間を続ければ‥‥近い将来歪みが必ず出る! そうなった時、あの土地を昇華出来る者はいない‥‥」 「君を‥‥危険な目に遭わせたくはないのですがね‥‥」 榊原は本音を吐露した 康太は榊原の背を抱き 「伊織、既にあの空間は歪に歪み過ぎている 幼い頃から何度も白馬に逝った その頃はまだ禁忌を破る者もなく、あの空間は護られていた だが近年、ネットが噂を呼び始めると、あの空間は歪さを増して逝った そろそろ手を打たねぇとあの歪な呪詛は人にまで禍いを齎すだろう‥‥って想っていたんだ 禍根はオレらの代で始末しとかねぇと、オレらの子にツケが逝く事になるかんな‥」 と訴えた 「僕の君ならば、そう言うと想っていました」 榊原は嬉しそうに笑うと康太を強く抱き締めた 二人は静かに互いを抱き締めていた‥‥ そして榊原に問い掛けた 「なぁ伊織‥‥」 「何ですか?奥さん」 「神は本当に贄を欲したのかな?」 「どうなんでしょうね‥‥ 神に頼み事をする等価交換だとしたら‥‥ 人はなんと罪を作ったのでしょうね‥‥」 「贄を捧げたのはほんの100年も満たない時まで行われた‥‥ 飢饉が起きるたびに、病気が蔓延するたびに‥‥何かあれば人は神に生け贄を差し出し‥‥聞いてもらって来た‥‥ オレらも見て来たよな? 目の前で人が贄として差し出されて逝くのを‥‥」 「ええ‥‥幾度生まれ変わろうとも古(いにしえ)の風習はなくなってませんでしたね‥‥」 「狂ってる‥‥ こんなの間違ってる‥ 声を枯らすまで叫んだとしても、人は狂気の儀式を止めなかった‥‥ 目の前で何人の人間が贄として差し出されか‥‥ そのたびにはオレは己の無力さに泣いた‥」 「そうでしたね‥‥ 君は誰よりも心を痛めていた だが僕らは‥無力な人でした 僕は如意宝珠を今世まで持ってませんでしたからね 本当に何も出来ないで指を咥えて見てるしか出来ませんでした‥‥」 「青龍にそうさせたのはオレだ」 「違いますよ あなたを追い詰めた私の責任でもあるのです だから人の世に堕ちるなれば‥人として生きようと如意宝珠を兄の所まで放ったのです 私なりのケジメだったのです 君の所為ではありません」 口調が青龍になってて康太は嬉しくて榊原の唇にチュッとキスした 榊原は笑って「何ですか?」と笑って聞いた 「口調が青龍になってて、何か嬉しかった」 「そうなんですか? 自分でもあまり解りませんでした ただ、高校の頃は気を付けて話をしていました‥‥ でないと物心ついた頃に喋った時、青龍の口調で引かれましたからね‥‥ 僕は青龍の意識を封印されていたのに‥‥無意識って怖いですね‥‥」 榊原の言い種に康太は腹を抱えて笑った やはり記憶はなくとも青龍にしかなり得ない存在なのだ それが嬉しくて堪らなかった 記憶を封印しても、ちゃんと探しだして愛してくれた 不器用な男の精一杯の愛を貰った時、康太は泣いた 前世の記憶があるから愛してくれていたのか? と言う疑心暗鬼を消してくれた 未来永劫、君しか愛せません! その言葉を貰った時の事は死んでも忘れはしない 康太は榊原の両頬に手を添え 「愛してる」と囁いた 榊原はその言葉を受け取り、嬉しそうに微笑んだ 「僕も愛しています奥さん」 榊原の口癖だった 愛しい男の口癖だった 人の世に堕ちて、何度も何度も転生を繰り返した 幾度の転生を繰り返しても青龍は炎帝を愛してくれた もうこれ以上は愛せない そう思っても次の瞬間‥‥更に愛しさが募るのだ 一つに交わり溶けてしまいたい そんな想いをした次の瞬間 離れているからこそ愛しさを感じられるのが嬉しい‥‥と心が叫んでいる 愛してる 愛してる 愛してる 愛してる‥‥ 幾ら言い尽くしても尽きない この愛に溺れて死ねるなら本望だと想える程に‥‥ 狂っている 「もう尽きない程‥‥愛してるって言ったけど‥‥ それしか出て来ねぇのな‥‥ バカの一つ覚えみてぇに‥‥それしか言えねぇのな‥‥」 康太はそう言いクスッと笑った 「それは僕も同じです 君をどれだけ愛しているか伝えたいのに‥‥伝える術を持たない赤子の様にバカの一つ覚えみたいに、愛してるしか言えません‥‥」 「溶けてしまえば良いのに‥‥」 「そうですね でも一つに溶け合ったとしても僕は君を求めて止みません」 「伊織‥‥」 榊原は康太に優しく口吻けた その口吻けが深くなり口腔の中で互いの舌が縺れて搦まり求め合っていた 咀嚼出来ない唾液が溢れて流れるのも気にせず貪る様に接吻は続けられた 唇を離す頃には、すっかり互いは欲求を隠せない程になっていた 榊原は康太の体躯を弄り乳首を摘まんで捏ね回した 早く欲しいと言う欲望を押さえつけ康太の体躯が榊原を受け入れられるまで丁寧に解した 榊原はローションを手にすると、蕩けきった秘孔にローションを垂らし 己の肉棒にもローションを垂らした そして康太の蕾に挿し込んだ 奥まで一気に貫くと動きを止めた 「大丈夫ですか?」 なるべく康太を苦しめない様に亀頭のエラの部分を滑りと共に押し込んだのだ 康太は愛する男が挿入って来る快感を全身で感じていた 幾度愛し合っても渇望する 欲しいと全身が愛する人を求める 二人は想いの限り愛し合い そして重なり眠った 榊原伊織の愛が 飛鳥井康太を強くする 飛鳥井康太の愛が 榊原伊織を強くする 二人はこうして幾世も共に生きて来たのだ 康太は榊原の胸の上に乗って、胸に頬を擦り寄せていた 榊原は愛する人を腕に抱き締め 「愛してます」と呟いた 「オレも愛してる お前だけを愛してる 幾世生まれ変わろうとも お前を愛する心は変わらない」 「僕もです 幾世生まれ変わろうとも‥‥ 僕は君を愛しています その心は枯渇する事なく溢れているのです 僕にこんな熱い心があるなんて‥‥ 君を知るまでは想いもしませんでした」 「伊織‥‥」 「何ですか?」 「真実を視に行こうと想っている」 「僕も共に行きます」 「師匠の言葉で大体の真実は裏付けされた様なもんだが‥オレは知りてぇんだよ 師匠が何を守り、あの地に骨を埋めたのか‥‥ そして死しても護ろうとしているモノが何なのか? 師匠の秘密を暴く様で申し訳ねぇけど‥‥ オレはそれでもやらねぇとならねぇと想うんだ‥‥」 「君の想いのままにすればよいのです! 僕は君と共に行きます 君が想うままサポートするのが僕の務めなのなのですから‥‥」 「伊織‥‥」 「僕らの邪魔をするなれば、想い知るが良いのです 僕の愛する人に手を出すならば‥‥ 僕は皇帝閻魔に授けられた力で‥‥この世から消し去ってやろうと想っています」 榊原の言葉に我が冥府の父の名が出て来て、康太は驚愕の瞳を榊原に向けた 「皇帝閻魔は何をおめぇに授けたんだ?」 「あ‥‥聞かなかった事にはなりませんか?」 「ならねぇ! 夫婦の間に隠し事はなしの筈だろ?」 康太が謂うと榊原は困った顔をした 「皇帝閻魔はハデスの力を総て君に託した だけど呪術、魔術だけは君でなく僕に授けた 君と僕は二人で一つなので力も分散しようと想ったんですよ」 「皇帝閻魔の呪術や魔術はこの世を消し去る術法ばっかじゃんか‥‥ おかしいと想ったんだよ‥‥ 力は総てオレにくれたのに術法だけはくれなかった まだ冥府の為に必要なんだと想っていたら‥‥青龍に渡していたのかよ?」 「総てではありませんよ 我等が冥府に逝くのはまだまだ先の事ですからね」 「で、何系の魔術貰ったのよ?」 「‥‥鏖殺と鏖殺滅法系の魔術ですよ」 「口にすれば、この世界は一瞬で滅ぶって謂う鏖殺系の魔術と、それを打ち破る滅法系の魔術か‥‥ 確かにオレに託せば‥‥跡形もなく消し去ってやるかもな知れねぇからな 懸命な判断だな親父殿は‥‥」 康太はそう言い笑った 榊原は康太を強く抱き締めて 「僕の愛する君に何かするなれば、僕は許しはしません! 生きて来世に逝けると想うなと謂う事で、この世から消し去って差し上げます」 とブリザードでも吹きそうな勢いで言った 「青龍‥‥」 「なぁに、僕の君に何もしないのなら、僕は手は下しません! 僕は良識のある男ですからね」 ‥‥‥良識のある男は‥‥この世から消し去って差し上げますなんて謂わねぇよ‥‥ と康太は想い苦笑した 何はともあれ、戦いの火蓋は切って落とされたばかりだった 今回の件に‥‥宿敵とも言える存在が関わっているかどうかは解らないが‥‥ 御饌を捧げた地は血を求める犠牲者を出し続けるのは目に見えていた 手を打たねばならない状況なのには変わりはなかった 「青龍、魔界に逝く 魔界に行き女神の泉から師匠が存在していたであろう時代に飛ぶ」 「なれば僕もお供します」 二人は‥‥ベッドから下りると支度をして‥‥ 闇に消える様に姿を消した 二人は魔界へと向かったのだった

ともだちにシェアしよう!