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第63話 過去へ
どれだけ眩い光に包まれていたのか解らない
だが確実に眩い光は成りを潜め
瞼に映る光はなくなって感じられていた
康太達はそーっと目を開けた
辺りは真っ暗で何処に立っているのかさえ解らない状態だった
今は夜なのか?
それとも変な空間に入り込んでしまったのか?
それはないか‥‥あの天照大神が飛ばしてくれたのだ
目的地以外の地にいる事は皆無だろう
ならば今は夜なのか?
辺りは漆黒の闇に包まれていた
飛ばされた時代が康太の望む時代ならば、街灯なるモノはなく暗さも半端なく闇が深かいのも納得がいく
康太は「めちゃくそ暗いやんか‥‥」と解っていて呟いた
榊原は「此処が康太が望むべき時代で、望むべき土地なのだと想うのですがね‥‥いかんせん暗すぎます」と状況の分析が全く出来ない暗さに思案していた
聡一郎は一生の背中に背負わせているリュックの口を開くと、ガサゴソ中身を物色し始めた
「一生、七つ道具忘れてませんよね?」
冷たい聡一郎の声が問い質す
「忘れてねぇよ!
んなに謂うなら自分で持ってくりゃ良いじゃねぇかよ!」
不貞腐れて一生が謂うのもお構いなしで聡一郎はリュックを漁って、中から懐中電灯を取り出した
カチッと懐中電灯のスイッチを入れると、懐中電灯の先が明るく照らされていた
「これで道は見えますよね?
今夜は少し開けた所で野宿にしましょう!」
聡一郎が謂うと兵藤は「おめぇらすげぇな」と感心してそう言った
「七つ道具なく異次元に飛ぶ事など自殺行為ですからね、準備は日頃から怠る事なくして来たのです」
聡一郎らしい言葉だった
兵藤は「七つ道具って何を入れて来たのよ?」と一生のリュックの中身を気にした
「ガスバーナー、懐中電灯、可燃材、これは簡単に火を着ける為の燃料です
そして工具セット、防災シート、これは野宿とかする時に体温を温存する為に人数分用意しました
サバイバルナイフ、そして救急セット
以上七つ道具です」
聡一郎の説明に兵藤はすげぇな‥‥を連発していた
重いだろうし
中々思い付くアイテムではない
聡一郎はスタスタと歩き目的の開けた地を探した
そして切り開けた広い空き地を見つけると、持ってきた可燃材と新聞紙をセットしてガスバーナーで火を着けた
すると辺りがほんわりと明るくなり、暖かな光に包まれた
灯った火に薪になりそうな木を拾ってくべる
手慣れた行動だった
そして聡一郎は自分のリュックの中から非常食を取り出すと食べれる準備を始めた
今の非常食はお湯を注げば、たちまち美味しい料理に変身出来るアイテムが揃っているのだ
聡一郎は非常食を人数分用意すると口を広げて鍋を取り出してペットボトルの水を入れ沸かし始めた
お湯が出来て非常食に注ぐと出来上がる
簡単なアイテムだった
それを一番に康太に渡し、榊原に渡す
閻魔と黒龍に先に渡した後に、一生や兵藤にも渡し、自分も非常食を食べる事にした
空腹を満たす
その為だけに聡一郎は日頃から何かあった時には持ち運べる様にと用意して来たアイテムだった
兵藤は「非常食まで出て来るのかよ?すげぇな」と感心していた
聡一郎はニコッと笑って
「我が主を空腹のまま動かせる事は閻魔の沙汰よりも怖いので!」と答えた
閻魔大魔王の書記官の司命 司録なればの台詞に兵藤は言葉を失った
一生は「聡一郎‥‥」と止めた
「一生、ゴミは総て持って逝かねばなりませんよ!
この時代のモノ以外は遺してはなりません!」
「解ってんよ!
その為に使い龍を頼んである
夜明け前には来てくれる筈だ」
「使い龍?誰が来てくれるのですか?」
「それは解らねぇよ
親父殿に時を渡れる龍を頼んだんだ
そしたら親父殿は快諾してくれ夜明け前には遣わしてくれるって言ってくれた」
一生が謂うと黒龍は嫌な顔をして
「親父殿に頼み事をしのかお前‥‥チャレンジャーだな」と呟いた
黒龍の言葉に‥‥赤龍は思い出すのだった
親父殿に頼み事をすれば、親父殿は必ず自ら出刃って体躯を張るのだと‥‥。
「あっ‥‥!!」
「気付いたか‥‥来るな‥‥きっと‥‥」
「悪い兄貴‥‥」
「きっと喜んで来るだろうさ‥‥親孝行をしたと想えば良いさ赤龍‥‥」
「人の生活が長くて忘れたわ」
「親父殿を呼んだのはお前だ、お前が対処しろよ!」
「解ってる‥‥」
トホホな気分で一生は呟いた
康太は笑っていた
閻魔は金龍まで来るのか?とこの先の無難を祈った
夜明けまでたわいもない話をして、夜を明かした
夜明けを大分すっ飛ばして金龍が姿を現した
「赤龍、来てやったぞぃ!」
得意気な顔して金龍はやって来るとドサッと康太の横に腰を下ろした
「元気で過ごしてたか炎ちゃん」
この人は何時も変わらない
何時だって豪快に笑って炎帝の無事を確かめてくれるのだ
魔界中から忌み嫌われていた時も今も変わらぬ愛で包み込んでくれるのだった
「あぁ、オレは何時だって元気だぞ!」
「それは良かった。」
金龍はそう言い康太の頭を撫でた
武骨でゴツゴツした指が優しげに康太を撫でる
康太(炎帝)はこの人に撫でられるのが大好きだった
嬉しそうに笑って金龍に撫でられている愛する妻を見て‥‥榊原は少しだけ妬けて
「康太、僕が好きなだけ撫でてあげます!」と謂うのだった
金龍は爆笑した
聡一郎は金龍にも湯を沸かして非常食を振る舞った
金龍は非常食を受け取り警戒する事なくそれを食べ始め
「上手いな此れは!」と至極御満悦だった
一生はゴミを袋に纏めて金龍に持って逝って貰う様に準備をしていた
金龍は「これから動かれるのか?」と康太に問い掛けた
「あぁ、夜が明けたら動き出すつもりだ」
「そうですか‥なれば我はこれで失礼する
長引く様でしたら如意宝珠を通して連絡を下されば、食事や必要なモノをお持ち致しましょう!」
「ありがとう金龍」
「御武運を!」
そう言い金龍は康太の前に跪くと祈るような瞳を向けた
そしてそれを断ち切るように立ち上がると、金龍はゴミの入った袋を持ち姿を消した
人の世のゴミは人の世で処分する
金龍は人の世に向かったのであろう‥‥
金龍が姿を消すと夜が白々と明けてきた
回りが見える程に明るくなると聡一郎は薪を消した
そして準備を整えると「行きますか?」と声を掛けた
「おー!この近くに師匠がいると想う‥‥」
想いは師匠へと向かう
厳しくもあり
優しかった師匠
貴方はこの地で生きて
この地に骨を埋めた
それほどまでにこの地を護りたかったのですか?
師匠‥‥
貴方は今、この地をどう想っているのですか?
この歪んだ地の果てを‥‥
康太はスタスタと揺るぎない足取りで歩いていた
聡一郎や一生や兵藤はその後に続いた
見届けるつもりで来た閻魔と黒龍は常に康太達の後を歩いていた
どれ位の時間、険しい山道を歩いただろう
どれ位の時間を身の丈程の雑草を掻き分けて歩いただろう
そうしてやっと目的地に近づいたのか、康太は歩く速度を緩めた
険しい傾斜も身の丈程の雑草もなく、切り開けた場所に出ると辺りを見渡した
広大な敷地は管理されておるのか?整って整地されていた
その先に大きな桜の木が目に飛び込んで来た
桜の花は満開に咲き誇り
ヒラヒラ
ヒラヒラ
と花弁を散らせていた
その桜の木の下に‥‥‥
一人の男が立っていた
康太はその人を目にすると懐かしそうに目を顰めた
「やはり‥‥来てしまいましたか‥‥」
その人は‥‥過去にいて
その台詞を吐いた
「師匠‥‥」
康太はやっとの想いで言葉を紡いだ
「来てはならぬと申したではないか‥‥」
「師匠もこの地が変わらねばならない運命なのを感じていた筈ではないのですか?」
「星は‥‥告げていましたからね‥‥
でも‥‥それをやればお前の命も‥‥危なくなるのですよ?
陵王‥‥解っているのですか?」
その人は哀しげに顔を曇らせて、そう言った
綺麗な髪を風に靡かせ
陰陽師の衣装ををきちんと着て立っていた
土御門孔明
五行術の始祖と呼ばれる陰陽師だった人だ
安倍一族も蘆屋の一族もその五行術の教えの元に集まった一族だった
陰陽師の始祖は土御門孔明の手によって編み出されたと言っても過言ではない
孔明は康太の横に立つ男に目をやり、そして同行している者に目をやった
「立ち話もなんですし‥‥此方へおいで下さい」
孔明はそう言うと、ゆっくりと歩き出した
康太達はその後に続いた
孔明は今も弟子の横に立っている存在を目に出来、嬉しそうに微笑んでいた
今も‥‥昔も‥‥
お主の横にはかけがえのない存在がいてくれ良かった‥‥
安堵にも似た
親心にも似た
想いだった
孔明は康太達を桜の木の下に建つ寺へと招き入れた
「どうぞお入り下さい
ろくな持て成しなど出来はせぬが‥‥話なら出来る」
招かれ康太達は寺の中へと入って行った
寺の中は何もないガラーンとした空間だけが広がっていた
康太は仏像の前に座ると、皆もその回りに腰を下ろした
孔明は康太と対面する所に座ると
「それでは御用件をお聞き致すとしよう」
と切り出した
康太は土御門孔明を射抜くと
「この地は御所の方向を始点として逆に五芒星を引いた中心に建っている
結界を引くにしても何故、逆五芒星なのか?
師匠に問おうと想っておりました」
単刀直入に問い質した
「流石、我が弟子
皇居でなく御所を始点にして逆に五芒星を引いたと良く気付きましたね」
「逆に‥‥五芒星引くなと‥‥貴方が煩く申していたのではないのですか?」
康太の物言いに孔明は笑った
だが直ぐに真顔になると
「ほんの少しの恨みに過ぎぬ‥‥
ごみ捨て場の様に‥‥世間で要らぬ者を廃棄する
その地のほんの些細な抵抗だと想うがよい」
「東西南北、特異点には御饌を捧げ?
抵抗だと申されるのか?師匠は?
それでオレが納得するとでも?」
「やはり‥‥誤魔化されてはくれませぬか‥‥
我等は人の世を捨てた存在として、この地に来た
人の世では生きられぬモノ達の拠り所になれば‥‥と想いこの地に結界を張った
絶対に破られぬ結界を‥‥
この地に捨てられたのは何も皇族の近親婚の結果、人の姿を捨てた子達だけではない
人のなりと違うモノは総てこの地に捨てられ遺棄されて来たのだ
人と違うと謂うだけで、この子等は安住の地を奪われた
だから我等の地に絶対に手が出せぬ様に呪いを掛けた
誰にもこの地は渡しはしない!
‥‥‥陵王、お前でもな‥‥」
土御門孔明は突っぱねる様にそう言った
「この地に触れるなと謂われるのなら、オレは捨て置きましょう!
だけど捨て置くには‥‥あまりにも噂が飛び交う土地となりすぎた
師匠なら既に解っているだろうけど、オレは見過ごす事は出来ねぇんだよ!」
「陵王‥‥」
「血を吸い憎悪を吸い、恐怖を吸い増大する悪意が時空を歪め始めている
このまま逝くと結界が暴走を始めるのは目に見えている
この世はネットで人が動く時代だ
噂が噂を呼び恐怖を煽り煽動して逝く様に‥‥
この地は両刃之剣となるのも時間の問題だ
オレが何故“今”でなく“過去”に飛んだかは、これからの話次第となる
なぁ師匠‥オレは貴方が安住の地に住んで欲しいと願っている‥‥」
あの日のまま時間を止め‥‥
この地を守ろうとする貴方に‥‥
残酷な事を迫っているのは解る
「陵王、私は‥‥」
孔明が言い掛けようとした時、時空を引き裂き‥‥男達が姿を現した
男達は康太を目にすると
『この地を見過ごせ!
なくば、お前達の命はないと想え!』と脅しに掛かった
男達は自身の体躯に呪文を入れて立っていた
康太はその姿を見て
「文身咒か‥‥邪法中の邪法を体躯に入れたか‥‥」と呟いた
閻魔は顔色をなくして憤りを噛み殺した様に黙して立っていた
榊原は「文身咒‥‥直接護法へ使役を命ずる咒身となりましたか‥‥邪法中の邪法に身を染めて‥‥神の前に姿を現せましたね」と蒼い焔を立ち込めて吐き捨てた
今まで黙っていた兵藤が立ち上がると
「護法を体躯に刻みやがって恥を知らねぇ輩には‥‥神の鉄槌が下る事を教えてやろう!」と言い朱雀に姿を変えた
男は顔色をなくして朱雀を見た
「誇り高き倭の国に仕える者なれば、禁呪には手を染めねぇ筈じゃねぇのかよ?」
朱雀はそう言うと真っ赤な焔を燃え上がらせた
康太はそんな朱雀の前に手を出し
「少し待て朱雀」と止めた
「これで納得が行った
ホテル・ニューグランドの結界を破って来た事と言い、通常の人間がやるには常軌を逸脱し過ぎだと想っていた
そうか自身に文身咒を入れてやがったのか‥‥だよな時空を越えて来るには人の身体では限界があるもんな
ならば『帝』に仕える者達には文身咒が刻まれてると想った方が懸命か
だがな帝に仕える者よ、文身咒に限らず我等神はその力を跳ね返す力をもってんだぜ?
その力を返されれば‥‥お前達邪法刻んだモノ達の末路は地獄にも逝けねぇでこの世の塵になるしかねぇ!
解っててやってるんだろうが、あまりにも哀れな奴等だな‥‥」
哀れな奴等‥‥との言葉に男は逆上する
それが使命だと魂を差し出した者達に悔いなどないのだ
男はそれでも『この地に関わるな!』と警告を発した
朱雀は完全に朱雀の大きさに変身をした
榊原も青龍に姿を変えると、朱雀から呼ばれた玄武と白虎が時を越えて青龍の横に並んだ
玄武は「我等東西南北を守護する四神なり!」と名を告げた
白虎は「我等四神の役目は亜細亜圏内の和平を守護する者なり!」と役目を告げた
榊原は「人の輪廻を曲げて禁呪に手を染め、それでも護りたいモノは何なんですか?」と問い質した
朱雀は蒼い地球(ほし)を見渡して
「磁場が、ある一点に向かって澱めき蠢き始めている
これを見過ごす訳には逝かねぇんだよ!
あの地を修羅の地とする気か?
あの地を始めとし倭の国を混乱させ乗っ取る気か?帝は?」と罪状を述べた
男は‥‥言い逃れなど出来ないと踏むと呪詛を吐いた
刻まれた護法がその身をもって完遂してくれるのを知っているから‥‥
男が呪詛を吐いた瞬間、閻魔が笏を取り出すと呪詛を薙ぎ払った
物凄い疾風が駆け抜け‥‥総てを“無”に返した
男は‥‥唖然として閻魔を見た
閻魔は閻魔大魔王が着る官位の着物に身を包み手には笏を持っていた
「我が名は閻魔大魔王
人の罪を暴き人に罪を課す者!
我には何一つの呪詛など効かぬ!」
閻魔の登場は想定外だった男は‥‥
その場にガクッと崩れ落ちた
閻魔は「愚かな人の子よ‥‥倭の国を手中に納める為に‥‥この世を地獄にするつもりであったか‥‥
倭の国を地獄に染めたとしても‥‥帝の手には何一つ入りはせぬぞ?
それを知って‥‥解っていて‥‥尚、愚かな行為を何故するのじゃ?」と問答した
男は静かに口を開いた
「帝が望まれる事をする為に我等は存在する‥‥
帝が本懐を遂げられるその日まで‥‥我等は‥‥帝の為にだけ在る!」
男はそれだけ謂うと‥‥舌を噛んで自害した
土御門孔明は命を意図も簡単に断った男を目にして「愚かな‥‥」と呟いた
男と一緒に時空を越えて来た者達は総て舌を噛み自害していた
閻魔大魔王は笏に口を寄せて
「地獄の使者よ今すぐ我の所へ来なさい!」と使者に告げた
すると閻魔の使い魔の鬼が姿を現した
閻魔は「この者達の身体と魂の回収をお願い致します」と鬼に告げた
地獄の閻魔の使い魔と謂えば、節分の時に描かれている様な厳つい赤い鬼と青い鬼の姿を持つ鬼だった
鬼は閻魔の命令通り遺体を回収して魂は瓢箪を取り出して、その中へ回収して詰めて蓋をした
総て閻魔の想いのままに仕事をすると
「仕事は終わりました
この魂はどうなされるのですか?」
と閻魔の命を待った
「評議員に審議をさせて輪廻の有無を審議させておいて下さい!
司命司録を立会人に命じます
立会人として評議の様子を提出して下さい」
閻魔は司命へ命じた
聡一郎は仕方なく司命に姿を変えると閻魔の前に傅いた
「その命、司命司録が完遂致します!
報告は総て閻魔庁の方に上げておきますので後程お目通し宜しくお願いします!」
閻魔は「頼みます司命」と見届け人となれと命した
「御意!それでは我は鬼達と魔界へ向かいます!」
司命はそう言い立ち上がると康太の前に走り
「主、無事に完遂出来ます様にお祈りしております!」
と言い康太を抱き締めた
「気を付けて行って来い!」
康太は司命の背中を撫でてそう言った
「怪我などなされぬ様に、頼みますよ赤龍!
怪我などしていたら‥‥その時は覚悟しておきなさい!」
メラメラと怒りのオーラを放ち司命はそう言った
一生は「この命に変えてでも護ると約束するさ!」と謂うと司命は頷き康太を離した
そして鬼達の傍に逝くと、鬼達と共に姿を消した
閻魔は回りを見渡して
「過去の磁場も影響を受けているのは否めぬ‥‥時空の歪みに飲まれるのも時間の問題であるな‥‥
しかも文身咒を入れていると申しても、こんなにも意図も簡単に時空を渡って来られてしまえるとは‥‥重大な問題であろうて‥‥」と康太を見て事の重大さを告げた
康太も時空の歪みを目で追い
「白馬の地を地獄にして倭の国を混乱させ、その期に応じて国の転覆を狙うとは‥‥あまりにもセコいやり方やんか
その混乱で人が煽りを食らう事を想定していねぇのか?
幾千万の命が犠牲になるのか解ってないのか?
それとも国を糺すのに必要な命だとでも宣う気か?」
憤慨して吐き捨てた
康太は土御門孔明を見て
「これでも師匠‥‥この地に残られるのか?」
と問い掛けた
土御門孔明は弟子を見ていた
あの頃と何ら変わりのない魂を持つ弟子を見ていた
「過去に渡られたのは‥‥今の私も未来の私も一つだと知っていたのですか?」
土御門孔明は問い掛けた
「師匠の想いも魂もこの地に眠る
そして師匠は今もこの時に生きて星を詠み総てを知る存在となっている
歹を埋め血肉をこの地に捧げ、この地と同化した
だからオレは過去へ渡るしかなかった
話をするならば肉体を持つ我が師匠、土御門孔明と話がしたかったからだ!
魂は変わらないと言っても、やはり血肉を持たぬ貴方とは話しはしたくはなかった‥‥」
康太がわざわざ過去へと渡った経緯が語られた
師匠への想いだった
師匠への敬意だった
「陵王‥‥私は‥‥道を違えましたか?」
孔明は震える声で弟子に問い掛けた
「師匠の逝く道は間違いであってはならない!
間違っているならば‥‥弟子のオレが正さねばならない!
だからオレは来た‥‥師匠‥‥オレに貴方を討たせないで下さい‥」
康太は泣いていた
愛してくれた師匠を護りたかった
その想いだけで過去へと渡って来たのだから‥‥
「陵王‥‥」
孔明も泣いていた
総てを誰よりも理解しているのは土御門孔明なのだから‥
「師匠、この地を捨てて下さい
貴方達が棲める安住の地はオレが用意する!
だから貴方は‥貴方の愛した桜の木の下で‥‥笑って過ごして下さい‥‥」
貴方の愛した帝の骨の一部を埋め込んだ桜の木の下で‥‥
「陵王、この子達には罪はない‥‥」
「罪があって堪るか!
生まれは罪か?
人と違って生まれた事が罪なんて事、あっちゃならねぇ事だろうが!
だから‥‥安心して棲める地に移り住んでやり直してくれ師匠‥‥」
「陵王、我等がこの地を離れれば‥‥倭の国は黙ってはいませんよ?」
「師匠、倭の国は変わって逝こうと必死に闘って来た
血縁結婚を止め外の血を入れ、皇居に風を通され闘われた現天皇のお力を持って、倭の国は膿を出され古い胤裔は是正され改善されつつある
一朝一夕で出来る事ではないが、長い月日を掛けて、変わらねばと謂う想いを同じくする同士達と倭の国根底から変えて来た
後は‥‥忌みべき胤裔の大元を消し去る
今更‥‥消えたとて倭の国の屋台骨が揺らぐ事さえない!
と謂う事ですよ師匠」
「陵王‥‥貴方は本当に頑固者ですね」
孔明はクスッと笑ってそう呟いた
「師匠が筋金入りの頑固者なんでね!
弟子のオレは師匠に似たんだと想いますけど?」
「‥‥陵王‥‥私は頑固者では‥‥」
「嫌だと謂えば梃子でも動かない
昔から師匠はかなりこじらせた頑固者でしたけど?」
「‥‥‥そう言うお前だって相当の頑固者でしたよ!」
「師匠の弟子ですから、それは仕方ない事です」
この弟子は‥‥何時だってそうだ
頑固で意固地で融通がきかないのだ‥‥
だがそうなる時は何時だって師匠を想えばの時だった‥‥
「陵王、私はこの地を離れます
お前は私の大切な桜の木を‥‥ちゃんと共に移動させてくれるのですよね?」
「あぁ師匠、貴方の想いの人の想いを紡いで参りましたから歹に想いを繋ぎ合わせて特別バージョンの桜の木に仕上げて移動させる事を約束しますとも!」
この弟子は何時だって言った事の倍の仕事をして恩返してくれるのだった
それが今も昔も変わっていなくて孔明は笑った
物凄く美しく笑ったのだった
孔明は空を見上げ
「磁場はこの地を中心に蠢き集まって来ています‥‥
私達は‥‥この地と共に滅びようと‥‥決めていました‥‥
あの子達に‥‥この地に飲み込まれ‥‥滅びようと言ったのです
あの子達は‥‥了承してくれました
それが‥‥私達の運命だと‥‥あの子達に犠牲を強いたのです‥‥
護ると約束したのに‥‥私は護るどころか‥‥共に滅びましょうと‥‥
死の選択を突き付けたのです‥‥
ダメな師匠ですね‥‥」
孔明の瞳から涙が流れた
とても美しい涙だった
「師匠、貴方がこれ以上背負わなくとも良い‥‥
貴方は護った‥‥弟子であるオレの命も護ろうと夢にまで出てくれた
そんな貴方が‥‥出した結論なれば‥‥この地にいる奴等は喜んで受け入れただろうな‥‥
貴方と共にいたいんだよ!そいつ等は!
解ってやれよ師匠!
これからも師匠といたいんだよ!
だから死の世界へ行こうとも離れねぇならそれで良いと想ったんだよ!
オレだってそうだ師匠‥‥貴方が苦しむ位なら‥‥共に逝く方を選ぶだろう
もっともオレは簡単には逝く気はねぇけどな!」
康太はそう言い豪快に笑った
そうだった‥‥
この子はダメだと解っていても最後の最期まで足掻いてもがいて悪足掻きする子だった
諦めない
絶対に諦めない
それが我が弟子であったのだ
「陵王‥‥私は‥‥まだ夢を見てもよいのですか?」
「あぁ、醒めねぇ夢の中で笑っててくれ師匠‥‥それが貴方の弟子の願いだ」
「そうですか‥‥なれば私は貴方の想いの先へ逝きましょう
あの桜があるならば‥‥私は何処に行ったって大丈夫です」
「師匠、貴方はこの先厳しい師になり使える魔術師を育てて下さい!
魔術を教わり、それを生業として身のたつ様にして逝く
それが貴方の使命であり定めなのです師匠
姿など関係のない世界へ行き、そいつ等に勉強を教え、魔術を教える
師匠の大好きな桜の木の下で‥‥何時までも厳しい師匠として過ごして下さい」
「身のたつ様に‥‥それは素晴らしい
この子達の先が繋がるのなら‥‥それは無駄な時間ではなくなるのですね」
それこそが‥‥土御門孔明の願いであり
未練だった
恨みであり
呪いだった
今‥‥長い眠りから解き放たれた想いだった
重い想い枷を外された気分だった
その想いをくれたのは‥‥弟子の斯波陵王
融通がきかなくて頑固な私の弟子
今も昔も弟子は陵王、ただ一人
教え子は持ったとしても弟子は持たない
それが弟子への精一杯の愛だった
唯一無二に弟子
孔明は「未来永劫、私の弟子はお前だけです」と康太の頬に手を掛けた
康太はニカッと笑って
「オレが師匠と呼ぶのも未来永劫、土御門孔明、貴方だけだ!」
と言った
「忙しくなりますね陵王」
「一気にやるかんな!師匠!
大変だろうけど踏ん張ってくれ!」
「大丈夫です、私の教え子は結構使えるので私は楽させて貰えそうで嬉しいです」
教え子を扱き使うのかよ?と康太は想った
「陵王の事です、この地に来る前に下準備は総てやってあるのでしょ?
なればさっさと逝くとしましょう!
私の気が変わらぬうちに‥‥逝きましょう」
孔明は急かした
気が変わってしまったら‥‥
この地から離れるのが嫌になるからだ‥‥
この地は特別な想いがある
総ての想いを閉じ込めた地なのだから‥‥
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