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第62話 魔界へ

飛鳥井の家から姿を消した飛鳥井康太と榊原伊織は崑崙山へと下り立ち魔界へと向かう事にした 崑崙山に姿を現すと八仙の一人が出迎えに出て来ていた 「今夜にでも御出になると星が告げておりてました」 「時を渡る だから女神の泉まで行くつもりだ」 「閻魔には御逢いにはならぬのか?」 八仙は閻魔は素通りで女神の泉へ逝くつもりなのか?と問い掛けて来た 「兄者に逢ってたら遅くなるやん」 「まぁまぁ、そう急がずとも過去は変わりはせぬ故、閻魔に御逢いになってからでもよかろうて!」 八仙はそう言い康太と榊原の背中を押して屋敷の中へと招き入れた 屋敷の中には閻魔大魔王と黒龍が椅子に座ってお茶を啜っていた 閻魔は康太を見るなり 「遅かったではないか‥‥まぁ二人でイチャイチャしてたのであろうが‥‥」 と少し不機嫌に言い放った 「兄者、何かあったのか?」 「何もないが、弟が崑崙山に来ると八仙が教えてくれたのでな、来たのだ だが弟はつれなく‥‥‥兄は素通りで女神の泉へ逝くと謂う‥‥ 兄は‥‥ショックでした」 「兄者‥‥‥」 「少し位、兄との時間を作ってくれてもよいのではないか?」 「兄者、解った んなに時間は費やせねぇけど茶を飲む時間位は作るに決まってるやん!」 康太はそう言いソファーに座ろうとすると閻魔が盛大に喜び 「そうですか! ならば行きますよ! 時間が惜しいですからね!」と言い屋敷の外へと出て、青龍の馬である風馬と共に駆けて逝った 唖然とした弟を黒龍が取り成し 「兄の背に乗って逝くか?」と問い掛けた 「はい。兄さんの背中に乗せて下さるのなら、久しぶりに乗ってみたいです」 黒龍は立ちあがり「んじゃ逝くとするか!」と謂うと屋敷の外に出て龍の姿になった 榊原は黒龍の背に乗ると、黒龍は天高く舞い閻魔の邸宅を目指した 黒龍は「赤いのは?」一緒じゃないのが不思議だと言葉にした 「多分、魔界に来ると想うので、そしたら兄さん仕事を言い付けてやると良いです どうぜ僕らが還らない限り還らないでしょうから、たまってる仕事をやらせると良いです」 「そうか、なら赤いのが還って来たらやらせる仕事を作っておくわ!」 「それが良いです 兄さん、魔界は‥‥大丈夫なのですか?」 黒龍はギクッとなりつつ「大丈夫って何が?」ととぼけた 「魔界は幾度も幾度も変革を迎え膿は出しましたが、不穏分子は何処にだっています 飛鳥井の会社だってそうです 幾度も幾度も変革を繰り返し明日を切り開こうと頑張って行っても、不穏分子は消えてはなくなりません 魔界だってそうだと想うのです 兄さん達が頑張って護ってくれている世界は‥‥残念な事に一枚看板ではない 小さなほつくれが‥‥やがて災厄となる事もあるのですからね」 「‥‥何か‥‥お前、法皇になるより宰相になったら良いんじゃねぇかって最近特に想うぜ‥‥ お前らが心配する様な事は何もねぇ‥‥と謂いてぇが今回、お前らが逝こうとしている案件に関しては閻魔も知らぬ存ぜぬは出来ねぇって事だ‥‥」 「それは?僕らが何をするか既に知っていると謂う事なのですね?」 「‥‥そうなる‥‥」 「そうですか、ならば閻魔にその真意を聞かねばなりませんね!」 蒼い炎を惜し気もなく燃やし榊原は嗤っていた 黒龍はこの性格は直ってないやん‥‥と苦笑した 相手が閻魔であろうと誰であろうと、納得が逝かぬならば、納得の逝くまで問い詰める 黒龍は「お手柔らかに頼むぞ‥‥」と言い放った 榊原は「閻魔次第です」と謂い一歩も引く気は皆無だと言い放った 閻魔の邸宅に黒龍が下りると榊原はさっさと兄の背中から下りた 黒龍は人の姿になると榊原と共に閻魔の邸宅へと入って逝った 邸宅に入り使用人に榊原は「閻魔大魔王はどちらですか?」と問い質した 使用人は竦み上がり「応接間に御座います」と答えて走って逃げた 応接間にいると解ると容赦のない足取りで榊原はスタスタと歩いた そして応接間の前に立つとドアをノックして、ドアを開けた 入れの答えも聞かずドアを開けた弟に黒龍は慌てたが‥‥ 榊原は気にもせず康太の傍へと近寄り、ソファーに座った 榊原は康太に「兄上から何かお聞きしましたか?」と尋ねた 康太は「おめぇが来たら話すとさ!」と謂い閻魔の方を向いた 「んじゃ、青龍も来たし話を聞くとするか!」 と康太は切り出した 閻魔は静かに弟を見て、その揺るぎない姿に瞳を瞑った そして閻魔は意を決意して口を開いた 「この地球(ほし)の魔界は、風土・宗教・領土、人種によって守護する領域が異なっているのは知っておるな?」 「あぁ、オレ等は亜細亜圏を統率しているんだよな?」 「あぁ、そうだ! 我等は人の世を糺す存在 古来から倭の国とは密約を交わしておって 倭の国の秩序を護る為の密約だ それは今後も変わりなく護られ続けて逝く約束だ 今回お前達はその約束を破ろうとしていると倭の国から伝令が入った そのタイミングでお前達が魔界に来た これは偶然ではあるまいて‥‥」 「あぁ偶然じゃねぇな! オレは白馬にある土地について探っている その件で命を狙われたり愚弄されたりした このまま‥‥見過ごすには相手が図に乗りすぎだかんな! オレは総てを暴いて白日のもとに曝してやんよ!と想っている」 「それはしてはならない‥‥」 「何故だ?倭の国の闇だからか? なら御門(帝)の血が薄れた今、あそこまでのさばらせているのは愚かな行為だと誰も知らせねぇ事こそ罪だとオレは想うぜ‥‥」 「総て‥‥知って‥‥尚怯まぬと謂うのか?」 「師匠が夢に出た その時昔話を聞いたかんな‥‥大体の予測は着いてる」 「血を護ろうとしているのは‥‥何も倭の国だけの事ではない‥‥」 「血は狂気を孕み狂人を生む それを知ってて護るのは愚かな者のする事だ それに今は‥‥護り通す“血”は絶えてる これ以上馬鹿げた事を続ける方が罪だって何で気付かねぇんだよ?」 「炎帝‥‥馬鹿げていようとも‥‥引く道などないのだ‥‥」 「御門を護り通したければ血を薄めるべきではなかった 薄くなった血に‥‥アイツ等は反魂を施し‥‥この世に傀儡を産み出した んな事しても‥‥張りぼてには何も詰まっちゃいねぇって何故教えてやらねぇんだ? 神だ天人だと煽て間違った教育を施された傀儡を何時まで据える気なんだよ? それでもまだ‥‥兄者は‥‥倭の国の密約を護ると謂われるのか?」 「約束は約束であるからな‥‥」 「ならその約束は誰としたんだ? 期限は何時まで切った約束なんだ? 未来永劫なんて約束なんて存在してる事事態オレは恐ろしさを感じずにはいられねぇぜ?」 「黎明期‥‥初代神武天皇が我らと結びし密約だ」 「今、その天皇は何代目か知ってるか? 始祖から初代、初代から9代は濃い血が受け継がれ異形の者を産み出したかも知れねぇが、それ以降は血を薄める為に近親結婚を避けて来た 今じゃ御門の血なんて1ミクロも入っちゃいねぇ! そう言ったのは兄者じゃねぇのかよ?」 我が弟はこうなる事を予期して呼び出したのかと‥‥疑いたくなる程に鋭い切り込みを入れて来るのだった 「そうであったな‥‥あの帝と名乗る者には御門の血は‥‥皆無だと申した だが約束は約束なのだ炎帝」 「兄者、そろそろ歪んだカタチを正そうとは想わねぇか? 平成の世も終わる‥‥平成の世と共に悪しき風習も糺さねぇとならねぇとオレは想うぜ! 黴の生えた様な風習に縛り付け飼い殺しにするのは止めさせねぇとならねぇとオレは想う」 「炎帝‥‥」 「兄者は見なかった事にすればいい」 「それは無理な約束だ‥‥」 「ならオレを処罰すれば良い! 炎帝を未来永劫、魔界から抹殺すれば良い! そしたらオレは来世、冥府に還る事にする! 元々オレは冥府の者だかんな 少し早く還るだけの事だ!」 魔界には還る事が叶わなくとも、道は違えぬと宣言したも同然の言葉だった 唖然とする閻魔に康太はトドメを刺すかの様に 「兄者、オレは引く気は一切ねぇ!」と続けた 閻魔は「お前の還りを待ちわびる兄に‥‥還らぬと謂うのか?」と哀しげに問い掛けた 「それもやもえぬ事だと想う 兄者に止められようとも、オレは止まる気は皆無だ ならばオレはどんなペナルティーも辞さない意思をみせねぇとならねぇ‥‥ オレは魔界に還れなくとも意思は貫徹する!」 「炎帝‥‥」 閻魔は言葉をなくし‥‥唖然と弟の名を呼んだ 黒龍も炎帝の頑固さは熟知しているから何と謂えば良いのか解らず途方に暮れていた 静まり返った部屋に高笑いが響いた 「炎帝の頑固は昨日今日始まった事ではないではないか!」 何を寝惚けた事を申しておるのだ?と言い放ったのは天照大御神だった 閻魔は「母上‥‥何故に‥‥」と呟いた 天照は「我か?我は最初から此処におったぞえ?」と笑った 「いましたか?」 「寝惚けた事を申しておるのはお主の方だな」 天照はそう言い笑い飛ばした 「閻魔よ、約束は約束だとそなたは申すが、その約束を交わした本人の意思は聞いたのかえ? その約束を交わした御門が、今のていたらくな帝を見て、同じ様な約束を交わすと想うのか? それでも護れと申すと想うか?」 「母上‥‥本人に聞けと仰有られますか?」 「初代神武天皇、いや神日本磐余彦天皇の魂は転生せず倭の国を見守っておるではないか ならば本人に問い質せば良いだけの事ではないか あやつは今の倭の国をどう思っておるかのぉ‥‥腑甲斐無い人間ばかり増えて気概を持った男児は跡絶えた 今こそ本人に問い質してみる時であろうて!」 「ならば本人に問い質してみる事にします そして更なる約束の更新を考えてみる事にします」 「それがよい! 我は我が息子の帰還を日々待ち望んでおるのに、冥府になど逝かれたら逢えぬではないか! そしたらお主を恨むしかないではないか!」 「母上‥‥」 見も蓋もない言葉に閻魔はトホホとなりつつ我が子を想う母の気持ちを鑑みた 天照は何時も我が子の事を想い行動していた そんな母の今の想いは、炎帝が魔界に還って来たなれば婿共々、炎帝が魔界にいた時に出来なかった事をしてやろうとの願いだけだった 閻魔は母の想いを汲み「それでは神日本磐余彦天皇に逢いに逝くとしましょうか!」と言葉を発した 黒龍はやはりそうなったか‥‥と想った 炎帝が動く それは自分は何かをせずとも回りを巻き込んで嵐を巻き起こす事となるのだ 誰にも炎帝は止められない 唯一止められる存在と謂えば青龍なのだが‥‥ 青龍は炎帝を絶対に止める事はない 炎帝が完遂出来る様に身を呈して護りきるだろう 最近になって解った事なのだが、それが青龍と謂う男なのだ 妻の存在は絶対 妻を亡くせば彼はこの世を消滅させるかも知れない‥‥ それ程に青龍は炎帝を愛していた 誰にも止められないのなら‥‥ 巻き込まれるしかないな 黒龍はそう想い重い腰をあげた 康太と榊原は天照大神と共に天照大神の神殿へと向かっていた 閻魔と黒龍はその後を渋々着いて来ている様だった 康太、いや、炎帝でさえ足を踏み込んだ事のない天照大神の神殿だった 閻魔の邸宅の裏に連なる山脈に天照大神の神殿は聳え建っていた 閻魔は「母上‥‥鏡を遣われるおつもりか?」と尋ねた 「鏡の道を通って霊山 劔岳へと向かう」 天照大神はそう言い目的の場所へと揺るぐ事のない足取りで進んでいた その場所は閻魔ですら簡単には踏み込む事の出来ない領域だった 天照大神は神殿奥の襖を開くいた 神殿の中は神々しい光に満ち溢れていた 神殿の至る所に神々が祀られ 壁には天魔戦争で命を落とした神々の名が刻まれていた そしてその中央に青銅か何かで出来た鏡が奉られていた 「この鏡は此処に在るが、本質は高天原(たかあまはら)に続いておる」 天照大御神を主宰神とした天津神が住んでいるとされる場所 それが高天原と呼ばれ聖域とされていた 時代は移り変わり今は昔の様な聖域とは様変わりはしていたが、神々を司る女神 天照大御神は今もこうして高天原にて神々の魂を護り通しているのだった 閻魔は言葉をなくしていた 母は今も‥‥神職を全うしていると謂うのか‥‥ 天照大神は八咫鏡(やたのかがみ)の前に立つと 「我は天照坐皇大御神である!」と真名を口にした 高天原を統べ、皇祖神にして日本国民の総氏神であるとされる天照坐皇大御神は今も健在だった 鏡は眩く光ると、天照坐皇大御神の姿を映し出した 「劔岳に宿る神日本磐余彦天皇に逢いたい 今すぐ我達を其処へ送るがよい!」 天照大神がそう言うと‥‥ 目も開けていられない眩い閃光が辺りを包み込んだ 康太は想わず榊原に縋り着いた 榊原は康太を強く抱き締めて踏ん張って立っていた 長い時間だったのか? あっという間だったのか? 時間の感覚さえ覚束ない感覚に囚われる 強い光に目が開けていられなくなり閻魔も黒龍も目を瞑った それ程に目映い光が辺りを包み込んでいた 天照大神は慣れているのか、泰然として微笑んでいた 天照大神は抱き合う康太と榊原を見て 「関関雎鳩だわいのぉお主らは」と呟いた 康太は「かんかん?なんだよそれ?それよりも目が開けられねぇじゃねぇかよ!」と叫んだ 榊原は「天照大神は関関雎鳩(かんかんしょきゅう)仲の良い夫婦だと仰有られたのですよ」と嬉しそうに言った 康太は「あぁ、めちゃくそ愛し合ってるかんなオレ達は。」とさらっと言った それが榊原をもっと喜ばせた 「さぁ、着いたわいな、目を開けよお主ら!」 天照大神が謂うと康太達は目を開けた 光に包まれていた空間は今は目が開けられる程になっていま そして目の前には‥‥ 広大な空が広がり‥‥‥ 青々とした草原が広がり花が咲き乱れ良い薫りに包まれていた その草原に一人の青年が立っていた 青年は天照大神の前に傅くと 「天照坐皇大御神、そろそろ貴方がお越しになる頃かと想っておりました」と告げた 天照大神は「そうか、神日本磐余彦天皇、お主には八咫鏡の一部で作った鏡を渡してあったわな」と納得の顔をした 「はい。炎帝様が来るであろう事も総て承知しておりました」 神日本磐余彦天皇は康太を見据えてそう言った 康太は「話があるかんな、おめぇの家にあないしろ!」と言った 神日本磐余彦天皇は「承知致しました、では皆様此方へ」と言い歩き出した 進む先には質素な山小屋みたいな家が建っていた 「此方に御座います」 神日本磐余彦天皇は玄関のドアを開けると皆を家に招き入れた 家の中は‥‥ガラーンとしていて、座れる場所がなかった 康太は床に直に座ると榊原もその横に座った 閻魔もそこ横に仕方なく座ると、黒龍も座って胡座をかいた 天照大神は唯一置いてある椅子に座ると、神日本磐余彦天皇はお茶を入れて皆の前に置いた そして正座をすると「ではご用件をお伺い致しましょう!」と答えた 康太は「おめぇは帝なる存在を知っていたのかよ?」と単刀直入に問い掛けた 「“血”を遺す事は我等の務めに御座います 由緒正しき始祖の血を絶やさぬ様に後生に伝える それが始まりに御座います‥ それを護られる為に我等は神と契約を交わしたのである」 「その契約は既に意味を成してねぇとオレは想う 御門の血は絶えて今じゃ一ミクロも継承されちゃいねぇのが現実だ! ハッキリ言ってオレは過去の仕来りや胤裔 は断つべきだと想う 遺すべき血は濃くなりすぎて薄めるしかなかった 当たり前じゃねぇかよ? 濃い血は狂気を孕み人を狂わせる 薄まった血に価値はあると謂えるのか? 答えられよ神日本磐余彦天皇!」 キツい問い質す様な声に神日本磐余彦天皇は言葉を失っていた 「‥‥‥炎帝、貴方の瞳には‥‥どの様に映っておいでなのですか?」 「狂ってる!」 「‥‥ならば‥‥既に歯車は狂っているのでしょうね‥‥」 神日本磐余彦天皇はそう言い考え込む様に黙った 康太は構わずに続けた 「東の天皇に西の帝 天皇は裏と表、倭の国を裏と表で支える存在がいる 帝は倭の国の影の部分を支える存在として今も西に君臨する それは別にオレが兎や角謂う筋合いじゃねぇからな謂う気はねぇよ! だがなんの躊躇もなく人の命を狙うならば話は別だ! その存在すら消し去ってやんよ! 誰に喧嘩を売ったか後悔させてやる!」 「炎帝‥‥帝は遣り過ぎました ですがそうしてでも守通さねばならぬ義務が、帝にはあるのです」 神日本磐余彦天皇は訴える様にそう言った 「奇形や異形のモノの存在か?」 康太が謂うと神日本磐余彦天皇は驚愕の瞳を康太に向けた 「其処まで‥‥御存知でありましたか‥」 「あの地に骨を埋め今もあの地を護っている存在は我が師匠である! 師匠が夢に出て警告してくれた だから一つ一つ繋ぎ合わせて答えを導き出したって事だ そりゃぁ‥‥濃い血は奇形や異形や狂人を生み出すかんな‥‥ そう言う奴は闇から闇へと葬り去られる筈だが、皇族の者となれば話は別だろうな 貴い御方の血を引く者を意図も容易く処分など出来ねぇだろう で、作られたのが白馬の地と謂う訳だな」 「そうです‥‥あの地には異形で生まれた者や奇形で生まれた者‥‥そして濃い血により産み出された狂人を生かす為に出来た地なのです そして容姿が違う御仁と呼ばれし者達の避難所なのです その仕来たりは今も脈々と受け継がれ今に至る あの地は諦められよ! そしたら帝が貴方に危害を加える事もない‥‥ 貴方が動かないと約束して下さるのなら帝が動かぬ様に約束させます」 それこそ最大限の譲歩だと神日本磐余彦天皇は訴えた 「それは聞けねぇ話だな、神日本磐余彦天皇! おめぇ‥狂った仕来たりだって解ってて本題を摩り替えようとするなよ! 本題はあくまでも帝の存在理由だろうが! 白馬の地にしても、このまま捨てておけばブラックホール並の波動の空間が出来るぜ? 既に心霊スポットだと噂が噂を呼び好奇心の旺盛な人間が足を踏み入れ霊障が頻繁におきてるんだ! 廃人寸前になる人間や狂って命を断つ人間が実際に出て来てるんだ! 帝の命で裏部隊が動いてその事実を隠蔽しているが、それでも噂は一人歩きして逝くってもんだ! 実際、謎の怪しげな団体は廃人寸前になった奴を消しに来る!とかの噂が流れて騒ぎになってる 噂が噂を広めて尾びれを着けて一人歩きすれば、もう誰にも止められねぇ程にデカい力が合わさり暴動がおきるぜ! そしたら神日本磐余彦天皇、おめぇにそれが止められると謂うのか? 帝が止めるか? あの傲慢不遜が服を着た様な存在は己が神かの様に言った そしてオレら神を下賎の者と蔑みやがった どんな教育を受けたらそんな考えが出来るのか?聞きてぇぜ!全く」 どの道、分岐点に差し掛かっているのは目に見えていた 分岐点に差し掛かってなくば、炎帝が出て来る筈などないのだから‥‥ 神日本磐余彦天皇は康太を射抜くような瞳を向けた 「貴殿は‥‥あの土地をどうなされるおつもりか?」 「あの地を離れて貰うつもりだ! 白馬のもっと奥深くに移り住んで貰い、人が足を踏み入れられない様に結界を張る 人と怪異の存在は相容れてはならぬ! その代わり妖怪の世界と魔界と繋げて行き来出来る様にする 己の存在は人と違うと悩ませるよりは、生きやすい方に逝かせるのが得策だとオレは想うぜ! オレは‥‥師匠にもっと安らぎの地に逝って貰いてぇんだ! それがあの人の弟子でいる今のオレに出来る精一杯だと想っている」 「あの地に眠るは土御門孔明でしたね」 「愛した帝の為だけに今も存在している オレはそろそろ師匠に安住の地に棲んで貰いてぇだけだ 人の介入なき土地で静かに愛した帝の意思を護り存在するのが師匠にしてやれる弟子であるオレの最大限の譲歩だ‥‥ 白馬の地は昇華する あの地をまっ更な状態にして遺す 師匠が愛した桜を多くの人が愛で優しい想いを抱いてくれたなら師匠は報われるだろう‥‥そうして受け継がれ師匠の愛した地を歪から解放する 二階堂家が発端だと謂うのなら二階堂家は贖罪の日々を送らねばならぬだろう 元々二階堂家は神職を輩出する家系でもある あの地を護る為に神社を再建して二度と歪まぬ様に日々清めて過ごす それこそが誰も傷付かぬ最善策だとオレは想う」 最善策だと謂われれば‥‥ これ以上の案など出ては来ないだろう 闇の部分と謂うのは全てに於いて蓋をして見なかった事にして過ごしたいモノなのだ 明るみに出れば人は畏怖を覚えパニックにり騒動になる だからこそ隠して来た事なのだ 神日本磐余彦天皇は苦渋の決断をせねばならぬ時を感じていた 「‥‥あの地は逆五芒星が引かれた地、昇華と謂われましても簡単には‥‥」 一筋縄ではいかないだろう‥‥ 怨みと未練 憤りと哀しみ それらが怨念となり渦巻いた地を簡単には昇華など出来はしないだろう‥‥ 康太は笑って 「オレは昇華は得意なんだよ、なぁ兄者!」 そう言った 選別せねばならぬ魂を選別する事なく昇華して人の世に堕ちた事を言っているのであろう‥‥ それでも閻魔は弟バカなので 「我が弟 炎帝に昇華出来ぬモノはない! 怨霊渦巻く地だとて、綺麗サッパリ更地にしてくれる事だろう」と言ってのけた 天照大神は爆笑した そして笑うのを止めると神日本磐余彦天皇を射抜き 「で、お主は今後の倭の国との契約をどうするつもりじゃ?」と問い掛けた 神日本磐余彦天皇は覚悟を決めた瞳をして 「それは炎帝が過去から還って来られたとき、我の想いをお答えしようと想っております」 「ならば炎帝はこの後、過去へと飛ぶ そして元凶となった所業を視て来るであろう お主もそれを視て覚悟を決めるがよい!」 「はい。そう致します 倭の国が神の加護に値する国か‥‥この瞳に焼き付けとう御座います」 「なれば、その答えを聞く為に炎帝が帰還し次第、再び此処にこようぞ!」 「はい。その時までに我は覚悟を決めておきます」 「話はそれだけじゃ! あぁ、神日本磐余彦天皇、今度来る時の為に家をも少し快適に作り替えておくがよい!」 「快適に‥‥で御座いますか? 私は‥‥快適な家と謂うモノを然程知らぬのです‥‥ 私のいた時代は質素堅実を由とした時代故‥‥棲みやすい空間と言うのが‥‥」 と神日本磐余彦天皇は困った顔をしていた 「仕方がないのぉ、なれば我が夫を差し向けようぞ! あやつに家の設計をして貰うとよい! ならな、我が帰り次第建御雷神が来ると想うがよい さぁ、過去に渡るのであろう? なれば女神の泉に送るとしようかのぉ!」 天照大神は用件だけ謂うと忙しく動き出した 「では皆の者、さっさと逝くわいな!」 と追い立てられる様に謂われて、康太と榊原、閻魔や黒龍は立ち上がると外へと出た 外に出ると天照大神は八咫鏡を取り出して行き先を告げた 「女神の泉に逝くがよい!」 そう言うと再び辺りは眩い光に包まれて目が開けていられない程となった 康太は榊原に縋り付いた 榊原は康太を強くいた 「女神の泉に着いたぞよ!」 あっという間に女神の泉に移動していた 天照大神に謂われて康太は目を開けた するとそこは女神の泉の前だった 康太は「めちゃくそ早いやんか」と呟いた 天照大神は女神の泉の前に立つ存在を目にして 「お主達は主を追って来たのかえ?」と声を掛けた 女神の泉の前に立っていたのは緑川一生、四宮聡一郎、兵藤貴史だった 兵藤は「俺の主は炎帝じゃねぇけどな、コイツ等だけだと不安だから着いて来てやったのさ!」と言った 天照大神は笑って兵藤の頭を撫でて 「黄色い嘴で意地を張らぬともよい」と言った この人には敵わない‥‥ この人にとったら朱雀などまだまだ黄色い嘴な存在なのだ‥‥ 叔父の鳳凰だとて小童呼ばわりなのだから‥‥ 自分など雛みたいな扱いでも文句は謂えなかった 天照大神は菩薩の如くの微笑みを浮かべ 「湖の中央まで逝くがよい 我が炎帝の望む地、望む時代まで送ってやろうぞ」と言った 康太は榊原から離れると湖の中央へと歩を進めた 湖の前に立ち、湖の湖面に向かって歩く これって結構勇気が要った 一歩踏み出した途端にザバーンっと湖に落ちてしまうと想うと‥‥ 一歩を踏み出すのは自分の恐怖との闘いだった なのに康太は躊躇する事なくスタスタと湖面を歩き、湖の中央に立った 榊原も康太の後を追い湖面を歩く 一生は龍だから湖に落ちても泳げる‥‥と自分を奮い立たせ湖面に一歩踏み出した そして竦む足を奮い立たせ歩いていた 聡一郎は主の後を追いさっさと歩いていた 兵藤は諦めの境地 鳥は水が苦手だ 今は人だけど本来は鳥なのだ‥‥ 飛んで中央に行こうか‥‥と思案しているとなんと‥‥ 聡一郎が踵を返して戻って来た そして兵藤をひょいと担ぐとスタスタと歩き出した 「下ろせ聡一郎‥‥」 「暴れると湖面に振り落としますよ!」 聡一郎の容赦のない声に兵藤は黙った 閻魔と黒龍はそんな騒ぎの中、優雅に湖の湖面を歩いて中央へと向かっていた 聡一郎は兵藤を抱えて中央へ辿り着くと 「主、朱雀をお連れしました! ささっ、飛ぼうではありませんか!」と言った 行く気満々 主バカがそう言うと天照大神は笑って 「では飛ばすとするかのぉ~」と言い鏡に向き直った 天照大神は太陽神の性格と巫女の性格を併せ持つ倭の国最古の女神だった その女神の命と女神の泉の力と、八咫鏡の力とか合わさり確実に康太の望む時代へと飛ばすつもりでいた 天照大神は鏡に 「天照坐皇大御神が命ず! 我が息子炎帝達を、炎帝が望む時代へと飛ばすがよい!」 と命じた 八咫鏡は命を受けて眩く光り輝いた 兵藤は聡一郎に担ぎ上げられたまま‥‥眩い光に包まれていた 「目が開けてられねぇじゃねぇか‥‥」 兵藤はあまりの眩しさにボヤいた 聡一郎は「なら目を瞑りなさい!」と低い声で言った 兵藤は黙るしかなかった 怖いってこの男‥‥ 静かで物分り良さそうな雰囲気を醸し出していても、主の為にだけ動き、他は顔色一つ変える事なく排除出来る奴なのだ 優しい雰囲気に騙されると手痛い竹箆返しが来るのだ だから仕方なく目を瞑りじっとするしかなった どれ位 そうしていただろう 永遠にも ほんの数分にも取れる時間を 耐える様にして目を瞑り享受するしかなかった

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